magisyaのブログ

小説となぞなぞを投稿してます

私の行く先々で事件が起こる件について 11話、12話

11話 宴会場

 

 54階宴会場は、40階の植物園と同様

54階の全てを一つの広間としている為相当広い。

 

 寿司、刺身、丼物、天ぷら、トンカツ

カニの入った味噌汁、茶碗蒸し

松茸入りの具沢山の炊き込みご飯

餃子、焼売、春巻き、フカヒレスープ

北京ダック、ホイコーロー

マーボーナス、棒棒鶏青椒肉絲

ステーキ(牛、豚、羊、山羊)ザウアークラウト

アクアパッツァ、フランスパン、チーズフォンドュ

アイスバイン、ブラックカレー、ビーフストロガノフ

和、洋、中と一通り料理は揃っていた。

 更には、世界三大珍味も揃っている。

和洋折衷。色々な香りが混ざり合う異様な空間。

 

 天井にはシャンデリアが7灯あり

一つの大きな物が中央に

それを等間隔で6灯の小さいシャンデリアが囲んでいる。

 

 このホテルのビュッフェは 

シッティングビュッフェという形式で

会場の中央に食事する席が並べてあり

それを取り囲む様に3層に長方形の料理を乗せる

テーブルがコの字型に並べられていて 

内側が和食、一つ外側が中華、一番外側が洋食である。

客は、好きな料理を自由に選ぶ事が出来る。

しかし、いつまでもと言う訳ではなく

2時間という制限時間が設けられている。

 

 それぞれのテーブルには、シェフがおり

少なくなった料理は

会場にある調理場から補充してくれる。

皿が一杯になるまで盛り付け終わったら 

真ん中の席で食べるという感じである。

 

「うわーいい匂い、どっれからたっべよっかなー♪」

鼻をひくひくさせて会場内を見回すアリサ。

 

「アリサ、こういう所は初めてだと思うから

忠告しておくわ。ここではお皿を持って移動するのよ。

しっかり持っていきなさい。わかったわね? 

後、アリサはご飯が大好きでしょ?」

 

「はいっ! それと、たこ焼きも好きですっ!」

 

「今は、ご飯とたこ焼き好きと言う

炭水化物好きのアリサを

心の牢獄に閉じ込めなさい」

 

「何で? ママ何で?? 後、心の牢獄って何?

そんなのウィキペディアでも見た事無いよ??」

 

「それは秘密よ。後ね、何を食べても料金は同じなの。 

だから、お米とかたこ焼きは

すぐお腹一杯になっちゃうわ。お持ち帰りは出来ないし

冬眠する前の熊の如く出来るだけ多く、そして

高価な物を選び抜き食べるのよ、いいわね?」

 

「へえーでもね、あの松谷修造もお米食べなさい!! 

って言ってるよ? エネルギーの源だよ

カーボンハイドレートゥ」

 

「……今はその人も心の牢獄に閉じ込めなさいっ!」

 

「はいっ!」

(また言った、これで2度目だ

オヤジにも言われた事ないのに……!)

 

「しっかしアリサは返事が綺麗よねー。

じゃあ行って来なさい」

ダダダダッ!

 

アリサを見送ると、彼女を連れた八郎が声をかけてきた。

 

「こんばんわ先輩! あれ? アリサちゃんは?」

 

「八郎君こんばんは、彼女さんも初めましてこんばんは

アリサなら今走り出していったわ。」 

お腹もすいてるみたいだし」

 

「……は 初めまして」

彼女も俯いたままおどおどと挨拶してきた。

 

「すいません彼女、人見知りが激しくて」

 

「いいのよ、でも可愛い彼女じゃない。

八郎君には勿体無いわ」

 

「いや先輩全くその通りです、そうだ先輩 

彼女との出会いの話聞きます? 

これがめちゃくちゃ泣ける話なんすよ

アリサちゃんには話したんですけど号泣していました」

軽い嘘を突く八郎。

 

「ちょっと! やめてよ八朗君」

彼女が八郎を止める。

 

(このこ うざいわね) 心の中で思いつつ笑顔で

「いえ、遠慮しておくわ。

私も重い荷物を持って歩いてて腹ペコなのよ

のろけ話でお腹いっぱいにしたくないわ」

 

「へ? そうですか……オイラ本気で悔しいです。

15時間は語れたのになあ」

(15時間て……危ないわね。うっかり聞いていたら

ビュッフェの時間終わってまうわ、後オイラて……

こんな子だったかしら?)

心の中で思い、八郎達と別れる。 

 

一方その頃、アリサは全力で走っていた。

少しでもカロリーを消費する為に。

そして、アリサは走りながら辺りを見回し分析した。

少しでもカロリーが少なく美味しく高価な物を……

そして、アリサなりの結論が出た。

辿り着いたのは和食のコーナー。

松茸の……炊き込みご飯だった……

アリサは、松谷修造の

 

「お米食べなさーい」

 

と言う言葉を毎晩動画を見ていて

常に聴いてきている。

そう、潜在意識にまで刷り込まれていて

結局無意識にお米を選択してしまうのだ。

アリサは返事はいいのだが

興味がない話は半分も聞いていない。

だが、松茸という高級食材が入っているだけ

良いのではないだろうか?

 

「これならママも納得するわね」 

と得意満面で丼に山盛りに盛っている。

 

「おお、アリサじゃの。又会ったのう」

炊き込みご飯を盛っている途中のアリサに

ロウ・ガイが声を掛けて来た。

 

「あっ、ロウ・ガイだ。何しに来たんだ?」

 

「何じゃと? ……アリサ、相談なのじゃが

出来ればフルネームで呼ばないで欲しいのじゃが

ガイさんなんてのはどうじゃ? 

どうも老害呼ばわりされている気がして嫌じゃのう」

 

「やだよ。ロウ・ガイだって弟さんの事

キチ・ガイってフルネームで呼んでいるでしょ?

実はキチガイ言いたいだけでしょ?」

 

「そ、そんな事はないぞい」

(相変わらず鋭い子じゃのう……)

 

「あ、ちょっと動揺してるじゃない。

私もやはり言い慣れたロウ・ガイが一番呼びやすいわ

しかしロウ・ガイは

もう飯を食う年でもないだろうに。

まだこんな所にくるんだな」

かなり空腹の時に邪魔をされたので

口が悪いアリサ。

 

「ぬう? アリサよ、わしが仙人で

霞以外食べないとでも言いたいのかの?

まだその域には到達できんわ。後200年位はかかるかのう」

 

「ロウ・ガイは後200年も生きるつもりなの? 

それで、そこまで生きれば仙人になれると思っているの?

どこ情報よそれ? まあ何となくだけど

ロウ・ガイなら行けそうな気もするわ

せいぜい頑張る事ね。あ、わああああああああああ」

アリサが何気なく天井を見て悲鳴を上げる。

 

「何じゃ? アリサどうしたのじゃ?」

 

「う、上に化けもん」

アリサは、涙目になりながら上を指す。

 

「はて?」

 

 ロウ・ガイが天井を見上げると

もはや隠れユッキーとは言えそうに無い程

なんとまあでっけえユッキーが

下界の民を見守る神様の様な優しい笑顔で

見下ろして下さっている。

大きさは、4平方メートルはある。

天井を見上げればすぐ分かる程の圧倒的な存在感。

これでは

 

『頼むから見つけてくれユッキー』

 

と改名すべきである程のでかさだ。

都会のイーグルスノーホテルのみに存在し

見つけた者の精神を攻撃する悪魔との5回目の遭遇。

一回目とは比べ物にならない大きさで圧倒する。

幾ら優しい笑顔といえど

アリサは既にその薄っぺらい内面を知っている。

そんな彼女に言わせれば

その笑顔も気持ち悪いの一言である。

このユッキーはプラネタリウムのユッキーと同じ

上にいて、一方的に攻撃してくるタイプの強敵である。

 

 例えば、私の場合、好きだったお笑い芸人の親が

息子が相当稼いでいるのに

生活保護を受け取っていたというニュースを見た直後

そのお笑い芸人のネタの全てが

嫌いになるというケースがある。

 

 私は高校の時、お笑い番組

漫才の部分だけを録画し

繰り返し見ていた時期がある。

脳に何度も同じネタを刷り込む事で

自分も面白い語りが出来るのではないか?

と言う漠然とした考えから行っていた事である。

そんな事よりも自分でネタを考え

ネタ帳に残す方が余程トレーニングにはなる筈だが

その時は、これしか方法を思い付けなかったのだ。

見るだけで実に楽であったしな。

 

当然、そのお芸人のネタも幾つも録画していたが

そのニュースを見たとたん一切笑えなくなり

その芸人の出ている部分だけ

別の芸人のネタで上書きした程だ。

当然何度見ても面白かったネタで

私が新しいネタを閃く切っ掛けとなれるような

お手本となる良いネタではあったのに

そのニュースを見たとたん急にである。

 

そう。イメージが如何に大切かと言う事が分かる。

どんなに才能を持っていようが

面白いネタであろうが関係ない

一度でもそういう事を耳にしてしまうと

急に冷めてしまうのだ。特にテレビに出ている人

全般に言える事ではないだろうか?

 

そして、アリサはかつて無い強敵との対峙に

戦慄が走る。

 

「ぬおっ? 何じゃあれは? 確かに強烈じゃのう

ぐうう何か気分が悪くなってきおったぞい」

口から一筋の血を流すロウ・ガイ

 

「あれは隠れユッキーと言うゴミよ! 

私は少し耐性があるけど、一般人にはきついわ。

あんまり直視したら駄目よ

私は平気だけどロウ・ガイは早く休んだ方がいいわ」

 

 ロウ・ガイもかなり鍛錬を積んでいる筈だが

隠れユッキーに対する耐性はアリサ程ないようだ。

 

「うむ、あんな物が

このホテルの至る所にあると言うのか。恐ろしいのう」

 

「一応撮影してと、あ! そうか分かったぞ。

ユッキーって言うのは隆之の之から取ってたのか。

タカユッキーじゃ語呂が悪いもんね」

 

 可哀想な事にアリサの脳内に

何の意味の無い知識が増えてしまった。

だが、アリサにとってはこの無意味な情報も

新しい知識が得られたという喜びから

至福の時を味わえる瞬間になる。

 

もしアリサと付き合いたいという方が

いらっしゃるのならこんな方法がある。

それは、彼女が興味のありそうな謎を提示し

その答えを言わなければ、ずっと着いてくるであろう。

いや、しがみついて離れないと言っても良い。

答えを白状するまで、ありとあらゆる手を使い

追いまわしてくる。こうなってしまったら

あなたはもうアリサから逃げられない……

相当な覚悟が必要だ。

 

「あんな物可愛く言っても人害を与えるぞい。くっ」

 

「はあ、全く、それにしても

『私の行く先々で事件が起こる件について』

一体どうなっているのかしら?」

 

「ん? なんじゃ? いきなり事件とな? 

成程、この上の化け物の事じゃな?

しかし、件についてとは変わった言い回しじゃのう

お主……22ちゃんネラーか?」

 

「違うよ、そういうタイトル……あっいけねっ。

漫画の全由一とか、命探偵ユナソとかも同じ悩みを

抱えているのかなあって思っちゃって。

あの人達も行く先々で事件に遭って大変でしょ?」

 

「でもな、あやつらは事件が起こらねば

誰にも読んで貰えぬのじゃ

口には出さぬじゃろうが事件よ早く来い

と思っていそうじゃな。

そして、自分が引き寄せとる事も十分承知の上なのじゃ

じゃからいつも同じ場所で事件が起こっては

読者を飽きさせてしまうから

色々な所に行っている気がするぞい」

 

「そうなの? でも言われてみればそうね。

やるわねロウ・ガイ」

 

「奴らは事件が起こる事が当たり前になっておる。

アリサの様に疑問を感じない方がおかしいぞい。

アリサはやはり賢い子じゃな」

 

「でへへ」

アリサ……こんな所でタイトル回収するとは流石だ。

そう。事件とは人が死んだりする事だけではないのだ。

こういう化け物を見る事自体もこの少女にとっては

一つの事件であり、何一つおかしい事ではないのだ。

 

 それにしてもあんな化け物を見た後だというのに

しっかりと撮影している抜け目の無いアリサ。

何度もこういう場面に遭遇している内に

反射的に怖い物を見たら撮影!

というスイッチが脳内で形成されたのかもしれない

常人ならその恐怖から撮影など到底出来ないであろう。

だが母親の為に少しでも割引の助けになればと協力する

健気な少女である。

このホテルの欠点と言っても過言ではない

隠れユッキーを自分の携帯の中に

データとは言え残す作業。苦痛であるに違いない。

 

「うーん。しかし、これはどうすればいいんだ?」

 

 アリサは撮影してからすぐ

その巨大な化け物を塗り潰す方法を考え始めた。

何事も決して諦めてはいけない。それは

アリサの尊敬する松谷修造から教えて貰った金科玉条きんかぎょくじょう

天井までは9m以上ある。

テーブルの上に脚立を乗せて背伸びしても届かないし

大人5人位に縦に肩車して貰わなければ届きそうに無い。

そんな高い所での世直し行動は、高所恐怖症のアリサに

出来るかは分からない。

それならアリサが大人達に指示を出し

やって貰えばよいのでは? と

考える方もいるであろうが

一番重要な消去は、自分でやらなくては気が済まない

そういう責任感が強い女の子なのだ。

それに、耐性が無い大人が頑張っても結局

消している途中で気絶してしまうだけであろうし・・

 

 色々低回を繰り返すが、結局結論は出ず

途方に暮れるアリサ。

 

「アリサよ一体あれをどうしたいのじゃ?」

ロウ・ガイも漠然とは分かっているが

念の為にアリサに問う。

 

「……りたい……」

ぶつぶつと独り言の様に呟くアリサ。

 

「ん? 何じゃって?」

 

「完全に、黒く染めて、消し去りたい」

 

     Щ ゴウッ Щ 

 

燃え盛る正義の心。

 

「ほほう。物凄い熱量が今お主の体から

放たれた気がするのう。

うむ、かなりの使い手になりそうじゃな

確かにアリサの気持ちは分かる。

わしも体で感じた。あれは危険じゃ

しかしのう、あんな所までは筆は届かんぞい」

 

「はっ!」

ピカーン

アリサは頭上に電球の様な物を出し、何かを閃く。

一体何を閃いたと言うのだ?

 

12話 ブラッククッキング

 

「そうだわ! ブラックカレーを使いましょう。

さっきどこかで見た気がするわ。

後サラララランラップも欲しいわね」

 

「何じゃと? ん? ほう、よく分からんが

持ってくるぞい待っていろ」

アリサの考えは読み取れずじまいであるが走り出す。

 

2分後

 

 ブラックカレーと

サラララランラップを持ってきたロウ・ガイ。

「これ位でいいかの?」

 

「うん! ありがとう、これをこうしてっと」

器用にブラックカレーをラップに包みボール状にする。

 

「ロウ・ガイ、あの顔の真ん中にこれを当てる事は?」

 

「器用な事をするのう。ふーむ、遊戯室で見せたあの技を

もう一度使えば可能じゃが?」

 

「お願いあれに当てて?」

 

 クネクネしながら可能な限り可愛らしく

おねだりをするアリサ。

女の武器を使ってまで消し去りたいと言う気持ちが

ロウ・ガイにも伝わった。

 

「しょうがないのう。MPミョウギポイントを結構使うし

あの怪物を見ながらの詠唱になるから相当疲れるのじゃが

可愛いアリサの頼みじゃて、やってみるか」

ロウ・ガイも首を縦に振る。

 

「やったあ」

 

 ピョンピョン跳ねて、喜びを表すアリサ。

ロウ・ガイはブヨブヨした

カレー入りのラップボールを

慣れない手付きで持ちながら

遊戯室で唱えたあの呪文を詠唱する。

 

「アブラカタブラルータアズラナカ

ハルータアクヨノンモケポイダョシ

ぬおおおおお。穢れし天井の悪よ! 消えされぇえぇい」

 

 びゅおおおおおおん

凄まじい音と共に上にボールが飛んでいく。

しかし、すんでの所で重力に従い落下してくる。

ロウ・ガイはそれを割れない様に優しくキャッチする。

 

「くうっ……届きそうな所まで行ったのじゃが

この玉を割るまでには至らんかった様じゃ……

かなり柔らかい物じゃから持ちにくくてのう……」

 

 狙いは完璧だったのだが

ぶよぶよしている物を投げるという行為は初めてで

うまく投げられなかった様だ。

 

「え? じゃあ無理なの?」

本気で悲しそうな顔をするアリサ。

 

「今のままではな……じゃが……!!」

ロウ・ガイはラップボールを額に近づけ集中する。

 

「仕方ないのう、筋力を増強させる妙技も

おまけで追加するぞい!

二重詠唱はあまりやった事が無いからの、いけるかの?

否! やるんじゃ!! そうじゃな? アリサ!!!」

 

「はいっ!」

 

「お、良い返事じゃ。これでわしも頑張れそうじゃ!」

 

「ハッ!」

気合を入れなおすロウ,ガイ。

辮髪べんぱつが湧き上がる闘気が放つ上昇気流に乗り

上向きになる。

 

マハリクマハリタ

コッビチノキトタイナハノイワコモトッモ」

 

 ロウ・ガイの両腕が金色に光り

見る見る腕が太くなる!

そして、腕からは浮き出る血管が太くなる。

さらに命中増加の詠唱を続ける!!

 

「アブラカタブラルータアズラナカ

ハルータアクヨノンモケポイダョシ

行くぞォユッキーィィィィィ!!」

 

ギュオオオオオォ!

 

 ラップに包まれたブラックカレーボールは

一直線に、先程と段違いの轟音と共に、怪物へと向かう。

そして、ユッキーの鼻にヒットし、その瞬間ラップが破れ

ブラックカレーを撒き散らした!!

 

 しかし……何という事だ……粘着力が足りず

破れてユッキーに当りこそしたのだが

ぽたぽたと床に落ちて来る。殆ど黒く染まっていない。

 

「なんと! これだけでは粘着力が足りんのか……」

 

 2度目の失敗に落胆したのか

それともMPの使い過ぎで疲れたかは判らないが

がっくり肩を落としながら言う。

 

「じゃあ桃矢の『殿! ごはんですぞ』とか混ぜて

粘着力を増して再挑戦してみましょう」

 

 時間はないのだが、決して妥協せず

最善策を探し出そうとするアリサ。

もう空腹で歩くのも大変な筈だが食事もせずに

黒く粘性のある物を作る事だけに集中している。

何故ここまでストイックになれるのだろうか?

 

「成程、それと黒ゴマのペーストや

黒砂糖等も粘性は上がるぞい」

 

「黒ゴマのペーストに黒砂糖ね? ……あれ? 

黒砂糖は色は茶色だけれど?」

 

「水に溶かせば黒くなるのじゃ」

 

「そういえばそうよね分かったっ!!」

 

 そう言いつつビュッフェ内を走り出す。

ここには色々な食材がある。

黒い物など幾らでも見つかるのだ。

 

「殿! ごはんですぞは流石に無いと思うから

和食の所に岩のりの佃煮が置いてないか探してみよう」

 

和食の炊き込みご飯の所に居たアリサ。

すぐ側に佃煮を発見

近くにあった丼に入れて次の黒砂糖を探しに走る。

 

「黒砂糖は黒糖黄粉ドリンクっていうのがあるわね。

ゴクリ……ああ、おいしそう

はっ、駄目駄目。これは飲み物じゃなくって

世直しの材料なんだから!」

 

 いや……普通に美味しい飲み物なのだが……

強い使命感からか

殺しのパーツにしか見えなくなっている。

そんな物を飲む事は出来ないアリサ。

コップが幾つか並んでいて一番黒っぽい物を選ぶ。

 

「本当だ黒い液になってる。これを混ぜて……よし!

後は黒ゴマペーストと無くなっちゃった

ブラックカレーをこれに混ぜないと」

 

洋食のコーナーのシェフに

黒ゴマペーストの場所を聞いてみる

 

「え? そのままは置いていないなあ。

黒ゴマペーストは大体プリンとか

パンに練りこんで使う物だからね」

 

「そうなのね……せっかくの粘着力が……」

落胆するアリサ。

 

「粘着力? そうか

夏だし、スタミナがつく物が欲しいんですね?

粘着力が必要なら納豆とかならあるけど?」

 

「うーん、色が黒くて粘着力があるものがいいの

出来れば細かくなっているものがいいわ。

それと、包むラップも欲しいわ」

 

「じゃあ、めかぶを細かくミキサーで砕いてあげる。

これなら黒くて粘着力はあるよ

しかし色々なリクエストが来るなあ。

まあ食べ方は人それぞれだからね」

 

「ありがとう」

 

 ラップを受け取り、次に丼を差し出し

めかぶをミキサーした物を入れる。

 

「よーし後はブラックカレーね」

 

 洋食のコーナーに大きな寸胴に

ブラックカレーがあった。それを丼に入れる。

ぐーきゅるるる。

 

「お、お腹も減ってきたわね。

よし、早く戻って混ぜましょう」

ロウ・ガイの待つ和食コーナーに戻る。

 

「役者は揃ったわ。

今度こそ見ていろよあの妖怪め!」

 

 戻ると少し顔色が悪くなっているロウ・ガイが

水を飲みMPを回復していた。

 

「戻ったよ」

 

「うむ」

丼のブラックカレーを混ぜ合わす

 

「あ、こねている内に少し粘りが多すぎて

固まってしまいそうね」

 

「そうじゃな、ではここにある黒ウーロン茶を入れて

少し緩和させるか?」

ウーロン茶を注いだ。すると色が薄くなってしまう。

 

「うーん、もう少し黒くしないとあいつは消せないわ」

 

「そうじゃな、ではイカ墨などどうじゃ? 

ある程度の粘り気も取れるし色も付く」

 

 彼らは、年は50以上離れているが

ユッキー消去と言う一つの目的に向かい

まるで理科室で実験をしている小学生の様な

キラキラした目でトライ&エラーを繰り返し

少しずつだが、確実に最適解に近づいてゆく。

 

「成程ね。よーし、行ってくるわ」

疲れているであろうロウ・ガイを気遣い

率先して動くアリサ。

 

「すいませーん イカ墨スパゲティの

イカ墨だけ欲しいんだけどいいですか?」

 

「え? 別に構わないけど味付け前でいいの?」

 

「いいよ」

 

「はいどうぞ」

パスタのコーナーにいたシェフは

少し不思議そうな顔をしながらイカ墨を皿に入れる。

 

「ありがとうこれで夢は叶うわ」

深くお辞儀をし、溢さない様に慎重に歩いて戻る。

 

「?」

シェフもイカ墨にここまで喜ぶ幼女を見るのは

初めての様で戸惑っている。

 

「戻ったわ。これを混ぜれば完成ね」

皿を傾け丼に混ぜる。

暫く掻き混ぜ……ついに……!

ドロドロドロ

 

「うっぷ……これか?」

 

 ロウ・ガイはアリサの持つ黒くドロドロとした物が

入った丼を見て言う。

もはや料理として食べる物で無くなっているが

目的を果たすには十分の黒さ、そして粘着性。

これこそがアリサ達の研究成果。

 

 皆さんは、食べ物を粗末にしているのを見て

いけない事じゃないか? とお思いであろう。

その気持ちは私も分かる。

だが、上を見てその衝撃に耐えられる人間は

アリサ以外にはいないのである。

今はまだビュッフェの食べ物に

集中しているであろう客達も、お腹一杯になった時。

 

「ふぅ食った食った」

 

鼓腹撃壌こふくげきじょうの内に言った後、仰向けになり

椅子の背もたれに寄り掛かった時にふと

天井に目が行ってしまうであろう。

その時、あれと目が合ってしまった刹那

命の保障はないのである。

その人は満腹で最高の瞬間に終焉を迎える事が出来

まだ幸せであろうが

その異変に気づき、つられて上を見てしまい

まだ満腹にもなっていない人も

連鎖的に命を落とす事になる。

今も、客達の腹に次々と料理が入っていく。

その時を迎えるまでに余り猶予は残されていないのだ。

急ぐのだアリサ! 

この物言わぬ黒い救世主も最高の状態で

奴の凶行を止める準備は出来ている筈なのだから!

 

「ああ、いけるか? 

これで駄目なら人類は……全滅だ……」

 

「フッw誰に言っている? 元総合料理長じゃぞ?

大丈夫じゃ、信じろ!」 

 

「フッwそうであったな」

 

かっこいい二人。

もうそこにはこれ以上の言葉は要らない。

 

手際よくブラックカラーボールを完成させ

詠唱中のロウ・ガイに手渡すアリサ。

それが終わる頃には、ロウ・ガイは既に

筋力増加の詠唱は済ませてある。

息ぴったりの二人。

そして……!

 

「アブラカタブラルータアズラナカ

ハルータアクヨノンモケポイダョシ」

「アブラカタブラルータアズラナカ

ハルータアクヨノンモケポイダョシ」

 

アリサも加わっての同時詠唱……! 

これにはロウ・ガイも

 

「フッ、アリサめ! やりおるやりおる!! 

しかし……ここからはわしのオリジナルじゃ。

わしは鼻を狙う。が、今のままでは

飛散した後にどこに飛ぶかは分からぬ。じゃが

今から使う妙技で飛散した先を固定出来るのじゃ! 

念の為に聞く。どこがいいのじゃ?」

なんという素晴らしいスキルであろう。

この老人只者ではない!

 

「え? それは……鼻でしょ? 

だったら当然、目と口かしら?」

 

「そう言うじゃろうと思っておったぞ。

イエッサー!」

 

 かつてないほどのオーラがロウ・ガイを包む

 

「エロイムエッサイムイタミンモエラドハタカイイノ

ーザーレグンミーホノコリノノータスバンガノボロパス

 もう失敗は無い……! さらばだユッキー。

虚空の狭間へと消えろォ!

はぁああああああああああああああああ!! 

ダアァッ!!!!」

 

ぎゅるぉぉぉぉぉぉおおおおおおん!

 

金色に輝き、増大した右腕に

極太の血管が脈打っている!!

ロウ・ガイの手を離れたそれは

余りの勢いに分身している様に見える。

しかし、目標に近づくにつれ

目標への最短距離を描き……

 

ぱぁあああああん!

 

見事顔面の中央の鼻に命中! そして

耳をもつんざく程の炸裂音と共にラップが破れ

黒い液体がそいつに向かって飛散する。

その黒い液体は中心の鼻を黒く染めた後

綺麗な逆三角形に飛ぶ。

そして、ロウ・ガイの宣言通り

目と口に向かって飛散していた!!!

そいつの輪郭や耳こそ残ってしまったが

目、鼻、口を消す事に成功したのだッ!!!

 

挿絵(By みてみん)

 

「……ひどいよ……ぼくらはそんなことのために

うまれたわけじゃないのに……」

 

どこからともなく誰かの悲しみの叫び声が……

しかし、誰も聞き取れなかった。

 

「やったぁ! ありがとうロウ・ガイ」

拍手するアリサ。そして

彼女が見せるこれ以上にない最高の笑顔。

ヘトヘトである筈のロウ・ガイも

それを見ると和らいでくる。

 

「ふうー 疲れたぞいッ!!」

パン

二人でハイタッチ。

言葉とは裏腹に、全く疲れていない様子で言う。

 

この時、一人では太刀打ちできぬような

絶望的な戦いも、2人で力を合わせる事で

必ず上手く行くという事を知るアリサ。

 

(耐性のない奴なんか足手まといよ)

 

と内心思っていたが、その考えを改め

【それぞれが出来る事を考える】という

新たなる力を手に入れたのだ。

 

「ふぅ……3重詠唱は長年生きて来たが初めてじゃ

危うく意識が飛ぶ所だったわい。人間初めての事も

意外とすんなり出来てしまう物なのじゃな。

これが限界突破かの? 

新たな自分を見つけられた気分じゃぞい

LVアップじゃあ! なんてのww」

 

「ロウ・ガイお疲れ様」

水を持って来て手渡すアリサ。

 

「うむ。因みにわしは呪文を唱えぬと発動できぬが

妙技団のプロは違うのじゃ。

唱える事なく頭の中で瞬時に詠唱し

すぐに効果を発揮できるのじゃ。

料理人がメインじゃしのわしはこれが限界じゃぞ

しかし、礼には及ばん。

わしもあんな物に見下ろされたくないからの

これですっきりしたぞい」

 

「うん、じじいなのにすごいかっこよかった!」

 

「ほほほ相変わらず口が悪いのう。

しかし、そこが可愛いのじゃ。でも、驚いたぞアリサ。

あの呪文をわしと同じタイミングで詠唱するとはのう。

ビックリして変装が解ける所だったわい」

アリサの頭を撫でつつ褒めるロウ・ガイ。

 

「何回も聞いているもの。もう言えるわよ。でも

イダョシの部分がまだちょっとむずいけどね」

 

「フォフォフォ惚れ直したじゃろう?」

 

「惚れ直したかって……それは一度でも

アリサに惚れられた人間だけが言える台詞でしょ?

まだまだね」

 

「フォフォフォまだまだか。これは一本取られたわいw」

 

まるで実の孫と話している様に

嬉しそうに笑うロウ・ガイ。

今までのアリサは、自分の力だけで

全てを片付けようとしていた。しかし、今回の件で

それだけでは駄目なんだ。協力して消してもいいんだ。

呼びかければ答えてくれる勇士はいる!

一人で背負う事なんか無いんだと思い知る。

共に一つ目標に向かった二人の絆は深まった。

 

私の書いている小説です

 

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