magisyaのブログ

小説となぞなぞを投稿してます

予選1回戦

 

「第一問です! お笑い用語の天丼とは、同じギャグを何度も繰り返す事である○か×か?

制限時間は3分です。ではお考え下さい!」

 

「簡単ね○よ。3分もいらないわねwここで止まっていれば良いわ」

 

「フンガー」

男はアリサに従順である。フンガーとしか喋れない様だが、しっかりとアリサの言う事を理解は出来ている。

そして、アリサ以外の参加者も○のフロアで止まっている。

しかし、運営は当然それを許さなかった。突然司会者が手を上げる。

 

「あーはっはっはー♪あははっ♪うふふっ♪」

 

 と、それが合図だったのか? 500人の屈強な男達が、その筋肉に包まれた鋼鉄の体とは裏腹に、まるで変声期を迎える前の少年の様な美しい声で高笑いしながら、○のフィールド内にいる参加者達に向かって行く。

その恐怖は尋常ではない。

 

「うわーこっち来るー」

 

「おかあさん……先立つ不幸をお許し下さい……」

 

「ひえー」

 

「去年もこんなだったな! それに備えて走り込みをして来たから平気だぜ!」

 

「こいつ……うごくぞ……!」

 

「なんてスピードだ! あの体で……!」

 

「逃げなきゃめだ逃げなきゃだめだ逃げなきゃだめだ逃げなきゃだめだ逃げなきゃだめだ」

 

「化け物共めが! だが、目的の為に捕まる訳にはいかねえ!!」

 

会場内にはえらく甲高い男達の声と、選手の悲鳴が混ざった空間と化す。

ドドドドドドドドドド

しかし、男達は簡単に選手に追い付き、怪我をしない様に優しく捕まえてはどんどん×の方へお姫様抱っこをして運び、ソフティーに床に置いてあげている!

 

「うわっおい放せ、放せよ! クッ……何て力だ」 

 

「ああ、答えから遠のいていく……」

 

「だっ駄目だ振りほどけない……しかし、持ち方はすごく優しいし、なんだかいい匂い……あれ? お母さんなの?……眠く……なる……ZZZ」

 

 男達は選手に危害は加えない。そして何故か母性の様な物を持ち合わせていて、紳士的にかつ機械的に運ぶ。

そして、優しい抱っこで、選手の中にはその腕の中で眠ってしまう者も出て来る。

3000人以上いた参加者が、次々と答えと反対の方へ輸送されていく。

何故こんなにも理不尽で厳しいルールなのだろうか? 普通に○×クイズではいけないのか?

このやり方では、選手が暴れて途中で床に落としたりして怪我してもおかしくない。慈悲という物が感じられない。

 

 厄介な事に、広い会場なのだが、全速力で走っても戻れない様に、男達は不正解のフロアの一番端までまるで赤子の様にあやしつつゆっくり歩きながら選手を持っていくので、自力で振りほどいて逃げなくては、置き去りにされた場所から○の場所に戻る事は時間的に出来ないであろう。更にその優しい抱擁から、眠ってしまう選手までいる。

そう、運営が制限時間を3分と設定したのは、優しさでも何でもないのだ。

3分間会場内を逃げ回らなくてはいけないという事なのだ。その様を、お客さんに見せる為だけに設けられた時間だ。

体力が無い者は、お笑いをやる資格すらないと言う事なのか……

 

 しかし、一度奴らに捕まったらその豪腕から逃げるのはお笑いを志し、筋トレ等とは余り縁のない者達では容易ではないだろう。

それに、参加者の殆んどは男性。女性ならともかく男にお姫様抱っこされるのは苦痛であろう。

中には軽いフットワークで逃げ切る者もいたが、男達は筋肉量の割りに敏捷性も兼ね備えており、逃げ切るのは相当大変である。

 

 更に競技場の隅は観客席で、大勢の目にその惨めな姿を晒してしまう。そんな苦痛は耐えられないであろう。

確かに芸人であればお姫様抱っこされて隅っこに置き去りにされるシーン。

笑いにもなりおいしいシチュエーションじゃないか? と思われるかもしれない。

 

 だが、それは笑わせるというよりは、笑われると言う事になる。

【笑わせる】と【笑われる】たった1文字しか変わらないが、大きく意味が違う。

中には自ら【笑われる】芸風を選択している芸人もいるにはいる。

例えばピン芸人の明亭方正などは、その部類に入るであろう。

私はその芸風はあまり好きではないので、テレビで見かければ即座にチャンネルを変更する。

好きな方がいれば申し訳ないが、私はそれは本当の笑いではないと判断している。

芸人の多くが目指している事は【笑わせる】事なのだから、自分の知恵を振り絞ってネタを考え、それをお客さんに提供し

 

「ここでドカーンや!」 

 

と思った所で、お客さんにそれが伝わり、舞台上で受ける笑い声を自らの耳で確認した時に、至福の快感を味わう事が出来る不思議な人種。

そう、だが、それこそが私が感じる真の芸人という者だ。自分の狙いどころで自分のネタで笑わせる。難しい事だ。だが、だからこそ達成感がある。

それは、私の語りも同じで、この語りが伝わるかどうかは不安で不安で仕方がない。

だが、それが皆に伝わった時、自分へのご褒美として、試していなかった高価で新しいのど飴や、ハーブティーを購入するきっかけになる。

 

 しかし、この置き去りにされた惨めな状況は、自分の敏捷性が劣っている事や、運動神経が優れていない事、そして、男の豪腕を振りほどくまでの力が無い事を、ただ笑われているだけ。芸人でなくても誰でも出来る。万人が引き起こせる笑い。

そう、そしてこれは想定外の笑いであり、自分の意図と全く反する単なる【事故】なのだ。

それでおいしいと喜ぶ芸人は少ない。先程の【笑われる】芸風の芸人ならおいしいと思ってしまうかもしれぬが……

この運営は、恐ろしい事を考えるものだと思わざるを得ない。

この場で屈辱を味わい、人前に出る事が恥ずかしくなってしまい、最悪の場合、お笑いの道を諦め、姿を消す危険性までもある。

まあこのコンテストでの優勝は、100万円と、プロだろうが素人だろうが松谷修造と番組に出演出来る権利も同時に獲得するのだ。

賞金はおまけ。メインはテレビ出演と考える芸人や一般人も多い筈。そこで自分を知ってもらい

それが切っ掛けでどんどん売れていく可能性も大で、その為にはある程度の危険も覚悟しなくてはいけないのかもしれない。

 

 そこまで売れたいとは思っていないアリサ。否、一切そんな気持ちは無いだろう。

ただ純粋に松谷修造と会いたいと言う気持ちで参加しただけの少女は、こんな芸人達の欲望渦巻く大会に出てしまったのだ。

果たして彼女は、その重圧に耐えられるのだろうか?

 

「やばい! 一問目から動くのかよあいつら。

そんな事よりも問題を難しくして振り分ければ良いだろうに! 仕方ないフンガー逃げて!!」

 

 そして、アリサも白い歯を見せた筋肉から狙われてしまった! 物凄いスピードで迫り来る!!

 

「あら可愛いお嬢ちゃん♪さあ、お姉さんと一緒に行きましょう?」

 

「え? お、ねえ、さん?」

アリサは、その声と話し方に違和感を覚える。

 

……私は、どうやら勘違いをしていた様だ……申し訳ない。

低身長ながらも均整の取れた文句のつけようのない鋼の肉体は、男以外の何物でもなかった。

そのイメージの強すぎて、皆さんにこの筋肉達を前回のホテルで登場した時からずっと男性であると紹介していた。

だが! 実はそれは間違いだった。

そう、彼……いや彼女達は、筋肉質ではあるが全員女性だったらしい。

そういえばTシャツの胸の辺りに、うっすら2枚のスカーフが並んでいる様に見える。

これは女性用の下着だったのであろう。

選手がその腕の中で微睡まどろんだのも、女性特有の母性に触れ、起こった事だとすれば納得だ。

間違えて報告した事を謝罪し訂正しなくてはいけない。

申し訳ない事をした……許してほしい。そして、そこでアリサはホテルで会った500人の筋肉達の事を思い出す。

 

「あ、この人達、桜花ジャパンの人だわ! この会場に来る為にあのホテルに泊まってたのね! みんな女の子だったんだ。

いいなああ、私も筋肉ほしいいいい」

 

 桜花ジャパンについては前回のお話で登場している。

彼女達は、アリサの力を借り、ホテルの一つのフロアのとある物体をその逞しい肉体で全て壊滅させる程の大活躍だった。

そう、破壊しつくしたのだ。初見では悪い事と思ってしまう内容だが超絶大活躍だったのだ。それは見て頂ければ分かる。

是非見て欲しい!

 

「フンガーフンガーフンガー!」

ダダダッ サッ ダダダッ ヒラリッ

 

 屈強な女達の追走をさらりとかわしつつ逃げるフンガー。フンガー程の体格なら追跡する女達をその剛腕で撃退する事も可能であろう。

だが、それをせずに逃げに徹する。中々フェミニストの様だ。そして、かなりの長身ながら、良いフットワークを持っている。

 

「わ、わー! サラマソダーよりはやーい」

その激しい動きに、操縦用の頭のボルトをしっかり握っているアリサも悲鳴を上げる。

 

「フガガガ? フガガンガー? フガガンガーッガフンフフフガフガーフガ? フガガガフガフガガガガガ!?」

走りながらおかしな反応をし始めるフンガー。

 

「あら? もしかしてフンガーも怒ってるの? でも、サラマソダー遅いよ?」

フンガーの頭上から覗き込む様に言う。

 

「フンガフンガ! フンガガガガ!」

 

「でもパルパレオスのレンダーバッヘの方が……」

 

「フガ!!!」

クルーリ

 

 フンガーは、首を360度回転させ、怒りを露にする。かなりの大人がこのゲームに触れ、傷ついてきたのだろう。

そして、このフンガーも……

 

「ひいいっ」

 

「フガガガガ!!」

 

「わ、分かったわ……でも首を1回転させて怒る程の事じゃないと思うんだけど……ビックリしたあ……

じゃあ、フンガーもサラマソダーは早いと思うのね?」

 

「フン」

 大きく頷くフンガー。恐らく許してくれた様だ。姿に見合わず優しい男である。しかし、機敏で力強い男だ。頼もしい限り。

アリサは良い相棒をゲットしたのではないだろうか?

 

そして、女達もフンガーの余りの速さに追走を諦め、息を切らして座り込む。そして、遂に時間が来る。

9,8,7,6,5,4,3,2,1,0 ピピー

 

「正解は○です! ×にいる方達は退場となります」

 

「やったぜ! フンガー」

アリサはフンガーの頭を撫でてあげる。

 

「フーフー、フンガー♪」

喜んでいる様だ。しかし、少し疲れが見える。

 

「やっと終わってくれた……3分ってこん7に7がかったっけ?」

 

「汗だくだわもう! お化粧落ちちゃうじゃない!」

 

「いいダイエットになったぜ……ふうふう」

 

「結構持っていかれちゃったね。あの女の人達かなり素早いからねー」

 1問目終了。3002人だった参加者が、一気に1000人程に絞られる。○×問題としては30秒もあればいい方なのに、敢えて3分に設定している。

こんな長い時間設定にするとは……ここの運営はかなり悪趣味であるな。僅か3分で、2000人の参加者が削られた。優秀な筋肉達だ。

屈強な女達は変わらず500人なので、1問目に比べだいぶ逃げにくくなるであろう。

まあ最終的には16人まで絞らなくてはならないのだから、これでいいのかもしれない。

 

「では第二問! 巧みな芸人なら、まるで劇を見ている様な見事な演技、ですがそんな中にお笑いが見事ミックスされている物をコントと言いますね?

そのコントとは、フランス語の短い物語とか童話とか寸劇と言う意味があるそうです。

では、そのコントを英語で言うと、デッサンコメディである。○か×か? 制限時間は3分です。ではお考え下さい!」

 

 選手達は相当逃げ回った事でかなり疲れている。しかし、そんな事はお構いなしで矢継ぎ早に次の問題が出されてしまう。

しかも、かなりの難易度だ。

 

「おいおい滅茶苦茶難しいじゃないのよ……そりゃさっき難しくしろとは言ったけどさ。

それにわざわざ英語にする意味ないじゃん。コントで通じてるんだし……」

 

「フンガー?」

心配そうにアリサに語りかけるフンガー。

 

「だ、大丈夫よ。うーん、でもデッサンではない様な気がするのよねー。

それに、○が2連続で来るとも思えないしー……よし、フンガー×に走って!」

 

「フンガーーーー!!!」

 

 耳から煙を出し走るフンガー。

今回は問題が難しかった為、半分半分に分かれた様だ。

屈強な女達は出撃せず、腕組みをし、白い歯を見せつつ傍観していた。

難しい問題の場合は、邪魔をせずに純粋に解かせてくれる様だ。そうしないと正解が分かってしまうからな。

 

「正解は×です! 因みにコントは、英語でスケッチコメディと言います」

今回の問題に生き残ったのは500人程。

 

「よかったあ……偉そうな事言って2問目でつまづいちゃった……申し訳ない。

フンガーは体を張って私を守ってくれていると言うのに……」

 

「フン、ガー」

フンガーはゆっくりと首を振り、背中に乗ったアリサの頭を優しく撫でる。

 

「励ましてくれるのね? ありがとう」

二人の間に、絆が芽生えようとしていた。

 

「おお500人位残っていますね。今なら勇者達が一人一人に張り付いてもぴったりという事ですね」

 

「ちょっとは屈強な女子? 減らして欲しいなぁ。

暑苦しくて仕方ないわ! 家庭教師じゃあるまいしマンツーマンなんてごめんよ。

はぁ……『私の行く先々で事件が起こる件について』全く嫌になっちゃうわね……」

 

「フガガ?」

首を290度位回し、アリサを見る。

 

「な、何でもないのよ」

隙あらばタイトル回収。抜け目のない子である。

 

「では第三問! 相方がおかしな事を言っている事に対して指摘したり、怒鳴り散らしたり、時にはハリセンや平手打ちで叩いたりする行為を、突っ込みという。

○か×か? 制限時間は3分です。では、お考え下さい!」

1問目と同じく比較的簡単な問題が出された。

 

「うーん、これは勇者達が動くわね。

よし! いい事考えたわ! 今は敢えて×に残って! ギリギリで○に飛び込むわよ! 良いわね?」

 

「フンガガ!」

 

「ちょっとずつ〇の傍に近寄りましょう。気付かれない様にね……」

 

「フガガガ!」

 筋肉達は、正解内のフィールドに居る者のみを対象として追い回す事は1問目で分かっていた。

その上ゆっくりと不正解側の最果てまでに輸送される事も分かったアリサは、制限時間一杯まで不正解側のフィールドで粘って、残り1秒で正解側に移動するという作戦を思いつく。

そうする事でフンガーの疲労を少しでも回復させようとの考えだ。

 

「フンガー」

 

 フンガーもアリサの指示通り、×側の、〇と×の境界線付近に移動する。

それを見た他の選手も、アリサの真似をする。ところが、女達は一切動かない。

まるでアリサ達がその行動をする事を予め分かっていたかの様に落ち着き払って。

当然司会も拱手傍観きょうしゅぼうかんを決め込んでいる。

そして、殆んど全員が×エリアの○付近の境界線付近に移動すると、突然! 司会が右手を挙げ、叫ぶ。

 

「はいっ 万里の長城!」

 

「え?」 

 

 聞き覚えのある声でそう叫ばれる。良く見るとその司会は、桜花ジャパンのリーダーの男だった。

すると……一斉に女達が、○と×のフロアの境界線をなぞる様に並び、隣と腕を組み始める。

 

ザザザザザッ

 

何と女達の屈強な肉体で壁を作り、○×間の移動を出来ない様にしたのだ。正に人間万里の長城。この精巧さ。中国人も

 

「こんな所に万里の長城があるアル! 引越ししたアルか?」

 

と見間違えてしまうのではないか? この分厚い壁を乗り越える事は容易ではない。

 

「う……あ……」

ズザザザッ

 

「駄目だ……怖いよー」

 

「こんなもんどうしようもない……人類は……終わりだ(´・ω・`)」

 

「こりゃトラクエの【最後の最後のカギ】でも通れねえぜwあー〇に居て良かったぜえ」

 

「素直が一番ですね、変に策を練るからああなるんです」

 

始めから〇の中にいた人達は安堵の表情。そして、境界線付近の×側にいた人達は、その威圧感ある壁を目にし、後ずさる。

彼女達の身長は160位なのだ。だが、身長以外の何かが選手達の戦意を削ぎ落とす。

 

「しまった! これは罠だったのか! この私を欺くとはやるわね! 賢いじゃない!! でもこれじゃ今○にいる人が正解になっちゃう! 何とかしなくっちゃ。

どうしようか? 考えるんだ! アリサ!」

アリサは一切動揺せずに、次にすべき事を考え始める。しかし、その思考を遮る様に……

 

「あら? 貴女は……? 昨日ホテルで会ったわねぇ」

 

 突然アリサを知っている様な口ぶりで声を掛けてくる一人の際立って筋肉質な女。

彼女は一体何者なのだ?

 

私の書いている小説です

 

https://estar.jp/novels/25771966

 

https://novelup.plus/story/457243997

 

https://ncode.syosetu.com/n1522gt/

 

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