magisyaのブログ

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最終話 帰宅?

「何か釈然としないけど本当事故だったのかなー? でも、本人が言うなら信じるしかないね。

あースッキリしたー……? あれ? 何でだろう? すっきりしないなあ。よしママの所に行こう」

と言いつつ戻るアリサ。だが全く納得した表情ではない。これは恐らく司会が嘘を突いている事を本能的に感じているせいかもしれぬ。

だが、疲れ果てた脳みそではもう深く考える事は出来ない様で、帰る事に意識を向けた様だ。

「……そうだ! その前に」

ダダダダダッ ん? どこに行くのだ?

「刑事さん! 司会の人生きてたよ」

「え? 本当ですか?」

「だけど、その事は伏せておいた方がいいかもね」

「え?」

「もしそれを報道したら白川さんがまた狙う可能性があるからよ。念の為ね」

「本当ですか? でもそう仰るのでしたら信じましょう。

では今回の事件は被害者も生きていた事ですし、ただの転落事故だったと嘘突いておきます」

「ありがとう。よし、ママの所に戻ろう!」

「アリサちゃん! おーい!!」

今度こそ帰ろうとするアリサに何者かが叫びながら走ってくる。それも1人ではない。

「え?」

その人物は周様、梓、鎌瀬、金賀、七瀬、火村。共に頂点を争ったメンバーだ。

「あっみんな! 知ってる? 司会の人生きてたよ」

「良かった……目の錯覚で幽霊かと思っていたのよ!」

「生きてる生きてる! みんなも見たの?」

「見たぜ」

「おう、俺様も見た。しかし……お別れだな……ずげえざみじいぜえええええ」

目の幅の涙を出し、アリサと握手する周様。情に厚いお方だな。

「ちょっと痛いって! 男が泣いていい時は親と別れた時だけよ!」

そんな事を言いつつ、釣られて涙目になるアリサ。

「俺様は来年もここに来て見せる。モノマネだけでなく色々なネタを引っ提げてな!」

「うん、なんだかんだあったけどあんたのネタを見てなかったら、あのネタを閃く事は出来なかったからね。感謝してる! また会おうね!」

「おう!!!」

「なんか急だけど、この人と一緒になる事になったわ」

梓が鎌瀬を指しつつ少し顔を赤らめ話す。

「えええええええ? こんなのとおおおおおお怒?」

ピョーン

余りの驚きに120センチほど飛び上がるアリサ。この瞬間、そう、最大到達点での彼女の身長は2倍になった。

「そんなに驚くなんて酷いです……兄さん……」

「おお! 通りでやけにべたべたくっついてるなと思ったら! めでたいぜ」

「おお! 泥鰌の同情でお前達二人に柳川鍋のご馳走があらん事を」

「7,7んだってー? おめでとうございます!!」

「そうなのかあああああああ? おめでとおおおおおおおおう」

おお! 周様が……こんなにも伸ばされて……皆さん朗報だ! 彼が、完全に、復活なされた……!

「みんなありがとw楽屋を出てアリサちゃんに言われた後に探し歩いていたの。すぐ見つかったんだけど、床に突っ伏して譫言の様に

あずにゃんあずにゃん

って言っていたの」

梓が少し顔を赤らめながら話す。

「www」

心の底から笑ってくれるアリサ。

「ちょw笑わないでwで、ずっと血を吐いていて、床が血の海になっていたわ。この会場でまた殺人が起こったかと思ったもの」

「えー見たかったー。ねえ、再現して―?♡?」

これこれアリサよ、無邪気な瞳でそんなおぞましい事を強要してはいけないぞ? 今お主は鎌瀬の兄さんだ。芸人の世界では兄さんの言う事は絶対。故に頼まれたらすでにもう枯渇しきった血液量と知っていようが頑張って吐血を始めるかも知れないぞ? 奴は竜牙にジュースを買って来て? と言われた時に意気揚々とダダダダダッと言う効果音を口で再現しながら駆け出して行ったではないか! その時エリートだと言う事は一切忘れ、正にパシリの鑑と言える程のパシリキングだったぞ? 思い出すのだ! この鎌瀬の吐血癖は恐らくお主のノリ突っ込みが原因なのかもしれぬのだ。あの、ノリ突っ込みを決めた瞬間、お主の口から放たれた言刃が鎌瀬の体を貫いた。これは私の目でも確認済みだ。これだけは間違いないのだ。それ以降だ。彼が血を吐く様になったのは。恐らく鎌瀬のどこかの臓器に死魔傷が刻まれた筈だ。死魔傷とは一度受けたら決して塞がる事のない傷。だが幸運にも日常生活をしているだけであれば吐かない様だな。

では一体どんな時に吐血したのか? 彼が吐いた全ての場面を思い返してみよう。

まずはノリ突っ込みを喰らった直後であるな? そして次は笠地蔵のネタでカンザス州と放ち、大きく滑った後のアリサの辛辣な言葉の後に吐きだした筈。3回目はアリサの所属している推理クラブ部長の特技の事を思い出した時にも吐血したな? そして最後に先程梓の報告で明らかになったが彼女を探し疲れ果て吐き始めた。この合計4回だった筈だ。それだけでももう鎌瀬の体内に存在する血液量は僅かであると言う事が分かるであろう! そしてこれらの共通点とは何だろう? それは心にダメージを受けた時に吐く様に思える。だが一つ問題が発生する。それは、死魔傷がある筈なのに通常時はへいきへっちゃらな事だ。

本来、それを負ってしまった者は、絶えず流血し続け死に至るまで止まらない筈の呪われた傷のなのにそれが無いという事だ。どういう事だ? まさか! 傷口を上手い事他の臓器で塞いでくれていて、悲しい時でなければ血は止まる言う奇跡的な位置関係に付いた傷なのだろうか? むむ、生命の神秘であるな。ただ、常時ダダ漏れでないにしろ死魔傷は名前の通り永遠に塞がらぬ厄介な傷。これ以上の吐血は命に関わる筈だ。おぬしの命令通り再現したらあの世行きであろう。流石に新婚早々死んでしまっては可哀想であるぞ? 急いで撤回するのだ! このままやらせてしまえば第二話最終回にしてヒロインのお主が殺人者になってしまうぞ? 

「無邪気な瞳でそんなおぞましい事言わないでwでね? 話している内に急に可愛くなってきちゃって……不思議な物よね……私、この人を見ていたら急に母性みたいな物が溢れ出てきた気がしてね……これが母親の気持ちなのかなって? 犬吉君は旦那さんと言うよりは自分の子供みたいな感じだけど、傍で見守っていくからね。芸人の道は若いあんたに譲るわ……」

「へえ、でも歳も近いし同業者ってのもあるしお似合いかも……お幸せに♪でも私は刑事になるからお笑いはやらないわ」

「才能有るのに勿体ないなあ。で、看護師の資格を取るつもり。この人、ある時を境に弱々しくなってる気がするの。……だから頑張って勉強して彼の体調を私が元に戻して見せる!」

ほう、彼女は死魔傷の存在を漠然とではあるが認識している様だ。鎌瀬の呪われた傷。彼女の愛の奇跡が完治させてしまうかもしれぬ……アリサに業を背負わせぬ為にも……頼んだぞ! 梓よ!!!

「へー芸人、人妻、に続きナースか……また属性が増えるよ……需要が更に上がるね」

「何それ?」

「知らないならいいのよ」

「兄さん……あなたがキューピッドだって聞きました。本当にありがとう……ビックリしたよ。あずにゃんから結婚してくれるって言ってくれたんだ。僕、僕……同情で結婚して貰ったと思っているけど、それでもいつか、否、近い将来、僕と一緒になってよかったって、あずにゃんに思わせて見せる! そう! 絶対幸せにするからね」

深くお辞儀をする鎌瀬

「兄さんって……せめて姉さんって言いなさいよ……って、まあいいわ。で、これからどうしたい?」

「まずは新婚旅行ですね。新コーン旅行はコーンゴ共和国で、キングコーンゴのネタを視聴しつつコーンデンスミルクをたっぷりかけたコーンフレークを……」

「ねえ、それ、白川さんのネタでしょ?」

それを聞きあからさまに嫌そうな顔をするアリサ。逃がしてしまった人間の事を思い出してしまったからだろう。

「う、何か耳に残っていて……でも彼、不思議な人でしたね……そして、誰よりも面白い人でした……」

「確かに……でもあいつは……」

【あいつは……】

その先が出てこない。それもその筈。殺人者と思っていたが、司会は生きていたし、犯行が出来たかどうかも今の彼女には立証しようがない。

「もう居ないんだよね……また会えるのかなあ?」

「また会えるわよ。私はそんな気がする」

「うんうん。そして、もしも子供が出来たら絶対芸人にします。祖父母、そして両親も芸人の血を引く超サラブレットが兄さんを超えて見せます!」

死魔傷は直系に遺伝すると言う噂もある。故にお笑いの才能と共にその傷をも受け継いでしまう危険性があるのだ。だから、完全に治した後に作らなくては死魔傷が刻まれた呪われし子供が生まれる可能性もあるのだ。そこを気を付けて欲しい物だ。

「フッ私は、強ええぜ?」

「ぐぐぐ……でも、諦めませんよ!」

「その意気よ! 最後に気合を入れてやるわ」

「え?」

「もっと熱くなれよ! 熱い血燃やしていけよ!! 人間熱くなれば本当の自分に出会えるんだ!!! だからこそ! もっと!!」

「熱くなりなさーい!!!」

「熱くなりなさーい!!!」

「熱くなりなさーい!!!」

アリサ、鎌瀬、梓の声が心地よく響き渡る……! 若いな……(///照///)私の頬まで赤くなってしまった……

「大声出すって気持ちいいね」

「じゃあお幸せにね」

「うん」

「ようチャンピョン! 貰った米で、

泥鰌掬うなら甕をくれ丼】

ってのを作ろうと思うんだが、少し分けちゃくれねえか? お米」

「駄目よ! お米はフンガーに全部渡すんだから」

「そうか……ここで獲得した米って言うブランドが欲しかったんだがな……なら仕方ねえ。そうだ! 近くで店やってるから来てくれよな? ただでご馳走するぜ?」

名刺を胸ポケットから出す。

「おう!」

パチン

タッチをする二人

「アリサちゃん……八郎と知り合いだったんだね? さっき母さんから連絡があって……」

七瀬は、梓と鎌瀬を祝っていた時とは打って変わり神妙な顔でアリサに語り掛ける。

「え? 八郎さん? 七瀬さんって……あっ! もしかして八郎さんのお兄さんなの? 同じ名字なのに全く気付かなかったわ……そう言えば七瀬さんって眼鏡を取ったら八郎さんそっくりね!」

「そう? 自分でも気づか7かったよ。小さい頃から眼鏡取った事7かったから7あ」

「昨日会ったばっかりだから間違いないよ。で、9人兄妹なんだよね? ええっと……覚えてるよ! 一郎さんと次郎さんに美三みみさん、四郎さん五子さんに六江さんに文七ぶんしちさんに八郎さんに九べーさんの9人だよね?」

「そう7んだ。八郎から聞いたんだね? よく覚えてるね」

「まあね。でもヤンキーに絡まれて、誰か自殺未遂したんだっけ? 今は大丈夫なの?」

「ああ五子姉さんか。今は7んとか仕事に復帰出来るまでに7ったよ。男、特にヤンキー嫌いは相変わらずだけどね」

「良かった……でも九べーさんだっけ? 彼のインパクトが凄すぎて七瀬さんと八郎さんが兄弟なんて全く思わなかったわ。こんなのちょっと考えればすぐ気づく筈なのに……悔しいわ!」

「確かに九べーは僕達とはあんまり似てい7いからね……どうして彼が兄妹の一員7のかすらもいまいちよく分から7いよ」

「彼? やっぱり男の子なの? 九べーさんって」

「そうだね。兄妹の中で唯一/人◕◡◡◕人\こん7ネコみたいな顔をしているけど彼の口癖は

【僕と契約して魔法少年に7ってよ】

だしね」

「でも一人称を僕って言う女の子=僕っ娘って可能性もあるんじゃない?」

「それは7いね。だってしっかりと付いてるんだ」

「何が?」

「男の子の象徴だよ」

「へえ、それって大きいの?」

これ! ヒロインがナニを聞いているのだ!

「意外に大き……! 7んでそこに食いつくの?」

「でへへー」

「は7しを戻すよ……で、全部分かっちゃったんだ。八郎は今……」

どうやら七瀬は八郎の兄だった様だ。そして、母親の電話で彼の現状を知ってしまった様だ。【今】の先が言えず口ごもる。

「七瀬さん……聞いちゃったのね? ごめん私が!」

「7にを言っているの? アリサちゃん? 謝る事は7いよ。君は7に一つ間違ってい7い。むしろ、ありがとうだ」

「え?」

「八郎は止めて貰わなかったら、次の手を打つと聞いた。そう、最悪殺人者に7っていたんだ」

「本当に?」

「ああ、止めてくれて感謝しているって。後……八郎ね、頑張って罪をつぐ7って戻ってくるから、そしたらその……君とカラオケ一緒に……行き……」

「断る理由が7い!!」

食い気味での即答。

「本当に? じゃあ後で伝えておく! 八郎も喜ぶと思うよ!! もし7にかあったら名刺の電話番号にいつでも電話して来てね!」

「はいっ!!」

「最後は俺か……まだじゃない方卒業出来ずだ……」

「爪痕は残せたと思うよ? きっとみんな分かってくれるって♪来年もあるから! 火村さんも絶対出てね! 私も出るからね」

「おう」

「みんな見送りありがと! 来年私、2連覇を狙う為に必ず来るから。全員集合よ?」

「でも白川さんは……」

「そうね……でも7人はまた会おうね」

「じゃあ専業主婦って訳にもいかないわね。わかった! 主婦もやりつつ芸の道も磨き、看護師の資格も獲得した上でパワーアップしたメルヘンネタであなたを倒すわ」

梓が引退宣言を撤回する! 

「そうよ! 鎌瀬さんもだからね」

「分かったよ……いいえ! 分かりました!! アリサ師匠!!!!」

お? 鎌瀬の中で【兄さん】から【☆《師匠》☆】へと昇格した様だ。まさか1作品の間に

【一般人→兄さん→師匠】

二階級特進するなんてすっごいよ! 頑張った甲斐があったな! 本当に本当におめでとう! アリサ師匠!!

「全く……そう言えば私はもう探偵なのよ? とっくに芸人は卒業したってのに……そんないい返事聞いたらまた戻りたくなっちゃうじゃない」

「師匠なら探偵をやりながらだってお笑い芸人も出来ますって!」

「ほんまにー?」

「ほんまでっせ!!」

「じゃあまた来年!!」

「ああ元気でな!」

「バイバイ」

アリサは名残惜しそうに時々振り返りながら外を目指す。

外に出るとママとケイト、そしてフンガーも何故か一緒に待っていた。

フンガーは覚えていたのだ。アリサとの約束を。

「お帰りアリサ。色々な事が起こり過ぎてなんか良く分からないけど優勝したんだよね? おめでとう!」 

「ありがとう」

「 それにしてもあなたどこであんなネタを思い付いたの? 私ね、初代のガンバレ世代だから、面白い☆☆☆三連星のネタ滅茶苦茶ツボったわ。まさか娘の口からあんなネタを見られるとは思わなかったもの」

「決勝で戦った白川さんが控室でそんな話をしてたからかな。その後の休み時間に彼らの事を携帯で調べたんだ。それで面白い癖があったからそれを使ってみたの」

「たったそれだけの事であんな長いネタを思い付いたの? ぎ、ぎゃふん」

「ママw古いwwでも実力で取れなかったのが悔しいけどね……でも、現役の芸人さんをいい所まで追い詰めたってのは凄い自信になったわ。流石にこの力までひいおじいちゃんの血のお陰って事は言わないでよね? ママ?」

「うん、これは間違いなくアリサの力よ」

「そうだよね。(後あの帽子のお陰……かな……)ちょっとお笑い勉強しようと思っちゃったもん。人を笑わせるのは嫌いじゃないし。笑顔って素敵じゃん? ケイトちゃんが私の新しい一面を引き出してくれたって事よね。ここに参加してなければお笑いなんて見ている側で終わっていたと思うもん。ケイトちゃんありがとね」

「ホント? 私、役に立てた?」

「そうね。ねえ私のネタどうだった?」

「うん! アリサちゃんのネタ、分からない部分もあったけど面白かったよ!」

良かった……恐らくあの下ネタまでは彼女は理解出来なかった様だ。ケイトよ……ずっと純真無垢で綺麗な心のままでいてほしい。

「やったぜ!!」

「後、最後、凄い推理だったね! かっこよかった! あーあ、アリサちゃんが男の子なら良かったのに……ポッ」

あんな言いがかりじみた推理でもかっこいいと感じてしまったのか。そしてポッ等と言いう擬音を口にして、顔を赤らめている……? ま、まさか……いや、そんな筈は……

「え?」

「あらあら、アリサモテモテねえ!」

「ケッ、ケイトちゃん? 私に惚れたら【私の行く先々で事件が起こる件について】だぜ?」

ほほう。まさかこのやり取りの間隙に【それ】をねじ込んだか……この娘はやはり天才であった。天晴である。

「え? だっ大丈夫! アリサちゃんと一緒ならどんな事件が来てもへいき、へっちゃらだもん、何も怖くないもん!」

力強く言うケイト。凛とした瞳である。美しさの中にしっかり潜むかっこよさ……私は、彼女に惚れている事にすら誇りを持てる!

「え?」

頬を赤らめるアリサ。ぬうっ……このままではアリサと私のケイトが恋人の様な関係になってしまう……それだけは何とか食い止めなくては……おいおい! アリサよ! 竜牙刑事が好きなのだろう? そっちに行ってはいけない!! 危険であるぞ!

「あらあらあらぁ? 照れ隠しにタイトル回収なんかしちゃって! そう言うのは一回でいいのよ」

「え? 今回が初めてだよー」

 嘘である……と? (。´・ω・)ん? フンガーが何か言おうとしているぞ?

「フンガーフガフガ! フガガンフガフガフガガフガンガフガル件について。フンフンガッガ」 

「なになに? アリサは予選の時、フンガー君の前で、【私の行く先々で事件が起こる件について】って言っていたフガって? ほら見なさい」

この男、見かけによらず記憶力が優れているな。間違いなくアリサはそう言っていた。それは私も見ていたからな。

「あ、こら! フンガー! それは内緒でしょ! 何で言うのよ! 目玉をへし折るわよ! ダブルで!」

「フンガー……」

申し訳なさそうに頭を下げつつ両目を守る様な動作をするフンガー。

「てかママすごーい! フンガーの言葉が分かるんだ!? 私はまだ分からないって言うのに」

「勘よ勘! 刑事の勘! やっぱりー! 全く、油断も隙もないんだからこの子は!」

「でへへー」

舌を出し、頭を掻く動作をするアリサ。

「あっそうだそうだ! 賞金とお米フンガーにあげないとね!」

「フガ?」

「私の気が変わらない内に受け取らないと、2度と貰えないかもよ? いいの?」

「……フン……ガー」

一礼して受付に向かう。一人では心配なのか一応アリサもついて行く

「ねえ、賞品受け取りに来たんだけど」

「あ、優勝おめでとうございます! こちらです」

「ありがとう……あ、お米って現物はあるの?」

お金と米を受け取る。そしてフンガーに渡す。

「はい。ですが、郵送いたしますよ?」

「大丈夫よ。今すぐ頂戴」

「え? あの……お米60キロありますが大丈夫ですか?」

「この子が受け取るから大丈夫。凄い力があるからね。あなたも見たでしょ?」

「そうですか? ではどうぞ」

「フンガー……」

何故か申し訳なさそうに受け取る。

「何遠慮してるのよ! 当然の権利よ!!」

フンガーのふくらはぎを叩く。100万円を躊躇わずにポンと渡せる豪胆な幼女。見習いたい物である。

「フガ!」

力強く頷く。

「あっ、これは私のよ!」

フンガーからある物を奪い取る。一体何を? まあいい。

「鏑木さん。では、私達は帰ります。お気をつけて!」

おや? ケイトのパパか。一旦離れていた筈だが、いつの間にか迎えに着てくれた様だ。

「アリサちゃん楽しかったよ本当に。じゃあ私達はこれで帰るね」

「うん。住む世界は違うけど、私達はこれで繋がっている。いつでも相談してね」

携帯を指差し、やけに男前な笑顔を送るアリサ。

「かっこいい♡じゃあ……ね」

ケイトは、笑顔のまま、輝く双眸から女神の雫を流す。それは、重力に従い、きめ細やかな頬を、一条の川を形作る様に零れ落ちて行く。その様は、正に天地創造時代。神がその秘術で大地に川を生み出す瞬間を目の当たりにしている様である。

ああ……私は……この川で溺れ死にたい。

そして、その偉大なる奇跡を目の当たりにした私にも変化が……自然と私の両眼からも溢れてくるのだ。これは悲しみの? それとも感動の? それは分からない。分からないが、止めどなく溢れ出す。私は、この涙をも誇りに思う。愛している。ケイトよ。

そして、先に帰路につくパパに追いつこうと小走りで去って行ってしまう……ああっ女神様……後ろ姿も女神様……

「じゃあ帰ろうか?」

「はいっ! フンガー! 達者でね!」

「フンガー……」

ゆっくりと会場を後にする。

「まあ無事終わったし、じゃあ、帰ろうか? 我が家へ! パパが待ってるわ!」

「はいっ!」

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一方その頃、悠々と会場から帰った白川は、そこから徒歩2分程の喫茶店で、3時のおやつと言わんばかりにチーズケーキとアイスコーヒーを注文していた。

「やれやれ」

「お待たせいたしました」

コトッコトッ

「どうも♪それにしてあのチビめ……やっぱ100万とお米一年分ロストは痛えなあ……あいつは……苗字は何だった? まあいい……これ位かな?」

携帯のメモアプリを起動し、何やら文字を打ち込んでいる。

SS 味噌門太 (完)

SS 久本正美

SSS 風原瞬

SSS アリサ

2020 7/23 AM9:00 28台 PM3:00 27台

2020 7/24 AM9:50 24台 PM0:30 16台

ぬ? 何だこれは? ページの上部に、3人の人物名とアルファベットのSが書かれていた様だが、その下に新たにアリサの名前とアルファベットのSが三つ書き込まれた様だが? そのアルファベットの意味とは一体? もしかして体の大きさを表しているのだろうか? スーパーすっげえスモールだろうか? 良く分からぬがアリサが白川に目を付けられた事は何となく分かる。 

 そして、ページの下の方には日付と時間と何かの台数を数えた物が記してある様だ。これは? ……昨日の日付と、今日の日付があるな。

書かれている時間帯に何があったかを思い出してみると、今日の分に関しては、アリサが受付している頃と昼食の時間と考えられるな。一体何の時間だ? ウーム……何の意味があるのだろうか? 

「よし」

書き終えると電源を落とし、ズボンのポケットにしまう。

「ふう、旨いなこのコーヒー。うむ、ケーキもいいな……また来るか(しかし何故かすっきりしない……奴はもうこの世に居ない。なのにいまだ奴に対する憎しみが……なんでだ? こういう時どうしたらいいんだよ……案外復讐ってもんはこういうもんなんだろうな)」

彼は味噌門太がまだ生き延びている事は知らない。だが、本能的にまだ生きているという事を察知し、憎しみが湧き出ているのだろうか? そして、ケーキを味わい、アイスコーヒーを飲み干す。

「ご馳走様! はいよ! あ、お姉さん? この店は近い内に繁盛するよ!!」

チャリンチャリン

「え? そうなんですか? なんか嬉しいです! ありがとうございました!」

「おう! その硬貨、ちゃんとお店に残しておくんだぜ? 額に入れて飾っておきな?」

「え?」

「間違ってもおつりで渡したら駄目だ。運が逃げちまうかもしれないぜ? これは幸運の500円玉だからな?」

「は、はい! 家宝にします!♡!(やだ♡かっこいい♡)」

根拠は分からぬが、謎の自信に満ちた顔で会計を済ませ外へ出る。まるで彼の触れた物全てに運が宿ると言わんばかりだ。確か七瀬にも強運散布と言うスキルがあったが、白川も同じスキルを所持しているという事か? やはり彼は、あの犯罪を行う前に既に分かっていたと言うのだろうか? 自分の生まれ持った強運に……それを組み込んだ犯罪を? そしてこんな会場に近い喫茶店でくつろげているのも、絶対に見つからないと確信を持っていたと言う事なのか? そこまでは分からない。

「まだ時間はあるか……な?」

夏休みが始まって間もない都会の空気。道行く人は日傘や帽子で日光を遮りながら歩いている。

だが、彼は暑さを感じている素振りは見られない。自らの放つ何かは、彼を熱気から守っている? 汗ひとつかかずに暫く空を見上げている。

普段は好青年。と、までは言えないが正義感の強そうな男であるが、鋭い眼光はまるで獲物を見据えたスナイパーの様な青白い光を放っている。

「さてと、ちいとばかり予定は狂っちまったが、【次】行きますか……!」

そう呟くと、バイクに乗り、いずこへと消えて行ってしまった。

 

つづく

 

私の書いている小説です

 

https://estar.jp/novels/25771966

 

https://novelup.plus/story/457243997

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