こんにちわ! 私は語り部だ。この話の進行を担当している者だ。長い事待たせてしまったな。心から反省している。だが大切な用事を済ませ、パワーアップしてきたので期待していて欲しい!! 前話のあらすじだが、アリサがとんでもない事になってしまった。
ぬ? 説明が足りないか? ふむ、長い事間を開けてしまったせいか流石に忘れてしまったか? よし、語ろう。前回の真犯人の唱えた死の魔法は、家主の男に向けられた。だが家主はおかしな癖のある言葉を乱用する変態ではあったが魔法のエキスパート。そんな家主、市田理内に長い詠唱の魔法が届く筈も無かったのだ。彼は素早く防御呪文を詠唱し、先に唱えていた犯人より先に詠唱を終え、見事身を守る事に成功。だが、防御魔法には二種類あり、完全に魔法を止める物と跳ね返す呪文の二種類があり、食堂内で突発的に起きたバトルゆえに、二次災害を食い止めるためにも、魔法を止めるだけの呪文でとどめておくのが正解だったのだ。だが、そうしてしまうと、この先の話が語れなくなってしまうという危険性を察知したか? 家主の気まぐれで、呪文を反射するタイプの方を唱えてしまったのだ! しかも不運にもその反射された即死効果を秘めし蛙の舌は、運命に導かれるか如く吸い寄せられる様に、この話のヒロインアリサに頬を目指して飛んでいく。それは正に突発事故の様な……轢き逃げの様な目に遭い、アリサは11年という短い人生に終止符を打ってしまったのだ……おお……この私が居ながら見ているだけで何も出来ないと言う事実を突きつけられ、歯痒さと憤りの中で命を削り、飲まず食わずで睡眠もせずに涙を流しながら語っている。ううっぐすっ……ひもじいよお……
だが、大丈夫である……私の心配など必要ない。私はそんな事では死なない。故に私の身の安全などは一切気にしないでほしい。例え空腹で皆さんの目の前で朽ち果てたとしても、喉が渇いて骨と皮までに瘦せこけ風化し骨のヒトカケラになったとしても、その姿で最後の最後まで語る。それは私が決めた道なのだからな。一片の悔いも無い!!!!! それにこれからアリサがどんなところに行ってしまったのかをしっかりと語っていくと言う大役を任されているのだからな。頑張るしかないであろう。ああ、喉が渇いたよお……おっと……もう限界が来ていて、かすれ声かもしれぬが文字であれば大丈夫であるな? ではよろしく頼むぞ……よし……
【私の行く先々で事件が起こる件について】
4話 スタートである。
ーーーーーーーーーーーーとある荒地?ーーーーーーーーーーーーー
ポイッ ひゅーん
「きゃあああ」
ドサッ
「痛たたた」
アリサは落下して地面に叩き付けられてしまった。だが、命に別状はない様だ。だが、落下地点は最悪と言えよう。そこは正に荒れ果てた土地。そしてどう見ても未開拓の地である。道路も無ければ田んぼも建物も何もない。荒れ地に一人の
【着物姿の】
幼女が倒れている。荒れ地に似合わぬ程に豪奢で雅。金色の刺繡が施された誰が見ても高級品と言える着物だ。確か数時間前までは苺のワンピースを装備し、母親に買ってもらった肩掛け鞄を所持していた筈なのだが、今はその影もない。しかし、この落下した幼女は間違いなくアリサだ。
「よいしょっと……私、結構運動神経はある方だけど、無理だったわ」
起き上がりながら何かをつぶやく。
「こういう場合はしっかりと受け身を取れって体育の浜本先生に【言われた】けど、頭では分かっていても、咄嗟には出来ないわねえ……情けないわ……まあ常に意識しないと出来ないという事を今知ったから次こそは……」
そうそう地面に叩きつけられる事は無いけれどなあ。
『言われた♪ 言われた♪ 言われたからやった♪』
ぬ?
「きゃあああああ? え? 何今の? い、
【言われた?】
何を言われて何をやったの? 何にも分からないじゃない!! 突然何なのよ! で、何で歌なの? ここは一体どこなの? 私はどれだけ寝ていたの? あれから何時間たっているの? こんな所に居ても何も……分からない事だらけじゃん……」
『言われた♪ 言われた♪ 言われたんだから言われた♪×2』
だだっ広い荒野に野太い
【女】
の声が響き渡っている? ……これは銅鑼衛門に登場する郷田武志、通称
「ま、まただよ…… 気持ち悪すぎるわよ! な、何なのよ! で、ここは? ブル」
ブルという擬音を口にしてしまうほどに恐怖するアリサ。これから一体どうなってしまうのだろうか?
ーーーーーーーーーーー7月25日 AM3:00 某所ーーーーーーーーーーー
ピー ピー ピー ピー
【25日 AM2時50分頃、正式ルートを通らず侵入した魂あり! 正式ルートを通らず侵入した魂あり!】
アラームと共に機械音声が響き渡る。二人の鬼がその警報を聞いている様だ。一人はとても大きい。
「珍しい事でもないオニ。こんな時間に……面倒オニ。どうせ非正規ルートの魂は下級鬼に捕縛されるだろ? 放っておくオニ」
アラームを受け、小さい鬼が大きい鬼に話している様だ。
「そうよね」
【戦力神裔Ⅳ相当、戦力神裔Ⅳ相当、極めて強大】
「し、神裔Ⅳだと? なんでオニ? ここに攻め込んできた? そんなルートは無い筈オニ!」
「はじめて」
「そうですよね? 今までこんな事無かったオニ。しかも魂の状態で? 何者だ一体!」
【敵影1、敵影1。直ちに辺地に赴き調査せよ】
「た、単身で? 神裔Ⅳか……かなりの戦力だオニ」
「ゆうかん」
「一人で来るなんて……そうですよね。それにその階級であればあなたの敵でもないオニ」
「よわすぎ」
「だが……お前はたった二人で調査に行かせるオニ? こんなバカな事をさせるオニ?」
「ほっとけ」
「た、確かに……面倒オニ。オイラでは手も足も出ないし放置放置。考えて見ればあの戦力であればあの方に勝てる訳がないオニ。さて、寝るオニ」
「おやすみ」
【虚無平原51096・11769地点に反応有。直ちに現地に赴き調査せよ。直ちに現地に赴き調査せよ】
「……うるさいオニ」
「せつだん」
ブチッ
【虚無平原51096・11769地点に反応有。直ちに現地に赴き調査せよ。直ちに現地に赴き調査せよ……応答なし応答なし】
ーーーーーーーーーーーーー虚無平原?ーーーーーーーーーーーーーー
「どこなのよここ……取り敢えずどこも折れてはいないか……確か私……フンガーの魔法で黒い蛙が出てきて……そのカエルが舌を伸ばして市田さんを狙ったんだけど、市田さんは魔法で跳ね返したんだよ。その舌が跳ね返って私に向かってきて……で、次に気づいた時には倒れている私自身を見て……その美しさに驚嘆し……何故か自分自身の筈ではある筈なのにその端麗さに嫉妬し……チャンネル登録とツイッター、現在ではXのフォロワーになってもらおうと躍起になっていて、それで……その時は確か午前3時前だったかな? 今は何時? 分からないわ……」
そう言いつつ何気なく自分の腕を触ろうとする。すると
「……え? 冷たい? そんな? あ、腕時計もないよ?」
おろおろ キョロキョロ
「今の状況を整理しなきゃ……あれ? かばんは? 何もないー!? しかも服も違うー。変な着物? みたいなのを着てるー? ちょっと可愛いけど何でよー? 頭にも帽子があるわ! 転倒や落下による怪我を防止してくれるのね! ……あーあこんなに面白い洒落を言っても誰も反応してくれない―。今面白い事言ったんだよー。笑いなさいよー」
とことこ キョロキョロ
名もなき誰かを、自分を見てくれる人を探し、辺りを見回すも何も無い。誰もいない。荒れ果てた夜の荒野。見通しも悪く、周囲20メートルまでしか見渡せない。
「……お腹は? 2回も夕食食べたし……減ってる訳ないよ……え? 減ってないと言うか……トイレに行きたいって気にならないのよね。あれだけ食べたのに……って事はこの体で食べた場合どうなるの? 入りっぱなし? 分からないよ……まあ餓死するって事は無さそう。でも……何にもない! 眠くもならないし」
暫しの沈黙。
「グスッ……グ……泣いても涙も出ない……この状況、普通じゃない……常識が通じない……これから、どうしよう……」
「でもこんな訳の分からないところまで事件は起きないよね。ここに来る前に、2日の間に3回も遭遇しちゃったもんなあ」
そうあってほしい物だが……それ以前に何も起こりそうにないな。それはそれで語り部的には困るのだが……
「ええと私の行く先々で一体どんな事件が起こったっけ? 暇だし思い出してみようっと……ええと何だっけ? まずはホテルでの毒入り野菜事件。ボケ人間コンテスト司会落下事件。五鳴館館主……何だろう? 死の魔法死神蛙べローン事件? なんか締まりが悪いわね……まあいいや……ここでも何か事件が起こるのかしら?」
謎の場所に飛ばされたアリサだが、記憶力は健在。私の様に過去作を一々読み返さずともぱっと3つの事件を思い出してしまう程のおぞましい記憶力の持ち主なのだ。そう、彼女はこれまでに3つもの事件に遭遇し、それらを全て一人で解決して来たのだ。おっと、二話だけは私が解説したがなwwwしかも2日間の間にだ。こんなに頻繁に事件に遭う幼女が未だ嘗て居たであろうか? いや、居ない! だがそれには理由があったのだ。その理由の一つは、アリサのペンダントの中に保管してあるブラックダイアが悪さを働いているという可能性が極めて高いのだ。しかもアリサはその輝きに魅せられ七瀬という幸運の高い男に手放した方が良いというアドバイスを貰っても尚、それを決して手放さない為、彼女の運の値が1なのだ。だが今はそのペンダントは持っていない様だ。今まで持っていた全ての持ち物が無くなり、美しい着物を身に付けている。
「と、取り敢えず何かを探してみよう。宛てもないけど。でもここで立ち止まっていては絶対何も変わらないわ。宛てもなく動いてみよう」
バッ
気合を入れるアリサ。
「じゃあスタート地点と言う事で、ここに盛り土を作って目印にしておこう」
ガサガサ ゴリゴリ ゴリゴリ
土を盛ってスタートと言う文字を指で書く。
「なんか指自体が薄いけど地面に触れるとちゃんと文字が書けるみたい。どういう状況なんだろう? うーん、方位磁石も星も方向に関するヒントが何もないからどっちが北かとか何も分からないけど、始めに作った盛り土の隣にもう一つ盛り土を作っておいて、その方向に進んでみよう。そして1000歩歩いたら盛り土をして1000歩地点と指で書いておく。多分今の私は餓死とか喉が渇いて死ぬって事は無いと思うの。だからとにかく歩き回ってここの地図を作ってみないと……脳内でね……じゃ、行きますか……怖いけど……何も出ませんように……」
グッ
歯を食いしばり歩き始める。
「さあみんな! 行くわよ!! 遅れても待ってあげないんだからね! って、私一人かーい! ずこー!!」
1人ボケ乗りつっこみが虚しく響き渡る。