magisyaのブログ

小説となぞなぞを投稿してます

私の行く先々で事件が起こる件について 29、30話

29話 50階展示室

 

もしかしたら早乙女は

このゲームの被害者なのかもしれない。

過去に遊んで、酷い目にあったが、時の流れにより忘れ

平凡な日々を過ごしていた矢先に

アリサの一言で思い出し、激高したのだろうか?

 

 それとも? 先程まで陽気に

ユッキーの描かれたボールを

手にしていたのだが、それが災いし少し遅れて

破壊衝動が引き起こされたのか?

どちらにしてもアリサの命が危ない!!

早乙女は、一発では死なないと言ったがそれは大嘘。

何故なら早乙女の攻撃力は660。

それに対しアリサの体力は30程度。

一発殴れば22人のアリサを殺害出来る程。

 

 アリサは、サラマソダーの本当の意味を知らずに

22チャンネルの書き込みで目に付いたキーワードと

その一連の流れを流し読みしていて

ポロっと出た言葉で悪気はないのだ。

だが、その言葉の意味を知っている者からすれば

簡単に使っていい言葉でない

それは、暗黙の了解。なのにそんな言葉を

面白半分で使っていると思ってしまい

殺意をむき出しにしてしまった。

 

「さっ早乙女君! 押さえて」

監督らしき男が止めに入る。

 

「でも……ぐすっ。彼女は罪を犯したんです」

泣いていた。大の大人が公衆の面前で。

 

 これ程の立派な筋肉を持った者も

声を引きつらせ涙を流し

心が張り裂けそうになるというのだ。

サラマソダー……恐ろしい言葉だ。

 

「明日のイベント、君無しでは成功しないんだから

ここは押さえて、ね? 

たこ焼きをご馳走するからさ」

 

「たこやき?」

「たこやき?」

 

早乙女とアリサが、同時にその優しい響きに反応する。

 

「分りました。桜花ジャパンのリーダーの私が

大人気なかったですねじゅるる」

 

「早乙女君よだれよだれ」

 

「はっ! 私とした事が(///照///)」

 

「早乙女さん。高い所が苦手な私からしたら

本当にすごいと思ったの。だからサラ・・

はっ! あんな表現を・・ごめんね

でも本当かっこいい!」

 

アリサの黄色い声に照れる早乙女。

「そう? よーし仲直りのサービスだよ! 

見ててねー」

 

 アリサに乗せられ、早乙女は

片足で立ち、あろう事かおでこに

ボールを乗せてバランスを取り白い歯を見せる。

 

「わーすごーい♡ 

でも二つの意味で危険だから止めたほうがいいわ」

 

 口調が元のアリサに戻り、その危険性を伝える。

幾ら耐性があっても至近距離では

気絶する危険性がある。かなりの高さ。

落ちたら命の危険もあり得る。

 

「あ、駄目だよ早乙女君! それは秘技だよ」

慌てながら早乙女を止める男。

 

「そうでしたすいません。はい」

そう言いボールをアリサに返す。

 

「わーいwありがとう!」

 

 ボールを持って運動場の倉庫の方に行く。

殺しの瞬間を誰かに見られる訳にはいかない。

ユッキーの撮影を済まし、殺しの準備にかかる。

中には、予備のボールや卓球のラケットが置いてある。

そこで、このボールをマジックで塗り潰そうと考える。

こんな物を競技で使わせる訳には行かない。

 

「あっ。でも黒いボールは無いわよね? 

どうしようかしら? あっそうだ!」

 

 倉庫の中にマジックが無いか探す。

白のマジックを発見。

これをユッキー付きのバレーボールに塗って

ユッキーを完全に消して

正常なバレーボールに変える事に成功

バレーボールの籠にそれを移した。

 

「任務完了! ノートも画用紙も白だから

色鉛筆の白は余り使わないけど

こういう時は役に立つのね」

 

「そんなことはないよ……」

またもやあの声だ。しかし、アリサには聞こえない。

 

「ここにはもう用は無いわね。悪の気配が消えた

40階で回復して、50階の展示室に行こう」

 

植物園で、あの青汁をお代わりし回復する。

 

「やっぱりマズ-イ。でも、携帯用にもう一杯」

 

 50階の展示室に、大量のユッキーの

気配を感じたのか用心深いアリサ。

 

「あらアリサちゃんお気に入りなの? 

じゃあこれあげる」

2ℓのペットボトルに入れて渡してくれた。

 

「そんなに要らないと思うけど

用心に越した事はないしありがとう。ん?」

 

 アリサは50階に行こうと思ったのだが

何か懐かしい気配を感じ取る。

その気配を頼りに、植物園の隅の方に歩く

すると、一人の少年が絵を描いていた。

スケッチブックの中を見ると、立派な木だ。

……だが、少年の見ている先には

何と! 木の枝を両手に持ち、木のフリをする

ロウ・ガイがいたのだった。

少年は目がおかしくなったのか?

 

「ねえ、何を描いてるの?」

アリサがこの状況を理解したいが為に

少年に声をかける。

気になった事は、解決するまで突き詰めるアリサ。

 

「え? 夏休みの宿題だよ」

 

「それは何と無く分かるんだけど

ロウ・ガイを見ながらで何で木を描けるの?」

 

「ロウ・ガイって何?」

 

「目の前にいるでしょ? 木の枝を持った

でかい爺さんが」

 

「爺さんなんてどこにもいないよ?」

 

「え? ロウ・ガイ居ない?」

 

「ん? おお! アリサか」

ロウ・ガイがアリサに気付き、近寄ってくる。

 

すると

 

「うわー? 木が動いて喋った!」

ダダダッ

少年は、ロウ・ガイを見て驚き

スケッチブックを落としたまま逃げてしまう。

アリサは一応それを拾う。

 

「待ってー! 落し物だよー

ああ聞こえてないかー」

 

しかし、遥か彼方に走っていってしまった。

 

「取り合えず預かっておこう

全く、サラマソダーよりもはやい!! んだから」

 

 スケッチブックを脇に抱える。

アリサは何故かロウ・ガイと認識できる筈が

少年には木にしか見えないという事なのか?

 

「ヨヨヨヨ? アリサよ、サラマソダーより早い? 

何の事じゃ? サラマソダーとやらはあの子供よりも

早くは無いと言うのか? 

……しかし、なんか嫌な響きじゃのう。

この響きにトラウマのある者達が居そうじゃのう

頼むからあの言葉は二度と言わないでくれんか?」

 

「サラマソダー遅いよ?」

 

 アリサ……何故懲りぬのだ……?

早乙女に再びこのワードを言おうものなら

今度は確実に殺されるのだぞ!?

 

「速い!!」

 

ブンブン

頭を振り回す ロウ・ガイ

 

「え? 何で?」

 

「速いと言ったら速い!!」

 

「でもパロパレオスのレンダーバッへの方が……」

 

 セットなのだなそれ? アリサの中では

これを、先程のサラマソダー○○いよ?

という言葉と合わせて言わなくてはならぬのだな?

そのアリサルールは永遠に続くのだな?

私の心も引き裂かれそうである。

もう止めてくれアリサ……

 

「速い!!」

 

「分かったわよ。でも早乙女さんと言い

ロウ・ガイまで

どうして○ラマソダ-って言うと怒るのかしら?」

 

 大人には色々あるのだ……

この件に関して、危機感が無さすぎる。

ロウ・ガイも初回だからこの程度だったが

2回目はどうなるか分からぬのだぞ!

しっかりして欲しいものであるな。

 

「ハアハア……分ってくれて嬉しいぞ

しかし、アリサには通用せんか

これは妙技の一つじゃ。

自分の周りに幻覚を出し、隠れる事が出来るのじゃ」

 

「何で隠れる必要があるの?」

 

「じっと同じ場所で集中してなくてはならんかったのだ

声を掛けられたりして集中が途切れるのを防ぐ為

木の姿に変装しとった」

 

「枝を持っているのは?」

 

「鋭いのう。これを持つ事で変装出来るのじゃ。

これが無いと木の幻覚は出せん

大自然の力を借りるのじゃ。そうして傷を癒しておった」

 

「さっきのでっかいユッキーね?」

 

 そう、ロウ・ガイはあの天井の悪魔を見た瞬間に

口から血を出していたが、その後にも

症状が追加で出てしまっていたのだ。

やはり62という年齢だ。被害も大きいのだろうか?

 

「うむ。逃げて一息ついた後に急に眩暈が起きて

同時に両足の靭帯が切れてのう。驚いたわい

そして、這いずる様にここへ来て休んでおったのじゃ」

 

「ごめんね……アリサが髭取っちゃって

あれで変身解けたんでしょ?

皆、髭が無くなった瞬間ロウ・ガイに気づいたし

それで無理させちゃった……」

 

「そうじゃ、髭を着ける事で

わしを知っている者からは

別人に見える様な妙技を予めかけて

ここに来た訳じゃ。

何、気にするな。アリサは毒舌なのじゃが

時折見せる優しさが男心を擽るの。

よし、困った事があったら力になるぞい

もうすぐ完全回復するからの」

 

「ロウ・ガイの気持ちは嬉しいわ。でもね

これから50階のユッキーが

わんさか居るかもしれない所に行くのよ。

40階でももう感じているの。

恐ろしい悪魔達の呻き声が……

私以外に倒す事は出来ないと思うわ。

足手纏いは要らない。ゆっくり休んでなさい

これ以上あの化け物を見たら死ぬわよ?

そういえば、完璧な字面の桑名さんも

心配していたわよ」

 

「ぬう? 足手纏いか……手厳しいのう……

まだ若い者には負けんと思っておるのじゃが

あのユッキーは別格じゃ。大人しくしておくか……

ん? ……桑名? ……そうか、あやつもまだ

ここに残っておったか。ん? 完璧な字面?」

 

「そう、芸術的な字面だったわ彼。

私の名前字面ノートに

残しておきたい名前ナンバー1だったわ……

思い出すだけで鳥肌が立っちゃう……

間違いなくいい料理人になるわ

一度会いに行ってやったら? 喜ぶわよ

今、総合料理長やってるって言っていたわ」

 

「ほうほう、アリサは字面で占いでも出来るのかえ?

色々出来る子じゃなあ。

まあ変わった名前じゃが、文字自体にも

力はあるというしの

 桑名が総合料理長ならば安心じゃ。

あやつは弟子の中でも、ロウガイズムを

一番受けついどる。 じゃが残念じゃのう

わしもアリサの力になりたいが……

しかし、アリサは毒舌の中にも

優しさが見え隠れしていて男心を擽るのう。

あのユッキー一匹でこの有様じゃからな

情けない……わかった。気をつけていくのじゃぞ」

 

「はいっ!」

 

 50階に到着。

展示室で隠れユッキーを探す事に……む?

静かだ、否、静かすぎる。 

恐る恐る扉を開けてみると

何と! 客であろう人々が床に倒れている……!

それも1人や2人ではない。その数30人以上。

一体ここで何が起こっているのだ?

 

「大丈夫? ねえ! しっかりして?」

入口近くで倒れてる男に声をかける。

 

「……うう、君は平気なのか? 

ここに展示してある芸術を見ていたら

急に他の人が敵に見えて……」

 

 倒れている人達は、どうやら同士討ちをして

力尽きて倒れている様だ。

 

「今は平気?」

 

「ああ、今は何とか意識はある

でも又暴れてしまうかも?……おかしいんだ

自分が自分ではないみたいに……怖いよ……」

まるで群れから一匹はぐれた子犬の様に震える男。

 

「大丈夫! これ飲んで!! まずいけど」

本来自分用に貰った青汁をその人に飲ませる。

 

「ごくごく……うっまずい……

だが少し良くなってきた……歩ける!!」

 

「良かった……歩けるなら早くここから逃げて

40階の植物園の係のお姉さんから青汁を貰ってきて?

これだけじゃ足りないかもしれないし」

 

「分かったよ、君は命の恩人だ。必ず礼はする。

君、名前は?」

 

「鏑木アリサ。職業は塗り潰師」

 

「覚えたよ。では行って来る……けど

アリサちゃんはどうするんだ?」

 

「私の仕事をする」

 

「そうか、死ぬなよ」

 

「ああ。死なない」

そう言って中へ入る。

 

 展示室は、斉藤隆之の胸像、銅像、石像

フロア全体に所々においてあり100体は超える。

隆之の顔に、別人の様な

細マッチョの体がくっ付いている裸像等もある。

ロダソの考える隆之像、ワ゛リコの両手を上げた

ランナーのポーズをする隆之像。

両腕で筋肉モリモリのポーズをする石像

裸で寝そべって優雅に

スマホアプリをプレイしてる石像

瞑想していて、大仏様の様な頭をした銅像

薪を背負って本を読んでいる隆之の銅像

七支刀しちしとうを持ち鬼の様な表情の銅像

小便小僧の様な銅像も。当然芸術と言う事で

股間もしっかり克明に表現されている。

 

 そして、部屋の中央には小さな寺院がある。

大きな除夜の鐘の様な物が吊り下げられていて

真ん中に隆之の汚らしい笑顔の模様が……

く度に何とも悲しい音が、そして

病魔が日本中に散布されそうな音を出しそうである。

 

 松明を右手で掲げ、左手に何かの板を脇に抱える

自由の女神の様な銅像のミニチュア版も存在する。

米国人が見たら国際問題に進展しても文句は言えない。

他にも色々なポーズのモチーフの銅像がある。

どれもこれも今にも動き出し喋りそうな臨場感。

かなり力を入れて作られた様だ。

自分が大好きな金持ちがやらかした

自分を見せる事のみを目的とした、痛ーい部屋

自己顕示欲の集大成。

 

 本来、本物の芸術品になり得る程の高級素材を使い

これだけの量のゴミを作り、その塵を

規則的に並べて飾っている。世にも不思議な光景。

本当ならもっと上へ行ける筈がこんな底辺の男を

題材にしては、素材が泣き叫んでいる事だろう。

 

 私はまだ、語りランク8段。高音の操る

意識高いワード程度なら容易く解読出来る……が

この場の表現を上手く言い表すには

語りランク9段は必要となる。

 

 本来なら、最高の語りをお届けしたいのは山々だが

未熟故、この状況を的確に一言で表す事が出来ない。

恐らく長い説明になるやもしれぬ。

もっと鍛錬を積んでから臨むべきであった……

 

 大いなる語りの女神、カタリナよ……教えて欲しい

私にこんな試練を与えるというのか……?

この惨状を、まだ8段のひよっこの私に語らせ

恥をかいて来い……と?

 

 ぬ、突然女神カタリナの名を出してすまない。

一応彼女の説明をしておこう。

カタリナは、仲良し三姉妹女神の末っ子

長女、怠惰の女神カッタリーナ

次女、肩こりの女神カタコリーナ

そして三女は、語りの女神カタリナなのだ。

 

上の二柱は、皆から駄女神と言われている引け目から

人一倍頑張り屋さんのカタリナ。その性格故

語りを生業とする我らには、とても厳しいのだ。

ひよっこの私にも平気でこんな試練を架してくる。

全く、困った物である。 

 

「これ、語り部よ、文句を言うのではありません」

 

ぬぅ女神よこのタイミングで降臨されたのか? 

そして、盗み聞きであるか?

 

「違いマス、カレイド(枯れ井戸)に水を満たしに

ウエイクアップしたら偶然にもムーランルージュ

 

 お……おお……臆面もなく……最後は意味不明だが

もう【あの】カタリナではないか……

貴女は語りの女神カタリナであるぞ! 自重して欲しい!

 

「失礼しました。この愛に泳ぎ疲れても

頑張るのですよ? 貴方ならきっとできます」

 

何を言っているかさっぱりだ。

だが、この試練を超えたら

もしかしたら私はまだ上へ? 

次のステージへ行けると仰るのか?

フッ! いいだろう! やってやろうではないか!!

全身全霊を……尽くす!!

30話 敗北

この言葉は、まだこの世に存在しない言葉。

人のイメージで出来る範疇を遥かに凌駕した言葉。

否、イメージする事すら敵わぬ世界。

確かに一言では表わせぬ。

 

 まだ存在すらしない言葉であり

作る気も起らない言葉だ。

だがこの場所を、私なりに今まで経験してきた

全てを使い言葉にするならば・・

ツー……(額から滲んだ汗が、頬を通る音)

キュウッ(中央に【語】の文字が刻まれた鉢巻を

締める音)

ググッ(語り専用マイクを【強く】握り直す音)

 

フフフ。この年で挑戦者……か……ククク

……たぎる。滾るぞ!

ゆくぞ! 私が!! 全てを!!! 

語り尽くして見せる!!!!!!!!!!

 

 魑魅魍魎ちみもうりょう跳梁跋扈ちょうりょうばっこする

地獄とヘルヘイムと煉獄と冥府と魔界と黄泉の国を

ごっちゃ混ぜにして、コトコト煮込んで熟成させ

隠し味に地球三つ分の汚泥と塵芥ちりあくた

煮詰めて出来た、触れる物全てを

漆黒の塊に変貌させるエキス。

それを、宇宙巨人が、太陽さんよりも大きい鍋に

一杯になるまで貯め、鍋が満ちたら

宇宙を一つ、ちょいとビッグバンで爆発させ

その温度で鍋を温める。

 

 エキスが8兆度に達したら

次に、閻魔様を一柱用意。

暴れる様なら少しボデーブローをかまし

弱らせるのがポイント。

それに、香川県の木下製粉が生み出した

最高級の小麦、さぬきの夢をふんだんにまぶ

不死鳥の卵で作った溶き卵にそれをつける。

最後に、煉獄地獄のジャングルの奥地に

群生すると言われる人喰い小麦で作られた

パンのパン粉を贅沢につける。

それを、3千時間掛けてカラッと揚げると……

あらまあ美味しそう

こんがりもちふわピリ辛閻魔天麩羅の出来上がりなのだ。

 

 正に最恐の場所、自分で語っていても恐ろしい。

ぬふぅ……脇汗と涙が止まらぬ……ズズゥ

まだ早かったのかもしれぬな。

一刻も早く9段まで精進しなくてはな……

 

 ぬ? 途中から料理番組みたいになってきて

最後は場所ではなくて、食べ物に

なっているではないかであるだと? 

ぬぬぅ?? 貴公は、あの閻魔様を食べ物として

認識していると言うのか?

一体どういう経緯でそうなってしまうのだ?!

まあよい。それが……

 

イーグル! スノー! ホテル! 50階!!

 

     展  示  室!!!

 

 否! 全ての生きとし生ける物を

死に招くという意味も込め、転死室である。

当然その住民共は、どれもあの醜悪で

どす黒い顔が首の上に付いている。

髪は天井に向かって尖がっていて

あらゆる生物に恐怖を与える。

これだけ尖がっていると

先端に触れただけで出血の恐れがある。

製作者はPL法を知らないのだろうか?

先端をやすり等で削って、怪我をしない様に

製造者側が加工しなければいけないのだ。

 

 しかし、本物志向の芸術家達は

当然こう返すのだろうな……

 

「これは芸術ですので……」

 

 とな……まあこれで壊す大義名分も出来た

こんな先端が尖った物は危ないから壊した

と言い訳すれば良いのだ。それにしてもこの像達

何が可笑しいか分らぬが、どれもこれも笑っている。

満面の笑み。汚すぎる笑顔。許しがたい笑顔。

 

 そして、どういう製法かは知らないが

石像の中には、ブラックダイアがその石像の

目としてめ込まれている豪華な物もある。

白目が一切ない、瞳孔が開ききった迫真の表情。

本来綺麗な宝石が、隆之の目として使われた事で

見るもの全てに恐怖を与える。

正に間違えた宝石の使い方。金持ちの道楽。 

 

 そして、奴の書いた、おかしな所で句読点が

打ってある、クッソ読みにく~いポエムに

必ず隆之が真ん中にいる風景画

少し細い輪郭で、顔のパーツは

そのままで描かれた吐き気のする自画像

静物画、粘土細工。掛け軸

アクセサリーのコレクション。更には

隆之の幼少の頃の手形も飾ってある。

しかしながら、幼少期の写真などは一切ない。

それに、何かが入っている宝箱が

祭壇の上に祀られている。

その宝箱の近くにある看板には

『ご、自由。に。お開け下さ。い』と書いてある……

開けると一体何が入っているのだろう?

更に更に絵画や掛け軸の傍には

謎のQRコードが設置されている。

それをうっかり取り込むと、携帯に絵画が

壁紙として配布される仕組みまでも作っている。

自宅や移動中でも手軽に携帯から

呪いを堪能してほしいという思いから作られた

悪意しかない死のQRコード。

最早こんなQRコードはQRではなく

有名RPGのファイナルファンタジアに

登場するクーアル。

奴の使うブラスタァ~は即死効果だ。

そいつになぞら

クーアルコードに改名するべきである。

 

 そして、純金製の印鑑もある。

これは邪馬台国卑弥呼に贈られたという

金印の真似であろうか? 

朱肉を付けると隆之の醜い笑顔が

幾つでもスタンプ出来る猛毒製造機。

どういう訳か、赤い朱肉でスタンプしたのに

茶色に変色して印刷される黒魔術を施してある。

暖色などの明るい色を

極端に嫌う隆之がやりそうな事である。

他にも彼に関する色々な物が展示されている。

50階のフロア全体に負のオーラが入り混じり

呼吸すら苦しい。

流石のアリサでも、入り口に立つだけで苦しそうだ。

この展示物達、本人が作った物もあれば

芸術家に依頼し作らせた物もある。

彼らもこの顔をモチーフで創作活動する事に

躊躇いはあった筈。だが、それを上回る大金を積まれ

生活の為、仕方無しに造られた

本来生まれるべきではなかった哀れな芸術品達。

そしてその芸術品達は負のオーラを纏った状態での

作製のせいもあり、強烈な負の力を纏った

恐ろしい力を持っているのだ。

 

 そう、ここのターゲットは、隠れユッキーではなく

堂々と展示された大量に存在する

斉藤隆之関連の芸術品ならぬ

 

害術品がいじゅつひん

 

達なのだ。

一つの部屋に、自分の形をした物を纏めてしまうとは

隆之は相当自分の事が好きな様だ。

アリサレーダーに引っかかったのは

これらの害術品全てである。

今回は隠れユッキーではないので、探す必要は無い

……が、数が多い。撮影する必要はないが。

 

 器物損壊になってしまうが仕方がない

罪を認めてでも全て叩き壊すしかない。

特に顔は、粉末状になるまで丁寧に砕く必要がある。

そうしなければこの部屋に入った一般人は

その恐ろしい害術品に精神を支配され暴走し

近くの人間を攻撃する。

部屋から出た後も、後遺症で記憶障害、呼吸困難

喘息、蕁麻疹、破壊衝動等を引き起こす。

幸い凶器の様な物は一つも置いていない

刀や金槌がもしあったら先程逃がした人達は

それで戦い大怪我、最悪死人も出ているであろう。

不幸中の幸い。

しかし、これらの展示物をどうしたらいいのか。

 

「うだうだ考えてる暇はないか……

今は倒れている人を全員救うのが優先だ。くぅっ」

 

 無策にも、自分の耐性を信じ部屋に入る。

躊躇ためらいは無い。

部屋の中に進むにつれ瘴気が強まる。

だが幸いアリサなら耐えられないレベルではない。

そして倒れている人に青汁を振舞う。

「大丈夫? はい」

 

「ありがとう……ほんとうにありがとう……」

 

「これを飲んで」

 

この恐ろしい戦場で、ナイチンゲールの様に

活躍する小さい看護師アリサ。

 

「ありがとう……

こんな小さいのに大丈夫なのか……すごいな」

 

「鍛え方が違うからな。後、小さいは余計よ?」

生意気なアリサ。

 

 一人、また一人と助けては奥へ

そして、一番奥で倒れていた最後の一人は

青い顔で、いつ亡くなってもおかしくはない。

すぐに青汁を与える。

 

「ぐはーなんて不味いんだ。はっ、私は一体……」

 

「良かった、取りあえずここは危険だから

すぐに出て行って。」

 

「ああ、取りあえず入口で休むよ……」

最後の一人を送り出す。

 

「ふう、何とかなったわ……後は一旦脱出して

害術品こいつらをぶっ殺す事を考え……あれ?」

 

        ιズキズキ ズキズキι

 

 アリサは、ひざが急に痛み始めた。

5階のトイレで転んだ時に出来た傷だ。

既に止血も済んで、後は瘡蓋かさぶたが剥がれれば

治るだけの状態なのだが

これが普通じゃない事はアリサも分かっている。

しかし、痛みが異常な位増し

次第に歩く事すら出来なくなる。

逃げたくても足が痛くて動かない

どういう事なのだ?

ぬ? 何かが聞こえる。

 

「あ。の女。の子。どんど、ん客を

外に、逃がし、て、いま。す。」

 

「なん、て女。の子で、すか?

私。達の攻、撃が通、じな、い、なん。て」

 

「あっ。 あ。の女の子。膝を怪、我していますよ

そ、こを集中。するので。す」

 

「はああ、あああ、ああ。」

 

????

 

 こ、これは! 隆之の像達が意識を持っている?

石像、銅像間でテレパシーの様な物を用い

連絡取り合っている? そして、明らかに

人間に対して攻撃している?

どうやら彼らは意識を持っていた様だ。

そして、明らかな人類に対する憎しみを持っている。

 

 日本有数の名工が、隆之の指示で彼らを作った。

色々な有名な芸術品のモチーフをそのまま奪い

そこに隆之をミックスさせた最悪の害術品。

 

 いい腕を持つ者が作った物は

魂が宿るといわれている。

しかし、宿ったのは悪魔の魂だった様だ。

そして、アリサに混乱効果の攻撃をしているが

全く効いていない事に気付き、別の方法を考える。

そして、アリサの弱点であるひざの傷を発見し

そこに集中攻撃を開始した。何と言う機転の良さ

そして・・一般人よりは耐性があるアリサ

でも、全く効果が無い訳ではなく

当然長くいれば意識が薄れていってしまう。

 

「もうだめ……たすけ……」

パタッ

 

 何たる事だ……唯一耐性がある

アリサでもこの部屋の大量の隆之達の攻撃には

耐える事が出来ない様だ・・

客達は展示室からいなくなり

標的がアリサのみになった為、集中砲火を喰らった。

そうなれば耐性があるアリサでも一溜りも無い。

アリサは誰もいない展示室に一人取り残されてしまった

その事は誰一人気付いていない。

 

…………

 

…………

 

…………

 

 アリサは、気絶している間、夢を見た。

過去の記憶? それとも別の誰かの記憶?

 

 それは、生まれたばかりの小さい赤ん坊が

シーツに包まり母親に高い高いを

やって貰っているシーン。

 

『ほらたかいたかーい』

 

母親は喜んでくれていると思って大きく上げるが

赤ん坊は泣きわめいている。

 

『ピギャーピギャー』

 

『あらあら、ご機嫌斜めなのかしら?

おむつは替えたばかりだし』

 

そんな赤ん坊を見て、一人の男が

 

『いかんぞ、高すぎるのかも知れんな。

おぬしは身長が高いからの

怖くて泣いておるぞ。よし任せろ』

 

『その言葉結構傷つくわ』

 

『この子も、きっと大きくなるじゃろうな

腕白でもいい逞しく育ってほしい』

そういいつつ、いないいないばあをして

赤ん坊をあやしている。

 

『いないいない…………バァ』

男は少し顔を歪めて笑わせようとしている。

 

『キャッキャッ』

 

 その滑稽な顔に笑い始める赤ん坊。

残念ながら顔ははっきりしない。だが

長めの顎鬚が生えている事はわかる。

 

『のう、この子名前は?』

男が母親らしき女性に聞く

 

『まだ決まってないの

パパが今必死になって考えてる。

お七夜には間に合わせるって』

 

『そうか、まだ名前がないのか可哀そうに

ベロベロバア』

 

『ぶぶぶぶー』

 

始めは遠くでやっていた男だが

慣れてきたのを確認したのか、次第に近づいてくる。

そして赤ん坊は、手が届きそうになると

無邪気に髭を引っ張ってくる。

 

『あぶぶー』

 

ぐいっ

堪らず痛がる男。

 

『いてて』

「いてて」

 

パチッ     <覚> <醒>

 

 そして、夢か現実か分からないその声で

アリサは目を覚ます。手には夢でも握った

懐かしいあの髭?

 

「これ、アリサ。また髭を取る気なのか? 

これは地毛じゃから取れんぞ! わしの髭の毛根は

アダマンタイトよりも固いからな。おはよう」

 

すると、何と! 

ロウ・ガイがアリサを抱き上げている。

髭を引っ張られて涙目になってはいるが

心の底から、嬉しそうな優しい笑顔でアリサを見る。

 

 展示室の奥。そこは悪魔しかいない地獄の底。

アリサの倒れているその危険区域まで

一人駆けつけてきたのだ!

 

「え? 私……一体? ロウ・ガイ?」

首を動かす程の体力もないが

声で誰だか分かったアリサ。

 

「喋るでない。いくぞ!!」

ダダッ

物凄い速さで部屋を出る!

 

「わ、わー! サラマソダーより早ーい」 

 

「ヨヨヨヨ? またもその言葉を……

もうサラの何がしを許してやって欲しいのじゃが

あやつもビュウビュウ泣いとるぞい

……まあいい、目が覚めただけでも良い。

ふう、何とかなったのう。しかし、お主体が異様に

冷えていたからてっきり手遅れかと思ったぞい」

 

「あ、私意識を失って……」

 

「たすけ……と聞こえた。アリサの声でな。

じゃから来た。それだけじゃ」

ある種のテレパシーだろうか?

 

「ごめんねありがとう……でも大丈夫なの?

足の靭帯切れてたんじゃ? それにここは魔の巣窟よ?」

 

「靭帯の方はもう治っておる。

それにわしも何も準備せずには来ておらん。

何せアリサでも助けを求める場所じゃ

念の為、2重に魔除けの妙技を使ってから来たのじゃ。

2時間コースの特大のをかけたのじゃが

2分と持たんかった。こんな地獄に裸同然で入るなど

ほんに無茶する子じゃな」

 

「悪は許さない。それしか頭になかった。

本当にありがとう」

深く頭を下げるアリサ。

 

「何、気にするな。ただ助けを求めとる

孫娘を助けた。それだけじゃ

それとも足手纏いが出しゃばるな……か?」

やはり、先程足手纏い扱いされてた事を

根に持っている様だ。

 

「ううん、私みくびってた。自分の力を過信し過ぎてた

ロウ・ガイが居なかったらどうなってた事か……」

 

「分かればよいのじゃ

わしは確かにユッキーにお主ほど耐性はない

じゃがな、長く生きた経験と、様々な妙技はある。

二度も同じミスはせんのじゃ」

 

「ごめん。耐性の有り無しだけで全てを判断してたわ」

 

「わしも無理にでも同行すべきじゃと後悔しとる

大事な孫娘をこんな目に遭わせてもうたからの」

 

「孫娘かあ……へへっ

あっそういえばロウ・ガイは子供とかいるの?」

 

「ふぉ? 何じゃ急に? 30になる息子がおる」

 

「へえ、で、お孫さんは?」

 

「まだ独身じゃ。奥さんを探すのが大変でな」

 

「あー成程。当然その探している

奥さんのフルネームは? せーのっ」

 

「狼・ろうがい

「狼・ろうがい

 

「あっ漢字は外れちゃったあ

でもやっぱり同じ響きなんだねw」

 

「ふぉふぉふぉ、狼家の決まりじゃ。

恐らく20年もすれば見つかるじゃろ。

うーむ? しかしあれじゃ、何かが足らんのう」

 

「え?」

 

「そうじゃ! アリサ、いつもの毒舌が無いぞい!

頼むから、余計な事するなクソジジイとか

もっと早く来いのろまとか

キツ目に言ってはくれぬか?」

遂に自らの性癖に気付く62歳。

 

「バカ」

 

「ハァアァ素晴らしき罵倒!! 圧倒的感謝!!」

90度の、深く綺麗なお辞儀をするロウ・ガイ。

 

「ぷ、あははははっ」

屈託なく笑うアリサ。

 

「ふぉふぉふぉ。わしはまた植物園に戻る。

MPが0じゃ。アリサも無理するでないぞ」

 

「ありがとおじいちゃん」

 

「ふぉっ?!???(///照///)」

それを聞くや否や顔を真っ赤にするロウ・ガイ

 

「おじい……ケケケケケツが痒くなるぞい

だが悪くない!! わが人生に悔い無しじゃ!!

ハァッ」

 

そして、耳まで真っ赤になりながら

逃げる様にエレベーターに乗る。

それを笑顔で見送るアリサ。と