「じ、じゃあ次ですね。行きましょう」
アリリが少し普通の子供とは違うと言う事を感じたか? おどおどと話す市田。だが市田よ? 血が満タン時のアリリはこんな物ではないのだ……覚悟するがよい……ブル
「うん……チッまたか……邪魔ねえ」
チョロチョロ トコトコ
10歩程歩くと、隣の部屋に到着。
当然の様に、ミイラ男っぽいが何故かニイラ男と呼ばれている男もネズニと一緒についてくる。ん? 今、舌打……おっと、間違えた……そんな事はしていないのであった……まさか物語の主人公がどんなに不快な事があろうとも舌打ちなどは絶対にしないのでな……危うくこの物語の専用語り部である私が、ヒロインの好感度を下げる負の語りをしてしまうところであった……ギリギリセーフである。そう、今アリリは全ての生物に向けて、
【愛の籠った投げキッス】
をしつつ、何かが邪魔だなあ? と言っていたのだ。サービス精神旺盛であるな。だから、本当の本当に舌打ちではないので安心して下さい! しかし……これはどういう事であろうか? もしかしてお供として付いて来て下さっている住民に対してのねぎらいの意味を込めた投げキッスなのか? それとも道中に当然の様に設置されている例の羊羹に向けてのキッスなのだろうか? そこまでは分からないが、機嫌が少し悪くなって来ているアリリ。
「ここは天使の間ですよお」
「へえ、さっきとは違ってちょっと期待出来そう♡」
「ここは自信がありますよ……ヒヒヒ」
コンコン
「はい! 開いてるドフ」
ガチャ
ドアを開けると外側は黒で内側が赤いマントを付けた黒い紳士服を着た男がでてきた。30代半ばで、髪形はオールバック。肉食獣の様な二本の牙が輝いている。まあこれは本物ではなく付け牙? と考えるべきであろうな。そしてどう見ても吸血鬼ドラキュラっぽい外見だ。そして今回の語尾はドフか。ウーム、だが、何かが足りない気がするが……
「ドフキュラ君。実はこの屋敷にはどこか欠点があるんじゃないかって話になってね、このアリリちゃんが調べてくれるって言うんだ。ちょっと見て貰ってもいいかい?」
「ドフキュラさんね? こんにちはぁ♡!♡!♡アリサです……あっアリリですう♡」
言い直した? 意外と従順になっている。どういう風の吹き回しだ?
「こんにちはドフ。アリリちゃんか。よろしく。市田さん? ここは問題ないドフ」
「まあ一応ね」
「あっ……あのー」
ぬ? アリリが上目遣いでその男を見つめる……ははあ、これは
【視たい】
のだな? おっと。今、無意識に専門用語を使ってしまった。申し訳ない。
初めてこの話に触れる方には説明せねばならぬな。
ゴホン……では説明しよう! 実は、プロローグでも少し触れたが、アリリはママ直伝の特別な力がある。
それは、対象者のおでこを触る事で、その人物のステータスやスキルを覗き見する事が出来る。その技の名は
【万物調査】
と言う。それを今からドフキュラという男に使おうとしている。花の間でもフシギバノとキレイハノにも使っていたが、あの時はしっかり表記されていなかったからな。そう、本来詳細なステータスを表記するので、今回が初使用と言っても良い。さて、果たして彼の詳細とはいかに?
「ん? なんだドフ?」
「ちょっと屈んでくれないかしら?」
「急になんだドフ? こうドフ?」
「そうそう……隙アリリーwwwww」
タッチ
「な?」
ブゥン
ステータスウインドゥが開く音が響く。
藤堂 隆治 LV40 ♂ 元オペラ歌手
力 34
素早さ 120
体力 95
賢さ 225
運 35
HP 196 /196
MP 450/450
攻撃 60
防御 150
スキル
歌声マスター
ピアノマスター
魔術マスター
☆生命活力の唄 消費MP3
☆☆魔力増幅の唄 消費MP5
☆☆☆睡眠の唄 消費MP8
☆☆☆魔法反射の唄【壁】 消費MP17
☆☆☆狂乱の唄 消費MP19
☆☆☆☆☆☆ ??? 消費MP200
満腹値 20/100
状態異常 唄封印
E,ドクロの杖
タキシード
深紅のマント
好きなもの オペラ鑑賞 歌を歌う事 トマトジュース
嫌いなもの 十字架 ニンニク コーヒー
と、この様にステータス、特技、装備品、状態異常の有無等を確認する事が出来る訳だ。これはどんな生物にも使う事の出来る特技で、ママからは人物調査と言う特技を教えられた筈なのだ。その名の通り人間のステータスしか見る事が出来ない特技。だがアリリは1を聞いて10をいや20を知るような女の子なので、教えてくれた本家よりもその事を深く理解してしまう。その上、遥か上位の、全ての生物を見抜く特技を覚えてしまったと言う事だな。
まあ、これは前話を読んでいなければ分からぬ話であるが、読めばいいだけなので簡単であるな。だが、
『断じて!!』
と仰る強靭な精神を保有している方の為に少々説明しよう。2話でアリリに壊された万物調査と同じ効果を持つ機械の【スカウタァ】も、無事修理を終えた故に、ここからは私が彼についてある程度解説しよう。ただし、アリリが万物調査で見た人物以外は無闇やたら過剰に情報を出す事は無いので安心してほしい! ではサーチ開始ィ……ピピピ……ウム、出て来たぞ! 彼は、天使の間の部屋主だ。元オペラ歌手で恋人は同業者だったが、悲しい別れを経て転職。この屋敷の部屋主として再出発する。彼は戦いは得意ではないようだが、それを唄でサポートする力はあるようだな。だが、今は封印されているようだ。
そしてそのステータスを囲っている枠は、青く光っている。
「突然何をするんだドフ?」
「意外と普通の名前だったw ……あれ? 1個スキル名が伏せてあるっ?? こんな事今までにあったかしら? どういう事? 知りたああああいい!!」
ほほう? これは一体どういう事だろう? 【万物】と冠しているのに、何故全てが見られないのだ? 詐欺ではないか? それともまさかアリリが未熟で、このスキルの本来の力を引き出せていないから見られない部分が残った。と言う事なのか? だが使っている内に熟練度が上がればこの秘せられた部分も閲覧可能になるやもしれぬ。
「? 何の事ドフ? でも突然頭を触られて焦ったドフ……」
「今あなたの全てを見させて貰ったわ。ご馳走様!」
嬉しそうな顔をしているアリリ。この様に知りたいと思った事をすぐに知る事が彼女には出来てしまう。恐ろしい幼女なのだ。
「全てを? まさか……だが何か嫌な気分ドフ……まあいいドフ。でもこれからこの部屋内を見て回るんドフ? 君一人で? 余りの恐ろしさで心臓が止まらなければいいですドフ……フフフフ」
「ヒヒヒ……そこだけは心配だ……じゃあ見てくれ」
二人だけが知っている天使の間の恐怖。アリリは受け切れるのだろうか?
「はい♡」
中に踏み入れる。しかし、皆ゾロゾロと後をついて来る。
「あら? 皆も来てるじゃない? まあいいや……えーと……これは、さっきとは打って変わって神聖な神殿の内部って感じじゃない? 厳か厳かーわーいわーい♡なんか土足で入るの|躊躇《ちゅうちょ》しちゃうw扉を開けたら別世界。まるで天空にそびえる巨人女神ショコターンケイルが住んでいそうな神殿みたいに荘厳な雰囲気! 素敵!」
今までの部屋は靴が必須であったが、3部屋目にして初めて本当の部屋に入っている感じになり、靴を脱がなくちゃと言う気持ちになるアリリ。
「靴のままで結構ドフ」
「本当? やったあ♡ふーん……あれは【天使】ね。素っ裸で羽が生えてるから間違いないわ! 天使の間って言っていたから一杯居るのかも♡成程ォ。あれれー? 弓矢を持っているわ! あれ? でも矢の先はどくろになっているわ? あれって確かハートの形じゃなかったっけ? 怖ーいわーい♡」
「ああ、あれは死を司る天使ドフ」
「へえー、そんな天使が……初めて知れたああ! 新たな知識獲得うううう。嬉しいい♡でも、あの矢に射抜かれた者は突然の死が約束されるのねw すってきぃいいぃぃい!! 人生に疲れた時にお世話になりそう♡こいつに関しては本当にお化け屋敷っぽいわぁめっちゃ怖ーいwあっ! その右には……あーーーーーーー! あいつは!! トラクエ8から登場してバランスブレイクを起こしたテンションシステムを開発した罪深き天使の、
【ハイ天使ョン】
だ! 許せねえ! 目玉をへし折りたい♡で、あれは? まさか? 悪魔の様な笑顔で近づいて来ては、天使の様な笑顔で人を騙し去っていくとされている……
【ぺ天使】
じゃん。あっ閃いたわ!」
「な?」
「こーの村にぃ溢れてぇええええええいるよぉおおお? でけでーでけでーでけでーでけでー♪挫けそうでもぉおおテレレーン♪迷いそうでもおおテレレーン♪見ぃーつーけー出すぅハッ! 必ずぅううううううううう♪てってってってってーてってってってーてー♪ほおーんとーうのぉ、ハッ! こーこーろをぉおおおぉおおおおおおお!」
「今ここでか……」
「ごめんごめんwwそんなに引かないでよww私もつい感極まっちゃってw今のを説明させてw」
「全く分からないのでよろしくドフ」
「今何気なく口ずさんだ歌は、ドラマ【金狼狂気ファイル】の近藤正広のミッドモーニングシャッフルっていう歌よ」
「ほう、ではニッドモーニングシャッフルですねえ?」
ではとは?
「ミよ! ニとミは確かに聞き間違いやすいけどニッドモーニングなんて言葉ないでしょお? まあ確かにミッドモーニングもあんまり聞かないけどさあ……ニッドモーニングよりはミッドモーニングの方がなじみ深いでしょお? それになんかわざと間違えて言った気もした。そうねえ……ミッド? うーん、じゃあニッドだ! って。そんな感じが市田さんの話し方から感じたよ?」
「そうでしょうか? 普通ですよお?」
「そう感じたの!! で、私は若い頃から刑事ドラマをよく見ていて、いつもは起こった事件を推理する事だけに夢中になるんだけど、このドラマは主題歌も良くてね。毎週それを聞くのが楽しみだったわあ。今のはオープニング曲なんだけど、始まったら決まって熱唱していたわ」
「成程フ」
「な? ドラキュフ君? 今語尾を省略しなかった? 今の所本当なら成程ドフって言わなきゃ成立しないよ? 語尾略は余程の緊急事態以外は止めてほしいよおお?」
ぬ? 語尾略だと?
「これは失礼ドフ。だが、今の名前の呼び間違いは納得いかないドフ。訂正して欲しいドフ」
「分かればいいんだよお……な? 私が間違えた? 何をだい? 何も間違ってないよおお」
ぬ?
「市田さん。あなたは今、ドラキュフと言ったドフ? 【あの時】ドフキュラと命名した筈。これが間違いではないと言うかドフ?」
「そういえばそうね。一緒にいる仲間の名前を間違えるなんて最低ね」
「な? 間違えていないじゃないか! ドフキュラでもドラキュフでも基本は同じだからだよお」
基本……?
「え? どゆこと? 全く違うじゃん」
「そんな常識をいちいち詳しくは説明しないよお」
「私達の常識では存在しないのよ!」
「NO!」
「何なのよおおおおおお怒!」
「でも私の中では同じなんだ。それに名前の中に2つもあるんだよ? ややこしいったらありゃしないよお。だから、そっちの方が悪いんだよお!」
さっきの部屋でもはちみつの件でこんな話をしていた気がするが……何故この部分を拘るかまでは分からぬな。
「そう言う事だったドフ……申し訳なかったドフ」
「え? どうして? 突っ込まないの? 全てがおかしいじゃん」
「良いんだドフ」
「分かってくれたようで安心したよ? でも、【ドフ】かあ……うーんこの場合だとちょっとおかしいなあ」
「まだあるの?」
「おうよ! そうだ! もし私がドラキュフパターンで語りかけた場合は〇〇ドフではなく〇〇ュフと変えて欲しいよね。これは良い考えじゃないかあ? うん、決めたよお! これは今から決めた事のでこれからよろしく頼むよドラキュフ君」
「了解したュフ 考えが足りず申し訳なかったュフ」
「何でえええええええ?」
何だ? 今のやり取りは……ぬ? これをこのままにして先に進む訳にはいかない……これより解析モードに入ろう……先程の市田とドラキュフやり取りの全てを白日の下に晒して見せよう……ウーム……まずは、ドフキュラが成程ドフと言わなくてはいけない所で、成程フといい、一つドを省略してしまった。
それに対し市田は、【る】と【ほ】を続けて言うと舌を噛んで死んでしまう特異体質なのに、無理をして
【成程フ】
と実際に発言し、ドフキュラを叱っていたな。言わなくても良かった部分ではあるが、実際に口にして教える事で真剣度を増す作戦か? そう、これは、市田の中では住人に正しい語尾を付けさせ続ける為ならば、命を張ってでもしなくてはならない程に重要な事だと言うのか? 何と言う……これは漢だ……この徹頭徹尾振り……これは正に真の漢……! だが、市田の舌は無事なのだろうか? 次にドフキュラ君だよ! と、アリリに紹介していたのに、先程ドラキュフと呼び間違えていた事件があった。それなのに何故か逆にドラキュフを叱っていたが、今のところ不明である。これを解析するには20人ほどの言語学者を呼び寄せなくてはいけないので一人では無理だと判断した。許してちょ。
「あれえ? 市田さんってやっぱり?」(まあいっか)
「なんですかあ? で、アリリちゃんもやっぱりなんて言っていないでちゃんとこの部屋を見て下さいよ。仕事に集中して、歌は我慢してね。
しかし、私は感じたんですよお」
「なあに?」
「はい、この歌を聴いていると、弱そうに生きていくよりも、本当に弱くなるために、現実は何なのか? 真実はどこなのか? 悩む程遠ざかる赤い星と言った少し不思議な気持ちになりますね」
どんなきもちやねん。
「おい!! 市田さんwあんたもう歌詞完璧に分かってるじゃんwwwww今あんたが言った、
【弱そうに生きていくよりも、本当に弱くなるために、現実は何なのか? 真実はどこなのか? 悩む程遠ざかる赤い星】
までの部分は、偶然私が歌った歌を聞いただけで脳内にフッと湧き出てくる程単純なワード。いいえ? センテンスとはちゃう訳よ? で、今市田さんが言った言葉って、さっき私が歌った歌の序盤の歌詞と完全に一致していたのwこんな事は一亥 (100000000000000000000)分の一以下なのよ? でも0ではないからあり得るのよねー。こんな偶然もあるのねwこの奇跡に感謝だわwあの歌はね、実は途中から歌ったの」
「ま? なぜですか?」
「それは簡単。さっき私が
【悪魔のような天使の笑顔】
って言う表現をしたの。覚えている?」
「おうよ!」
「で、そこから、その次の歌詞が【この村に溢れているよ】だったの。だからそこから歌ったのね」
「なる」
「でも、それだけじゃ初見では一体何が村に溢れているのかは分からないし、なんか途中からでは気持ち悪いわよね?」
「そうでしょうか? 別に興味ありませんけど……」
「ちょっとは興味を持てwwwで、あんたが言った歌詞から歌うと……その謎が解けるじゃない! わかった! 試しに歌ってみるわね!」
「な? 止めて下さい。別にそんな秘密知りたくないですよお」
「黙れw遠慮するなwコホンw」
「NO!」
「市田君、またか。NOではない。日本語でコケー……おっと、ククク失礼失礼wオケーだ。それにそれは禁止した筈だよ? もう忘れたんだね? 仕方がないものだ……やはり、老衰には誰しも逆らえない……予定調和だ。許してあげよう。だがな? 私の喉の準備も既に完全に整ったばかりなのだ。ここで中断してしまったら最高の喉にも申し訳ないじゃあないか? 今しかないのだよ……分かってくれるよね? 古き老人よ……」
♥♡<慈> <愛>♡♥
市田は、かつてない程の穏やかで優しい口調で紡がれる毒舌と、慈愛に満ち溢れたお目々の眼差しに対し、思わず……
「ブル」