magisyaのブログ

小説となぞなぞを投稿してます

私の行く先々で事件が起こる件について 25,26話

私のそれにしても凄いなアリサは

私なら震えで歌どころではない。

アリサの様に歌い続ける事は到底出来ないであろう。

その鼻歌で従業員に気付かれてしまえば

隆之を崇拝する一部の従業員だったら

妨害され、最悪ホテル出入り禁止に

なってしまうというのに……歌うなんて……

心臓に悪い事は止めてほしいものである。

なのに彼女はそんな危険を全く物ともせずに

余裕の表情。一体何故なのだろうか?

 

 まあ長い戦いであるからこれ位の余裕がなければ

続かないのであろう。

それとも? この程度の事は彼女にとっては

昼食後のコーヒーブレイクとなんら変わらない

日常茶飯的な出来事なのであろうか?

この幼女、いずれは大物になる器なのかもしれない。

 

 アリサは、エレベータで1階を目指す。

ここで、一旦事件を整理してみる。

(しかし、あのおばさんなんで

毒を受けて生き返ったんだろう?

それに高音さんだっけ? あの人が言うには

あれだけ料理がある中で、一つの野菜にしか

毒が入っていなかったなんて・・しかも 

それを狙って取らせた? それにこの紙

何となくだけどおばさんを狙っているような

そうでないような……うーん、ありえないよね……

一体どういう事なのかしら……)

挿絵(By みてみん)

暗号の下にある文字。何故か二色に分かれている。

 

「この文字も、何でこんな色に……?

あ、まただ……」

 

 悩んでいるその時、15階付近で

アリサの思考を遮って例の反応があった。

一度目は遊戯室からプラネタリウムに行く時。

二度目は植物園から自室に戻る時。

三度目はビュッフェに向かう昇りのエレベーターの時

この時は踊りに夢中で通過してしまっていたので

気付けなかった。

四度目はビュッフェから女子トイレに向かう途中

五度目はその帰り道だったが、この時は

ユッキーを消した疲れでふらふらで気付けず。

そしてこれで六度目。

この瞬間疑いから確信へと変わった。

 

「ん? やっぱりだ。この辺りで反応がある

1階に行く前に、ここに潜む化け物退治だな」

15階でレーダーに従い進んでいくと

男子トイレの方向で反応が最大になる。

 

「まさか男子トイレにあるっていうの? 困ったなあ」 

 

 女子トイレ同様ゴミ箱の下に隠れている筈だが……

困り果てるアリサ……

 

すると? 何という偶然であろう。

眼鏡を掛けた線が細い男性のトイレ掃除員が

丁度トイレに入ろうとしているのだ。

 

「あのー」

 

「うん? なんだ? 

ここは男子用だよ女の子用は隣だよ」

 

「掃除するんでしょ?」

 

「そうだよ仕事だからね」

 

「これから私の言う事を信じてくれる?」

 

「え? 何? なんか怖いなあ」

 

「私は小学生占い師なんだけど

あなたの人生で正に今日一日だけ

ある事をすると超強運が訪れるの。

残念だけど、明日同じ事をやっても

何も起きない無いわ」

 

「え!? どんな事をすればいいの?」

 

「やり方は超簡単よ。眼鏡を外してから

ゴミ箱をどかした辺りを掃除すると

今日から一週間だけ

いい事が起き続けるという結果が出たの」

 

 この子は何を言っているの? と思ったあなた

これは、優しさなのだ。

眼鏡を掛けた状態でユッキーを見たら

鮮明に彼の脳裏に焼きついてしまう。

様々な負の効果がある遅効性の猛毒。

家に帰って風呂に入った辺りで牙を向けば

風呂で溺死と言う事もありえる。

だが、裸眼でぼやけた状態なら

軽微で済む。と、長い経験から判断したのだ。

裸眼の視界でうっすらとしたユッキーは

本当の床の汚れとして認識してくれる。

 

 そう、男子トイレに入れないアリサは

世直し行動を自身の手を汚さず

この掃除員にやらせようと言うのだ。

だが、一般人にこの悪魔を消させるのは心が痛む。

だからせめて被害を最小限に抑えつつ

消してほしいという考え。

優しい……優しいぞアリサよ……

 

 一瞬の内に、最適解を見つけてしまうアリサ。

頭の回転が更にレベルアップしている。

 

 しかし、アリサは嘘は突いていない

何故なら、この占いを信じる事で彼の命。

更には、これを発見した

可哀相な客達も守る事に繋がる。

これは、最高の幸運ではないであろうか?

 

「へえ♪ 僕、占い信じる人なんだよね。分かった」

 

 眼鏡を外し、ハンカチで包み胸ポケットに入れる。

何と素直な青年であろう。

そして、少しふらつきながらごみ箱をどかし

洗剤をまき、デッキブラシをかけ始める。

 

すると 

 

パシャリ

 

その一瞬の隙にユッキーを撮影する。

 

「よし」

 

「あれ? なんかカメラのシャッター音が聞こえた?」

 

「気のせいだよ」

 

「ふーん、まあいいやよいしょっと」

デッキブラシを握り、こすり始める。

 

すると?

 

「♪ピカピカピカチュウ♪ ♪ピカピカピカチュウ

かみなりのいしでさいしゅうしんーかー? 

ピカチュウ?♪」

アリサが歌い始めた。

 

「お? ピカチュウの歌じゃん。君、上手いねー。

てかその歌詞二番じゃん♪マニアックだねー

CD買ったのかい?

よーし元気出てきたしピッカピカにしちゃうぞー」

嬉しそうにアリサの歌を聞くお兄さん。

アリサは更にお兄さんに

汚れを集中して見せない様に

得意の歌で自分に注目させる。そうする事で

更に男性への被害を和らげる事が出来る。

中々上手い事を考える。

そして パシャリ

 

 ? アリサは再び何かを撮影する。

今度は何を撮影したのだ?

そして何やら携帯で作業を開始する。

 

「あれ? また聞こえた? まあいっか」

 

♪ゴシゴシ ゴシゴシ♪

表面がうっすらと消え、頭蓋骨が姿を現す。

もう一息である。この時点でユッキーとしての

価値は薄れ、掃除係の命は完全に保障された。

このユッキーも内部に頭蓋骨が書いてあるな。

同じ作者なのだろうか? それとも

同じセンスを持ち合わせた別人なのだろうか?

謎は深まるばかりである。

しかし、この構図。傍から見たらどう映るのだろう?

幼女が、男子トイレの入り口で

掃除係の男に向けて歌を歌っている姿。

 

 妹が兄が仕事しているホテルに遊びに来て

彼の仕事ぶりを見学に来て

掃除している兄に、歌で応援している図?

 

 それとも仕事中で動けない事をいいことに

掃除員に無理やり有料の歌を聞かせて

料金徴収を目論む小さい吟遊詩人の少女の図?

 

 色々考える事は出来るが、このシチュエーションで

まさか床のユッキーを消させている図と

答えられる人は一人もいないであろうな。

 

 何? 雷の石で最終進化だと? 

まさにポケ○ンじゃないかだと? ちっ違うのだ! 

歌詞を良く見てほしい! そうなのだ平仮名なのだ。

そして、疑問符が付いている事にも注目して頂きたい

漢字にすると神 成野 石出 犀 就寝か? 

ピカチュウ? と変換出来る。

これは彼が言った通り、ピカピカの中年男性の主題歌

ピカピカの頭頂部の2番の歌詞だ。

 

 そのストーリーにも、神様が登場する。

その神様の名前が、成野なりの様と石出いしで様というのだ。

彼らがさいは就寝か? 

と疑問を抱いている状況を歌詞にしている。

要するに2柱の神が、サイはねむりについたの? 

と主人公のピカチュウに聞いている

最高に盛り上がるシーンを歌にしただけである。

物語の重要なシーンに、そういうシーンがあるのだ。

 

ここをあまり詳しく語るとネタバレになってしまい

これから見る人にとって迷惑になる為

これ以上の語りは控えようと思うが

勘違いしないでほしいものである。

 

間違っても

 

ピカチュウよけろ!!』 

 

と言われれば

スピードスタアーなどの必中技でも

難無く回避してしまう

黄色いネズミではないという事を釘を刺しておく。

 

「よし、もう眼鏡を掛けてもいいよ」

 

「そうなのかい? 視界がぼやけて

ちょっと気分悪かったんだよね。

じゃあお言葉に甘えて」

眼鏡を掛け視界が鮮明になり

髑髏状態のユッキーを目の当たりにする。

 

「うわっ髑髏!」

 

「大丈夫。それにはもう殺傷能力は皆無に等しい」

 

「てかこれもしかして隠れユッキーじゃない?」

 

「そうよ、流石に従業員にはバレちゃうかー」

 

「見えない様に僕に眼鏡を外させて

ユッキーを掃除させたのか。何でこんな酷い事を?

これはオーナーが怒るぞ、報告しないと」

 

「これ見て」

そう言うと、ユッキーを嬉しそうに消している

係員の写真を見せる。

 

「あー!!」

口をあんぐり開けて驚く男。アリサの鼻歌の巧さに

つい微笑んでいる所を狙って撮影したのだが

初見でこの写真を見た人の殆どは

まるで男が嬉しそうに自らの意思で

ユッキーを消している様にしか見えない。

僅かな表情の変化を見逃さずに

最高のタイミングで撮影を行ったアリサ。

正に一瞬の表情の変化。その若い反射神経がなければ

例え一流のカメラマンですら見逃してしまうであろう。

 

しかも、それだけではない。

画像編集アプリで彼が外していた筈の眼鏡も

掛けている様に加工した写真。

これで目が見えないからと言う言い訳も通用しない。

アリサよ、一瞬の内にここまで張り巡らせたのか?

何と言う……これで

 

「これ実は、入り口に居た幼女の歌が上手くて

つい笑ってしまったんです」

 

と言っても通用しないであろう……

本当に恐ろしい幼女である。

 

「フッ、これで共犯よ」

 

「汚い幼女がいたもんだ。そしてありえない位小さい」

 

「やっている事はただの床掃除。貴方の仕事でしょ?

私はただ掃除する場所を指定しただけよ。

トイレにこんなゴミはいらない。後、小さいは余計よ?」

 

「ゴミか、まああながち間違ってはいないかもな

よく思い出してみたらあれを見るたび視力が落ちて行って

先月まで両方2,0だったのに今は0,003だもんな」

そうこういっている内に

もう後戻りは出来ないと察した男は

やけくそでブラシの速度を速める。

頭蓋骨も消え去り、綺麗な大理石の床が顔を出す。

このトイレの平和も守られた。

 

「お兄さんありがとう。貴方も私の仲間よ。じゃあね!」

 

「ああ……」

 

 晴れやかな気分でエレベーターに乗る。

しかしアリサよ。

目的の為とは言え、犯行現場を撮影し

お兄さんを揺すると言う悪い事をしてしまった。

正義の為とは言え危険である。

お兄さんが優しい人だったから良かったものの

逆上して携帯を取り上げる事など容易なのだから。

こんな行為はもうやらないでほしいものであるな。

1階に着くと、エレベータ乗り場付近に

地図があったので、それを見て売店の場所を確認する。

 

「成程、ここをこういってこうね。

へえ、10階は遊戯室で、20階にプラネタリウム

30階に室内運動場で、40階には植物園

50階には展示室? ……か

一体何を展示しているんだろう?

行ってみればわかるわね。

そして屋上にプールか。20と40階は行ったからー

30階50階と回ってからプールに行ってみようかな?

よーし買い物の後に行こう!」

 

おや? 確かアリサは事件の事を調べていた筈だが

いつの間にかホテルの全施設を周ろうとしている。

まあ警察の方々が何とかしてくれると

思っているのだろう。

優秀な警察の方々である。プロに任せておいて

彼女にしかできないユッキー消去を

本能的に優先したのかもしれない。

 

「……ちょっとまてよ?」 

 

地図の裏を見てみる。ここにもユッキーはいた。

 

「やはりあったか。こんな所に隠れているなんて

全くゴキブリみたいな奴ね!」

言いつつ撮影、そして塗り潰す。

 

「フン、このゴミめ。今まで

その醜い姿を地球上にさらしていた罪を償え。

はあ、どんどんこのホテルは良くなって行くわ。

私の手によって!

完璧にしてやるからな待ってろよ?」

胸を張るアリサ。

 

そして売店を目指す。大理石の廊下を1分位歩く

すると、一人の少女がしゃがんで泣いていた。

年はアリサと同じ位だが

身長は140位でアリサより大きい。

 

「無視して通り過ぎようかしら? いや

刑事になるんだろアリサ、いくんだアリサ!」

バチンバチン

アリサは人見知りではないのだが

田舎娘のアリサが、都会の少女と話が合うのかと言う

不安から敬遠していたが、両手でほっぺたを叩き

自分を鼓舞する。

 

「どうしたの? 泣いているけど、失恋でもしたの?」

 

「くすん、違う、パパとはぐれちゃったの」

涙を手で拭いながらアリサに伝える少女。

 

「部屋は何階なの? そこで待っていたらどうだ?」

 

「これからチェックインするの。

パパに黙ってトイレに行った後はぐれて……

どこを探してもいなくて

外に探しに行っちゃったのかもしれない……」

 

「携帯は?」

 

「パパに明日買って貰う予定だったの。

だからまだ持っていないわ」

 

「そうか、ちょっとアリサは買い物に行きたいんだ

それが終わったら一緒に探してやってもいいんだが

買い物終わるまで待っててくれる?」

 

「うん、アリサちゃんって言うの? 

私はあづま 京都けいと

小学4年生よ。ケイトって呼んで

漢字では、東京都って書くのよ。

一人は嫌なの、ケイトも付いて行っていい?」

 

「なんだ後輩じゃない、私は小5よ。

へえー、名前漢字で東京都って書くのか凄いねー。

うーん、まあ荷物持ち位にはなるだろうし、別にいいよ」

 

「へえ小さいけどお姉さんなんだ。

でもケイト、黒板消しより重い物持った事ないの。

それでもいい?」

 

 彼女を良く見ると、流石都会の小学生というだけあり

おしゃれな服装だ。そして、将来はアイドルや

女優になれる位に美しい女の子である。

髪は薄紫で、肩くらいまで伸ばし

筋の通った鼻に大きい瞳。

そして、化粧などしていない筈だが、薄桃色の唇。

どこにでもいる小学生とは一線を画している。

天界の庭園で、天使達に囲まれ、その中央で

巨大なハープを奏でて歌っている美しき女神

と見間違える程なのだ。

私が後10年若ければ、プロポーズしているであろう。

いや、欲を言うなら同じ地域で育ち、幼馴染になり

同じ学校へ一緒に行き次第に惹かれあい

同じ中学、高校、大学と進み

大学卒業と同時に結婚したい

と思える程に美しい子なのである。

 

 それに引き換えアリサは、全体に

イチゴがプリントされているワンピースに

イチゴのサンダルと苺で統一された服装。

結構浮いている事にその時気づく。

一応都会の商店街で買った物だが

選んだママのセンスが酷かったのかもしれない。

急に意気揚々とイチゴの服を選択した自分が

恥ずかしくなってしまった。

そして、こんな子に力仕事は頼めないと納得する。

 

「えっなんだ、アリサと同じか

でもケイトちゃん? 小さいは余計よ。

小さいと心で思っていても

大人ならグッと堪えなくちゃ駄目よ

私が今まで会った大人の殆どは言ったわ

中には一人で5回も言う猛者もいた

そんな酷い最低の大人になっちゃうわよ?

仕方ない、まあ一緒に行こうか」

アリサも自慢ではないが、腕立てを1回も出来ない。

 

「うん、ありがと」

仲良く手を繋いで歩く二人。身長差のせいで

ケイトの方が周りから見たらお姉さんと

思われてしまうだろう。

 

暫く歩くとそこに売店はあった。

何と言うか、普通の売店と言うよりかは

黒魔術の店といった雰囲気なのだ。

店に入る前から何か黒いオーラが

ユラユラと湧き出ている。

アリサは店に入ろうとはせず

そこを過ぎた通路の突き当たりまで歩く。

またもアリサレーダーが動いたのであろう。

一応見てみると……あった。隠れユッキーが

堂々と行き止まりの壁で微笑んでいる。

高さも、アリサの手に届く位置。

こんなユッキーはまな板の上の鯉……

 

ピカーン

撮去さっきょ黒封円の陣!!」

パシャキュキュキュキュ×1000

お? アリサが何かを閃いたようだ!

説明しよう!!

撮去黒封円の陣とは!!

 

何度も何度も黒い真円に作っている内に

熟練度が上昇。必殺技へと昇華した

もはや神の領域までに達した塗り潰しの早業

素人が見たら

一体何をしているかはもう分からない。

アリサは、ケイトの目にユッキーが届く前に

見事な黒き真円に塗り潰していた。

因みにピカーンというのは、技を閃いた時の音。

そして、撮去と言うのは、撮影&消去の意味

合わせ、黒封円の陣とは

黒い円に閉じ込めると言った意味を込めた

アリサの新必殺技である。

 

アリサもどちらかと言うと鑑識の虎音同様

少年誌を見て育ち、自分の必殺技を

いつかは出来る様になりたいと思っていたのだ。

その夢がこんな形で実現出来ようとは……

しかも、私の愛するケイトを守る瞬間に閃いたのだ!

中々粋なヒロインであるな。

しかし、ケイトはそれを見て思わず

 

「ねえ、何しているの? アリサちゃん」

と聞く。

自分の為に新技を閃いたとは夢にも思わぬケイト

 

「え? 世直しだけど?」

当然の様に返す。

 

「壁を黒くする事が世直しなの?」

尤もな言葉。だが彼女はまだ若い。知らなさすぎるのだ。

数多存在する、天使の様な悪魔の笑顔。

この世に蔓延はびこる悪の意識の数々を……

 

純粋故にユッキーと言う存在を知らないまま

このホテルに来てしまった。

小さい子にユッキーと言う存在は非常に強烈である。

このマジックの向こうに存在する悪魔を

アリサは一瞬たりともケイトに見せてはいけない。

そう、彼女を守らなくてはいけない。

頼んだぞ……アリサよ……

 

「ケイトも大人の女になったら分かるわ。

漆黒の円に閉じ込めとかなきゃいけない

奴らの事を……ね♪」

多分分からないであろう。

 

「へえ。大人の女になるのは大変なのね……

あれれれー? おかしいなあ?」

自分より遥かに小さい少女に

大人の女の事を教えられ、釈然としないケイト。

 

「寄り道ごめん、じゃあ店に入ろうか?」

 

「かまわぬよ」

!?

 

「ケイトちゃん……その言葉遣い?

まさか……! 成野様と石出様?」

 

「あっ、違うのよ。昨日見たテレビ番組の

お金持ちのおじさんの

喋り方が伝染っちゃったみたい」

 

「な、なんだ、びっくりしたぁ」

 

その店の独特な雰囲気に興味が湧き

中に入ってみる。

 

 ♪ゴシゴシ ゴシゴシ♪

 

 洗剤の泡が、徐々に黒くなって行き、それに伴い

おぞましいユッキーの顔がドンドン薄れていく。

ユッキーの表皮が完全に消え

内部の頭蓋骨が姿を現した。もう一息である。

 

 何? 普通顔を書く時に

頭蓋骨からは書かないだろうであるだと?

まあ一般的にはそうであろう。

ただ、このユッキーの作者は

頭蓋骨を描き、生命を吹き込んだ後

乾いてから皮膚を描き

表情を付け足していくといった

写実主義スタイルなのであろう。

 

 某四コマ漫画の作家の越後矢サイバン氏も

楽屋裏で、人物のどこから書きますか? 

との読者の質問にこっそりと

 

『骨です』

 

と教えてくれたのだ。

なんと……これは凄い秘密を暴露したものである。

 

一流は決して口外しない秘中の秘を

吐露してしまった訳だ。他の絵師から

ブーイングが来る程の秘密を事も無げにな……

実際やってみればわかるが、骨のあるなしで

絵の深みが全く違う事に気付く。

 

当然一流なら誰しもやっている事だが

一般人や駆け出しの絵描きは、人物を書く時

骨などは2次元のキャラにはないという先入観から

当然皮膚から書くだろう。

だが、先に骨を書かない絵なんて

フニャフニャのナンパ野郎が書く絵である。

皆さんも一流の絵師を目指すなら

手抜きをせず骨から書く事から始めてみると

とんでもない速さで上達するかもしれぬな。

体の基礎となっている骨。侮るなかれである。

慣れてきたら

表情筋を書いてから表皮に移るといいだろう。

 

 このユッキーの絵師も

暇と、更に細かい物を描く技術があるならば

骨だけとは言わず、細胞の一粒一粒を細かく描き

顕微鏡で拡大した時その細胞の核や

ミトコンドリアや液胞なんかも

再現しているに違いない。

飽くなき探求心を持っていれば

大抵の絵師はこの境地に辿り着く筈。

世界は広いのだ。金にならない拘りを持つ

プロもいる事を覚えておいて欲しい。

確かに漫画などの連載で登場するキャラクター全てに

そういった手間は掛けられそうにはないであろうが

このユッキーは単品物。

しっかり顔の基本の頭蓋骨から書く事も

選択肢の一つに入るのではないだろうか?

日本人の技術をこんな化け物の顔を描く事に使うのは

少々悔やまれるが

プロなのだからどんな物にも手は抜かない。

そういう事なのであろう。

ただこのプロも被写体を選び抜く眼は無かった様だ。

私がこの技術を持っていても

斉藤隆之の顔を描く仕事は確実に断るであろう。

 

♪ゴシゴシ ゴシゴシ♪ 

 

響き渡るブラシ音とアリサの鼻歌。

 

 10分程経過しただろうか?

そして、少女は額を腕で拭う。

デッキブラシを掃除道具置き場に戻し世直し完了。

ツルツルの白い大理石が嬉しそうに輝いている。まあ

この行為はユッキーにしてみれば一方的な殺戮である。

そして、その姿は傍から見れば、ただの

トイレを掃除している健気な幼女そのものである。

彼女の活躍で、ユッキーは完全に消失。

ホースで黒い水を排水溝に流し任務完了。

このトイレの平和も守られたのだ。

 

 だがアリサよ、大分毒が蓄積されていないか?

幾つものユッキーを立て続けに見て来ている筈だぞ?

遊戯室で1つ、プラネタリウムで1つ、植物園で2つ

これは植物園で回復させたから良いとしても

更にビュッフェ会場で2つ、エレベーターの天井

そしてこのトイレ。既にまた4つ見ている筈。

そろそろ植物園に戻って

回復させた方が良いのではないだろうか?

(ふぅ、終わったか。くっなんかフラフラするかも。

さて、良い事をした後は推理タイムだな)

 

 54階に戻るアリサ。

ところが、会場入り口に、黄色いkeep outの

テープが張られていた。人の気配も少ない。

入り口付近にいた、真理と同じ制服を着たおじさんが

声をかけてきた。恐らく警備員だろう。

 

「そこの幼子おさなごよ、会場はたった今閉鎖する事となったよ

部屋に帰りなさい」

 

「幼子じゃないもん。小5だもん。大人だもん!!」

こいつも言ったか……どいつもこいつもと思いつつ

半ば諦め気味での反論。

 

「え? こっ、この身長で? そ、そうだった

そうだよね? あれ? お嬢ちゃんは大人だったな

悪かったよ……ム、ムグウ」

グイッグイッ

目を白黒させ、驚きで心臓と目玉が

顔から飛び出しそうになるのを

両手で必死に抑えるおじさん。

アリサに動揺しているのを気付かれる訳にはいかない。

それは、彼女を傷つける事になるのだから・・

 

 アリサは、小さいとか幼いと言われるのが嫌だった。

身長は120、背の順ではいつも先頭、前へ習えは憧れ。

いっつも腰に手を当てて先頭をキープしている。

 

「女の子は小さい方が可愛くていいのよ」

 

ママはそう言うが、それは

本人が高校の頃に175と長身で

男子からは余りモテなかったらしい。

だが、女子生徒にはモテモテだったとか。

そのお陰でその高校の男子は

ママに女子生徒を全部取られ

彼女は誰も居なかった程

 

それを鬱陶しいとすら思っていた彼女にとっては

アリサが小さい子に生まれてくれて

本心からよかったと考えているのだが……

 

アリサに言わせれば

会う人会う人に小さいと言われ

 

「小さいは余計よ!」 

 

が口癖になる程言われてきた。

彼女が大きくならない限り

これからもそれは言われ続けるであろう。

小学校でも、授業参観の日に

 

「あれがママだよ」

と大柄の女性を指差し言ったら親友に

 

「あんまり似てないね」

 

と言われた事は今でも覚えている。

 

アリサも両親と同じ刑事になるのが夢。

その第一歩となる警察官の採用試験では

一般教養だけでなく身長制限があり

女子は150以下は試験すら受けられない事もある。

更に年齢制限がある為、後30センチを何としても

期限までに伸ばしたいと考えているのだが……

20才を超えたら伸びは止まる。

だから伸ばすのは若い今しかないのだ。

きっと小6になれば成長期が来て、ママを超える程

大きくなると言い聞かせている。

思い込みの力だ。

 

「痛っ? なんか痛いなあ。あっあれだ」

アリサは、スカートの内側で先程の傷が

れていたのに気づき、膝を出した。

すると、おじさんもアリサの怪我に気付く。

 

「おや? お嬢ちゃん、足怪我しているのか。

これ、使いなさい」

 

おじさんは、胸ポケットから絆創膏を取り出す。

普通の絆創膏だが、真ん中に何か絵が書いてある。

 

「おじいさんありがとう。気が利くじゃない

あれれー? この絆創膏何処かで見た事あるなあ。

げげっ」

 

よく見ると、あのオーナーの笑顔が

絆創膏の真ん中にプリントされている。

このホテル専用の絆創膏だろうか?

なんとも傷の治りにくそうな絆創膏である。

しかし、あの男の見境なく自分の顔を

備品や消耗品に付着させる癖は

何とかならないのであろうか?

そして、そんな汚らしい顔が書いてある絆創膏を

あろう事か心臓付近の胸ポケットに

入れている命知らずの警備員。

 

「お……おじい? そうか、さっきの幼子発言の

復讐なんだな? まだ48だと言うのに

おじいさん扱いか……口は災いの元だな。

以後気をつけねばな……

ところで、これを見た事あるのかい? 

これ、うちのホテル専用の絆創膏なんだ。

他には無いすっげえ秘密があるんだぜぇ!

ほら、このホテルのオーナーの顔の入ったロゴォ! 

すげえかっこいいだろぉ?」

 

「え?」

 

 奇妙な事を言う警備員。

それを聞き、唖然とするアリサ。

しかも、絆創膏の話になったとたん

何故かハイテンションである。

まるで子猫が親猫に、初めてネズミを捕まえて

得意げに見せている時の様な

キラキラした瞳でアリサを見ているのである。

これは……まさか? ……アリサの

 

「まあかっこいい絆創膏♡

この絆創膏になら抱かれてもいいわ」

 

と言う、決して彼女の口からは

未来永劫みらいえいごう万劫末代ばんごうまつだいに出て来る筈のない

リアクションを待っているのだ。

 

 どうやらこの男、オーナーの絆創膏を

心臓付近に近づけた影響で

感情が、思考回路が、脳みそが

おかしくなってしまっている可能性が高い。

 

 このホテルの従業員は、この警備員の様に

斉藤隆之を盲信している者と

植物園の係のお姉さんの様にそうでない者

真理の様に、半信半疑の者と

3種類の派閥がある様だ。

一刻も早く真実に気づき、全員が

否定派に転じてほしいものである。

 

 アリサはこの時、自室の皿や、ワイングラスにも

同じ絵柄のプリントがされていた事を思い出す。

当然それらには多少なりとお金がかかっている。

確かに隆之の金であろうが、こんな意味の無い

使い方が許されるのであろうか?

人々を苦しめる効果を含んでいる呪いの写真。

 

まあ自分大好きと言う心を貫き通す男が金を得たら

こうなってしまうのかもしれない。

一本筋が通っていると言えばそうなのだが

私には間違った使い方としか思えない。

 

(食器だけでなく、こんな物にまで

プリントすると言うのかあのじじい)

 

 アリサはそう思いながら

直接貼るからあまり効果は無いけれど

マジックで表面の汚すぎる顔を塗り潰した後に

嫌々膝に貼る。全く危険だぞ!

 

呪怨念 ζペタッζ 悪霊呪

 

「何か傷口がみる……余計悪くなりそう……」

 

 そして、そのプリントを信じられない事に

かっこいい等と言ってしまった。

可哀そうなこのおじいさんの目を

覚まさせなくてはいけない、と

アリサの正義を愛する心が発動し

頭脳が急速に回転を始める。 

キュルルルルルルルン ルンルンルーン

 

---------------------------Fourth battle start----------------------------

Alisa VS yonjyuhachisainoojisan

 

「いいえ! そうでもないです! おじいさん

この顔をかっこいいと思うのなら

絶対に眼科に行った方がいいよ! 

後、精神科も忘れずにねっ! 

そうそう脳神経外科もだよ!! 

毎日の通院が全快の鍵だからね? 

きっと治るから諦めないで!」

 

 魔矢ミキの様な口調で

はっきりとおじいさんに伝える。

 

「また言った、2度も言われた。

親父にも言われた事無いのに……

分かったよ、アンチエイジングのお店にでも行って

若返る事にするよ」 

悲しそうに、昨日戦死ガンバレの

アムあむくちレイの名台詞を呟く。

 

--------------------------------End of Battle--------------------------------

Alisa win 2経験値獲得! 0G獲得!

 

 

「しっかし行ったり来たりだなー」

ぼやくアリサ。

しかし、毒が不特定多数の人が食べる物の中に

混入していたのだ。閉鎖も仕方の無い事だろう。

 

「仕方がない 部屋に戻ろうっと」

5階に向かう為、エレベータに乗ろうとした時。

先ほど飛び出していったまま持ってこなかった

竜牙刑事が声をかけてきた。

 

「おや? 54階は立ち入り禁止だよ

まだ毒が漂ってるかもしれないし危ないぞ?

早く部屋に戻りなさい」

 

「え? あ、今戻ってきたんだ

さっき怒って走って行った刑事さんでしょ?」

 

「ん? そうだ、ここの現場検証を忘れ

ホテルの外まで犯人を追いかけて行ったのだが

よく考えてみたら、犯人の姿も何も分らなかったんだ。

ガハハ。それで、今ここに戻ってきたんだ。

君はかなり小さいし危険だぞ

捜査の邪魔になるからさっさと帰りなさい」

 

「小さいは余け……( ゜д゜)ハッ! かっこいい」

 

       ♡<心> <奪>♡

 

おやおや? アリサの目がハートになっているぞ。

 

「え? 今の話の中にかっこいい要素って

あったのか? わからない、何なんだこの幼い子は」

 

 竜牙は、驚き戸惑っている。

彼は、ボディビルを学生時代からやっていて

男からはかっこいいとか、キレてるねとか

言われて慣れているが、こんな幼い女子に

かっこいいと言われたのは生まれて初めてなのだった。

 

「無鉄砲でも、犯人を許せずに

体が先に動いてしまう刑事さん好き、大好き♡!♡

後、幼いなんて言わないで♡?♡

アリサはもう心も体も大人なんだからね♡!♡」

 

 心はどうだかわからぬが

体は完全に幼稚園児なのであるが……

全くアリサはおませさんなのだな……

そう、アリサは、熱くて真っ直ぐな男が好きなのだ。

そういう意味で、松谷修造もドストライクなのだ。

 

「わ、わかったわかった。アリサちゃんというんだね?

お詫びにお小遣いあげるから

1階の売店でアイスでも買って

その熱くなったハートをクゥルダウンしなさい」

 

 さらっとキザな台詞を吐く竜牙。

異様にクールダウンの発音がよかった。

帰国子女なのだろうか?

そして、120円を受け取るアリサ。

 

「たったこれだけじゃ

私のハートに灯った炎を消す事は出来ないわ」

そう、たった1アイス程度では

アリサの燃え上がった炎は到底消えない。

 

「うむ、そうか? じゃあ仕方ない。

ぬう、給料日前なのに……」

追加でしぶしぶと120円を渡す竜牙。

 

「ありがとう。また、会えるよね? 刑事さん」

受け取った240円を

宝物の様に胸に抱きつつ言うアリサ。

 

「おう、気をつけて部屋に戻るんだぞ」

(可愛い子だなあ。後10年……

いや何を考えとるんだ俺は……)

 

「はいっ!!!!」

今日一番の、いや、アリサ生誕史上最大の切れのある

はいっ! が出た。余程嬉しかったのであろう。

ウキウキ気分でエレベーターに乗る。

 

売店が1階にあるんだ。

部屋に戻る前に行こうっと♪

都会のお店ってどんなの売っているのかしら?

刑事さんの240円使いたくないけど

一応見るだけ見てみようかな?」

竜牙との思い出のお金、本当に必要となった時しか

使わないと心に誓っている。

 

 

私の書いている小説です

 

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