magisyaのブログ

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私の行く先々で事件が起こる件について4 エピソード4 地獄の一丁目

前回、鬼に連れられ、閻魔がいるという町の上まで到着したアリサ。当然そこも何もない平原。だが、何故か鬼にはここに入り口がある事が分かっている様だ。そして、鍵の様な物を地面に差し、回す。すると、上開きの扉が現れ、それを慣れた手付きで開ける。
「へえ、こうなってたんだ」

「ああ、見てたのですね? 気付きませんでした」

「地面に吸い込まれる風に見えたよ」

「実際はこんなアナログな方法ですよ」
扉の先には細い階段があり、そこを抜けると町の上空の踊り場の様な場所に出る。

「ぎゃああああ」

「どうしました?」

「高い……まるで上空じゃない」
ぶるぶる

「そうです、結構高いんですよ」
50m程下に、いくつもの建物が並んだ町らしき景色が見える。踊り場に螺旋階段が繋がっており、ここから町に降りられる様だな。相当深いところまで掘られているようだな。
階段出口の傍に一人の番人らしき鬼が、見回り鬼を見るや否や会釈する。それを見たアリサ、何故か45度お辞儀をし、愛想を振りまく。番人は異様に笑顔の謎の幼女に少し戸惑う。恐らく全部の区画こういう作りになっていて、見回りの鬼は別の区画に行く前に平原に出て振り返り、この番人に挨拶したり掃除しろなどと難癖をつけていたのだろう。そのタイミングをアリサに見られたという訳だ。

「この階段を降りれば閻魔様の町、地獄の一丁目に到着です」

「うわあ高い」

「そうでしょうか? 毎日見ているので分かりません」

「私はアリサ。高所恐怖症なのよ?」 

「そうなんですか? え? 名乗った? 名前はもう知っているのですが……何故再び名乗ったのですか……」

「あっ、やべ! いつもの癖よ!」

「どんな癖ですか……あっ、ああ思い出しました。それぞれの1話の始めにいつもそういう語り出しで話していますもんねえアリサさん。もう四話目ですもんねえ。すっかり根付いてしまった様ですね」

「え?」

「私知っているんです。1話の始めに貴女が挨拶する時に

『こんにちは! 私はアリサ』

って言ってますよね。あれ私、好きなんです」

「へえ、良く知ってるじゃない……でも記念すべき第4作目となる今話では流石に言う余裕が無かったわ。はあ……毎回やっているルーティンなのに……たかだかこんな所に飛ばされた程度の事で動揺しちゃってさ……あろう事かルーティンブレイクを引き起こしちゃったみたい……駄目よね……情けない……こんな些細な事でルーティンブレイク引き起こしたらさ……でも、冒頭に言えなかったから無意識で、心の中のアリサ様が

『ルーティンブレイクしてあれ言えてないよ? ルーティンブレイクしたままでいいの? そんな訳ないね? 今しかチャンスは無いよ!』 

っておっしゃるものですから出ちゃったのかも……ここまで来ると職業病ね……私の仕事に対する責任感の強さに呆れるわ……」
アリサよ、ルーティンブレイクって何だ? 身勝手な造語は止めてよね。

「と、言うと?」

「自分が如何に仕事熱心でそれにしか興味の無い人間か? っていう事を思い知らされたって感じ?」

「ああ、動揺していて冒頭では出来なかった。でも今思い出したかの様に無意識で出てしまったと……素晴らしいですよ! 私ね? この小説の唯一のファンである事を今初めてカミングアウトします。そしてこの小説のファンである事を初めて誇りに思います……いやあ、生での

『私はアリサ』

感動しました! ありがとうございます!」

「はあ……この小説の唯一のファンがこんな所にいたなんて……通りで現実世界のどこを探してもいなかった訳だ……嬉しいわ……もし今回もそれを楽しみにしてくれていたとしたらごめんね……唯一のファンの前で、本来出さなくてはいけない場所、すなわち4話の冒頭で平原に投げ落とされた瞬間にすぐさま立ち上がり

『私はアリサ』

が言えなかった……不甲斐ない……でも投げ捨てられたんだもん仕方ないよね……言い訳は良いわけないわね……全面的に私が悪いわ……」 

「そうですよ……そこは

『私はアリサ。たった今、地面に叩きつけられちゃったのてへへ……鈍痛が全身にいきわたっているけど頑張る!』

ぐらいは言えないと……そんな体たらくではヒロイン失格ですよ……」

「分かっているの……でもアリサ、そんな簡単な事が……出来なかったんだ……ああ、リセットボタンがあるのならあの時に戻して

『私はアリサ』

のノルマを達成したかったよ。本当ごめんね……」
がっくり

「ああ……肩を落とさないで下さいアリサさん……しかしアリサさんはとても謙虚なお方ですよね。とても神裔Ⅳとは思えない程です」

「うん。階級なんて飾り……本来の素の私はこんな気の弱い少女よ……それしか私には無いから……謙虚さだけでご飯を食べてる」
どうしてうそつくの?

「そうだったんですね……」
あ、かんたんにしんじちゃだめだよ!

「ごめん……でも、寂しかったよね? そこで来ないんかーい! って、思ったよね……でとってつけた様な後付けでの

『私はアリサ』

だけしか聞けなかったもんね……あんな作られた偽りの

『私はアリサ』

じゃ、

『私はアリサ』

でも何でもない偽りの

『私はアリサ」

よね……本当は満足していなかったよね?」 

「……」

「ああ、やっぱりそれは思っていたのね……ごめん、涙を拭いて……で、その気持ちを押し殺し、

『感動した』

なんて嘘までついてくれるなんて……あなた超優しい人よ……なんかとても申し訳ないわ……て、え? 小説? 何それ? これ現実よ?」

「しまった! 今のは無しで……」

「うーん……小説って一体なんだろう? 本当に知りたいよ」

「いえ、その……こればかりは勘弁して下さい……」
ペコリペコリ

「またそれ? 都合が悪いとそれに逃げる……あんたのその癖本当嫌い……さっさと面を上げい」

「ううっすいません……」

「……仕方ない……見逃すのは今回だけよ? しかし……まさかあの平原の地下にこんな町があるなんて……それにここまで天井が高いとは思わないわよ……町が霞んで見えるじゃない……」

「大袈裟ですよw頑張って降りて下さい。下りれば恐怖は和らいでいくでしょう」

「そんなの分かってるけど、最初の一歩は怖いよー♡」

「千里の道も一歩からです」
カツンカツン

「着きました。ここが地獄の1丁目です。日本で言う東京の様な所です」
ここが地獄の町か……東京か? そうは言うが……江戸時代の日本の庶民が暮らす平屋の様な作りの建物しか並んでいない。そして、内部は流石に明るい。




売店、料理屋そして書庫などの施設もあるが、一話に登場した様な警報システムや、ある程度の侵入者を戦力まで特定するようなセンサーがある様な感じは一切ない。田舎の発展途上の村と言った感じで、都会の喧騒に疲れてしまい、引っ越しを考えた老夫婦が移り住み、農業を営むには最適の場所と言える。
私も初見なので、ここに関しては自身の知識が通用しなさそうだ。なので、見たままを語っていこうと思う。

「懐かしい……私の家の付近の田舎道その物よ」

「これでも大都会なんですけどねえ……ほらあそこにも書庫とかもありますし」
指を差した方向には確かに立派な建物がある。だが木造の古びた建物であることには変わりない。

「しょこ? ああ、図書館みたいなのでしょ? 私の通う学校にもあるし、町の外れにも大きいのがあるよ!」

「ま、まあそうですが……しかし不敗Ⅰからでないとは入れないという制限があります」

「え? 何でよ」

「まあその、モチベーションの維持の為でして……初めから全ての施設が使用可能ではありがたみが無いです。他にも階級上昇で色々な事が出来る様になっていきます」

「そうか……便利な施設を開放できると知れば亡者も積極的に戦力を上げてくれるんじゃないかって思っているんだ」

「そうです。あまりだらけてもらっては【詰まって】しまいますから」

「詰まるとはつまり?」

「まあその辺はおいおい。あ……着きましたよ」

「え?」
そこには木造の大きい建物が。しかし、台風と共に去って行きそうな程頼りない。

「まさか? あの一軒家? ……閻魔って書いてあるけど、あれが?」

「はい、閻魔様のお城です。立派な建物でしょう?」

「え? あれがお城? 書庫でお城の意味を調べた方がいいんじゃない?」

「え?」

「あんなの3匹の子豚の次男の建てた木の家じゃない! こんなのオオカミの肺活量で容易く吹き飛ばされちゃうよ」

「失礼な事を……せめて三男のレンガの家と言って下さい……ん? オオカミ? 吹き飛ばす? どういう事ですか?」

「何でって……そりゃオオカミは肺活量で飯食ってるキャラでしょ?」

「いえいえwその鋭い牙で獲物を食する生き物の筈ですよ? 何処でそんな間違った知識を?」

「え? オオカミは家を吹き飛ばしたり巧みな話術、時には変装したり、声を変えたりして獲物に近づき、油断させて丸呑みにするんだよ? それで飲み込んだ獲物を、溶けにくい超弱酸性の胃液でゆっくり消化していくのよ? こんなの常識よ?」

「ああ、アリサさんもしかして恐らくですがそれは3匹の子豚と赤ずきんとオオカミと七匹の子ヤギに登場するオオカミのイメージじゃないでしょうか?」

「ああ、確かにそうだわ……ムサシ話……おっと間違えたw昔話でよく読んだからなあ」

「ムサシ話も私は好きですよ?」

宮本武蔵ね?」

「そうです。鬼ですら憧れる男です。書庫で読みました。私も上界に赴き彼の生きた世界を見て回りたいです」

「あら? そんな事するの? 鬼が」

「時々そういう指令が出るのです。まあ虚無平原見回り担当の私では一生回ってこない任務でしょうが……」

「じゃあ時々鬼が人間界にも潜んでいるって事?」

「そうです。ですが絶対に危害は加えません」

「本当? ならいいんだけど……怖い事するのね地獄では」

「話が大分それましたが、オオカミは凶暴ですよ。肺活量はそこまで無いですよ?」

「分かったよ。でも材質はどう見ても木に見えるよ? レンガは無いわ! あ、あそこで手続きをするんでしょ? 早く行こう!」
ピキーン 120『限、地獄の一丁目を初めて移動』

「はいはい、戦力上昇戦力上昇。何度も聞いたら飽きて来たわ」

「こちらです」
カランコロンカラン
扉を開けると拍子木の様な物が一斉に鳴り響く。

「喫茶店か!」

「違いますよ」
この屋敷の奥。大きい椅子がある。そこに白髭を生やした王冠を被った大男が座わっている。

「へえ……あれが閻魔様?……多分この世界で一番偉いのよね? あっ、頭に階級が付いてるwどんなに偉くてもこの世界のシステムには逆らえないのねwwええと? 虹色で……神王Ⅳ? って見た事ないよ……スゴッ」
受付とかそういう物は一切無く、思った以上近くにその存在は居た。階級は神王のⅣとの事だが、どれ位の戦力だと名乗れる階級なのだろう?

「ほほう神裔Ⅳか……これは中々……うう……何か眠いな……」

「何よ!!」
ピキーン 2000『限、地獄の主と初会話』
(2000? なんかすごい事になってない? あれ? 何か違和感が……)
しかしその違和感の正体を突き止める前に閻魔は話を続ける。

「ほう、お前は既にここを出ていく資格がある様だ。羨ましい……ん? 初めて来たのではないのか? ここに来る魂は全員

【初心Ⅰ】

で固定の筈だぞ?」

「初めてだよ?」

「では何故だ? ……何? そうか……成程、そういう事か……」

「何?」

「いいやこっちの話だ。説明しても分からぬだろう。良く分かった。そしてお前はまだここに来るには早い様だな」

「知ってるよ。あいつに飛ばされたの。元の世界に戻して!」

「無論だ。すぐに戻してやろう。と、言いたい所だが、その前に簡単な試練を課す」

「えー?」

「まあその前に町を見回りたいとかあるなら回っても良いぞ? 初めてだろう? 少しは興味あるだろう! ……はあ……何か疲れた……」
頭を抱える閻魔。

「え? 大丈夫?」(喋ってるだけでも疲れる?)

「問題ない……」

「本当? でもそんなにあっさり? お役所的なたらいまわしが無いのが嬉しい! じゃあその試練ってのを教えて?」

「虚無平原で増魔の石4つをここに持て」

「ああ、さっきの平原で? (またあそこに戻るのか……ミッションだもんね……でも、やだなあ)で、どんな形なの?」

「黒く光っている石だ。工夫して探して見せよ」
工夫とは? そこは自分で考えなくてはならなそうである。

「分かったそういうの得意! じゃあまず見回って準備してから行くね。うーん……4時間? いや2時間で終わらせる!」
彼女は閻魔の出す面倒臭そうな依頼も快諾してしまう。とても好奇心旺盛の女の子なのだ。まあここは地獄。どんな場所なのかは、小5の女子にとっては興味津々であろう。

「そうか。では4つ揃ったら私の元へ再び来るが良い……そうだな手ぶらで回ってもつまらなかろう。小遣いをやる……だってもう必要ないし……」
そう言いつつ銭の入った袋を手渡してくれる。だが、最後の言葉が気になるが……何なのだあ?

「え? 何でそこまでしてくれるの? ありがとう!」
ずしり
ピキーン 1200『限、所持金が初めて100万ヘル到達』
ピキーン 2400『限、所持金が初めて200万ヘル到達』
ピキーン 3600『限、所持金が初めて300万ヘル到達』
ピキーン 4800『限、所持金が初めて400万ヘル到達』
ピキーン 6000『限、所持金が初めて500万ヘル到達』 
「重!」(これは大金の予感! しかしピキーンピキーン五月蠅いわね……一回にまとめなさい! でもこれも閻魔と話した時とか鬼さんと話した時に出て来た

【限】

って出てるけどどういう事? さっきまで日だったよね? 引っかかってたのってこれだ)

「さて、お前の為にこれから色々な手続きをしなくてはいけない。少々時間がかかる。石はその間の暇潰しと考えてくれ。それにその金で地獄の名物を堪能しても良し、装備を整えても良し。好きに使え。しかし、面倒だな。誰か代わってほしい……」

「はいっ!」(変な奴)

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少し疲れた感じの閻魔様。もしかして五月病なのでしょうね……