magisyaのブログ

小説となぞなぞを投稿してます

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「そなた……いったい何故? ワシは幻でも見ているのか?」
声の方を一斉に向くと何と市田が立っていた。

市田さん? 生きていたの?」

「おうよ!」
未だかつて無い程に自信に満ち溢れたおうよである。

「そなた本物なのか?」

市田さん!! よかった……」

「僕は生きていると信じていたんだ!」

市田さん! 無事だったのか? ハッ……俺! 思い出してしまった!!!」

「な? オオカニ君? 何を思い出したんだい?」

「俺の変身って、好物の動物に変身したり人間に変身するんだ。で、動物はその種族に変身出来るけど、人間の場合、俺の知っている人の中で最もその食べ物が好きだと言う人物に変身するんだ。そして、既に死んでいる人の場合は変身出来ないんだ。
アリリちゃんに市田さんの部屋でコーヒーやマイナス1ーズンを見せられた時、市田さんに変身していたらしいけど、もしそれが本当ならその時市田さんは死んでいない筈なんだ。もし本当に死んでいたら、市田さんの次にそれらが好きな人物、もしくは生物になるんだ」
ほほう、複雑な設定だが、この事件を解決する事に特化した最高の特技であるな。だが皆フランケンの影響で語尾を言っていない。故に誰が喋っているかが分かりにくいな。こうしてみると語尾無しってのはとってもむずかしーと痛感する。

「じゃああの時市田さんは生きていたって事なんだ。ってかそんな重要な事もっと前に言いなさいよ!」

「ごめんとしか言いようがない!!」

「上に同じだよお。言い訳すら思いつかないよお……でも生きててよかったよお。何とか残り体力1で倒れていたんだよお……」

「何故……何故生きて……成功したのではなかったと言うのか?」

「あっ! おい! オオカニ君! フフンケン! そしてみんなも! 語尾はどうした!?」

「いけねっ! 付けてなかったリキ」

「何を今更……復帰してすぐそれか? リキュバスさん? もうそんなのいらない。しかし、相変わらずだな……本当に忌々しい……少し考えれば分かるだろ? 何故殺されかけたか? 自分の胸に手を当てて考えて見ろ」

「殺されるような事はしていないよお……しかしフフンケン、やっぱり語尾はやってくれないのか……? あの時は読者様に免じて許可したけど、こういう時はやってくれないと困るんだよォ! しかし、一番素直に聞いてくれる子だと思っていただけに残念だよ」

「子ども扱いするな! それにもうそんな訳の分からん物言う訳ないだろう? ゴミめ……」

「な? それを言うならヨミめ……か、ゴ二め……だろお?」

「屑が……黙れ!!」

「それはフランケンの言う通りだと思うわ……こんなのおかしいもん。ねえ市田さん……そろそろ教えてくれない? こんな時でも語尾に拘るのは何で?」

「ああ、それは簡単な事だ。この屋敷のルールだからね」

「それだけじゃ納得出来ない! ……そういえばどうしてお化け屋敷にしたの?」

「な? 突然だねえ そんなに知りたいの?」

「はいっ!!」
 
「分かったよ……アリリちゃんは妖怪一足りないと言う妖怪を知っているかい?」

「アレって妖怪じゃなくてそういう現象でしょ? 例えば……買い物していて財布を見たら一円足りないってなった時『ああ、妖怪一足りないだわー』って言うでしょ? それって妖怪そのものの事を言っている訳じゃないよね?」

「ま? そうだったの? 言われてみれば確かに……本当の妖怪だとばかり思っていたけど勉強になったよ……で、それをそういう現象とは知らずに妖怪市田理内と変換してしまったんだよお」

「へえ、それで妖怪のボスとしてお化け役を集めてこんな屋敷にしたんだね?」

「おうよ!」

「でもその妖怪達に語尾を無理やり言わせるのはどうして? 詳しく!」

「みんなの語尾は、彼らの名前の部分で1足りない文字を含めた2文字を語尾として付けさせていただけだよ」

「何でそんな事を?」

「お化け屋敷を立ち上げる際に面接をしたんだ。その時に色々な1足りないエピソードを語ってくれた。元暴走族だったり病院勤めで嫌になって逃げてきたりとね。でね? 初めて採用したネズニ君は普通に話していなかったんだよお。お化け役になる前から語尾にピカとかチュウを付けていたんだ」

「へえ」

「で、お化けに合った語尾は付けた方が良いと思うようになった。そして過去に一つ足りないエピソードを持っている人ばかりだ。だからそれを忘れない為にも、そう、過去の様にはならないと肝に銘じてもらう為に、この屋敷でお化け役として仕事するにしても、本来の正しい妖怪の名前から1を引いた名前を名乗らせる様に命じた。そして、ついでにドラキュラだったらラから一引きフに変えて2文字の語尾を発音させた。ドフキュラだったらドフって感じでね」

「どうして?」

「これは意味も意図もない厳然たるルールだからさ」(本当は一つ足りないと言う最高の響きを常に聞いていたいからって言う明確な理由はあるけど、みんなの前でそんな事言える訳ないよ……)

「結局そこに行きつくのね?」

「それを従わないとクビになるから皆従ってくれたよ」

「完全なるパワハラね。だから首が上下逆さになった市田さんのマネキンが置いてあったり、首のない人形があったり、ラジコンの駐車場にも市田さんの顔が描いてあってズタズタにされていたり、フンガーの部屋のまな板にも同じものが書いてあってズタズタにされてたし、兎に角皆あんたをよく思っていなかったと思う。あれはささやかな反抗だったのかもね?」

「な? そうだったんですね……では、少しルールを緩める事にしますよ」

「それがいいと思う……でもネズニの語尾だけそのルールから外れている気がするのよね」

「な? ああそれか。ネズニ君には〇〇ズニって言って欲しいってお願いしたんだけど、断られちゃってねえ。クビにすると言っても動じずにこのスタイルで行くでピカと……だから仕方なしにこの状況で妥協したんだよお」

「そうなんだ。納得したわ」

「お、おい、ワシを無視して雑談するでない!」

「お? そうだったな? すまないね。だが、貴様を含めみんなも私が死んでいたと思ったのか? だとすれば私が倒れているところを発見後に偶然誰も居なくなった時に丁度意識を取り戻したんだろうな……」

「多分そうね。鑑識の子が、鍵を掛けて密室になった後に居なくなったから、皆びっくりしたんだよ?」

「ま? それは済まない事をした。こんな私を心配してくれていたなんて……もう語尾とかそんな拘りはこれっきりにしようと思う。みんな済まない……」

市田さん……こんな時にあれだけと、ずっと使っている内にちょっと気にいってしまったカニ。このままでも構わないカニ!」

「そうか? その辺は自由でいいさ。これからは語尾を付けなくても注意しない事にするよ」

「了解ドフ」

「ちょっと待ってニイ!」

「どうしたんだニイラ君?」

「僕、市田さんにホイミイラを掛けた筈ニイ。1残っていたなら意識を取り戻すなのに、回復した筈なのに……どうしてねたままだったんだニイ?」

「ああ、あの時、瀕死+睡眠状態だったと思うんだ。体力が物凄く低い状態で眠り。体力を戻す為に体が取った最善策だと思うよ。だから仮に回復したとしても目を覚まさなかっただろうな。確かにごく少量は回復したと思う。だが、恐らく正しい詠唱をしていなかったんじゃないのか? 聖霊に間違った詠唱を聞かせれば効果は激減する筈だよ?」

「あっ」(そうだ……【この小さき】の部分を変更した結果、効果が減少してしまったと言う事かニイ……聖霊達も、余り聞きなれない詠唱だと効果を弱めてしまうんだニイ。でもそれが分かっただけでも新たな学びがあったって事で良かったと思う事にするニイ……)

「だがニイラ君のホイミイラのお陰で、少し遅れて意識を取り戻した私は、隠し階段を下り、外の倉庫へと逃げた」

「隠し階段だと? そんな物知らないぞ?」

「それはそうだ。机の付近にあるのだが、最近極秘で作らせた物だからね」

「何故だ?」

「念の為だよお」

「迂闊であった……そんな事に気付けぬとは……」

「あっ、そういえば床にこぼれてたコーヒーが円状ではなくって不自然な染みになっていたけど、あの下が隠し階段ね? その下が空洞になっていて、本来楕円型に残る染みがその隠し階段の蓋の隙間からこぼれて、ブーメランっぽい形の染みに変わってたんだ。って事は、その入り口は、机の下のコーヒーの染みの傍あるのね?」 



この現場でアリリの言った部分をよく見て欲しい。



これは机の付近を拡大した物だ。分かり易い様に椅子をどかし〇で囲った部分である。コーヒーが不自然に途切れているのが分かる。ここから流れ落ち、不自然な形にコーヒーの跡が残ったのだろう。この薄い線は、隠し階段の入り口である。

「おうよ!」

「もっと丁寧に調べるべきだったわ。あれ? そういえば、犯人は分かっていたんでしょ? なのに甦ってすぐ何で私達を呼ばなかったの? 隠し階段なんかに逃げなくても……」

「ああそれかい? 私も蘇った直後混乱していたのかもしれない。とにかく部屋を出たらフフンケンが待ち伏せしているんじゃないか? 七合わせするんじゃないか? とか、もしみんなに報告したら大暴れしてみんなを殺してしまうんじゃないかと思ったんだよ。私は姿を隠し体力を回復させるのを本能的に優先したのかもね?」

「七合わせって……鉢合わせかの事か……」

「そうだよお! 鉢合わせと言おうとすると脳内で自然と七合わせに変換されて言っちゃうんだよねえ」

「もはや病気だ」

「でも市田さんあんたフンガーとそのお父さんに酷い事したんだよね?」

「な? していないよ? 彼は私に屋敷の事は快諾して譲ってくれた。彼は私の小説の大ファンだと言ってもくれた」

「そんな嘘を信じると思うか? 父は遺書を残している。そこにはお前に騙された事を暗号で事細かに記されていた本当の事を言うのだ!!」

「な? ならさっきの事は嘘だよお……」
ぬ?

「あっさり認めたわね。結構足搔くかと思ったのに……」

市田と言う男はこういう男なのだ。心底軽蔑している」

「だ、だが私のファンと言うのは事実だ。で、必死に頼み込んだけどここは譲れないと言って来たんだよお。
で、お酒を一緒に飲みながら交渉していたんだけど、譲ってくれ! 駄目だ! の言い合いになり、最終的に君の父親は上着も持たずに出て行ってしまった。自分の家なのに私を追い出そうとせず自分が出て行ったんだよお」

「お前がしつこ過ぎたせいで顔を見るのが嫌になったのだ。そのせいで父は……」

「それは今になって気付いた事だよお……申し訳ないと思っているよお。で、体温が酒で上昇していて、上着を着る必要が無かったんだと思うよお」

「それで冬にその状態で酔っ払って眠っちゃったって事なの? じゃあ本当に事故って事? じゃああのメモはフランケン? なんて書いてあったのか詳しく教えて?」

「ぬ、ううう……ま、まさか……ではあの遺書の真の意味は……この内容

【奴と口論の末路頭に迷い、どうしていいか分からない。すまない】

これは本当に酒が入った事を気付かず薄着で冬の街を出歩き、倒れそうになった時に書き残した遺書だったと言うのか?」

「状況的にはそれが一番近いわね……上着の中に携帯を入れていたから連絡も取れず震える手でメモを残した? ってのが一番しっくりくるわ。市田さんとずっと話していたけどそんな人には到底思えなかったし、裏表があるようにはどうしても思えなかったの。でも市田さん? 上着を忘れているとか教えればよかったんじゃない?」

「ま? そんな事言われても物凄く早足で出て行ったから追いつけないよ……何度も言う。私は彼を殺していない。ただの悲しい事故だったんだよ? だから殺される筋合いはないんだよ? ろくに調べもせずに、遺書を勘違いして私を恨んでしまった。君のそういうミスは君の欠点でもあり良いところでもあるから仕方がないけれどさあ! まあ私も折れなくてはいけなかったかもしれないけど、どうしても欲しかったのだ。君も男なら分かるだろう? 本当に欲しい物はいくら待っていても絶対あっちからは降りて来ない。自分から取りに行かなくては駄目なんだ! そんな常識的な事をやっただけ」

「クッ、だが、貴様はワシに父は直ぐには戻れない仕事があると嘘を言っていたではないか!」

「それは交渉中に、お願いの話を切り出す前の雑談で偶然その話をしていたんだよお。そして本題を切り出したら口論になり、出て行ってしまった。だから彼が居なくなった時、その仕事を専念していると思ったんだよお? ニュースで死んだ事も私は知らなかった。テレビは見ないんでね。時間が空けば執筆しているからね」

「だが、あのゲームをあのタイミングでワシにプレイさせた理由は何だ? 唐突過ぎるだろ? ワシが心を痛め、この屋敷を我が物にするつもりだったのでは?」 

「それに関しては申し訳ないと思っている。でもわざとじゃない。面白いと言う噂で買っただけだよ? それに新発売のソフトだったじゃないか! そんな噂が出る前のさ。内容は私は知らなかったんだよお! それに君の父が亡くなった事は喧嘩別れして2か月位した後警察が来てその時に初めて知ったんだよお?」

「た、確かにそうだ……ぬうう、ならすぐワシに家を譲れば……そうか……その直後ワシが心疾患の芝居をしたから、譲りようにも譲れなかったと言う事か?」

「おうよ! 君が元に戻ったら返却するつもりだった。でもそれを分からずに、今に至る訳だね」

「だが信じられぬ。タイミングが良すぎる……ここまですれ違いがうまい事生じる物なのか? こんなのアンジャッスのコントではないか……全て策略だと、貴様が綿密に計画を立てて実行したと確信していた……だからそう思われても仕方無いだろう?」

「君は頭が良すぎたんだ。深読みして逆に失敗するパターンに陥っていただけ。
で、私は君のその勘違いから来る的外れな殺意を受け、瀕死になるまで弱っていた。でも今考えたら君にも少し迷いがあったのかもしれない。そのお陰で、死神の攻撃を直撃しても死から1足りない状態で生き残る事が出来た……本当に1足りないと言う現象って素晴らしいよね? 最高だよ……後1減れば死んでしまうと言うのに助かってしまうんだから……」

「1足りない現象が素晴らしい? まだそんな世迷言を……ではもし買いたい物が目の前にあり、すぐに売り切れてしまう中。財布を見たら1円足りなかった。どうだ? これでも喜べるのか? RPGで強敵を後1まで追い詰めたのに、そこから逆転されたら嬉しいか? 製品に一つ部品が足りぬまま客先に届けられた場合どうなる? 例えば、扇風機にファンが無い状態で家に届いたら、電源を入れても、ファンを取り付けるモーター部分のみが虚しく回転するだけ。
それで電気代が掛かる。浪費しただけでちっとも涼しくはならぬのだぞ? 当然返却され、ファンを取り付けた後に再送。この工程でどれだけの無駄が生じるか? そなたでも分かるだろう? 全ての物に1足りない状況が最高だとは言えないのだよ。いや、更に言うならたった1が足りないだけで目的を達成出来ない。それ程悔しい事は無いだろう? あと一歩のところまで進めたと言うのに、今までやった苦労が水の泡になる。
テストで500点でなかったら不合格のテストがあるとする。200点しかとっていない奴はそこまで悔しくはないだろう。だが499点を取った者の悔しさは尋常ではないだろう? 男で身長170cmあれば人権。だが169では人権が無いと言い炎上した輩もいる。その後その発言は叩かれ、その人物の仕事も減少したが、内心そう思っている人間も少なからずいる。悲しい事だがな。
そんな事もありえるのに、1足りない事こそ、そう、

【最も合格に近いのに不合格とされてしまう】

最悪とも言える事象なのに……そなたがどういう状況でその異様な状態を好きになったか分からぬし、分かりたくもないが、他人にその考えを押し付けるなど言語道断なのだ!」

「別に分かって貰うつもりもないよ。でも私にとっては最高の状態だったんだよお。君は一足りない事が悪い事ばかりだと言っているけど私はその現象のお陰で生き延びる事が出来た。他にも色々……怒虎様は私に教えてくれたんだよお?」

「怒虎?」

「フランケンは知らないんだね? 私が奴隷として仕えていた大きい猫の神様だよお」

「何だそれは? その化け物の教えで今のそなたが存在すると言う事か?」

「おうよ! あのお方は私が食事を届けに行った時、一品忘れて届けてしまったんだよお。で、空腹で叱られるかと思ったら、こう仰ってくれた。

『ちょっと食べ過ぎて太って来たから一品位足りない方が良いニャン』

とね。本当はお腹いっぱい食べたかった筈だけど、怒る事無く考えを改め、ポジティブシンキングに変換しているんだよお」

「なんだ……下らぬ話を……」

「他にもある。彼らはスイーツの美味しいお店の行列に並んでいたら、一つ前の人で売り切れになった時があったんだよお。本当ならその行列など掻き分けて一番乗りに買う事も出来る程の力を持つお方がだよお? でもルールに従い買わずに山怒虎軒に戻った。そう、後1足りなかったけれど、そんな事では怒らず、並んでいる間、前の人と話をしていて、

『同じ甘党と言う趣味を持つ仲間と沢山話せて良かったニャン』

と笑顔で仰っていた」

「それがどうした……」

「その話を聞き、一足りないと言う事は素晴らしい事だと思う様になったんだよお。両親が理内と言う名を付けてくれた事を誇りに思っている位に……そしてその考えを更に固めたのは怒虎様が封印されて帰らぬ神となった時だ。その時、どんなに頑張って仕えても、予期せぬ第三者の介入で突然終わってしまう事もある。だから、頑張る事はこの時点で止め、一足りない位の頑張りでいいやと考える様になったんだよお」

「成程、そなたも元々は普通の人間だったと言う事か……あんな事件が無ければな……だが他人にその思い出を語り、その思想を押し付けるのはおかしいではないか?」

「もしもおかしいとしても、そんな事で命まで狙われる筋合いはないよお。で、隠し階段の先から庭に出て、そこにある倉庫の中で仮眠を取った。暫くしたら中の食料を食べて回復しようとしたのだが、貴様に腹一杯ご馳走を振舞われたお陰で中々食べられなくてね。しかも貴様が出したあの焼き菓子のレベルが高すぎて倉庫に眠っていた非常食の乾パンは硬くて味がしなくてで全く食えなかったぞ……満腹の時の味のしない物は、別腹どころか本腹でも入らないと言う事だな。フフンケン! またあの菓子をご馳走してくれよ?」

「あれはもう作れない。もうあれだけの材料はもう揃わない。そなたの人生の最後の味は、あの菓子で締めくくっておけばよかったのだ」

「そうか……残念だ……誤解と分かっても私を恨む気持ちは消えないと言う事か……少しは冷静になれ。事実は違ったのだから……」

「分かっていてもどういう訳かそなたへの殺意が消えぬ。恐らくこれからも」

「そうか。まあいいだろう。少し落ち着いたらその気持ちも変わると願いたいね。で、仕方なしに、乾パンを一枚食べた後再び眠り、貴様の気配が無い隙に、廊下にある洋館の羊羹をかじり、魔力を回復させた。甘い物は主にMPを回復させる効果があるんだよお。アリリちゃんが呪われた時に解呪の呪文が出来なくなったニイラ君もそれで回復させたでしょ?」

「そうなんだ。じゃあしょっぱい物が特にHP回復って感じかしら?」

「そうだよお。それに甘い物は別腹だからね。そして、羊羹をよう噛んでいたら何か更に空腹になってね、2階と3階の間に設置しておいたミニステップのカニサンドにも手を伸ばそうと思って行って見たんだが無くなっていたんだよお。
もしかして誰か食べたんじゃないか? あれはお客さん用なんだけどねえ」
ギクゥ

「私じゃないよ?」

「俺は知らないカニ? アリリなんじゃないカニ?」

「違うよ」
いや、アリリなのではないだろうか? 空腹で無意識の内に食べたと言う可能性も0ではないしな。だって私はあのカニクリームチーズとレタスの挟まれたとっても素晴らしいサンドウィッチなど一口たりとも食べておらぬし……ゲップ……

「まあいいや。誰かがあのサンドを食べて幸せを感じてくれれば、私も最高の気分になれるんだ」
何と……素晴らしい思想である。市田さんは実はとても良い男で、フランケンの父親を殺した悪人では無いのかもしれない。

「そうだったんだ……あれって館に来たお客さんに振舞う筈の物でしょ? でも自分の為にもなったって事ね?」

「おうよ! 備えあれば患いなしで嬉しいなだよぉ!」

「ま、まさか……やはりあれでは完全ではなかったと言うのか……?」

「おうよ! ニイラ君のホイミイラも詠唱が少し違う事で効果が落ちた。そしてフフンケン。君は死の呪文を協術でやろうとしたんだな? 無謀な事だよ!」 

「ああそうだ。更に協術は欠点がある」

「欠点って何だドフ?」

「あれは詠唱開始すると、協術者間で均等に少しずつMPを消費してしまう。そして、死の呪文の消費MPは莫大。故に詠唱する度にかなりの疲労が訪れる。そなた程の術使いなら当然それに気付いてしまう」

「なる! それを解消する為に私に高級菓子を振舞いつつの協術を企てたと言う事か」

「えっ? どういう事リキ?」

「そうだ。人間は、食事を摂る事でHPやMPが回復するのだ。だが10時と言うワードを引き出す為にどうしても夕食後の、就寝前の時間に始めなくてはならない。まあ朝でもよかったが、その時はボケ人間コンテスト会場におったから夜にしか出来なかった。まあ、どちらにしてもそこまで空腹ではないタイミング。その満腹状態のそなたにも甘い物なら別腹だと言う事は知っていた。だからMPの回復効果のある甘い菓子にしたのだ。そして物を乗せられるよう平らにし、割れるよう程よい硬さの焼き菓子を作らせた。当然多少満腹気味でも無理しても食べられるように、最高級の材料で作り上げた。トッピングのレタゼラのゼラチンもカニも牛肉も最高級品だ! それは1年もの間そなたの好物を研究していたので簡単だった」

「成程、あの会食形式で、時々に菓子にトッピングを追加し味を楽しんで貰うと言う殺人計画は、ターゲットの口に物が入っている事から、必要最小限の言葉しか喋れないようにした上で、自分のタイミングで必要なワードを引き出す事も容易な状況にしたのドフ? で、怪しまれる事なく死の呪文を完成させたと言う事ドフ? 更に協術で消費したMPを補填させる効果があったドフ? だが、MPが減っても、食べる度に瞬時に回復していたと言う事になるドフ? 私はそんな事初めて知ったドフ。こんな細かい事まで調べ尽くしたのかこの男は? 何と言う執念ドフ……その結果、あの市田さんでもMPが減ってしまった事自体が気付けなかったと言う事ドフ?」

「おうよ! してやられたね……ただの家事手伝いだと思っていただけに驚いたよ。そういえば君は少しずつ言葉が回復しているようには見えていたが、あの時は流暢過ぎたからな……その時に怪しむべきだった……だが、その前にあの菓子を出され、思考が乱れてしまったのかもしれない」

「この屋敷の正統後継者を家事手伝い呼ばわりか……クズが……だが、ここまで上手く行ったのに……何故だ……」

「あの長さの神施魔法を協術で詠唱し切ると言う芸当、恐らく人類初の試みだ。それはお前でも分かっている筈だ。初めてでやるには長すぎたようだな。実際試してしまったら罪のない人をその呪文で死に至らしめる危険性もあるからな。ぶっつけ本番しかないだろうな」

「そうだ、練習等出来ようもない」

「当たり前よ! ただの実験で人を死なせてしまう訳にはいかないもん! フンガーは優しいんだから!」 

「アリサよ。先程言った通りワシはそこまで優しくない」

「優しいって! あのさ、基本的な質問で申し訳ないけど、お互いの会話で上手に繋げたとして、それが呪文と同じ発音になるだけでもしっかり呪文になる物なの? リキュバスさんと市田さんも妖服の間で暗闇にする魔法を協術で唱えてたけどしっかりと文章ごとで交代していたわ。でも【わしにがみのが】って、中途半端じゃない? 文章をぶつ切りにしているわよ? それに聖霊に訴えかける詠唱じゃなくって、私は苦みの方が。って言う事を市田さんに伝えただけでしょ? それなのに精霊って反応してくれるの?」

「鋭いな。よし、それは、マジかよ樽ルートくんの召喚の言葉で説明出来そうだな」

「どういう事?」

「彼を呼び出す時に唱える呪文と言うのが、【ほんとに困ったウホー】と言う言葉なのだ」

「あああれかあ。知ってる知ってる」

「だがその事は誰も知らない。それでも主人公の大阪城本丸と言う少年が「ほんとに困った……」と言った後、寝室で寝ているゴリラが寝言でウホーと言っただけで【ほんとに困ったウホー】と言う呪文として成立してしまい、偶然にも樽るーと君が召喚されてしまった事例がある」

「成程ねえ。じゃあ意味合いは違っても、その発音になる様にすれば、死の呪文も発動するって事ね? だから自信満々で協術を使う事に躊躇わなかったって事かあ」

「いかにも」