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モラしま太郎 後編

「ねえママ? 途中まで聞いてて思ったけどこのお話、桃太郎と浦島太郎の2つのストーリーが混ざっているわ」

 

「そうかしら?」 

 

「え?」

 

「よーく思い出してみて? ほら! モケポンも混ざっているわよ」

 

「あーーーーそういえばーーーーーーカメエエエエエエエエエエックゥゥゥスゥ!!!!」

 

「ふふふwまだまだねアリサ」

 

「精進します……ママはすごいよ。洞察力が尋常じゃないわ……流石現役の刑事ね! じゃあ続き読んでー」

私は思うんです。尋常じゃないのは、アリサちゃんの語彙力の様な気がします。 この子は若干3歳だそうです。ですが、沢山の言葉を知っています。一体どんな学習をすればこんなに喋れる子供が育つのでしょうか?

 

「はいはい」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「皆さんしっかり掴ってくれカメー」

 

「うん!」

 

「青い海! 綺麗だワン」

 

「初めて泳いだ海の底。とっても気持ちがいいもんキー」

 

「水がいっぱい! 不思議な感覚だケーン。羽が濡れてしまうケーン

カメは竜宮城があると言われている海底に泳いでいきます。水深400メートルくらいでしょうか? 徐々に上がる水圧に耐えながら皆しっかりと亀の甲羅にしがみつきます。そして……

 

「竜宮城に着きましたカメ!」

大きなお城の前に一人と4匹は立ちます。もう水圧や空気も地上と変わりません。

 

「大きい城だね。私がこんな所に入っていいのかなあ」

 

「大丈夫です。あなたはおじいさんとおばあさんから救ってくれた恩人です。胸を張って下さいカメ」

 

「え?」

 

「私はずっと耐えてきました。そしてあなたに連れて行っていただいた事で、逃げる事が出来たカメ」

 

「そうだったのかい? 優しい方々だと思っていたのだが……」

 

「根は優しい筈です。ですが、皆ストレスで疲れているから誰かにぶつけないといけなかったのです。では中に入るカメ」

門に差し掛かると蛸の番兵が声をかけてきます。

 

「ん? あなたはまさか! 進化したみたいですけど面影はあります……おかえりタコ!!」

 

「覚えていてくれたのか? かつて私がここにいた時はまだ小さい小さいコバンガメだった。なのに最終進化のカメXの姿でも覚えてくれていたなんて……嬉しいカメ……」

 

「忘れませんよ。ささ、乙姫様👸も喜ぶでしょう! 早く顔を見せてあげて下さいタコ! お連れの方もどうぞタコ!!」

カメX一同は快く通されます。

 

「ただいま戻りましたカメ!」

 

「あらあら? 姿はカメXですが、その輝いた目、そしてその声、そしてその生臭さ……分かりますわ!! あなた、コバンガメでしょう? あんな小さかったのにこんなに成長して……お帰りなさい」

 

「はい! ただいまですカメ!」

 

「積もる話をしたいけれども、後ろの方々が気になりますわ」

 

「彼はモラしま太郎さんです。鬼を退治するため向かっていますが、兵糧が尽き、一旦ここを中継地点として使わせて頂く事になりましたカメ」

 

「あの鬼達を退治してくれるというのですか?」

 

「お任せ下さい! この心のモラルが燃え上がってます!」

 

「あら頼もしい! では前祝いで御馳走を作らせましょう」

 

「軽い物で結構です。戦の前ですから」

 

「そんな……結構良いマグロ🐟が手に入ったのですよ?」

 

「いえいえ、すぐに発ちますので」

 

「そうですか? お名前の通りモラルの塊のようなお方ですね……分かりました。料理長! 軽めの御馳走をお願いね」

 

「はい!」

 

「料理が出来るまでお話ししましょう?」

 

「はい」

 

「鬼はとても強いですよ? どうやって戦うつもりでしょう?」

 

「はい! カメXを盾にして、その後ろから攻撃します!」

 

「え……モラル……」

乙姫様が少し引いた顔になります。

 

「ハッ!!」 モラしま太郎はこの時気付いたのです。カメXを囮にして防御の低さをカバーするこの戦い方、これも戦術として割り切っていたけれど、考えてみれば結構卑怯な行為だ! と、言う事に……しかもこの竜宮城の住人のカメを利用してです。それをハッキリ盾にすると言ってしまいました。これには乙姫様も絶句してしまいます。かなり恥ずかしい事では無いでしょうか?

 

「し、しまった!」

 

「……」

うつむく乙姫様。

 

「お待たせしました!」

新たに生まれた悩みを解決する議論に移る前に、料理長直々にいくつかのお皿が運ばれてきました。 これは海藻のスープですね。

 

「さあ召し上がれ!」

 

「い、いただきます」

 

「いただきますワン」

 

「いただキーますキー」

 

「いただきますケーン

ズズッ

 

「う! 旨い! おばあさんの手料理よりも!? 力が湧いてきます! これならカメXを盾にしなくてもいける気がしてきました」

旨い料理はその人を元気にする効果があるのでしょうか? さっきまでの悩みまでもが吹っ飛んでしまったみたいですね。これで準備は万端ではないでしょうか?

 

「本当ですか?」 「はい! 乙姫様! 御馳走様! 私はこれで行きます」

 

「そうですか……ではこれを」

 

「何でしょうか? これは」

 

「玉手箱📦です」

 

「玉手箱……ですか? この私に? 料理までいただいた上にこんな綺麗な箱までよろしいのでしょうか?」

 

「はい。ですが、決して開けてはいけませんよ?」

 

「は、はい? 開けてはいけな……?(どういう事だろう? 何か怪しい……)」

 

「ルールなのです」

 

「そうですかルール……モラルと似ている美しい響きですね。そういう事ならば仕方ないですね」

似ていますかねえ?

 

「では、勝利した暁にはまた来て下さい!」

そういいつつもどこか寂しそうな顔をした乙姫様。

 

「ではあなたに一番に勝利を報告致します!」

 

「まあまあ……嬉しいわ! じゃあまた!」

 

「はい! では行こうカメX!」

 

「はい! では私の背にお乗り下さいカメ!」

 

「いくぞ! みんな!」

 

「ワン」

 

「キー」

 

ケーン

皆、気合十分です! 竜宮城を出ると、カメXは物凄いスピードで鬼ヶ島を目指します。

 

「うわ、早すぎる……うっぷ」

折角頂いた海藻スープが逆流しそうになり、慌てて口を抑えるモラしま太郎。頑張って下さい? あなたがワカメ1枚でも吐いた時点で、このお話のモラルは全て消え失せてしまいます!

 

「もうすぐ夜になります。今日中に片付けましょうカメ」

 

「そうだね。うっぷ……あっあれが鬼ヶ島!」

 

「上陸しますカメ」

 

「行くワン」

 

「気合い入れるキー」

 

「羽が濡れていて飛べないんだ……乾くまで待ってケーン

ズコー(T_T)

 

ああっ!? いい所で勢いが落ちてしまいました。ですがこれは仕方ありません……雉の羽が乾くまで暫く待ちましょう。

 

「岩がある。この陰で隠れて待とう」

 

「申しわケーン

雉も流れを止めてしまい反省しているようです。

 

「ん? くんくん……何か変な臭いがするオニ👹」

あっ! 偵察の鬼でしょうか? 岩場の傍のモラしま太郎達の臭いを感じ取ってしまったのでしょうか? 今見つかっては危険です! 雉が飛べなければこのチームは機能しません。

 

「にゃーん😸」

 

「なんだ、猫かオニ」

カメの機転により鬼は去っていきました。しかし、一つ疑問が湧いてきます。それは鬼ヶ島にも猫は居るのでしょうか? と言う事ですね。もし居るとすれば鬼が島に住む猫ですから……品種はさしずめャットと言ったところでしょうか? 分かりませんけれども……

 

「猫の鳴き声上手だね」

 

「いつも乗せて走り回っていましたからね。ずっと聞いている内に癖を掴んだカメw」

 

「そうなんだ」

 

「フッ……昔の話ですよ……」

 

「雉! そろそろ乾いたかい? 君の空中殺法は心強い」

 

「もう少しです。もう少しです……もう少しであの華麗なる空中殺法が出来るまでになります!」

 

「わかった! じゃあ暇だし乾くまで準備体操していようね」

 

「1,2,1,2」

 

「カメ、X、カメ、X」

 

「ワン、ワン、ワン、ワン」

 

「モン、キー、モン、キー」

皆入念にアキレス腱を伸ばしています。

 

「乾いてきました」

 

「よし、みんな準備はいいかい?」

 

「おう!」

そして、モラしま太郎は隠れていた岩場をよじ登り、刀を空に掲げつつ叫びます。

「我は桃から生まれたモラしま太郎也! 都の領主から奪った財宝を取り戻しに来た! いざ尋常に勝負せよ!」

 

「何故オニ?」

 

「え?」

え? 意外ですね。噂では乱暴者で通っていた鬼は、突然の侵入者に襲い掛かる訳でもなく優しく聞いてきます。

 

「何故桃から生まれたお前が都の領主の財宝を取り返す必要があるのかを聞いているんだオニ」

 

「そ、それは」

これは一本取られてしまいましたね……確かにオニからすればモラしま太郎に縁もゆかりもない都の領主の為に命を張って鬼ヶ島に来る理由は分かりません。一体どうするのでしょうか?

 

「理由がないなら帰るオニ。争う理由は無い筈オニ。俺は何も見なかった。文句はあるオニ?」

 

「モラル!!!」

 

「え?」

え?

 

「私はおじいさんからこのモラルと言う言葉の頭文字を名前に戴いた。この名前に誇りもある。都での話を聞いた時、心の底から怒りが湧いたんだ。だから自分のモラルに則る行為を! 自分に嘘を突きたくない行為をやるしかないのだ! 例え自分に直接関係あろうがなかろうが悪事は悪事。絶対に許す訳にはいかない! 覚悟しろ!」

モラしま太郎は真っ直ぐオニを見据え、魂の籠った言葉を放ちます。

 

「やるのかオニ?」

 

「もはや語る事など無い!」

刀を正面に構えます。

 

「いざ勝負!」

 

「勝負オニ!!」

ダダダダダ 

 

「人間よ、力の差を思い知るオニ」

ダダダダダ キィン

最大限に振りかぶり、全身全霊を込め振り下ろした刀と、オニの拳とが金属音を響かせぶつかり合います。鬼の皮膚は鋼の様に堅固なようです。傷一つも付いていません。

 

「うっ腕が……なんて力……でも」

 

「無理するなオニ。力の差は歴然だオニ」

 

「桃花流奥義……根九多流ネクタル斬」

ザザザン

 

「無駄オニ」

真剣白刃取りで返され、刀は遥か遠くに飛ばされてしまいます。そして大きく腕を振りかぶって殴りかかってきます。

 

ケーン

 

「ぐわあ」

何と! 雉の攻撃が鬼に効いています! 雉は鬼の眼球を足の鉤爪で引っ搔いたようです

 

「モラしま太郎さん! 早く刀を!」

 

「くそ! 皮膚は固いが眼球は人間並みだと言う事がばれてしまったオニ」

何と! オニは自分の弱点をうっかり滑らせてしまいましたね。とことんまで優しいんですね。それに、ゴーグル👓やサングラス🕶で弱点を守らない所にも鬼らしからぬ武士道精神を感じます。

 

「桃花流秘義……桃文字斬り!!!」

ザザザザザーン 刀を拾い、神速で飛び掛かり鬼の眼球に狙いをすました10連切りを放ちます。

 

「クッ早い……捌き切れないオニ……」

10回中7回がオニの眼球をかすめ、慌てて身の守りを固めます。

 

「そうはいかないキー」

しかしすかさずサルは、わキーの下をくすぐり、防御体制を崩します。

 

「このサルめがオニ!!」

ドカッ

 

「ウキー……バタッ」

 

「猿よ! 身を挺してよくやってくれた! 今しかない……桃花流究極秘奥義! 一桃……両! 断!!!!」

 

「ぐふっ」

オニは目を押さえて倒れました。

 

「勝利モラ!!」

ん? モラしま太郎がモラと言う語尾を急に使い始めましたよ? 感極まってしまったのでしょう。後で恥ずかしくなる感じでしょうが、若気の至りと言う事で見逃してあげて下さいね。

 

「しかし一匹倒すのにこれだけ苦労するのかワン?」

 

「さキーが思いやられるキー」

 

「でも負ケーン

 

「ああそうだね。だがMPモモポイントを大量消費する究極秘奥義は使うべきではなかった……」

 

「俺もだワン。いつの間にかMPが半分になっているワン」

 

「おいらもだキー」

え? 猿は確か鬼のわキーの下を擽っていただけですけど……

 

「弱点が分かれば通常攻撃でも行けると思うケーン。そうだ! キビダンゴ僕一羽では食べきれなくて羽の間に半分残しておいたんだケーン

 

「え? そうか! あの時沢山の蜂が来たのは君のキビダンゴの匂いに釣られて来たんだね? じゃあここで食べなよ」

 

「ですが、この隊の最高戦力であるモラしま太郎さんのMP回復こそが最重要だと思うケーン

雉の言う事にも一理あります。

 

「待ってくれ。私はキビダンゴ【1つ】で君と主従契約を締結したんだ。もし私が君のキビダンゴを半分食べてしまえば、1つで契約した他のお供達と差別になってしまう」

彼はどこまでもモラルの塊なのですね。

 

「いいんです。僕の空中殺法の消費MPはそれほど多くありません。その代わりにモラしま太郎さんの剣技よりも威力は劣りますケーン。ですから!」

 

「いや、雉は高病原性鳥インフルエンザウイルスを発症する危険性がある。君の食べかけは非常に危険だ。だから君自身で食べるんだ!」

ああ、優しさではなくこれが本音だったようですね……結構慎重派ですね。この過度な慎重さ加減……私の妹の事を思い出してしまいます……忌々しい……

 

「良く分からないけど分かったケーン

ついばみついばみ ごっくん 

雉のMPが999回復!  すごい! 半分でもこの効果です! 凄まじいですね。おばあさんのキビダンゴ! そう考えると序盤で犬やサルもすぐに食べてしまった事が悔やまれます。本当ならばここまで温存するべきでしたね。

 

「美味しいケーン!」

そうしている間に鬼の群れに囲まれてしまいます。

 

「怯むな! これをくらえー」

 

「うりゃーワン」

 

「サルキーック」

 

「急降下鬼ドリル嘴ぃぃいぃ!」

それぞれの通常攻撃で数々の鬼の眼球を攻撃します。かなりの精度を要求されますが、慣れれば意外といけるようです。雉はMPを回復したばかりでかっこいい空中殺法を多用しています。絶好調ですね。ですが調子に乗って一番に枯渇しなければよいですが……そして、彼らの通った跡には、目を押さえもがき苦しむ鬼達が転がっています。そして、島の中央の屋敷を目指します。

 

「ここが鬼の親玉の屋敷だな?」

一際大きな建物。しかし物怖じすることなく内部に進みます。

 

「頼もおおおおおお!」

屋敷内にモラしま太郎の声が響き渡ります。

 

「ん? 何だボスオニ?」

え? ボスオニ? 何ですかこれ? …………恐らくこれは語尾です! 語尾に【ボスオニ】と言うワードを付けている登場人物がいますね? わかりました! この声の主こそ、この島のボスの鬼です!! 「我は桃から生まれたモラしま太郎也! 鬼よ! この屋敷に運び込まれた都の領主様の財宝を返してもらう!」

 

「駄目だボスオニ」

言葉数は少ないけれど物凄い威圧感です。

 

「我のモラルに懸けて、必ず取り返す!」

 

「モラルとは何だ? そんなものの為に命を捨てに来たボスオニ?」

そう言いながら立ち上がります。

 

「うわ! なんて巨大な!!」

鬼は身の丈17メートルはあります! そしてボスオニから物凄い気力が漂っています。来ます!!! ブオン!!!!!! ボスオニは引き絞り放たれた矢の様なスピードで拳を振り下ろしてきます。

「うわああああ」

ドドドドン

 

紙一重かわしますが、風圧で壁に吹き飛ばされます。

 

「恐ろしい力だワン」

 

「こんな奴に勝てるのキー?」

 

「諦めないでケーン

お供の3匹は、恐怖のあまり動けず応援するのみです。

 

「こんな豆粒のような動物3匹とちっぽけな人間一人でオイラを倒そうだなんて馬鹿だボスオニ!!」

あれれ? このボスオニ意外とかわいい一人称でしたね。

 

「うう……」

ぽたぽた……ぽたぽた…… 

 

「んボスオニ?」

 

「み、見るな!!」

なんと! モラしま太郎はおしっこを漏らしています!! 巨大なボスオニの強烈な攻撃に尿道が緩んでしまったのでしょうか? そして悲しいお知らせが……この瞬間、このお話のモラルは崩壊しました……皮肉にも主人公の失態によりね……

 

「ガハハハハボスオニw お漏らしをしてしまったボスオニwwモラしま太郎のモラはモラルのモラではなくお漏らしのもらだったかもしれないボスオニィww」

歯に……いいえ。牙に衣着せぬ容赦ない暴言。流石ボスオニです。心もオニそのもの……

 

「……ハッ……そうだったのか……私は物心ついた頃からずっと疑問に思っていた。ちょっとした事で出てしまうこのおもらし……これをおじいさんは知っていて私にこの名前を付けたんだ。本当のこの名前の由来は、モラルのある人間と言う意味ではなく、漏らしたことをカムフラージュするために付けた名前だったのか……おじいさん……信じていたのに……酷い……酷い……」

おじいさんへ抱いていた微かな疑念が確信に変わった瞬間です。

 

「もう帰れボスオニ! そんな汚い衣装でオイラと戦うのはそれこそモラルに反するボスオニw」

 

「だ、黙れ! 知った風にモラルを軽々しく語るなぁ!」

そう言いつつなりふり構わず刀を振り回し突っ込みます。型もへったくれもあった物ではありません。そして当然……

 

「フンボスオニ!!」

鼻息一つで吹き飛ばされる始末……

 

うわあああ」

ドン!!

 

「モラしま太郎さん……もう諦めるワン」

 

「ク、クソ……犬よ! こんな所で諦めたくない……ここまで惨めな様を晒して逃げるなんて……」

再び立ち上がり走ります

 

「モラしま太郎さん……」

 

「はあ!!」

ボスオニは手刀で起こした真空派をモラしま太郎に飛ばします。

 

「うわあ」

コロンコロン 

あっ! 倒れた拍子にモラしま太郎の脇に抱えていた何かが落ちてしまいます。

 

「ん? なんだこれはボスオニ?」

それは乙姫様から貰った玉手箱でした。ボスオニはそれを興味津々で拾い上げます。

 

「しまった!!!」

そうです。アニメであれば一目瞭然ではありますが、これは小説です。なので今まで気付かれる方は少ないとは思いますが、彼は今まで片手をこれで封じられた状態で戦っていた訳です。それでは動きも鈍くなるというものです。 しかし、なぜ律義に持っていたのですかね? 本気の戦いにそんなハンデを背負うのは敵に失礼だと思うのです。もしかしてこれを置いて戦う事でモラルに反すると判断したから手に持って戦っていたのでしょうか? そこまでは分かりません。

 

「綺麗な箱だボスオニ……」

オニでも芸術が分かるのでしょうか? 一つの芸術作品を見る様なうっとりとした眼差して見つめています。

「止めてくれ! それを開けてはいけない!! 乙姫様が悲しまれる!!(くそ! 落としてしまったばかりに気付かれてしまった……)」

 

「開けてはいけないと言われると気になるボスオニィ

シュルシュル パッカ  太い指で器用に箱の封印を解きます。

 

「ああ、なんて事だ」

がっくりと肩を落とすモラしま太郎。しかし……!

 

「中身は……ん? 何もないボスオニ……!」

モクモク モクモク 箱の中は空っぽだったようです。しかし中から不思議な煙がボスオニの顔を包み始めます。 モクモク モクモック

 

「な、何が起こっているんだ?」

モラしま太郎も現状を理解できません。2分程経過したでしょうか? 煙が晴れてきました。そこに現れた物は……

 

「ヨボヨボヨボボスオニ……」

何とボスオニが、おじいさんボスオニに変わってしまいました!!!

 

「え? こ、これは一体? な、何で? 乙姫様? そ、そんなのモラルに反する行為ですよ……」

絶望するモラしま太郎。それもその筈です。帰ったらモラルに反しコッソリ絶対開けようと思っていたその箱の中身が、老化するガスを噴出する罠の仕掛けられた箱だと言う事を知ってしまったからですね。 これを知ったモラしま太郎は訳も分からず怒りが込み上げてきました。 本来その怒りは乙姫様に向けられる筈ですが、当人は居ません。近く居ると言えばヨボヨボのボスオニとお供しかその怒りをぶつけられる相手は居ないのです。お供に当たる訳にもいかないし……とはいえこんな老衰した敵に手をかけていいのか悪いのか? そんなジレンマを振り払い、刀を構えます。

 

ピコーン💡 そのやるせなさで悲しみの感情が最大に達したのがきっかけなのか? モラしま太郎は閃いてしまいました。彼の出せる中で最強の技を……神の領域に到達出来る可能性までをも秘めた神技……をッッ……!! 神獣さえも屈服させることすら可能な禁技を……放つ!!

 

「桃花流神技!! 李も桃も桃の打ち!!!!」

打打打打打!!!!  目にも止まらぬ連続攻撃。およそ1兆回は叩いているでしょう。何故そんな事が分かるのか? ですか……? 分かりました! お教えしましょう!! それは意外と簡単な事なのです。 思い出して下さい。漢字の桃と言う字を。その漢字から偏の木を抜いていただければ何か見えてきませんか? そうです! 数字の【兆】が出てきますよね? そういう事です!

 

「ヨボボヨボボスオニィ……」

バッターン。凄まじい連打を食らい、気絶してしまいました。

 

「最強の技を……神の技を……こんな老衰したオニに……モラルに……モラルに……」

いいえ。モラルに反してはいません。これもボスオニの強欲さが原因です。気にしてはいけません!

 

「モラしまさん……気を落とさずにカメ……」

いつの間にか屋敷に入っていたカメX

 

「やった! 流石ですキー! じゃあお宝を探すキー!!」

 

「探すケーン

 

「ここ掘れワンワン」

犬は地面を探そうとしていますが、流石に埋まっていないと思いますよ? 屋敷の奥が怪しいですね。

 

「あっこれが宝💎👑💰🥇か。かなりの量だ。でも全部運び出さなくちゃ」

当然どれが領主様の財宝かは分かりません。なので片っ端からカメXに乗せます。

 

「参ったヨボボスオニ。ワシも行くヨボボスオニ」

ボスオニは目を覚ましたようです。しっかし長い語尾ですね。セリフよりも長い語尾は珍しいのではないでしょうか? え? どうやらボスオニは仲間に入ってしまいました!

 

「どうするワン?」

 

「本キーか?」

 

「不安だケーン

 

「大丈夫。連れて行こう。では家に帰るぞ!」

どうやら竜宮城へは寄らないようですね。まあボスオニがやったとは言え、玉手箱を開けてしまった事がバレてしまうとお互いに気まずいでしょうから……しかし乙姫の目的は一体……

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「ただいま戻りました!」

 

「モラしま太郎? おお、よくぞ戻った! 無事であったようで何よりじゃ。では財宝は領主様の元に一緒に返しに行くぞ!」

 

「おじいさん。その前に一つ聞きたい事があります」

 

「(。´・ω・)ん? なんじゃ?」

 

「私のこの名前。本当は漏らし魔と言う不名誉な言葉とモラルとのダブルミーニングなのですか?」

 

「な、何故それを……?」

モラしま太郎は黙って後ろを指差します。

 

「うん? な、何と大きな鬼じゃ」

 

「この者と戦い、その最中、私の不手際で発覚しました!!」

涙を堪え、顔面を真っ赤にしつつ話すモラしま太郎……

 

「漏らして……しまったんじゃな? 我こそはモラルある男! モラしま太郎だ! と言う事を奴に伝えた後に」

 

「はい……」

 

「申し訳なかったヨボボスオニ……」

何故か泣いているボスオニ。

 

「すまぬ……モラしま太郎と名付けたのはワシの若気の至りじゃった……」

いいえ。若い時に命名してはいません。名付けた当時もしっかりおじいさんでしたよ?

 

「いえおじいさん。私の欠点がいけないのです。これからはどんなことがあっても漏らさないよう我が膀胱に、そして、尿道に言い聞かせます!」

「そうか……頑張れよ」

 

「なあ、人間のおじいさんよ……同じ年より同士、ゲートボールでもしようヨボボスオニ!」 

 

「ヨボこんで!(よろこんで)」

そして、鬼と人間は少しだけ仲良うなったそうな。めでたしめでたし

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「はいおしまい♪」 ママもかなりの文字の量の絵本を読んでくれました。お疲れさまでした! 乾いたのどを潤すために2リットルのコーヒー牛乳も空っぽになっていました。

 

「なかなか面白かったわ。88888888私はね、BBBBBBBBBBの所が良かった」

 

「そうね……でも自画自賛は叩かれるわよ?」

 

「え? 自画自賛? 私はこの絵本を褒めたんだよ? 確かに私が書いた物なら自画自賛だけど……変なママwwwwwww」

 

「あっそうか!」

 

「私に似てドジっ子なんだからw」

 

「あんたが私に似たの! でもなんであんな絵本があったのかしら?」

 

「いいじゃないの? 面白ければ」

 

「そもそもこんな本棚あったかしら?」

 

「そういえば無かったわ。オヤジが買ったのかなあ」

 

「そうかしら? パパは何かあれば必ず私に報告してくれる筈なのに……変ねえ……」

 

「びっくりさせようとしたのかな? ……あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「横に張り紙がある! 何々? 『この本棚は不思議な本棚。ヒントは中央部分にセットせよ』だってさ」

 

「どういう事かしら?」

 

「この本棚さ、3段になってるでしょ? で、真ん中にモラしま太郎があったのよね?」

 

「ええ」

 

「でね? 上の段の丁度モラしま太郎のあった位置に、ももたろうがあるのよ」

 

「うん」

 

「で、一番下の段の中央には浦島太郎があるの」

 

「あるわね。それがどうしたの?」

 

「ここまでくれば分からない?」

 

「何も分からないわ」

 

「もう! じゃあ説明すると、モラしま太郎があった場所は真ん中の段の中央でしょ? で、上と下の段にある物語が混ぜ合わさった話が真ん中の本棚で生まれたっていう事! 中央にセットせよっていうのはこういう事なのかしら? で、でもこんな事ってあるのかしら?」

 

「ま、まさか?」

 

「そう、中央の空間から上と下の本によって色々なストーリーに変わる本が出てくる不思議な本棚なのよ! で、今回の場合は、ももたろうと浦島太郎でモラしま太郎になったって事だから、上の本の題名と、下の段の題名が合体したって訳よ!! で、モラしま太郎!!」

ちょ? この娘は本当に3才なのでしょうか? 言葉遣いや卓越した推理力、分析力、判断力揃いも揃って大人顔負けじゃないでしょうか? しかし、そんな本棚がこの世に存在するのでしょうか? 不思議な本棚もあるものですね。

 

「確かに! アリサ! すごいじゃない!」

 

「うん! ってことはだよ?」

 

「ん?」

 

「上の段に金太郎を置いて、下の段に浦島太郎だと☆きんた☆……」

ああっ! 危ない!!

 

「おい!! アリサテメエコノクソガキャ!!!!」

ガッ!!

 

ムームー」

しかし、寸での所でママがアリサちゃんの口を塞ぎます。これはナイスディフェンスです! しかしとても不愉快な響きがママの口から放たれたような気がしましたが、まあいいでしょう。

 

「なんで塞ぐの? ハアハア……」

 

「アリサは恐れを知らなすぎるわ。それをはっきり言ってしまえば、どれだけのクレームが来ると思っているのよ」

 

「そうなのー?」

 

「そう! でもよく考えてみて? モラしま太郎ってさ、ももたろうのも、と、浦島太郎のらしま太郎が合わさったタイトルよ? 金太郎と浦島太郎の場合、この法則から言えば金太郎の1文字目だけを使って【きらしま太郎】ってなると思うわ?」

 

「え? でもきらしまって言葉では意味が通じないわ! でも☆きんた☆」

 

「分かった分かった。じゃあその話、一体どういう展開になるの? さぞ面白いんでしょうね?」

 

「そ、それは……村一番の大きい☆きんた☆」

 

「もういいわ。10秒でオチが予想出来るうっすい内容。ハアツマンネwwwww子供じゃあるまいしそんな幼稚なネタを考えているんじゃない!! はあ……あんたに期待していた私が馬鹿だったわ……来世に期待ね」

がっつり子供なんすよねえ……

「ひー😢」

ママは怒らせるととっても怖いようですね。その怖さは若かりし頃のボスオニに匹敵します。決して怒らせないようにしないといけませんよアリサちゃん?

「でも色々な本を混ぜて別の物語が出来るなんてすごい本棚ね!」

 

「次はどの話とどの話を組み合わせようかしら? 楽しみー」

 

そだねー

 

==続く==

モラしま太郎 前編

モラしま太郎 前編

おやおや? 小さい女の子がとても背の高い女の人に何かをおねだりしていますよ? なんなんでしょうね?

「ママーお話読んでー」

 

「あらアリサ? 絵本なら一人で読めるでしょう?」

 

「やだやだ聞きたい! ママの奇麗な声で紡ぎ出されるストーリーが聞きたい聞きたい!」

 

「あらあら奇麗な声なんて嬉しいじゃない♡わかった! お仕事は中断! 読みましょう」

 

「やったー」

お世辞がママのハートに突き刺さり、心の中でちょろいなと思いながらぴょんぴょん飛び跳ねるアリサちゃん。

「じゃあ桃太郎を読んであげましょうね」

 

「えー」

 

「あれ? 嫌なの?」

 

「もう600回読んだもん」

 

「そう……じゃあその下の……あら? なにこれ? モラしま太郎? こんな絵本あったかしら?」

 

「何これー? 聞きたいー」

 

「私も初めて見たわ。誰がこんな本📚をここに置いたのかしら? パパかな? まあいいか。じゃあモラしま太郎始まり始まりー」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー むかーしむかしあるところにおじいさん👴とおばあさん👵と亀🐢がいました。 おじいさんとおばあさんの趣味は毎朝カメをいじめる事です。

 

「こののろまなカメめ!」

ポコポコ ドンドン

 

「なんで緑色なんじゃ? 気持ち悪い!」

ドカドカ バキバキ 

しかし亀は逃げずに必死に堪えています。そうです。逃げようものなら更に激しい攻撃が来ると分かっているからです。亀は静かに待ちます。嵐が、過ぎるのを……

 

「はあ、すっきりしたわい」

 

「そうですね。じゃあそろそろ仕事に行きますか」

 

「そうじゃな」

そう言うとおじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。そうなのです。彼らも仕事のストレスが溜まってしまい、それをどこかで発散しなくてはと言う気持ちからこんな事をしているのです。現代社会の闇ですね……そして、いじめに逢った亀は亀で腹いせに近所の子猫🐈を拉致しては背中に乗せてタクシー🚕ごっこをしていました。 カメはこんな事をして何になるというのでしょう? 理解に苦しみます。ですが、人間も亀も人生で追いつめられるとおかしな行動に出てしまうものなのかもしれません。であればそれも仕方がない事でしょうね……亀は納得行くまで子猫を乗せて歩き回ると、お礼の煮干しを1本渡します。ですので一度拉致った猫はそれ目当てで一応リピートしてくれはします。ですが表情は明るくありません。もしかして子猫は1本では足りないのか? 物足りなさそうな顔で帰っていきます。次から3本にしてみてはいかがでしょうか? おっと亀の話を長引かせてしまいました。申し訳ございません。

 

おばあさんが川で洗濯をしていると、川上からおおーきな桃🍑がどんぶらこっこぉどんぶらこっこぉと流れてきました。

「おやあ……まあまあこれは大きな桃だねえ。早速おじいさんと一緒に食べましょう」 そう言いつつ桃を拾いました。

 

「ぐっ重いねえ。仕方ないわ」

なるほど! おばあさんは大きすぎる桃を転がして家まで運ぶようですね。

ころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころ「ヴォエ゛」ころころころころころころころころころ

おや? 何か桃の中から音が聞こえたような気がします。気のせいでしょうか?

「ふうふうまだ半分と言ったところかねえ」

ころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころこ「ギョヴォ」ろころころころころころ

いいえ。気のせいではありません。確実に男の子の苦しむ声が、桃の中から聞こえています。これは一体何なんでしょうか?

「はあ、やっと着いたわ。しかし腰が痛くなっちゃったわねえ。私達に子供でもいれば叩いてくれるんでしょうけど、ずっと恵まれなかったからねえ……はあ……しかしこの桃、どうしようかしらね? 桃のタルトにしようかしら? それともピーチパイにしようかしら? 迷うわねえ」

そう言いつつ桃を包丁🔪で割ったその瞬間。

サクッ パカ

「おんぎゃあおんぎゃあオロロロロロ」

なんと桃の中から吐瀉物としゃぶつとうんち💩とおしっこ💧にまみれた男の子の赤ん坊👶が大きな声で泣いているではありませんか。 うっ……酷い状況です。この赤ちゃん乗り物酔いをしてしまったようですね。

「まあまあ? 桃の中から赤ん坊が? うっ……酷い臭い……」

 

「おばあさんや? 芝刈りから帰ったぞい。しかし何で毎日刈らにゃならんのだ。この高貴なワシが……ぶつぶつ」

丁度その時、おじいさんが文句を言いつつ帰ってきました。

 

「おじいさん大変ですよ! 桃から赤ちゃんが!」

 

「なんじゃと? ほほう! これは子供に恵まれなかったワシ達を哀れんだ神様からの賜り物じゃ!」

 

「そうですよね? じゃあこの子に名前をつけなくては! 何にしましょう?」

 

「そうじゃな……桃から生まれたから……うっ? な、なんじゃこの臭いは?」

おじいさんは顔をしかめます。

 

「これですか? どうやら桃の中で吐いたり漏らしたりしちゃったようでして……」

 

「なるほどな。では桃の中で漏らしながら生まれてきたということじゃな?」

 

「そうですね」

 

「よし決めたぞ! この子は今日から漏らし魔太郎と名付けよう! 漏らし魔の太郎じゃ。しかも、もらしのもは桃の1文字目のもとも掛かっておるぞ! 我ながらナイスネーミングセンスじゃ」

邪悪なネーミングセンスですね。吐き気がします。

 

「いいとは思います。ですがその名前ですと小学校🏫でいじめに逢いそうですよ?」

 

「そうか? ではモラルのある人間に育ってほしいという意味を込め、モラしま太郎でどうじゃ? 漏らすのもらを、カタカナに変更した。これでいじめには遭わんじゃろう」

「そういう事でしたらい良いのではないでしょうか?」

なんということでしょう……おじいさんは桃から生まれた男の子を、モラしま太郎なんて恥ずかしそうな名前にしてしまいました。大きくなった時その意味を知ったら、悪い道へと進んでしまう危険性もあるほどですよ? 訂正してください! そしておじいさんも考えましたね。そう、漏らしたという不名誉な事実を名前に入れたいが為に、モラルと言う言葉でカムフラージュし、おばあさんを騙して丸め込んでしまいこんなへんてこな名前を強行採決してしまいましたよ? このおじいさん……只者ではありませんね。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ママー。なんかこのお話怖い」

思わず、アリサちゃんがママの朗読を遮ります。

「ママもそう思ったところよ?」

 

「もういい。聞きたくない」

 

「あれ? もう三才でしょ? もう一人前よ? なのに逃げるのアリサ? そうやって尻尾を巻いて……脱兎🐇のごとく……惨たらしく……」

 

「ママ……続きを……読んで」

 

「了解!」 おや? もしかしてこんな安い挑発に乗ってしまったのですか? ここは乗らずに流す事も出来た筈ですよ? このアリサちゃんと言う子は、かなり負けず嫌いに見えますね。

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そして10年の月日が流れ、モラしま太郎も小学4年生になりました。おや? 何やら覇気のこもった声が響いていますね。

 

「桃花流奥義……根九多流ネクタル斬」

ザザザン

 

「桃花流秘義……桃文字斬り!!!」

ザザザザザーン

あっ! その剣圧で大木が薙倒されてしまいました。

 

「桃花流究極秘奥義! 一桃……両! 断!」

ザン!! そして、あっという間に大木が数十本の薪に変わります。

「ふう……修行兼仕事終わり!」

どうやらモラしま太郎は森で木を伐採していたようです。剣技の修行も並行していますね。中々の太刀筋です。幼いながらに光る物を持っていますね。 そして、その修行を仕事とまとめて出来る様に時間を使えていますね。彼は限られた時間を如何に有効に使うかをしっかり考えています。効率を重視する姿勢は素晴らしいですね。将来有望な子供だと思います。

「おーい! モラしま太郎や」

 

「あっおじいさん! 丁度薪を集め終えました」

 

「いつも済まないねえ。お前がこんな力持ちに育つとは思わなかったよ。これからも頼りにしているよ」

 

「私はあの時拾われなければ海の藻屑と消えていたでしょう。実際死んでいたかもしれないこの身。恩人に使うのは当然です」

モラしま太郎はきりっとした表情でおじいさんに言いきります。

 

「そうかそうか何とモラルのある子じゃ……しかし」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや……何でもない。では家に戻ろう」

 

「はい!」

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「お帰り」

家に着くとおばあさんがおじいさんに険しい表情で言います。

「おばあさんその表情……やはりか……」

 

「どうしたんですか?」

 

「ああモラしま太郎……お前には関係ない事じゃ」

 

「おじいさん? おじいさんが私に何か隠し事をしている事はすぐにわかります。私だけをのけ者にするのは止めてほしいです」

 

「言いたくなかったのじゃが仕方ない。実はの? 都に鬼が出たという話があってな」

 

「鬼ですか?」

 

「ああ都の領主様のお屋敷から大量の金銀財宝を奪い逃げていったらしいのじゃ」

 

「なんてひどい……」

 

「領主様は悲しんでいた」

 

「分かりました。私がその財宝取り返してきます」

 

「なんじゃって? それはいかん! まだ小学4年生じゃないか!」

 

「学年は関係ありません。私の気持ちが叫んでいます。鬼を、この世から、一つ残らず、駆逐してやる! って言う熱い気持ちが……この気持ち……正しく、モラルです!」

 

「そこまでの覚悟があるとは……分かった! 行くがよい!」

 

「モラしま太郎がそう言うと思って用意したんだよ? これはキビダンゴ🍡だよ」

袋に入れられた団子を受け取るモラしま太郎。

「ありがとうございます! これさえあれば百人力です!」

 

「それなら私もお供します!」

おや? 突然隅っこに居た、ほぼ空気になりかけていた亀が喋りましたよ?

 

「なんじゃあ? 喋れるのかお主!!」 

 

「はい。今まで黙っていてすいませんでした。私の名前はカメLと申します」

喋れるようになった亀を見て、おじいさんもおばあさんも少し暗い表情になります。

 

「別に恨んではいませんよ。私の防御力ではあなた方の攻撃なんて1ダメージも受けていませんからw」

カメLは二人が伏し目がちになった理由を悟り、フォローを入れています。優しい爬虫類ですね。

「カメL……」

 

「おじいさんおばあさん。このカメLを連れて行ってもよいでしょうか?」

 

「構わぬ。だがよいのか? どうせ猫を背に乗せる位しか取り柄がないがな」

 

「いいえおじいさん。私はアタッカーです」

 

「ん? あったかああい?」

 

「いえ! アタッカーです。アタッカーとは、攻撃を得意とする戦士と言う意味です。ですが反面防御力が低いのです。しかし、カメLがタンクとして前衛を固めてくれさえすれば、私は真の力を発揮出来る筈です!」

 

「なるほど!」

 

「では参りましょう。鬼は鬼ヶ島に居ると聞きます。さあ、参りましょう!」

 

「うんわかった! ではおじいさんおばあさん! 行ってまいります!」

 

「気を付けるのじゃぞー」

 

「はいー! もし敵の強さが上であったらば、レベリングをして強くなります!」

 

「そうかーくれぐれも上げ過ぎには注意じゃぞー」

 

「はい! バランスは維持します!」

え? ど、どういう事でしょうか? 様々な専門用語が飛び交っていて、入り込む余地がありませんでした……ですがこれを謎のまま通過する訳にはいきません。私も語り部としての意地があります。何とか解読してみましょう。うーんうーん……まずは……二人の会話内容から推察するに、レベリングとは恐らく修行とか鍛錬とか言う意味でしょう。おじいさんは上げ過ぎてはいけないと言っていました。その後、モラしま太郎はバランスは維持します。と、言っていました。上げ過ぎる事でそれが崩れると言う事ですか? バランスの意味は均衡ですね。故に、修行しすぎると均衡が崩れると言った意味ですね。どういう事なのでしょう? ……これは、もしこの世界が仮にRPGであるとするならば、RPGのプレイヤー自身が難易度を選べるんですよね? そうです。フィールド上で同じ所をウロウロしていると何回でもエンカウント出来ますから。延々そこで戦い続ける事で時間を掛けさえすればカウントストップまで成長させる事も可能です。ここをプレイヤーが調整せずにとことんやり込んでしまえば、最高のステータスで序盤のボスとも戦える訳ですね。もしそんな事をしたならば何も楽しくないでしょう。そうなっては面白くないからやめるのじゃぞ? 冒険は楽しむものじゃぞ? と、注意して下さったと言う事ですね。優しいおじいさんです。

 

少しだけ私の話をさせて下さい。私にも妹がいまして、その子物凄く慎重派でして、攻略本の推奨レベルよりも4つ位上のレベルになるまで雑魚を狩り続ける子でした。ですので同じゲームの話をしていても……会話が嚙み合わない場合があるんです。

 

私「ポンダルキアの洞窟のボスさあHP25パー切ったら発狂モードに入って、全体攻撃を2連続でしてきてさあ。あっさり逆転されちゃったw」

 

妹「ああ、あの雑魚? 1ターンキルしたから分からなーい」

と言う会話がざらなんです。

 

皆さんは私と妹どちらがそのソフトを楽しめたと思いますか? そうですよね? どう考えても私の方が楽しんでいると思うんです。一度負けたらその原因を突き止め、装備が弱ければ買って挑み、それでもまだ勝てなければレベルを1つ上げて挑む。こんな苦労こそがRPGの醍醐味だと思うんです。それにボスが使ってくるド派手な必殺技とかも経験する事無くそのソフトから離れていきます。本来通常に進めていれば見る事の出来る一生の思い出を、彼女は自分の手で潰しているんです。彼女のRPGの思い出話は毎回これに行きつくでしょう。

 

「序盤が異様に長いけど、ボスが弱いクソゲー

 

と、ね。人生の数分の1を費やして得た思い出が毎回それってなんだか悲しいですよね? ですが妹はどんなRPGでも序盤でこれでもかと言うほど稼ぎ、全く苦労することなく最後のボスまで進めます。ですからギリギリの勝利と言うあの最高にアドレナリンが出る体験を一度もしていないんです。これって勿体無いと思いませんか? そうです! お金を払って新作のゲームを買っても、序盤稼いでボスを瞬殺。の流れは彼女の中では変わりません。同じ事の繰り返しです。妹はこの作業を繰り返している事の虚しさにまだ気付かないのでしょうか? それとも、そういうバイトでもしているのでしょうか? あっ! ついヒートアップしてしまいました。すぐに話を戻します!

 

「まずは港町から海に行きましょうか。ここからですと……ここから東のがいいですね」

 

「案内出来るかい?」

 

「お任せ下さい!」

 

「助かるよ!」

モラしま太郎はカメLと共に東の港町を目指します。しばらく歩いていると、草むらから犬🐶が飛び出してきました。

 

「おい! お前いい匂いがするな」

 

「これのことか? 昼食に取っておこうと思ったけど、君はこれがほしいのかい?」

 

「うん!」

 

「じゃあ一つどうぞ」

 

「うまい! ありがとう 俺も付いて行ってもいいか?」

 

「いいよ! よろしく!」

 

「よろしくワン!」

こうして犬がお供になりました!  そして犬を連れしばらく歩いていると、かなり大きい林に差し掛かりました。

 

「ここは林があるけれど回り道になるからここを抜けていきましょう」

そして次は林を通る事になったようです。

 

「分かったよ」

林の入り口で早速誰かが声を掛けてきました!

「あっ君たち! ここはサル雉の林だと知って通るのか? 人間は駄目だよ」

木の上からサル🐵が下りて邪魔して来ます。

 

「でもここを通らないと日が暮れてしまう。お願いだ通してくれ」

モラしま太郎はキビダンゴをサルに見せます。

 

「ウホッ! 良い団子! これをおいらにくれるのか?」

 

「いいよ」

 

「ありがとう! おいらを仲間にしてくれ」

 

「よろこんで!」

 

「やったあ! よろしくキー!」

 

「よろしく!」

そして、林の出口に差し掛かった時、一羽の雉🐓が声をかけて来たので、サルの時と同じやり取りを経て仲間にしました。

「よろしくケーン

 

「こちらこそよろしく! あっ!! もうキビダンゴが無くなってしまった……😢」

 

「大丈夫です。もうすぐ港町に着くでしょう。そこで食事休憩を挟みましょう」

 

「そうだね……あっ今お金を一円も持っていないんだ」

 

「そうですか? じゃあ少し時間はかかりますが、私の故郷である竜宮城で休憩しましょう」

 

「そうだね」

 

「そこで食事を出しますので。鬼を退治すると言う事を乙姫様に伝えればきっと力になってくれる筈です」

 

「よし案内お願いするよ」

 

「お任せ下さい!」

そういうとカメLは全身に力を込めています。そしてその姿が…… おや? カメLの様子が? ♪てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん♪ シューン

 

「BBBBBBBBBB」

 

え? モラしま太郎が突然おかしな呪文を唱えましたよ? ピタッ…… するとあら不思議。カメLの進化が止まったみたいですよ?

 

「ちょw止めて下さい! どうしたんですか?」

 

「すまない……急に蜂🐝が沢山襲ってきて……」

 

「それで蜂の英語であるbeeを連呼していたんですか? ですが沢山蜂がいる場合Swarm of beesの方が妥当だと思われますが……」

 

「そうかい。まだまだ勉強不足だねもっと頑張らなきゃね。でも海岸に蜂が現れるなんて一体どういう事なんだ?」

 

ケーン……」

おや? 雉が何か申し訳なさそうな顔をしています。何か隠し事でもしているのでしょうか?

 

「それはどうでもよろしいのですが、今私は進化する準備をしています! ここで私が進化しなくては体が小さすぎて皆さんを竜宮城まで連れて行く事は出来ません。そしてあの呪文は危険です。二度と言わないで下さい」

 

「気を付けるよ……ごめんね」

 

「今度は気を付けて下さいよ? はあああああ!」

♪てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん てん♪

シューンシューンシューン キラキラキラキラリン キラーン

おめでとう! カメLはカメXに進化した!  

てーてーてーてててててててーん

 

何と! あれほどに小柄だったカメLが、青年男性程の背の高さの亀に進化しましたよ?

「よしみんな! 背中に乗って欲しいカメ」

 

「良し! いざ竜宮城へ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ちょっと待って」

ママがアリサちゃんに言います。

 

「ママどうしたの?」

 

「しゃべりすぎてのど乾いたわ。この絵本、絵本の割に説明が多すぎる気がするわ。説明は控えめにしないと読者さんが飽きちゃうってのにさあ……この絵本の作者、ちょっと勉強不足ねwじゃあちょっとコーヒー☕取ってくるわね」

 

「はーい」

最終話 帰宅?

「何か釈然としないけど本当事故だったのかなー? でも、本人が言うなら信じるしかないね。

あースッキリしたー……? あれ? 何でだろう? すっきりしないなあ。よしママの所に行こう」

と言いつつ戻るアリサ。だが全く納得した表情ではない。これは恐らく司会が嘘を突いている事を本能的に感じているせいかもしれぬ。

だが、疲れ果てた脳みそではもう深く考える事は出来ない様で、帰る事に意識を向けた様だ。

「……そうだ! その前に」

ダダダダダッ ん? どこに行くのだ?

「刑事さん! 司会の人生きてたよ」

「え? 本当ですか?」

「だけど、その事は伏せておいた方がいいかもね」

「え?」

「もしそれを報道したら白川さんがまた狙う可能性があるからよ。念の為ね」

「本当ですか? でもそう仰るのでしたら信じましょう。

では今回の事件は被害者も生きていた事ですし、ただの転落事故だったと嘘突いておきます」

「ありがとう。よし、ママの所に戻ろう!」

「アリサちゃん! おーい!!」

今度こそ帰ろうとするアリサに何者かが叫びながら走ってくる。それも1人ではない。

「え?」

その人物は周様、梓、鎌瀬、金賀、七瀬、火村。共に頂点を争ったメンバーだ。

「あっみんな! 知ってる? 司会の人生きてたよ」

「良かった……目の錯覚で幽霊かと思っていたのよ!」

「生きてる生きてる! みんなも見たの?」

「見たぜ」

「おう、俺様も見た。しかし……お別れだな……ずげえざみじいぜえええええ」

目の幅の涙を出し、アリサと握手する周様。情に厚いお方だな。

「ちょっと痛いって! 男が泣いていい時は親と別れた時だけよ!」

そんな事を言いつつ、釣られて涙目になるアリサ。

「俺様は来年もここに来て見せる。モノマネだけでなく色々なネタを引っ提げてな!」

「うん、なんだかんだあったけどあんたのネタを見てなかったら、あのネタを閃く事は出来なかったからね。感謝してる! また会おうね!」

「おう!!!」

「なんか急だけど、この人と一緒になる事になったわ」

梓が鎌瀬を指しつつ少し顔を赤らめ話す。

「えええええええ? こんなのとおおおおおお怒?」

ピョーン

余りの驚きに120センチほど飛び上がるアリサ。この瞬間、そう、最大到達点での彼女の身長は2倍になった。

「そんなに驚くなんて酷いです……兄さん……」

「おお! 通りでやけにべたべたくっついてるなと思ったら! めでたいぜ」

「おお! 泥鰌の同情でお前達二人に柳川鍋のご馳走があらん事を」

「7,7んだってー? おめでとうございます!!」

「そうなのかあああああああ? おめでとおおおおおおおおう」

おお! 周様が……こんなにも伸ばされて……皆さん朗報だ! 彼が、完全に、復活なされた……!

「みんなありがとw楽屋を出てアリサちゃんに言われた後に探し歩いていたの。すぐ見つかったんだけど、床に突っ伏して譫言の様に

あずにゃんあずにゃん

って言っていたの」

梓が少し顔を赤らめながら話す。

「www」

心の底から笑ってくれるアリサ。

「ちょw笑わないでwで、ずっと血を吐いていて、床が血の海になっていたわ。この会場でまた殺人が起こったかと思ったもの」

「えー見たかったー。ねえ、再現して―?♡?」

これこれアリサよ、無邪気な瞳でそんなおぞましい事を強要してはいけないぞ? 今お主は鎌瀬の兄さんだ。芸人の世界では兄さんの言う事は絶対。故に頼まれたらすでにもう枯渇しきった血液量と知っていようが頑張って吐血を始めるかも知れないぞ? 奴は竜牙にジュースを買って来て? と言われた時に意気揚々とダダダダダッと言う効果音を口で再現しながら駆け出して行ったではないか! その時エリートだと言う事は一切忘れ、正にパシリの鑑と言える程のパシリキングだったぞ? 思い出すのだ! この鎌瀬の吐血癖は恐らくお主のノリ突っ込みが原因なのかもしれぬのだ。あの、ノリ突っ込みを決めた瞬間、お主の口から放たれた言刃が鎌瀬の体を貫いた。これは私の目でも確認済みだ。これだけは間違いないのだ。それ以降だ。彼が血を吐く様になったのは。恐らく鎌瀬のどこかの臓器に死魔傷が刻まれた筈だ。死魔傷とは一度受けたら決して塞がる事のない傷。だが幸運にも日常生活をしているだけであれば吐かない様だな。

では一体どんな時に吐血したのか? 彼が吐いた全ての場面を思い返してみよう。

まずはノリ突っ込みを喰らった直後であるな? そして次は笠地蔵のネタでカンザス州と放ち、大きく滑った後のアリサの辛辣な言葉の後に吐きだした筈。3回目はアリサの所属している推理クラブ部長の特技の事を思い出した時にも吐血したな? そして最後に先程梓の報告で明らかになったが彼女を探し疲れ果て吐き始めた。この合計4回だった筈だ。それだけでももう鎌瀬の体内に存在する血液量は僅かであると言う事が分かるであろう! そしてこれらの共通点とは何だろう? それは心にダメージを受けた時に吐く様に思える。だが一つ問題が発生する。それは、死魔傷がある筈なのに通常時はへいきへっちゃらな事だ。

本来、それを負ってしまった者は、絶えず流血し続け死に至るまで止まらない筈の呪われた傷のなのにそれが無いという事だ。どういう事だ? まさか! 傷口を上手い事他の臓器で塞いでくれていて、悲しい時でなければ血は止まる言う奇跡的な位置関係に付いた傷なのだろうか? むむ、生命の神秘であるな。ただ、常時ダダ漏れでないにしろ死魔傷は名前の通り永遠に塞がらぬ厄介な傷。これ以上の吐血は命に関わる筈だ。おぬしの命令通り再現したらあの世行きであろう。流石に新婚早々死んでしまっては可哀想であるぞ? 急いで撤回するのだ! このままやらせてしまえば第二話最終回にしてヒロインのお主が殺人者になってしまうぞ? 

「無邪気な瞳でそんなおぞましい事言わないでwでね? 話している内に急に可愛くなってきちゃって……不思議な物よね……私、この人を見ていたら急に母性みたいな物が溢れ出てきた気がしてね……これが母親の気持ちなのかなって? 犬吉君は旦那さんと言うよりは自分の子供みたいな感じだけど、傍で見守っていくからね。芸人の道は若いあんたに譲るわ……」

「へえ、でも歳も近いし同業者ってのもあるしお似合いかも……お幸せに♪でも私は刑事になるからお笑いはやらないわ」

「才能有るのに勿体ないなあ。で、看護師の資格を取るつもり。この人、ある時を境に弱々しくなってる気がするの。……だから頑張って勉強して彼の体調を私が元に戻して見せる!」

ほう、彼女は死魔傷の存在を漠然とではあるが認識している様だ。鎌瀬の呪われた傷。彼女の愛の奇跡が完治させてしまうかもしれぬ……アリサに業を背負わせぬ為にも……頼んだぞ! 梓よ!!!

「へー芸人、人妻、に続きナースか……また属性が増えるよ……需要が更に上がるね」

「何それ?」

「知らないならいいのよ」

「兄さん……あなたがキューピッドだって聞きました。本当にありがとう……ビックリしたよ。あずにゃんから結婚してくれるって言ってくれたんだ。僕、僕……同情で結婚して貰ったと思っているけど、それでもいつか、否、近い将来、僕と一緒になってよかったって、あずにゃんに思わせて見せる! そう! 絶対幸せにするからね」

深くお辞儀をする鎌瀬

「兄さんって……せめて姉さんって言いなさいよ……って、まあいいわ。で、これからどうしたい?」

「まずは新婚旅行ですね。新コーン旅行はコーンゴ共和国で、キングコーンゴのネタを視聴しつつコーンデンスミルクをたっぷりかけたコーンフレークを……」

「ねえ、それ、白川さんのネタでしょ?」

それを聞きあからさまに嫌そうな顔をするアリサ。逃がしてしまった人間の事を思い出してしまったからだろう。

「う、何か耳に残っていて……でも彼、不思議な人でしたね……そして、誰よりも面白い人でした……」

「確かに……でもあいつは……」

【あいつは……】

その先が出てこない。それもその筈。殺人者と思っていたが、司会は生きていたし、犯行が出来たかどうかも今の彼女には立証しようがない。

「もう居ないんだよね……また会えるのかなあ?」

「また会えるわよ。私はそんな気がする」

「うんうん。そして、もしも子供が出来たら絶対芸人にします。祖父母、そして両親も芸人の血を引く超サラブレットが兄さんを超えて見せます!」

死魔傷は直系に遺伝すると言う噂もある。故にお笑いの才能と共にその傷をも受け継いでしまう危険性があるのだ。だから、完全に治した後に作らなくては死魔傷が刻まれた呪われし子供が生まれる可能性もあるのだ。そこを気を付けて欲しい物だ。

「フッ私は、強ええぜ?」

「ぐぐぐ……でも、諦めませんよ!」

「その意気よ! 最後に気合を入れてやるわ」

「え?」

「もっと熱くなれよ! 熱い血燃やしていけよ!! 人間熱くなれば本当の自分に出会えるんだ!!! だからこそ! もっと!!」

「熱くなりなさーい!!!」

「熱くなりなさーい!!!」

「熱くなりなさーい!!!」

アリサ、鎌瀬、梓の声が心地よく響き渡る……! 若いな……(///照///)私の頬まで赤くなってしまった……

「大声出すって気持ちいいね」

「じゃあお幸せにね」

「うん」

「ようチャンピョン! 貰った米で、

泥鰌掬うなら甕をくれ丼】

ってのを作ろうと思うんだが、少し分けちゃくれねえか? お米」

「駄目よ! お米はフンガーに全部渡すんだから」

「そうか……ここで獲得した米って言うブランドが欲しかったんだがな……なら仕方ねえ。そうだ! 近くで店やってるから来てくれよな? ただでご馳走するぜ?」

名刺を胸ポケットから出す。

「おう!」

パチン

タッチをする二人

「アリサちゃん……八郎と知り合いだったんだね? さっき母さんから連絡があって……」

七瀬は、梓と鎌瀬を祝っていた時とは打って変わり神妙な顔でアリサに語り掛ける。

「え? 八郎さん? 七瀬さんって……あっ! もしかして八郎さんのお兄さんなの? 同じ名字なのに全く気付かなかったわ……そう言えば七瀬さんって眼鏡を取ったら八郎さんそっくりね!」

「そう? 自分でも気づか7かったよ。小さい頃から眼鏡取った事7かったから7あ」

「昨日会ったばっかりだから間違いないよ。で、9人兄妹なんだよね? ええっと……覚えてるよ! 一郎さんと次郎さんに美三みみさん、四郎さん五子さんに六江さんに文七ぶんしちさんに八郎さんに九べーさんの9人だよね?」

「そう7んだ。八郎から聞いたんだね? よく覚えてるね」

「まあね。でもヤンキーに絡まれて、誰か自殺未遂したんだっけ? 今は大丈夫なの?」

「ああ五子姉さんか。今は7んとか仕事に復帰出来るまでに7ったよ。男、特にヤンキー嫌いは相変わらずだけどね」

「良かった……でも九べーさんだっけ? 彼のインパクトが凄すぎて七瀬さんと八郎さんが兄弟なんて全く思わなかったわ。こんなのちょっと考えればすぐ気づく筈なのに……悔しいわ!」

「確かに九べーは僕達とはあんまり似てい7いからね……どうして彼が兄妹の一員7のかすらもいまいちよく分から7いよ」

「彼? やっぱり男の子なの? 九べーさんって」

「そうだね。兄妹の中で唯一/人◕◡◡◕人\こん7ネコみたいな顔をしているけど彼の口癖は

【僕と契約して魔法少年に7ってよ】

だしね」

「でも一人称を僕って言う女の子=僕っ娘って可能性もあるんじゃない?」

「それは7いね。だってしっかりと付いてるんだ」

「何が?」

「男の子の象徴だよ」

「へえ、それって大きいの?」

これ! ヒロインがナニを聞いているのだ!

「意外に大き……! 7んでそこに食いつくの?」

「でへへー」

「は7しを戻すよ……で、全部分かっちゃったんだ。八郎は今……」

どうやら七瀬は八郎の兄だった様だ。そして、母親の電話で彼の現状を知ってしまった様だ。【今】の先が言えず口ごもる。

「七瀬さん……聞いちゃったのね? ごめん私が!」

「7にを言っているの? アリサちゃん? 謝る事は7いよ。君は7に一つ間違ってい7い。むしろ、ありがとうだ」

「え?」

「八郎は止めて貰わなかったら、次の手を打つと聞いた。そう、最悪殺人者に7っていたんだ」

「本当に?」

「ああ、止めてくれて感謝しているって。後……八郎ね、頑張って罪をつぐ7って戻ってくるから、そしたらその……君とカラオケ一緒に……行き……」

「断る理由が7い!!」

食い気味での即答。

「本当に? じゃあ後で伝えておく! 八郎も喜ぶと思うよ!! もし7にかあったら名刺の電話番号にいつでも電話して来てね!」

「はいっ!!」

「最後は俺か……まだじゃない方卒業出来ずだ……」

「爪痕は残せたと思うよ? きっとみんな分かってくれるって♪来年もあるから! 火村さんも絶対出てね! 私も出るからね」

「おう」

「みんな見送りありがと! 来年私、2連覇を狙う為に必ず来るから。全員集合よ?」

「でも白川さんは……」

「そうね……でも7人はまた会おうね」

「じゃあ専業主婦って訳にもいかないわね。わかった! 主婦もやりつつ芸の道も磨き、看護師の資格も獲得した上でパワーアップしたメルヘンネタであなたを倒すわ」

梓が引退宣言を撤回する! 

「そうよ! 鎌瀬さんもだからね」

「分かったよ……いいえ! 分かりました!! アリサ師匠!!!!」

お? 鎌瀬の中で【兄さん】から【☆《師匠》☆】へと昇格した様だ。まさか1作品の間に

【一般人→兄さん→師匠】

二階級特進するなんてすっごいよ! 頑張った甲斐があったな! 本当に本当におめでとう! アリサ師匠!!

「全く……そう言えば私はもう探偵なのよ? とっくに芸人は卒業したってのに……そんないい返事聞いたらまた戻りたくなっちゃうじゃない」

「師匠なら探偵をやりながらだってお笑い芸人も出来ますって!」

「ほんまにー?」

「ほんまでっせ!!」

「じゃあまた来年!!」

「ああ元気でな!」

「バイバイ」

アリサは名残惜しそうに時々振り返りながら外を目指す。

外に出るとママとケイト、そしてフンガーも何故か一緒に待っていた。

フンガーは覚えていたのだ。アリサとの約束を。

「お帰りアリサ。色々な事が起こり過ぎてなんか良く分からないけど優勝したんだよね? おめでとう!」 

「ありがとう」

「 それにしてもあなたどこであんなネタを思い付いたの? 私ね、初代のガンバレ世代だから、面白い☆☆☆三連星のネタ滅茶苦茶ツボったわ。まさか娘の口からあんなネタを見られるとは思わなかったもの」

「決勝で戦った白川さんが控室でそんな話をしてたからかな。その後の休み時間に彼らの事を携帯で調べたんだ。それで面白い癖があったからそれを使ってみたの」

「たったそれだけの事であんな長いネタを思い付いたの? ぎ、ぎゃふん」

「ママw古いwwでも実力で取れなかったのが悔しいけどね……でも、現役の芸人さんをいい所まで追い詰めたってのは凄い自信になったわ。流石にこの力までひいおじいちゃんの血のお陰って事は言わないでよね? ママ?」

「うん、これは間違いなくアリサの力よ」

「そうだよね。(後あの帽子のお陰……かな……)ちょっとお笑い勉強しようと思っちゃったもん。人を笑わせるのは嫌いじゃないし。笑顔って素敵じゃん? ケイトちゃんが私の新しい一面を引き出してくれたって事よね。ここに参加してなければお笑いなんて見ている側で終わっていたと思うもん。ケイトちゃんありがとね」

「ホント? 私、役に立てた?」

「そうね。ねえ私のネタどうだった?」

「うん! アリサちゃんのネタ、分からない部分もあったけど面白かったよ!」

良かった……恐らくあの下ネタまでは彼女は理解出来なかった様だ。ケイトよ……ずっと純真無垢で綺麗な心のままでいてほしい。

「やったぜ!!」

「後、最後、凄い推理だったね! かっこよかった! あーあ、アリサちゃんが男の子なら良かったのに……ポッ」

あんな言いがかりじみた推理でもかっこいいと感じてしまったのか。そしてポッ等と言いう擬音を口にして、顔を赤らめている……? ま、まさか……いや、そんな筈は……

「え?」

「あらあら、アリサモテモテねえ!」

「ケッ、ケイトちゃん? 私に惚れたら【私の行く先々で事件が起こる件について】だぜ?」

ほほう。まさかこのやり取りの間隙に【それ】をねじ込んだか……この娘はやはり天才であった。天晴である。

「え? だっ大丈夫! アリサちゃんと一緒ならどんな事件が来てもへいき、へっちゃらだもん、何も怖くないもん!」

力強く言うケイト。凛とした瞳である。美しさの中にしっかり潜むかっこよさ……私は、彼女に惚れている事にすら誇りを持てる!

「え?」

頬を赤らめるアリサ。ぬうっ……このままではアリサと私のケイトが恋人の様な関係になってしまう……それだけは何とか食い止めなくては……おいおい! アリサよ! 竜牙刑事が好きなのだろう? そっちに行ってはいけない!! 危険であるぞ!

「あらあらあらぁ? 照れ隠しにタイトル回収なんかしちゃって! そう言うのは一回でいいのよ」

「え? 今回が初めてだよー」

 嘘である……と? (。´・ω・)ん? フンガーが何か言おうとしているぞ?

「フンガーフガフガ! フガガンフガフガフガガフガンガフガル件について。フンフンガッガ」 

「なになに? アリサは予選の時、フンガー君の前で、【私の行く先々で事件が起こる件について】って言っていたフガって? ほら見なさい」

この男、見かけによらず記憶力が優れているな。間違いなくアリサはそう言っていた。それは私も見ていたからな。

「あ、こら! フンガー! それは内緒でしょ! 何で言うのよ! 目玉をへし折るわよ! ダブルで!」

「フンガー……」

申し訳なさそうに頭を下げつつ両目を守る様な動作をするフンガー。

「てかママすごーい! フンガーの言葉が分かるんだ!? 私はまだ分からないって言うのに」

「勘よ勘! 刑事の勘! やっぱりー! 全く、油断も隙もないんだからこの子は!」

「でへへー」

舌を出し、頭を掻く動作をするアリサ。

「あっそうだそうだ! 賞金とお米フンガーにあげないとね!」

「フガ?」

「私の気が変わらない内に受け取らないと、2度と貰えないかもよ? いいの?」

「……フン……ガー」

一礼して受付に向かう。一人では心配なのか一応アリサもついて行く

「ねえ、賞品受け取りに来たんだけど」

「あ、優勝おめでとうございます! こちらです」

「ありがとう……あ、お米って現物はあるの?」

お金と米を受け取る。そしてフンガーに渡す。

「はい。ですが、郵送いたしますよ?」

「大丈夫よ。今すぐ頂戴」

「え? あの……お米60キロありますが大丈夫ですか?」

「この子が受け取るから大丈夫。凄い力があるからね。あなたも見たでしょ?」

「そうですか? ではどうぞ」

「フンガー……」

何故か申し訳なさそうに受け取る。

「何遠慮してるのよ! 当然の権利よ!!」

フンガーのふくらはぎを叩く。100万円を躊躇わずにポンと渡せる豪胆な幼女。見習いたい物である。

「フガ!」

力強く頷く。

「あっ、これは私のよ!」

フンガーからある物を奪い取る。一体何を? まあいい。

「鏑木さん。では、私達は帰ります。お気をつけて!」

おや? ケイトのパパか。一旦離れていた筈だが、いつの間にか迎えに着てくれた様だ。

「アリサちゃん楽しかったよ本当に。じゃあ私達はこれで帰るね」

「うん。住む世界は違うけど、私達はこれで繋がっている。いつでも相談してね」

携帯を指差し、やけに男前な笑顔を送るアリサ。

「かっこいい♡じゃあ……ね」

ケイトは、笑顔のまま、輝く双眸から女神の雫を流す。それは、重力に従い、きめ細やかな頬を、一条の川を形作る様に零れ落ちて行く。その様は、正に天地創造時代。神がその秘術で大地に川を生み出す瞬間を目の当たりにしている様である。

ああ……私は……この川で溺れ死にたい。

そして、その偉大なる奇跡を目の当たりにした私にも変化が……自然と私の両眼からも溢れてくるのだ。これは悲しみの? それとも感動の? それは分からない。分からないが、止めどなく溢れ出す。私は、この涙をも誇りに思う。愛している。ケイトよ。

そして、先に帰路につくパパに追いつこうと小走りで去って行ってしまう……ああっ女神様……後ろ姿も女神様……

「じゃあ帰ろうか?」

「はいっ! フンガー! 達者でね!」

「フンガー……」

ゆっくりと会場を後にする。

「まあ無事終わったし、じゃあ、帰ろうか? 我が家へ! パパが待ってるわ!」

「はいっ!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方その頃、悠々と会場から帰った白川は、そこから徒歩2分程の喫茶店で、3時のおやつと言わんばかりにチーズケーキとアイスコーヒーを注文していた。

「やれやれ」

「お待たせいたしました」

コトッコトッ

「どうも♪それにしてあのチビめ……やっぱ100万とお米一年分ロストは痛えなあ……あいつは……苗字は何だった? まあいい……これ位かな?」

携帯のメモアプリを起動し、何やら文字を打ち込んでいる。

SS 味噌門太 (完)

SS 久本正美

SSS 風原瞬

SSS アリサ

2020 7/23 AM9:00 28台 PM3:00 27台

2020 7/24 AM9:50 24台 PM0:30 16台

ぬ? 何だこれは? ページの上部に、3人の人物名とアルファベットのSが書かれていた様だが、その下に新たにアリサの名前とアルファベットのSが三つ書き込まれた様だが? そのアルファベットの意味とは一体? もしかして体の大きさを表しているのだろうか? スーパーすっげえスモールだろうか? 良く分からぬがアリサが白川に目を付けられた事は何となく分かる。 

 そして、ページの下の方には日付と時間と何かの台数を数えた物が記してある様だ。これは? ……昨日の日付と、今日の日付があるな。

書かれている時間帯に何があったかを思い出してみると、今日の分に関しては、アリサが受付している頃と昼食の時間と考えられるな。一体何の時間だ? ウーム……何の意味があるのだろうか? 

「よし」

書き終えると電源を落とし、ズボンのポケットにしまう。

「ふう、旨いなこのコーヒー。うむ、ケーキもいいな……また来るか(しかし何故かすっきりしない……奴はもうこの世に居ない。なのにいまだ奴に対する憎しみが……なんでだ? こういう時どうしたらいいんだよ……案外復讐ってもんはこういうもんなんだろうな)」

彼は味噌門太がまだ生き延びている事は知らない。だが、本能的にまだ生きているという事を察知し、憎しみが湧き出ているのだろうか? そして、ケーキを味わい、アイスコーヒーを飲み干す。

「ご馳走様! はいよ! あ、お姉さん? この店は近い内に繁盛するよ!!」

チャリンチャリン

「え? そうなんですか? なんか嬉しいです! ありがとうございました!」

「おう! その硬貨、ちゃんとお店に残しておくんだぜ? 額に入れて飾っておきな?」

「え?」

「間違ってもおつりで渡したら駄目だ。運が逃げちまうかもしれないぜ? これは幸運の500円玉だからな?」

「は、はい! 家宝にします!♡!(やだ♡かっこいい♡)」

根拠は分からぬが、謎の自信に満ちた顔で会計を済ませ外へ出る。まるで彼の触れた物全てに運が宿ると言わんばかりだ。確か七瀬にも強運散布と言うスキルがあったが、白川も同じスキルを所持しているという事か? やはり彼は、あの犯罪を行う前に既に分かっていたと言うのだろうか? 自分の生まれ持った強運に……それを組み込んだ犯罪を? そしてこんな会場に近い喫茶店でくつろげているのも、絶対に見つからないと確信を持っていたと言う事なのか? そこまでは分からない。

「まだ時間はあるか……な?」

夏休みが始まって間もない都会の空気。道行く人は日傘や帽子で日光を遮りながら歩いている。

だが、彼は暑さを感じている素振りは見られない。自らの放つ何かは、彼を熱気から守っている? 汗ひとつかかずに暫く空を見上げている。

普段は好青年。と、までは言えないが正義感の強そうな男であるが、鋭い眼光はまるで獲物を見据えたスナイパーの様な青白い光を放っている。

「さてと、ちいとばかり予定は狂っちまったが、【次】行きますか……!」

そう呟くと、バイクに乗り、いずこへと消えて行ってしまった。

 

つづく

 

私の書いている小説です

 

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語り部の真相解説

こんにちは語り部だ。前回の約束だ。白川の行った事全てをアリサに代わり解説していく。よろしく頼むぞ。

だが別にそんな事興味が無いと仰るのであれば、ここでブラウザバックでもよいだろう。

この回は、彼がやった事を振り返るだけの回である。故に既に真相に辿り着いた方には全く必要の無い回なのだ。単なる蛇足。そして、文字数稼ぎの回と言っても良い。読む必要性は皆無。アリサと違い冗談交じりで語る事は一切無く、淡々と彼の行った事を語るだけのお堅い回であるしな。だがもし真相に辿り着けなかった極少数の方の為には必要かと思い語る次第だ。

アリサよ、すまぬな……主人公特権を奪ってしまって。本来お主が得意満面で語りたかったであろうなあ。この、巧みに遂行された犯行をドヤ顔で……な……だが、お主はあの場面で全てを気付く事が出来なかった。

物事にはタイミングが重要なのだ。あの日あの時あの場所で気付けなかった。つまりこれは私しか語れぬ事だった訳だ。では、早速語ろう。むうやはり堅すぎるな。これでは折角私の一人舞台なのに悪い印象を与えかねぬ。少し崩そう。コホン……みんなぁいっくよぉおお? よし、これで全世界で私のファンが2人は増えたであろう。やったぜ! では今度こそ本当にいくぞ?

 まずは、犯行の瞬間何が起こったかを語ろう。そして、その為にどんな準備をしていたのかを語る。

白川は停電が起きた時、舞台上で目を閉じて予め暗闇に慣らした上で、暗闇になった瞬間に目を開いた。皆両眼を閉じたと認識していたが、実は違う。

その根拠は、集合写真の問題が終ったのに、その後の問題もしっかり対応出来ていたからだ。

集合写真の問題のみであれば、頭の良い彼ならば頭の中でその映像を思い返し、ネタを生み出す事も出来るかも知れない。だが、彼が目を閉じてから停電が起こるまでずっとその集合写真のお題では無かった筈。彼は次の問題も、その次の問題も目を閉じて把握したという事になる。そんな事が果たして出来るだろうか? ここから推測するに、新たな問題発表時だけ? それともずっと? までは分からぬが片目を限りなく薄目の状態で戦っていた筈なのだ。そして、反対側は完全に閉じていたと思う。器用な事にな。視覚をほとんど断った状況で戦う事が、有利か不利かどうかなどここで語るまでも無いが、そんな状況で現役の芸人やアリサ達と対等? 否、それ以上に立ち回れたと言うのが驚きだ。

まあ両目を閉じてしまえば停電になった瞬間も分からぬし、何よりどちらか片方を開けていないと暗くなった時に閉じた方の目が慣れぬ筈。故にこれは推測ではないと思う。

そして、放ったネタで見事停電が起こす事に成功したら開眼し、司会の腕に輝く腕章を頼りに素早く後ろから近づき、ボイスレコーダーの妹の声を意図的に司会に聞こえる様に再生し、驚かせて落としたのだ。前回司会も言っていたが、これは過去に白川が今昼は最高の司会をする味噌に会う際、何か言ってやれと妹に言った時偶然放った

「今でも好きなの」

と、言う音声を聞かせ驚かせて落としたと言う事だ。なぜ一切触れる事なく落ちて行ったか? その理由は、蓋を開けてみれば簡単だったのだ。そう、白川は司会を

【音で落とした】

のだ!! フッ決まった……見事な程に……今私は感動で打ち震えている……! そうか、アリサはこんな気持ちの良い事を前回行っていた訳か。癖になるな……おっと、私とした事が悦に浸っていた……済まぬな。

その音声を司会の側で再生した時、当然殺意はあった筈だ! それをただのいたずらや偶然でしたと言い訳出来ようがない。だが、事件は暗闇の中起こった。舞台に向けて撮っていたカメラでも明確に捉え切れなかったし、犯人の姿も分からずじまいだ。

そして司会は、幽霊を極端に恐れる性格のせいで突然背後に響いた声を予め白川が送ったメールで知っていた妹の死の記憶から彼女の霊が司会に対し恨みを込めて放った言葉と誤認してしまった。

そして、この停電も、その霊的な力で引き起こされたものだと信じて疑う事無く半狂乱。あろう事か舞台の縁で頭を抱えしゃがみ込んでしまった。結果バランスを崩し地面に激突てしまったのだ。

ただその音声データは、妹が司会に向け本心を伝えただけ。しかも好きだと言っている上に、彼も一度白川から聞かされ記憶に残っている筈。故に冷静であれば、

「ん? 何かおかしい? あ! この声、聞いた事あるぞ?」

と、疑う機会もあった筈。だが、ここで考えて欲しいのは、突然暗闇になり動揺している中、後ろから声が聞こえたら皆さんはどうするだろう。停電と背後に響く突然の声の二重攻撃で相当肝が据わっている方であろうが少しは動揺しはしないか? 勿論鋼の心臓を持つ私には効果はない。だが司会は耐えられなかった。そう、突然起こった停電の中、心の平静は保てる筈もないのは仕方のない事であろう。彼は臆病で、極度の幽霊嫌いだからな。

だが、この言葉自体は妹の純粋な気持ちから放たれた言葉。まさか彼女自身もそれが殺人のトリックに使われるとは夢にも思っていない筈だ。故に共犯ではない。これは白川単独の犯行だ。

そして、その音声データは白川のネタを作る材料の中に入れていた様だ。何故別のプレイリストに入れなかったのだろうな? そこまでは分からぬがその結果、聞き込み中のアリサの前で身の潔白を証明する為再生した時に、偶然選択され再生されていた筈。もし気になったら【聞き込み調査】の回で語っているので、遡り確認してほしい。

そのセリフを選択し、後は再生ボタンを司会に近づき押す事で、驚いて落ちてしまったのだ。

故に後ろから近づいたとしても突き落とす必要は無い訳だ。白川はこの臆病者ならでほぼ確実に落ちてくれると信じていたのだろう。

この辺はまた後で説明するが、アリサはこの状況で「何もしないで落ちたのぉ?」 と勘違いしていたが、こう考えてしまった時点でこのトリック解除への道は途絶えたも同然なのだ。私の様に何事も柔軟に考える事で、別の視点から真実を見出す事も出来る訳だ。まあこんなカッコイイ事を言ってはいるが、この真相に気付いたのはごく最近の事だ。それは前回、

「後ろから声がした」

と言う言葉を司会の口から聞かなければ、この私ですら気付く事は出来なかっただろう。そう、あの時警察署の霊安室に移動可能だったのは私だけ。そう、

語り部的視点】

名神視点からでなくてはこのトリックを解く事は出来なかった筈だ。卓越した推理力を持つアリサでもそこまでは描けなかった。彼女には私の様に瞬間移動する力も、誰にも気付かれずにその人の近くで会話を明確に聞き取れる能力も無いからな。この立ち位置は非常に便利である。どこへでも移動が出来るし、ぶっちゃけてしまえばチート能力である。非常にずるい立ち位置である訳だが、これは物語を進行するにあたり必須の能力である故にそれを封印する訳にはいかない。これからも使い続ける事を許してほしい。

ぬ? そんな凄い力があるのなら白川が登場した瞬間既に怪しいんじゃない? とかも分かっていたんじゃないかだと? フム鋭い指摘であるな。お主は天才か? だが残念ながらそこまで語り部的視点は万能ではない。ここは非常に複雑で精密でハッターピーンの粉の成分より難解な所であり、全てをを説明しようとすると恐らく1京文字は必要となる。それを語り終えるのに不眠不休で語り続けても20年以上掛かる上に、喉の消耗が激しくなるので勘弁して頂きたい。

そしてもし、またどうしてもアリサが解けない局面にぶち当たった場合はこうしてこの視点を利用し解説する事もあるかもしれない。その時は今回とは比べ物にならない程に語り力は増している筈であるので期待して欲しい。

おっと、又話が脱線したな。さっさと戻すぞ! そして、白川もカメラで撮影されている事も分かっていたから目立った動きはせずに目的遂行する為にも仮に司会から

【絶対に押すなよ? 絶対に絶対にだぞ?】

と言われても押す事は無かっただろう。いや? もとより始めから触る気は無かった筈だ。だから司会の着る粘着性の高い表面の素材のジャケットに、指紋や軍手で押した時に付く筈の軍手の網目の跡や、そこから出た糸屑すらも一切付いていなかったと言う訳だ。

司会の後ろまで近づいたのは、司会にのみ聞こえる様な音量で再生したという事だな。その辺の音量調整も事前にしっかり行った筈だ。

しかし、自分の仕事道具を殺人の道具として使うとは……まあ実際は生きていた訳だが……だが、虎音に早々に移動させられた為に生死の確認は出来なかったお陰で、白川自身ももう死んでいると思い込んでいる様だ。

そして、確実に驚いて落ちるかは半信半疑だったろうが、予めメールで妹が自殺した。と、言う嘘を伝えた事は伝えたし、偶然梓の幽霊のネタでお漏らしまでして驚いていた様を見た彼なら、その内容が伝わった事も分かったし、落ちてくれると確信した筈だ。

しかし、白川もこの犯行で妹の司会に対する想いの声を再生する時、多少は辛く感じただろう。だが、それ以上に、敢えてその声で司会を落とす事。思い出せば辛くなる様な音声までもを殺人のトリックに取り入れたと言うのか? どんな物でも自分の目的遂行の為なら使うと言う事なのだろうか? そこから彼の精神力は途轍もない事が分かる。そして、その犯行の引き金となった停電も間違いなく白川の仕業。

これはアリサも推理していたので割愛しても良いのだが、おさらいの為に語る。彼女が白川の前で勢い任せで放っていた推理は実は当たっていたのだ。聞き込みで関係者の荷物検査をしていた時に白川が所持していたマルチリモコンで会場内に設置されている数台のエアコンの設定温度を下げて回り、使用電力を上昇させ停電寸前にしていたのだ。朝と昼休みにも二回程停電が起こっていたな。あれも当然白川の仕業。

そして、前日にも何回か起きていたとスタッフが話していたが、それも彼の仕業だった。理由は何台最低温度にすると停電するかの実験だろう。考えてみれば本番当日に初見でそれを実行するにはリスクが大きすぎる。ただでさえリスクの大きい犯行を行うのだから、少しでもそのリスクを削減したいと考えるのが普通である。

 前日は、会場に舞台準備のアルバイトとして紛れ込み、エアコンの位置の把握や、何台最低温度にすれば停電するかのリサーチを行い、会場内に設置されているエアコンを何台か最低温度にする事で、停電自体は起こりえるという事を知り、犯行を決意。

まあ、そんな事を仕事中にやっていたら怪しまれないか? と言われそうでもあるが、このスタッフは元々ビッグエッグのスタッフではなく、求人広告で募集されたその日限りのアルバイト。

皆現地集合で作業終了時に給料取っ払いで、受け取ったら解散のメンバーだった為に余程不審な動きさえしなければ怪しまれなかったのだろう。

そして、本番では会場内の電気使用量も準備だけの前日に比べ少し多くなると仮定する。そうなると前日のデータは余り当てにならない。それでも当日まではそのデータで停電寸前まで機械操作する筈だったと思う。

だが、当日は選手として入るには勝ち残らなくてはいけない。と、思っていたが、異例の暑さの為受付がドーム内に変更された事で、エントリーが終われば中を自由に移動出来、当日もエアコンの操作が可能となったのだ。

この、当日も実験が出来ると言う偶然を利用し、アリサより先にエントリーし、内部のエアコン温度の見回りを行い、温度が戻されている物は下げて周り、当日なら前日とどれ位違うのか? 等の検証も行え、実際どの程度で落ちるかの実験までも行えたのだ。これにより、より確実性は増した筈。

当日は照明や施設内の色々な機械も起動する為、使用電力も準備だけの前日とは段違いである筈だしな。そして、これもアリサも推理していたが、2回戦直前の休み時間終わりに、みんなが外に出る時に白川が何気なく

「誰も居なくなるしエアコンを止めるか」

と言って何やら操作していたが、実はその時、停止ではなく設定温度を最低に下げて出て行ったのだ。何と言う大胆な……そう、あの空間は誰も居ない中、18度を保っていたのだ。それは、アリサの2万ポインツでも停電が起こらなかった事を考えれば、27度のまま試合に臨んでも停電には届かないと判断し、少しでも使用電力を増やそうと考えたのだろう。そして、白川は何回かトイレに行くと言って出て行っていたが、実はトイレには一切行かずに他の控室のエアコンの温度が戻されていないかの確認の為に出回っていたのだ。

彼は、前日2回に当日の2回の計4回の停電時の最低温度にしたエアコンの台数を数えていて、そこから逆算し、残り使用可能電力を頭の中に入れておき、本番でお笑いを測定する機械の作動で停電する様に細工したのだ。4回もやれば大体どれ位で落ちるかも分かってくるだろう。

そして、その努力も実り、彼が目を閉じ暗闇に目を慣らしてから数分後に、彼自身のネタの直後の笑いでブレーカーを落とす事に成功したのだ。

……彼はあの瞬間舞台の上で、どれ程の頭を使っていたのか? それも視覚をほとんど断った状態で、客に通じるネタもしっかりと考えていた訳だ。想像するだけでも恐ろしい。

だが1つ分かる事は、これが幾ら頭が良いとしても、それだけでは実現出来るレベルの殺人では無かったという事なのだ。そう、幾つもの偶然が作用している。そう、白川の思惑通りに起こっているのだ。そして、それを前提で行動し、それら全てを味方に付け、最後は実力のネタで停電させ、証拠不十分の犯罪を行ったのだ。彼がその頭脳をもってしても敢えてこのやり方を選択したのは何故なのか? 私の推測を語らせていただこう。

それは、これこそ彼が最もやらなくてはならない事だとすれば? 妹の受けた悲しみを、妹の声で晴らす。と言った所なのだろうか? そう、

【お前が選択し、掴み取ったその栄光の大舞台の正に司会進行中、かつて愛した女が純粋な気持ちでお前に伝えた本心が込められた声を恨みの言葉と勘違いし、志半ばで惨めに怯えて死ね!】 

と言う強い思いが込められた殺人なのかもしれない。これこそが敢えてこの危険な犯行を選んだ理由なのかもしれない。

このボケ人間コンテストの司会の仕事は、彼の躍進への第一歩。その仕事を無事達成すれば、第12回、13回と続投も考えられる。そこから色々な司会の仕事のオファーも来る可能性も。そう思って進んでいた彼の歩み、順風満帆の第一歩を踏み出させ、次の歩も当然進めると思いきや、その先は奈落へ一直線の落とし穴が存在した。と味わわせる為に……喜ばせ、頂へと向かう花道だと信じていたのに刹那どん底へと堕ちて行く様を一番近くのVIP席で見る為に……? その為だけに予選を逃げ切り、決勝まで進み、停電する直前に司会を舞台の縁まで移動させ、音声のみで落とすと言う、ほぼ不可能に近い犯罪を……? 妹の無念を、兄、白川修として、持ちうる全ての力で晴らすと言う強い信念、想い、それだけの気持ちが彼をここまで動かしたと言う事だろうか? 更にその様をテレビで放送される事で、司会の訃報を知れば妹も彼への思いが薄れて行ってくれればとも考えたのだろうか? そこまでは分からない。

しかし、ランダム再生すれば妹の音声データが再生される事もあるだろう。故に、新ネタを作る度に何回かその声を再生されてしまったと思う。それでも彼は使っていたのだろうな……それが偶然再生される度に、司会に対する恨みを忘れない様していたのかも知れぬ。

そして、これらの犯行を全て実行するには確実に必要な物がある。それは、

【運】

だ。それも途轍もない程のな。彼はそれを持っている可能性がある。恐らく彼も漠然とであるが感じているのかもしれない。己の強運を。 

思い出してほしい。控室で七瀬が自己紹介した時に、サイコロを2つ振り、2連続で合計7を出して見せると言い、達成した。

そして何故か白川も張り合って、2つ同時に4を出し、それを連続で起こした。だが、この結果、七瀬は称えられ、白川は笑われた。

だが、よく考えて欲しいのだ。

あの勝負、本当の勝者はどっちだったのだろう? と言う事をな。これは確率論的に言えば、間違いなく白川の勝ちなのだ。どういう事か? 説明しよう。

 サイコロを二つ同時に振ると、36通りの結果が出る。その内、七瀬が起こした、2個振って合計が7になると言う結果は、1,6 2,5 3,4 4,3 5,2 6,1の6通り。それを2回続けて起こすには、1/6×1/6で、確率は1/36となる。これはこれでまあ低い確率だ。狙って出せる物ではない。

だが、白川の起こした事はそれよりも低いのだ。遥かにな……そもそも4のゾロ目が出る確率。その時点で1/36なのだ。これだけで、七瀬の起こした奇跡の確率と全く同じなのだ。それを2回と言う事は……? そう、2連続でだ。それはこうなるな。

【1/36×1/36=1/1296】

だ。そう、白川がやってのけたあの結果はとんでもない事なのだ。そして、その事実を七瀬は瞬時に気付いたのだ。だから皆が2連続で4のゾロ目が出た事を笑っていた中、七瀬だけは唖然としていたのだ。

七瀬はあの時、白川は自分以上に強運の持ち主だと悟ってしまったのかもしれない。

言われてみれば、受付の位置が変わって早い段階で会場に入る事が出来たのも、予選で500人もの筋肉女達から逃げ切ったのも、予選2回戦で正しいプレートを早い段階で取れたのも、決勝1回戦で何も答えなかったのに失格せず、司会の気まぐれでルールが変わったお陰で先へ進めたのも、最終的に自分の笑いの力で観客を沸かせ、狙ったタイミングで停電を起こせ、司会が興奮して舞台の隅に移動してくれたのも運。

そして、ボイスレコーダーで妹の声を聞かせた後にしっかりと驚いて、飛び降りてくれたと言う奇跡も何もかもが運だ。この偶然を全てを起こせる事が出来る人間は少ない筈。

そして、今まで誰にも白川が運が良いと言う事を七瀬以外に気付かれなかったと言う事実も彼の強運の一つである。

一体どう言う事? と仰る方に説明しよう? それは、彼の腕章の番号でもある4と言う数字である。

白川は予選を勝ち抜いた後に渡される腕章の中で、幸運にも8分の1の確率で、4の腕章を引き当てたという事だ。

まあ実際に日本では、4は死と同じ響きの為に不吉な数字とされているし、良いイメージは無い。

「4なんて不吉じゃないか! これのどこが幸運なんだよ!」

と仰る方も居るだろう。だが、この特殊な状況下では全く逆なのだ。それによってどんな結果になったか? これも語ろう。

彼は腕章でその数字を引き当てたお陰で、七瀬に張り合いサイコロを振った時に、2連続でゾロ目を出した奇跡も、数字が【4】だった為、その凄さが消え、実際は稀にしか起こらない事を達成した事実より、4を4回も出した不幸な奴。と、言う印象を植え付ける事に成功したのだ。

もし彼の腕章の数字が7であった場合、そして、出目も7だった場合、それが2連続で起きてしまったら、印象は全く違った筈だ。いや、7でなくてもそうだろう。ここは4以外でなければ絶対に駄目だったかもしれない。4だからこそ誰にも疑われなかったと言えるだろう。

そして、4でなければ、アリサに

「あれぇええ? もしかしてぇ? 白川さんって強運なのぉお?」

と気付かれる可能性も出て来る。そうなってしまえば、鋭い彼女の事だ。この事件の真犯人は白川なのでは? と疑い始めるだろうな。そして最終的に、本来のミステリーのセオリー通り、一般人でヒロインのアリサが、優秀な警察を差し置き、解答編で悠々と独壇場で白川を追い詰める役目を果たし、ここでの私の解説も無かった筈。

 だがそれに気付く事無く、白川との勝負に負けたアリサは、潔く勝ちを譲る事なくあろう事か暴走を始めた。見切り発車で犯人扱いしてしまった。それも言い掛かり紛いの事でな。彼の運の良さも、アリサの突発的な暴走状態まで察知する事は出来なかった様だ。

まあそれでも始めの内はいい加減すぎる内容だったが、彼女特有の何でも見通すと言う力がある事を耳にし、事態は一変する。

彼も内心相当焦った筈だ。だがそれを表に出さず、触られたら最悪全て見透かされてしまうという事態も想定し、彼女に触れられないように努める。

実際の能力は、その人物のステータスを数値化された物と、特技。他にも弱点等の内部情報を見るだけで、白川の思惑や記憶までは見通せない。だが、それを知っているのはアリサと皆さんのみで、白川は相当恐怖した筈。故に、アリサが油断してくれる為に

「俺の負けでいいよ」

と言う他なかった。ポイントは、

「俺がやりました」

ではない所だ。これなら自白とも取れるかもしれないが、そうではなく、しつこいアリサに辟易し、駄々をこね、優勝を譲れ! と言った我儘幼女にわざと負けてやったんだ。仕方ねぇ。優勝を譲ってやるよ。と言う解釈をされる場合もある筈。それに、アリサの目的も、白川を犯人として捕まえる事ではない。実際は賞品を奪うのが最優先で、その口実だったのだ。それを何となく白川も気付いたのだろう。それに舞台上はカメラで録画されている事も知っている。

だから自白は絶対にする訳にはいかない。

それに、これはアリサが私欲でろくに考えをまとめる前に見切り発車で始めた推理ショー。

そう言い訳するには十分であった筈だ。だがそれでもあの場面では恐らく

「俺の負けでいいよ」

以外の逃げ道は無かっただろう。 

何と言う機転の良さ……そして、彼は最大の賭けに出た。その賭けとは、

「どんな人間でも生きていていいのか?」

と、言う子供にはキツ目の質問。白川も当然

「そうに決まってるでしょ?」 

と返ってくると思っていた。ほんの少し程度の時間稼ぎ程度で終わるのだろうと思っていた。それでも次の矢を放つ為に、苦し紛れでアリサの気持ちを揺さぶるつもりで言った言葉だ。だが、その言葉が意外にもアリサに刺さってしまった。そう、その言葉を聞き、斉藤隆之を真っ先に思い浮かべたアリサ。彼はアリサにとってはこの世界で唯一生きていていいと思えない人間だったのだ。その理由は幾つもあるが、今回竜牙に逆歯刀の話を聞き、自分の愛する男が死の淵に立たされた事実を知り、更にその想いは増していた。

奴の作り出したユッキーさえ無ければ、それを作り出した男さえいなければ! と言う事だ。一般的に現代なら人の命を人が奪っては駄目と言う事は当たり前だ。

だが時代が変わればその常識は無くなる。例えば戦国時代の様に人が人の命を多く奪う事が一つのステータスになる様な、それで英雄と呼ばれる様なおかしな時代もあるのだ。そんな時代に生まれた訳でも無い普通の幼女が……一人の男をこの世から消したい。とまで、思う事が出来てしまうのだ。

そこにつけ込み、アリサを責め立て、触られるという最悪の事態も回避。そして、畳み掛ける様に賞品をやるとアリサに持ち掛け、頭の片隅に残っていた万物調査を使おうという考えを失わせ逃亡する事が出来たのだ。

アリサも決勝の舞台でクラスチェンジを果たし、完全回復していたので余裕で白川にも使用できた筈なのだから。

常人なら、あの状況下で頭が真っ白になる。

そして、アリサの未知の能力を恐れ、狼狽するだけで彼女が圧倒的に有利だった筈。

だが、アリサは敗北した。例えるならそれは、洞窟に閉じ込められ、次第に薄くなっていく酸素にも動揺せずに辺りを観察し、髪の毛一本程の隙間しかない岩の割れ目を見つけ出し、そこから脱出の糸口を見出す様な奇跡に近い出来事を、自らの運と実力で引き寄せたのだ!! そう、それは彼が芸人で、アドリブの達人。

10年間の間、色々なシチュエーションの漫才やコントを幾つも創り上げて来た経験から見出した、たった一つの逃げ道。

例え困難な出来事がリアルで自分に起こったとて、俯瞰で捉え、まるで新ネタを考えるかのスタンスで、まるで仕事をしているかの如く最適解を導き出す事は彼なら容易だった筈。

彼のネタの作り方を思い出してほしい。ランダムで出て来るキーワードや、台詞の組み合わせの辻褄を合わせ、ネタにする様な無理難題を幾つも幾つも実現してきた超人じみた脳を持つ。それを応用し、実際に逃げ切る解を導き出し、台本を読む間も練習する間も一切ない中で動揺する事無く、脳内台本通りに演技をする事が出来たのだから……完璧に……正に【芸は身を助く】だ……そして、アリサだけでなく私も彼に敗北した。そう、彼はキツネの鳴き声の本質を見抜き、使い分け、私の的確な突っ込みを見事さばき、私の頬を真っ赤に染めてしまう程、博識な動物の鳴き声マスターでもあった。くそぅ思い出すだけでも忌々しい……! 結局彼は、お笑いのコンテストで優勝して獲得した賞品と引き換えではあるが、アリサの追及を逃れ、警察からの長時間の拘束を回避する事が出来たのだ。

そう、彼は色々な障害をくぐり抜け、更にアリサの万物調査までも回避出来たと言う点でも、運の値は七瀬を超えているのかもしれない。

アリサの知的探究心は尋常じゃない。それを諦める確率は、4のゾロ目を2連続で出す以上に難しい。

そこから逃げ切ったのだから、間違いない。

この機転の良さや、運の強さ。そこから推測するに、彼のスキルは、賢さと運の限界突破を所有している筈だ。

そもそもこの計画、決勝まで進める前提で練られた計画なのだ。それ以前に停電するかどうか実験し、停電する事を確認出来なければそこで計画は終了。更に本番当日に会場で前日起動台数のずれの確認が出来なければそこで中断してしまう危険性までもある。

そしてこれから犯罪に手を染めるという後ろめたい気持ちがある筈なのにそれに気負いする事なく、大勢が見る大舞台で、初見の画像のお題で大爆笑をかっさらい、機械を壊すまでの破壊力のネタを生む程の絶対のお笑いに対する自信、矜持。そして、土壇場で数多の運まで味方に付け、常人ではほぼ達成不可能に近い犯罪を成し遂げてしまった。

七瀬を超える運の強さ。そして驚異のアドリブ力。それを併せ持つ男。もし自身でもその運の強さを把握していて、それを有効利用して行っていた犯罪であれば、恐らく彼は史上最強の犯罪者であろう。まあ、その真実までは分からないが……これが、グレーゾーンのボケ担当の白川修の真の正体だったのだ! 私はスカウタァが治ったら真っ先に彼を見たいと心から思う。一体どんなスキルを持てばこんな男が出来上がってしまうのか? 純粋に知りたいからな。

 そして、彼を野放しにしてしまった事でこの先また何か起こってしまうかもしれない……杞憂であれば良いのだが……これは逃がしたアリサの責任だ。しっかり責任を取らなければならないのではないだろうか? 頑張って欲しいと思う。

そして最後に彼のネタの作り方は、ボイスレコーダーのランダム再生で出た台詞と、サイコロの出した舞台で作り出す事は既にご存じの筈だが、そんな作り方で10年も続いていると言う事実も、彼の実力だけでは説明が付かない。ランダムで出たお題を組み合わせて作っていると彼自身が思っていたネタも、もしかしたら彼の運の良さで、自然と面白いネタになる様な組み合わせを、笑いの神、勝福帝ツル・ベーが選定し、引き当てていただけなのかもしれない。まあ流石にそれは推測の域を出ぬがな……と、これが真相だ。完璧に推理出来た方はいるだろうか? まあこの真相が正しいとしても司会は生存していた訳だし、白川を殺人罪では捕える事は出来ぬ訳だが……せいぜい殺人未遂止まりであろうな。そして、私の仕事はここまでだ。ご静聴感謝する。ではさらば!

「ふーん、じゃあ事故なんだ……これからは気を付けてね? また興奮した時に我武者羅に走り回って舞台の端っこで変態ポーズで立たない様にしなさいね?」

「そうですね……気を付けます」

私の書いている小説です

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警察署霊安室

警察署霊安室「夜船さん許してくれえええええ……ハッ? ここはどこだあああああああ?」

味噌門太は警察の霊安室で目を覚ました。

 そう、彼は生きていた。転落の際、衝撃で少量の尿を漏らしてはいたが、それ以外は平気へっちゃらだった。

彼の生への執着は凄まじいな。暗闇になり舞台から落ちる時に本能的に放尿して、その凄まじい放出力の勢いで少しでも地面に衝突する衝撃を和らげようと考えたのだろうな。天晴である。

だが、残念な事に彼は、尿を殆ど出し切った状態であった。故に少量だった為、下着と床を汚した程度で終わったが、

【膀胱全開フルバースト状態】

であれば、一時的に空中を浮遊出来る程の勢いを出せたかも知れない。そう、何せ彼は、おしっこの達人なのだから……! その上、これと言った後遺症も無く、すぐ仕事に復帰する事すら出来る程である。相変わらずのガバ検死である。

まあ考えてみれば舞台の高さは結構高いとはいえ3m程。その高さから落ちて死ぬ方が運が悪い。

だが、彼を検死した鑑識の美薬虎音。彼女は脈を決してとらない。それは彼女は死体を見ただけで何人もの被害者の死を当ててきたから。

だが、どういう訳か前回のホテルの事件と今回の司会転落事件では偶然立て続けで外してしまったのだ。

そのどちらもアリサと関係している。これが何か彼女の観察眼を狂わせる様な影響があったのだろうか? そこまでは分からぬが……今までは彼女の経歴に一切の傷が無かった為、自由な髪型や一般の鑑識にはない特権を与えられてきたが、これ以上そういうミスが続く様なら一般の鑑識に格下げされるかもしれない。そんなリスクがあったとしても彼女が脈をとる事をしないであろう。

脈をとる事は、男性と付き合うと同じで、人生で一度もした事がない。何故そこまでそんな厳しい縛りを続けるのか? と聞かれたなら虎音はこう返すだろう。

「長い事やっているガル。その一流ならば、ちょっと見ただけで分かるガルよ♡」

とな。確かに正確に分かっていた時期もあった。だが、前回と今回の2回連続で外れる様になった。

それでも彼女は脈をとらないだろう。何故なら、彼女の名前は、美薬虎音。

【みやくとらね→みゃくとらねえ→脈取らねえ】

なのだからな!! 名前とはそういう物なのだ。この物語を創設せし神が、その人物の性格、行動までもを決定、限定、制限してしまう程に強制力が高い物。

故に伊達や酔狂でなく、この人物に相応しい役目を全うする為、明確にする為に、神が授けたという重要な物なのだ。 

仮にこの名前でうっかり脈でもとろうものなら、彼女は憲法違反で逮捕となる。いや神法違反であった。失敬。更に神裁判所の地下室で厳しい拷問も待っているとか待っていないとか……おお……口に出すだけでも恐ろしい……それに前回の被害者である真田行照代と言う女性の事を覚えているだろうか? 前話で毒入りの野菜を食べ瀕死になった女性である。実はこの名前にも秘密が……彼女は、

【真田行照代→まだいきてるよ】

という名前であった為に、倒れていたが生き返り、そのセリフを言う為に立ち上がり、物語に残った。だから彼女がもし寿命以外の原因で死んでしまったら当然神法違反で逮捕である。

そう、とりたくてもとれないのだ。神にこんな名前を賜り生まれてしまったばかりに……悲しき定めに立ち向かった鑑識。

鑑識として当然の【脈をとる】というテクニックを縛った上での検死作業は生半可な洞察力でなくては出来ない。

それを今まで難なくこなしてこれて、長き間鑑識のリーダーを張っているこの女。間違いなくこの宇宙で世界一優秀な鑑識なのだ。

 ところで、なぜ彼がここに運ばれたのかを一応語っておこう。

警察署に遺体が安置される場合、主に突然死や不慮の事故などで亡くなった人が死因や亡くなるまでの事件性などを捜査する為、引取りまでは警察署の霊安室に安置される。

事件性があると分かり次第に解剖へと進む訳だが、その死体引き取り前に目覚めた為に何とか間に合ったのだ! 虎音は死体が大好きである。現場で沢山の人が見ている所では思う存分見る事が出来ない。故に碌に検視をせず、取り敢えず死亡しているとだけいい加減な報告をし、後でゆっくり霊安室で死体を眺めつつ検視する予定だったのかもしれない。これは長年活躍している彼女のみが与えられた特級鑑識特権の一つだ。

そんな彼女特有の権限のお陰で、司会は解剖され、お漏らし癖があるという事が世界中に気付かれる前に助かったのかもしれない。

「一体ここはどこなんだろう」

門太は、起き上がり歩き回る。

「うーん。え? きゃあああ」

それを居眠りしていた見張りの女性が気付き驚く。

「あ? 人だ。ここはどこなんですかぁ?」

間抜けな声で尋ねる。

「死体が動いたー」

「死んでないですよ! 生きてます生きてます! ほら足もついてますし……ありゃ……また漏れちゃってる……」

下半身に意識を向けた時、自分の下着が濡れている事に気付く司会。

「え? 漏れちゃって? 下半身を見ながら言っているし、もしかしておしっこが漏れちゃったんですか?」

「ち、違うんです! モリモリです! そう! 元気モリモリィ! です!」

「はあ。下半身がモリモリって……ちょっとお下品ですよ……」

「ああああああそう言う事ではないんですうううう」

「本当ですか? じゃあすぐに知らせますね」

「誰にです?」

「医師です、解剖する為ですね。もうすぐ貴方を引き取りに来る筈だったんですよ」

「えー嫌ですよ」

「ですから息を吹き返したという事で連絡するんですよ。安心して下さい」

「あーよかった。ところでここは?」

「警察署の霊安室です。あなたは死体として運ばれてきたんですよ。鑑識の方が、

「舞台から落ちて確実に死んでるガル」

ってすごい剣幕で仰っていたので……それを信じてここに安置していました」

「そんな事が……確か……そうだ! 白川のネタの後、点数が表示される前に暗くなって……! そうだ! 後ろから夜船さんの声が聞こえたんだ!」

「夜船さん?」

「はい。僕の元奥さんで、一昨年とある理由で別れたんだけど、1週間前に彼女が自殺したって内容のメールが夜船さんのお兄さんから来て……」

「へえ……良く分かりませんが……」

「そんな、今はこの世に居る筈のない彼女の声が、後ろから、そう

『まだ好きなの』

って言う声が響いたんだ。

暗くなったあの時に……ひいいい……今思い出しても怖いよおおおお」

「しっかりして下さい」

「はぁはぁ……すいません……もう大丈夫です」

「落ち着きました? じゃあ会場までお送りします。もしその件でカウンセリングが必要であれば、精神科医に連絡いたしますが?」

「いや、そんな暇はないよ。会場では大勢のお客さんが僕の司会を待っているんだ」

ほほう? まだ仕事する気があるというのか? 中々仕事熱心な男である。

「そうですか? では体のどこか痛くないですか? 検査の為に病院に寄って貰いますが」

「大丈夫ですよ。結構心配性ですね。でも多少痛いとしても病院には行きません。早くいかなくちゃ。それより、下着の替えと何か飲み物が欲しいな。汗でびしょびしょで……寝汗かな?」

汗と言うよりは……おしっこのせいで汚れたのだろう?……いや、まああれも汗みたいな物だな……そう言う事にしておこう。そして、またもおしっこの元を供給する気か? 飲まなければ出さずに済むのに……不思議な生き物だな……司会と言う種族は……

「そうですか? 分かりました。では、更衣室で着替えして頂いてから自販機に寄ってから会場へ行きましょう!」

「何から何まですいません……」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「待っててくれよ観客達いいいいいい」

ダダダダダッ

味噌門太は車から降りて会場内に戻ってきた。そして、舞台を目指し走る。それをアリサが発見する。

「あっ司会さん? 生きてたんだ!! 良かったー。おーい!」

その声に足を止め、舞台の下にいるアリサを見る。

「あれ? 6番の子じゃないか? 駄目だよ抜け出しちゃ! 舞台上に戻って! 早く!!」

「あのね? 残念だけどもう私が、もう2位以下との圧倒的な差をつけての優勝をしたのよ。戻るのがちょっと遅いわよ!」

息を吐く様にすんなりと滑らかに嘘を突くアリサ。

「優勝? 君がかい? おめでとう! ……でも、君なら納得だね。凄かったもんなあのネタは。

僕ね、ビデオに録画されている筈だから君のあのネタを何回も見直して勉強しようと思うんだ。色々と芸人の知り合いはいるけど、その中でも君のネタが一番面白かったからね」

「え?」

ちょっと顔を赤らめるアリサ。

「実は僕もお笑い芸人だったんだ。あ、今もか……でも、いつの間にか司会の人って言われる様になっちゃって……もう誰も芸人として……そう【勇敢メガネ】の突っ込みとしては誰一人見てくれないんだよね……まあお笑いの勉強とかもここ5年位一切していないから素人同然かな……でも、僕も人をあんな風に笑わせたい。そんな気持ちが君のネタを見た時に湧き出てしまってね。相方のメガネサトシと連絡を取って基礎から勉強し直しだ」

「勇敢メガネ?」

「僕達のコンビ名さ。相方と二人で2日掛けて考えた最高のコンビ名だ」

「そうなんだ(そう言えばこの人元銀行員だもんね。そこから勇気を振り絞って私達の世界に入って来たんだっけ。だから、勇敢……か……)」

ベテラン芸人の風格を漂わせ話すアリサ。」

「そして、僕も20000ポインツを超える様な凄いネタを自分で作りたいんだ。だから、あのネタをお手本として繰り返し見て勉強させてもらうよ! 第12回目は僕も選手として出場したいな」

司会はそんなアリサの嘘をあっさり信じてしまう。まあアリサも健闘はしたから一切疑い様がないな。

「よ、よせやい」

照れ隠しでぶっきらぼうなセリフで返すアリサ。

「じゃあお別れだね。また来年もあのキレのあるネタを披露して欲しい! そして僕もライバルだ!」

「はいっ!」

「相変わらずいい返事だよ! 気合が入る!!」

「で、今から帰る所なのよ。達者でね!……あっ! そう言えば暗くなった時に落ちたでしょ? あれって誰かに押されたの? カメラの映像見たけど暗かったからはっきりとは見えなかったけど、どうしても押された様には見えなかったのよねー。ねえ、思い出せる?」

早く帰りたいのだが、もやもやした事が一つあったので聞いてみるアリサ。

「うう……」

だが、黙りこくってしまう司会。

「あれ? どうしたの?」

「……誰にも押されてなかったよ。そうだよ……暗くなったせいで僕がバランスを崩して落ちてしまっただけだよ」

ぬ? 何故か霊安室で話していた事を言っておらぬな。一体なぜだ? もしここでその事を言えば、アリサが真犯人の行ったトリックに辿り着けるかもしれないと言うのに。彼なりの理由があるのだろうか?

 しかし、この司会の言葉で既に皆さんは気付いたであろう。

犯人は白川で間違いないという事を。

しかも、アリサが急ごしらえで放ったあの言いがかりの様な推理の殆どは当たっていたという事もな。

本来アリサがかっこよくこの話をして犯人を追い詰めて逮捕と言う流れになる筈であったが、この様子ではその機会は既に失ってしまった様だ。

ウーム……仕方ないな。代わりに私が語らせて頂こう。

 

私の書いている小説です

リンク先はブログより4話ほど進んでいます。先が気になる方はご覧下さい。

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真の優勝者決定

「と、まあこんな話だ……?」

「wwwww」

「おいテメエ! 何笑ってやがる? すぐさま死ねよ!」

「健やかに真っ直ぐに生ぎたい!! ご、ごめんw真面目な話の最後に、みそは耐えられなかったw」

「まあ言われてみればそうだな……だがネタでもねえ所で笑われるのはイラつくな……まあ下半身が地面にめり込んでるようなガキだ。しょうがねえ許してやらあ」

「ちゃんと出てるよ!!」」

「ふう、疲れたぜ……だが断っておくが、それでも俺はあいつを殺してはいない。そこの所はしっかりしておきたいんでな。それに証拠が一切ないよな!?」

「ふうん、これでも殺すつもりがないってのはお人好し過ぎるわ。妹さんが自殺未遂までしたんでしょ? もう確定的に明らかね。でも最後のみそおおおおおおって何?」

「あいつの名字だ。味噌って言うんだ。忘れちまったか?」

「そうか……でも何か間抜け」

「いわれて見りゃそうかもしれん」

「ねえ、白川さん? もしよかったら最後の叫びの部分、味噌から轟に変えて言ってみて?」

「何でだ?」

「そっちの方が迫力がある」

「必要か?」

「必要」

必要ではない。

「では……こほん……と、轟きいいいいいいいいいいいいいい!」

「す、凄い……やっぱり迫力が違うねえ。それにこのやり取りで文字数稼ぎまでできちゃったし。一石二鳥ね♪」

「文字数稼ぎ? 何だそりゃ?」

「しらない」

「そうか」

お、おおおおそういう事だったのか……アリサはこの小説の為に文字数を増やす事を覚えたのだな?

私は一度もその技術をアリサに教えた事はないのに、彼女自身でその道を開拓し、正しい道へと歩いて行ってくれている……私は感動してしまった。

「でもこの迫力……これでもう白川さんが犯人って言うのは揺るぎないわね? 間違いなくやっているわ。刑事さん捕まえて!」

「何でそうなるんだよ!」

「乙女の勘よ!!」

「滅茶苦茶だなこりゃ……よく考えてみろよ。俺はあいつに決して触っていない。勝手に落ちただけだ。

これで殺人罪になるのかよ?」

「確かにそうです。司会のジャケットはレザージャケットで、もし軍手などで触れたとしてもその跡がくっきり付くような素材で、それでも指紋どころか軍手の跡すら付いていないとの報告でした。舞台上の方も全員調べましたし、物的証拠がない上に、今までの話はほとんどアリサさんの言いがかりです。

彼の優勝が確定して、それを止めるようなタイミングでマイクを奪って始めましたよね?

まるであなたの私欲で、白川さんが受け取る筈の賞品を自分の物にする為に始めた推理ショーの様に感じましたし……確かに根負けして自白みたいな事は言ってました。ですが、彼は、

「俺の負けでいいよ」

としか言っていませんよ?

自白と取っていいのか難しい問題です。これだけで捕まえる事までは出来ないかもしれないですよ?

それに初めて聞きましたがアリサさんの人の事を見通す不思議な能力の話を信じて、弱気になって嘘の自白をしてしまった可能性もあります。

これだとちょっと話を聞いて釈放って感じになるかもしれませんよ?」

何故か白川の肩を持つ竜牙。

「ほう、この刑事さんは話が分かるじゃねえか」

確かにそうだな……突然犯人は白川だ! と、マイクを司会からひったくり叫び散らす行為は、見た人間に良い印象は与えない。

「でもリモコンの……」

「それも彼がリモコン操作している所を目撃でもされていない限り駄目だと思いますよ」

「それに俺が笑いを取って、停電するかなんて誰にも分からんだろうが! 狙って停電するまでの電力を消費させるなんて事は俺には出来ねえよ。全て偶然なのさ」

「でも、出来なかったらそれまで、出来れば実行するって意気込みでこの計画を実行したとしたら?」

「そんな分の悪い賭けなんかしねえよ。この大会は年に一度しかねえんだぜ?」

「それでもそれに賭けた。年に一度しかない大会のどんなルールかも分からない予選を難なく勝ち抜いて、決勝の前に冷房を全開にして、あのタイミングで大爆笑を取り、あの大きな機械を作動させて停電させる。で、暗闇に慣れる為に目を閉じておき、暗くなったら真っ直ぐに司会に近づいて、触る以外の何かをやって落とした。

意図的にね……これが私の考えに変わりは無い!」

「またそれか……触る以外の何かって何だよ」

「今はまだ分からない。でも、そこさえ分かれば犯行は十分に可能よ」

「ちょっと待って下さい! 白川さん何で一回戦の前半は黙っていたんですか? 大爆笑を取るなら最初からネタ披露して顔を覚えて貰った方がいいと思いますよ」

「ああそれは簡単よ。鎌瀬さん覚えてる? 私達が休憩している間、会場のお客さんは、途中停電があったけれどプロの芸人のネタを一時間も見ていたのよ。そのプロ達はドッカンドッカン笑いを取っていた筈よ」

「それがどうしたって言うんだい?」

「白川さんはその温まったお客さんが、決勝1回戦の序盤で、電源が落ちる程の大笑いは起こせないって判断したのよ。

それで1回戦の前半は動かなかったの。実際起きなかったし」

「あっそういえば! 酷いよね、ここの運営。素人も混ざっている挑戦者達が、急に出されたお題に答える様なネタをやる前に、しっかりとネタ合わせしたプロの芸人の漫才を一時間も見せるなんてさ」

「そうよね。後、私達のネタを見て無理な様なら白川さんが動き出すって計画だったのかもね。

決勝の8人の誰かがブレーカーを落とせる程のネタを言えばいいだけなんだから、白川さんが無理にネタを考える必要性は無かったのね。

でも、そうもいかなくなったのね」

「ど、どういう事ですか?」

「それは、私の20000ポインツのネタでもブレーカーが落ちなかった事よ。そこから焦り始めて、白川さん自身も動き始めたという考えが自然ね。

流石にそこまで微調整は出来なかったみたい。結構大きめの笑いが起きなければ停電しない様に設定したんだと思う。

恐らく私の20000ポインツってのは20000人分のポインツだと思う。今満員の3万人位が入っているから、あのネタで会場の3分の2のお客さんに認めて貰ったと思うんだけど、白川さんの、停電した時のネタは、表示される前だったけど、私以上のポイントが表示された筈よ。その前に壊れちゃったからその真実は分からないけどね」

「そんな……なんて事だよ……あの土壇場で、停電の事を考えながら、アリサ兄さんの上を行く得点を取ったってのかよ……芸人としての格が、違い過ぎる……」

膝から崩れ落ちる鎌瀬

「ハッ!! 鎌瀬さん買い被り過ぎだぜ? そんな事ねえから安心しなよw俺はただの普通芸人だよ。

どう考えても長さといいクオリティと言いこのチビの面白い☆☆☆3連星ネタのが上だ。

考えても見ろ! 一年に一度しかない大会の決勝で、本気で競技に臨みつつ、同時にあらかじめ暗くなる事を想定し目を瞑って置き、偶然大爆笑を取り、その時の機械の作動電力でブレーカーが落ちて偶然停電が起き、その後すぐに司会の所に歩いていき何かをやって落とすだあ? マルチタスクにも程があるだろ! バカも休み休みに言いやがれ」

「そ……うだよ。そうであって……ほしいよ。

だってこのアリサちゃんも化け物だし、白川さんもそれに似たような化け物なんて……僕は、エリートだと思っていたのに……余裕で優勝できると信じ込んでいたのに……」

「残念ね。世界は広いのよ。この私よりも上の人もいるんだし」

「ああ宇宙言語を全部マスターしようとしているっていう子か……ググッ……ウッ……ガッハァアアア」

吐血する鎌瀬

「あんたと司会との因縁話。あんな事されて全て許した? ちょっと考えずらいわ。 

これは聞いていないし想像だけど、あんたの笑いをのスタイルをあいつにくたされた。

だからこの観客の中で、自分の定めた規定値までの笑いを取るが出来なかったら、司会の言う通り自分の実力不足を認め、その殺人は起こさない。そう決めていたのよ! これはあんた自身との心の誓約。だから大爆笑を取り、停電になった瞬間にあんたは【許された】と判断し、実行した訳よ。心置きなくね」

「ハッ!! まーた想像かよ……全く感性豊かなチビだぜ。芸人は人を笑わせるのが仕事だ。殺人が仕事じゃねえ!」

「でも思ったんだよね? テレビであの司会が死んだニュースを見た妹さんは、司会の呪縛から解放されるって、新しい恋愛を、そして、新しい芸の道を歩み出してくれるって。そして、元の元気で面白い妹さんが戻ってくれるとね」

「はあー、水掛け論だな。一向に進まねえ。分かったよ。ちょっと可愛いが、飛んでもねえ言いがかり娘だったぜ。

……そんなに賞品が欲しいならくれてやる。そうだろ? それ目当てで言いがかりを付けたんだもんなw

それで許してくれるな? じゃあ俺はもう帰るぜ?」

「本当? それに可愛い!w?♡言ってみるもんね! 司会さん! 白川さん優勝辞退するって♪可愛い私に賞品を下さい! 全て」

変り身の速さよ……刑事っぽいアリサからもう素の小学生に戻っている……やはり彼女の目的は賞品のみだったという事か……しかし、アリサは幸運1なのに、こんな幸運を手にした。

あの言いがかりで、優勝出来なかった運命を捻じ曲げたのだ!! だがその反動で後で恐ろしい事が起こらないか心配になってくるな……

「いいんですか?」

「しゃあねえよ……このチビの「許さねえ」は、本当に怖え。大人の俺でもビビっちまったぜ。じゃあ俺は帰る」

舞台から降りようとする白川。

「ばいばい」

何という事だ……白川が受け取る筈の賞品をアリサの物にしてしまった。

「ちぃょよっぅつぉむぁつぃぬぁすぁい」

ぬ! 蘇我子が怒りながら何か言っているぞ早速翻訳せねば……

訳「ちょっと待ちなさい」

「ん」

白川もその声で階段の途中で停止する。

「はい? あ、蘇我子さん!」

「くぉるぅえうぁづぉうゅゆぅぅくぉつぉぬぁぬぉ? くぉぬぉくぉうぁぅゅゆぅしぃぃうしゅうぁぬぃぅふぅすぁすぃくぬぁいうぁ?」

訳「これはどう言う事なの? この子は優勝者に相応しくないわ!」

「うぇ? ぬぁ、何を言っているのでしょうか?」

おや? 彼女は先程蘇我子としっかり意思疎通出来ていてお題を受け取ったと思っていたが、どうやら違った様だ。そう、今まで蘇我子の言葉を一切理解せずに感覚でやり取りしていたという事だ。確かに女性はコミュニケーション能力が高いと言う。だが、ここまで感覚で応対出来るとはスゲエ―なあ。

「でももうすぐ白川さん帰るし。受け取れるのは私しかいないの! 分かった? 蘇我子?」

「ぬぅぅぅぅぅ」

ぐぅぁくっ、スィィョンヴゥォルルィィィ

しょんぼりと落ち込み席に帰っていく蘇我子。すると? 

「あのーすいません」

「ん?」

「竜牙さんの後輩の刑事さんね?」

「何か用ですか?」

「実は暗闇の時の映像が見られるようでして、持ってきました!」

「何だって!?」

狼狽える白川。

「そういえばこの会場の様子録画してるんだっけ?」

「そうです」

「でも停電の時もカメラは動いてたの?」

「そうですね、内部にバッテリー積んでますから。テレビ局の本格的なカメラですよ」

「そうか、で、それをテレビでその様子を流すんだったっけ? あっ! じゃあ司会のお漏らしシーンも残ってる訳か」

「そうです」

「じゃあ生前の司会の事をテレビ紹介する時、「これが生前の司会です」ってあのお漏らししている瞬間のシーンがを使われるのね……胸が熱くなるわ……!」

「どうしてそうなるんですか? そこだけは絶対に使いませんよ……不謹慎な……でもこれで詳しい所を見られますね」

床に散乱した血液を拭きながら怒る鎌瀬

「じゃあ見てみよう」

そして、刑事の持つタブレットでそのシーンが映し出される……が、黒い画面にアリサの顔が映るだけ。

「期待させておいて……ん?」

 舞台を斜め上から見下ろす形で撮影された映像の様だ。

舞台の縁には、うっすらと蛍光灯の様な物が淵に並んでいて、暗くても舞台だと分かる様になっているが、その上の縁付近でも、蛍光マーカーの様にうっすら光って浮いている2つの物が見える。二人とも右腕にその光る物が付いている様だ。

「うっすら光ってるのは多分腕章ね。蛍光塗料が塗ってあるみたいで、そこだけ光って見えるわ。数字は……見えないわね……あっ! 司会も腕章を付けてるね。その後ろに居る犯人らしき人物も司会と同じ位置に腕章があるって事は、同じ向きで並んでいるって感じかなあ?」

画像は動いているが、二人は一向に動かない。当然暗闇のせいで顔ははっきりしないが。すると……

「あっ! 急に司会が飛び降りた! 私が見た通りだよ。本当だったんだ!! で、犯人らしき後ろの人は、焦る事も無く選手の立ち位置の方に戻って行っているわ。何で急に飛び降りたの?」 

「これで完全に分かったな。あいつが勝手に飛び降りたって事がさ! 後ろの人物が例え俺だとしてもな。まあ俺じゃねえけどな」

「でもこの人は何であんな所に行く必要があったのよ」

「さあな? 大方暗闇で混乱でもして、やみくもに移動していたら、偶然あそこに行っちまって、偶然司会が居たから、あっすいませんって感じで戻って行ったんだろうなw」

「そんな事があり得るの? 暗いのに躊躇いなく真っ直ぐ動いている様に見えるけど……」

「そうなんじゃね? 可能性はゼロではないよな? それ以外何がある? 説明して見せろ! 暗くても良く分かる。この影の人物、司会を押す訳でも叩く訳でもねえ、明らかに殺意らしい物は無い感じだぜ?」

「そ、それは……」

「諦めろ! じゃあな、チビ。俺は帰る!」

そう言い残し、堂々と舞台から降りていく白川。

刑事も、周りのスタッフや選手達も誰一人彼を止める様子はない。

「ちょっと逃げちゃうよ? 犯人」

「……」

無言で首を横に振る竜牙。

「すうううううううううううう」

ぬ? アリサ?

「絶対に諦めないからな!!!!!!!」

クッ、突然大きい声を出すでない!!!

「wwバイバイww御為倒おためごかしのお嬢ちゃんww」

「ハァハァッ……おためごかし? どういう意味? 最高に可愛いって意味かしら? まあ後で一分以内に調べて見よっと」

こうして釈然としないながら大会は終了した。しかし、賞品を貰っているのに、白川を捕まえようとしていたな。

その事はすっかり忘れ、悪を退治したいと言う気持ちが先行してしまった様だ。

「ゆ、優勝は4番が棄権したため、6番の鏑木アリサさんに決定しました!」

-------------------------End of battle------------------------

Alisa win? 55経験値獲得! 1000000YEN獲得!

Item drop! One year's worth rice and TV appearance right with Syuzo Matutani

アリサは約束通り、賞品の米と賞金100万そして松谷修造とのテレビ出演の資格を獲得した。

「うおおおおおおめでとおおおおおお」

「フンガーフンフンフンガー!」

「やるじゃないか面白かったぞおおおおお女の子おおおおお」

「グレーゾーンの白川も面白かったぜえええ!」

観客は歓声と拍手を送る。

「そうだ! お米花咲米とだまってい米どちらにするんですか?」

「そうねえ」

アリサはぜいにくんの絵が描いてある方を前にしてカバンを顔の前に持ってくる。そして……

「おい俺のぜいにく! どっちで仲間を増やしたいんだい? 花咲米なのかい だまってい米なのかいどっちなんだい?」

「さあ選んで下さい」

「ふむ。花咲米は、その炊き上がりの香ばしさと歯ごたえは筆舌しがたく……黙ってい米は炊き立てでも美味しいが、冷めても独特の風味を残し、私の舌を楽しませてくれる……故に……どっちもー」

「駄目ですよ!」

ドドドッ 会場が盛り上がる。

「えー」

(あれっ? うけた♡嬉しい!)

「本大会第1回優勝者の中村ぜいにくん本人も、この優勝インタビューでこのネタをやってまして、ものすごく盛り上がりましたが、それでも片方しか貰えなかったんですからね! 実はあのネタをぜいにくんがやった事が切っ掛けで2種類の米の選択式にして一種類しか貰えない様にしたんですよ。

当初は2種類全てあげようって話だったんですが、運営がぜいにくんのネタを見てから片方にした方が面白いのでは? って話になりまして」

「へえ」

「2代目以降の歴代優勝者も、お約束な事なので初代王者の真似をして先程の件を行い盛り上がっていました。6番のアリサさんは、その事はご存じなかったにもかかわらず、しっかりと伝統を引き継いてくれました。

もう10回目になる優勝者限定の恒例行事です。皆様! 優勝者に今一度拍手お願いします!」

パチパチパチ

「うそー! そんな秘密が? なかなかいいセンスじゃん!」

「で? どっちですか? 決められないのであれば花咲米にいたします」

「はーい」

こうしてボケ人間コンテストは幕を閉じた。

 

私の書いている小説です

リンク先はブログより4話ほど進んでいます。先が気になる方はご覧下さい。

https://estar.jp/novels/25771966

 

https://novelup.plus/story/457243997

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み、みそおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

「あれは二年前の秋。司会の所に嫁いだ妹の夜船が、俺の所に遊びに来ていた」

ホワンホワンホワンホワーン

ーーーーーーーーーーーーーーーーー白川のマンションーーーーーーーーーーーーーーー

「なあ夜船! この写真に何か一言付けてみないか?」

「兄さん……私はもうお笑いはいいのよ。門太さんは専業主婦でいてほしいって言ってくれているし」

「そうか、あんな奴でも甲斐性はあるんだな」

「うん。最近はビデオを見せてくれるよ」

「なんのだ? いかがわしい物か?」

「違うよ。そうそうそのビデオ、今日持ってきたけど見てみる?」

「はあ? いかがわしくない奴だったら別に見ねえよ」

「wwまあまあそう言わずに」

そう言いつつビデオデッキにカセットを差し込む。

「おいおい勝手に……」

パッ

『うわああああああ! 何て何て何てぇ奇想天外なネタなんだああああああ』

ダダダダダッ

ぬ? これはあの司会が舞台上を走り回って叫んでいるシーンだな。

「ん? 途中からじゃねえか?」

「違うよ? これテレビ局の編集さんにまとめて貰ったんだって」

「個人的に見るビデオをプロに編集させたのかよ……」

『さあ! ポインツを表示して欲しい!!』

突然場面が切り替わり、舞台の縁ギリギリに立ち、客席に中腰になり、両手をY字に広げつつ、マイクを向けるポーズをしている。

「何だよこれ……何のポーズだありゃ? 子供かよ……」

「これね? 彼が司会をしていて、ネタが終った後のシーンだけを繋げたビデオよ。かっこいいよね……盛り上がると、舞台上を凄い速さで駆け巡るの。光と同じ速さよ!」

「なわけねえだろ? そんな光さんを侮辱する様な嘘を突いて……光に土下座して貰いたいぜ。もういいよ。だが肝心のネタをカットするのか……そんなシーン繋げてもちっとも面白くないな」

ビデオを止める白川。

「あっ、ここからいい所なのに……」

「もういいってwニュースでも見るか」

リモコンでチャンネルを変える。

「でもかっこいいと思わない?」

「まあお前の旦那だからお前はそういう気持ちになるだろうな。残念だが俺は見て損した、気持ち悪い、こいつ死なねえかなあ? と思いました」

「そっか」

「しかし、あいつどうやってお前と出会えたんだよ」

「ああ、彼が兄さんのいない時に電話かけて来た時があって」

「え? それをお前が対応したのか?」

「そうよ。貸していた本を返してくれって内容で、その時に兄さんライブ巡業で戻れそうになかったから知らない筈よ。で、私が代りに届けに行ったの」

「そうだったのか……で、あのスケベジジイが夜船に一目惚れして、しつこく言い寄って来たと……」

「半々」

「は? 半々だぁ? そんな表現初めて聞いたぞ? どう言う事だよ?」

「半々は半々!」

「クッ……お互いイーブンで惹かれ合ったって事かぁ? 嘘だろォ? 俺が女だったとしてもあいつには一切惹かれんが……しかもアレ、俺よりも一回り歳が上のゴミジジイだぜ?」 

「私の旦那さんよ? アレ呼ばわりしない!」

「す、すまん。だが、ゴミジジイはいいのかw」

「それも駄目! 突っ込みが追いつかなかっただけでしょ」

「だよなwでも、お笑い芸人の妹なんだからしっかり突っ込んでほしかったぜ」

「さっきも言ったけどお笑いはもういいの!」

「残念だぜ……でもよぉ……他にもいい男は居たんじゃねえか?」

「そうでもない……かな……」

「クッ……そうかい(年上の男に惹かれるって事は、死んだ親父の影を重ねちまってるって事か?)」

「そう言えば最近門太さんに怒られちゃったのよね」

「ん?」

「今日も持ってきたけどこのお弁当の事でね。ちょっと食べてみて?」

「おお唐揚げ弁当じゃないか! 大好きだぜ!!」

「召し上がれ」

「頂くぜ」

もぐもぐ

「どう?」

「ん? この唐揚げとっても旨えなあ。うわあああああ御飯が進むよ!! パクパク。うーん。こんな鶏肉初めてだぜ!」

「でしょでしょ?」

「こんな旨いもん食えてあいつ幸せだなあ……? (。´・ω・)ん? お前。怒られたって言っていなかったか? 何で怒られたんだ?」

「それがね、門太さんはお弁当のおかずでは鶏肉のから揚げが一番好きって言っていたのよ」

「ほう、だからしっかり入れたんだろ? 別におかしい所なんか無いじゃないか」

「そうそう。でも実は鶏肉じゃなかったんだ。蛙を鶏肉の様に料理して入れたの。で、それを伝えたら突然オエーって言いだして」

「ブッ」

「ちょ、ちょっと!! 汚いよ!」

「ご、ごめん。でもよお……」

「美味しいって言ってくれていたでしょ?」

「だがその……あの蛙だろ? 緑のよお、ヒロスィのTシャツに付いていて喋るよお」

「そうよ! でもしっかり洗ったし、兄さんも美味しいって言って食べたでしょ?」

「旨かったけどよお……でも怒られてもしょうがなくねえか? 鳥じゃねえし……詐欺じゃねえか?」

「兄さんも同じ事言うのね」

「仕方ないと思うけどな? で、それを話したらあいつも吐いたのか?」

「オエーって口で言っただけ、実際は吐いていないわ。とっくに胃の中だし」

「そうだよな。正に胃 (井)の中の蛙ってか?」

「ちょっと違うかも」

「そうだなw字が違うかwだが蛙って鶏肉に似た味がするって聞いた事あるな」

「そうよ。私ね、本物の鶏肉を料理するのは嫌なのよ」

「何でだ?」

「最近ねネットで知ったんだけど、鳥のエサに、別の動物の肉骨粉が使われていて、人体に危険だって言うのを知ってね」

「え? 肉骨粉ってなんだ?」

「ちょっとうろ覚えだから調べてみるね。ええと……出て来たわ! 牛・豚・鶏から食肉を除いた後の屑肉で、脳、脊髄、骨、内臓、血液等を加熱処理の上、油脂を除いて乾燥させ、細かく砕き、粉末とした物だって。なんか気持ち悪いよね?」

「おええええ……脳とか内蔵? 蛙食った後に聞く話じゃねえな……ガチで気持ち悪くなってきた。そんな事初めて知ったぞ!?」

「私も最近まで知らなかったよ。でも、大切な旦那様にそんな餌を食べた鳥の肉を食べさせる位なら、そう言う危ない物を食べていない自然の中で育った蛙さんの方がまだ安全かな? って思って頑張って素手で捕まえたのに……芸人は体が資本だからね」

「苦労は分かるが、苦手な奴は居るからな……蛙はな。まあ夏は大量に獲れるだろうしな。しかしお前が池で蛙を捕まえてる姿を想像したらなんか健全でかわいいなwでも、可愛い嫁を怒るか?」

「うん。でもこれで彼は蛙アレルギーでは無いって事が分かったから、これからも遠慮なく蛙を出し続けるわ。もっと美味しく出来る気がするし。騙しきって見せるわ」

「そうか、頑張れ(夜船の住んでる付近の池から全ての蛙が消失して蛙の鳴き声が聞こえないと言う噂が流れちまうかもな)」

「じゃあ私そろそろ帰る。兄さんも食べ物の事しっかり調べて、栄養つく物食べてね」

「おう」

ガチャン

「ハァ……お兄さんは悲しいぞ……そこまであいつの体を気遣ってやるなんて」

一回り年上だが、同期の味噌門太と妹が相思相愛という事を知ってショックを隠せぬ白川。

「パーンってなりましてね頭が」

ドッ

付いていたテレビから、ガハハ本舗の久本正美が得意の一発ギャグ【頭が……パーン】を放っていた。そこそこ受けている? いや違うな。テレビなので、笑い声は編集で付け足したのだろう。毎回同じ笑い声なので簡単に分かる。子供騙しにもならぬな。

「チッ……このババア何で人気あるんだぁ? 全く面白くねえのによお。まあ寝るか……嫌な事は眠って忘れるに限る」

ーーーーーーーーーーーーーーー数日後ーーーーーーーーーーーーーーー

ピンポーンピンポーン ピンポンピンポンピンポンピンポン

「朝からうるせえなあ。一回鳴らせばわかるっての」

ガチャ

「うっ兄さーん」

「夜船? どうした?」

「うえーんうえーん」

「埒が明かねえな。取り敢えず座れ」

「ぐずん」

「とりあえずお茶でも飲んで落ち着け。今、淹れてくる」

ダダダダダッ

「メソメソ」

「持って来たぞ」

コト

「ありがと」

ごくごく

「落ち着いたか? どうした?」

「捨てられちゃった……別れようだって……」

「あ?」

「門太さん、他に好きな人が出来たって」

「嘘だろ? 誰だよ?」

「確かガハハ本舗の久本正美さんよ」

「マジか? た、確かあのババア、お笑い芸人で60そこらだよな……ネタも95%が下ネタで、身も心も腐った完全な汚れ芸人!! 確か門太が37だろ? あんな女に俺の妹は負けたって言うのか?」

「兄さん兄さん……私もう生きていられない……」

「何言ってんだおめえ? まだ22だろ? あんなおっさんよりももっといい奴は幾らでもいるだろ! 落ち着け。ほら、ハイちゃんだ」

白川の飼っている猫だ。ロシアンブルーか? 灰色の毛並みが特長の猫だな。

     △△

「にゃん(=^ω^=)」

「門太さんはまだ好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい」

妹はそのハイちゃんの毛を一本ずつむしり恋占いを始める。

       △△

「にゃにゃ?(=OωO=)」

驚き戸惑うハイちゃん。

「おい夜船! 何やってるんだ! 換毛期はとうに過ぎて、これから冬になるってのに……そんな事したら風邪ひいちまうだろ!」

「好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい……ん? 大丈夫よ」

「おい止め……」

「好き―」

ブチッ

「嫌ーい」

ブチッ

「好き―」

ブチッ

「嫌ーい」

ブチッ

「好き―」

メキッ

「嫌ーい」

ミシッ

         △△

「にゃすけ……て(=XωX=)」

一本一本抜くのが面倒になったか? それとも早く結果が知りたくなったのか? 指でつまんで数本をまとめて抜く様な雑な占いに変わる。そしてみるみるうちに床は灰色の毛が広がり、ハイちゃんは丸裸になる。

「ニャーックション! チクショウスットコドッコイッテンダイバカニャロメキャットニンデンテヤンデイ」

「ほらくしゃみしちゃってるぞ! 駄目だって! やめるんだ! 動物虐待だって」

「好き―嫌ーい好き―嫌ーい……あら? もう毛が無いわ。じゃあこの髭で……」

と、ハイちゃんの顔に手を近づける……

「夜船!!!」

パチン

「いたい」

「す、すまん。だが髭は流石に可哀想すぎるだろ! それにハイちゃんの髭は6本だ。って事は目に見えて分かる。結果は同じだ」

白川も体毛を抜いている時点で止める事は出来たであろうが、妹の鬼気迫る表情に見ている事しかできなかったのだ。

「ごめん……ごめんね。私どうかしていて……」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー翌日ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「門太に文句を言ってやらにゃ気が済まん」

「暴力は止めてよ?」

「おう」

バイクで門太の住むマンションに向かう事に

「この辺だよな……あれか」

ダダダダダッ ガチャ

「おい! テメエどういうつもりだ!」

「白川か……その前に靴を脱いでほしい!」

「うるせえ! 夜船は納得しているのか? あんな年齢2,5倍増量の出っ歯ババアが再婚相手でよお!!!」

「してはいないと思う。だが僕は正美様を愛してしまった。年齢は関係ない。あの美しい出っ歯……芸術だ……」

「ババアに様付けかよ……病気だな……」

「正美様、逆から読んでも、正美様」

「駄目だこりゃ。丁寧に俳句になってやがる。季語は何だろうな? 正美様の様を、サマーと考えて夏か? ……って何言ってるんだ俺は……しかしこいつ、マインドコントロールでも受けているみてえだ。クソ!!」

「どうしました? 騒々しいですね」

「ん?」

「あら? お客様がいらっしゃる……ほんっとにびっくりした! よく来たわね、いらっしゃい!」

ピンク色のワンピースを着た、おかっぱ頭で前歯が異様に伸びていて、スラッとした体形の老婆が奥の部屋から姿を現し挨拶をかましてきた。

「こ、こいつは……何て美しい」

「白川君。この方が正美様ですよ。美しいでしょ?」

「白川さんですね。よろしくお願い致します」

「確かにババアだが……しわくちゃで醜悪な顔だが……前歯の輝き【だけ】は今まで見た何よりも美しい……」

その前歯は、ダイヤモンドの輝きを想起させる程。

「パーン」

「うわっ? 何だこいつ!!」

「白川さんに美しいって言われて……嬉しくって感動でパーンってなりましてね頭が……」

「前歯だけな? 顔は褒めてねえからな? それテレビでもやってるけど一体どういう意味だよ」

「そのまんまですよ? なったんですよ。パーンって、頭がね」

「どこがだよ! しかし、こいつも何かの宗教を? 駄目だっ、ここにいたら俺までおかしくなりそうだ。今日の所はこの位にしておいてやる!」

「まあ、もうお帰りですか? これから美味しい手料理をやったらムンムンかましたらあと思っていましたのに……」

「そんな気分ではない」

「その前に折角来たんだ。君に1つ仕事のオファーを出す。メールしとくから確認しといてくれ」

「ん? なんだ? まあいい」

バタン

白川は自分の部屋に戻ると彼のパソコンに一通のメールが届いていた。それを確認すると……

「仕事の依頼か? 今昼は最高……? どんな番組だ? 検索してみるか」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「夜船! 今度門太がMCの番組で俺も出演する事になった。何か恨みの言葉でもありゃあ伝えてやるぜ? それともこのボイスレコーダーに吹き込んで直接伝えるか?」

「へえ、何でそんなの持っているの?」

「俺の秘密兵器さ」

「ふーん。じゃあ、録音してみようかな?」

「おう、じゃあ5秒後に録音だぜ(奴が絶望する様な言葉を言ってやれ)」

ピッ

「まだ好きだったのよ? 愛していたの……」

ゴン

「え……?」

予想外の言葉にうっかりボイスレコーダーを机の上に落とす白川。

「おい……夜船……恨みの言葉だっ……て言ったろ?」

「そんなの無いよ。私の気持ちはずっと門太さんの物」

「そうか」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

言葉数は少ないが、白川の中で凄まじい何かが芽生える。

「ちゃんと伝えてね」

「そうする」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー撮影当日ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「やあ白川君! 僕が初司会する事になった番組、今昼は最高を盛り上げてくれよなああああああ?!」

「今昼は最高……久本正美の冠番組じゃねえか? お前……もしかして……」

「僕は家庭よりも仕事を優先する人間だった様だ。彼女が僕を成長させてくれた。そして今度、あのボケ人間コンテストの司会の話も来ているんだ。凄いだろ? これで僕は更なる栄光への道へと進む事が出来るんだあああああ!」

「……それはよ、お前の笑いの実力ではないって事に気付いてねえって事だぜ? もうとっくに無くしちまったんだな……芸人としての矜持って物を」

「笑いだけが全てじゃない」

「そうか、そう言う考えもあるな……そうだ……妹はな、お前にこんな事を言っていたぜ?」

「何だい?」

「これだ」

ピッ

録音したデータを再生する。

『まだ好きだったのよ? 愛していたの……ゴン』

「ひ、ひいいいいいいっ!!」

ぬ!?

「おい……てめえ……何だよそれ……死ねよ!」

全くその通りである。

「あ……(しまった! 水が出てしまった……だ、大丈夫……ほんのちょっとだから……)」

と言いつつ股間を見る。

「どうした? 何だ急に下なんか見て」

「な、何でもないよ……だって……今の声、幽霊みたいじゃん。不意打ちは卑怯だよ? ああ気持ち悪!! 僕は幽霊とかお化けは大の苦手なんだよ! 鳥肌立っちゃったよ……」

「は……あ? お化けだと? 気持ち悪いだと? ぶっ殺すぞ!」

かつては愛した筈の女性の声を、気持ち悪いとは……この【カツラお漏らし男】は一体どういう神経をしているのだ? 

「確かに言い過ぎたと思うが、そんな事で死にたくないよ。ああ……一刻も早く正美様の声を思い出さなくっちゃ!!」

そう言いつつ携帯を出し音声データを再生する。

『パーンってなりましてね頭が』

「ハァー癒される……これなんだよなあ……」

「……」

「お前、あの婆さんに唆されてあいつを切ったって事か?」

「何の事かな?」

「この番組の司会になりたきゃ結婚しろって迫られたんだろ? それで、好きでもないあんなクソババアと……」

「半々」

それは、妹に門太への気持ちを聞いた時、正に聞いた、彼女特有の言葉だった。その言葉に白川は目を見開く……そして……

「……夜船と同じ事を……言うなあああああ!」

「悪い……彼女の口癖だったね……いつの間にか伝染っちゃったみたいだね……」

「俺は帰る。気分が優れん」

「待って欲しい! 君はそれでもプロなのか? お客様は君を見に来ている。まさか何もしないで帰るのか? そんな事は許される筈がない」

「何とでも言え」

帰りの歩みを止めず、一瞥もせずに返す。

「君は0点の芸人だ! もう芸をやる資格はない! この事はお客様にしっかり報告させてもらう! ああ……心を込めて謝らなくては……不安だぁ……今一度正美様の声を聴かなくては」

ピッ

『パーンってなりましてね頭が』

「ああああ……助かる……ありがとう正美様……」

「……」 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あら? 兄さん。もう収録終ったんだ?」

「あ、ああ」

「早かったね。夕食の支度するね……今日は蛙と鮒のリゾットだよ。あっ、ねえそう言えば門太さん何て言ってたの?」

「ん?」

「ほら! 私の声、聞いて貰ったんでしょ?」

「ああ (まずいな……)」

「どう言ってたの?」

「ああ……喜んでたぜ?」

そういいつつ、右手で左の肘を掻く様な動きをする。

「嘘」

「……」

「兄さんって、嘘を突く時、肘を触るよね?」

「……! 俺にそんな癖があったのか? クソ! よく見てるな」

「兄妹だもん。ねえ、本当の事を言って?」

「……」

「お願い」

「じょ、冗談だとは思う。あいつも芸人だしだからさ……だから話半分で聞けよ?」

「うん」

「幽霊みたいじゃん、気持ち悪っ……て、言っていた……」

つい本当の事を話してしまう白川。

「そっ……か」

「だ、大丈夫だろ? 芸人の妹だもんな? だよ、な? そう……だろ?」

「そう、ね。ごめん……ちょっと夕飯は作れないかも……」

「だだだ大丈夫大丈夫。一食位食わんでも平気へっちゃらさ」

「じゃあ、ちょっと、休ん、でくる……」

まるでゾンビの様な歩き方で部屋を出て行く夜船。

「やばかったか? 嘘を突き通すべきだったか? いや、どうせ見破られる。あいつは鋭いからな。ま、まあ一晩寝りゃ何事も無かったって起きて来るよな? 大丈夫だよな?」

ーーーーーーーーーーーーーーーー30分後ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「夜船? ちょっといいか?」

心配になり部屋に来た白川。まず、ノックをする……が、返事はない。

「ん?」

ドアは開いていた。

「入るぞ?」

だが、人の気配は無い。

「夜……船? どこ行った?」

一抹の不安。無意識に玄関へと走る。

ダダダダダッ

「靴は……ある。じゃあどこだ?」

ドッキン ドッキン ドッキン ドッキン 

早鐘の様になる心臓の音を必死で抑え、耳を澄ます。

……ジャー

「風呂? 水の音? あっ!!!!!!!」

ダダダダダッ ガチャ

そこは、最悪の光景が広がっていた。

なんと手首を切った妹が、浴槽に左腕を入れ、うつぶせになっていた。

浴槽内の湯が、赤色に染まりつつある。まだ切ったばかりか? 

「馬鹿野郎が!!!!!」

慌てて腕を水から出し、白川のワイシャツの袖を引きちぎり、妹の肘の付近を締め付けるように巻き、心臓より高くする為に風呂のイスの上に置き仰向けに寝かせる。そして病院に電話。10分後に救急車が到着する。

「何があったんですか?」

心配そうな救急隊員。

「失恋って言えばいいのか? いや違うな 全否定されたんだ……」

「全否定? 何と申したらよいか……」

「いいんだ」

10分後病院に着き、診察室に搬送される。

「失血による気絶です。早期発見のお陰で輸血の必要は無いでしょう。ですがためらい傷が多く……取り敢えず暫く入院して頂ますね」

「そうですか……くそ、傍にいながら……」

「いえ、発見が早かったからこの程度で済んだんですよ!」

「夜船……そんなに思い詰めてたのか……気付いてやれなかった……くそ!!」

病室で眠る妹の左腕を見る。包帯で覆われているが相当の傷がある筈である……

すると……

「門太さん?」

「お? 目が覚めたのか」

「ここは天国? じゃあここで待ってればきっと門太さんに会える……」

「しっかりしろ! ここは病院だ!! お前は天国には行って居ない。それに天国でいつまで待っていてもあいつは来ない。あいつは地獄行きだ」

「門太さん居ない? 門太さん会いたい……」

心ここにあらず。

ゴゴゴゴゴゴゴ

「味噌さん♪門太さん♪味噌門太さんったら門太さん♪」

自作の、門太を讃える歌を歌い始める。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「門太さんは英雄♪ 門太さんはすばしっこい♪」

「すばしっこいだぁ? ああ、舞台上を走り回ってたなあのゴミ。そのビデオを見せられてそう言うイメージが付いたって事か……」

「門太さん今何してるの……生きてるの?」

「くっ」

何気なくテレビを付ける。怒りを抑えなくては……気を紛らわせなければ……その思いからだろうか? だが、それが逆効果であった。

『その言葉にまたもうグサッてなりましてね……ホント衝撃でしたね』

ドドッ

テレビでは久本のネタが流れ出す……お約束のテレビ編集での笑い声が、虚しく病室内に響き渡る。

「チッ」

すぐにテレビを消す。訪れる静寂。すると、今まで起こった全ての事が次々と脳内に蘇ってくる。

『半々』

ゴゴゴゴ

『パーンってなりましてね頭が』

ゴゴゴゴゴゴ

『ああああ……助かる……ありがとう正美様……』

ごゴゴゴゴゴゴゴ

「夜船は門太に、門太は正美に……どいつもこいつもヤンデレばっかじゃねえか……」

「来世では……絶対に……一緒に……なろうね♪」

彼女は、目を覚ました後、真っ先に門太の事を話し出し、そして、彼を未だに愛しているという事実、そして、60近い老婆に横恋慕された事を認め、それをとっくに諦め、それでも、輪廻転生後、再び関わり合いたいという願望を語る始末……打ちひしがれている白川には更なる追い打ちだ……

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

「み」

「みそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

私の書いている小説です

リンク先はブログより4話ほど進んでいます。先が気になる方はご覧下さい。

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