magisyaのブログ

小説となぞなぞを投稿してます

私の行く先々で事件が起こる件について1話 3、4話

3話 遭遇

 

第2章 正義への目覚め

 

部屋を出て、大きく伸びをするアリサ。

 

「うーん、よし! あの怖い顔のオーナーが言ってた

遊戯室に行ってみようっと」

ホテルのパンフレットを見る。

 

「10階にあるのね」

 

 まずは、エレベーターに向かう事に。

歩いていると

身長が180位の大柄な老人が腕を後ろに組みたたずんでいた。

無駄なく鍛え抜かれた筋肉質な体。

60は超えているであろうが腰は曲がっておらず

ピンとした背筋。

髪型は辮髪べんぱつで、完全に白髪ではあるが

剃っているだけで禿げてはいない様だ。

双眸そうぼうは力強さの中に優しさが隠れていて

風格すら感じられる。

服装は、青い拳法着を着ていて

右胸に銀色の竜の刺繍が施されている。

顎鬚あごひげは異様に長く、もみあげから繋がっていて

180あるにも関らず、地面に付いている程の長さだ。

ひょっとして、髭の長さで偉さが決まる部族の長なのか?

歩いている時に誤って踏んでしまったりしないのか?

色々な疑問が浮かんでくる。

そのただならぬ雰囲気の老人が、アリサに声を掛ける。

 

「おや? お嬢ちゃん、一人で来たのかえ?」

 

「知らない人とは絶対に話さないもんねー」

両目を閉じ舌を出し

学校の先生に言われた事を堅実に守る模範生徒なアリサ。

 

(無視せずに、話しておるじゃないか) 

老人は思う。

 

「これは失礼した、わしの名は、ロウ・ガイじゃ。

決して怪しい男ではないぞい。かつて

このホテルの厨房で総合料理長をしておった者じゃ」

 

「総合料理長?」

 

「そうじゃ和、洋、中の料理の

指揮を執る事が出来る偉ーい料理長じゃ。

千を超えるレシピを頭に叩き込んである」

 

「へえー、格闘家みたいに強そうなのに料理人なんだあ」

 

「料理をするにも体が資本じゃて、常に鍛えておる。

じゃが今は、ただの格闘じじいじゃ・・食中毒が起こり

ホテル側はそれをわしに擦り付けおった。

おかげで責任を取りクビになったのじゃよ。

運悪く、取材に来とった新聞記者が

食中毒になってしまったのじゃ。

そこの新聞で、記事を書かれてしもうてな。

大騒ぎになったのう。

久しぶりにこのホテルに客として来て

弟子どもはこのロウ・ガイズムをしっかり継いでいるのか

このように長い付け髭で変装して来て見たのじゃ」

 

 髭以外は変装していない様だ。

これでばれないと思ったのか? 謎の多い老人である。

 

老害じじい?」

 

「ふぉっふぉっふぉっ。惜しいのう

大体合っておるのじゃが違うぞい。 

わしの名は、ロウ・ガイじゃ。漢字ではおおかみいのししじゃ。

そして、ロウ・ガイズムとはわしの料理の技術の事じゃな

中国から来た好々こうこうやじゃよ。

弟にキチ・ガイと言うのがおるよ」

 

聞いてもいない事を喋るロウ・ガイ。

 

「自分で好々爺言うか。まあそれっぽいから信じるわ

で、ロウが苗字で、ガイが名前でしょ? 

何で弟の苗字が違うの?」

 

「鋭いのぅ、弟は喜知という苗字の娘の所へ

婿入りしたのじゃ。そして、ロウ・ガイから

キチ・ガイになった訳じゃ」

 

「え? 中国って夫婦別姓で結婚しても

変わらないんじゃなかった? あれ? 記憶違いかなあ?」

妙な事に詳しいアリサ。

 

「ほほぅ知っておったのか。そう、そうなのじゃが

その嫁さんが、かなりの日本マニアでのう。

日本の風習である夫婦同姓を取り入れてしまったのじゃ」

 

「え? 何故? それは日本の風習って言うか……

民法750条じゃないっけ? 

確か……え? でも中国でそんな事が許されるの?」

何故かこんな事は知っているアリサ。

 

「キチ家は、相当な富豪での。

特例で許されたのだそうじゃよ」

 

よりによって日本マニアの嫁がキチという名字で、

結婚したら夫婦同姓を取り入れ、ロウ・ガイから

キチ・ガイに変わってしまったというのだ。

運が無い弟である。

否、金持ちの家に婿養子でも入れるだけ幸せである。

それに中国では、キチガイという日本語は

通じない筈であるから何の問題もないであろう。

 

「そこまでしてキチ・ガイにしたかった

という事なのかしら?

そういえば兄弟なのに、名前は同じガイなの?」

 

「そうじゃ、父親がガイという響きが好きでの。

わしがイノシシの亥、で

弟が害虫とか公害に使われる害なのじゃ」

 

「なんかややこしいねー。それに

弟さんの名前の漢字が酷い気がするわ。いじめなの? 

じゃあ、お父さんは二人揃っている時

どういう風に呼んでいたの?」

よせばいいのに首を突っ込もうとするアリサ。

 

「おいそこのお前、と指差して呼ぶのじゃよ。

父と二人の時はおい、お前じゃ。

ガイ、と呼ばれた事なぞ一度も無いぞい」 

 

「それってお父さん本当にガイって響き好きなのかなぁ?

ところでお父さんとお母さんの名前はなんて言うの?」

聞かなくてもいい事を聞いてしまうアリサ。

 

「当然、父がロウ ガイと母が魯兎ロウ ガイ じゃよ?」

衝撃の告白。

 

「家族全員揃って同じ言い方なの!? 奇跡じゃん 

この家族、本当に老害キチガイしかいないじゃない……

じゃあアリサは、遊戯室に行ってみるのでじゃあね」

 

「そうかアリサというのか、いい名前じゃの 

だがまあ、ガイという美しい響きには到底及ばぬがな」

その一方的な押し付けに少しムッとしながらも

 

「ハイハイソウダネー」

と適当に返し、走り去るアリサ。

 

「遊戯室か、いつの間にかここにも

面白そうな物が出来てるようじゃのう。 

わしも後で行って見るかのう」

ロウ・ガイの最後の言葉はアリサには届かなかった。

 

遊戯室に到着。

「やっと着いた、こんにちわー」

恐る恐る中に入ってみる。

広さは、10階のフロアを全て使っていてかなりの広さ

BGMは静かなクラシックが流れている。

中には数人先客がいて、あのインパクトのあるオーナーも

ポーカーを楽しんでいた。

中には色々な物が置いてあった。

ビリヤード、ダーツ、ポーカーのテーブルや

スロットマシン、ルーレット

ゴルフのパット練習用のグリーン 

小さいボウリングレーン。ボールも用意されている。

室内で遊べる物が一通り揃っていた。

 

「そうだ。まず隠れユッキーとやらを探してみるかな?

多分ここにありそうな気がする」

至る所を探すアリサ。そしてダーツの的に注目して見る

すると、的の上に2つの黒い団子の様な物が

はみ出ているのを気づく。

もしやと思い、椅子を持って来てその的をずらして見る。

すると・・・ついに初めての隠れユッキーとやらを

ダーツの的の裏に発見する。

挿絵(By みてみん)

「きゃあ!!!!」

コロン

椅子から落ち、おしりを強打する。

 

「あいたたたた……何だ……これは?」

 

 少し椅子を離し、至近距離で見ない様にしつつ

もう一度見てみる。そこにあったのは

ボウリング玉位のオーナーのリアルな笑顔の写真。

その頭の上には、二つの的からはみ出していた

黒い耳の様な物がついた生物だった。

まさかこんな物が的の裏に隠れているとは

夢にも思わなかったであろう。

 

「くっ」

ずうん

 

 脳に何か重い物がのしかかる様な感覚を覚える。

至近距離で見たユッキーに脳を攻撃されたのか?

だが、アリサがフラついたのも当然である。

例えるなら頭の傍で携帯電話を充電して

そのまま寝ている様な物である。

ご存知の通り携帯電源をオフにしていても

充電している時は電磁波を発している。

それをダイレクトで受てしまう為頭はおかしくなる。

自律神経失調症の原因の一つでもある。

 

 オーナーは恐ろしい物を生み出したものである。

彼は勿論これに耐性がある。だから一般人も大丈夫と

思い込んでしまっているのだ。スカンクが自分のガスで

倒れないと同様である。しかしこの隠れユッキーとやら

まるで、東京ディスティニーランドの

ワッキーマウスのデザインを模した生物。

そういえばそこでも

隠れワッキーが至る所にある事も思い出すアリサ。

挿絵(By みてみん)

 

「何かしら今の……なんかフラフラする……

それにしてもヴォルド・ディスティニーに

怒られるんじゃないの? これ……」

 

 当然見つかれば怒られるだろうが

オーナーにはそんな概念がなかった。

むしろ、怒られたとしても

 

「そっ。ちが真。似し、て来たのでし。ょう?」 

と言いがかりを付けかねない。

 

「ま、まあいいや撮影してっと。しかし、この化け物

何でユッキーって名前なんだろう?」

パシャリ

 

ふと、ここでアリサは思う。

 

(私の様に心臓に毛の生えた神の子だったから

ショック死せずに

エクスクラメーションマーク4つ程度で済んだ。

だが、こんな物を凡夫が見たらショック死してしまう……

そんな事になったら寝覚めが悪い……)

 

 人であるならば、当然浮かんでくる考え。

本家の隠れワッキーなら、苦労して見つけ出した時

心の底から嬉しくなるものである。

自分だけが見つけたワッキー

SNSにシェアして褒められるのもよし

自分だけの携帯に入れて大切に保存しておくもよし

見つけたその瞬間優越感に浸れるものである。

しかし、このユッキーと言う物体は、見つけた瞬間

 

「やった! 嬉しい!」

 

ではなく、仕方ねえ割り引いてくれるから

撮っておくか程度で嫌々携帯に保存する。

それだけの存在。

受付に見せて割引が完了した瞬間に消去される。

全く正反対である。

デザインも醜悪だし、直視が続けば

脳に深刻な傷を刻まれてしまう。

幾つも見ていく内にダメージは当然蓄積され

命にも危険が迫ってくる。

そんな殺人兵器を意図していないとしても

このホテルは、ホテルぐるみで濫造してしまっている。

この『見る毒薬』を、探させて下手すれば

心臓の弱い客をショック死させてしまうと言う

危険な行為をさせている訳だ。

そう、隠れワッキーは愛嬌があるが

隠れユッキーは悪影響しかない。 

 

 PCをイヤホンをしてネットサーフィンをしている時

あるサイトをクリックしたら、突然色白で、瞳孔が開き

口から一筋血を流した女性のアップの画像が現れ

同時に女性の悲鳴が大音量で響けば

何も知らない人がそれを見てしまったら

心臓は止まりかねない。実際に存在する

精神的ブラクラと言う物であるが

仕掛け人は悪戯心いたずらごころでやったとしても

やられた方は驚いてイヤホンを咄嗟に外そうとした時

力が入りすぎて耳たぶを引きちぎって病院に行ったと言う

22ちゃんねるの書き込みもある。

正義の心に目覚めたばかりのアリサが

こんな事を許す訳にはいかない。アリサは考える。

 

「そうだ! マジックはどこかにないかなあ? 油性の」

 

 椅子から降り、辺りを見回すアリサ。

一体何をするつもりなのだろう?

すると、壁に連絡用のホワイトボードが掛けてあり

そこに水性のマジックが2本置いてあった。

 

(あ、あったわ。水性だけどまあ仕方ないわね。

これを1本拝借して・・と)

 

 アリサは、再び椅子に上り、的をずらし

あまり直視しないようにしながら

マジックでその顔を丁寧に塗り潰した。

 

「♪ぬりぬりぬりぬりぬりさちゃーん♪ーってか?

そういえば幼稚園の頃、ぬりえ得意だったからなあ私

あの頃は若かったわ。

ぬりえの達人ぬりさちゃんってあだ名が付いてたっけw

あの頃より腕は鈍ってるけど、早く勘を取り戻さなきゃ」

 

まだ幼女だと言うのに、昔話を語り始めるアリサ。

鼻歌交じりでなんとも暢気である。

しかし、勝手に壁を塗り潰す行為。いけない事とは

何となく理屈では分かっているが、手が止まらないのだ。

ならば仕方がない。思う存分に塗り潰せば良い。

しかし、この塗り潰すと言う行為。

実はとても効率が良い事なのだ。

 

 もしも、ここにユッキーがある事を

アリサ以外の誰かが見つけそうになった時

この恐ろしさを知っているアリサが

 

「危険だから開けちゃ駄目だよ」

と、言ったところで

割引してくれる物をみすみす諦める客はいないだろう。

一度思い知らなければ気付かないのだから。

だが一般人は数回見るだけであの世行きであろう。

 

だから、黒くして見る事が出来ない様にするしかない。

 

 一瞬で最適解を導き出したアリサ。

お見事と言うしかない。私なら、見つけた時点で気絶し

その恐怖から二度と見る気にはなれない。

その事に関して再び考えたくない

そいつの姿を頭で思い浮かべるだけで

気分が悪くなるのだから。

それをアリサは、一度ダメージを受けて尚

脳は正常に働き打開策を一瞬で導き実行した! 

この時点で2回もそれを見たのだ。なんという胆力! 

そう、隠れユッキーを消す事は彼女にしか出来ない。

彼女は選ばれし者なのだ。そして

その能力を持ちながら、こいつを消したいと言う気持ちも

併せ持っている。

これが如何に大切な事かお分かりだろうか?

 

 如何にやる気があっても

その衝撃に耐えうる力がなければ意味がない

犬死である。逆に力があっても

 

「そんな汚いもの何度も見たくない」

 

とやる気が起こらなければ

当然消される事は無いであろう。

勇気、耐性を兼ね備えた

スーパーヒロインがここに誕生したのだ。

 

 しかし、椅子に乗り

壁に何か書いている怪しげな幼女。

目立ってしまわないか心配であったが

幸運にもみんな自分の遊びに夢中になっていた為

大丈夫だった。それとも? 

神が見えないヴェールをアリサの周りに施し

この行為の妨害から、彼女を守ったのであろうか?

私は、これだけの大人がいる中で

気付かれないと言うのは余りに不自然だと感じた故

後者の方が正しい様に思えてしまう。

 

「はぁはぁ、手強い相手だったわ」

 

 汗を腕で拭い、満足げな表情のアリサ。

爽やかな幼女の笑顔。とても絵になる。

これで、意気揚々とダーツの的の裏をめくり

これを見た宿泊客がショック死してしまう事は

無くなるに違いない。

 

 このユッキーを撮影出来たのは

アリサ一人だけになる。当然割引も

彼女以外の人はこの黒塗りの物体を

撮影したところで割り引いて貰えない事になる。

少しアリサが得をしているのではないか? 

とお考えのあなた。

 

 まあ、確かに隠れユッキーを撮影して

割引をして貰う事は出来ないだろうし

見つけたアリサのみに恩恵がある。

だがここでよく考えてほしい。

アリサはユッキーに耐性があるとはいえ

未知の生物が隠れている物を自分から開け

その衝撃を一番目に受け止めてくれているのだ。

そのダメージは計り知れない。

一番初めに何かをする事の難しさは

皆さんも当然知っていると思う。

そして、耐性がある=死なないではなく

 

【死ににくい】

 

なのである。

その意味をよく考えてほしい。

限度を超えればアリサの命も……

 

 そして、見つければ割引される。

だが1つ2つでは、雀の涙程度である。沢山見つければ

それだけ割引して貰えると言うこのルール。

これは最悪のシステムなのだ……そう

人の欲望は尽きない。限界まで見つけて

沢山割引して貰いたいと思うのは

ごく普通の考えではないだろうか? 

従って、各地に隠されているそれらを

自分から進んで見つけ、何回も見る事になるであろう。

必要以上にホテルを歩き回り、体力を消耗し

疲れきったその体に例え

1、2回程度では大丈夫であったとしても

回数を重ねればそれだけ宿泊客の命は

徐々に削られ、最後には帰らぬ人となる。

そう、こんな事で自分の大切な命を

天秤に懸ける程ではないのだ。

 

 目先の小さな利益に目が眩んで

本当に大切な物を失っては話にならない。

そこまで考えアリサは、完璧な黒に塗り潰す。

少しでもあのこげ茶色の皮膚を塗り残してはいけない。

その結果、芸術品といっても良い程の吸い込まれる様な

闇の深淵をイメージした黒い真円。

挿絵(By みてみん)

それを初めてながら完遂出来、満足げな表情をする。

年齢は11歳であるが

大人にも負けない位に配慮の出来る子なのだ。

 

 そう、これに気付いた係の者が

この悪戯とは思えない程芸術的な塗り潰し術を見て

彼女の言葉なき【本気】の意見を受け入れ

この写真ではいけない。

だから、こんな風に完璧に塗り潰されたのだ。

と察して、こんな汚らしい写真を壁に貼り付ける

犯罪行為を止めようと、もう少し可愛い物にしなくては

また塗り潰されてしまうから

オーナーを模したキャラではなく

全く別のデザインに変更しないといけないなと

試行錯誤する機会を与えたのだ。

これでこのホテルも安泰だろう。

 

「これでよし、これで死人は出ないであろう。

まだ他にもある筈だから

全て見つけて1匹残らず完全に塗り潰してやる!!」

 

素晴らしき使命に目覚めるアリサ。

このホテルの至る所に隠れていると言う

殺人ユッキーを宿泊客よりも先に消す使命を

与えられた聖戦士アリサ誕生の瞬間である。

頑張ってほしい。

しかし、彼女のスタミナも無限ではない。

一気に連続で見てしまい、回復し切らないまま

次のユッキーを見てしまい命を落とさぬ様

適度の睡眠や食事を取り、命を回復させつつ

消去行動をして欲しいものである。

 

4話 遊戯室

 

真理が出て行った後

アリサはふと最後の言葉に引っかかる。

 

「会場? あれ? 今日の夕食って

お部屋で食べるんじゃなくて

どこか別の所で食べるのかしら? まあいいや」

 

 夕食は美味しいとは聞いていたが

どこで食べるかまでは聞いていなかったアリサ。

 

 と、そこへエレベーターで一度会った

八郎が入ってきた。

身長は180位、緑色のTシャツとジーパンという姿だ。

イケメンだが、少し前髪が後退していて

おでこの面積がやや広い。まだ若いが

苦労しているのであろうか? 

確か彼は八浪していると話していた。

もしやそれが関係しているのか?

 

 このホテルのオーナーですら

前髪がしっかり生え揃っているので

それと比べるとやはり少し気になってしまう。

しかし、それを帽子で隠さず堂々とする姿は

ある意味清々しい。確かママと同じ高校出身で

2年後輩という事は27歳の筈である。

 

「あ、お嬢ちゃんは確か先輩の……

君もこのパンフレットを見てここに来たの?」

アリサを発見し

パンフレットを見せながら声を掛けてくる。

 

「八郎さんこんばんは、アリサっていうんだよ。

小5のレディなのよ!! ここに来たのは

オーナーが遊戯室があるって言ってたの

それで気になって来たの」

 

「アリサちゃんって言うのか、こんばんは! 

可愛い名前だなあ。そうか、レディなんだね? 

言われてみればおしとやかな感じがするよ」

ノリの良い青年である。

アリサは、そのお世辞を真に受け照れ臭そうに頭を掻く。

 

「名前で思い出したけど、どうして八郎って言うの?

八人兄弟の一番下なの?」

気になる事は、はっきりさせるまで聞く。

 

「そうそう、うちは大家族で。 一郎 次郎 美三ミミ 四郎

五子 六江 文七ぶんしち 八郎 九べーと9人兄妹なんだ」

 

「へえー賑やかで楽しそうね。

私は一人っ子だから想像付かないなあ」

 

「五月蝿いだけだよ……下の方だから発言権は無いし

食べ物の奪い合いの喧嘩も毎日の様にあったよ。

当然いつも奪われる側だしさ

上下関係は絶対だし逆らえないからね」

 

「ふうん、大家族には大家族なりの悩みがあるんだねー

しかし、最後の人、なんとなくだけれど

日々魔法少年を作り出していそうな名前よね」

 

「おお、よく分かったね。あいつは日々、これは? 

と思った少年にソウルジュエルをあげて

魔法少年として育てて

魔男を退治する仕事をしているんだって。

最近連絡がないけどちょっと心配だなあ」

 

「世の中には色々な仕事があるのね。でも……

一度でいいから会ってみたいわ。待てよ

アリサの年齢なら魔法少年になれてしまうじゃない。

あっ、でも男の子しかなれないんだったわ。

なら大丈夫か……

ちょっと怖いけど会ってみたいわその人」 

 

「それがさ、その人にってアリサちゃん言っているけども

九べーだけは人間の姿じゃないんだ」

おかしな事を言う八郎。

 

「え? どういう事なの?」

アリサは、八郎の言う事が理解出来なかった。

 

「実は九べーの姿は

白くて大きめの赤い目の猫の様な生物なんだ。

つぶらな瞳で、見る者を不安にさせるのさ。

産んだ母さんもびっくりしたらしいよ。

でも息子は息子。分け隔てなく可愛がったんだ。

そして、あいつの一番の特徴といえば……コホン

♪交わした約束忘れないぜ♪」

何故か彼の特徴を

ミュージカルっぽく歌いながら表現する八郎。

 

「まあ。なんて信頼できる弟さん……って

まんま、あれじゃない。

♪目ーを閉じッ確かめろー♪

押し寄せーた闇ッふりー払ってッでもすーすむぜー♪」

それに呼応し、アリサも歌いだす。

 

てれれれれーーーー

 

どこからとも無く音楽が流れてくる?

クラシックが流れていたスピーカーからであろうか?

ちょうどクラシックが止まり、この曲が流れてきた。 

一体誰の仕業なのだろうか?

 

「アリサちゃん。それ以上はいけない」

 

てーてー↑てーてー↓てーーーーーー ムズムズ

「え? なんでよ、今から盛り上がる所なのよ?

こんなの絶対おかしいぜ」

 

てれれれれーーーー

「それ以上は駄目なんだ、分かってくれ」

 

てーてー↑てーーーーーてーてー↓ ウズウズ

「振って来たのは八郎さんでしょ? ムキー」

 

「♪いーつになったらーなーくしーッたー未来にー♪」

「♪いーつになったらーなーくしーッたー未来にー♪」

アリサ、八郎堪えきれず、同時に歌い始める。

 

「結局歌うんかーい」

「結局歌うんかーい」

アリサ、八郎の同時突っ込み。

 

「いやいや、お互い様だよね。 

しかし、一体誰がこんな音楽を

良いタイミングで流したんだろう?

こんなの歌えって言ってる様なもんだよね?」

 

「そうよね。まあここは遊戯室だし

何があっても不思議じゃないわ」

 

「そうか、そう言えばここ遊戯室だよね成程」

遊戯室万能説を唱えるアリサに、何故か納得する八郎。

 

「気にしたら負けよ、でも楽しかった。

あーなんか物足りないなあ

またカラオケで思いっきり歌いたいわー」

 

「そうか、それもそうだよね。確かに伴奏終わって

1フレーズじゃ物足りないよね。

よーし暇な時に一緒に行こうか?」

 

「えっ? 八郎さん彼女がいるのに私を誘うの?

そんな事したら人気投票で最下位になるわよ?」

 

「え? 何だい? 人気投票って?」 

 

「あ、何でもないの。うーん……まあいいか

八郎さんは優しそうだし。今回だけだからね?

あ、でも彼女さんに悪いかしら? 

こんな美少女を連れ歩くなんて」

 

「いや、彼女も連れて行くよ。

あいつは一度も歌った事無いから何とか歌わせたいんだ。

結構いい声しているし、歌もうまくなると思う。

アリサちゃんが楽しそうに歌う所を見せれば

もしかしたらと思って」

 

「そうなの? じゃあ人が変わりゆく瞬間に

立ち会えるかもしれないのね? 

なんか楽しみになってきちゃった」

にっこり微笑むアリサ。

 

「彼女は内気だから、時間は掛かるとは思うけど

何とかしたいよな。それにしても

実はこの名前あまり気に入っていないんだよ。

8浪しているからさ。『八郎は名前通り八浪だー』って

近所の小学生達にからかわれたよ……

どこで調べたんだよ全く……

親も子供が増えてくるにつれて

名前の付け方がいい加減になってきてるよね。

一郎兄さんは一浪で大学受かったし

次郎兄さんは現役合格だし

四郎兄さんは四浪合格。大体名前通りになっているんだ。

次郎兄さんは字面じづらで得した気がしてならないんだよね。

もし虫の蜂で蜂郎って名前なら

現役合格出来たかも知れないのにさ」

荒唐無稽こうとうむけいな事を言う八郎。

 

「あのー八郎さん? 次郎さんの実力を認めてあげてよ。

あれ? そういえば、彼女さんと来てないの?」

 

「ああ……あいつなー。スマホアプリの

バルキリードラゴンのデイリーミッション終わるまで

出られないとかで、部屋に篭っててさ。

折角外出したんだから行こうぜって誘ったんだけどね」

 

「あーあれねー、私もやってるよ。

友達に勧めて貰って始めたのよ、私は続けているけど

多分その友達は止めちゃった。

あれね、スマホを横にして遊ぶタイプのアプリなの。

いつの間にかその友達、スマホ

縦にしていじっている事が多くなってきたもん。

悲しい気持ちになるよね。いいアプリなんだけどなー

ガチャがくっそ渋いからかな? 

まあ私ももうログイン勢だけどね。

あれ、課金してる人発狂するレベルよ

ガチャにピックアップも確定もないし

個別排出確率表記すらしない。近々サ終待ったなしね」

 

「そ、そうなのかい? 

ま、まあその辺はよく分からないけど

あいつ、あまり外へは出たがらないんだよね。

まあ、あんな事があったから。

仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね」

 

「あんな事って? どんな事があったの?」

気になる事があるとすぐに聞いてしまうアリサ。

八郎は少し考えてから語りだした。

 

「確か3年位前だった筈。

あいつの地元の戸奈利町となりまち

ヤンキーが大量に出没するようになった。 

あいつ大人しいからすぐに絡まれて…… 

まあ、そこにたまたま通りかかって

それを見つけ颯爽さっそうと駆けつけて助けたんだ。

と、いっても威勢よく飛び出したはいいけど相手は4人。

すぐにボコボコにされてしまったんだ。

でもその時

運よく警官が通りかかったお陰で助かったけどね」 

 

「八郎さん出て行ったはいいけど、やられちゃったのね? 

でもそれで、仲良くなったんだー。 

八郎さんはあまりモテそうにないもんね。

この位のドラマがなきゃ彼女なんて出来ないよね」

 

「おいおい。アリサちゃん、顔に似合わずの毒舌かよ。

レディなんだからもう少しビブラートに包んでくれよ。

……まあ全くその通りなんだよなあ……情けない話だが。

でも流石アリサちゃんは先輩の娘さんだけあって鋭いね。

そして、後で分かった事だけどそいつら

当時目指していた大学の学生も混ざっていたんだ。

年は遥かに下なのに先輩だったんだ。悔しかったよ」

 

「推理クラブに入ってるもん当然よ。

後ビブラートに包んじゃ駄目よ。

オブラートに包まなきゃ。

ところで、どうしてヤンキー達は急に発生したのかな」

 

「それがよく分からないんだよ。

しかし、当時5浪中の男に彼女が出来るとすれば

アリサちゃんの言う通り

こんなドラマでもない限り絶対ないよなあ。

同期は大学とっくに出て、就職も結婚もしてるんだ。

今ようやく大学生活を始めた人間とは雲泥の差だよね。

で、何人かが嫁さん紹介するから来いよって言われ

合いに行ったら失礼だけど

お世辞にも美人とはいえない人で

彼女と比べたら誰も敵わない。それで思ったよ。

こんな底辺に舞い降りた美人、

絶対大事にしなきゃなってね」

しみじみと天井を見上げながらつぶやく八郎。

 

「あらまあ惚気のろけてくれちゃって。ご馳走様。

そう思うなら、絶対留年はしちゃ駄目よ? 

なんならアリサが勉強教えてあげようか?」

上から目線。生意気な小5である。

 

「はい、よろしくお願いします。先輩」

それに引き換え、平身低頭な八郎。

 

「突っ込まないんだ……そこ……

まあ、若干私の方が精神年齢は高いけど。

そこは小学生に教えて貰う様な事は無いぜ!

って決めてほしかったなあ。

さて、アリサももう一仕事するかな? 

もう一匹位ここに隠れているかしら?」

 

「え? 何の話?」

 

「隠れユッキーよ」

 

「ああ、あれかー。

確か最高で半額になるらしいよね。

更に全部見つければ、賞品も出るらしいし。

確かオーナーの顔写真付きのマグカップ

10万円らしいね。でもこのホテル広いし

コンプリートは難しいんじゃないんかな?」

 

「へえ半額かあ。しかも10万円まで貰えるって

すごい太っ腹よね? 色々な所を見回りたくなるわね! 

更にやる気が沸いてきたわ。正義の味方の勤めも果たせて

お金まで貰えるなんて一石二鳥よね」

アリサが目を輝かせる。

当然オーナーの顔写真付きマグカップには一切触れない。

仮に貰ったとしてもその瞬間に叩き割られるであろう。

 

「えっ? 正義?」

 

「こっちの話!」

 

 その時。 

遊戯室に、また誰か入ってきた。

一度見たら忘れない長い顎髭、ロウ・ガイだった。

つかつかと歩き、ダーツ的の前に置いてある矢を取り

瞑想する。そして、それを額に近づけ

ぶつぶつとなにやら念仏を唱える。

 

「アブラカタブラルータアズラナカ

ハルータアクヨノンモケポイダョシ!」

 

 そして目を見開き、ボードに投げる。

クワッ!

 

「ハァアアアアアアアアッ」

 

ドスッ!!

見事、中央の赤い丸に命中。

 

「おおーロウ・ガイやるじゃん」

アリサが拍手する。

 

「ふぉっふぉっふぉっ。わしなどまだ未熟じゃよ

これは初めてやるのじゃが

なかなか面白いもんじゃのう。

ところでこれはこういうやり方でいいのかの?」

 

「そうだよ、初めてにしては筋が良いから

本気で修行すれば世界狙えるわよ」

しかし、アリサも当然ダーツの事は良く知らない。

 

「アリサちゃん、初対面のお爺さんに対して

老害と言っては駄目だよ」

八郎が叱る。

 

「ちがうもん。八郎さんは大きな誤解をしているわ。 

このおじいさんの本名がロウ・ガイって名前なんだって。

さっき廊下で声掛けて来て、少し話したんだよ」

八郎は、ロウ・ガイの事を知らなかった為

老害と言ったように勘違いしたようだ。

 

「あ、そうなのか。知り合いなんだ。

アリサちゃんかなりの毒舌だから初対面の人にも

平気で老害呼ばわりしたのかと思っちゃったよ」

頬を掻く八郎。

 

「あれ? 八郎さん」

アリサが声をかける。

 

「ん? なんだい?」

指に絆創膏が巻いてある事に気づくアリサ。

 

「指、どうしたの?」

 

「あ、これかい? バイト中にちょっとやっちゃってね。

まだバイト先変えたばっかりで慣れてなくってね。

いやいや良く気づいたね

まあ大した事はないよ。かすり傷かすり傷!」

 

「へえ。ならよかったわ

でもアリサはそんな悪い子じゃないよ。

それに八郎さんとだってまだ会って間もないのに

アリサの全てを知った気にならないでよねっ」

両手を腰に当て、顎を前に突き出して怒るアリサ。

 

「そうだよね。ごめんね」

八郎は素直に謝る。 

 

「でもさー初めてでいきなり真ん中に当てるって

年なのにすごいよねー」

 

「言ったそばから……年なのに、は毒舌じゃないかな」

八郎の的確な突っ込み。

 

「ありゃ……」

口に手を当てうろたえるアリサ。

 

「あはははは」 

 

「ふぉっふぉっふぉっ」 

和やかな空気が遊戯室を包む。 

ところが! アリサは気付かなかった!! 

アリサは!!! 引いてはいけない引き金を!!!! 

引いてしまったのだ!!!!!

ロウ・ガイが、静かに語り始めた……

頼んでもいないのに……

 

「ふぉっふぉっふぉっアリサよ

嬉しい事を言ってくれるのう。 

あれは、40年も前の話じゃ。いや41年前か? 

いや46億年前じゃったかも? 

と、ともかく若かりし頃のわしは

中国妙技団の専属料理人をしておった。

そこの団長がの、先代が逝った後、後を継いだのじゃが

齢は、なんと15歳じゃったのじゃ。

先代までは国内のみを営業先にしておったが

そやつは海外進出を提案した。

それからは、中国だけでなく韓国、インド、日本にも

訪れた事が有るのじゃよ。

若いのに中々グローバルな考えを持っておったのう。

 そいつがの営業先で、その地域の料理は食べたくないと

わしが作る料理でないと

ヤダヤダァと言って聞かなくてのう(///照///)

妙技の腕は、間違いなく中国一なのじゃが

わがままで困るのう そう思うじゃろ? 思わない? 

わしはそう思うのじゃがのう。価値観の違いかの?

それでの、あれは上海公演の時じゃったか? 

いや香港だったか? うーむ思い出せん、まあいいか? 

……いや、よくないぞい! 情報は正しく伝えなくては

わしまであんな奴らと同じになってしまうぞい。

ウーム。た、確か香港公演の時じゃ。うん、間違いない。

曖昧あいまいじゃないぞい、確かな記憶じゃよ。

何じゃその目は? う、嘘じゃないぞい。

そいつがの、わしにこの中国妙技団 秘中ひちゅう 

先代からの一子相伝いっしそうでんの極意までも…… 

もしも、その技の権利に値段が付くとすれば

数千万は下らぬ筈じゃよ。そんな技を

わしの料理中に何気なーく。

 

「ねえねえ。ガイ、ほら見て。今日はこんな技だよ」

 

などと見せて来たのじゃよ……本当に

いつまで経っても子供のような奴じゃった。じゃが

じゃからこそ柔軟な考えをもっておったのじゃろう。 

先代を超える量の新しいオリジナルの妙技を編み出し

妙技団を大きくしていった。

直接技のやり方も教えられたりもしたのう。

その時のあやつの顔は、俯瞰ふかんで見ても

誰をも惹きつける魅力があったのう。

何時じゃったか? 幾つか技を教えてもらった後にの

 

「ねえ。ガイ、舞台に出てみない?」

 

と誘われ。一度だけ、一匹狼の料理人

ウルフ・ガイという芸名で妙技団の舞台に

立たせてもらった事もあったのじゃ。

料理をしつつ、妙技を披露するというスタイルでな。

初舞台にも関わらず、観客から拍手喝采を浴びたのじゃ。

嬉しかったのう、そして気持ちよかった。

ほんにいい思い出じゃった……

その舞台で披露した技の中にの

狙った的に的確に確実に当てるという妙技もあった。 

わしは今、その妙技を使ったのじゃよ。

腕は鈍っていないか心配じゃったがの」

……どうやら終わったようだ。

 

 

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私が書いている小説です。

現在2話執筆中です。絶対書き通します!

 

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