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16人の英雄決定

「リーダーごめんね? 時間取っちゃって。こんなモブが沢山語っちゃったわ。ふー……でも、なんかスッキリした♪」

自分でモブとは言ってはいるが、最早主役のアリサを喰う程の存在感。

 

「ああ」

 

「ヒャア……リーダー……そんな過去があったなんて……そう言えば桜花ジャパンには早乙女さんとリーダーでリーダーが二人いるんですね? ヒャッハアアアア!」

 

「そうね。彼も私も同じリーダー。どっちも大事!」

 

「お二人が桜花ジャパンの生みの親だったんですね」

 

「そうよ!」 

 

「ちょっと気になったんですが……」

 

「え?」

 

「折角の盗む忘れちゃったんですか? 勿体無いですよ」

 

「ああそう言えば忘れちゃったわね」

 

「盗むキャラは重宝されますよ! 勿体無いです!! どうして忘れてしまったんですか?」

 

「そうね……桜が……見たかったから……かな?」

 

「ヒャ? 桜ですか?」

 

「そう」

 

「ヒャア……よく分からないです」

 

「だよね……ねえリーダーお代わりいいかしら?」

 

「え? まずいよ……ほら、選手が……」

ぬ? 選手が何だ? 

 

「あ、そうよね……でもほんのちょっとだけだから」

 

「手短にね? 長引いたら彼らが……回復しちゃまずいから」

成程な。早乙女の昔話が続けば選手が休憩できてしまうという事かもしれない。それは運営の方針に反する。出来るだけ休息を与えない様にとしているのだろう。

 

「ありがとう! わかってる!! じゃあ早めに終わらすね。私はパンを盗む生活を一年位続けていた。でも、いつも通るその道は、桜の木が植えてある事すらも気付かなかったの」

 

「はあ……でも私達のチーム名に桜がありますけど、もしかしてそれに関係しているんですか?」

 

「そうね。生きる為に仕方なくやっていた事だけど、やっぱり後ろめたくて……盗みに行く時もその帰り道もずっと下ばっかり見てたんだ。

そして冬が終わり春には満開に咲いていた桜にも全く気付かずに生きて来たんだ」

 

「そうだったんですか」

 

「それでね? あの運命の日、歯医者様から出た私達は、異様な光景を目の当たりにしたわ。普段は人気のない商店街が、人込みで溢れていたの」

 

「ヒャイ」

 

「それもその筈よ。その日はゴールデンウイーク真っただ中。

いつもはお仕事で会社に行っている大人も、学校に行っている子達も、お出かけしている所だったのかもね。

みんな楽しそうに笑いながらお買い物を楽しんでいて……それを何だか直視出来なくて……何でかな? 多分まだ叶うかもわからない夢を抱き始めた私とリーダーは、そんな人達が凄く眩しかったんだと思う。

そして、それから目を逸らす様に、ふと空を見上げたの。そしたらね、桜の花が満開だったの」

 

「はい。空に目を逸らしたんですね」

 

「そらそうよ! って! こら!! 真面目な話中よ!」

 

「ヒャア、すいヒャせん」

 

「綺麗だった。すごく。そして、そんな事にすら気付けなかった事を少し恥じたわ。少し上を見ればいつでも見られる物なのにね……そして、リーダーは言ったわ。『桜か……桜の花……僕達もいつかこんな風に世界中の人から見られる様な存在になりたいな』ってね」

 

「へえ、なんか……いいですね」

 

「私も同じ気持ちで、静かに頷いた。そして、暫くずっと桜に見とれていたんだ。

でも、突然強い風が吹き始めたの。

で、一斉に花びらが散って、風に乗って、私達の目の前に桜吹雪が広がったの。

花びら一つ一つが、私達に何かを訴えかけている様な気がして……凄く……幻想的だったわ。今でも忘れないわ。

5月の桜。時期的にももう散る寸前だったのかもね。でも、最後に私達にその姿を見せてくれた。そしてこれは私の勝手な思い込みだけど、あの子達は、これからきっと花開く私達に、『僕達はもう散ってしまうけど君たちはこれからだ! 頑張れよ!!』 ってバトンを渡してくれたんじゃないかって思ってるんだ。そんな訳ないのにねw」

 

「そんな事が……でも、私、そうであって欲しいななんて……ほんの少し……それが切っ掛けで桜花ジャパンに?」

 

「ううん? 私は桜の花チームがいいんじゃ? って言ったの。でも、語呂が悪いよって。で、桜花にしようって事になった。それとね人生を謳歌するって言う意味とも掛かってるって言ってたんだ」

 

「人生を謳歌する桜花ジャパン……そんな秘密が……」

 

「だから私はもう盗むは二度と使わない。だって、そうしないと下ばっかり見ちゃう。それじゃ、桜が、見られない。人生が謳歌出来ない……でしょ?」

 

「ヒャア……何か……鮒汁ぶしゃあああってなりそうです……グスッ」

目だけでなく鼻からも涙を出す鮒津司。

 

「ううっ泣いちゃ駄目泣いちゃ駄目……」

西園寺も我慢しているが、遠くからでも分かる位に涙があふれている。

 

「鮒津司? ここで泣かないで? 床掃除大変だから」

掃除が大変だと? よもや鮒津司の涙は広範囲に散布されるのであろうか?

 

「ヒャア……でもリーダーも床を陥没させたじゃないですか! ヒャッハアアア」

 

「フフフ、そうね。じゃあ直しておかないと」

早乙女は陥没した辺りの土を均す。

 

「さっきは本当にごめんね? 鮒津司、西園寺。腕痛かったでしょ? お詫びにたこ焼き買ってあげるから許してね」

 

「ヒャッハーイ」

 

「ありがとうございます。たこ焼き大好き♡」

何と! 骨折寸前まで痛めつけられた筈なのに、たこ焼き一つで許してしまうとは……優しすぎる……

 

「し、しかし、腕立て15万回って本当ですか?」

 

「ええ、これは本当」

 

「これはとは?」

恐らく早乙女が入団1年目の時に、目玉が飛び出て入れ替わったと言う嘘であろう。あれは昨日初めて起こった出来事の筈だからな。

 

「あっ何でもない何でもない」

 

「と、ところで現在は何回出来るんですか?」

 

「え? 多分数えられないな。眠くなるまで際限なく出来るからね」

これが660と言う力の持ち主の本気なのか……

 

「嘘でしょ? じゃあ、ギネス記録狙えますよ」

 

「いいのよ私は……それよりもこの体操で世界一になる! そうでしょ?」

 

「はい!」

「ヒャイ」

 

「……」

相変わらず黙ったままのアリサ。そして早乙女は勝ったのに落ち込んでいるアリサに近寄る。

 

「ねえ、勝者がそんなんじゃ駄目でしょ? シャキッとしてよ!」

 

「……」

 

「もう! まあいいや。ねえ、電話番号交換して? また勝負したいの」

何と早乙女はアリサに連絡先を聞き始める。私なら断固拒否する。

何故ならそれは掛かってきたら彼女との対決。即ち、死の呼び出し音となるからだ。百害あって一利なしだ。

私は人生で不安要素を残したまま生きていたくない。彼女がいつでも連絡を取れる環境下では安心して生活、仕事が出来そうにない。

故にそういう物は全て排除していきたいと考えるのだ。人として当然の自己防衛本能である。

 

「……」

だがアリサは無言で携帯を差し出す。やりたきゃ好きにしろという事だろうか? 凄いな……私なら断固拒否するのに……

 

「ありがとう」

早乙女は、アリサの電話と自分の電話を近づけ、赤外線通信を一人で行い登録する。

 

「じゃあ返すね。必ず連絡するから! また勝負しようね!! 今度は拳でね」

恐ろしい事を言う早乙女。

 

「……」

 

「ねえ? 携帯受け取る時見えたんだけど、あなたの胸に付けているペンダント。もの凄い黒めのもやが漂っている様に見えるよ? 凄く嫌な気分。ゴスーとかゴスートとかゲガンーみたいな強い闇の力ね……すぐに捨てた方がいいと思う」

ぬ? もしかしたら彼女の霊視の力なのだろうか? 確かそこにはブラックダイアが入っている。先日泊まったホテルの50階の展示室の石像の目玉として輝いていたダイヤだが、その石像が運悪く砕け、転げ落ちた物だ。だがそれは【アリサ会議】の末、彼女が大切に保管している。詳しい事は前話で語っているので、お暇ならば確認するのも良いだろう。

 

「……」

無言のアリサ。早乙女のアドバイスを聞いているのか聞いていないのか分からない。

勝利は出来た……が、一つの犠牲を孕んだ勝利。心から喜べないアリサ。早乙女の言葉にも無反応。

そして……恐る恐るかつての仲間であったフンガーの居る後ろを振り返ろうとする……

 

「フ、ガ、ごめ……あ、あれ?」

ところが、声も上手く出せないし、体も思う様に動かない。

首も回らず、その勇気もない。

謝らなくては! と言う気持もあるのだが、不思議な力で、首を後ろに向けると言う動きだけが制限されている。

フンガーから飛び出したその瞬間から、もう既にアリサの中では彼からは絶縁されたと思っていて、見る事が出来ないのだろう。

すると!! 

 

「フガガガ♪」

フンガーは、電話対応する時、少しトーンを高める母親の様に、少し高めの声で元気一杯にアリサに語り掛ける。

その声に思わず……!

 

「え?」

その優しい響きに呪縛が解け、振り返る……

 

すると……

 

そこには……

 

 

ニイッ♪ ビシイィッ!

何と、右手の親指をアリサに向けて立てて、満面の笑みをしているではないか!! 

これは一体どういう事なのだ!? 当然怒られても仕方がない事をしたのに……

 

だが、フンガーも分かっていたのだ。

そう、そうしなければ2人共失格になってしまう。でも何とかしたい言う気持ちはフンガーにもあった。

 

 

フンガーは頭が良くなくて、どうして良いか全く分からなかったのだ。

あたふたするだけのフンガー。それを一瞬に解決へ向けた判断を下せたアリサにナイス、よくやった! と親指を立てて表現したのだった。

それを見て、彼の気持ちを理解したアリサは、自然と涙が溢れる。

 

「ご、ごめん、ごめんねフンガー。優勝したら賞品のお米と、お金は全部あげるから許して」

こんな時でも脳は打算的に働く。そう、松谷修造とのテレビ出演権だけは譲らないのだった。まあ捕らぬ狸の皮算用だが……

 

「ア、リ。サ……フンガレヨ」

優しく、そしてはっきりとした口調で、アリサに語りかけるフンガー。

フンガレヨ? フンガレヨとは? 確かにそう聞こえたが? ……これは一体? ぬう? ま……まさか! フンガーの【フン】と、頑張れよを合わせた彼オリジナルの造語か? そうか……彼なりの頑張れよ! と、いう意味であろうか? 確か、フンガーは今までフンガー以外の言葉は使えなかった筈。しかし、その瞬間に、それ以外の言葉を初めて喋ったのだ!

それがアリサへの恨みの言葉ではなく、屈託の無い本心からの応援の言葉。

この時のフンガーの言葉は、大好きな松谷修造の応援よりもアリサの心に深く、強く、届いた。

そして、更に涙が溢れてくる。

 

「くすん……ごめんねフンガー!! 分かったよ! これから一人でもアリサはどんな問題でも解いてみせる! 

どんなに難しいお題が来ても、当意即妙に切り抜けて見せる! 絶対絶ーっ対に必ず優勝してみせる!!」

 涙目になりながらも、その中に強い意志を宿す力強い眼力。

そして、その姿に場違いな頬を流れた涙の跡を、カバンから取り出したタオルーズの二枚組のタオルで拭う。

すると、そこには凛とした戦士の顔が現れた。強い意志を引き継いだ戦士のな……!  

そして、会場に入った時とは比べ物にならぬ程の闘志が芽生える。そして少々の安堵も……

そう、フンガーから飛び出した瞬間に切れたと思っていた絆は、未だに……繋がっていたのだ!!

アリサも、左手親指を立て、フンガーに誓う!

 

「フンガー! いっちょ、フンガってくるよ!!」

-------------------------End of battle------------------------

 

Alisa win Defeat strong enemy finish! excellent!

 

finish bonus exp bonus×5!

 

2000EXP獲得! 0G獲得! 

 

skill Lv up! All thing analyze MP160→MP150

アリサの万物調査のレベルが上がり、消費MPが150に下がった様だ。

 

「フン!!」

大きく頷くフンガー。そして、応援席の方に歩いていく。

 

「じゃあねー」

 

「そ、そろそろいいか? 多分いいよね? じゃあ再開するよ! おお大分減ったね。もう指で数えられる位だね。

では第4問!

中山家、ますだおから、ベースボールアワー、なかむらぜいにくん、鼻毛男爵、ミルクオヤジ、不死鳥倶楽部、笑い館、干鳥、森三忠。

これらの芸人の人数を合わせると20人である。○か×か? 制限時間は3分です。ではお考え下さい!」 

 

「え? ちょっちょっと!??

そんなに一度に言われても覚えられないでしょ! でも考えなきゃ。

ええと2+2+えーと……おーい司会者さーん! もう一度言ってよー。耳が遠くて全部聞き取れなかったのよ」

咄嗟に嘘を突くアリサ。

 

「問題読み上げは一度きりだよ。だってこんなに熱いのに何度も喋ったら喉が渇いちゃうじゃん。

それに、スクリーンにまだ問題映ってるでしょ? 分からなければ、それを見てくれい!」

 

「そうか! スクリーン見ればいいのか。でもまずい! 時間が無い。

どうしよう……でも待てよ? 冷静に考えると1、問目は○で、2問目は×。それで、3問目は○……と、いう事は……もういい! なら絶対×だ!!」

ぬう? その考えはどうなのだろうか? 非常にまずいと思うのだが……

そして筋肉達は、難問なので追いかけまわさずに、舞台の上に戻って腕組みをして選手達に微笑んでいる。

ダダダダダダ!

邪魔する者は誰も居ない。アリサは×の方に走る。他の選手も指折り数えながら右往左往している。

 

「さあ……2分の1だ。もうここから一歩も動かない。今の私なら絶対行けるッッ! さあ、来いッッッッ!!」

何故か自信満々のアリサ。凛とした戦士の表情だ。しかし、その表情をしていいかどうかは本人も分かっているだろう。

本来は駄目なのである。

しかし、彼女はもう考える事を諦め、開き直ってしまったのだ……そこは神頼みでは駄目ではないだろうか? しっかりと芸人の人数を数え、正解の方へ行かなくては……だが彼女はそんな冷静ではいられない様で、負けが続いて最後の資金を賭けているギャンブル投資家の様な戦い方をしている。 

当然遠目で見ている観客は、自信満々で走って行ったアリサを疑う者は誰一人としていないが、一知半解のままの丁半博打をしているだけなのだ。予選一回戦の最終問題と言う大事な所でな…… 

 

そして、30人位の選手達は、丁度半分半分に分かれて停止する。

 

「残り時間あと10秒です 9、8、7……終了です! 正解は×!!」

が、何と運よく正解だったのだ。

 

「よかったーーーーーー」」

今回グダグダなアリサ。実力を出せぬまま終わる。記憶力の良いアリサも、問題を覚える事が出来ず。

問題は、スクリーンに映っているのにそれを見ずに司会者に文句を言い、最終的にはろくに考えもせずに山勘で問題を解く始末。

フンガーと一緒だった時に比べかなりおかしくなってしまっている。一体彼女に何があったのであろうか? 

 

 恐らくこれはついさっきフンガーを裏切ってしまった彼女。

しかし、フンガーの上で時間切れ寸前まで迷っている時に起こった、焦りの気持ちや、高所恐怖症を克服し大ジャンプした勇気、そして、その軽はずみな行為に対する罪悪感、そして、その事をフンガー怒られるどころか優しくされ涙し、まだフンガーとも繋がれていたと言う安堵感等の色々な感情が、頭の中を行ったり来たりしていて、その最中、気持ちがまだ整理できていない状態で出された問題だったから、動揺してしまったのかも知れない。

どんな人間でも、落ち着いた時ではないとミスを頻発してしまうという事ではないだろうか?

 

 私もそうだが、人前で何かを発表する時、あれだけ練習したのに、台詞が詰まってしまったり、噛んだり飛ばしたり真っ白になったりする事もあるが、大勢に見られている事で、本来の力を出せない事もある訳だ。緊張と言う感情の乱れでな。アリサもそれと同じ事が起こっていたに違いない。

 

「正解は中山家2人、ますだおから2人、ベースボールアワー2人、鼻毛男爵2人、ミルクオヤジ2人、なかむらぜいにくん1人、不死鳥倶楽部3人、笑い館2人、干鳥2人、森三忠3人の合計21人で×になります!!」

 

「はぁー危ねー。ま、まあ運も実力の内よ!!」

……こんな惨めな勝ち方で、フンガーに合わせる顔があるのだろうか?

 

「人数は? ……16名ですね。敗者復活戦は無しです! では、ここで予選1回戦は終了です。

これより5分間の休憩を挟んだ後に、二回戦です!」

 

こうして、アリサを含む16人の通過者が決定した。

 

私の書いている小説です

https://estar.jp/novels/25771966

 

https://novelup.plus/story/457243997

 

https://ncode.syosetu.com/n1522gt/

 

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