「当然それ以外にも理由がある」
「何だリキ?」
「情けない話だ……一人では唱えたくても……唱えられない……のだ……」
「えっ?」
「な?」
「足りないのだ……」
「足りない? え? ま、まさかMPが足りないの?」
「ああそうだ……普通に考えてこの体格の男の最大MPが高い様に見えるか? 体力と筋力だけのパワースタイルだと言う事は一目瞭然であろう」
「い、言われてみればそうよね?」
「リキ!!!!!!」
「ワシはそもそも魔法と言う存在を知ったのは、まだ一年とちょっと前だ。偶然立て込んでいて部屋まで持って来てとの事で、メデューリさんの所に料理を運んで行った時だ。彼女は美しい声で本を朗読していた。立て込んでいると言ったその理由は新しい本をどうしても中断したくないとの事でワシを呼んだのだろう。まあ少々釈然としなかったが、たまにはこういうのも仕方ないかと納得し、用事も済んだし出て行こうとも思ったのだ」
「べ、別に美しくないーリ」
「いいや。そなたの声は、美しい。だがしばらく出て行かずにずっと彼女を見てしまっていた。と言うよりは出ていけなかったのだ……彼女の朗読の心地よさで、足を止めてしまったのだな。その時読んでいたのが呪文の本。その時初めて呪文と言う物。魔法と言う物があると知った。それを調べている内に、死の呪文の存在も知る事になる。これなら証拠不十分でそなたを葬れると漠然と思っていた。だからそれを切っ掛けに彼女の部屋にちょこちょこ入っては呪文の仕組み等を教えてもらおうと思って、本棚から読んで欲しい呪文書を持って行っては読んでもらった。その時、彼女の口癖の
【ワシ】
と言う一人称が伝染ってしまったのかもしれないな。元々、狂う前は【俺】だったからな。彼女との読書時間は本当に楽しかった」
「じゃあその一人称は読者さん達をメデュさん犯人説にミスリードする為のあれじゃなかったんだね?」
「メタ的な事を言うでない。だが殺人が目的なのにこんなにほのぼのとした感じでいいのか? とも思うようにもなってしまったよ……その楽しい時間を過ごせば過ごすほど罪悪感が増していく感じがした。何故だろうな? ワシは自分の家を取り返す為だけに行動していただけなのに、やっている事はただの部屋に住み着いてしまった害虫駆除をしようとスプレーを構えている段階なのに……まだ事にも及んでいない、本当に始末すべきかそれともずっとこの状況で耐え続けるかのどっちつかずで迷っていたあの時の情けない状況でも、ここまでの罪悪感を感じてしまっている……全てはそなたさえいなければ生まれる事の無い罪悪感だ。家を取り戻すと言う目的同様、この平和な時間も気兼ねなく過ごす為にもやるしかない。と、決意を新たに固めたのだ」
「でも、そんなところまで準備したのに、唱えたくともMP不足だって気づいたのね?」
「ああ。人には得手不得手がある。ゲームのキャラクターでも一般的に力や体力が伸び易いのが男性。そして、魔力や素早さが伸び易いのが女性と言う様に……明確に違いがあるな? だがそれはゲーム内だけの話……と思っていた……だが、それがリアルでも思い知らされてしまった……ワシが魔力を伸ばすには、アニメのハソターハソターで言えば、強花系が新たに捜査系や具現花系を極めようとする位に困難を極めるとの事……幾らベンチブレスで200キロのバーベルが上げる事が出来ても魔力は上がらないのだ。もどかしかったよ? 努力しても報われないのだと悲憤慷慨した……」
「そうよね? あんた、毎日3階のトレーニングルームでトレーニングしてたんでしょ? そんなあんたが急に魔力を鍛えるのは大変よね? ノートにもトレーニングの記録が残ってて、ほぼ毎日、確か今日と昨日以外に何かの回数が書いてあったけど、あんたが残した記録でしょ?」
「そう、それこそワシのストレス解消法だからな。迷いが出る度にそこで無我夢中で鍛えたよ」
「で、昨日と今日の記入欄に何か訳の分からない言葉があったけど、多分その日はお休みしてたの? 事件の準備とかの為にやっていなかったんでしょ?」
「そうだ。恐らくRuhetagだな?」
「るーへたぐ? そんな感じだと思う」
「Ruhetagはドイツ語で休日と言う意味だ。君の言う通り、あの事件の準備をする為トレーニングを休みにした。だが、ワシは怒りを鎮める為にほぼ毎日鍛錬を怠らなかった。だがこの果てには奴を力で仕留めるだけの未来しか待っていない。それではいかに巧妙なトリックで殺害したとしてもいつか足が付いてしまう。だからメデューリさんに習った魔法で仕留める事に考えを改めた。だが、ほんの1年前に思い付いた事。MPの最大値の成長はそこまで捗らなかった。だから思った。協術でなら死の呪文を唱える事が出来るとな。だがそれにはそなたとある程度の会話をせねばならぬ。もし突然ワシが饒舌に話し始めたら確実に警戒されるとな。故に、そなたの見ている前でも喋る事が出来なくなった事を克服しようと言葉の勉強をしている様子を見せつけた。これで一対一で話す時にも警戒されずに済むと考えたのだ」
「なる! あの時結構喋っていたなあと思っていたけど、日々の練習の成果が出たんだ位にしか思っていなかったよ……直後にあの美味しいお菓子を食べたからね? そこでもう思考停止しちゃったよ」
「だから協術でやる以外なかったって事なのね?」
「いかにも。情けない話だ……」
「MPが足りないが故に思い付いたと言うトリックだったって事だったのね?」
「そうだ。こいつのMPを利用しつつ、更には対話形式で協術を行う事で長い詠唱を気付かれない様にした訳だ。まさに一石二鳥。そして初めてネクロノミコンを見た時に驚いたのだが、死の呪文の詠唱内容が市田の口癖と似通ったワードが非常に多かった。偶然にもな」
「確かにそうよね。死神のが【ま?】、振るいか【ブル】、うし【な】われる、冥界の【おうよ】彼の神【使わせよ】とかねwあんなに都合よく口癖と呪文のワードが被る事って珍しいわよ!」
確かに。偶然にしては出来過ぎている。だが、これは何者かの強力な力が働き、強制的に市田の言葉使いが都合よく選定された気もする。が、当然、気のせい。生まれ持った癖だと言う事なのであろう。
「この癖を見極めるのは難儀だった。だが全てはこの屋敷を取り戻す為」
「でも、この協術さ、市田さんの負担が少ないよね?」
「それは仕方がない。多く喋らせたら気付いてしまう可能性もある。故に折半ではなく、ワシの方が多めにMPを負担した。だがMPを失い効果が発揮出来ぬとは……口惜しい物だ」
「おうよ! でも君は相当脳内でシミュレートは繰り返しただろうがな……見事死神まで召喚し終えた。だが、妄想とリアルでは違うのだ! 思い描いた通りにな|る《・》|ほ《・》どこの世は甘くない。その証拠に詠唱にかなりの途切れや間もあった。それが原因じゃないか? 失敗した魔法は、もしそうであったとしても詠唱した者には成功と全く同じ効果で発動したように見える。だがそれは見た目のみ。見た目は同じでも、多少効果は落ちるのだ。死の呪文であれば、正常に発動すれば完全な死。でも不十分なら、瀕死状態にするまでで留まるのだ。同じエフェクトで気付かなかっただろうがね。まあ、グレードダウンしたと言う事だろう! どうやら貴様の
【長い事温めた計画】
は、私を殺すには
【1】
足りなかった様だな!! これは君の欠点でもあり、良いところでもあるんだ! さっき君は散々1足りない事を悪く言っていたけど、このように良い事もあるんだよお」
かっこいい市田。
「クッ……それは同時にワシに取っては最悪な事だったのだがな。」
「私は何もしていない。生きていて良いんだよお」
「また言ってる……」
「な? 何がだい?」
「あんたまた思い通りにな|る《・》|ほ《・》どってwるとほを立て続けに言えないんじゃなかったの?」
「そんなの言えるに決まってるじゃないか! 君があんまり【なる】って言う言葉に批判的だからそういう可愛い嘘を突いただけだよお」
開き直ったか……
「可愛くないし、誰も得をしない嘘よ! 謝罪しなさい!」
「わ、悪かったよお……そして、フフンケン! そのほぼ覚えたての【死の呪文】で幾つもの呪文を修めている私を倒そうと言う愚かな考え方も、君の1足りないところだ、と言う事は? そうだね? これは、君の魅力でもあり欠点でもあるんだよお!」
「何度も何度も……い、言わせておけばああああ」
「そしてあの呪文【自体】も私を殺すにはHPが1足りなかったね。それがその呪文の欠点でもあり……」
「くどい! そなたが生きている時点でそれは分かる」
「あの長い呪文を、私との協術で唱え切ろうとすれば、どうしてもどこかでほころびは出てしまうのだ。
そして、あの時恐らくフフンケン君は緊張していた筈だよ? バレたら一瞬で返り討ちになると分かっているから」
「……確かにワシは冷静になり切れていないところがあった。何度も練習して完璧にしたと思っていたのに、詰まってしまった……そのせいで詠唱が神に通じず正確に発動しなかったという事か……くそっ、もっとスピードが必要だったか……だが、慎重さを欠けばミスは増える……難しい物だ? あ、足が動かない?」
フランケンの足には黒い影のような手が伸び絡みつき、その動きを止める。
「ただ貴様と仲良くおしゃべりしていた訳ではない。私も登場する直前に貴様に向けて詠唱を行っていた。貴様も知っているとは思うが、魔法はある程度心得ている。これはお礼だ。足枷の術だ。貴様の両足はもう動かない。今だから言わせて貰うが、君達の語尾を1足りない状態にして言わせようと思ったのはフフンケン! 君を見て思い付いたんだよ?」
「何だと?」
「君はたかがドットで描かれ、プログラムにより特定のスイッチを押したら動き出し、脚本家の書いたテキスト通りに喋るだけのキャラクターのセリフ程度に絶望し、自分の人生の大半を無駄にしてしまった。そう、2次元の……平面の絵に心を壊され、ずっと立ち直れなかった。そんな物、本来3次元の……自分のリアルの人生で悩むべき事じゃないか? だから思ったのさ、この男は1足りない奴だってね。そう、一次元足りない情けない男だって思ったのさ。現実を見ず、2次元のキャラクターに感情移入する暇など本当にあったのか? ゲームはゲーム。と、割り切り、現実を楽しく生きる事すら出来ない半端者なんだってね。だから思い付いてしまったんだ」
「き、貴様!」
「そんな秘密があったニイ?」
「だが市田よ? ワシはもうフンガーからフランケンに戻ったのだ! そうなれば返すと言っていた筈だ。この時点でもうそなたの物ではないぞ? 屋敷を返せ!」
「そうだな。思い返せばこの屋敷は君に返そうとも思っていた。でも無実の私を殺そうとしただろう?」
「く……」
「ろくに話し合う事もせず、陰でそんな恐ろしい考えに至ってしまう君にはこの素晴らしい屋敷は相応しくない! この屋敷は引き続き私が管理する!!」
「話が違うだろう!」
「君は殺人未遂で逮捕される。せめて罪を償い終わるまでは預かっておく事にするよ? それなら問題ないだろう? そして、この魔法はそう簡単には解けないよ。そこの刑事さんが手錠を掛けて下さるまで大人しくしているんだな」
「結局詭弁……この屋敷に未練があるか……醜い……まあいい」
ゴゴゴゴゴゴゴ
禍々しい黒い光が後ろに組んで見えないようにしたフンガーの両手に集まる……誰もそれには気付いていない。
「フフンケン君……足の動きを封じられているリキ? そんな状態でどうして余裕なんだリキ?」
「上半身さえ動けばいい。しかしサキュバスさん。語尾、戻ってしまっているな。やはり洗脳はそう簡単には解けないと言う事なのだ。やはり、貴様は、どう考えても、この世には、要らない!!」
ポウッ そう言いつつフンガーは懐から禍々しく黒い逆さ十字架を取り出す。そして市田に向け何やら唱え始める。
「?」
「死神の|蝦蟇《がま》振るいかぶる時に空間凍り付き、全ての生命失われるだろう」
フランケンは、物凄い早口で市田の部屋で放った呪文詠唱を開始する。だが、先程の話からすれば一人では魔力不足で使えない筈だが? だが彼は止まる気配はない。
「血迷ったかフフンケン? MPが足りないのに何故そんな事をする? まさかこの土壇場でHPを削ってMPに変換するという特技でも閃いたとでも言うのか? いや、そんな気配はない……ただ私の言葉に怒り、|自棄《やけ》を起こした様だな。まあいい。同じ過ちはしない。貴様に実力の差を教えてやろう……」(しかし異常な速さ……間に合うか……?)
ヴォオオオオオ……市田の両手からも強力な魔力が発生する。
「フン……フランケン!! もう市田さんが悪くない事は分かってるんでしょ? 彼はちょっと気持ち悪い言葉を使うけど、心優しい変態なんだよ? ここでもし市田さんを殺しても現行犯だよ? 刑事さんや皆も見てる! これで言い逃れは出来ないわ! 止めて!」
しかしフランケンは首を横に振り続ける。
「大いなる冥界の王よ、汝、十字架に封ぜられた力、今ここで開放した」(理屈では分かっておる……だが、感情が抑えられぬ……)
『母なる陽光よ、そして、天より降り注ぐ清浄なる雨よ』
市田もフランケンの詠唱を見た後で少し遅れて詠唱を開始する。だがその割には動揺が無い。
「これを|標《しるべ》とし、この地に|彼《か》の神遣わせよ!」
フランケンと市田。両者の魔力が室内で暴走する……
『災厄に立ち向かう勇猛果敢な者に』
「我は此処に……我は……此処に!!」
黒い靄が市田とフランケンの間に湧き上がってくる。
『全ての闇を滅却せしめる……虹色の加護を、与えたまえ! はああああああっ防術泡沫! 〇レインボウ・バブル〇」
ポワン
フランケンより後から詠唱したものの、市田の魔法が先に発動する! それは虹色の光沢をした泡の様な透明な膜が、彼の全身を優しく包み込む。これは防御効果のありそうな魔法であるな。
成程。死の呪文の詠唱が長すぎる故、菓子とトッピングを使い、言葉を誘導したトリックで詠唱を市田に気付かれないように唱えておく必要があったのだな。そうでないとこの様に先に唱えても相手に先を越されてしまう。
「フフンケン! 詠唱を止めよ! 跳ね返るぞ!!」
しかし、フランケンは止まらない……どうなってしまうのだ?
「この罪深き命、贄と捧げる! 我は望む。逆さ十字架の導きの下に|彼《か》の魂、未来永劫、冥府の|淵底《えんてい》に繋ぎ留めよ!! 出でよ、死を、司りし神!!!」
【アルヴァデカ・ダーヴァ!】
呪文は、間違いなく発動してしまう。先程の彼の話は嘘だったのか? そして、靄から黒いフードを被った骸骨が姿を現す。両手には大きな蛙を持っている。それは、まさしく
【死神】
「あれは何だリキ? 蛙と死神のコンビリキ?」
「な、なんだこの化け物は? く、くそう……男竜牙昇、ここで逃げては男が廃る! うおおおおおおおお」
竜牙が蛙を持った死神に、手錠と警棒を武器にして飛び掛かる。しかし、拳銃を敢えて使わない理由は何だろうな?
「うわああ」
フワッ ドガッ
竜牙は骸骨が軽く手を振った瞬間、数センチ浮いた後に壁まで飛ばされる。
「刑事さんには恨みが無いんだがね。離れるがよい。死ぬぞ?」
「うう」
「あなたではなく風原警視が来てくれれば遠慮しなかったんだがね」
「えっ? 何で風原警視の事を?」
「ちょっと昔に色々あってね。まあ今は市田! そなただけはここで終わらせる。行け! ガマよ!!」
ぺローン!!!!
死神はフランケンの掛け声に呼応し市田目掛けそのガマを振り下ろした。ガマはそれが合図と、舌を伸ばす。
が……虹色の泡に難なく弾かれ舌が全く別の方向に吹き飛ばされる。
ポヨーン
「あっ」
ひゅんひゅんひゅん
舌は泡に弾かれ、鞭の様に|撓《しな》り、弾かれる。その先には……
「な? 逃げろ!! アリリ!!!!!」
ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅん……ペロン……
蝦蟇の舌はアリサの頬に優しく触れると、役目を終えたと悟り、死神と共に消えてしまった。
市田の叫びも虚しく……一つの小さき命の鼓動がこの瞬間……
パタッ
消えた……
「あっアリサー!」
舌は導かれる様にアリサの元へと飛んだ様に見えた。これはまさかアリサの行っていた悪行。泉の精霊に嘘を突いて金の斧を受け取ると言う、刑法235条窃盗罪と刑法169条偽証罪。
ネズニ男に臭いなどの暴言で、刑法231条侮辱罪。更にはその金の斧で攻撃した、刑法208条暴行罪などを行ったツケが回ってきてしまったと言う事なのだろうか? だが、命まで奪う必要はあるのか? 余りに、酷過ぎる……
「死神の蛙の舌がアリリちゃんに? なんて事だ……私のせいだ……本当ならフフンケンの呪文を封じる【魔ホトーン】を使って封じ込めると言う選択肢もあった。でも相手がそれに掛かるかは5分5分。だから、100%成功する自身に効果のあるレインボウバブルを使用してしまった……うっかりしていた……でもこのミスが私の欠点でもあり、魅力でもあるんだ」
フゥーーーーーーー……ま、目の当たりにすると良く分かる……どう言い訳しようとも許せぬ……この謝罪の一つもない定型文! 市田よ! まずは謝罪からであろう!!! こ、これはフランケンがこの男に対し殺意を抱いてしまう事も……分からぬでもない! 確かに市田は悪気がある訳ではなく癖で出てしまった言葉。だがその癖自体が人の怒りの臨界点を超えてしまう事も稀ではない。
「アリサ……こんな事になるとは……なんて事だ……フンガアア嗚呼アアああ嗚呼……」
咆哮し、両眼から涙がこぼれる。
「アリリ! アリリ!! 駄目だ……鼓動が聞こえないよ……フフンケン何故詠唱を止めなかった!」
うでを握り、脈を取る市田。
「……育ったのだ」
何がであるか? まさか毛根か?
「な?」
「そなたとあの時一度唱えたが、熟練度が上昇していたのだ。それで、消費MPが下がり、自力でも一回だけ唱える事が出来る様になったのだ」
そうか、皆さんは覚えているだろうか? 妖服の間での話。市田とリキュバスが協術で辺りを暗くする呪文のカーミラを使用し、市田だけが熟練度が上昇していた事があった。協術と言えど、使用する事で熟練度は上昇する。その現象がフランケンにも起こったのだ。
消費量の高いアルヴァデカ・ダーヴァも神施魔法ではあるが、魔法と言うカテゴリに属している以上その特性があったと言う事。
どんなに最大MPを上げる訓練をしても届かなかったが、熟練度上昇による消費MPの減少まではフランケンも想定外だったのだろう。
魔法の事はメデューリに聞いてはいたが、実際唱えるのは初めてだったのだから。熟練度上昇もその時初めて体感した筈。
そして、その上昇で偶然フランケンの最大MPでも一回だけ使えるまで消費MPが下がったと言う事か……何と言うタイミングであろうか……バッドタイミングである……自分の能力が上がる瞬間。それを実感した時、誰でも嬉しくなるものである。だが、彼は泣きながらこの事実を語っている……こんな、こんなにも悲しい成長の瞬間が未だかつてあったであろうか……
「今……ここで……か……」
正にその通り……
「最強の死の呪文をやっと一人で使える様になった。貴様の防御呪文を、超えた……かった……試して……見たかっ……た……その薄っぺらい泡を突き破る程の魔力……ようやく手にしたと思ったのに」
「馬鹿が……お前はそんな事の為に……覚えたての貴様の魔力で私の……怒虎様の傍にずっと居て膨大な魔力を有している私に勝てる訳がないだろう……そんな下らぬ実験の為に命を落としたのだ……アリリはもう帰ってこない……」
「アリサ……まさかこんな事に……すまない……もう余力は無い。好きにしろ」
力を使い果たした彼は、眠りにつく。もはや抵抗する事もないだろう。
「こいつを取り敢えず警察に連れて行かないと……これは現行犯で逮捕で良いんだよな……うう、アリリちゃん……」
竜牙が泣きながらフランケンを背負い、パトカーまで運ぶ。
(…………あれ? この世の物とは思えない程美しい幼女が横たわっている……起きたらしっかりとサインとチャンネル登録して貰わないと……ってよく見たらこのお方……|私様《わたしさま》? え? え? どういう事?)
アリサの魂が、アリサの肉体から離脱し、見下ろしている。
(私死んだの? 早く体に戻らなくっちゃクッ!? し? 下へ引っ張られる? きゃあああああ)
アリサの魂は地面深くに引っ張られ、どこかに行ってしまった。
「この子の遺体はどうしよう?」
「とりあえず冷凍保存して、蘇らせる方法を探すドフ」
「分かったーリ。ワシの部屋の本棚に何か眠っているか調べるーリ」
「お手伝いするリキ!」
「そうだ! 血液! 抜いておかないとニイ」
流石元医療従事者。だがそれは大きな病院でやらなくてはならない。急いでほしい!!
「そうなのか? 分かったドフ! すぐに病院に連絡するドフ」
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(ああ、どこまで行くの? こんな、こんな事で終わる主人公なんて今まで居たかしら? 変な色の蛙のベロで即死するヒロイン……我ながら可哀想……このまま、地球の裏側まで行くのかしら? ママ、親父。いや、パパ、先立つ不幸をお許し下さい……もういいや……これはただの悪い夢だ。寝よう……)
沈む、沈む、涙と共に、ゆっくりゆっくり落ちていく。下る、下る、御霊と共に、行きつく先は天か地か……