magisyaのブログ

小説となぞなぞを投稿してます

私の行く先々で事件が起こる件について20、21話 

シュパァー……★キラキラ★

 

照代は、突然口から血飛沫を撒き散らした。

 

 そして両耳からも、一筋の血が流れている。

ウケルー。等と言う普段使い慣れない

言葉を使った反動かもしれない。

そして、血飛沫の中にうっすらと虹が現れた。

一体何が起こったのだろうか?

 

 しかも、ただの虹ではなかった。

普通の虹との違いは、赤系統の色のみで上から

ロザリオ、ベゴニア、レッド、ボッシュ

フレスコ、ビクトリアンローズ、クリムソン

の七色でグラデーションされていて

内側に行くにつれ、明るめの赤であるロザリオから

赤黒いクリムソンに変わっている虹である。

挿絵(By みてみん)

 古代エソポタミラ文明の古い言い伝えに

 

『血の色の虹は、冥界と現世の架け橋とされる』

 

という言葉がある。

紀元前1174年に起きた、リブゾレンヌの戦いで

リブゾレンヌの英雄王リヴリゼズが

敵兵を切った時出た血飛沫の中から

おどろ驚ろしい色合いの虹が現れ

命を落とした兵士の魂が

その虹を渡っていく所を見たと言うのだ。

その噂は広がり、エソポタミラ文明最大の建造物

リブゾレンヌ中央神殿の石碑にも古代文字で

その虹の名を

リブゾレンヌの血の虹という名で記されている。

 

 照代は、今正に冥界と現世の狭間を

一人彷徨っているに違いない。

照代次第では『あちら側』に行ってしまうかも知れない。

ここは彼女の踏ん張り所ではないだろうか?

 

「うっわあぁ、きれーい。すっごい血飛沫。

パチパチパチパチ

すごい飛んだねー。うっすら綺麗な虹も見えたんだよ。

今度こそ本当におばさん死ぬかもしれないね」

 

 しかし、妙に無邪気なアリサ。

まるで海岸で、星の形をした貝殻を発見し

彼氏に得意げに見せる彼女の如く

何の罪の意識もない。

無邪気な? いや、無邪気すぎる反応……

本人は命懸けだというのに、至近距離で噴出された

血飛沫をものともせず

まるで見世物を見ている感覚で拍手をしている。

……子供は、これだから怖いのだ。

他人の痛みを理解できず、女の口から噴出された様が

アリサにとっては滑稽に見えてしまった為

大喜びしてしまう。

 

 一度毒を受けて死んでいたと思っていた女の人が

幸運にも起き上がってくれたら喜ぶのが普通。

それを過去のいさかいによる私怨から

口喧嘩を始め、それが原因で

再び調子が悪くなった為の疲労から

口から血を噴出したのだ。

それ見て喜ぶとは……この娘、悪魔か?

 

 普通の人間なら、慌てて駆け寄り

血液型を、その人の表情やクセで完璧に見抜き

4分の1の確率で的中させ

同じ血液型の人間を、聞き込みで探し当て

常備している献血セットで迅速に

献血してあげるのが正しい行動だというのに……

それを嬉しそうに目をキラキラ輝かせて

拍手して喜ぶとは何とも世も末である……

そして、意も介さず反論する。

 

「あーいうのってね、始めは難しかったけど

色々見ている内に段々分かってきて面白いよ?

企業の癖とか特徴とか色々違うし

あっここは、あの企業と全く同じだわw

コピペ乙wwとか

沢山見ている事で分かる発見もあるしね。

おばさんは、ゲームソフト買っても

取説すら見ないで始めるタイプの女でしょ?

それで、ボタン対応が分からなくて。

そこで初めて取説に手を伸ばすって感じでしょ?」

そして、休む間など与えずに容赦なく質問する。

 

「ハァハァ そ、そうだけど? 

そっちの方が長く楽しめるのよ。っておい!

……女て……他に言い方あるでしょグホッ」

耳から垂れた血を拭きつつ答える。

 

「始めから見ておけばそんな事にはならないのに。

バッカねえ。

そんな所を長くしても時間の無駄でしょ?

RPGなら、ストーリーや戦闘の戦略とか

ダンジョンの謎解き、奥に眠っている

強敵が守っている宝箱を開けて

強くなることを楽しむ物でしょ? 

それを、対応ボタンを調べる為に説明書を読み

電源を入れっぱなしにしている状態で

長く楽しめていると言えるのかしら?

電気代の無駄よ! ピカチュウに謝りなさい!」

 

「ゲブブゥ……そ、そんなの個人の自由でしょ? 

ピカチュウが電気代とどう関係あるのよ?

あんな架空のおっさんの事を気にする程

今の私には余裕はないわ。ギォボボォ

全員がRPGのストーリーを楽しむ訳ないし

私は取説を読みながら電源を入れっぱなしにしている

その状態こそが私にとっての最高に楽しい時間なのよ。

はあはあ……く、苦しい。

も、もうあの暗くて寒い場所に戻るのはもう嫌。

もう駄目なのかしら? いっその事優しく殺して……」

 

「ちょっと待って? ピカチュウは凄いおっさんよ!

架空のおっさんと言うのを訂正しなさい!

絶対実在するもん!!!

それに凄いかっこいいおっさんなんだからね!!

電源を入れっぱなしは絶対駄目でちゅよ!」

ピカチュウのモノマネをしながら怒るアリサ。

 

だが

 

「……もう駄目……」

 

 そう言うとアリサのモノマネに返事できぬまま

目を閉じ、意識を失いかける照代。

すると、毒を受けて倒れていた時

彼女が居た、真っ暗でとても寒い空間。

生と死の丁度狭間の世界だろうか?

それが再び照代の目の前に現れる。

そして、突然薄気味悪い赤っぽい色のみで構成された

虹の端が照代の足元に現れる。

 

…………

 

これは……リズッ。

リグッ……ブべべッ、クッ、失礼。

リ・ブ・ゾ・レ・ン・ヌの血の虹である。ふう

遥か遠方の地に伝わる伝説の虹が

日本のホテルの広間に突然現れたのだ。

これは何かの前触れなのであろうか?

 

「ねえ? これ何? これを渡ればいいの?

渡ればどうなるの?」

不安そうに聞く照代。しかし

当然答える者は誰もいない……

 

「ねえ? 誰かいないの? スタッフー、スタッフー?」

 

 だが、やはり返事は無い。

今意識を失えば、またそこへ逆戻りは避けて通れない。

力が抜けてふらふらする照代。

しかし、突然照代の脳裏に

楽しかった事、嬉しかった事

そしてこれから経験するであろう楽しい未来。

色々な物が浮かんでは消え、消えては浮かび

生への執着が最大に達する。 

 

「やだ!! 生きる!!! 生きてみせる!! 

名新聞記者、真田行照代の名に賭けて!

私は、私は……! 無敵なんだーーーーーー!」

 

 目を見開き上を向き、歯を食いしばる。

両腕は肩幅より少しだけ広げ、拳は力強く握る。

腕の角度は30度。中腰になり膝の角度は

直角に広げ踏ん張る感じのポーズ。

ドラゴンキューブで、孫悟ウハエやピッコロン等が

気を高める時に見るポーズと言えば分かるだろうか? 

そのポーズをする事で体温を上昇させ

体内の毒を焼却しようと考えた照代。

 

 そう、そこには理屈など無い。

その毒の活動可能温度も知らないし

もしかしたらこの行為ですら性質が

変わらないかもしれない。

無駄な体力を使い、免疫力が低下してしまうだけの

リスクのある行動かも知れない。

 

 しかし、彼女は本能的にこのポーズをとり

気を高める事で体内にいまだに残っている

毒の剿滅そうめつが出来ると思い込んでいるのだ!!

思い込みの力。これは命を懸けた

一度っきりのプラシーボ効果

そう、彼女は生きる事を選択したのだ!!

 

「うおおおおおおおおおおおっ」

女性とは思えない程の野太く大きな声で気を高める。

首周りの筋肉も、肩幅の70パーセントまで増大した。

ゴオオオオオオオォッ!!! 

 

 全身の筋肉が唸り声を上げ、膨張し

男性の様な肩幅を形成する。

生気が、オーラが、闘気が、混ざり合う。

照代の背中から金色と赤色の混ざった様な光を放ち

徐々に膨れ上がる!!

 

    ζバチバチッζ

 

自分の出した気に電気が混ざりこむ!

 

「自分の名にかけてどうすんのよ、名新聞記者て……

初めて聞くワードだわ。でも元気が戻ってきたみたいね」

相変わらずのクールアリサ。

 

「うおおおおおおおおおおおっ」

 

気は更に高まり、ホテル全体が揺れ

テーブル上の食器がカタカタと物音を立て始める。

そして、赤かった照代の髪が、逆立ち

金色に、変わって、いく……!

 

 

一方その頃。虎音は

自販機の前のテーブルに腰掛けてジュースを飲んでいた。

そして、救急車を呼ぶ為、携帯に手をかけた。その瞬間。

 

「うっガルルゥ……」

 

バタッ

虎音が突然意識を失ったのだ。

 

 そう、神様の悪戯が引き起こした

女神てるよとのファーストキッスの際

女神の唇に付着していた毒が、虎音に移ったのだ。

そのままでは何とも無かったが

ジュースを飲んだ時に唇に付着した毒が

ジュースによって体内に毒が流れ込み倒れてしまった。

 

 皮肉な事に、虎音が生まれて初めて愛した女神からの

甘い口づけは、悪魔の口づけだったのだ……

周りには誰もいない。

救急車を呼んでくれる筈の虎音は

意識不明になってしまった。

 

そんな事は知らないアリサ。

照代にこう言う。

 

「さっき虎ちゃんが救急車呼んでくれている筈だから

もう少しの辛抱でしょ? 諦めないでね? 

まだ事件の話を聞いていないから死んじゃ駄目よ?」

 

「じ、事件の話を聞いたら

もう用済みみたいに言わないでよ。ゲボッ

私にはそんな事よりも

もっともっと沢山の事が出来るし

しなきゃいけないのよ。ググッ、ふぅーふうー。

利用規約を隅々まで見るなんて狂気じみた事

時間が余っている幼稚園児のあんただから出来るのよ。 

こ・こここっちは社会人、そして

新鮮で正確な情報を毎日お届けする名新聞記者なのよ

……フゥ……フゥー…… ウグッ!!

駄目よ照代、こんな美しい少女が吐血してグホッなんて

擬音を絶対に出してはいけないわ……グゥェボォッ」

また吐血しそうになるも、必死に堪える照代。

アリサと暢気に話をしている場合でもないのに

おしゃべり好きな性格が災いしている。

 

「しゃ、社会人で忙しい私が、利用規約なんかに

現をぬかしている時間はないのよ。全く

死に掛けた後は子供に説教されるとはついていないわ。

踏んだり蹴ったりじゃない。そういえば何か用なの?」

 

「幼稚園児だとォ?」

 

キッ   <▼> <▼>

 

 照代の幼稚園児発言に、アリサの目が

三角になり脹れっ面になる。

 

「幼稚園児じゃないもん

どこからどう見たって小5だもん。ほら、よく見ろ!」

 

 限界まで背伸びして大きく見せる。

……しかし、アリサの見た目は残念だが

どこからどう見ても幼稚園児である。

それは当然アリサも分かっている。

だが認める訳にはいかない。自分が認めてしまったら

もう誰もアリサの事を大きい子とは

言ってくれないのだから……

 

 学校の行事の度に

列の先頭に立たされる屈辱。更に一つ後ろの子でも

アリサより頭が一つ抜き出ている

と言う事も分かっている。

アリサだけ、同学年で極端に小さいのだ。

 

「へ? あんた……その身長で小学生だったの? 

しかも高学年? 道理で口が達者だと思ったわ。

30年生きてきて一番驚いたかもしれないわね」

そう、照代が間違えるのも当然なのだ。

 

「悪かったわね小さくて。でも30年生きて来て

その程度の事しか驚く事がないなんて平坦な人生ねー

どうせ家と職場しか行き来していなくて

毎日を終えているんでしょうね。

フリーシナリオシステムのゲームなんか

おばさんがやったら

一番初めのダンジョンでレベルマックスにして

何もイベントが起こらないままラスボスに行く。

そんな平坦な人生なのね……かわいそう…… 

 おばさん位大人で、しかも新聞記者なら

身長が小さくても実年齢位見抜けるかと思いきや

観察眼がないとか

新聞記者として終わっているわねwww」

幼稚園児呼ばわりされてイラついているのか

きつく当たるアリサ。

そして最後に笑っている素振りを見せたが

当然、心の中では泣いていたのだ。

 

「ちょ、酷いわ。今は毒を受けていて

観察眼とか言っている場合じゃないわよ。

状態異状さえなければちゃんと小5に見える筈だもの

現役の新聞記者を舐めないでほしいわ」

 

 それは嘘である。どんな世界的名探偵ですら

120㎝の子供を小5とは言える訳は無い。

 

「でも確かにそうね……仕事終わりに職場から

何処かに遊びに行こうって気にはなれないわね。

昔はそうじゃなかったのになー」

 

「あっ悪い事言っちゃったかな? 

それに関してはごめんね。ところで

さっき5階で変な紙切れの話をしてたでしょ? 

あれを見せてくれないかな?」

警察官の血を引くアリサ。

事件となると話を聞かずにはいられない。

 

「ああ、あの紙切れね。

確かその階のトイレのゴミ箱に捨てたわ。 

見たいなら勝手に見なさい。 

 あ、待って。さっきこの紙を受け取った時

写メしたのツイッターにあげてたわ。

私のアカウントをフォローすれば見られるわよ」

 

 そういいつつ自分のツイッターが表示されている

携帯を見せながら近寄ってくる。

 

「別にフォローしなくても

今おばさんの携帯を見れば済む事じゃない。

何で態々フォローしないといけないのよ。

修ちゃんのツイートの中に

おばさんのどうでもいいツイートが

紛れ込んだら邪魔なのよ!

おばさんは結構何でも呟きそうだし……」

 

「そうね、日記代わりに何でも呟いてるわ

この日はどこに行くよ! 

とか少し先の予定も呟いてるし

私の私生活が丸分かりで凄いお得でしょ?」

20話 毒を宿し女

 

「……アリサはトイレに行ってくるね。

実物が見たいし、正直そこまで君に興味ないもん」

 

 アリサの唯一フォローしているツイッター

アカウントは松谷修造のみ。

修造オンリーのタイムラインに

照代のツイートが紛れ込むのを嫌がっているのだ。

 

「君って……他に言い方ないの? まあいいわ 

フォロワー10京億兆万人目指してるから

一人でも多くフォローしてほしかったのに……

じゃ仕方ないわね。ゴミ箱を漁るなんて下品な行為

子供には出来ないかなーと思って

優しさで教えてあげたのにな」

 

「有益なツイートをしていれば

自然とフォロワーは増えるわよ。

全世界の人口以上のフォロワーを求めてどうすんのよ

宇宙人とか幽霊とか合わせても厳しいわよ?

夢はでかい方が良いと言うけどさ。

アリサ以外の人にフォローして貰えば良いじゃない。

後、私はゴミ箱を漁るなんてね

子供の頃からやっているの。じゃあね!」

といい走り出す。

今も子供なのだが……

 

 アリサは、探偵の真似事を放課後毎日やっていて

ゴミ箱を漁る程度の事では何一つ抵抗がない。

しかし、走りながら思った。

(そういえばご飯をまだ一粒たりとも食べてないわ。

ここでツイートの画像を見せて貰って 

食べながら考えてもいいんじゃないか?) 

と。

 

 アカウントさえフォローすれば

自分の携帯ですぐに見られたのだが。天邪鬼なので

露骨にフォロワーを増やしたい人を

フォローするのが嫌なアリサ。

それに、実物でないと分からない事もある。

本能的にそれを察し

体が勝手にトイレの方に向かっていくのであった。

 

21話 捜査開始

 

8章 捜査開始

 

 54階のエレベーターに着く。

初めて一人で乗るのでやけに広く感じる。

そして、手持ち無沙汰で意味もなく辺りを見回す

更に、もしかしてと思い天井を見てみる。

……そこには

全く隠れていないが、隠れユッキーが……

誰も居ないエレベーター内。奴と二人きり。

上から見守られている様で吐き気がする……

アリサの身長では背伸びしても

天井にマジックが届きそうにない……

一方的に命を削られている状態。

しかし取り敢えず撮影。すると、良いタイミングで

警備員の真理が乗り込んで来た。

 

「あら、アリサちゃん?」

 

「あ、丁度いい所に。まりちゃん、ちょっと

私をおんぶしてくれない?」

 

「え? どうして?」

暫く考える真理。

 

「まあいいよ。よいしょっと、え?」

 

 真理は、アリサが幼女とは言え

余りの軽さに、突然自分が

凄い力を手にしたかの様な錯覚を覚える。

 

「アリサちゃん軽いねー。

さっき沢山食べたでしょ? 

なのに紙切れみたいに軽いよ? 

え? 霊体? もう死んでいるの?

そういえばうっすら透けてる気がしてきた・・

それに、夏なのに何か寒い・・

肌が・・全てが寒いの・・」

謎の寒気に襲われ震える真理。

 

  *フルフル フルフル*

 

 しかし、うっすら透けて見えるのは

真理の目の病気が引き起こしている事であり

アリサはビュッフェで何も食べていない。

軽いのも仕方が無い。寒気がするのは物理的に

アリサの体温が低く、ひんやりしているだけだった。

だが三つの偶然が一つとなり

幽霊であると強く思い込ませてしまったのだ。

 

「ま、まだいきてるよ!」

 

アリサは、照代が起き上がってすぐに言った

台詞を吐いてしまった。

 

「あら? その台詞どこかで聞いた事があるわ」

 

真理もその現場にいたので

そのやり取りは知っていたみたいだ。

 

「うー、その事は思い出したくないよー」

 

思い出しておなかが減ってくる。

そう言いつつも本業に取り掛かる。

 

   ぬりぬり♪ ぬりぬり♪ 

 

 前回(天井の悪魔)は事情があり、輪郭や

大部分の茶色い皮膚を残してしまった。

大きいからそれは仕方がない。とは言え

皮膚からも強烈な死のオーラが出ているので

正しい対処法は、完全に塗り潰さないといけない。

その反省を生かし、入念に丁寧に塗り潰す。

おんぶして貰い近距離だから朝飯前だ。

ユッキーは、消し去られた。

 

「余裕の勝利! しかし、後何匹いるのかなあこれ」

 

「……アリサちゃんもうやめてよ」

何か聞こえた? が誰もその声には気付いていない。

 

「はい、出来あがりっと。

あら? 前よりいい男じゃない

整形手術成功ね!」

 

 黒く塗り潰された、コンパスで外周を引いたかの如く

真円状の物体……しかも画力がレベルアップして

立体的な球体の様な光沢も描き表す。

マジックの濃淡を利用し表現しているのだ。

もしかしたら彼女は芸術家気質なのかもしれない。

その謎の球体に、お褒めの言葉を掛けてあげるアリサ。

 

「アリサちゃん何していたの?」

 

「何でもないよ。強いて言うなら世直しかしらね」

 

「うん? ……世直し? ……世直しかー

あの事件も、犯人からすると世直しという

大義名分で行われた事なのかしら? 

でも、誰が食べるか分からない料理に

毒を使っちゃ駄目よね。

それにしても大変な事になっちゃったね。

私がいながら、こんな事件が起こるなんて

不甲斐ない。警備員失格よね……」

アリサを降ろしながら話す真理。

 

「まりちゃんのせいじゃないよ。

全部犯人が悪いの、気にする事無いよ」

 

「……優しさは時に人を苦しめる事になるの。

だって私、今の言葉で胸が痛くなったもん。

でもここ、食中毒の次は毒物混入でしょ? 

このホテルも終わりかもね。ふー」

真理は、溜息交じりに天井を見上げ

物思いにふけようとする。

 

「ひゃ!?」

 

 ところが、エレベーターの天井にある筈のない

マジックで塗り潰された

芸術的な真円の黒い物質を見て

ぎょっとして思考が停止する。

 

「な、なにかしら? ……でもこれ……美しい……」

まるで運命の人に出会い、ときめく乙女の様に

うっとりする真理。

やれやれ……また一人その芸術に

虜になってしまった者が増えた様だ

アリサは絵画の才能があるかもしれないな。

だが、アリサはその質問に一切答えず。

 

「でも、ママはこのホテルは美味しいって

評判なんだって言っていたんだよ? 

どういう事なのかな?」

 

「あーそれね。それは多分、食中毒の件は

テレビでは放送されなかったし

浅利新聞のみの記事でしょ? すぐ忘れられたのよ。

で、上が責任者を切った事を

盛大にPRして、信頼回復に努めたのよ。

オーナーは意外としっかりしているのよ」

 

あんな男にも一応経営戦略がある様だ。

 

「ふーん、あんな恐ろしい顔なのにねえ」

 

「顔は関係ないわよ。それで、次第に

お客さんは戻ってきて美味しいと

評判にもなったんだけど。

今度は警察も入ってきちゃったし

報道は免れないかなあ。まあ私は

7月末でクビになるから別に被害はないけどね」

嬉しさと悲しさが同居する表情。

 

「そうね、ところでまりちゃん。

再就職先どうするの?」

 

「うーん、実家が農家だから

そこの跡取りになるのかな? 嫌だけれどね

もう24だし、結婚の話も来そうで怖いけどね」

 

「そうだねー名前、並び替えて見回りだから

まりちゃんは農家でも害虫が居ないかどうかを

見回るんだろうね」

 

「そうね。名前で人生の全てが決められるのは

癪に障るけど、それ以外の仕事はしないかもね。

あ、そういえば稲作だけじゃなくてビニルハウスや

酪農もやってるって言ってたわよ。

何か急に色々手を出し始めたのよね。で

忙しいから手伝えって最近も何度も誘われたし

 でも農作業やってると虫って出て来るでしょ?

私、虫は余り好きじゃないのよ。

あーあ、警備員もっとやっていたかったなぁ

そうだ、連絡先交換しない?

アリサちゃんって、私の勘だと

凄く頭が良さそうに思えたのよね。

何かあったら相談したいの。

それに農家の人手も足りないから

誰か良い人いたらここに電話して紹介して欲しいわ。

給料は頑張って一杯出すからって言っていたし」

真理は、自分の携帯番号と、実家の電話番号を登録する。

目の病気の事を推理したアリサに

すっかり信頼を置いている様だ。

 

「いいよ。誰かいれば電話するね。

お米作る人いなくなったらアリサも困るし」

アリサも真理の事は嫌いではなかったので快諾。

連絡先を交換し終えると、エレベーターが

真理の目的地の40階に止まる。

植物園に用事があるのだろうか?

 

「アリサちゃんはお米好きそうだもんね。

じゃあここで降りるわ

何かあったら連絡するね、バイバイ」

 

「うん、じゃあね」

 

そして、5階へと目指す。

ピキーン

 

またも15階付近でなにやら気配を感じた。

 

「ん? またなんか感じるなあ

でも今は暗号を優先しないと……

回収されて捨てられるかもしれないから

後でね!」

 

そして、5階まで到着。

トイレは降りてすぐにあった。

エレベーターから駆け足で降りる。

すると……

スッテンコロリーン。

 

「いてっ」

 

アリサは転んで膝を擦り剥いてしまった。

すぐに起き上がり、辺りを見回す。

 

「痛たたっ、ふぅーよかった、誰もいなくて」

 やはり女の子だし、転んでいる様子を

誰かに見られるのは嫌なのであろう。

右膝からうっすらと血がにじみ出てくる。

右足をひょこひょこ引きずりながらトイレに到着。

入り口にゴミ箱がある

漁ってみる……ゴソゴソ

 

「あったわ。美少女の血と引き換えに

目的の物は取れた。いてて」 

挿絵(By みてみん)

 

「相変わらず訳が分からない暗号だなー。

よーし一応撮影しとこっと」

パシャ 暗号を撮影する。

 

「よし54階に戻ろう。あっそうだ!」

出ようとする前に、何かを察知した様だ。

 

「このゴミ箱の下は?」

そう言ってゴミ箱をどかしてみると。

 

     £デロデロリーン£

 

 いやらしい笑顔の隠れユッキーが出てきた。

そう、女子トイレにである。

男はここのユッキーは

どう足掻いても撮影できない。

まあ入り口にあるごみ箱なのでトイレに入らず

どかして撮影すれば可能かもしれない……

だが、手は女子トイレに一瞬入った事になる。

それを指摘されれば死刑は免れない。

あまりにもリスクが大きすぎる。

代替案として女装したり彼女がいる人なら

その人にお願いすれば可能だが

男全員に彼女が居るとは限らない。

それに女装するにも金が掛かる。

仮に女装して撮影中にそれがばれて

通報されたら、その時点で人生終了である。

割り引く為に集めている物に

金を払わされたり人生を賭けたり

寿命まで支払わないといけないなんて

割に合わない。

斉藤隆之はこういう事に頭が回らない男なのである。

そして、当然どこかの階の男子トイレにも

隠れユッキーは存在する。だが

コンプリートさせるつもりが無いと言う訳でなく

単純に隆之の頭が絶望的に悪いだけで

悪気がないのである。

 

「うえー相変わらずホラーだなあ。

何でこんなゴミを苦労して

探し回らなきゃいけないの?

こんなのが女子トイレにいたら

見られてる様で気持ち悪い……

一刻も早く消さないと。

……しかも、よく見ると今回は絵だわ。

こんな写真みたいな絵を描ける人まで雇っているのか

あの巻き○そめ……許せない!」

 

 隠れユッキーは、リアルな写真が多かったが

今回は何故か床の上に書かれた精巧な絵であった。

これを書いた人物は、女子トイレであるから

恐らくは女性。床に直に書かれているので

ホテルの休業日や、皆寝静まった頃

一人でトイレの床に座りながら

蝋燭の明かりを頼りに隆之の写真を片手に

描いていた事になる。

人命を蝕むユッキーの大元の写真を見るだけでも

命は削れるのに物凄い胆力である。

 

 そして先程少し触れたが、何処かの男子トイレにも

同じくユッキーの絵は存在する。

その絵は、男性が書いた筈である。

その男も写真を見ながら描いているので

二名もの人間が、命を削りながら作業した事になる。

今は一体何をしているのであろう。

そのダメージが今になって蓄積され

既に帰らぬ人に……

そうならご冥福をお祈りする事にしよう。

 

「でもモデルが最悪ね。こんな物ただの

トイレの汚れよ……撮影してからの」

パシャリ 撮影を終え世直しタイム。

 

「よし! 化け物鼠退治の時間だぁ

待てよ? ここは塗り潰すよりも

掃除道具置き場があるし、洗剤もある。

これで落ちるかな?」

 

アリサは、掃除用具入れから

デッキブラシとバケツ、洗剤を出し蓋を開ける。

そして、大理石の床の上に描かれた

隠れユッキーに洗剤を撒き、デッキブラシで

ゴシゴシしてあげる。

意外な事に、ユッキーがうっすら消え始めている。

このユッキーの絵の具は

洗剤で落とせる成分なのであろう。

そもそも床にマジックを塗る作業は目立つ。

本来ならこの消去方法が適している。

 

「おお、今回はマジック君お休みだね。

よーし、ピカピカにしてやるぞォ」

既に半袖なのに、腕捲りする動作をし

気合を入れる、そしてデッキブラシを握り直す。

 

「ピカピカピカチュウ♪ ピカピカピカチュウ

光る頭は10万3ボルートー♪ ピカチュウ!」

ゴシゴシ ゴシゴシ

 

……全く、これは世直しであり

世界平和へ向けた聖戦ジハードであるというのに

それに身を投じた身でありながら

暢気にアリサのお気に入りアニメ

『ピカピカの中年男性』の主題歌

『ピカピカの頭頂部』の鼻歌などを歌いながら「汚れ」を

消してあげているではないか。

 

 このアニメは、中年男性の日常を作者本人が

サラリーマン時代の実体験から描いた

日常系のお話だが、主人公の中年男性のあだ名が

奇しくもピカチュウと呼ばれているのだ。

 

 頭がピカピカに輝く中年=ピカ中=ピカチュウ

と言う事だ。照代との会話時にも出てきた

アリサお気に入りのアニメだ。

本名は、育谷江大いくたにこうだい54歳。妻の来中きなか、娘の秘中ひなか

の三人家族で、東京の電力会社に勤め

つるぴかの頭に電気を蓄えて攻撃する技を使える。

そして、イラつく言動の上司を

電撃で制裁すると言うバトルも見物である。

番組後半に使用される必殺技名が

アリサの歌う歌詞にもあった10万3ボルトなのだ。

 この技を閃く時のエピソードが

個人的に好きなので語っていく。

 

 舞台は都内。深夜から明け方に掛け

猛威を振るった大型台風の影響で

長期に渡り停電が起こった。

 

 時期が夏の終わり頃であったが

残暑は厳しく追い打ちをかける様に停電に続き

断水まで起こる。

住民達は、飲料水も底をつき

風呂にも入れず、トイレもろくに流せぬまま

眠れぬ夜を過ごしていた。

 

 そして、復旧も本来想定していた日程より

かなり掛かり、遂に一週間が経過。

住民達も限界が近づいてきた……

 

 江大は、事の重大さに誰よりも早く気付き

救援物資の手配を独断で行った。

それを、後は配達業者に連絡する一歩手前で

30代前半の若い社長に気付かれてしまう。

彼は、頭の回転が速く、若い頃

モケポンマスターをやっていて

なんと! リーグ優勝経験がある。

それを一部始終語ると長くなるが

序盤を端折り

終盤をかい摘んで語る事にする。

 

私の書いている小説です

 

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https://estar.jp/novels/25602974

 

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