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警察署霊安室

警察署霊安室「夜船さん許してくれえええええ……ハッ? ここはどこだあああああああ?」

味噌門太は警察の霊安室で目を覚ました。

 そう、彼は生きていた。転落の際、衝撃で少量の尿を漏らしてはいたが、それ以外は平気へっちゃらだった。

彼の生への執着は凄まじいな。暗闇になり舞台から落ちる時に本能的に放尿して、その凄まじい放出力の勢いで少しでも地面に衝突する衝撃を和らげようと考えたのだろうな。天晴である。

だが、残念な事に彼は、尿を殆ど出し切った状態であった。故に少量だった為、下着と床を汚した程度で終わったが、

【膀胱全開フルバースト状態】

であれば、一時的に空中を浮遊出来る程の勢いを出せたかも知れない。そう、何せ彼は、おしっこの達人なのだから……! その上、これと言った後遺症も無く、すぐ仕事に復帰する事すら出来る程である。相変わらずのガバ検死である。

まあ考えてみれば舞台の高さは結構高いとはいえ3m程。その高さから落ちて死ぬ方が運が悪い。

だが、彼を検死した鑑識の美薬虎音。彼女は脈を決してとらない。それは彼女は死体を見ただけで何人もの被害者の死を当ててきたから。

だが、どういう訳か前回のホテルの事件と今回の司会転落事件では偶然立て続けで外してしまったのだ。

そのどちらもアリサと関係している。これが何か彼女の観察眼を狂わせる様な影響があったのだろうか? そこまでは分からぬが……今までは彼女の経歴に一切の傷が無かった為、自由な髪型や一般の鑑識にはない特権を与えられてきたが、これ以上そういうミスが続く様なら一般の鑑識に格下げされるかもしれない。そんなリスクがあったとしても彼女が脈をとる事をしないであろう。

脈をとる事は、男性と付き合うと同じで、人生で一度もした事がない。何故そこまでそんな厳しい縛りを続けるのか? と聞かれたなら虎音はこう返すだろう。

「長い事やっているガル。その一流ならば、ちょっと見ただけで分かるガルよ♡」

とな。確かに正確に分かっていた時期もあった。だが、前回と今回の2回連続で外れる様になった。

それでも彼女は脈をとらないだろう。何故なら、彼女の名前は、美薬虎音。

【みやくとらね→みゃくとらねえ→脈取らねえ】

なのだからな!! 名前とはそういう物なのだ。この物語を創設せし神が、その人物の性格、行動までもを決定、限定、制限してしまう程に強制力が高い物。

故に伊達や酔狂でなく、この人物に相応しい役目を全うする為、明確にする為に、神が授けたという重要な物なのだ。 

仮にこの名前でうっかり脈でもとろうものなら、彼女は憲法違反で逮捕となる。いや神法違反であった。失敬。更に神裁判所の地下室で厳しい拷問も待っているとか待っていないとか……おお……口に出すだけでも恐ろしい……それに前回の被害者である真田行照代と言う女性の事を覚えているだろうか? 前話で毒入りの野菜を食べ瀕死になった女性である。実はこの名前にも秘密が……彼女は、

【真田行照代→まだいきてるよ】

という名前であった為に、倒れていたが生き返り、そのセリフを言う為に立ち上がり、物語に残った。だから彼女がもし寿命以外の原因で死んでしまったら当然神法違反で逮捕である。

そう、とりたくてもとれないのだ。神にこんな名前を賜り生まれてしまったばかりに……悲しき定めに立ち向かった鑑識。

鑑識として当然の【脈をとる】というテクニックを縛った上での検死作業は生半可な洞察力でなくては出来ない。

それを今まで難なくこなしてこれて、長き間鑑識のリーダーを張っているこの女。間違いなくこの宇宙で世界一優秀な鑑識なのだ。

 ところで、なぜ彼がここに運ばれたのかを一応語っておこう。

警察署に遺体が安置される場合、主に突然死や不慮の事故などで亡くなった人が死因や亡くなるまでの事件性などを捜査する為、引取りまでは警察署の霊安室に安置される。

事件性があると分かり次第に解剖へと進む訳だが、その死体引き取り前に目覚めた為に何とか間に合ったのだ! 虎音は死体が大好きである。現場で沢山の人が見ている所では思う存分見る事が出来ない。故に碌に検視をせず、取り敢えず死亡しているとだけいい加減な報告をし、後でゆっくり霊安室で死体を眺めつつ検視する予定だったのかもしれない。これは長年活躍している彼女のみが与えられた特級鑑識特権の一つだ。

そんな彼女特有の権限のお陰で、司会は解剖され、お漏らし癖があるという事が世界中に気付かれる前に助かったのかもしれない。

「一体ここはどこなんだろう」

門太は、起き上がり歩き回る。

「うーん。え? きゃあああ」

それを居眠りしていた見張りの女性が気付き驚く。

「あ? 人だ。ここはどこなんですかぁ?」

間抜けな声で尋ねる。

「死体が動いたー」

「死んでないですよ! 生きてます生きてます! ほら足もついてますし……ありゃ……また漏れちゃってる……」

下半身に意識を向けた時、自分の下着が濡れている事に気付く司会。

「え? 漏れちゃって? 下半身を見ながら言っているし、もしかしておしっこが漏れちゃったんですか?」

「ち、違うんです! モリモリです! そう! 元気モリモリィ! です!」

「はあ。下半身がモリモリって……ちょっとお下品ですよ……」

「ああああああそう言う事ではないんですうううう」

「本当ですか? じゃあすぐに知らせますね」

「誰にです?」

「医師です、解剖する為ですね。もうすぐ貴方を引き取りに来る筈だったんですよ」

「えー嫌ですよ」

「ですから息を吹き返したという事で連絡するんですよ。安心して下さい」

「あーよかった。ところでここは?」

「警察署の霊安室です。あなたは死体として運ばれてきたんですよ。鑑識の方が、

「舞台から落ちて確実に死んでるガル」

ってすごい剣幕で仰っていたので……それを信じてここに安置していました」

「そんな事が……確か……そうだ! 白川のネタの後、点数が表示される前に暗くなって……! そうだ! 後ろから夜船さんの声が聞こえたんだ!」

「夜船さん?」

「はい。僕の元奥さんで、一昨年とある理由で別れたんだけど、1週間前に彼女が自殺したって内容のメールが夜船さんのお兄さんから来て……」

「へえ……良く分かりませんが……」

「そんな、今はこの世に居る筈のない彼女の声が、後ろから、そう

『まだ好きなの』

って言う声が響いたんだ。

暗くなったあの時に……ひいいい……今思い出しても怖いよおおおお」

「しっかりして下さい」

「はぁはぁ……すいません……もう大丈夫です」

「落ち着きました? じゃあ会場までお送りします。もしその件でカウンセリングが必要であれば、精神科医に連絡いたしますが?」

「いや、そんな暇はないよ。会場では大勢のお客さんが僕の司会を待っているんだ」

ほほう? まだ仕事する気があるというのか? 中々仕事熱心な男である。

「そうですか? では体のどこか痛くないですか? 検査の為に病院に寄って貰いますが」

「大丈夫ですよ。結構心配性ですね。でも多少痛いとしても病院には行きません。早くいかなくちゃ。それより、下着の替えと何か飲み物が欲しいな。汗でびしょびしょで……寝汗かな?」

汗と言うよりは……おしっこのせいで汚れたのだろう?……いや、まああれも汗みたいな物だな……そう言う事にしておこう。そして、またもおしっこの元を供給する気か? 飲まなければ出さずに済むのに……不思議な生き物だな……司会と言う種族は……

「そうですか? 分かりました。では、更衣室で着替えして頂いてから自販機に寄ってから会場へ行きましょう!」

「何から何まですいません……」

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「待っててくれよ観客達いいいいいい」

ダダダダダッ

味噌門太は車から降りて会場内に戻ってきた。そして、舞台を目指し走る。それをアリサが発見する。

「あっ司会さん? 生きてたんだ!! 良かったー。おーい!」

その声に足を止め、舞台の下にいるアリサを見る。

「あれ? 6番の子じゃないか? 駄目だよ抜け出しちゃ! 舞台上に戻って! 早く!!」

「あのね? 残念だけどもう私が、もう2位以下との圧倒的な差をつけての優勝をしたのよ。戻るのがちょっと遅いわよ!」

息を吐く様にすんなりと滑らかに嘘を突くアリサ。

「優勝? 君がかい? おめでとう! ……でも、君なら納得だね。凄かったもんなあのネタは。

僕ね、ビデオに録画されている筈だから君のあのネタを何回も見直して勉強しようと思うんだ。色々と芸人の知り合いはいるけど、その中でも君のネタが一番面白かったからね」

「え?」

ちょっと顔を赤らめるアリサ。

「実は僕もお笑い芸人だったんだ。あ、今もか……でも、いつの間にか司会の人って言われる様になっちゃって……もう誰も芸人として……そう【勇敢メガネ】の突っ込みとしては誰一人見てくれないんだよね……まあお笑いの勉強とかもここ5年位一切していないから素人同然かな……でも、僕も人をあんな風に笑わせたい。そんな気持ちが君のネタを見た時に湧き出てしまってね。相方のメガネサトシと連絡を取って基礎から勉強し直しだ」

「勇敢メガネ?」

「僕達のコンビ名さ。相方と二人で2日掛けて考えた最高のコンビ名だ」

「そうなんだ(そう言えばこの人元銀行員だもんね。そこから勇気を振り絞って私達の世界に入って来たんだっけ。だから、勇敢……か……)」

ベテラン芸人の風格を漂わせ話すアリサ。」

「そして、僕も20000ポインツを超える様な凄いネタを自分で作りたいんだ。だから、あのネタをお手本として繰り返し見て勉強させてもらうよ! 第12回目は僕も選手として出場したいな」

司会はそんなアリサの嘘をあっさり信じてしまう。まあアリサも健闘はしたから一切疑い様がないな。

「よ、よせやい」

照れ隠しでぶっきらぼうなセリフで返すアリサ。

「じゃあお別れだね。また来年もあのキレのあるネタを披露して欲しい! そして僕もライバルだ!」

「はいっ!」

「相変わらずいい返事だよ! 気合が入る!!」

「で、今から帰る所なのよ。達者でね!……あっ! そう言えば暗くなった時に落ちたでしょ? あれって誰かに押されたの? カメラの映像見たけど暗かったからはっきりとは見えなかったけど、どうしても押された様には見えなかったのよねー。ねえ、思い出せる?」

早く帰りたいのだが、もやもやした事が一つあったので聞いてみるアリサ。

「うう……」

だが、黙りこくってしまう司会。

「あれ? どうしたの?」

「……誰にも押されてなかったよ。そうだよ……暗くなったせいで僕がバランスを崩して落ちてしまっただけだよ」

ぬ? 何故か霊安室で話していた事を言っておらぬな。一体なぜだ? もしここでその事を言えば、アリサが真犯人の行ったトリックに辿り着けるかもしれないと言うのに。彼なりの理由があるのだろうか?

 しかし、この司会の言葉で既に皆さんは気付いたであろう。

犯人は白川で間違いないという事を。

しかも、アリサが急ごしらえで放ったあの言いがかりの様な推理の殆どは当たっていたという事もな。

本来アリサがかっこよくこの話をして犯人を追い詰めて逮捕と言う流れになる筈であったが、この様子ではその機会は既に失ってしまった様だ。

ウーム……仕方ないな。代わりに私が語らせて頂こう。

 

私の書いている小説です

リンク先はブログより4話ほど進んでいます。先が気になる方はご覧下さい。

https://estar.jp/novels/25771966

 

https://novelup.plus/story/457243997

https://ncode.syosetu.com/n1522gt/

 

真の優勝者決定

「と、まあこんな話だ……?」

「wwwww」

「おいテメエ! 何笑ってやがる? すぐさま死ねよ!」

「健やかに真っ直ぐに生ぎたい!! ご、ごめんw真面目な話の最後に、みそは耐えられなかったw」

「まあ言われてみればそうだな……だがネタでもねえ所で笑われるのはイラつくな……まあ下半身が地面にめり込んでるようなガキだ。しょうがねえ許してやらあ」

「ちゃんと出てるよ!!」」

「ふう、疲れたぜ……だが断っておくが、それでも俺はあいつを殺してはいない。そこの所はしっかりしておきたいんでな。それに証拠が一切ないよな!?」

「ふうん、これでも殺すつもりがないってのはお人好し過ぎるわ。妹さんが自殺未遂までしたんでしょ? もう確定的に明らかね。でも最後のみそおおおおおおって何?」

「あいつの名字だ。味噌って言うんだ。忘れちまったか?」

「そうか……でも何か間抜け」

「いわれて見りゃそうかもしれん」

「ねえ、白川さん? もしよかったら最後の叫びの部分、味噌から轟に変えて言ってみて?」

「何でだ?」

「そっちの方が迫力がある」

「必要か?」

「必要」

必要ではない。

「では……こほん……と、轟きいいいいいいいいいいいいいい!」

「す、凄い……やっぱり迫力が違うねえ。それにこのやり取りで文字数稼ぎまでできちゃったし。一石二鳥ね♪」

「文字数稼ぎ? 何だそりゃ?」

「しらない」

「そうか」

お、おおおおそういう事だったのか……アリサはこの小説の為に文字数を増やす事を覚えたのだな?

私は一度もその技術をアリサに教えた事はないのに、彼女自身でその道を開拓し、正しい道へと歩いて行ってくれている……私は感動してしまった。

「でもこの迫力……これでもう白川さんが犯人って言うのは揺るぎないわね? 間違いなくやっているわ。刑事さん捕まえて!」

「何でそうなるんだよ!」

「乙女の勘よ!!」

「滅茶苦茶だなこりゃ……よく考えてみろよ。俺はあいつに決して触っていない。勝手に落ちただけだ。

これで殺人罪になるのかよ?」

「確かにそうです。司会のジャケットはレザージャケットで、もし軍手などで触れたとしてもその跡がくっきり付くような素材で、それでも指紋どころか軍手の跡すら付いていないとの報告でした。舞台上の方も全員調べましたし、物的証拠がない上に、今までの話はほとんどアリサさんの言いがかりです。

彼の優勝が確定して、それを止めるようなタイミングでマイクを奪って始めましたよね?

まるであなたの私欲で、白川さんが受け取る筈の賞品を自分の物にする為に始めた推理ショーの様に感じましたし……確かに根負けして自白みたいな事は言ってました。ですが、彼は、

「俺の負けでいいよ」

としか言っていませんよ?

自白と取っていいのか難しい問題です。これだけで捕まえる事までは出来ないかもしれないですよ?

それに初めて聞きましたがアリサさんの人の事を見通す不思議な能力の話を信じて、弱気になって嘘の自白をしてしまった可能性もあります。

これだとちょっと話を聞いて釈放って感じになるかもしれませんよ?」

何故か白川の肩を持つ竜牙。

「ほう、この刑事さんは話が分かるじゃねえか」

確かにそうだな……突然犯人は白川だ! と、マイクを司会からひったくり叫び散らす行為は、見た人間に良い印象は与えない。

「でもリモコンの……」

「それも彼がリモコン操作している所を目撃でもされていない限り駄目だと思いますよ」

「それに俺が笑いを取って、停電するかなんて誰にも分からんだろうが! 狙って停電するまでの電力を消費させるなんて事は俺には出来ねえよ。全て偶然なのさ」

「でも、出来なかったらそれまで、出来れば実行するって意気込みでこの計画を実行したとしたら?」

「そんな分の悪い賭けなんかしねえよ。この大会は年に一度しかねえんだぜ?」

「それでもそれに賭けた。年に一度しかない大会のどんなルールかも分からない予選を難なく勝ち抜いて、決勝の前に冷房を全開にして、あのタイミングで大爆笑を取り、あの大きな機械を作動させて停電させる。で、暗闇に慣れる為に目を閉じておき、暗くなったら真っ直ぐに司会に近づいて、触る以外の何かをやって落とした。

意図的にね……これが私の考えに変わりは無い!」

「またそれか……触る以外の何かって何だよ」

「今はまだ分からない。でも、そこさえ分かれば犯行は十分に可能よ」

「ちょっと待って下さい! 白川さん何で一回戦の前半は黙っていたんですか? 大爆笑を取るなら最初からネタ披露して顔を覚えて貰った方がいいと思いますよ」

「ああそれは簡単よ。鎌瀬さん覚えてる? 私達が休憩している間、会場のお客さんは、途中停電があったけれどプロの芸人のネタを一時間も見ていたのよ。そのプロ達はドッカンドッカン笑いを取っていた筈よ」

「それがどうしたって言うんだい?」

「白川さんはその温まったお客さんが、決勝1回戦の序盤で、電源が落ちる程の大笑いは起こせないって判断したのよ。

それで1回戦の前半は動かなかったの。実際起きなかったし」

「あっそういえば! 酷いよね、ここの運営。素人も混ざっている挑戦者達が、急に出されたお題に答える様なネタをやる前に、しっかりとネタ合わせしたプロの芸人の漫才を一時間も見せるなんてさ」

「そうよね。後、私達のネタを見て無理な様なら白川さんが動き出すって計画だったのかもね。

決勝の8人の誰かがブレーカーを落とせる程のネタを言えばいいだけなんだから、白川さんが無理にネタを考える必要性は無かったのね。

でも、そうもいかなくなったのね」

「ど、どういう事ですか?」

「それは、私の20000ポインツのネタでもブレーカーが落ちなかった事よ。そこから焦り始めて、白川さん自身も動き始めたという考えが自然ね。

流石にそこまで微調整は出来なかったみたい。結構大きめの笑いが起きなければ停電しない様に設定したんだと思う。

恐らく私の20000ポインツってのは20000人分のポインツだと思う。今満員の3万人位が入っているから、あのネタで会場の3分の2のお客さんに認めて貰ったと思うんだけど、白川さんの、停電した時のネタは、表示される前だったけど、私以上のポイントが表示された筈よ。その前に壊れちゃったからその真実は分からないけどね」

「そんな……なんて事だよ……あの土壇場で、停電の事を考えながら、アリサ兄さんの上を行く得点を取ったってのかよ……芸人としての格が、違い過ぎる……」

膝から崩れ落ちる鎌瀬

「ハッ!! 鎌瀬さん買い被り過ぎだぜ? そんな事ねえから安心しなよw俺はただの普通芸人だよ。

どう考えても長さといいクオリティと言いこのチビの面白い☆☆☆3連星ネタのが上だ。

考えても見ろ! 一年に一度しかない大会の決勝で、本気で競技に臨みつつ、同時にあらかじめ暗くなる事を想定し目を瞑って置き、偶然大爆笑を取り、その時の機械の作動電力でブレーカーが落ちて偶然停電が起き、その後すぐに司会の所に歩いていき何かをやって落とすだあ? マルチタスクにも程があるだろ! バカも休み休みに言いやがれ」

「そ……うだよ。そうであって……ほしいよ。

だってこのアリサちゃんも化け物だし、白川さんもそれに似たような化け物なんて……僕は、エリートだと思っていたのに……余裕で優勝できると信じ込んでいたのに……」

「残念ね。世界は広いのよ。この私よりも上の人もいるんだし」

「ああ宇宙言語を全部マスターしようとしているっていう子か……ググッ……ウッ……ガッハァアアア」

吐血する鎌瀬

「あんたと司会との因縁話。あんな事されて全て許した? ちょっと考えずらいわ。 

これは聞いていないし想像だけど、あんたの笑いをのスタイルをあいつにくたされた。

だからこの観客の中で、自分の定めた規定値までの笑いを取るが出来なかったら、司会の言う通り自分の実力不足を認め、その殺人は起こさない。そう決めていたのよ! これはあんた自身との心の誓約。だから大爆笑を取り、停電になった瞬間にあんたは【許された】と判断し、実行した訳よ。心置きなくね」

「ハッ!! まーた想像かよ……全く感性豊かなチビだぜ。芸人は人を笑わせるのが仕事だ。殺人が仕事じゃねえ!」

「でも思ったんだよね? テレビであの司会が死んだニュースを見た妹さんは、司会の呪縛から解放されるって、新しい恋愛を、そして、新しい芸の道を歩み出してくれるって。そして、元の元気で面白い妹さんが戻ってくれるとね」

「はあー、水掛け論だな。一向に進まねえ。分かったよ。ちょっと可愛いが、飛んでもねえ言いがかり娘だったぜ。

……そんなに賞品が欲しいならくれてやる。そうだろ? それ目当てで言いがかりを付けたんだもんなw

それで許してくれるな? じゃあ俺はもう帰るぜ?」

「本当? それに可愛い!w?♡言ってみるもんね! 司会さん! 白川さん優勝辞退するって♪可愛い私に賞品を下さい! 全て」

変り身の速さよ……刑事っぽいアリサからもう素の小学生に戻っている……やはり彼女の目的は賞品のみだったという事か……しかし、アリサは幸運1なのに、こんな幸運を手にした。

あの言いがかりで、優勝出来なかった運命を捻じ曲げたのだ!! だがその反動で後で恐ろしい事が起こらないか心配になってくるな……

「いいんですか?」

「しゃあねえよ……このチビの「許さねえ」は、本当に怖え。大人の俺でもビビっちまったぜ。じゃあ俺は帰る」

舞台から降りようとする白川。

「ばいばい」

何という事だ……白川が受け取る筈の賞品をアリサの物にしてしまった。

「ちぃょよっぅつぉむぁつぃぬぁすぁい」

ぬ! 蘇我子が怒りながら何か言っているぞ早速翻訳せねば……

訳「ちょっと待ちなさい」

「ん」

白川もその声で階段の途中で停止する。

「はい? あ、蘇我子さん!」

「くぉるぅえうぁづぉうゅゆぅぅくぉつぉぬぁぬぉ? くぉぬぉくぉうぁぅゅゆぅしぃぃうしゅうぁぬぃぅふぅすぁすぃくぬぁいうぁ?」

訳「これはどう言う事なの? この子は優勝者に相応しくないわ!」

「うぇ? ぬぁ、何を言っているのでしょうか?」

おや? 彼女は先程蘇我子としっかり意思疎通出来ていてお題を受け取ったと思っていたが、どうやら違った様だ。そう、今まで蘇我子の言葉を一切理解せずに感覚でやり取りしていたという事だ。確かに女性はコミュニケーション能力が高いと言う。だが、ここまで感覚で応対出来るとはスゲエ―なあ。

「でももうすぐ白川さん帰るし。受け取れるのは私しかいないの! 分かった? 蘇我子?」

「ぬぅぅぅぅぅ」

ぐぅぁくっ、スィィョンヴゥォルルィィィ

しょんぼりと落ち込み席に帰っていく蘇我子。すると? 

「あのーすいません」

「ん?」

「竜牙さんの後輩の刑事さんね?」

「何か用ですか?」

「実は暗闇の時の映像が見られるようでして、持ってきました!」

「何だって!?」

狼狽える白川。

「そういえばこの会場の様子録画してるんだっけ?」

「そうです」

「でも停電の時もカメラは動いてたの?」

「そうですね、内部にバッテリー積んでますから。テレビ局の本格的なカメラですよ」

「そうか、で、それをテレビでその様子を流すんだったっけ? あっ! じゃあ司会のお漏らしシーンも残ってる訳か」

「そうです」

「じゃあ生前の司会の事をテレビ紹介する時、「これが生前の司会です」ってあのお漏らししている瞬間のシーンがを使われるのね……胸が熱くなるわ……!」

「どうしてそうなるんですか? そこだけは絶対に使いませんよ……不謹慎な……でもこれで詳しい所を見られますね」

床に散乱した血液を拭きながら怒る鎌瀬

「じゃあ見てみよう」

そして、刑事の持つタブレットでそのシーンが映し出される……が、黒い画面にアリサの顔が映るだけ。

「期待させておいて……ん?」

 舞台を斜め上から見下ろす形で撮影された映像の様だ。

舞台の縁には、うっすらと蛍光灯の様な物が淵に並んでいて、暗くても舞台だと分かる様になっているが、その上の縁付近でも、蛍光マーカーの様にうっすら光って浮いている2つの物が見える。二人とも右腕にその光る物が付いている様だ。

「うっすら光ってるのは多分腕章ね。蛍光塗料が塗ってあるみたいで、そこだけ光って見えるわ。数字は……見えないわね……あっ! 司会も腕章を付けてるね。その後ろに居る犯人らしき人物も司会と同じ位置に腕章があるって事は、同じ向きで並んでいるって感じかなあ?」

画像は動いているが、二人は一向に動かない。当然暗闇のせいで顔ははっきりしないが。すると……

「あっ! 急に司会が飛び降りた! 私が見た通りだよ。本当だったんだ!! で、犯人らしき後ろの人は、焦る事も無く選手の立ち位置の方に戻って行っているわ。何で急に飛び降りたの?」 

「これで完全に分かったな。あいつが勝手に飛び降りたって事がさ! 後ろの人物が例え俺だとしてもな。まあ俺じゃねえけどな」

「でもこの人は何であんな所に行く必要があったのよ」

「さあな? 大方暗闇で混乱でもして、やみくもに移動していたら、偶然あそこに行っちまって、偶然司会が居たから、あっすいませんって感じで戻って行ったんだろうなw」

「そんな事があり得るの? 暗いのに躊躇いなく真っ直ぐ動いている様に見えるけど……」

「そうなんじゃね? 可能性はゼロではないよな? それ以外何がある? 説明して見せろ! 暗くても良く分かる。この影の人物、司会を押す訳でも叩く訳でもねえ、明らかに殺意らしい物は無い感じだぜ?」

「そ、それは……」

「諦めろ! じゃあな、チビ。俺は帰る!」

そう言い残し、堂々と舞台から降りていく白川。

刑事も、周りのスタッフや選手達も誰一人彼を止める様子はない。

「ちょっと逃げちゃうよ? 犯人」

「……」

無言で首を横に振る竜牙。

「すうううううううううううう」

ぬ? アリサ?

「絶対に諦めないからな!!!!!!!」

クッ、突然大きい声を出すでない!!!

「wwバイバイww御為倒おためごかしのお嬢ちゃんww」

「ハァハァッ……おためごかし? どういう意味? 最高に可愛いって意味かしら? まあ後で一分以内に調べて見よっと」

こうして釈然としないながら大会は終了した。しかし、賞品を貰っているのに、白川を捕まえようとしていたな。

その事はすっかり忘れ、悪を退治したいと言う気持ちが先行してしまった様だ。

「ゆ、優勝は4番が棄権したため、6番の鏑木アリサさんに決定しました!」

-------------------------End of battle------------------------

Alisa win? 55経験値獲得! 1000000YEN獲得!

Item drop! One year's worth rice and TV appearance right with Syuzo Matutani

アリサは約束通り、賞品の米と賞金100万そして松谷修造とのテレビ出演の資格を獲得した。

「うおおおおおおめでとおおおおおお」

「フンガーフンフンフンガー!」

「やるじゃないか面白かったぞおおおおお女の子おおおおお」

「グレーゾーンの白川も面白かったぜえええ!」

観客は歓声と拍手を送る。

「そうだ! お米花咲米とだまってい米どちらにするんですか?」

「そうねえ」

アリサはぜいにくんの絵が描いてある方を前にしてカバンを顔の前に持ってくる。そして……

「おい俺のぜいにく! どっちで仲間を増やしたいんだい? 花咲米なのかい だまってい米なのかいどっちなんだい?」

「さあ選んで下さい」

「ふむ。花咲米は、その炊き上がりの香ばしさと歯ごたえは筆舌しがたく……黙ってい米は炊き立てでも美味しいが、冷めても独特の風味を残し、私の舌を楽しませてくれる……故に……どっちもー」

「駄目ですよ!」

ドドドッ 会場が盛り上がる。

「えー」

(あれっ? うけた♡嬉しい!)

「本大会第1回優勝者の中村ぜいにくん本人も、この優勝インタビューでこのネタをやってまして、ものすごく盛り上がりましたが、それでも片方しか貰えなかったんですからね! 実はあのネタをぜいにくんがやった事が切っ掛けで2種類の米の選択式にして一種類しか貰えない様にしたんですよ。

当初は2種類全てあげようって話だったんですが、運営がぜいにくんのネタを見てから片方にした方が面白いのでは? って話になりまして」

「へえ」

「2代目以降の歴代優勝者も、お約束な事なので初代王者の真似をして先程の件を行い盛り上がっていました。6番のアリサさんは、その事はご存じなかったにもかかわらず、しっかりと伝統を引き継いてくれました。

もう10回目になる優勝者限定の恒例行事です。皆様! 優勝者に今一度拍手お願いします!」

パチパチパチ

「うそー! そんな秘密が? なかなかいいセンスじゃん!」

「で? どっちですか? 決められないのであれば花咲米にいたします」

「はーい」

こうしてボケ人間コンテストは幕を閉じた。

 

私の書いている小説です

リンク先はブログより4話ほど進んでいます。先が気になる方はご覧下さい。

https://estar.jp/novels/25771966

 

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み、みそおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

「あれは二年前の秋。司会の所に嫁いだ妹の夜船が、俺の所に遊びに来ていた」

ホワンホワンホワンホワーン

ーーーーーーーーーーーーーーーーー白川のマンションーーーーーーーーーーーーーーー

「なあ夜船! この写真に何か一言付けてみないか?」

「兄さん……私はもうお笑いはいいのよ。門太さんは専業主婦でいてほしいって言ってくれているし」

「そうか、あんな奴でも甲斐性はあるんだな」

「うん。最近はビデオを見せてくれるよ」

「なんのだ? いかがわしい物か?」

「違うよ。そうそうそのビデオ、今日持ってきたけど見てみる?」

「はあ? いかがわしくない奴だったら別に見ねえよ」

「wwまあまあそう言わずに」

そう言いつつビデオデッキにカセットを差し込む。

「おいおい勝手に……」

パッ

『うわああああああ! 何て何て何てぇ奇想天外なネタなんだああああああ』

ダダダダダッ

ぬ? これはあの司会が舞台上を走り回って叫んでいるシーンだな。

「ん? 途中からじゃねえか?」

「違うよ? これテレビ局の編集さんにまとめて貰ったんだって」

「個人的に見るビデオをプロに編集させたのかよ……」

『さあ! ポインツを表示して欲しい!!』

突然場面が切り替わり、舞台の縁ギリギリに立ち、客席に中腰になり、両手をY字に広げつつ、マイクを向けるポーズをしている。

「何だよこれ……何のポーズだありゃ? 子供かよ……」

「これね? 彼が司会をしていて、ネタが終った後のシーンだけを繋げたビデオよ。かっこいいよね……盛り上がると、舞台上を凄い速さで駆け巡るの。光と同じ速さよ!」

「なわけねえだろ? そんな光さんを侮辱する様な嘘を突いて……光に土下座して貰いたいぜ。もういいよ。だが肝心のネタをカットするのか……そんなシーン繋げてもちっとも面白くないな」

ビデオを止める白川。

「あっ、ここからいい所なのに……」

「もういいってwニュースでも見るか」

リモコンでチャンネルを変える。

「でもかっこいいと思わない?」

「まあお前の旦那だからお前はそういう気持ちになるだろうな。残念だが俺は見て損した、気持ち悪い、こいつ死なねえかなあ? と思いました」

「そっか」

「しかし、あいつどうやってお前と出会えたんだよ」

「ああ、彼が兄さんのいない時に電話かけて来た時があって」

「え? それをお前が対応したのか?」

「そうよ。貸していた本を返してくれって内容で、その時に兄さんライブ巡業で戻れそうになかったから知らない筈よ。で、私が代りに届けに行ったの」

「そうだったのか……で、あのスケベジジイが夜船に一目惚れして、しつこく言い寄って来たと……」

「半々」

「は? 半々だぁ? そんな表現初めて聞いたぞ? どう言う事だよ?」

「半々は半々!」

「クッ……お互いイーブンで惹かれ合ったって事かぁ? 嘘だろォ? 俺が女だったとしてもあいつには一切惹かれんが……しかもアレ、俺よりも一回り歳が上のゴミジジイだぜ?」 

「私の旦那さんよ? アレ呼ばわりしない!」

「す、すまん。だが、ゴミジジイはいいのかw」

「それも駄目! 突っ込みが追いつかなかっただけでしょ」

「だよなwでも、お笑い芸人の妹なんだからしっかり突っ込んでほしかったぜ」

「さっきも言ったけどお笑いはもういいの!」

「残念だぜ……でもよぉ……他にもいい男は居たんじゃねえか?」

「そうでもない……かな……」

「クッ……そうかい(年上の男に惹かれるって事は、死んだ親父の影を重ねちまってるって事か?)」

「そう言えば最近門太さんに怒られちゃったのよね」

「ん?」

「今日も持ってきたけどこのお弁当の事でね。ちょっと食べてみて?」

「おお唐揚げ弁当じゃないか! 大好きだぜ!!」

「召し上がれ」

「頂くぜ」

もぐもぐ

「どう?」

「ん? この唐揚げとっても旨えなあ。うわあああああ御飯が進むよ!! パクパク。うーん。こんな鶏肉初めてだぜ!」

「でしょでしょ?」

「こんな旨いもん食えてあいつ幸せだなあ……? (。´・ω・)ん? お前。怒られたって言っていなかったか? 何で怒られたんだ?」

「それがね、門太さんはお弁当のおかずでは鶏肉のから揚げが一番好きって言っていたのよ」

「ほう、だからしっかり入れたんだろ? 別におかしい所なんか無いじゃないか」

「そうそう。でも実は鶏肉じゃなかったんだ。蛙を鶏肉の様に料理して入れたの。で、それを伝えたら突然オエーって言いだして」

「ブッ」

「ちょ、ちょっと!! 汚いよ!」

「ご、ごめん。でもよお……」

「美味しいって言ってくれていたでしょ?」

「だがその……あの蛙だろ? 緑のよお、ヒロスィのTシャツに付いていて喋るよお」

「そうよ! でもしっかり洗ったし、兄さんも美味しいって言って食べたでしょ?」

「旨かったけどよお……でも怒られてもしょうがなくねえか? 鳥じゃねえし……詐欺じゃねえか?」

「兄さんも同じ事言うのね」

「仕方ないと思うけどな? で、それを話したらあいつも吐いたのか?」

「オエーって口で言っただけ、実際は吐いていないわ。とっくに胃の中だし」

「そうだよな。正に胃 (井)の中の蛙ってか?」

「ちょっと違うかも」

「そうだなw字が違うかwだが蛙って鶏肉に似た味がするって聞いた事あるな」

「そうよ。私ね、本物の鶏肉を料理するのは嫌なのよ」

「何でだ?」

「最近ねネットで知ったんだけど、鳥のエサに、別の動物の肉骨粉が使われていて、人体に危険だって言うのを知ってね」

「え? 肉骨粉ってなんだ?」

「ちょっとうろ覚えだから調べてみるね。ええと……出て来たわ! 牛・豚・鶏から食肉を除いた後の屑肉で、脳、脊髄、骨、内臓、血液等を加熱処理の上、油脂を除いて乾燥させ、細かく砕き、粉末とした物だって。なんか気持ち悪いよね?」

「おええええ……脳とか内蔵? 蛙食った後に聞く話じゃねえな……ガチで気持ち悪くなってきた。そんな事初めて知ったぞ!?」

「私も最近まで知らなかったよ。でも、大切な旦那様にそんな餌を食べた鳥の肉を食べさせる位なら、そう言う危ない物を食べていない自然の中で育った蛙さんの方がまだ安全かな? って思って頑張って素手で捕まえたのに……芸人は体が資本だからね」

「苦労は分かるが、苦手な奴は居るからな……蛙はな。まあ夏は大量に獲れるだろうしな。しかしお前が池で蛙を捕まえてる姿を想像したらなんか健全でかわいいなwでも、可愛い嫁を怒るか?」

「うん。でもこれで彼は蛙アレルギーでは無いって事が分かったから、これからも遠慮なく蛙を出し続けるわ。もっと美味しく出来る気がするし。騙しきって見せるわ」

「そうか、頑張れ(夜船の住んでる付近の池から全ての蛙が消失して蛙の鳴き声が聞こえないと言う噂が流れちまうかもな)」

「じゃあ私そろそろ帰る。兄さんも食べ物の事しっかり調べて、栄養つく物食べてね」

「おう」

ガチャン

「ハァ……お兄さんは悲しいぞ……そこまであいつの体を気遣ってやるなんて」

一回り年上だが、同期の味噌門太と妹が相思相愛という事を知ってショックを隠せぬ白川。

「パーンってなりましてね頭が」

ドッ

付いていたテレビから、ガハハ本舗の久本正美が得意の一発ギャグ【頭が……パーン】を放っていた。そこそこ受けている? いや違うな。テレビなので、笑い声は編集で付け足したのだろう。毎回同じ笑い声なので簡単に分かる。子供騙しにもならぬな。

「チッ……このババア何で人気あるんだぁ? 全く面白くねえのによお。まあ寝るか……嫌な事は眠って忘れるに限る」

ーーーーーーーーーーーーーーー数日後ーーーーーーーーーーーーーーー

ピンポーンピンポーン ピンポンピンポンピンポンピンポン

「朝からうるせえなあ。一回鳴らせばわかるっての」

ガチャ

「うっ兄さーん」

「夜船? どうした?」

「うえーんうえーん」

「埒が明かねえな。取り敢えず座れ」

「ぐずん」

「とりあえずお茶でも飲んで落ち着け。今、淹れてくる」

ダダダダダッ

「メソメソ」

「持って来たぞ」

コト

「ありがと」

ごくごく

「落ち着いたか? どうした?」

「捨てられちゃった……別れようだって……」

「あ?」

「門太さん、他に好きな人が出来たって」

「嘘だろ? 誰だよ?」

「確かガハハ本舗の久本正美さんよ」

「マジか? た、確かあのババア、お笑い芸人で60そこらだよな……ネタも95%が下ネタで、身も心も腐った完全な汚れ芸人!! 確か門太が37だろ? あんな女に俺の妹は負けたって言うのか?」

「兄さん兄さん……私もう生きていられない……」

「何言ってんだおめえ? まだ22だろ? あんなおっさんよりももっといい奴は幾らでもいるだろ! 落ち着け。ほら、ハイちゃんだ」

白川の飼っている猫だ。ロシアンブルーか? 灰色の毛並みが特長の猫だな。

     △△

「にゃん(=^ω^=)」

「門太さんはまだ好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい」

妹はそのハイちゃんの毛を一本ずつむしり恋占いを始める。

       △△

「にゃにゃ?(=OωO=)」

驚き戸惑うハイちゃん。

「おい夜船! 何やってるんだ! 換毛期はとうに過ぎて、これから冬になるってのに……そんな事したら風邪ひいちまうだろ!」

「好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい 好き―嫌ーい……ん? 大丈夫よ」

「おい止め……」

「好き―」

ブチッ

「嫌ーい」

ブチッ

「好き―」

ブチッ

「嫌ーい」

ブチッ

「好き―」

メキッ

「嫌ーい」

ミシッ

         △△

「にゃすけ……て(=XωX=)」

一本一本抜くのが面倒になったか? それとも早く結果が知りたくなったのか? 指でつまんで数本をまとめて抜く様な雑な占いに変わる。そしてみるみるうちに床は灰色の毛が広がり、ハイちゃんは丸裸になる。

「ニャーックション! チクショウスットコドッコイッテンダイバカニャロメキャットニンデンテヤンデイ」

「ほらくしゃみしちゃってるぞ! 駄目だって! やめるんだ! 動物虐待だって」

「好き―嫌ーい好き―嫌ーい……あら? もう毛が無いわ。じゃあこの髭で……」

と、ハイちゃんの顔に手を近づける……

「夜船!!!」

パチン

「いたい」

「す、すまん。だが髭は流石に可哀想すぎるだろ! それにハイちゃんの髭は6本だ。って事は目に見えて分かる。結果は同じだ」

白川も体毛を抜いている時点で止める事は出来たであろうが、妹の鬼気迫る表情に見ている事しかできなかったのだ。

「ごめん……ごめんね。私どうかしていて……」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー翌日ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「門太に文句を言ってやらにゃ気が済まん」

「暴力は止めてよ?」

「おう」

バイクで門太の住むマンションに向かう事に

「この辺だよな……あれか」

ダダダダダッ ガチャ

「おい! テメエどういうつもりだ!」

「白川か……その前に靴を脱いでほしい!」

「うるせえ! 夜船は納得しているのか? あんな年齢2,5倍増量の出っ歯ババアが再婚相手でよお!!!」

「してはいないと思う。だが僕は正美様を愛してしまった。年齢は関係ない。あの美しい出っ歯……芸術だ……」

「ババアに様付けかよ……病気だな……」

「正美様、逆から読んでも、正美様」

「駄目だこりゃ。丁寧に俳句になってやがる。季語は何だろうな? 正美様の様を、サマーと考えて夏か? ……って何言ってるんだ俺は……しかしこいつ、マインドコントロールでも受けているみてえだ。クソ!!」

「どうしました? 騒々しいですね」

「ん?」

「あら? お客様がいらっしゃる……ほんっとにびっくりした! よく来たわね、いらっしゃい!」

ピンク色のワンピースを着た、おかっぱ頭で前歯が異様に伸びていて、スラッとした体形の老婆が奥の部屋から姿を現し挨拶をかましてきた。

「こ、こいつは……何て美しい」

「白川君。この方が正美様ですよ。美しいでしょ?」

「白川さんですね。よろしくお願い致します」

「確かにババアだが……しわくちゃで醜悪な顔だが……前歯の輝き【だけ】は今まで見た何よりも美しい……」

その前歯は、ダイヤモンドの輝きを想起させる程。

「パーン」

「うわっ? 何だこいつ!!」

「白川さんに美しいって言われて……嬉しくって感動でパーンってなりましてね頭が……」

「前歯だけな? 顔は褒めてねえからな? それテレビでもやってるけど一体どういう意味だよ」

「そのまんまですよ? なったんですよ。パーンって、頭がね」

「どこがだよ! しかし、こいつも何かの宗教を? 駄目だっ、ここにいたら俺までおかしくなりそうだ。今日の所はこの位にしておいてやる!」

「まあ、もうお帰りですか? これから美味しい手料理をやったらムンムンかましたらあと思っていましたのに……」

「そんな気分ではない」

「その前に折角来たんだ。君に1つ仕事のオファーを出す。メールしとくから確認しといてくれ」

「ん? なんだ? まあいい」

バタン

白川は自分の部屋に戻ると彼のパソコンに一通のメールが届いていた。それを確認すると……

「仕事の依頼か? 今昼は最高……? どんな番組だ? 検索してみるか」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「夜船! 今度門太がMCの番組で俺も出演する事になった。何か恨みの言葉でもありゃあ伝えてやるぜ? それともこのボイスレコーダーに吹き込んで直接伝えるか?」

「へえ、何でそんなの持っているの?」

「俺の秘密兵器さ」

「ふーん。じゃあ、録音してみようかな?」

「おう、じゃあ5秒後に録音だぜ(奴が絶望する様な言葉を言ってやれ)」

ピッ

「まだ好きだったのよ? 愛していたの……」

ゴン

「え……?」

予想外の言葉にうっかりボイスレコーダーを机の上に落とす白川。

「おい……夜船……恨みの言葉だっ……て言ったろ?」

「そんなの無いよ。私の気持ちはずっと門太さんの物」

「そうか」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

言葉数は少ないが、白川の中で凄まじい何かが芽生える。

「ちゃんと伝えてね」

「そうする」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー撮影当日ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「やあ白川君! 僕が初司会する事になった番組、今昼は最高を盛り上げてくれよなああああああ?!」

「今昼は最高……久本正美の冠番組じゃねえか? お前……もしかして……」

「僕は家庭よりも仕事を優先する人間だった様だ。彼女が僕を成長させてくれた。そして今度、あのボケ人間コンテストの司会の話も来ているんだ。凄いだろ? これで僕は更なる栄光への道へと進む事が出来るんだあああああ!」

「……それはよ、お前の笑いの実力ではないって事に気付いてねえって事だぜ? もうとっくに無くしちまったんだな……芸人としての矜持って物を」

「笑いだけが全てじゃない」

「そうか、そう言う考えもあるな……そうだ……妹はな、お前にこんな事を言っていたぜ?」

「何だい?」

「これだ」

ピッ

録音したデータを再生する。

『まだ好きだったのよ? 愛していたの……ゴン』

「ひ、ひいいいいいいっ!!」

ぬ!?

「おい……てめえ……何だよそれ……死ねよ!」

全くその通りである。

「あ……(しまった! 水が出てしまった……だ、大丈夫……ほんのちょっとだから……)」

と言いつつ股間を見る。

「どうした? 何だ急に下なんか見て」

「な、何でもないよ……だって……今の声、幽霊みたいじゃん。不意打ちは卑怯だよ? ああ気持ち悪!! 僕は幽霊とかお化けは大の苦手なんだよ! 鳥肌立っちゃったよ……」

「は……あ? お化けだと? 気持ち悪いだと? ぶっ殺すぞ!」

かつては愛した筈の女性の声を、気持ち悪いとは……この【カツラお漏らし男】は一体どういう神経をしているのだ? 

「確かに言い過ぎたと思うが、そんな事で死にたくないよ。ああ……一刻も早く正美様の声を思い出さなくっちゃ!!」

そう言いつつ携帯を出し音声データを再生する。

『パーンってなりましてね頭が』

「ハァー癒される……これなんだよなあ……」

「……」

「お前、あの婆さんに唆されてあいつを切ったって事か?」

「何の事かな?」

「この番組の司会になりたきゃ結婚しろって迫られたんだろ? それで、好きでもないあんなクソババアと……」

「半々」

それは、妹に門太への気持ちを聞いた時、正に聞いた、彼女特有の言葉だった。その言葉に白川は目を見開く……そして……

「……夜船と同じ事を……言うなあああああ!」

「悪い……彼女の口癖だったね……いつの間にか伝染っちゃったみたいだね……」

「俺は帰る。気分が優れん」

「待って欲しい! 君はそれでもプロなのか? お客様は君を見に来ている。まさか何もしないで帰るのか? そんな事は許される筈がない」

「何とでも言え」

帰りの歩みを止めず、一瞥もせずに返す。

「君は0点の芸人だ! もう芸をやる資格はない! この事はお客様にしっかり報告させてもらう! ああ……心を込めて謝らなくては……不安だぁ……今一度正美様の声を聴かなくては」

ピッ

『パーンってなりましてね頭が』

「ああああ……助かる……ありがとう正美様……」

「……」 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あら? 兄さん。もう収録終ったんだ?」

「あ、ああ」

「早かったね。夕食の支度するね……今日は蛙と鮒のリゾットだよ。あっ、ねえそう言えば門太さん何て言ってたの?」

「ん?」

「ほら! 私の声、聞いて貰ったんでしょ?」

「ああ (まずいな……)」

「どう言ってたの?」

「ああ……喜んでたぜ?」

そういいつつ、右手で左の肘を掻く様な動きをする。

「嘘」

「……」

「兄さんって、嘘を突く時、肘を触るよね?」

「……! 俺にそんな癖があったのか? クソ! よく見てるな」

「兄妹だもん。ねえ、本当の事を言って?」

「……」

「お願い」

「じょ、冗談だとは思う。あいつも芸人だしだからさ……だから話半分で聞けよ?」

「うん」

「幽霊みたいじゃん、気持ち悪っ……て、言っていた……」

つい本当の事を話してしまう白川。

「そっ……か」

「だ、大丈夫だろ? 芸人の妹だもんな? だよ、な? そう……だろ?」

「そう、ね。ごめん……ちょっと夕飯は作れないかも……」

「だだだ大丈夫大丈夫。一食位食わんでも平気へっちゃらさ」

「じゃあ、ちょっと、休ん、でくる……」

まるでゾンビの様な歩き方で部屋を出て行く夜船。

「やばかったか? 嘘を突き通すべきだったか? いや、どうせ見破られる。あいつは鋭いからな。ま、まあ一晩寝りゃ何事も無かったって起きて来るよな? 大丈夫だよな?」

ーーーーーーーーーーーーーーーー30分後ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「夜船? ちょっといいか?」

心配になり部屋に来た白川。まず、ノックをする……が、返事はない。

「ん?」

ドアは開いていた。

「入るぞ?」

だが、人の気配は無い。

「夜……船? どこ行った?」

一抹の不安。無意識に玄関へと走る。

ダダダダダッ

「靴は……ある。じゃあどこだ?」

ドッキン ドッキン ドッキン ドッキン 

早鐘の様になる心臓の音を必死で抑え、耳を澄ます。

……ジャー

「風呂? 水の音? あっ!!!!!!!」

ダダダダダッ ガチャ

そこは、最悪の光景が広がっていた。

なんと手首を切った妹が、浴槽に左腕を入れ、うつぶせになっていた。

浴槽内の湯が、赤色に染まりつつある。まだ切ったばかりか? 

「馬鹿野郎が!!!!!」

慌てて腕を水から出し、白川のワイシャツの袖を引きちぎり、妹の肘の付近を締め付けるように巻き、心臓より高くする為に風呂のイスの上に置き仰向けに寝かせる。そして病院に電話。10分後に救急車が到着する。

「何があったんですか?」

心配そうな救急隊員。

「失恋って言えばいいのか? いや違うな 全否定されたんだ……」

「全否定? 何と申したらよいか……」

「いいんだ」

10分後病院に着き、診察室に搬送される。

「失血による気絶です。早期発見のお陰で輸血の必要は無いでしょう。ですがためらい傷が多く……取り敢えず暫く入院して頂ますね」

「そうですか……くそ、傍にいながら……」

「いえ、発見が早かったからこの程度で済んだんですよ!」

「夜船……そんなに思い詰めてたのか……気付いてやれなかった……くそ!!」

病室で眠る妹の左腕を見る。包帯で覆われているが相当の傷がある筈である……

すると……

「門太さん?」

「お? 目が覚めたのか」

「ここは天国? じゃあここで待ってればきっと門太さんに会える……」

「しっかりしろ! ここは病院だ!! お前は天国には行って居ない。それに天国でいつまで待っていてもあいつは来ない。あいつは地獄行きだ」

「門太さん居ない? 門太さん会いたい……」

心ここにあらず。

ゴゴゴゴゴゴゴ

「味噌さん♪門太さん♪味噌門太さんったら門太さん♪」

自作の、門太を讃える歌を歌い始める。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「門太さんは英雄♪ 門太さんはすばしっこい♪」

「すばしっこいだぁ? ああ、舞台上を走り回ってたなあのゴミ。そのビデオを見せられてそう言うイメージが付いたって事か……」

「門太さん今何してるの……生きてるの?」

「くっ」

何気なくテレビを付ける。怒りを抑えなくては……気を紛らわせなければ……その思いからだろうか? だが、それが逆効果であった。

『その言葉にまたもうグサッてなりましてね……ホント衝撃でしたね』

ドドッ

テレビでは久本のネタが流れ出す……お約束のテレビ編集での笑い声が、虚しく病室内に響き渡る。

「チッ」

すぐにテレビを消す。訪れる静寂。すると、今まで起こった全ての事が次々と脳内に蘇ってくる。

『半々』

ゴゴゴゴ

『パーンってなりましてね頭が』

ゴゴゴゴゴゴ

『ああああ……助かる……ありがとう正美様……』

ごゴゴゴゴゴゴゴ

「夜船は門太に、門太は正美に……どいつもこいつもヤンデレばっかじゃねえか……」

「来世では……絶対に……一緒に……なろうね♪」

彼女は、目を覚ました後、真っ先に門太の事を話し出し、そして、彼を未だに愛しているという事実、そして、60近い老婆に横恋慕された事を認め、それをとっくに諦め、それでも、輪廻転生後、再び関わり合いたいという願望を語る始末……打ちひしがれている白川には更なる追い打ちだ……

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

「み」

「みそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

私の書いている小説です

リンク先はブログより4話ほど進んでいます。先が気になる方はご覧下さい。

https://estar.jp/novels/25771966

 

https://novelup.plus/story/457243997

https://ncode.syosetu.com/n1522gt/

 

アリサの推理

「じゃあ言ってみろ! お前の考えって奴を」

「それは……妹さんの事?」

少し自信なさげに答える。これは彼女の一か八かの賭けだった。

「い、妹が何なんだ? 全く的外れな事言ってるぜ?」

と言いつつ、右手で左肘を掻く動作をしている。そして、語気が、憎悪が、目に見えて増している。

「分からない。でもあんた控室で妹さん結婚したって言ってたけど、その相手が死んだ司会なのよ。

何となく感じた。全くの勘だけどね。

でも私、勘だけは鋭いの! あなたが司会を恨むとしたらそれしか思いつかないわ」

誰もがあてずっぽうと思うその言葉に、白川だけ顔が引きつる。アリサは更に続ける。

「そして、火村さんが初めてネタを披露した時の事だけど、司会が今の嫁さんは、火村さんのネタを好きって言っていたの」

「そう言えば言っていましたね」

「今のって、言葉に違和感があった。だっておかしくない? 奥さんが好きだって言えばいい所じゃない? って事は、前の奥さんがいたって事なんだと思う」

「確かにそうですね」

「ちょっと言い間違えただけじゃねえか? 大舞台の司会をしていて気分が高揚していてさ」

「そう思ったんだけどその後、司会が落ちた後の話なんだけど、鑑識の人に頼まれて刑事の代りに私がスタッフと選手に聞き込みしてた時、司会の今の奥さんの名前が久本正美って言う事を知った。そこで前の奥さんがいるって言う事を知ったわ。名前までは分からなかったけどね」

「それだけの事で司会の元嫁が俺の妹って言うには根拠としては弱すぎるぜ」

「話は最後まで聞け! 司会は、1週間前に誰から聞いたかは知らないけど、元奥さんが自殺したって噂を聞いて怯えてたって話なの。

この二つから推測するに、司会は前の嫁さんを捨てたんだと思う。それで今の嫁に乗り換えた。

それを知って、自分が捨てたショックで彼女が自殺したと思い込んだのかもしれない。

恐らくそう思い込んでいたから、罪悪感であずにゃんの幽霊ネタを聞いた時にお漏らししたんだと思う。それだけ臆病になっていたのよ。

そしてそれを司会に教えたのは間違いなくあんたよ? 本当は生きているのよね? でも、司会の心を弱らせる為にそういう嘘を流した! どうやって落としたかは考えている途中だけど、そこまで弱っているなら、押さなくても別の何かをすれば落とせると思う」

「切っ掛けは何だ?」

「そうね……あんたが控室で妹さんの事を話した時に、少し悲しそうだった気がする。その時の顔で簡単に分かっちゃった」

ほう……この子を彼女にしたら浮気は絶対に出来ないな。一瞬でばれる。

例え万物調査を使わなくても、いとも容易くな……

「ぐううっ……す、すげえなお前……ほぼ正解だよ。まあ俺が奴を落としたってところ以外はな。只者ではないと思ってはいたが……何て奴だ……まあ隠しててもいずれバレちまうからな、白状してやる。あいつの元嫁は俺の妹で間違いないよ。そして、久本に乗り換えた。それも間違いない。で? それで司会を殺したってか? 俺はそんなに器が小さい男じゃねえよ」

アリサの華麗な推理? で、全く的外れだと言っていた筈が認めてしまった。

「器が小さい? そうかしら? ここまでの事をされれば復讐してもおかしくないと思うけど?」

「……」

無言の白川。しかし、それこそがアリサの指摘が正解と言う事を物語っていた。

「でも私も捨てただけじゃ弱いと思うの。もう一つ何かをされたから殺した。あんたって頭いいから、余程の事がない限り殺しまではしないと思うの。だから、よっぽど酷い事をされた筈よ。だけどこの際それをあれこれ当てる必要なんてないわ。

だから無理に話さなくてもいい。きっと思い返したら辛いと思うから。

でもね、私が疑う切っ掛けになっちゃったんだから仕方ないよね? 私ね、色々な刑事ドラマを見てきて、犯人が犯行に至るまでの動機を沢山見て来た。100? いいえ、1000以上ね。だから簡単に分かった、あんたは、司会を激しく恨んでいる」

最早、言いがかりとも言える程いい加減な推理。だが、白川の表情を見る限り、周りもそれが真実なのだと思い始める。

「だがこれで、はい! 僕がやりました! なんて言えねえだろ? ほとんど推測ばっかりで穴凹だらけの推理でよ。

それじゃ限りなく怪しいが、決定打に欠ける。止まりだぜ? それにお前さっきの質問に答えてないぜ? 何であんなリスクのある犯行を選んだ?」

「そんなのは答えるまでもない」

「な?」

「どうでもいい事なの。それに、時間の問題なのよ……」

勝利を確信してはいるが、俯き加減で悲しそうに言うアリサ。

「何がだ?」

「私には特殊な能力がある」

「はぁ?」

「ママから貰った調査の力。万物調査って書いてあったらしいわ。私自身は見ていないけどね。ママも同じ能力を持っててね。それで私を見て貰った時にそういう力があるって知った。これね、便利なんだ……何でも見通せちゃうのよ。なーんでも。回数は限られているけど時間経過。そして、食事を摂ったりクラスチェンジすると回復して再び使える様になるみたいなの。この辺はまだ検証中なんだけどね。でも私実感したわ。さっきチェンジした時に完全回復した感じがしたの。だから準備万端! 触れた物の全てを見通す禁断の力……そこから分析すれば、何であんなリスクを取ったかも何もかもはっきり分かる筈よ」

 これはアリサのハッタリである。皆さんは知っていると思うが、この能力は、犯人かどうかまでを見極められる程万能ではない。調査対象者の能力の数値を正確に表示するだけで、現在思っている事までは見通せない。

だが、まだそこまでこの能力に詳しくない白川には効果があるのではないか? と、一か八かの賭けに出たのだ。

そして功を奏したか? みるみる内に白川の表情が青ざめる。

「はあ? て、てめえ……まさかあの時……本当に七瀬の情報を【見ていた】って事なのか!? ……そう言えば……」

『わーきれーい。虹色だあ』

「そうだ……」

『へえ、国家公務員で、ブラックダイアが嫌いなんだ』

「あんな事も……それにハッ……予選でも……あいつ!!」

『糖質の海に……溺れろぉ!!』

「あれも……そうだ! こいつ……もの凄い饒舌に戦っていたが、それは実はあの筋肉女の内部情報を見ていて、弱点を知っていたんだ……それで……言葉だけで倒せたんだ……」

白川は、アリサが七瀬を見ていた時に言った不自然なセリフを思い出す。そして更に予選でのアリサと早乙女の戦いも連想する。

「確かに具体的に言っていた。考えてみりゃあれだけ具体的な情報を全て想像だけで言える訳はねえか……そうか……あれはイメージじゃなく、本当に見えていたんだな? ……嘘だろ? こ、こんなやべえ奴にそんなチート能力が備わってるってのか? どんだけ危険人物なんだよおめえ……そんな事知ったら誰もおめえなんかと付き合おうと思わんぞ?」

「大丈夫だよ。天使みたいに可愛いんだから」

「自分で言うか? だが、可愛いだけでいつでも内部を知られると分かったら誰も寄ってこないぞ? すでにこの場面は録画されちまってるしな。これでもうお前の事を彼女にするような男は現れねえw」

「カットすればいいのよ映像をね。さあ、おでこを出しな」

「何でそんな事……そんなの嫌だね。そうそう、俺は女に触られると蕁麻疹が出る奇病を持っている。だから止めてくれ」

「あら? 取って付けた様な嘘ねえ? まるで私に触って欲しくないような言い方ねえ? 何かやましい事でもあるのかしらぁ?」

「ぐぐぐぐ」

「身の潔白を証明したいなら、自分から触ってくれってお願いして来る筈だけど? ほらお願いしなさい! 

『アリサ様。どうぞ私の下賤な能力めをその美しい瞳でご覧下さい』

とね♪」(正直この人の能力は絶対に見てみたい!! どんなスキル持ってるんだろ? どの能力の値が高ければあんな力が出せるの? それに彼の持っているだろう未知のスキル名を見てワクワクしたい!! 思いを馳せたい!! 推理したい!! 全て暴き出す!!!!!! 逃がさん!!!!!!!!!)

湧き起こる知的欲求が自然とアリサの左手を白川の額へと伸ばす。まあ身長190の白川は、おじぎでもしなければ、届かないからな。

しかし、私も彼の力を知りたいのだ。だが、今はスカウタァ故障中だ。私自身では彼のステータスを確認する事は出来ぬ。

今はアリサに頼るしかないのだ。果たして上手くいくのか?

「待て待て! 大体俺の事を見通せたとして、お前以外の周りの人間は見えんのだろ? そんなの誰が信じる? お前がその能力を使っていた時、俺も近くにいたが何も見えなかったぞ? って事は、そのデータ、お前にしか見えないんだろ? だから言いたい様に言いがかりやでっち上げも出来ちまう。証明出来ねえだろ?」

「人間ね? 分っていても真実を耳にした時、表情の変化が起こるのよ……それで十分……さあ何度も言わせないで? ぺこりしな!」

アリサの能力は純粋にその人間の力や特技を見るだけだ。だが、そこからアリサの生まれ持った推理力で色々分かってしまいそうな気もするのも事実。さて白川はどう出るのだ?

「ふふふw逃げ場は無いよ?」

アリサは、白川に左手を向けた状態で、1歩、2歩、と近づく。心なしか白川の顔が更に青ざめている様な気がする。

「はあー、分かったよ。俺の負けでいいよ」

なんと?

「あら? 意外とあっさりね(ちょっと惜しい気もするなあ。見たいのに……)」

「そうでもないさ。はらわた煮えくりかえってるぜ? ポーカーフェイスなのさ、俺は!(くそっ……しかし何でこいつ突然こんな事を言いだした? 考えろ、こいつが突然俺を犯人扱いし始めた切っ掛けは何だ? ……ん? まさか? 成程そう言う事かwwよし、これで揺さぶってみるか)」

「じゃあ何であんな事をしたか言いなさい」

「その前にお前に一つ質問だ」

「え?」

「この世の中には死んではいけない人間ってのは本当に0なのか?」

「そ、それはそうよ」

アリサは、その瞬間、ホテルイーグルスノーでお世話になった、斉藤隆之の顔を否応なしに思い浮かべる。そして、震え声の返答で、動揺が白川に伝わる。

「お? お前……まさか動揺してるのか!? そうか、お前にもそういう人間が少なからず居るみてえだな。

こんなに若けえ内からそこまで恨みを持つ人間がいるのか? 興味あるぜ」

「あ、あれは……あのホテルのじじいは、人間じゃなくてモ、モンスターよ」

強ち間違ってはいないが、れっきとした人間である。まあ○○○ではあるがな……おっと口がすべった。今激烈やばいネタバレをしてしまう所であった……いかんな……自重せねば……

「アリサさん? ホテルの? あの方ですよね? 酷い言い方です! 訂正して下さい!! 彼は人間です! モンスターではないと思いますが」

竜牙もアリサに反論する。

「う……に、ニンスター」

新種の生物の誕生の瞬間である。

「人間です!!」

「う……」

珍しく真剣に怒る竜牙に何も反論できないアリサ。

「人間だろ? どうせお前に軽いちょっかいを出しただけの人間だ。

でもそいつに殺意を抱いたんだろ? いなくなればいい。消えちまえばいいってよ」

「うう……」

軽いちょっかいどころではないが、色々な嫌がらせをされ、怒りに身を任せ、顔が醜い事と、太っていて臭いと言う事を理由に、無抵抗のあの男を丸々一話分、216行に渡る長いお説教を施し、フィニッシュで【死ね】と言った。

その瞬間彼女は間違いなくオーナーに殺意を持っていた事は否定出来ない。

そのお説教を受け、涙目になって逃げて行った惨めな男の後ろ姿が鮮明に蘇る。

「誰にだって居るんだよ。それだけの事だ。なあ一殺多生って言葉知ってるか? お前にはちょっと難しいか……」

「知ってるわ。一人の害悪な人間を止めれば、代わりに大勢の人が助かる。って意味よ」

そうだ。彼女がその言葉の意味を間違えようもない。何故ならその四字熟語は、正に斉藤をお説教している時に、彼女自身が彼に使った言葉だったのだから。

「何だ……賢いな。伊達にその若さで俺を追い詰めようとしてるだけの事はあるな。なら分かる筈だ。

あいつは大勢の人を踏み台にし、のし上がりあの地位に辿り着いた。

異様とまで言える出世欲は、傍から見てても呆れちまう位にな。

その可哀想な踏み台の中には俺の大事も妹が入っていた。捨てられた直後、あいつ、飼い猫の毛を一本一本抜いて恋占いをするんだぜ?

「もんたさんは私の事がすきーきらいー」

ってな……全部抜けるまでよ……そして最後の一本は何だったと思う?」

「……きらい?」

「正解だぜ! おめでとう……ってめでたい訳あるか!!!! それ以来完全にふさぎこんでよ。

あいつは俺の妹は、素人ではあったが俺と同じ? いやそれ以上の笑いのセンスを持っていた! そんな才能の塊が、心が折れて塞ぎ込んじまった。

その上、ペットの猫のハイちゃんの方も丁度冬になったばかりでよ、毛が無くなったせいで風邪引いちまってよ」

「そんな事が……ハイちゃん……」

涙目になる猫派の竜牙。

「あいつにも女の独特の感性で、男の俺では絶対に思い付けない様な事を言う事もあった。沢山な。

そして、俺ですらあいつの才能に嫉妬する場面もあった。見ていて思ったのはもう一押しの何かがあれば、独自のネタを開花する寸前だった。恋愛、結婚? そういう物を経験した切っ掛けかもしれない。とんでもないお笑いネタが生まれるかもしれなかったんだ。

分かんねえよ? 分かんねえけどそう感じたんだ。芸人の俺の直感だ。

だが、唐突に奴は言い放ったそうだ……『別れよう』ってな……妹は顔をクシャクシャにして鼻水たらして俺に泣きついて来た。その時俺は何も言ってやれなかった……で、知っちまった……俺はいざと言う時全く頼りにならない兄なんだなって事をさ……」

「白川さん……」

「俺は別れた事をいつまでも引きずっていないで、何か別の事をしようぜ? って説得し続けた。そして、やはり芸人になるのが一番合っているんじゃないか? と思う様になってきた。

説得にも少しずつ耳を傾けてくれて、もう一押しの所まで来ていると思う。

そして、いつかは妹を芸人として育て、兄妹揃ってネタ番組やコンテストに出て、色々な賞をかっさらっていく夢を持った。あいつと別れてくれたお陰で、妹とはまた一緒に暮らせているし、チャンスはあると思う」

「私にくれたあの帽子、本当は妹さんに買ってあげたんでしょ?」

「ああそうだ。でも、我慢出来ずに一旦お前に渡した」

「何で?」

「素人ではなく芸人になったお前と戦いたくなっちまったんだ。どういう訳かな……強い奴と戦いたかったって事かもな……」

「ふーん。でも、もういらないよ。妹さんに使ってあげて」

「そうか。じゃあありがたく返してもらう。だが、受け取ってくれるかな?」

「大丈夫じゃない?」

「そうあって欲しいが……]

「ねえ、妹さんってどんな人だったの? ちょっと教えてよ」

「何でだよ?」

「好奇心よ。あっ! ついでに旦那の司会の過去も教えて!」

「おいおい……欲しがり屋さんなんだなあ。まあ、しょうがねえ。昔話をしてやるか……俺達が奴にされた事を包み隠さず話してやろう。多分奴の見る目が変わる筈さ。おっと、一応念を押しておくが、俺はそれでも殺ってはいないからな? 分かったな?」

「信じてあげる信じてあげる」

「何だよその言い方!

「大事な事だから2回言ったのよ」

「疑わしいな……まあいい。この話、長くなるぜ? 大体丸々一話分位にな! 覚悟して聞けよ!!」

「え? 丸々一話分ってどう言う事? 詳しく教えてほしいわ!!」

「知るか!!!!!」

 

 

私の書いている小説です

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優勝者決定……?

「優勝は4番の白川さんです」

ダダダダダッ。バッ! ぬ? 何の音だ?

「あっ!」

「くそっ、たったの9京点差じゃない超悔しい!! (どうしよう……このままじゃ優勝を取られちゃう……フンガーとの約束も果たせないし、修ちゃんとも会えなくなる……そうだ!)分かったわ。もう許さない絶対に!!!」

マイクを司会から奪い取り怒鳴るアリサ。因みに白川の得点の9京4点は、漢字で表さないとこうなる→90000000000000004対4である。

たったと言える差に見えないのは私だけだろうか?

「…………(>_<)」

司会が何かを言っている。だがとても小さい声で、理解できない。そう、マイクがあったから何とか届いていた声だ。

最早誰も彼女の声は誰にも届かない……

「うるせえよマイクで怒鳴り散らすな!! だが運営のお遊びとは言え、9京点差なら大差だろwwふん、どう許さねえんだ? 言ってみろw」

「目にもの見せてくれるぅぅぅ」

野獣の様にうなるアリサ。司会の几帳面な性格のせいで9問目が引き分けになったり、蘇我子が出したお題で失敗したりと色々な怒りが今更になり込み上げて来たのだろう。子供故に制御が効かないのだろうな。確かに怒虎と玄武のネタは僅差ではあるがアリサに軍配が上がっていたかも知れない。10問目まで引き延ばされなければもしかしたら優勝は彼女だっただろう。だがルールはルール。引き際をわきまえるべきであるぞ? アリサ!!

「悔しいか? でもこれが結果だ。小学生にしては良くやったよ。もっとあっさり勝ち抜けると思っていたからな。5連続先取でな。だが現実は問題が足りなくなって観客から募集するなんてイレギュラーな事まで起こった。こんなのよお前代未聞だぜ? 10年やってるプロの俺がこんなにてこずるなんて思ってなかったぜ? 褒めてやるよ! お前ならちょっと頑張ればプロの芸人になれるんじゃねえか?」

白川の言葉に偽りはないであろう。実際アリサも健闘したのだからな。

-------------------------End of battle------------------------

Alisa los……? !???

Has Alisa started a runaway? Alisa out of control! did she change the course of fate? impossible Can't happen! Error occurred! Error occurred!!

「犯人は、白川修! あなたよ!!」

ビュッ!!!!

な? アリサがおかしな事を言いつつ何かを白川に投げつける……? そして、本来

【アリサ、敗北】

とリザルト画面に表示されるその寸前、謎のエラーが発生した……のか? こ、これは? 一体何が起こっているのだ? アリサが暴走したと記されている。そして、確か白川が犯人だと聞こえた気がするが……これはどういう事だ? そして、アリサは白川を睨む。おぞましい憎悪に満ちた瞳で。この瞬間彼女はこのお話のヒロインであるという事を一切自覚していない。

よく見ると、彼に投げつけていた物は、今まで装備していた芸人の三角帽子だった。そして、鞄から取り出した撥水ベレー帽をかぶり直す! これは芸人の役職を破棄すると言う気持ちの表れだろうか?

Alisa transformed into the most suitable figure to pursue the truth 

class change! comedian→detective and HP MP recovery!

-------------------------battle restart------------------------

アリサは、真実を追い求める為に最も相応しい姿に姿を変えた? と記されている。

成程。彼を追い詰めるその為に最も相応しい職業に戻った? と言う事なのかもしれない。

そう、今までは白川に渡された帽子で、芸人に一時的に変わってはいたが、それを捨て、探偵にクラスチェンジしHPMPが全回復し、白川の勝利で終了する筈の闘いが何故か再開されてしまった様だ。

そう、芸人VS芸人から探偵VS容疑者という変化が起こりな。全く……滅茶苦茶なんだよなあ……彼女は、白川に負けてしまったと言う悔しさと、賞品を渡したくないという強い気持ちから、頭の中ではうっすらとは感じていたが、言えなかったこの言葉を、本来は小さき疑いを、全て解決してから言わなくてはいけない筈の言葉を、何一つ解決せず、本能に従い叫んでしまった。まあ試合に勝ち進み、次第に疲弊しほとんど推理する時間も無かった訳だから仕方のない事だが。

そう言う所も子供過ぎる故に引き起こされた事だよなぁ……これは要するに我慢は出来るけど今は誰も居ないから屁をしてしまえ! と、大きい音を立てて放屁するあの時の気分と同じなのか? 良く分からないが……当然アリサのそんな意図を理解出来ない観客もスタッフも全員【ポカーン】である。そして読者の皆さんもポカーンとしていると思う。

言い訳になるかもしれないが聞いて欲しい……私は、反射神経なら同世代の男性の中でも一際優れていると自負している。だが、この突然の解答編突入は反応、対応が出来なかった……申し訳ない。

まあ彼女もフンガーと交した約束が果たせない事知った事で、このままにしては居られなかったのかもしれない。

これは空前絶後の事態である。しかも、舞台上は録画もされている。これ以上に無い証拠が残る。そしてマイクで会場全体に伝わってしまった。アリサがマイクを奪ったのはこれが狙いだったのだろう。そう、突然の解答編に突入してしまった。

しかし、早乙女の時から常々表示されていて今はもう慣れてきてしまったが、何故クラスチェンジする度に完全回復するのだ? うーむ……ハッ! 分かったぞ! まさかそんな事が……だがこれ以外考えられぬ……皆さんも驚くとは思うだろうが心して聞いてほしい……これはRPGのラスボスがよく使う、第二形態に移行したという事なのかもしれない。

そう、ヒロインのアリサがだ! 例えばトラクエでも始めは魔導士の様な風貌のボスが倒れた後に、巨大な竜に変身する場合もある。その時起こった現象は、紛れもなくクラスチェンジであろう。

魔法で攻撃してきた第一形態は恐らく魔導士。そして、クラスチェンジして竜になり完全回復。

その瞬間先程使えていた呪文は全て忘れている。全く同じだな。アリサはヒロインなのにラスボスの特性を持っていたという事か?  恐るべき執念……彼女は白川に負けHPが無くなった瞬間に、探偵にクラスチェンジし白川を追い詰める! それは、身勝手なクラスチェンジ。だが、思いの力が強ければ成立するクラスチェンジだ。そして、第2ラウンドが始まったのだ。

「え?」

「なんだ? なんだ?」

「ママー犯人って何? ママー?」

「一体7にを言っているのアリサちゃん?」

「こんな時におかしいよ」

七瀬や鎌瀬も舞台袖からアリサ駆け寄り抗議する。そして。

「ちょ……アリサさん? 何言ってるんですか!!」

ダダダダダッドタドタドタ

一旦、署に戻ろうとしていた竜牙が、アリサの言葉に反応し、舞台まで上がってくる。

「私の逆歯刀の竜牙刑事さんも来たのね? 丁度いいわ! 根拠があるの」

そんなものは無い。真っ赤な嘘、ハッタリである。

「何て子なの? 全く……予備のマイク一本だけ残っていました。良かった良かったって……ああー!」

 司会が予備のマイクを持ってくるが、それも白川に奪われる。

「…………(#^ω^)」

マイクを奪われた司会が何かを言っている様だ。しかし、全く聞こえない。

「はあ?? 何言ってんだこいつ? 気でも狂っちまったか? この場面で言う事じゃねえぞ!! それにこの帽子……お前の物だろ? もういらねえよ!」 

白川もマイクで反論する。もうお笑いの戦いの舞台から、一気に容疑者VSアリサに変わってしまった。もう後へは引けない。

「本当にかぶって欲しい人は、私じゃ……ないんでしょ?」

「クッ……知らねえよ! 何の事だ? これはおめえにやったんだ。他にそんな奴いねえよ……」

「そうかしら? 私は見当付いているけどね」

「う、うるせえ……黙れ!!! それによ、今言うべきは

【白川さんおめでとう! 私なんかゴミムシ過ぎて全く歯が立ちませんでした♡】

だろ? 何なんだよ一体。それにお前自身が持ち物検査して俺の身の潔白は証明されただろ?」

「残念だけど、その持ち物の中に、犯行に使える物を持っていたじゃない? 思い出しちゃったんだ」

「ん? 何の事だ?」

「あんたの持っていたリモコンよ!」

「はぁ?」

「もしかしたらあれは、マルチリモコンなんじゃないかって思ってね。

今ではスマートフォンでも設定すれば出来るみたいだけどね。

で、何でリモコン持ってるんだろう? って思ったけど、それがマルチリモコンなら納得が行くわ」

「ただのリモコンだぜ? 俺の部屋のテレビのな。さっきも言ったけど、うっかりポケットに入れてここに来ちまっただけだ」

「どうかしらね? 調べればすぐに分かる事よ」

「それでどうすればあいつをリモコンで落とす事が出来るんだ? まさか実は人間じゃなくてロボットだから、リモコン操作で落とせたってかw」

「停電よ」

「停電?」

「そう、今日何回か起こっていたわね? それはそのリモコンでこっそり色々な機械を起動させたり……後は、エアコンの設定温度とかも下げられるだけ下げ、風速も最強にして、このビッグエッグのブレーカーを落ちる寸前までにしていた訳よ」

「それがどうした? 全く見えて来ねえぜ?」

「それプラスあの音量を計って点数にする機械が作動すれば、停電する様に調整したんだわ。多分ね、舞台上で司会を落とす為にね。あの機械、高得点になればなる程にランプが多く点灯する。その分消費電力は大きい筈よ」

「停電で落とす? まだ分からんな。適当な事言っていちゃもん付けるな!」

「それに、あの人興奮すると舞台の最前線にまで走って行ったわよね? そういう癖なのかって思ったの。現に白川さんのネタで会場内が盛り上がってた時、前まで走っていたわ」

「偶然だ」

「でも白川さんは司会と知り合いってのは知っているから、その癖を知っていた可能性もある」

「言いがかりだわ。そんな癖があるなんて全く知らん」 

「そう? まあいいわ。で、その時、疲れて息を切らしていたし、そのタイミングで急に暗くなれば、後はもう一つ位何かが起こればバランスを崩して落ちていく筈」

「何かって何だ? 曖昧過ぎるぜ」

「それは……音とか? そうよ! 会場の歓声や拍手」

「……何にせよそんな推理じゃ納得できねえぜ? それに仮に上手い事落ちても、予備電源で30秒位で復旧してただろ?」

「その短い間に犯行に及んだのよ」

「はあ? お前の推理は穴だらけだぜ? 急に暗闇になりゃ普通だれもが動揺するだろ? そんな中で、冷静に真っ直ぐ司会の元に行くなんて誰も出来ねえぜ?」

「でもあんた、ネタ披露始まってから急に目を閉じ始めたじゃない? まるで予め暗闇が来ると分かっていたみたいにね! 暗闇になってもすぐに動けるために!!」

「うっ、よく見てやがるな……だがそういう癖だ。あれはメディテーションだ。ああするといいアイディアが出る。笑いの為だよ、仕方ねえだろ? それに会場の電力はどれ位あるかなんて分からんだろ? 狙って停電させるなんざ、雲を掴む様な話だぜ?」

「うるさい! 黙って聞け! で、あんたは停電になったら目を開き、闇に乗じ近づき、何か動揺させる様な事をやって落とした。これが私の考えね」

「何かじゃなあw適当な事言ってんじゃねえぜ? 俺はあいつを突き落とす理由もないし証拠もねえ。

それに停電がそんな都合よく起こる訳ねえんだ」

「いいえ?」

「ん?」

「悔しいし信じられないけど、あんたのあのネタの直後の笑いで停電が起こった」

「あっ! そう言えば確かにそうです! 停電になったのは白川さんのネタの後に機械が点数を表示しようとした瞬間だった筈ですよ! ランプが徐々に点き始めて暫くしてから停電が起きたんです! 確かイッタックラちゃんってネタですよ」

鎌瀬はその時の事を覚えていた様だ。

「ま、まさか……あんた……予めエアコンの温度を最低温度にして、停電する寸前まで調整しておいて、試合中に自分のタイミングで笑いを起こし、その時作動した機械のランプを点灯させて停電をさせたって事か?」

火村が驚きの顔で白川を見る。

「そうなのよ……この人天才なのよ。私の20000点でも起こらなかった停電を、彼のあのネタは引き起こした……表示される前に停電しちゃったけど、恐らくそのポインツは私の上を行っていた筈……悔しいけど……停電が起こった事で、ポインツ差が正確に測られちゃったって事ね……私がナンバーワンじゃなかったと思う……思い出して? 今日何回か起こっていた停電あったでしょ?」

「そういえばさっきので3回目でしたね。で、何が天才なんですか?」

「そう、あれは実験だったの」

「実……験?」

「うん。その本番前の2回。1回目は予選の受付の時。2回目は私達が控室で休んでいた時ね。

それと昨日も2回あったらしいの。

その4回で、大体何台のエアコンの設定温度を最大にしておけば、会場のブレーカーが落ちるかを把握し、それよりも少ないエアコン台数をフル稼働状態にして調節して、最後の最後は自分のネタで停電する様にした」

「おいおい、昨日来た前提で話してるけどそんな根拠はどこにあるんだよ?」

「これは推論よ! もし4回じゃないとしても今日実際起きた2回だけでも、把握は可能だと思うし」

「確かに2回よりは4回やれば確実ですけど、最低2回でも何とかなりそうですよね……でもそれでも確実に停電を起こす寸前に持って行けるかまではわかりませんよね……」

「まあそうだけど。控室に備えてあるエアコンをいじるのは簡単だと思う。それだけでもかなりの電力を稼げる筈だし」

「まあ実際落ちましたからね」

「それに、お昼ご飯食べていた時は普通だったのに司会が落ちた後戻ってきたら、室温が18℃まで下がっていた。おかしいと思わない? でも思い出して? これは、2回戦前に部屋を出ていく時、白川さんがエアコンを止めようって言っていたのを覚えてる?」

「言ってましたね。それで僕が「余裕ですねえ」って感心していた記憶があります」

「そうそう。鎌瀬さん記憶力いいわね!」

「僕なんてそれ位しか出来ませんから……」

ネガティブ芸人鎌瀬

「そうね……そして、リモコン操作して消す様な感じだったけど、実際は温度を下げる操作をしていたんだと思う」

「あれも推論、これも推論。いい加減にしろよな?」

「でもそれが本当だとしても自分のタイミングでそんな事……」

「そう。勿論お客さんに彼のネタが受けなければ、この計画はここで終わりよ。

自分の笑いに絶対の自信がなければ出来ない計画。

当然ここに来たのは初めてって言っていたから、事前に計画していたとしてもこんな大舞台でやる事には抵抗があった筈よ? なのに……信じられないわよ……この行動力、そして自信。

あの厳しい予選も初見で勝ち抜けるか分からない。逃げ回る体力もあり、笑いのセンスまでも……で、全てを乗り越えて彼は司会を落とし切ったのよ。こんな奴……見た事ないわよ……」

畏怖の目で白川を見ながら言うアリサ。

「ちょっと待って下さいよ!! 僕達はあの時、笑いの事だけを考えて、本気で全身全霊で戦っていたんです。本当に! 本当に!! そんな中白川さんだけは司会を落とす事を第一に考え、会場の使用電力の事とか色々考えつつも、僕達よりも多くの笑いを取ったって事ですか? こんな……こんな事って……」

鎌瀬は涙を流しつつ、悔しそうに話す。

「ちょっと待ってくれwなんか悔し涙を流している所悪いが、勝手にお前が考えたストーリーを納得して、勝手に尊敬の目で見られても困るってwしかし、聞けば聞く程穴だらけで行き当たりばったり過ぎる計画だろ。そんな事を信じる奴なんていないわwもっと確実な方法を選ぶ筈だがなあ? そこまで計画立てられる天才ならさあ? こんなリスクの高い方法なんか選ばずに、もっと堅実な別の方法も考えられる筈。

そんなリスクがある計画をわざわざ実行した理由って何だよ?」

「教えてあげるわ」

何故かアリサの目に輝きが増している。そう、彼女は白川を適当に犯人扱いしたが、その瞬間に思い出しつつ出していったピースを話しながら繋げていく内に、犯人が本当に白川であると言う疑念が、確信へと変わりつつあったのだ! もちろんはっきりとまでは言い切れてはいないが、確実に真実に近づいて行っているのだ。

 

私の書いている小説です

リンク先はブログより4話ほど進んでいます。先が気になる方はご覧下さい。

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謀略の十問目……?

挿絵(By みてみん)

ほほう。これが蘇我子が提供した画像か。これは中々に激しい画像だな。だが、素人目に見ても、その迫力も勢いも凄いと感じる。これは司会も蘇我子と言う権威に負け、嫌々選んだ物ではないだろう。彼女も納得の上でのチョイスだと感じる。これは最後のお題にとして選ばれても間違い無いのではないだろうか? 正にラストを飾るに相応しいお題だ。

さあ、2人はどんな答えを見せてくれるのだ?

「さあ! 今度こそ本当に最後のサイコロタイムです。はい! 4ですね。では、アリサさんから先攻です」

「うーんうーん……ハッ! そうか……そうだったのね? 思い付いてしまった。それも簡単に……ハハハ……始めの頃はあれ程生み出すのに苦悶していた筈なのに……笑いって……こんなにも簡単に作れるのね? 皆の笑い転げる顔がありありと思い描けるわw私も芸人としての熟練度が上ったのかしら? いいえ? これはただの予定調和……私は、芸人になっていなかったとしても、これを、この最適解に辿り着いていたでしょうね。私はこのネタに巡り合う為だけに生まれて来たんだもん……紆余曲折あったけど、巡り合えた……この事実に感謝よ……! おい!! 橋田蘇我子!!!」

突然蘇我子を呼びかける。

「ふぁい?」

訳「はい?」

「お前は太っていて、年老いているしわくちゃ女だけど、センス【だけ】はある様ね? 人生の最期にいい仕事をしたわ」

おいおい……

「ぬぁぬぃいい?」

訳「なにい?」

これでもアリサは蘇我子を本心から褒めているつもりだ。だが、悪口交じりで高圧的。こんな褒め方では誰だって腹を立てる。だがこれだけではなく更に続ける。

「お前の出したお題は、歴史の教科書に今から私が紡ぎ出すネタと共に刻まれるだろう! お前が託したこのお題、最高峰まで高めて見せるわ! いける!! これしかない!! ボケ人間コンテストに新たな伝説が生まれる……! そしてぇ? 白川さん! 俺がこのお題を手にした瞬間の事をRPGあるあるで上手に例えてやろう」

「どういう事だ? 言ってみろ」

「そうだな? そう、攻撃アップ防御アップ全てを掛け、準備万端でいざ攻撃しようとした瞬間に、凍てつく波動砲が来て、全てのバフが解除されてめっちゃ悔しーと言う状況だ! フフフ……どうだ? 恐ろしいだろう? 恐れおののけぇ!!!! それにしてもよぉ? お前は、素人ながらここまでよく頑張ったものだぜ。初心者とは思えない程に強かった……な」

「あのう……ぼく一応プロです……それにその例えじゃちょっと駄目じゃないっすかねえ?」

アリサのあり得ない勢いに小声の敬語で反論する白川。

「お前はな? この私が唯一認めた男だ。誇りに思え。お前は本当に強かったよ? だが、それは、間違った、強さ、だった。

間違いは……正さねば……ならぬなッッ? そうだ! 正す以外ありえないぃぃぃぃぃwwwwこれで、このネタで、白川ァ? お前は、終わりよぉぉぉぉおお!!!!!! さあ……伝説を、その目で、刮! 目! せよ!! 喰らえええええええ!」

アリサの目の輝きが今までと全く違う。しかも、息継ぎもせずに言い切りおったぞ……どんだけ肺が強いのだ……これは、期待大だ。

「クッ、なにぃいい? この俺を……呼び捨てだとおおおおお? 今までずっとさん付けしてくれてただけにぃ!? なんかすっごく寂しいいいいいいいいいい!!!!」

白川よ……突っ込む所はそこで良いのか?

「おお凄い自信です! どうぞ!」

アリサは静かに閉眼する。そして……!

『少年時代のおおおおおぉぉぉ……』

クワッ <◎><◎> 

『司会ッッ!!!』

パチパチ

な、何とした事か……やや受けている様だが……アリサ……

「ちょ? 私はそんなに勢いよくないですよ? 小さい頃も! それに少年って……私、どこから見ても女の子ですよ? 小さい頃もガリガリ少女でこんなに太った事人生で一度もありませんし……」

「クッソwwそう来たかww……( ゜д゜)ハッ!笑ってない笑ってない」

ブンブンブン

慌てて我に返って首を振るが、白川にはかなり受けている。だが…………肝心の……客達は、今一の反応。

「フッwゆぉすぅおぅどぅるぃぬぇwガクぃぐぅぁw」

ぬ? これは蘇我子? その喋り方は間違いないか……蘇我子がほくそ笑んでいるというのか?

訳「フッw予想通りねwガキがw」

まさかこれは!? いや、そんなまさか……

「あるぅええ?? (もう少し盛り上がっても良くない?)違うの、前の司会の話!」

アリサよ、やってしまったな……確かにそれは舞台上であの大惨事を見た関係者一同は全員面白いと感じると思う。

だが、肝心の客には全く通じていないのだ。アリサなら少し考えれば分かる筈だぞ? それは、お漏らしをした司会を直接見た者でなければ笑いにならないのだ。

このネタは、アリサ以外の7人の選手と、舞台上に居たスタッフ達の集まる飲み会の席で披露すればまさしく大爆笑であろう。

確かに今それを言ったら死人の悪口になってしまうがな。それを知っている人なら最悪ブーイングの嵐になる可能性も。

だがそれでもその事を一切忘れ、堪えられる人は少ない筈。

そう、これはいわゆる【身内ネタ】だ。私は、お笑い論を語った時、悪口や自虐ネタ、下ネタはやるべきではないという事を話した。

これは、鎌瀬がこういうお笑いもある。と、アリサに熱弁していた事に対して反論した訳だが、もう一つやってはいけないネタがあったのだ。

それが、前述した【身内ネタ】だ……自分と、数人の人にしか伝わらない笑い。

同じ経験を共有した者には効果が絶大だ。だが、今は大舞台で、その事情を知らない観客達の前で、そのネタだけは披露してはいけなかったのだ。

悪口や下ネタを許容している鎌瀬ですら、身内ネタの事は一切言っていなかった。

そう、悪口や下ネタを言う芸人を例を挙げて数人紹介していたのに、そんな彼でも身内ネタを言っている芸人を一例すらも挙げなかった。まあ身内ネタでブレイクする芸人は少ないと思うから、鎌瀬が例に上げようにも彼の頭の中に一人も存在しなかっただけかもしれぬが……要するに、お笑いを少しでも知っている人間なら、身内ネタは言うべきでないという事は、駆け出し芸人の鎌瀬ですら知っていたという事。

芸人の中では言うまでもない常識なのだ。

ごく一部の人間にしか通じない狭い範囲だが、知っている人からすれば堪える事は出来ない程の強烈なネタだ。アリサはそれを一番大事なこの決勝の最後の問題のネタとして放ってしまったのだ。当然アリサは芸人に転職した事はしたが、まだ数時間程度。その浅い経験でそこまでの知識は得られない。あのお漏らしをみんなが知っていると思ってしまっていたのだ。

そして、身内ネタはこういう場面では最悪である。

「は? 誰の事言うとるんや?」

と客を不快にしてしまいかねない。ここは、万人に受けるネタを放たなければならなかった。

だが、アリサはどうしてもそれを抑える事が出来なかった。

 それもその筈。司会のお漏らしという強烈な面白事件は、アリサの中では今日のトップニュースである。

あの、面白い☆☆☆三連星ネタで20000ポインツを獲得し、拍手喝采を浴びた記憶よりも鮮明に、お漏らし男の悲しげな表情が浮かんでくるのだ。

そんなアリサの中での大事件は、いつかどこかでどんな形であれ、誰かに言いたくて言いたくてウズウズしていたのだ。

そのタイミングで、こんなお漏らしを容易に想起出来る様な直接的なお題が出てしまったのだ……それこそ彼女の運の尽きだ。

前話の最終話に出ていた、アリサのステータスを思い出してほしい。

そう、運の値が1だったのだ。こういう一番大切な所で運に見放されてしまう……哀れなアリサ……そう言えば七瀬が、ブラックダイアには幸運を下げる効果があると言う話をしていたな。

もしかして現在それを所持している為に運が1なのかも知れない。だが、それを知っていても彼女は手放さないだろうな……女の子は宝石が大好きだからな……そして、これは私の想像であるが、恐らくこのネタの提供者の蘇我子は、お礼としてあのネタを提供したのではないと思うのだ。

どういう事なの? と仰る方も居ると思うので、その根拠を語ろう。

 彼女はVIP席で、司会がお漏らしをした様子を、何かしらの道具を使用して、はっきりと見ていたのかもしれない。

そして、そこから司会のお漏らしを目の当たりにしたアリサなら、あのお題を見れば、観客には通用しないお漏らしネタを言うのではないか? と、準決勝の時のアリサの下ネタ発言を受け、彼女のネタの傾向を推測した。

なんと蘇我子は、幾つかのアリサの答えを見ただけで、ネタの傾向を完全に把握し、彼女を陥れる為にあのお題を提供したのかもしれない。

そう、蘇我子は、休み時間に控室にTシャツをプレゼントしに来た時、アリサが自分の事をしわくちゃと馬鹿にして来た事をずっと根に持っていたのだ。

更に、偶然引き分けになり、司会の提案で観客の中からネタ提供を求めた瞬間に閃いてしまったのだ……超一流の脚本家の頭脳が……! 本来沢山の人を楽しませる為に、ドラマの脚本を手掛けている彼女が、礼節の知らないたった一人の幼女を陥れる為【だけ】にその才能をフルに使い、生み出された邪悪なシナリオ、謀略が、な……! そのシナリオとは、あの画像を見つけ出し、そこからアリサにお漏らし関係のネタを言わせ陥れるという事だ。一見喋り方はおっとりとしている蘇我子だが、頭の中は別。アリサよりも高速で物語を描き出す才能がある。そんな才能をアリサを陥れるその為だけに使用し、彼女が思考停止する様なお題を探し出す!! そう、提出までに少し間があったのは、携帯でアリサを陥れるに相応しい画像をリアルタイムで検索していたのだ。どういう画像ならお漏らしネタを言うだろうな? と、考えながらな。まあ他のお客さんが手を挙げなかったと言う偶然もあるが、それもアリサの運が低い事が原因かもしれない。それも合いまり、その短い間にアリサが見た瞬間、司会のお漏らしに関係するネタを言いそうな画像を見事検索し、撮影。

そして、司会に渡したのだ。恐らく孫の写真と言うのも大嘘だ。いかにも大喜利のネタに使われそうな面白画像であるのは誰の目からも明白であるしな。

そして、その画像を見た瞬間、アリサも理屈では分かっていようが、蘇我子に導かれるかの如くお漏らし系のネタを放つ。最早、その画像の中の少年は司会の少年時代の姿にしか見えなくなっていたのだ。そうなってしまえば、誰も止める事は出来ないだろう。

ついさっき白川に

「良く考えてからネタを言え!」

と言うアドバイスも聞いた瞬間は納得していたのに、忘れてしまい……だ!

面白いと思ったお題を見ると、それだけに意識が向いてしまい、集中力に反比例し、記憶力は著しく低下する。

思い出してほしい。アリサは竜牙の顎が外れ逆回転してくっ付き直した状況を

【逆歯刀】

と言う名前を考え出し、それを肩書にしては? と言っていた時があったが、竜牙の心の傷などお構いなしで、ただその響きがかっこいいと言う事実のみを考え、

「これこそがあなたのアイデンティティだよ!」 

と、おだて、名乗る時に使うべきだと提案。運よく竜牙も乗り気ではあったが、普通の人だったらその事を名乗る度に突然下顎の骨が勝手に顔から飛び出すと言う忌々しい想い出を甦らしてしまう事も考えると名乗りたくないのでは? と、考え自重する筈だ。だがアリサが子供過ぎる故、その人の気持ち等は全く考えられずに、自分の考えがいいのだから実行すべきと押し通してしまった。そう言った子供っぽさは、いくら勉強をしたところで子供である以上、抜ける事は無い。

確かにアリサのお笑いのレベルは、エントリーしたあの時から比べれば飛躍的に成長した。

だが、所詮彼女も小5の子供という事だ。それが敗因だった。気が早い気もするが、見なくても分かる。

最早白川がどんなネタで来ようが、確実にアリサは負ける筈。

結局子供はう〇こやおしっこが大大大大大好きだからな。仕方のない敗北。

先程も運営の思惑通りき〇たま等と言うエゲツネエ下ネタを何回も言ってしまったしな……まあ、もしも小5の若さでこの話を読んで下さっている将来有望な方が居て

「そんな事ないよ」

と仰るのであれば誠心誠意謝るが、恐らくそんな事は無い筈だ。

私もそういう時期があったから分かるのだ。この真面目が服を着て歩いている様な聖人ですらだ! 時代は変われど、いくら科学技術が進歩しようが、人間の本質的な部分は変わらない。

子供のう〇こ大好き現象は、原始時代から変わらないのだ。いや、人間がこの世に誕生した直後から変わらない。そう、自分のおしりから出た、茶色くて悪臭の放つ面白い物体。いじらずにはいられない筈なのだ。例え時と共に……頭脳や身体能力など進歩する部分もあるが、不変的な部分もあってこそ

【人間らしさ】

なのだ。

それにしても司会が画像提供を求めてからたった5分の間に、ここまで練られた計画を編み出し、成功か……恐ろしい老婆だ! 

「全く……変な言いがかりは困りますね。まあネタですから仕方ないですけど……出来れば私のイメージを下げるようなネタは止めて下さいね?」 

この女は、3回戦目の6問目のあの問題中に、口論しているアリサ達に対しマイクを使用しつつ、【き○たま談義はその辺にして下さい】と言っていた事をすっかり忘れているな。その時点で、イメージが下がり切っている事を未だに気付いていない。

「悪いな。お前のミス、有効に使わせてもらう。不本意だがな……勝ちは……頂いた!」

「うう……」

「……だが、ここでお前がこんな凡ミスするとは驚いた。こんなミスをせず、ガチのネタのぶつかり合いで勝ちたかったってのもあるがな……まあ、これが未知のお題でやり合う勝負の面白さって奴だ。筋書きの無いドラマ、肌で実感しただろォォォォ?」

白川も気付いているな。アリサの放ったネタが、身内ネタだという事をな。そしてそれは、白川には通用したが、現在笑わせなくてはいけない人は、白川ではなく客だという事もな。

「そうよね……最後の最後に……ミスっちゃった……ね。20行以上にも及ぶ長さの啖呵を切った挙句に思いっきり滑っちゃった……恥ずかしい(///照///)……でも、冷静になればあんなネタ言わなかったと思うんだけど……なんでだろうなぁ? あーあ。私らしくなかったなあ( ;∀;)」

諦めの表情のアリサ。もう彼女自身も察している様だ。そして、この敗北は蘇我子の謀略も一枚噛んでいる事には一切気付いていない様子だ。全てが自分のミスだと認めている。

それとも? 気付いてはいるが、この期に及んで人のせいにする気力も、そしてその後、それに気づかなかったお前が悪いと言われる事も見越して言わないだけなのだろうか? そこまでは分からない。

「フッ……全てが終わる前にそこに気付く事が出来りゃあまだ未来はあるぜw」

白川は、今までに見た事無い様な優しき微笑みをアリサに向ける。これは、勝者の余裕なのだろうか? それとも? 

「白川さん!! どうぞ!!!」

『うわああ( ;∀;)破動拳の練習をさぼっていて2カ月ぶり放ってみたら、手から出る筈なのに、股間から出ちゃったああああ!♡!』

ドドッ

「めっちゃ説明口調です!! とっても分かり易くて素晴らしい!! しかし、嫌な破動拳ですね。これじゃ汚いからガード出来ないですね。ジャンプで回避するか、自分のヨガファイガーで相殺するしかないですね。

あっ、名前も拳では変ですね。さしずめ【破動☆珍☆】と言ったところでしょう」

臆面もなくさらっと下ネタを挟む淫乱司会。

「白川さん? 最後の最後にこんなネタで来るの? 最低! あんた最低だよぉ! 舐めプ乙(#^ω^)この程度のクズネタでもこの私に勝てると? 舐められたもんね……ふざけるなあああ。くそ、くそ、くそおおおおお……私が本気を出せば……」

「お前が本気で来てたら俺も本気で考えていたさ。こんなネタじゃ勝てねえからな。まあ、あのネタの後じゃこうもなるわwこんなのちょちょいと考えた低レベルなネタだからなwでもそうは言うけどよお、こっちも悔しいんだぜ? そこんところ分かってるのか?」

「何がよ!」

「最後の最後に拍子抜けしちまった……最後だってお前とガチリたかったんだからよぉ!? 最高のネタと最強のネタがぶつかり合い、拮抗したその末に俺がギリギリで勝つ。それが俺の中での最高の終わり方だ。お前だってそうは思わないか? それがオジャンになっちまったんだ。あーあ……死ぬほど残念だぜ……確かお前と戦う前、本気でやるって言った気もするが、気が抜けちまったんよ。でも、嘘つき呼ばわりはしないでくれよな? 当然お前も分かってるだろ? これでも、こんな程度のカスネタでも、お前の負けは確定的に揺るがんのよ。もう、全てが遅いんよw」

「知ってるよ。私でもそうしてたと思うし。残りHP1の敵に対し、最強技を使う必要なんてないもんね……でも、こんな事言っても無駄だと分かっていても悔しくて、心が抑えられなかったの」

「だなw」

「うーん、アリサさんには私をいじって頂いて少し嬉しかったんですけど、これはどう考えても白川さんでしょう。

4番の白川さんの勝利です! 今回の問題はボーナスが付きます! そのボーナスは9京ポインツでしたね! なので白川さん。合計で9京4ポインツを獲得しました!」

「やった!」

「ぴ、ぴぎゃー!!」

 

私の書いている小説です

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決着?

「アリサさん巻き返しました! 4対4のイーブンですね。では第9問で、ラスト問題となります! もう他の画像は用意しておりません。

すなわち、これが泣いても笑っても最後の問題、ファイナルラストフィニッシュバトルとなります。では行きます! その画像とはこちらです!」

挿絵(By みてみん)

これはまたしても怒虎か? そしてその下には怒虎よりも大きな巨大亀……成程。これは中国で北を司る四神の【玄武】であるな? 因みに玄天上帝とも言う。

怒虎はこの様な霊獣とも交友関係があるらしいな。かなりのコミャニャケーション能力だ。否、友好ではない。この画像内には間違いない主従関係が映し出されているな。そう、怒虎が玄武の上に乗っているという事実がそれを物語っている。玄武よりも身分が上だという事だ。あの巨大な霊獣までも配下にしてしまったのだろうな。スゲエ……それも強制した訳ではなく、そのカリスマ性の高さを知った玄武の方から

「さあ、わたくしめの無骨な背ですが、もしよろしければお乗り下さい」

と、目が合った瞬間に彼の意思に反し自然と口から出てしまったのだろうな。怒虎にはそう言う不思議な魅力がある。

しかし、この問題を最後に持ってくるとは運営もなかなかやるな……そう言えば……思いだしてほしい。決勝戦の1回戦目の一問目のネタも怒虎であったな。

挿絵(By みてみん)

朦朧とした意識の中再会した彼らがぶつかり合い雌雄を決そうとする悲しすぎるシーンだ。そう、この大会は、怒虎で始まり、怒虎で終わっている。奇遇な巡り会わせだ。この運営は、怒虎を崇拝する信者の集まりなのだろうか? それとも他に何か理由が? む、そんな事はどうでもよかったな。

そうだ、最後、そうなのだ、これが最後の問題なのだ……行け、アリサよ……勝利は後、

【たった一つ】

なのだ……! 

「最後のサイコロタイムです。やあ! 6ですね。アリサさん先攻です」

「……よしあれで行ってみるか」

「どうぞ」

『えーと、ここから東ニャンアジアのニャンボジアのニャンコ―ルキャットまでお願いします』

『はい! 本日は水陸両用タートルタクシー亀江恵絵柄得ゑ餌カメエエエエエエエ! クスデス協会をご利用いただき誠にありがとうございます。私共は安全第一で、無事故無違反無頓着で頑張っております!

この度運転手を勤めさせていただく亀梨一哉かめなしかずやと申します。因みに私の座右の銘は、3歩進んで2歩下がるです! その思いを胸に抱き、目的地にゆっくりと、じっくりと、まったりと、のんびりと、のったりと、のらりくらりと、ノロノロと、自分のペースで出来る限り遠回りし、時折朝寝、昼寝、3時のおやつ寝、夕方寝、夜寝、深夜寝、明け方寝を挟みつつ、確実にお届けさせていただきます! ここからニャンボジアですか……現在地が、かにゃ川県のネコハマですから、陸路12年と4ケ月。海路23年と3ケ月の合計35年と7ケ月後には到着しますねー』

『そうですか……じゃあお願いします……って……これじゃ着く頃には寿命で死んじゃうニャン♡』

『そんなに早く死んでしまうなんて。あなた方猫って生き物は短命なんですねw』

『普通ニャン♡♡』

ドドッ

「ニャンコ―ルキャットですかあ……とてもかわいい響きですね。名前から推測するに猫が沢山いる世界遺産なんでしょうね? 私も行ってみたいです♡では白川さんです」

「くそー分かんねえ」

「時間はありますので」

「大丈夫だ。今降りて来たぜ!」

「そうですか? ではどうぞ!」

『地面が動いている? やはり私の仮説は正しかったんにゃ。ん? 私か? 私の名前は、ニャリレオ

 △△

(=^ω^=)ニャリレイだ』

ドドッ

「亀が地球と見立て、それが動いていると思ってしまったんですね? 狭い世界ですね。うーん……歓声もどちらとも言えない様な。また正直分かりませんね」

「クッこれは俺でいいだろ?」

「私だって負けたくないわ!」

「うーむ少し考えさせて下さい……」

「またかよ……」

「優柔不断ねえ」

「決めました! またも皆さんの力を借りようと思います」

「またかよぉ……もういいよ……」

「申し訳ございません。ですが、最後の最後なんです。しっかりと白黒付けたいのです。アリサさんも良かったですが、白川さんの猫の顔文字も可愛かったですし……」

「え? 顔文字ってなあに?」

「知りませんけど?」

「えっそうなの? 今あなたが言った言葉だよ? ちょっと良く考えてみてよ?」

「忘れました」

「ならしょうがないかぁ。でもでもネタでなくて顔文字が可愛いからってそこを評価するのは違うと思うよ? 最後だからこそネタのみで勝負すべきでしょ? 後さ、それってどこにあった物なの? 私には見えなかったよ? 台詞の間にあったの? それとも最後?」

「だから知りませんってww」

「そっかwwwww」

「では、アリサさんが面白かったと思う方々拍手お願いいたします」

パチパチパチ

「ありがとうございます。では、白川さんが面白かったと言う方々拍手お願いいたします」

パチパチパチ

「全く同じですね……」

「そうか? 俺死ぬほど耳がいいけどさ明らかに俺の方が1デシベル位上だったぜ?」

「嘘突くなー!!」

「決めました! この問題では決着が着かなかったという事にします!」

「うそーん」

「結局こうなるのか……」

下唇を噛み、悔しそうにする白川。

「では、特別にもう一問挑戦して頂きます」

「くっ まあいい。やってやるぜ!」

「次こそは圧倒的な差をつけて勝つ!!!」

「しかし問題が一枚もありません……どうしましょうか? こんな時、先輩ならどうするんでしょう? うーん」

「うーん、あんたに任せるぜ」

「わかんないよ! そっちで考えて?」

 二人も考える事を放棄した。両者共に脳が疲弊している筈だ。少しでも休みたいと考えたのだろうな。

「ですよね……じゃあこうしましょう! 過去に出たお題をシャッフルして、選ばれた一枚でもう一度戦うってのはいかがでしょうか?」

「ああ、これがいいんじゃない?」

「いや、それだけは絶対に駄目だ。既に見た事がある物は絶対NGだ。やはり初見のリアクションを楽しみたい」

こんな時でも白川は完全に初見で出て来るお題を心から楽しみにしている。お笑い芸人とはこうでなくてはいけない。

「別にそれいいのに……どんだけ自分に厳しいのよ……疲れてる筈なのに……」

「多分死ぬまでこんな感じかもな……おめえだって内心そうなんじゃねえか?」

「う、言われてみればつまんないわね……あ、あれ? 白川さんがちょっとかっこよく見えて来るじゃない? (私には竜牙さんが居ると言うのに……敵なのに……何かドキドキしてくる……正気に戻れアリサ!!)」

「ん? 何だよその目は? 気持ちわりいな」

「知らない!!」

「あっ、閃きました!」 

「なんだ?」

「お客様の中で、面白画像を持っている方いらっしゃいましたら、提供お願いします! それが見つかればその問題で争っていただこうと思いますが、いかがでしょうか? これは私のアドリブです。もし他の案がありましたら、そっちに変更する準備も出来ています」

「それでいいと思う」

「俺もだ」

「そうですか? じゃあ皆様の中でお題に出来そうな画像をお持ちの方! 挙手お願いいたします!」

シーン

「誰も居ない?」

「もう少し待ちましょう!」

「むぃんぬぁだすぁぬぁいのぬぇ? ……ふぁっ! あつぁるぁすぃスィヌァルィオがうくぁんだうぁwヒロウィンうぁぬぉくぅお。……すぁあ……えぐぁいたとぅうるぃぬぃうぐぉいつぇくるぇるくぁすぃら?」

む! この喋り方は蘇我子であるな? また仕事か……

訳「みんな出さないのね? ……ハッ! 新しいシナリオが浮かんだわwヒロインはあの子。……さあ……描いた通りに動いてくれるかしら?」

そう言いつつ蘇我子は、スマホで画像検索を始める。

「どなたかー?」

「シーンとしてるね。こんなに沢山お客さん居るのに……」

「ゆっくり待とうぜ。みんな真剣に選んでくれているんだ。客の立場になって考えても見ろ! 自分の出したお題がラスト問題になるんだぞ? お題のせいで盛り上がらなくなる危険性もある。そして、俺達の未来もそのお題に掛かっているんだ」

「そうかもしれないけどさ……誰かが出してくれるんじゃね? って、みんな思っていて誰も出さないパターンじゃなきゃいいけど」

「うるせえ! 信じろ!!」

「はいっ!」

だが、客は静まり返ったまま。誰一人手を挙げようとしない……そして、5分程の静寂が続く……それも仕方のない事。客も楽しむ為に来ていたのだ。そして、まさかこのラストバトルのタイミングで画像の協力を求めて来るとは思いもしなかったのだろう。

「ゆぉすぃ、くぅをるぇぐぁいいうぁ」

訳「よし、これがいいわ」

ぬ? ……何かを見つけたのか? もしや蘇我子はお題の写真を考えてくれていたという事なのか? 何故だ?

「ふぁい」

訳「はい」

すると? VIP席から手が挙がる。

「はい? ……あ、あなたは!!」

「わつぁすぃぬぉむぁぐぉぬぉしゃすぃんぬぁんどぅえすけるぁど、むぉすぃよくぇるぇヴぁくぉるぇをつくぁとぅえ?」

訳「私の孫の写真なんですけど、もしよければこれを使って?」

「あっ? まさか? 橋田蘇我子さん!?」

「はくるぃょくぬぉあるつぁつぁくぁいよぬぇ。こつぉすぃうぁはつぉくぬぃ……くぉんぬぁむぉぬぉどぅえおゆぁくぬぃにつぁつぇるくぁうぁくぁるぁぬぁいくぇどぅ……」

訳「迫力のある戦いよね。今年は特に……こんな物でお役に立てるか分からないけど……」

ニィッ

口では笑っているが、目が一切笑っていない。

「助かるわ!」

アリサが親指を立てて蘇我子に向ける。しかし、それには反応していない様だ。

「あれ? ノーリアクション? 耳が遠かったのかしら? 老人だし」

「何と何と何と! 橋田蘇我子さんからお題を提供頂きました! 感謝です! これは盛り上がりそうです!!」

「いぅえいぅえ。すつぅえくぃぬぁすぃあぅいをむぃすぇつぅうえくるぅえつぅあおるぅぇいゆぉお」」

訳「いえいえ。素敵な試合を見せてくれたお礼よ」

「他に提供してくれる準備をして下さったお客様には大変申し訳ありませんが、いつまでも待っていては終了時刻が遅れてしまいますので、私の独断ですがこのお題に勝るものは無いと判断いたしました! では、これこそが正真正銘の最後の最後。ファイナル最終フィニッシュジ、エンド問題です! この記念すべき素敵なお題を頂いたので、特別ルールとして、最終問題は勝者にはなななななんんと9京ポイントを贈呈します!!」

「うおおおおおお」

「やったあああああ」

「すごーおおおおおい!」

「超エキサイティィィィィンンンンングゥ」

蘇我子さんナイスうううううう」

「9京! 9京!!」

「フンガーフンガー!!」

会場内の観客達は大盛り上がりだ!

「……おいおい、1でも9京でも変わらんだろ! 下らねえ事で盛り上がりやがって! バラエティ番組に染まってんじゃねえ!」

冷めた目で見る白川。

「私は9京ポイントよりも、休憩ポイントで一休みしたいわ」

こんなところでも上手い事を言うアリサ。脳が疲弊していないのか? 本番で力が出せなくならぬよう気を付けるのだ!

「ノリが悪いですよ白川さん。では、皆さま! スクリーンにご注目下さい! どうぞ!」

 

私の書いている小説です

リンク先はブログより4話ほど進んでいます。先が気になる方はご覧下さい。

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