magisyaのブログ

小説となぞなぞを投稿してます

なぞなぞの答え

答えです

お前これをしていて彼女の秘密を言いふらしたよな? 皆が驚いて心配してきたぞ! 彼女が妊娠している事は俺と彼女しか知らなかったんだ。だとすれば弟のお前が隣の部屋で

 

ねちつてと

 

をして言いふらしたんだろ? 言い逃れ出来ないぞ!

 

「す、すいませんお兄様……」 

これの答えは

ねちつてと→たちつてとのた、が、ねになている。→たが抜かれて、ねが入って居ると考えます。ここから

 

【た抜きね入り】

 

からたぬきねいり→狸寝入りとなります。

 

これ、小説四話を考えている時に思い付きました

なぞなぞです

なぞなぞのブログとして始めたブログなのに本当に久しぶりの投稿です。お手柔らかにお願いします。今回は暗号です

 

では早速

 

お前これをしていて彼女の秘密を言いふらしたよな? 皆が驚いて心配してきたぞ! 彼女が妊娠している事は俺と彼女しか知らなかったんだ。だとすれば弟のお前が隣の部屋で

 

ねちつてと

 

をして言いふらしたんだろ? 言い逃れ出来ないぞ!

 

「す、すいませんお兄様……」 

 

さて、【ねちつてと】とは一体何の事でしょうか? 答えは2日後に出します

フランケン・アヒム・シュレイネーゼのラストアタック

「当然それ以外にも理由がある」

「何だリキ?」

「情けない話だ……一人では唱えたくても……唱えられない……のだ……」

「えっ?」

「な?」

「足りないのだ……」

「足りない? え? ま、まさかMPが足りないの?」

「ああそうだ……普通に考えてこの体格の男の最大MPが高い様に見えるか? 体力と筋力だけのパワースタイルだと言う事は一目瞭然であろう」

「い、言われてみればそうよね?」

「リキ!!!!!!」

「ワシはそもそも魔法と言う存在を知ったのは、まだ一年とちょっと前だ。偶然立て込んでいて部屋まで持って来てとの事で、メデューリさんの所に料理を運んで行った時だ。彼女は美しい声で本を朗読していた。立て込んでいると言ったその理由は新しい本をどうしても中断したくないとの事でワシを呼んだのだろう。まあ少々釈然としなかったが、たまにはこういうのも仕方ないかと納得し、用事も済んだし出て行こうとも思ったのだ」

「べ、別に美しくないーリ」

「いいや。そなたの声は、美しい。だがしばらく出て行かずにずっと彼女を見てしまっていた。と言うよりは出ていけなかったのだ……彼女の朗読の心地よさで、足を止めてしまったのだな。その時読んでいたのが呪文の本。その時初めて呪文と言う物。魔法と言う物があると知った。それを調べている内に、死の呪文の存在も知る事になる。これなら証拠不十分でそなたを葬れると漠然と思っていた。だからそれを切っ掛けに彼女の部屋にちょこちょこ入っては呪文の仕組み等を教えてもらおうと思って、本棚から読んで欲しい呪文書を持って行っては読んでもらった。その時、彼女の口癖の

【ワシ】

と言う一人称が伝染ってしまったのかもしれないな。元々、狂う前は【俺】だったからな。彼女との読書時間は本当に楽しかった」

「じゃあその一人称は読者さん達をメデュさん犯人説にミスリードする為のあれじゃなかったんだね?」

「メタ的な事を言うでない。だが殺人が目的なのにこんなにほのぼのとした感じでいいのか? とも思うようにもなってしまったよ……その楽しい時間を過ごせば過ごすほど罪悪感が増していく感じがした。何故だろうな? ワシは自分の家を取り返す為だけに行動していただけなのに、やっている事はただの部屋に住み着いてしまった害虫駆除をしようとスプレーを構えている段階なのに……まだ事にも及んでいない、本当に始末すべきかそれともずっとこの状況で耐え続けるかのどっちつかずで迷っていたあの時の情けない状況でも、ここまでの罪悪感を感じてしまっている……全てはそなたさえいなければ生まれる事の無い罪悪感だ。家を取り戻すと言う目的同様、この平和な時間も気兼ねなく過ごす為にもやるしかない。と、決意を新たに固めたのだ」

「でも、そんなところまで準備したのに、唱えたくともMP不足だって気づいたのね?」

「ああ。人には得手不得手がある。ゲームのキャラクターでも一般的に力や体力が伸び易いのが男性。そして、魔力や素早さが伸び易いのが女性と言う様に……明確に違いがあるな? だがそれはゲーム内だけの話……と思っていた……だが、それがリアルでも思い知らされてしまった……ワシが魔力を伸ばすには、アニメのハソターハソターで言えば、強花系が新たに捜査系や具現花系を極めようとする位に困難を極めるとの事……幾らベンチブレスで200キロのバーベルが上げる事が出来ても魔力は上がらないのだ。もどかしかったよ? 努力しても報われないのだと悲憤慷慨した……」

「そうよね? あんた、毎日3階のトレーニングルームでトレーニングしてたんでしょ? そんなあんたが急に魔力を鍛えるのは大変よね? ノートにもトレーニングの記録が残ってて、ほぼ毎日、確か今日と昨日以外に何かの回数が書いてあったけど、あんたが残した記録でしょ?」

「そう、それこそワシのストレス解消法だからな。迷いが出る度にそこで無我夢中で鍛えたよ」

「で、昨日と今日の記入欄に何か訳の分からない言葉があったけど、多分その日はお休みしてたの? 事件の準備とかの為にやっていなかったんでしょ?」

「そうだ。恐らくRuhetagだな?」

「るーへたぐ? そんな感じだと思う」

「Ruhetagはドイツ語で休日と言う意味だ。君の言う通り、あの事件の準備をする為トレーニングを休みにした。だが、ワシは怒りを鎮める為にほぼ毎日鍛錬を怠らなかった。だがこの果てには奴を力で仕留めるだけの未来しか待っていない。それではいかに巧妙なトリックで殺害したとしてもいつか足が付いてしまう。だからメデューリさんに習った魔法で仕留める事に考えを改めた。だが、ほんの1年前に思い付いた事。MPの最大値の成長はそこまで捗らなかった。だから思った。協術でなら死の呪文を唱える事が出来るとな。だがそれにはそなたとある程度の会話をせねばならぬ。もし突然ワシが饒舌に話し始めたら確実に警戒されるとな。故に、そなたの見ている前でも喋る事が出来なくなった事を克服しようと言葉の勉強をしている様子を見せつけた。これで一対一で話す時にも警戒されずに済むと考えたのだ」

「なる! あの時結構喋っていたなあと思っていたけど、日々の練習の成果が出たんだ位にしか思っていなかったよ……直後にあの美味しいお菓子を食べたからね? そこでもう思考停止しちゃったよ」

「だから協術でやる以外なかったって事なのね?」

「いかにも。情けない話だ……」

「MPが足りないが故に思い付いたと言うトリックだったって事だったのね?」

「そうだ。こいつのMPを利用しつつ、更には対話形式で協術を行う事で長い詠唱を気付かれない様にした訳だ。まさに一石二鳥。そして初めてネクロノミコンを見た時に驚いたのだが、死の呪文の詠唱内容が市田の口癖と似通ったワードが非常に多かった。偶然にもな」

「確かにそうよね。死神のが【ま?】、振るいか【ブル】、うし【な】われる、冥界の【おうよ】彼の神【使わせよ】とかねwあんなに都合よく口癖と呪文のワードが被る事って珍しいわよ!」 
確かに。偶然にしては出来過ぎている。だが、これは何者かの強力な力が働き、強制的に市田の言葉使いが都合よく選定された気もする。が、当然、気のせい。生まれ持った癖だと言う事なのであろう。

「この癖を見極めるのは難儀だった。だが全てはこの屋敷を取り戻す為」

「でも、この協術さ、市田さんの負担が少ないよね?」

「それは仕方がない。多く喋らせたら気付いてしまう可能性もある。故に折半ではなく、ワシの方が多めにMPを負担した。だがMPを失い効果が発揮出来ぬとは……口惜しい物だ」

「おうよ! でも君は相当脳内でシミュレートは繰り返しただろうがな……見事死神まで召喚し終えた。だが、妄想とリアルでは違うのだ! 思い描いた通りにな|る《・》|ほ《・》どこの世は甘くない。その証拠に詠唱にかなりの途切れや間もあった。それが原因じゃないか? 失敗した魔法は、もしそうであったとしても詠唱した者には成功と全く同じ効果で発動したように見える。だがそれは見た目のみ。見た目は同じでも、多少効果は落ちるのだ。死の呪文であれば、正常に発動すれば完全な死。でも不十分なら、瀕死状態にするまでで留まるのだ。同じエフェクトで気付かなかっただろうがね。まあ、グレードダウンしたと言う事だろう! どうやら貴様の

【長い事温めた計画】

は、私を殺すには

【1】

足りなかった様だな!! これは君の欠点でもあり、良いところでもあるんだ! さっき君は散々1足りない事を悪く言っていたけど、このように良い事もあるんだよお」
かっこいい市田

「クッ……それは同時にワシに取っては最悪な事だったのだがな。」

「私は何もしていない。生きていて良いんだよお」

「また言ってる……」

「な? 何がだい?」

「あんたまた思い通りにな|る《・》|ほ《・》どってwるとほを立て続けに言えないんじゃなかったの?」

「そんなの言えるに決まってるじゃないか! 君があんまり【なる】って言う言葉に批判的だからそういう可愛い嘘を突いただけだよお」
開き直ったか……

「可愛くないし、誰も得をしない嘘よ! 謝罪しなさい!」

「わ、悪かったよお……そして、フフンケン! そのほぼ覚えたての【死の呪文】で幾つもの呪文を修めている私を倒そうと言う愚かな考え方も、君の1足りないところだ、と言う事は? そうだね? これは、君の魅力でもあり欠点でもあるんだよお!」

「何度も何度も……い、言わせておけばああああ」

「そしてあの呪文【自体】も私を殺すにはHPが1足りなかったね。それがその呪文の欠点でもあり……」

「くどい! そなたが生きている時点でそれは分かる」

「あの長い呪文を、私との協術で唱え切ろうとすれば、どうしてもどこかでほころびは出てしまうのだ。
そして、あの時恐らくフフンケン君は緊張していた筈だよ? バレたら一瞬で返り討ちになると分かっているから」

「……確かにワシは冷静になり切れていないところがあった。何度も練習して完璧にしたと思っていたのに、詰まってしまった……そのせいで詠唱が神に通じず正確に発動しなかったという事か……くそっ、もっとスピードが必要だったか……だが、慎重さを欠けばミスは増える……難しい物だ? あ、足が動かない?」
フランケンの足には黒い影のような手が伸び絡みつき、その動きを止める。

「ただ貴様と仲良くおしゃべりしていた訳ではない。私も登場する直前に貴様に向けて詠唱を行っていた。貴様も知っているとは思うが、魔法はある程度心得ている。これはお礼だ。足枷の術だ。貴様の両足はもう動かない。今だから言わせて貰うが、君達の語尾を1足りない状態にして言わせようと思ったのはフフンケン! 君を見て思い付いたんだよ?」

「何だと?」

「君はたかがドットで描かれ、プログラムにより特定のスイッチを押したら動き出し、脚本家の書いたテキスト通りに喋るだけのキャラクターのセリフ程度に絶望し、自分の人生の大半を無駄にしてしまった。そう、2次元の……平面の絵に心を壊され、ずっと立ち直れなかった。そんな物、本来3次元の……自分のリアルの人生で悩むべき事じゃないか? だから思ったのさ、この男は1足りない奴だってね。そう、一次元足りない情けない男だって思ったのさ。現実を見ず、2次元のキャラクターに感情移入する暇など本当にあったのか? ゲームはゲーム。と、割り切り、現実を楽しく生きる事すら出来ない半端者なんだってね。だから思い付いてしまったんだ」

「き、貴様!」 

「そんな秘密があったニイ?」

「だが市田よ? ワシはもうフンガーからフランケンに戻ったのだ! そうなれば返すと言っていた筈だ。この時点でもうそなたの物ではないぞ? 屋敷を返せ!」

「そうだな。思い返せばこの屋敷は君に返そうとも思っていた。でも無実の私を殺そうとしただろう?」

「く……」

「ろくに話し合う事もせず、陰でそんな恐ろしい考えに至ってしまう君にはこの素晴らしい屋敷は相応しくない! この屋敷は引き続き私が管理する!!」

「話が違うだろう!」

「君は殺人未遂で逮捕される。せめて罪を償い終わるまでは預かっておく事にするよ? それなら問題ないだろう? そして、この魔法はそう簡単には解けないよ。そこの刑事さんが手錠を掛けて下さるまで大人しくしているんだな」

「結局詭弁……この屋敷に未練があるか……醜い……まあいい」
ゴゴゴゴゴゴゴ
禍々しい黒い光が後ろに組んで見えないようにしたフンガーの両手に集まる……誰もそれには気付いていない。

「フフンケン君……足の動きを封じられているリキ? そんな状態でどうして余裕なんだリキ?」

「上半身さえ動けばいい。しかしサキュバスさん。語尾、戻ってしまっているな。やはり洗脳はそう簡単には解けないと言う事なのだ。やはり、貴様は、どう考えても、この世には、要らない!!」
ポウッ そう言いつつフンガーは懐から禍々しく黒い逆さ十字架を取り出す。そして市田に向け何やら唱え始める。

「?」

「死神の|蝦蟇《がま》振るいかぶる時に空間凍り付き、全ての生命失われるだろう」
フランケンは、物凄い早口で市田の部屋で放った呪文詠唱を開始する。だが、先程の話からすれば一人では魔力不足で使えない筈だが? だが彼は止まる気配はない。

「血迷ったかフフンケン? MPが足りないのに何故そんな事をする? まさかこの土壇場でHPを削ってMPに変換するという特技でも閃いたとでも言うのか? いや、そんな気配はない……ただ私の言葉に怒り、|自棄《やけ》を起こした様だな。まあいい。同じ過ちはしない。貴様に実力の差を教えてやろう……」(しかし異常な速さ……間に合うか……?)
ヴォオオオオオ……市田の両手からも強力な魔力が発生する。

「フン……フランケン!! もう市田さんが悪くない事は分かってるんでしょ? 彼はちょっと気持ち悪い言葉を使うけど、心優しい変態なんだよ? ここでもし市田さんを殺しても現行犯だよ? 刑事さんや皆も見てる! これで言い逃れは出来ないわ! 止めて!」
しかしフランケンは首を横に振り続ける。

「大いなる冥界の王よ、汝、十字架に封ぜられた力、今ここで開放した」(理屈では分かっておる……だが、感情が抑えられぬ……)

『母なる陽光よ、そして、天より降り注ぐ清浄なる雨よ』
市田もフランケンの詠唱を見た後で少し遅れて詠唱を開始する。だがその割には動揺が無い。

「これを|標《しるべ》とし、この地に|彼《か》の神遣わせよ!」 
フランケンと市田。両者の魔力が室内で暴走する…… 

『災厄に立ち向かう勇猛果敢な者に』

「我は此処に……我は……此処に!!」 
黒い靄が市田とフランケンの間に湧き上がってくる。

『全ての闇を滅却せしめる……虹色の加護を、与えたまえ! はああああああっ防術泡沫! 〇レインボウ・バブル〇」
ポワン

フランケンより後から詠唱したものの、市田の魔法が先に発動する! それは虹色の光沢をした泡の様な透明な膜が、彼の全身を優しく包み込む。これは防御効果のありそうな魔法であるな。
成程。死の呪文の詠唱が長すぎる故、菓子とトッピングを使い、言葉を誘導したトリックで詠唱を市田に気付かれないように唱えておく必要があったのだな。そうでないとこの様に先に唱えても相手に先を越されてしまう。

「フフンケン! 詠唱を止めよ! 跳ね返るぞ!!」
しかし、フランケンは止まらない……どうなってしまうのだ?

「この罪深き命、贄と捧げる! 我は望む。逆さ十字架の導きの下に|彼《か》の魂、未来永劫、冥府の|淵底《えんてい》に繋ぎ留めよ!! 出でよ、死を、司りし神!!!」 
     
              【アルヴァデカ・ダーヴァ!】

呪文は、間違いなく発動してしまう。先程の彼の話は嘘だったのか? そして、靄から黒いフードを被った骸骨が姿を現す。両手には大きな蛙を持っている。それは、まさしく

【死神】

「あれは何だリキ? 蛙と死神のコンビリキ?」

「な、なんだこの化け物は? く、くそう……男竜牙昇、ここで逃げては男が廃る! うおおおおおおおお」
竜牙が蛙を持った死神に、手錠と警棒を武器にして飛び掛かる。しかし、拳銃を敢えて使わない理由は何だろうな?

「うわああ」
フワッ ドガ
竜牙は骸骨が軽く手を振った瞬間、数センチ浮いた後に壁まで飛ばされる。

「刑事さんには恨みが無いんだがね。離れるがよい。死ぬぞ?」

「うう」

「あなたではなく風原警視が来てくれれば遠慮しなかったんだがね」

「えっ? 何で風原警視の事を?」

「ちょっと昔に色々あってね。まあ今は市田! そなただけはここで終わらせる。行け! ガマよ!!」
ぺローン!!!!
死神はフランケンの掛け声に呼応し市田目掛けそのガマを振り下ろした。ガマはそれが合図と、舌を伸ばす。
が……虹色の泡に難なく弾かれ舌が全く別の方向に吹き飛ばされる。
ポヨーン 

「あっ」
ひゅんひゅんひゅん
舌は泡に弾かれ、鞭の様に|撓《しな》り、弾かれる。その先には……

「な? 逃げろ!! アリリ!!!!!」
ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅん……ペロン……
蝦蟇の舌はアリサの頬に優しく触れると、役目を終えたと悟り、死神と共に消えてしまった。
市田の叫びも虚しく……一つの小さき命の鼓動がこの瞬間……

パタッ

消えた……

「あっアリサー!」
舌は導かれる様にアリサの元へと飛んだ様に見えた。これはまさかアリサの行っていた悪行。泉の精霊に嘘を突いて金の斧を受け取ると言う、刑法235条窃盗罪と刑法169条偽証罪
ネズニ男に臭いなどの暴言で、刑法231条侮辱罪。更にはその金の斧で攻撃した、刑法208条暴行罪などを行ったツケが回ってきてしまったと言う事なのだろうか? だが、命まで奪う必要はあるのか? 余りに、酷過ぎる……

「死神の蛙の舌がアリリちゃんに? なんて事だ……私のせいだ……本当ならフフンケンの呪文を封じる【魔ホトーン】を使って封じ込めると言う選択肢もあった。でも相手がそれに掛かるかは5分5分。だから、100%成功する自身に効果のあるレインボウバブルを使用してしまった……うっかりしていた……でもこのミスが私の欠点でもあり、魅力でもあるんだ」
フゥーーーーーーー……ま、目の当たりにすると良く分かる……どう言い訳しようとも許せぬ……この謝罪の一つもない定型文! 市田よ! まずは謝罪からであろう!!! こ、これはフランケンがこの男に対し殺意を抱いてしまう事も……分からぬでもない! 確かに市田は悪気がある訳ではなく癖で出てしまった言葉。だがその癖自体が人の怒りの臨界点を超えてしまう事も稀ではない。

「アリサ……こんな事になるとは……なんて事だ……フンガアア嗚呼アアああ嗚呼……」
咆哮し、両眼から涙がこぼれる。

「アリリ! アリリ!! 駄目だ……鼓動が聞こえないよ……フフンケン何故詠唱を止めなかった!」
うでを握り、脈を取る市田

「……育ったのだ」
何がであるか? まさか毛根か?

「な?」

「そなたとあの時一度唱えたが、熟練度が上昇していたのだ。それで、消費MPが下がり、自力でも一回だけ唱える事が出来る様になったのだ」
そうか、皆さんは覚えているだろうか? 妖服の間での話。市田とリキュバスが協術で辺りを暗くする呪文のカーミラを使用し、市田だけが熟練度が上昇していた事があった。協術と言えど、使用する事で熟練度は上昇する。その現象がフランケンにも起こったのだ。
消費量の高いアルヴァデカ・ダーヴァも神施魔法ではあるが、魔法と言うカテゴリに属している以上その特性があったと言う事。
どんなに最大MPを上げる訓練をしても届かなかったが、熟練度上昇による消費MPの減少まではフランケンも想定外だったのだろう。
魔法の事はメデューリに聞いてはいたが、実際唱えるのは初めてだったのだから。熟練度上昇もその時初めて体感した筈。
そして、その上昇で偶然フランケンの最大MPでも一回だけ使えるまで消費MPが下がったと言う事か……何と言うタイミングであろうか……バッドタイミングである……自分の能力が上がる瞬間。それを実感した時、誰でも嬉しくなるものである。だが、彼は泣きながらこの事実を語っている……こんな、こんなにも悲しい成長の瞬間が未だかつてあったであろうか……

「今……ここで……か……」
正にその通り……

「最強の死の呪文をやっと一人で使える様になった。貴様の防御呪文を、超えた……かった……試して……見たかっ……た……その薄っぺらい泡を突き破る程の魔力……ようやく手にしたと思ったのに」

「馬鹿が……お前はそんな事の為に……覚えたての貴様の魔力で私の……怒虎様の傍にずっと居て膨大な魔力を有している私に勝てる訳がないだろう……そんな下らぬ実験の為に命を落としたのだ……アリリはもう帰ってこない……」

「アリサ……まさかこんな事に……すまない……もう余力は無い。好きにしろ」
力を使い果たした彼は、眠りにつく。もはや抵抗する事もないだろう。

「こいつを取り敢えず警察に連れて行かないと……これは現行犯で逮捕で良いんだよな……うう、アリリちゃん……」
竜牙が泣きながらフランケンを背負い、パトカーまで運ぶ。

(…………あれ? この世の物とは思えない程美しい幼女が横たわっている……起きたらしっかりとサインとチャンネル登録して貰わないと……ってよく見たらこのお方……|私様《わたしさま》? え? え? どういう事?)
アリサの魂が、アリサの肉体から離脱し、見下ろしている。

(私死んだの? 早く体に戻らなくっちゃクッ!? し? 下へ引っ張られる? きゃあああああ)
アリサの魂は地面深くに引っ張られ、どこかに行ってしまった。

「この子の遺体はどうしよう?」

「とりあえず冷凍保存して、蘇らせる方法を探すドフ」

「分かったーリ。ワシの部屋の本棚に何か眠っているか調べるーリ」

「お手伝いするリキ!」

「そうだ! 血液! 抜いておかないとニイ」
流石元医療従事者。だがそれは大きな病院でやらなくてはならない。急いでほしい!!

「そうなのか? 分かったドフ! すぐに病院に連絡するドフ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(ああ、どこまで行くの? こんな、こんな事で終わる主人公なんて今まで居たかしら? 変な色の蛙のベロで即死するヒロイン……我ながら可哀想……このまま、地球の裏側まで行くのかしら? ママ、親父。いや、パパ、先立つ不幸をお許し下さい……もういいや……これはただの悪い夢だ。寝よう……)

沈む、沈む、涙と共に、ゆっくりゆっくり落ちていく。下る、下る、御霊と共に、行きつく先は天か地か……

〇〇〇〇〇〇

「そなた……いったい何故? ワシは幻でも見ているのか?」
声の方を一斉に向くと何と市田が立っていた。

市田さん? 生きていたの?」

「おうよ!」
未だかつて無い程に自信に満ち溢れたおうよである。

「そなた本物なのか?」

市田さん!! よかった……」

「僕は生きていると信じていたんだ!」

市田さん! 無事だったのか? ハッ……俺! 思い出してしまった!!!」

「な? オオカニ君? 何を思い出したんだい?」

「俺の変身って、好物の動物に変身したり人間に変身するんだ。で、動物はその種族に変身出来るけど、人間の場合、俺の知っている人の中で最もその食べ物が好きだと言う人物に変身するんだ。そして、既に死んでいる人の場合は変身出来ないんだ。
アリリちゃんに市田さんの部屋でコーヒーやマイナス1ーズンを見せられた時、市田さんに変身していたらしいけど、もしそれが本当ならその時市田さんは死んでいない筈なんだ。もし本当に死んでいたら、市田さんの次にそれらが好きな人物、もしくは生物になるんだ」
ほほう、複雑な設定だが、この事件を解決する事に特化した最高の特技であるな。だが皆フランケンの影響で語尾を言っていない。故に誰が喋っているかが分かりにくいな。こうしてみると語尾無しってのはとってもむずかしーと痛感する。

「じゃああの時市田さんは生きていたって事なんだ。ってかそんな重要な事もっと前に言いなさいよ!」

「ごめんとしか言いようがない!!」

「上に同じだよお。言い訳すら思いつかないよお……でも生きててよかったよお。何とか残り体力1で倒れていたんだよお……」

「何故……何故生きて……成功したのではなかったと言うのか?」

「あっ! おい! オオカニ君! フフンケン! そしてみんなも! 語尾はどうした!?」

「いけねっ! 付けてなかったリキ」

「何を今更……復帰してすぐそれか? リキュバスさん? もうそんなのいらない。しかし、相変わらずだな……本当に忌々しい……少し考えれば分かるだろ? 何故殺されかけたか? 自分の胸に手を当てて考えて見ろ」

「殺されるような事はしていないよお……しかしフフンケン、やっぱり語尾はやってくれないのか……? あの時は読者様に免じて許可したけど、こういう時はやってくれないと困るんだよォ! しかし、一番素直に聞いてくれる子だと思っていただけに残念だよ」

「子ども扱いするな! それにもうそんな訳の分からん物言う訳ないだろう? ゴミめ……」

「な? それを言うならヨミめ……か、ゴ二め……だろお?」

「屑が……黙れ!!」

「それはフランケンの言う通りだと思うわ……こんなのおかしいもん。ねえ市田さん……そろそろ教えてくれない? こんな時でも語尾に拘るのは何で?」

「ああ、それは簡単な事だ。この屋敷のルールだからね」

「それだけじゃ納得出来ない! ……そういえばどうしてお化け屋敷にしたの?」

「な? 突然だねえ そんなに知りたいの?」

「はいっ!!」
 
「分かったよ……アリリちゃんは妖怪一足りないと言う妖怪を知っているかい?」

「アレって妖怪じゃなくてそういう現象でしょ? 例えば……買い物していて財布を見たら一円足りないってなった時『ああ、妖怪一足りないだわー』って言うでしょ? それって妖怪そのものの事を言っている訳じゃないよね?」

「ま? そうだったの? 言われてみれば確かに……本当の妖怪だとばかり思っていたけど勉強になったよ……で、それをそういう現象とは知らずに妖怪市田理内と変換してしまったんだよお」

「へえ、それで妖怪のボスとしてお化け役を集めてこんな屋敷にしたんだね?」

「おうよ!」

「でもその妖怪達に語尾を無理やり言わせるのはどうして? 詳しく!」

「みんなの語尾は、彼らの名前の部分で1足りない文字を含めた2文字を語尾として付けさせていただけだよ」

「何でそんな事を?」

「お化け屋敷を立ち上げる際に面接をしたんだ。その時に色々な1足りないエピソードを語ってくれた。元暴走族だったり病院勤めで嫌になって逃げてきたりとね。でね? 初めて採用したネズニ君は普通に話していなかったんだよお。お化け役になる前から語尾にピカとかチュウを付けていたんだ」

「へえ」

「で、お化けに合った語尾は付けた方が良いと思うようになった。そして過去に一つ足りないエピソードを持っている人ばかりだ。だからそれを忘れない為にも、そう、過去の様にはならないと肝に銘じてもらう為に、この屋敷でお化け役として仕事するにしても、本来の正しい妖怪の名前から1を引いた名前を名乗らせる様に命じた。そして、ついでにドラキュラだったらラから一引きフに変えて2文字の語尾を発音させた。ドフキュラだったらドフって感じでね」

「どうして?」

「これは意味も意図もない厳然たるルールだからさ」(本当は一つ足りないと言う最高の響きを常に聞いていたいからって言う明確な理由はあるけど、みんなの前でそんな事言える訳ないよ……)

「結局そこに行きつくのね?」

「それを従わないとクビになるから皆従ってくれたよ」

「完全なるパワハラね。だから首が上下逆さになった市田さんのマネキンが置いてあったり、首のない人形があったり、ラジコンの駐車場にも市田さんの顔が描いてあってズタズタにされていたり、フンガーの部屋のまな板にも同じものが書いてあってズタズタにされてたし、兎に角皆あんたをよく思っていなかったと思う。あれはささやかな反抗だったのかもね?」

「な? そうだったんですね……では、少しルールを緩める事にしますよ」

「それがいいと思う……でもネズニの語尾だけそのルールから外れている気がするのよね」

「な? ああそれか。ネズニ君には〇〇ズニって言って欲しいってお願いしたんだけど、断られちゃってねえ。クビにすると言っても動じずにこのスタイルで行くでピカと……だから仕方なしにこの状況で妥協したんだよお」

「そうなんだ。納得したわ」

「お、おい、ワシを無視して雑談するでない!」

「お? そうだったな? すまないね。だが、貴様を含めみんなも私が死んでいたと思ったのか? だとすれば私が倒れているところを発見後に偶然誰も居なくなった時に丁度意識を取り戻したんだろうな……」

「多分そうね。鑑識の子が、鍵を掛けて密室になった後に居なくなったから、皆びっくりしたんだよ?」

「ま? それは済まない事をした。こんな私を心配してくれていたなんて……もう語尾とかそんな拘りはこれっきりにしようと思う。みんな済まない……」

市田さん……こんな時にあれだけと、ずっと使っている内にちょっと気にいってしまったカニ。このままでも構わないカニ!」

「そうか? その辺は自由でいいさ。これからは語尾を付けなくても注意しない事にするよ」

「了解ドフ」

「ちょっと待ってニイ!」

「どうしたんだニイラ君?」

「僕、市田さんにホイミイラを掛けた筈ニイ。1残っていたなら意識を取り戻すなのに、回復した筈なのに……どうしてねたままだったんだニイ?」

「ああ、あの時、瀕死+睡眠状態だったと思うんだ。体力が物凄く低い状態で眠り。体力を戻す為に体が取った最善策だと思うよ。だから仮に回復したとしても目を覚まさなかっただろうな。確かにごく少量は回復したと思う。だが、恐らく正しい詠唱をしていなかったんじゃないのか? 聖霊に間違った詠唱を聞かせれば効果は激減する筈だよ?」

「あっ」(そうだ……【この小さき】の部分を変更した結果、効果が減少してしまったと言う事かニイ……聖霊達も、余り聞きなれない詠唱だと効果を弱めてしまうんだニイ。でもそれが分かっただけでも新たな学びがあったって事で良かったと思う事にするニイ……)

「だがニイラ君のホイミイラのお陰で、少し遅れて意識を取り戻した私は、隠し階段を下り、外の倉庫へと逃げた」

「隠し階段だと? そんな物知らないぞ?」

「それはそうだ。机の付近にあるのだが、最近極秘で作らせた物だからね」

「何故だ?」

「念の為だよお」

「迂闊であった……そんな事に気付けぬとは……」

「あっ、そういえば床にこぼれてたコーヒーが円状ではなくって不自然な染みになっていたけど、あの下が隠し階段ね? その下が空洞になっていて、本来楕円型に残る染みがその隠し階段の蓋の隙間からこぼれて、ブーメランっぽい形の染みに変わってたんだ。って事は、その入り口は、机の下のコーヒーの染みの傍あるのね?」 



この現場でアリリの言った部分をよく見て欲しい。



これは机の付近を拡大した物だ。分かり易い様に椅子をどかし〇で囲った部分である。コーヒーが不自然に途切れているのが分かる。ここから流れ落ち、不自然な形にコーヒーの跡が残ったのだろう。この薄い線は、隠し階段の入り口である。

「おうよ!」

「もっと丁寧に調べるべきだったわ。あれ? そういえば、犯人は分かっていたんでしょ? なのに甦ってすぐ何で私達を呼ばなかったの? 隠し階段なんかに逃げなくても……」

「ああそれかい? 私も蘇った直後混乱していたのかもしれない。とにかく部屋を出たらフフンケンが待ち伏せしているんじゃないか? 七合わせするんじゃないか? とか、もしみんなに報告したら大暴れしてみんなを殺してしまうんじゃないかと思ったんだよ。私は姿を隠し体力を回復させるのを本能的に優先したのかもね?」

「七合わせって……鉢合わせかの事か……」

「そうだよお! 鉢合わせと言おうとすると脳内で自然と七合わせに変換されて言っちゃうんだよねえ」

「もはや病気だ」

「でも市田さんあんたフンガーとそのお父さんに酷い事したんだよね?」

「な? していないよ? 彼は私に屋敷の事は快諾して譲ってくれた。彼は私の小説の大ファンだと言ってもくれた」

「そんな嘘を信じると思うか? 父は遺書を残している。そこにはお前に騙された事を暗号で事細かに記されていた本当の事を言うのだ!!」

「な? ならさっきの事は嘘だよお……」
ぬ?

「あっさり認めたわね。結構足搔くかと思ったのに……」

市田と言う男はこういう男なのだ。心底軽蔑している」

「だ、だが私のファンと言うのは事実だ。で、必死に頼み込んだけどここは譲れないと言って来たんだよお。
で、お酒を一緒に飲みながら交渉していたんだけど、譲ってくれ! 駄目だ! の言い合いになり、最終的に君の父親は上着も持たずに出て行ってしまった。自分の家なのに私を追い出そうとせず自分が出て行ったんだよお」

「お前がしつこ過ぎたせいで顔を見るのが嫌になったのだ。そのせいで父は……」

「それは今になって気付いた事だよお……申し訳ないと思っているよお。で、体温が酒で上昇していて、上着を着る必要が無かったんだと思うよお」

「それで冬にその状態で酔っ払って眠っちゃったって事なの? じゃあ本当に事故って事? じゃああのメモはフランケン? なんて書いてあったのか詳しく教えて?」

「ぬ、ううう……ま、まさか……ではあの遺書の真の意味は……この内容

【奴と口論の末路頭に迷い、どうしていいか分からない。すまない】

これは本当に酒が入った事を気付かず薄着で冬の街を出歩き、倒れそうになった時に書き残した遺書だったと言うのか?」

「状況的にはそれが一番近いわね……上着の中に携帯を入れていたから連絡も取れず震える手でメモを残した? ってのが一番しっくりくるわ。市田さんとずっと話していたけどそんな人には到底思えなかったし、裏表があるようにはどうしても思えなかったの。でも市田さん? 上着を忘れているとか教えればよかったんじゃない?」

「ま? そんな事言われても物凄く早足で出て行ったから追いつけないよ……何度も言う。私は彼を殺していない。ただの悲しい事故だったんだよ? だから殺される筋合いはないんだよ? ろくに調べもせずに、遺書を勘違いして私を恨んでしまった。君のそういうミスは君の欠点でもあり良いところでもあるから仕方がないけれどさあ! まあ私も折れなくてはいけなかったかもしれないけど、どうしても欲しかったのだ。君も男なら分かるだろう? 本当に欲しい物はいくら待っていても絶対あっちからは降りて来ない。自分から取りに行かなくては駄目なんだ! そんな常識的な事をやっただけ」

「クッ、だが、貴様はワシに父は直ぐには戻れない仕事があると嘘を言っていたではないか!」

「それは交渉中に、お願いの話を切り出す前の雑談で偶然その話をしていたんだよお。そして本題を切り出したら口論になり、出て行ってしまった。だから彼が居なくなった時、その仕事を専念していると思ったんだよお? ニュースで死んだ事も私は知らなかった。テレビは見ないんでね。時間が空けば執筆しているからね」

「だが、あのゲームをあのタイミングでワシにプレイさせた理由は何だ? 唐突過ぎるだろ? ワシが心を痛め、この屋敷を我が物にするつもりだったのでは?」 

「それに関しては申し訳ないと思っている。でもわざとじゃない。面白いと言う噂で買っただけだよ? それに新発売のソフトだったじゃないか! そんな噂が出る前のさ。内容は私は知らなかったんだよお! それに君の父が亡くなった事は喧嘩別れして2か月位した後警察が来てその時に初めて知ったんだよお?」

「た、確かにそうだ……ぬうう、ならすぐワシに家を譲れば……そうか……その直後ワシが心疾患の芝居をしたから、譲りようにも譲れなかったと言う事か?」

「おうよ! 君が元に戻ったら返却するつもりだった。でもそれを分からずに、今に至る訳だね」

「だが信じられぬ。タイミングが良すぎる……ここまですれ違いがうまい事生じる物なのか? こんなのアンジャッスのコントではないか……全て策略だと、貴様が綿密に計画を立てて実行したと確信していた……だからそう思われても仕方無いだろう?」

「君は頭が良すぎたんだ。深読みして逆に失敗するパターンに陥っていただけ。
で、私は君のその勘違いから来る的外れな殺意を受け、瀕死になるまで弱っていた。でも今考えたら君にも少し迷いがあったのかもしれない。そのお陰で、死神の攻撃を直撃しても死から1足りない状態で生き残る事が出来た……本当に1足りないと言う現象って素晴らしいよね? 最高だよ……後1減れば死んでしまうと言うのに助かってしまうんだから……」

「1足りない現象が素晴らしい? まだそんな世迷言を……ではもし買いたい物が目の前にあり、すぐに売り切れてしまう中。財布を見たら1円足りなかった。どうだ? これでも喜べるのか? RPGで強敵を後1まで追い詰めたのに、そこから逆転されたら嬉しいか? 製品に一つ部品が足りぬまま客先に届けられた場合どうなる? 例えば、扇風機にファンが無い状態で家に届いたら、電源を入れても、ファンを取り付けるモーター部分のみが虚しく回転するだけ。
それで電気代が掛かる。浪費しただけでちっとも涼しくはならぬのだぞ? 当然返却され、ファンを取り付けた後に再送。この工程でどれだけの無駄が生じるか? そなたでも分かるだろう? 全ての物に1足りない状況が最高だとは言えないのだよ。いや、更に言うならたった1が足りないだけで目的を達成出来ない。それ程悔しい事は無いだろう? あと一歩のところまで進めたと言うのに、今までやった苦労が水の泡になる。
テストで500点でなかったら不合格のテストがあるとする。200点しかとっていない奴はそこまで悔しくはないだろう。だが499点を取った者の悔しさは尋常ではないだろう? 男で身長170cmあれば人権。だが169では人権が無いと言い炎上した輩もいる。その後その発言は叩かれ、その人物の仕事も減少したが、内心そう思っている人間も少なからずいる。悲しい事だがな。
そんな事もありえるのに、1足りない事こそ、そう、

【最も合格に近いのに不合格とされてしまう】

最悪とも言える事象なのに……そなたがどういう状況でその異様な状態を好きになったか分からぬし、分かりたくもないが、他人にその考えを押し付けるなど言語道断なのだ!」

「別に分かって貰うつもりもないよ。でも私にとっては最高の状態だったんだよお。君は一足りない事が悪い事ばかりだと言っているけど私はその現象のお陰で生き延びる事が出来た。他にも色々……怒虎様は私に教えてくれたんだよお?」

「怒虎?」

「フランケンは知らないんだね? 私が奴隷として仕えていた大きい猫の神様だよお」

「何だそれは? その化け物の教えで今のそなたが存在すると言う事か?」

「おうよ! あのお方は私が食事を届けに行った時、一品忘れて届けてしまったんだよお。で、空腹で叱られるかと思ったら、こう仰ってくれた。

『ちょっと食べ過ぎて太って来たから一品位足りない方が良いニャン』

とね。本当はお腹いっぱい食べたかった筈だけど、怒る事無く考えを改め、ポジティブシンキングに変換しているんだよお」

「なんだ……下らぬ話を……」

「他にもある。彼らはスイーツの美味しいお店の行列に並んでいたら、一つ前の人で売り切れになった時があったんだよお。本当ならその行列など掻き分けて一番乗りに買う事も出来る程の力を持つお方がだよお? でもルールに従い買わずに山怒虎軒に戻った。そう、後1足りなかったけれど、そんな事では怒らず、並んでいる間、前の人と話をしていて、

『同じ甘党と言う趣味を持つ仲間と沢山話せて良かったニャン』

と笑顔で仰っていた」

「それがどうした……」

「その話を聞き、一足りないと言う事は素晴らしい事だと思う様になったんだよお。両親が理内と言う名を付けてくれた事を誇りに思っている位に……そしてその考えを更に固めたのは怒虎様が封印されて帰らぬ神となった時だ。その時、どんなに頑張って仕えても、予期せぬ第三者の介入で突然終わってしまう事もある。だから、頑張る事はこの時点で止め、一足りない位の頑張りでいいやと考える様になったんだよお」

「成程、そなたも元々は普通の人間だったと言う事か……あんな事件が無ければな……だが他人にその思い出を語り、その思想を押し付けるのはおかしいではないか?」

「もしもおかしいとしても、そんな事で命まで狙われる筋合いはないよお。で、隠し階段の先から庭に出て、そこにある倉庫の中で仮眠を取った。暫くしたら中の食料を食べて回復しようとしたのだが、貴様に腹一杯ご馳走を振舞われたお陰で中々食べられなくてね。しかも貴様が出したあの焼き菓子のレベルが高すぎて倉庫に眠っていた非常食の乾パンは硬くて味がしなくてで全く食えなかったぞ……満腹の時の味のしない物は、別腹どころか本腹でも入らないと言う事だな。フフンケン! またあの菓子をご馳走してくれよ?」

「あれはもう作れない。もうあれだけの材料はもう揃わない。そなたの人生の最後の味は、あの菓子で締めくくっておけばよかったのだ」

「そうか……残念だ……誤解と分かっても私を恨む気持ちは消えないと言う事か……少しは冷静になれ。事実は違ったのだから……」

「分かっていてもどういう訳かそなたへの殺意が消えぬ。恐らくこれからも」

「そうか。まあいいだろう。少し落ち着いたらその気持ちも変わると願いたいね。で、仕方なしに、乾パンを一枚食べた後再び眠り、貴様の気配が無い隙に、廊下にある洋館の羊羹をかじり、魔力を回復させた。甘い物は主にMPを回復させる効果があるんだよお。アリリちゃんが呪われた時に解呪の呪文が出来なくなったニイラ君もそれで回復させたでしょ?」

「そうなんだ。じゃあしょっぱい物が特にHP回復って感じかしら?」

「そうだよお。それに甘い物は別腹だからね。そして、羊羹をよう噛んでいたら何か更に空腹になってね、2階と3階の間に設置しておいたミニステップのカニサンドにも手を伸ばそうと思って行って見たんだが無くなっていたんだよお。
もしかして誰か食べたんじゃないか? あれはお客さん用なんだけどねえ」
ギクゥ

「私じゃないよ?」

「俺は知らないカニ? アリリなんじゃないカニ?」

「違うよ」
いや、アリリなのではないだろうか? 空腹で無意識の内に食べたと言う可能性も0ではないしな。だって私はあのカニクリームチーズとレタスの挟まれたとっても素晴らしいサンドウィッチなど一口たりとも食べておらぬし……ゲップ……

「まあいいや。誰かがあのサンドを食べて幸せを感じてくれれば、私も最高の気分になれるんだ」
何と……素晴らしい思想である。市田さんは実はとても良い男で、フランケンの父親を殺した悪人では無いのかもしれない。

「そうだったんだ……あれって館に来たお客さんに振舞う筈の物でしょ? でも自分の為にもなったって事ね?」

「おうよ! 備えあれば患いなしで嬉しいなだよぉ!」

「ま、まさか……やはりあれでは完全ではなかったと言うのか……?」

「おうよ! ニイラ君のホイミイラも詠唱が少し違う事で効果が落ちた。そしてフフンケン。君は死の呪文を協術でやろうとしたんだな? 無謀な事だよ!」 

「ああそうだ。更に協術は欠点がある」

「欠点って何だドフ?」

「あれは詠唱開始すると、協術者間で均等に少しずつMPを消費してしまう。そして、死の呪文の消費MPは莫大。故に詠唱する度にかなりの疲労が訪れる。そなた程の術使いなら当然それに気付いてしまう」

「なる! それを解消する為に私に高級菓子を振舞いつつの協術を企てたと言う事か」

「えっ? どういう事リキ?」

「そうだ。人間は、食事を摂る事でHPやMPが回復するのだ。だが10時と言うワードを引き出す為にどうしても夕食後の、就寝前の時間に始めなくてはならない。まあ朝でもよかったが、その時はボケ人間コンテスト会場におったから夜にしか出来なかった。まあ、どちらにしてもそこまで空腹ではないタイミング。その満腹状態のそなたにも甘い物なら別腹だと言う事は知っていた。だからMPの回復効果のある甘い菓子にしたのだ。そして物を乗せられるよう平らにし、割れるよう程よい硬さの焼き菓子を作らせた。当然多少満腹気味でも無理しても食べられるように、最高級の材料で作り上げた。トッピングのレタゼラのゼラチンもカニも牛肉も最高級品だ! それは1年もの間そなたの好物を研究していたので簡単だった」

「成程、あの会食形式で、時々に菓子にトッピングを追加し味を楽しんで貰うと言う殺人計画は、ターゲットの口に物が入っている事から、必要最小限の言葉しか喋れないようにした上で、自分のタイミングで必要なワードを引き出す事も容易な状況にしたのドフ? で、怪しまれる事なく死の呪文を完成させたと言う事ドフ? 更に協術で消費したMPを補填させる効果があったドフ? だが、MPが減っても、食べる度に瞬時に回復していたと言う事になるドフ? 私はそんな事初めて知ったドフ。こんな細かい事まで調べ尽くしたのかこの男は? 何と言う執念ドフ……その結果、あの市田さんでもMPが減ってしまった事自体が気付けなかったと言う事ドフ?」

「おうよ! してやられたね……ただの家事手伝いだと思っていただけに驚いたよ。そういえば君は少しずつ言葉が回復しているようには見えていたが、あの時は流暢過ぎたからな……その時に怪しむべきだった……だが、その前にあの菓子を出され、思考が乱れてしまったのかもしれない」

「この屋敷の正統後継者を家事手伝い呼ばわりか……クズが……だが、ここまで上手く行ったのに……何故だ……」

「あの長さの神施魔法を協術で詠唱し切ると言う芸当、恐らく人類初の試みだ。それはお前でも分かっている筈だ。初めてでやるには長すぎたようだな。実際試してしまったら罪のない人をその呪文で死に至らしめる危険性もあるからな。ぶっつけ本番しかないだろうな」

「そうだ、練習等出来ようもない」

「当たり前よ! ただの実験で人を死なせてしまう訳にはいかないもん! フンガーは優しいんだから!」 

「アリサよ。先程言った通りワシはそこまで優しくない」

「優しいって! あのさ、基本的な質問で申し訳ないけど、お互いの会話で上手に繋げたとして、それが呪文と同じ発音になるだけでもしっかり呪文になる物なの? リキュバスさんと市田さんも妖服の間で暗闇にする魔法を協術で唱えてたけどしっかりと文章ごとで交代していたわ。でも【わしにがみのが】って、中途半端じゃない? 文章をぶつ切りにしているわよ? それに聖霊に訴えかける詠唱じゃなくって、私は苦みの方が。って言う事を市田さんに伝えただけでしょ? それなのに精霊って反応してくれるの?」

「鋭いな。よし、それは、マジかよ樽ルートくんの召喚の言葉で説明出来そうだな」

「どういう事?」

「彼を呼び出す時に唱える呪文と言うのが、【ほんとに困ったウホー】と言う言葉なのだ」

「あああれかあ。知ってる知ってる」

「だがその事は誰も知らない。それでも主人公の大阪城本丸と言う少年が「ほんとに困った……」と言った後、寝室で寝ているゴリラが寝言でウホーと言っただけで【ほんとに困ったウホー】と言う呪文として成立してしまい、偶然にも樽るーと君が召喚されてしまった事例がある」

「成程ねえ。じゃあ意味合いは違っても、その発音になる様にすれば、死の呪文も発動するって事ね? だから自信満々で協術を使う事に躊躇わなかったって事かあ」

「いかにも」

動機 後編

「おご草と|天草《てんぐさ》で作られた最高級寒天【白雪】だ」

「し、しらゆきぃ? な、何よそれ! 何でそんな物を? それが殺人に関係あるの? 寒天って凶器になるっけ?」

「それをアマゾンプライムアメリカで注文したのだが、直接この屋敷宛で届ける事は出来ない。市田に取られたらおしまいだからな。故に、最寄りのコンビニ宛で届けて置いたのだ。だが、2日前に届いていたのに、前日まで受け取るのを忘れていたのだ。人生初の殺人前。ピリピリしていて色々考えていた結果、そこだけすっぽり抜け落ちたのかもしれんな。もし3日を過ぎたら預かり期間を過ぎてしまう。危ない所だったがギリギリで間に合った。もしそれが無ければこの計画は成立しないしな。この殺人計画。準備する物が多すぎて困る。普通は凶器とアリバイトリックを考えるだけで何とかなりそうな物なのにな……」

「言っている意味が分からない。それに私の質問にも答えてないよ? 分かる様に答えなさい!」

「奴はグルメだからな。市販の寒天で作ったゼラレタ等食べてはくれぬだろう」

「だからさ! 分からないのよ! それにゼラレタじゃなくってレタゼラでしょ」
しかしアリサの言う事は無視して続けるフランケン。

「しかも、一度既に夕食を与えた。奴はほぼ満腹だった筈。そんな状態で食べてもらう必要があった。これ位の高級食材でなければ見向きもしないだろう。故に当日それをコンビニまで受け取りに行く必要があった。
偶然奴もこの屋敷の経営不安を感じていて、あろう事かこのワシに客引きのお使いを命じたからなw本当に抜けた男だw召使いとして生きてきて良かったと本気で思えた瞬間だ。無断で出ていく訳にもいかなかったし、タイミングぴったりで助かったよ。まあもしその言いつけが無かったとしても睡眠薬でも盛って眠っている間に抜け出していたがな」

「フンガー! あんた、ずっと訳が分からない事を言ってるんだよ? 分かる様に言いなさい!」

「まだ話し始めたばかりであろう? 最後まで聞きたまえ。そしてボケ人間コンテストを終え、君が喫茶店で寛いでいる間に、その寒天をコンビニに受け取りに行った。そして君と屋敷に戻ろうとした矢先に大雨が降りよった……よりによって最悪のタイミングだ……本来南アルプスの天然水と合わせ、最高のゼラチンになる筈が、その大雨で寒天に雨水が浸透し、ふにゃふにゃになってしまっては何もかもがおしまいだ。本来到着した直後に受け取っていさえすればこんな事にはならなかった……ワシ自身のミスとは言え、ここまで来て頓挫になっては立ち直れなかった」

「分からないよ……」

「更に最悪な事に、あの寒天は高級品で紙の箱に入っており、雨に逢えば簡単に湿気ってしまう。一応コンビニのビニール袋に入れてはいても、完全に密閉されている訳でもない。その白雪、完全手作業で梱包している故に、ビニールで覆うと言う手間を省き、直接紙の箱に入れる。その為、湿気にはめっぽう弱いのだ……そう、既に見た時には箱の表面は水分が付着しておった……平然を装っていたが、内心は気が気ではなかった。相当焦っていたと思う」

「だ、か、ら!! それでも分からない!! 何を言いたいのよ!!」

「だからアリサ。君がスケッチブックを頭に構え傘代わりにした時に咄嗟に閃いた。この子を、傘代わりにしよう……とな。何も無いよりはマシ。これで雨水を凌ぎ、一刻も早く白雪を無事な状態で屋敷まで届ける為に、君を連れて来たと言う事だ。大体分かったかね?」
成程。私は彼が一刻も早くアリサを雨に濡れない様に屋敷まで運ぶ為に急いでいたと勘違いしていた。だが、目的は全く別だった……その行動は殺人計画に必要な道具を守る為の行為だったと言う事か……

「え……そ、そんな事の為に私を殺人事件に巻き込んだって言うの? そういえばあの時あんたに水に弱い? って聞いた時、有耶無耶な返事の後、少し考えて軽くうなずいている様に見えたけど、その時咄嗟に話に合わせようって頷いたって事ね? 私を傘にする為に」

「そうだ。だがそれだけではない。そして、それこそが最も重要な事だ」

「え?」

「それはアリサ。君がボケ人間コンテストでの司会落としの犯人を断定出来なかった。と、言う事実だ」
な、なんだと? そうだ……あの時は語り部の私が全て解決してしまったのだった……主人公に花を持たせず語り部風情が出しゃばり、全てを……明かして……しまったのだ……結果、フランケンに目を付けられこの屋敷にくる結果に……すまぬアリサ……私の推理力が卓越しすぎている故に君にまで迷惑を掛けてしまった……許してほしい……そして、その時の雄姿は第2話の最終話の一つ前の

【☆語り部の真相解説☆】

と言うスッゲェナウいサブタイトルの話の中に、全てが記されてしまっている……あわわ……忌々しい……私の……華麗なる……黒歴史……出来ればそんな話は決して見ないで……頂きたい……何卒……頼んだぞ……

「く……!」

「君は探偵の真似事をし、事件に自ら首を突っ込む様な積極的な少女で、その基礎知識もしっかりと押さえていた筈。両親が刑事だったな? それに桜花ジャパンの壁を超える時に張り巡らせた智謀で大体分かった。ベースは良い。だが、何かが足りない。
故に、あんな簡単な事件を解決出来ずにまんまと警察の目の前で真犯人に逃げられた」

「な、何よそれ……あれが簡単? ふざけるんじゃない! 私も実の所見切り発車で指摘している内に……色々と思い出して行く内に白川さんが本当に犯人だったんだ。という事が徐々に、おぼろげにわかって来て……それで……それでも決定的な証拠は無かった……だから仕方なしに逃げられたって言うのに……あ、あんたは客席にいながら舞台の様子を見ただけで白川さんが犯人って分かっていたって言うのか? あんな遠くから?」

「いかにも。ワシは実際に暗闇になった時、白川が司会の後ろで何かの機械を操作している瞬間を見た。そう、あのサイズは恐らくMP3プレーヤーかボイスレコーダーだろう。そこから発生する音で驚かせたのだろうな。それに反応した司会は頭を抱えしゃがみ込み、そのまま落下して行った。その瞬間を間違いなく見た。故にこの犯行は暗闇の中で視界不明瞭の時を狙い、臆病者の司会の近くで何かしらの音声を発生させ驚かせて落とすと言うトリックを使ったと判断した。その上、その時に偶然起こったと思われる停電も白川が意図的に停電寸前までに電力を使用し、彼のタイミングで引き起こした事もその日2回起こっていた停電から推測した。そして犯行の瞬間、白川が笑っていたところまで見えたからな。ほぼ間違いないだろう。ワシは夜目が効くのだ。以外であろう?」

「嘘を突くな!!!!! そ、そんな筈ないだろ!! じゃ、じゃああの時点で警察に報告して白川さんを捕まえればよかったじゃない? 何でそれをしなかったの?」 

「警察の役に立ちたくなかったのでな。ワシは基本的に警察が嫌いだ。それにワシはなるべく喋れる事を隠しておきたかったからな」

「そ、そんな……じゃあ本当に私が中途半端な探偵だからここでの事件も解決出来ないと踏んで連れて来たって事なの?」

「その通り。ワシは客席で君の推理を聞いている内に、この実力なら、探偵役に選ぶ事で、ここで事件が起これば積極的にそれに首をつっこみ、見当違いの推理をするのではないかと感じた。例えば……そうだな……

『きっとこれは食べ過ぎで立ったまま眠くなってしまい寝落ちして、後頭部を打っちゃったのよー』

とかか?」

「……な? そんなポンコツ推理する訳ないわ!」

「そうか。証拠の残らぬ魔法で殺すにしても、ワシが疑われるのは困るのでな。これからもこの屋敷で皆と経営していくつもりであるからな。人を殺した人間と一緒に居たくなかろう。それに君を屋敷に招待する事で、みんな君に注目する事になるだろう。そうなれば動きやすいし、まあ念には念と言ったところだな。それに先日も事件に巻き込まれたのだろう? タイトル回収をしていたな? 今回で3回目。幼い君の事だ。それだけ立て続けに事件が起これば頭も回らないだろう」

「確かにそうだリキ」

「普通の人生で短期間にそんな立て続けには事件に遭わないカニ

「まあどの道寒天を守る為に君を傘代わりにしなくてはならなかった訳だが……もしあの時雨が降っていなかったとしても、君を何とか屋敷に招待するつもりだった。それと後一つ、まあこれも小さな報復みたいな物だが、ワシを乗り捨てたお返しにこの事件に巻き込んだと言う部分もある。まあどの道君は絶対に連れてくる必要はあった訳だな。
だが意外や意外、結果失敗に終わってしまったがな。アリサ。君はあれだけの戦いを午前中に行っていたのに、同日に新たな事件に遭遇しても動揺せず臆する事無くここまで推理出来てしまうなんて……実は素晴らしい探偵だったのだな。見くびっていたよ」

「うるさい!」

「うるさくはないだろう? ワシの予想に反した結果を出した君を、本心から褒めているのだ。そこは素直に受け入れたまえ。そして無事最後のピース、白雪をはめ込み舞台は完成させた。全てにおいて最高級の食材で彩られた演者達は、見事満腹の市田の胃袋に入ってくれた。そして自らの命と引き換えに死の呪文の詠唱のピースを吐き出させてくれた。彼らは、正しく悪い魔法使いの老人を退治した【真の英雄】達だ」

「それでわざわざ最高級にしたって事ね……」

「ああ。我ながら子供の様な純粋な気持ちになっていた。そして、勇者の様に勇ましい気持ちだった。彼らと共に|戦地《このへや》に赴いた時、神経が研ぎ澄まされていて、次にやる事がビジョンで目の前に浮かんで来る感覚だった。彼らと共に悪いお爺さんの息の根を止める未来をずっとずっと描き続けて来た。そのイメージをリアルタイムで実行する際、恐怖など消え去り脳の覚醒を実感した。手も、足も、目も、全身の筋肉も、最適の動きを最速で行い、今までの自分とは別人のような楽しい瞬間だった。まあ最後だけ奴に心を乱され失敗してしまったが……」

「何でボケ人間コンテストに来ていたの? それを受け取りに行くだけで屋敷には帰らなかったの?」

「探偵役を連れて来る為にワシの意思でそこに行った。そこで人材を調達してから荷物を受け取るつもりだった。それにしても君から声を掛けてくれたのは幸運だった」

「そうなのね」(そういえば喫茶店から出てきた時にビニール袋を提げていたわね。あの中に【白雪】が入っていたって事ね)

「だがまさか優勝賞金まで貰えるとは予想外だったがな。嬉しい誤算だ」

「本当にあなたが殺害したの?」

「無論。そして、それは簡単だった……いや……簡単ではないな。(一年以上策を練ったからな……)だが敢えて奴の得意とする呪文で奴を欺き見事殺害出来たよ」

「やっぱりその呪文って死の呪文なんでしょ? 今も詠唱のピースを演者がどうのこうのって言ってたし」

「そうだ。そして、もしそれをワシが事細かに君や警察に自白したとて、その犯行は絶対に解明出来ぬ。そこに刑事も居るが、それを今ここで全て聞いたとしてもだ! 恐らく科学捜査で奴の死体を調べるだろう。だが、何も分からぬだろう。何せ魔法とは、科学と全く真逆の存在。コインの表と裏だ。科学が表面で存在している限り、魔法はあってはならないと言う普遍不動の原理が刷り込まれている。それを使ったと言い出した瞬間、化学は魔法の存在を認めた事になってしまう。故にそれ以外考えられないと分かっていても言い出せぬであろう。この世界は捜査のベースは科学捜査しかないのだ。科捜研の人間が、

『これは科学では解明出来ません。魔法で殺したのです』

と、言えると思うか? 口が裂けても言えぬ筈。自身の存在を否定することになるからなwそういえば先程鑑識が来ていたが、検視結果はどうだった? 実際見てはいないが簡単に予想が付く。どうせ満腹による死亡とでも書いてあったんじゃないか? ん?」

「ぐぐぐ」(正にその通りだわ……魔法なんて立証出来ない。どうやっても……)

「その表情……図星であったか……フフフ……所詮どんなに知識があっても奴の死因を特定は不可能であったか。そうでなくては困るがな。これは刑事責任能力の無い者が犯罪を犯しても無罪になる。と、言ったルールとも似たような物だな」

心神喪失者よね?」

「そう、実際罪人が犯罪を犯したのに、そいつの頭が何をやったか分からない。良い事なのか? 悪い事なのか? 法律や道徳が許す行為なのか? これらを判断出来ない状態で犯した罪は、どういう訳かこの国の法律では無罪になるのだ。これは一体どうした事か? 明らかに一人の命が失われたのに、それでも裁かれないと言う不思議な現象。こんな理不尽で意味不明のルール、正に魔法と何ら変わりがないな? こんな事が、法律で記されているのだからなw実際被害者の遺族は無念極まりないだろう。交通事故より遥かに質が悪い。もしそういう人間しかこの世に居なかったらどうなってしまうのだろう? 沢山の命が奪われてもお咎め無しの世界。みんな死んでしまうと思わないか? 無法地帯と化す。心神喪失者はベッドに縛り付け自由を奪うしかないのだ。もしくはもうあの世に行って貰うしかない」

「言いたい事は分かるけど……」

「そして数か月の精神科での入院、訓練後に社会復帰してしまう。そう、

【私は過去に人を殺しましたけど、これからこの会社の為に頑張ります】

と言ってどこかの企業の歯車になる……何とも言えない気分になるな。ただ、解明出来ぬ物は証明しようがない。魔法もこれと同じ。仮に術者がターゲットに強烈な殺意があったとしても、責任能力があったとしてもだ。故にワシは捕まる事はあり得ない。こうして高らかに白状していると言うのにwだからワシは警察など一切恐れていない。唯一恐いのは詠唱中に途中で気付かれ反射されてしまう事だけだ」
これがフンガーの真の姿だったのか……かつて共に戦い絆を深めたあのあどけない体力馬鹿だと思っていた大男。何故か恵まれている体格のわりにいつも不安そうでおどおどしていたが、いざとなると正義感は強く、そして優しい。そんな彼が、今アリサを言い負かそうとしているのである。

「確かに……私があなたのトリックを必死に解説していた時も楽しんでるみたいだったし……私の推理を聞いた後、言い訳する事もなく認めてた……部屋にはそのまま食べ物が散らかってた……それも片付ける必要がないって事か」

「まあ途中で気付かれて妨害されたりしては敵わぬから、事が終わるまではレンジでのアリバイトリックやら手袋等の使用で、ドアノブや室内に指紋は残さぬ様にしていたが……念の為な」

「じゃあ消えた死体はどこなの?」

「それがワシにも分からない。どうせ全てが終われば警察にも市田の死体を見てほしかったからな。ワシは警察にも恨みがあるからな。奴らがどういう殺害方法なのかと狼狽する様を見たかったのもあるしな。だから死体が消えるなど想定外だ……」

「そんな……」

「詠唱後半でアクシデントが発生して緊張した為、死んでくれたかどうかは確認はしていない。が、あれを食らって生き残れる筈はないからな。誰かが移動させた? そうではないか?」

「でも……あそこは鍵が掛かっていたのに……誰が? どうやって移動させたの?」

「何度も聞くな。分からぬ物は分からぬ。だが、もう奴の下らん思想を毎日の様に聞かされる苦痛を味わわず済む。それだけは間違いない訳だ。ああ、最高だ。さあもう終わった事だ。夜も深い、そろそろ就寝する事にしよう」

「何言ってんの? あんたは今すぐに警察に行くのよ!」

「君は今までの話を聞いていたのか? もし行ったとしてもとんぼ返りだ。さっき説明した通りの事で即釈放だろう。故に時間の無駄と言う物。更には偶然死体も無くなってしまったしな。まずは本当に殺人事件が起こったのかが争点となりかねないなw」

「くそう……どうして? こんなに変わっちゃったの? 喋り過ぎよ……何でこんな……」

「変わった? 元に戻っただけだろう? 君はワシが少しずつ言葉を取り戻していく演技をしていた時、喜んでいたではないか? 

【着実に……実っていく……】

とか恍惚とした表情で言いながらなww一体何目線での発言だったのだ? 保護者か? 師匠か? 笑いを堪えるのに必死だったぞwだが君は、ワシが実際饒舌に話す様になれば悲しそうな顔をする。一体どういう心理なのだ? 嬉しかったんじゃないのか? ワシが少々言葉を話せていた段階ではその成長。否、実際には

【成長しているふり】

を見て喜んでくれたではないか? 悲しくなるぞ? と言う事は? 君はまたフガフガと入れ歯が外れた老人の様な話し方に戻って、君に従順に隷属して欲しいと、あの頃に戻りたい。と、微かに思っているのではないか?」

「ち、違う」

「迷っているのだな? 突然の変化に……幼さ故にな。ならばこのままで良いであろう? もうワシもあの芝居には飽きた。君の迷いも時間が解決してくれる筈だ。まったり行こう。さて、奴の卓越した経営手腕のお陰でこの屋敷の財政は破綻寸前だ。これからはワシがこの屋敷の正統後継者として引っ張っていく。市田が募ったメンバーだとしても君達には罪は無い。追放するつもりは無い。これからもよろしく頼むぞ。お化け屋敷をアリサの提案を取り入れつつ継続していくつもりだが皆も付いて来てくれるな?」

「嫌リキ! 貴方はそんな事で人一人を殺す嫌な奴リキ! フフンケンさん酷いリキ!!!!」

「リキュバスさん……いいや、サキュバスさん! それにワシはフランケンだ。貴女もかなり奴に酷い目に遭わされて来たんじゃないか? だから自室のマネキンに市田の顔を逆さにしてくっ付けてその憂さ晴らしをしていた。そうじゃないか?」

「うう……それはリキ……」

「もうそんな事はする必要はない。そもそもこの屋敷では言論の自由が無い。名前を通常から一つ足りなくして呼んだり、語尾を付けろだの語尾略は駄目だのほざくし……少々の冗談でも突然『ヒヒヒィ』と言う奇妙な音を発し笑い出し、耳を、心を蝕む。更には耳障りの良くない口癖……一人でどれだけの迷惑を掛けてくるのだ……それを何の罪のない従業員全員に与えた。そうだ、苦痛を耐え続けながらやる仕事など仕事ではない。そうは思わないか? ワシはその騒音発生装置を然るべき所に移動させただけ。悪は滅びた」

「でも、それでも……命を奪うのは駄目だと思うリキ……」

「そしてもうこんな煩わしい語尾はいらないんだ。それに奴の決めた名前に縛られる理由も無い。考えても見てくれ。ワシは家に突然入り込んだ侵入者を1年かけてじっくり研究して癖を生かしつつ奴の得意分野である呪文、しかも詠唱時間の長い神施魔法の協術と言う前代未聞の方法で他の誰にも迷惑を掛けずに駆除しただけだ。貴女もうすうす感付いていないか? 奴は殺さない限りいかなる説得も応じない。生きている限り、屋敷の住人全員があの意味不明なルールを受け入れ続ける」

「それはリ……それは……」

「貴女はワシがその時にどれほどのリスクを背負ったのか分からないのか? 父を無慈悲に殺され、ワシにも精神攻撃をし、心疾患にまでした上に不運にも自分の考えにマッチした家。すなわち鹿鳴館から一足りない名前の五鳴館を乗っ取りに来た悪魔を払っただけ。何かおかしい事があるか?」

「な、何も無いリ……何もない!」

「そうだ。語尾はもういらない。理不尽だと思わないか? そんな悪党を警察は許してしまったが故にワシは自分を守る為に警察を欺かなくては……こっそりと駆除しないと平和な時間を取り戻せないなんて……ワシだって辛かった。でも逃げたらいけないと歯を食いしばってここまで来たのだ。君も同じ目に合えばきっとこうする筈だ。君は強いのだ。泣き寝入りなどしないだろ?」

「……」

「わ、私……どうしたら……分からない……このままフンガーの言う通りになっちゃうの? 誰か教えて……」

「待てええぃ!」
何者かの声がフンガーに向けられる。

「ぬ? そ、そなたは……」

「あ、あ……」

「嘘でしょ!? だって確かに……」
その声の方を振り向いたらとある人物の姿が……それを見た一同は驚きの表情になる。

動機 前編

「ああ、ワシが犯人だ。よくぞここまで推理した。実の所平然を装っていたが、君が紡ぎ出す推理一言一言に驚いていたのだよ? 君は本当に想像だけであれほど正確に……まさか殺人現場を後ろで見ていたのか? と錯覚する程に完璧だった筈。ワシもその当時気分が高揚していたせいで少々記憶が曖昧だ。申し訳ない。少々長くなるが、この殺人を行うに至った理由。すなわち動機を話させてくれないか?」
何? 言い訳しないと言う事か?

「意外とあっさりしているね。いいよ、聞いてあげる」

「ありがとう感謝する。元はと言えばこの屋敷、市田の所有物とされているが、それは違う」

「どういう事?」

「この屋敷。ワシの父の家だった」

「そんなバカニ!」

「え……」

「信じられないリキ!!」

「この屋敷の名前。アリサは覚えておるか?」

「五鳴館だったっけ?」

「そうだ。これは父が名付けた。本来鹿鳴館と名付けたかったらしい。だが、本家本元には及ばない。と判断し、五鳴館としたのだ。同じ名前にするのは気が引けたのだろうな」

「でも鹿鳴館の鹿って数字じゃないよね? 確か鹿? だったような」

「その通り。アリサ。君は本当に記憶力の良い娘だ……ワシの父はドイツ人。勿論ワシもだ」

「そうだったんだね……通りで背が高いなとは思った。あれ? お母さんは?」

「もうこの世にはいない」

「あっ……」

「気にするな。で、ドイツ人故に日本語にそれ程詳しくない。まあワシは心疾患を偽っていながら日本語の勉強は日々怠らなかったがな。あのトリックを成功させる為には必須スキルだからな」

「じゃあ鹿鳴館の鹿を数字の6と勘違いして覚えていて、そこから一つ数字を下げてあの名前にしたって訳だったの?」

「そうだ」

「へえ。じゃあ市田さんが名付けた訳じゃないんだ? いかにも市田さんが付けそうな感じなのに」

「そうだな」

「でも、それが動機に繋がる事なの?」

「そうだ。市田はどこでこの屋敷の事を突き止めたかは知らんが、ワシの父に直接この屋敷を譲ってほしいと持ち掛けて来た」

「何で?」

市田鹿鳴館を知っている。だが、偶然にも奴も六鳴館と勘違いしていたのだ。そこから1低い建物があると言う事を知り、どうしてもここが欲しくなったそうだ」

「いち、たりない……か……そして彼の認識している常識から一つ足りない物を好む……六鳴館を鹿鳴館だと分かっていれば彼は興味が湧かなかった筈」

「そう、奴は自分の無知を知らぬまま、その本家から一足りないと言う名前に惹かれ、飛びついて来たのだ。不思議だろう? 君は市田と同じ立場だとして、そんな事をするか?」

「しないかなあ……でも……行動力は凄まじいよね」

「ああ。だが奴は、市田理内→1足りない。と言う名前に人生を乗っ取られているかの如く。固執する。常識では無い、奴の思い込みで作られた幻想。そこからでも

「これは一つ足りなく出来る!」

と奴が判断したら。そういう物を発見するや否や、1引いて喜びを感じようとする異常性癖所有者。吐き気を催す……愚かだろう? 異様に一つ足りないと言う事に執着する姿。醜いにも程がある。何故か? 理由は分からん。分かりたくもない。だがそれは異常ともいえる徹底ぶりで、周りもおかしいと思っていてもその権力で逆らえなかった。
その性癖が行き過ぎた結果……父は奴に騙されこの家を失った。そして路頭に迷い街中で倒れていた。凍死だそうだ」

「そんな事が……」

「だが、ワシはそんな事を知らず奴がいつの間にかこの屋敷に毎日のように来る事に違和感を覚えなくなった頃、ニュースで父の死を知った。行方不明になってから2か月位後の話だ。その当時、ワシは奴に沢山の遊具をもらっていて、良いおじさんなんだと勘違いしていた。奴に父はどうしたの? と、聞いても今、長丁場になる仕事に取り組んでいて家に戻れない。私の代わりに市田が世話すると言う事を市田本人のみから聞き、それをろくに確認する事もなく信じていた……ワシも……愚かだった……」

「でも、どうして市田さんがやった事を知ったの? 隠していたと思うよ」

「警察が本人の筆跡の確認として父のシャツの胸ポケットに入っていたメモ帳を見せてくれたのだ」

「2か月も後に?」

「恐らく本当は見せたくなかったのだろう。警察で解読したが出来なかった。だから仕方なしにワシの所に持って来たのだと思う」

「そういう事か……で、何が書いてあったの?」

「暗号だ。警察も分からない様に複雑な物だった。ワシだけが解けるシュレイネーゼ家に代々伝わる秘密の暗号だ。父直筆のサインと、表紙にシュレイネーゼ家の家紋の入ったメモ帳だ。サインの筆跡も間違いなく父が書いた物だと分かった」

「そこにあなたのお父さんが受けた事が一部始終全て記されていたって事ね?」

「その通り。こんな内容だった。

【奴と口論の末路頭に迷い、どうしていいか分からない。すまない】

と残されていた……その暗号は父の字とは思えない程乱雑で、ペンではなく爪で紙を引っ搔き、その傷で文字を書いていた。恐らくペンも持っていなかったのだろう。故に解読にも時間が掛かった。その時思ったのだ。もしかしたら奴に酒をたらふく飲まされて泥酔させた状態で寒空に下に出されたと言う事を!」

「それは間違いないの?」

「推測だ。メモ帳にアルコールが付着しているかは確認したがそれは無かった。だが冬の夜に父がジャケットも羽織らずYシャツ姿で発見された事実から、その推測は間違っていないと確信した」

「そんなひどい事をする人には見えないわ」

「まあ現実はそう甘くはない。だがそれだけでは飽き足らずワシにも攻撃してきた。それがカラムーチョラグーンをプレイさせると言う事だった。思い出すだけでも忌々しい……」

「オオカニさんの部屋にあったあのゲームの事?」

「そうだ。多分あれはオオカニ君が自腹で買った物だろう。さっき言っておっただろう? どんなゲームなのかプレイする予定だったと」

「うん、止めていたよね」

「その通り。あれはゲームではない。そう、

【刃無き凶器】

だ……プレイした人の心をズタズタにする危険物。ワシのはその存在を許せぬ程に憎んだ故、粉々にした記憶があるからな。
そう、カセットの一欠片すらの現存をも拒める程に憎しみを抱く結果となった。そうしないとワシが逆に壊されていた筈。
で、メモを解読し、警察にその事を話した。だが風原と言う警視はこんな傷のような文字の上の訳の分からない落書きは証拠にならない。印鑑も偽造しやすいシンプルな形状だから信頼に足りぬと、更には筆跡も実の息子のお前が筆跡を真似、書いた物。と、言いがかりまでも付けてきおった。更には

『お前がこの出鱈目な文字列を暗号と偽って市田に罪を着せようとしているんだろ?』

とまで言ってきおった。ワシの家に伝わる暗号。それを解読方法を事細かに説明込みで風原でなくても幼稚園児でも分かる様にじっくり解説したのに、明らかに市田が悪いと伝えた筈なのに最終的に言ってきたのは

『信じられない。でっち上げだ』

の一言で一蹴だ。どう思うかね?」

「信じられない……でもフランケンはこの家の家主の子供だから市田さんに100万円を躊躇わず渡せたんだ。この屋敷の為に使ってくれると信じて」

「その通り。奴はこの家をかなり愛していたからな。その家が無くなると困るのは奴も同じ。まあ仮にその為に使わず貯め込んだり自分の懐に入れようとしてももうすぐワシの手により死ぬ男。いずれ元に渡ると確信していたからこそ躊躇わず渡せたのだ」

「でもカラムーチョラグーンの話が出た時に冷静は保てなかったのね」

「そうだ。だが、実はその時、初プレイ時に発狂し暴れていた時記憶はなく。奴の話でその状況を初めて聞いたのだ……やりきれない気持ちになったな」

「すごいゲームだったんだね……」

「ワシは市田を疑っていたが、警察も取り合ってくれず誰にも頼れない。だから自分で突き止めようと策を練り始めた。そんな矢先に、

『このゲーム面白いらしいよ?』

と奴に渡されたゲーム。それこそがカラムーチョラグーンだった。いつもは玩具をくれていた奴から初めてゲームソフトを貰ったと言う驚きと新鮮さもあったし、ワシもずっと疲れていて、ゲームでもして気分転換しようと何の疑いもなく受け入れてしまった。気が緩んでしまったのだ……だが、それをプレイする事でワシは精神崩壊を起こし、一時的ではあるが本当に何も喋れなくなった。これから突き止めようと動き出した直後にだ。奴が意図してワシを精神崩壊させようと策略だったのだ。結果、行動も幼児退行していたそうだ。市田は何故かその事実を知っていて、こうなる事を目的としてあのゲームをやらせたのだ! 普通父親が死んだ直後にこんなうつ展開になるゲームを意図して手渡した理由はそれしか考えられぬ」

「酷い……確かにそうね……」

「奴があのタイトルを口走った瞬間、我を忘れつい、本気で素手で殺してしまうところだったよ……だがそれでは今まで練った計画が水の泡になると思い直し、中断した」

「良く思い留まったね……」

「まあな。辛抱強さはある方だ。で、発狂し暴れた後、暫く本当に喋れなくなった事実を利用し、日本語が喋れなくなった振りをしようと考えた。そう、考える力が無い振りをすれば、市田に必要以上に警戒されないのでは? と、考えたのだ。従順に従い、フンガーとのみを発言し、奴の言う通りの語尾を言っていれば追い出されずにこの屋敷にも置いてもらえると判断した訳だ。館の主の実子。だからいずれはこの屋敷の所有者になると言い出す事を恐れるだろう。だが心疾患を演じていれば、もはや市田の屋敷になったと安心し、警戒されず復讐を練る時間をこの屋敷内で進めていけると考えたのだ。これが君の大好きだった、【フンガー】誕生秘話だ」

「そんな……」

「結果ワシは数年間言語障害の芝居をすると言う無駄な時間を過ごす事になった。暫くして奴も慣れてしまい、もう元には戻らないと高を括ったのだろう。ワシに何と言ったと思う?」 

「ま、まさか……」

「そうだ……奴はこう言った

『君が少しおかしくなってしまったこのミスも、私の欠点でもあり魅力でもあるんだ。仕方がない事なんだよ?』 

だ。信じられるか? アリサ。この言葉に何か足りないと思う部分はあると思うかね?」

「酷いーリ……」

「なんて奴なんだカニ……」

「そんな事を言ったドフ? 許せないドフ!」

「無い……」

「そうだ。無いのだ。これだけの事をしたにも関わらず、それを自覚して置きながら、ワシに絶対に言わなくてはいけない事があるのだ」

「謝罪が……無い」

「そうだ。謝りもせず、後悔もせず言った事。それが、自分を褒め称える。だ! あのセリフを免罪符とし、謝罪を免れて生き続けている。どうだ? アリサ。君は、奴が一度でも謝ったところを見た事はあるか?」

「ええと……夕食中に、食後のレーズンを食べようとした時、急にお皿を引っ張って来て、食器に指をぶつけた時に、謝って来た気がする。確かごめんごめんって言っていたわ」

「それは大した事をしていないと分かっている時に言う決まり文句であり、心底反省している時に言う言葉ではないだろう? 2回言うと、

【重要な事なので】

と言う都市伝説もある。だがこの場合適応外だ」

「確かに……にやけながら言っていたし……」
 
「ワシの言っている謝罪とは、心を込め、感情を込め、腹の底から出た謝罪だ。一度でもそれを見た事はあるか?」

「無いわ。そういう時は必ずこの言葉ではぐらかしていた……」

「だろうな。人はそう簡単には変われない。だが、あれだけの事をやっても謝れないのだ。で、大して悪いとは思っていない事ではすぐ謝る。重大なミスの場合決して謝らないのにな……信じられるか? あの程度の人間性でもワシらと同じ人間としカテゴライズされているのだぞ? ミジンコやミドリムシと何ら変わらん本能的に動いている微生物程度の器でもだ! 謝ると言う高等技術を永遠に覚える事の出来ない憐れな生物。更に奴がワシにした差別は言語障害を演じているその間に家事全般をワシに教えた事だ。お化け屋敷のスタッフとしては使えないからあろう事かこのワシを家政婦代わりにした。そんな所だろう。
本来この屋敷の次期|主《あるじ》であるワシに対して! なあ、アリサよ、何で人と言うだけでどんなに粗悪な不良品でも処分されないんだろう? 道具は不具合があれば修理、手の施しようが無ければ処分されるし、植物だって決められた区画内で小さく育った未熟な芽は間引かれる。なのに人間はどれだけ腐っていてもそのまま放置だ。誰かが……この世界を駄目にしちまうような奴は、育つ前に間引きを行わなきゃ駄目なのだ。ここまで育って放置してしまっては駄目なのだ」

「その気持ち分からないでもない。だけど何とか別の方法はなかったの?」

「無かったな。警察も奴を守り、寿命で死なないか? と願ってみても中々死なない。当然だな。そういう人間は総じて死ににくい。憎まれっ子世にはばかると言ったか? 中々死んでくれぬ。尊敬していた父はあっさりと亡くなってしまったと言うのに……それで怒りで我を忘れていた。ただ、それでも3階のトレーニングルームでの鍛錬は決して怠らなかった。理由は明確には無かった。だが強くなる実感は我を忘れさせない効果があったのだと思う。そして物足り無くなって来て奴に少しずつ新しいトレーニング器具のカタログを見せねだった。奴は疑う事なく買ってくれたよ。それを使い、奴の顔を思い死ぬ気で鍛錬した。権力に逆らうには権力で追いつくのではない。純粋な筋力で覆すのだと思ってな」

「それであんなに強かったのね。でもなら力ではなく何故魔法で?」

「それは簡単だ。暫く鍛えてくるに連れ、怒りが少し収まったのだ。そして冷静になり考え直した。もし奴を殴り殺してしまっては足が付く。
どういう訳かな……無断でワシの屋敷に乗り込んで来て、父を殺し、ワシにも攻撃した失敗作を消去しただけでな。それに……」

「え?」

「血が……苦手なのだ……」

「あっ!」

「そう言えばフフンケン君、ネズニ君がアリリちゃんに切られた時気絶していたニイ!」

「そう、殴って吐血でもした瞬間、ワシも気絶してしまうかもしれぬ。それだけは避けなければならぬ。本来得意分野の格闘技で奴を仕留めたいとも思ったが、どう考えても出来そうにないな。だが、魔法ならどうだ? 本人にさえバレなければ警察では証明のしようがない」

「た、確かに……それで200つっこみしている時に横槍入れて来た市田さんに、ホッチキスで口を塞いで置けって言う命令も聞かなかったんだね?」

「ああ、気分的にはやりたくとも出来なかった。唇から出た少量の血でも気分が悪くなる」

「でもどうして私を連れてくる必要があったの? 私なんかいなくても市田さんを殺す事は出来たでしょう?」

「残念ながらそうはならなかったのだ」

「え?」

「ワシは殺人の計画を立て終え、実行する前日に、ある物を忘れていた。うっかりしていた……」

「何?」

筈≒箸?

「これでは話が進まぬか……では教えてやるとしよう。アリサ。君は今までに何と7回目の筈べき行為……違ったなw 恥ずべき行為をしていた訳だなwまあ想像でここまで話せるスキルは素晴らしい。だが人はそれを【言いがかり】と言うのだ。さて……どこまで増えるかな?」

「くそ! そういう事ね? でもこんなのに負けない! で、あんたは

『牛!』

って言いながら牛肉をトッピングさせる筈」

「8」

「すると市田さんはその驚きから

『な?』

って言って、その後にあんたは

『割れるだろう?』

と言って、お菓子の上に乗った氷を半分になるようにずらし、牛肉を乗せる隙間を開けた後半分に割って、牛肉を乗せ、実食して見せた。これで、【全ての生命失われるだろう】が完成……でも、氷を乗せた状態でどうやって半分に割ったかは知らないけど器用な事するもんよね」

「ほほう、今回も上手い事繋がったな。順調だ。しかも言葉を選び、筈を外して見せたな。中々技術点が高いぞ?」

「そんな部分を評価するな! もっと私には褒めるべき箇所が数えきれない程あるんだ! で、あんたは割った後市田さんは、その様子を見ても何も気づかないの。でも美味しそうな牛肉を出されて思わず手掴みで多めに肉を取った後にお菓子に乗せようと奪った。それを確認したらすぐに……

『多い!』

って怒る。それで市田さんは

『なる!』

反省するわ。そして食べる。でも何でこんなおかしなルールなの? って考えたの。だってこんな事普通に考えておかしいでしょ? でもどうして市田さんがこのルールを自然に受け入れたかって考えたんだけど、もしかしたらあのお菓子の生まれ故郷を、アルゼンチンとかオーストリア産の菓子だと始めに説明したんだよ。そうすればこの異常なトッピングの順番も、その国では昔から伝わる伝統的な作法なんだ! と勘違いするのよ! そして当然美味しいから食べてしばらく待ったら「めい!」って言うけれど、それを言われたら成立しなくなるから口に運んだ瞬間に、

『めいかいの?』

と聞く。こうする事で「めい」っていう癖を封じつつ、本来の意味の「冥界の?」の意味を含んでいたとしてもそれに違和感を覚えないのよ。だから美味しいかと聞かれたんだと思い込んで、自然に

『おうよ!』

と返すのね? めいキャンセル成功ね! これで、【大いなる冥界の王よ】が完成したわ」

「ほう、想像でよくここまで話せるな。大した物だ」

「その言葉、そっくりそのままあんたにお返しするわ!! こういう結果に導く様に頭の中で何度も何度もシミュレートしたんでしょ? 恐ろしいわ! で次に、11時を過ぎた事を確認した後に

『何時?』

って突然聞いた。で、

『10時』

って言った瞬間に

カニ!』

って叫んだ筈。その時11時を回っていたって思うんだ。数分だけどね。そのタイミングで10時では無いと確信している。これは、11時過ぎに行われた犯行よ。それだけは間違いない。市田さんに時間を聞けば1時間マイナスした時間を教えてくれるからね」

「確かにカニ。ややこしい人カニ
だが今のオオカニのセリフもかなりややこしい。

「だから、11時になる数分前に市田さんの部屋に訪れたのよ。それで話している内に11時になる時間を何度もシミュレートした。そうでないと『何時?』って聞いた時に、「10時……」って返してもらえない。もしも10時に時間を聞いたら9時と教えてくれるからね……その時点で魔法として成立しないよね? あんたは

【十字架に】

って言う言葉を市田さんと協力して唱えたかったんだから、室内に入った時には必ず11時を回っていないといけない。でも時間が掛かり過ぎて12時を回ってもいけない。だから1時間以内に終わらせる必要があったのよ」

「フフンケン君……あの時君はそんな事をやっていたーリ? 信じられないーリ……」

「メデューリさん、もう間違いないの。この犯行、準備にも相当入念に積み上げて来たのに、こんな所で失敗に終わっちゃう何て間抜けすぎる。
だから、11時直前に部屋に入り、市田さんと話している内に11時になる様に一言一言に掛かる時間や、料理やコーヒーを振舞う時に要する時間をしっかりと頭の中で何度も何度も描いた上で練習したんだと思う。物凄いイマジネーションよ? それに、タイミングもそうだけど、

『割れるだろう?』

って言葉を言う為に、お菓子は割れる物を選んでいたってのも恐れ入ったわ。全てに於いて考え尽くされている……とんでもないわねあんた」

「H●●●●●●●●●9 O●●●3 T●●●3」
ぬ? 見事なアリサの推理を聞いている筈なのに、それに関しては一切驚嘆する事もなく、淡々とおかしなアルファベットと黒い丸と数を語り始める。

「えっ? 何それ? そしてあの●●●は何て読むの?」

「Hは筈の頭文字だ。Oは思うや恐らくの頭文字。Tは多分の頭文字だ。●は黒点とでも呼んでくれ。君は●の数だけ推測で物を言っているのだ。これでもし君の推理が間違っていたとして、これらを枕詞に語るだけで、

「だから多分って言ったと思う筈でしょ! 恐らくぅう」 

と言い訳が出来る筈だと思う、多分。いわゆる言葉の保険だ。断言して間違えたら恥ずかしいからな?」

「だってしょうがないじゃん。実際見た訳じゃないんだし。ここはもう妄想を爆発させて言いがかりの限りを尽くして見せるから覚悟しなさい! これからもこのスタイルは崩すつもりはないわ! ええと……恐らく例えば10時2分とかって言われたらおしまいだったから、かなりこの部分は集中していた筈」

「H●●●●●●●●●●10おお、10到達したな。もしかしたらアリサのこの功績はとっても素晴らしい筈。O●●●●4 T●●●3」

「ちょっと! さっきから止めてよ」

「君の推論をしっかり聞いている証拠であろう? 集中しなくては数え洩れが出てしまうので大変だよ。お! 閃いたぞ! これらの頭文字を取ってHOTカウンターとでも命名するかな?w だがHOT=熱いと言うよりはクッソ寒い内容なのだ。言い訳する気満々の、推論で推論を塗り固められた卑怯極わまりない最低の行為。こんな物、むしろHOTの逆で、TOHカウンターにでも改名するか?」

「好きになさい。で、これも多分だけど、カニはかなりの高温で保存していた筈なの。そうしないと市田さんの癖でもある、ふうふうって口で言いながら熱い物に息を吹き付ける行為が出来ない筈だから」

「ではお言葉に甘えてT●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●12」

「で、ここで市田さんは当然2回

『ふう』

ふうってやる予定だったんだけど、それをやられたら今までの苦労が水の泡だから一回やったのを見てすぐに、

『ゼラレタ!』

って叫んだの」

「ほうこれで、【十字架に封ぜられた】が完成するな」

「ここの閃きは、あんたが食堂でみんなにレタゼラを出した時に、ゼラレ……まで言ってからレタゼラに言い直した所よ。
ただ言葉を言い間違えただけかなと思ったけど、ネクロノミコンであの呪文の詠唱部分を見た時、封ぜられたって部分がある事を知って、その奇妙な一致に引っかかっていたのね? もし市田さんに本来のレタゼラ! って言って渡しても呪文として成立しない。
だって封レタゼラになっちゃうからね。だから市田さんにレタゼラを出した時はゼラレタ! と大きい声で叫んだ箸」
ほほう、いちいちフランケンにカウントされる事を嫌ったアリサ、機転を利かせ、筈と言うべき部分を、箸と言う漢字に変換して言ってみる。
確かにこれは一見似ている感じの漢字なので注意深く聞いていないと見落とす危険性もあるが、果たしてフランケンは気付けるのだろうか?

「T●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●●13……箸? おい! 筈と言う筈だろうが! 筈と漢字が似ているからと言って、紛らわしい事をするでない! この箸は、13個目の筈としてカウントして置くからな!」
な、何だこの男は? まるでアリサとの会話を楽しんでいる様にしか見えない。仮にも自分が殺人犯として告発されている真っただ中でだ……

「駄目! 箸と筈は全く違うよ?」
しかし、何故こんな機転を突然効かせる事が出来たのか? そう思われる方もいらっしゃるだろう。私も少々考えた。
すると、実はその根拠があったのだ。それは、オオカニの部屋でラジコンの飛行機を飛ばしていた時に口ずさんだ【スパッツ】の【空も跳べる箸】と言う曲を歌った過去がある。故にその記憶から思い付いた事と勝手に推測する。

「だが、本来筈と言う筈だった部分で使った箸だろう? ……じゃあ今言った「箸と筈は……」の部分で今度こそ間違いなく13だ。これは意図も意味もない厳然たるルールなんだよ!」
子供の様なフランケン。

「こら! 市田さんの真似をするな! それに、今の筈は、例え話の筈であって、本来の用途、推理中に使った物とは違う筈だからノーカウントにして欲しいわ!」

「T●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●●●●●16wここにきてHを稼ぐではないかw20に行ったら又褒めてやるからな? 楽しみに待っておれ」

「くー、何かムカつく……で、ゼラレタを出した時に、目の前、顔に当たる寸前の所まで持って行った筈なの。そうしないと

『近!』

とは言わないから。一旦目の前に持って行った後にお菓子の上に乗せる。そう、カニの隣にレタゼラを置いたわ」

「T●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●●●●●●17」

「で、この後歌うの。

『らーーーーー』

ってね」

「ほほう、中々上手いじゃないか」

「推理クラブに入っているんだから当然よ!」
それは関係ないが、色々な部屋で沢山の歌を歌っている。それも理由であろう。

「関係ないだろう? 推理クラブなら推理をしたまえ推理を」

「推理クラブでは推理もするけど、歌も歌うのよ。部長も歌が好きだからね。で、歌を突然歌われた市田さんは当然、

『今、ここでか……』

と返す筈。私も歌う度に何度も言われたわ。あれ言われると歌を楽しく歌っている時に訪れるハイテンション状態が、その一言で一気に虚無状態にさせられるから勘弁してほしいわ」

「T●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●18」

「そこであんたはお菓子を市田さんが再び口にしたのを確認してから

『違法した?』

って返すの。でも、ここは市田さんが食べ始めるまで絶対に待たないといけない筈。だから少し間が空いたと思うの。でも待たないといけない。相当焦ったんじゃない? 何も言わずに市田さんが自動的に口に運ぶまで待たなくてはいけない状況。相当プレッシャーがあったよね? で、何とか食べてくれたから、【違法した?】を言えた訳だけど、もしそれをしなければ市田さんは【NO】って言う可能性もありえるの。
まあ、何回か私との会話でもNOって言っていた場面があったけど、それを使う場合って、強い否定の時のみなの。でも例外もあるから、突然言ってしまう可能性だってある。その確率を下げる為に確実に食べるまで待ったのよ。そうすれば、お菓子は口の中。返事は出来ず、首を振るしかない。これってこういう事よね? あんたは市田さんが食べている瞬間と食べてない瞬間までをも見極めながら犯行を行っていたのよ! どれだけ脳を使えば気が済むのよ!」

「T●●●●4 O●●●●●5 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●●19」

「そしてここからは物凄く複雑なの。ええと……まず血のりの入ったタッパーを取り出し蓋を開け、

『これを……汁!』

って言いつつ出すの。これだけじゃ具体的な名前は分からないよね? ただの汁じゃなさそうだし……今まで簡単ではあるけど名詞を言いつつ出していたから、この次に食べる物がそれだけでもイメージ出来ていたけど、今回初めて汁とだけ言って内容は全く未知の液体。そして真っ赤でベトベト。それを見た市田さんは、べとべとしてるって言おうとしたんだけれど、

『べと』

の時点で

『しー』

って言って遮った筈よ。
で、得体の知れない赤い液体を今まで通りお菓子に乗せるのは気持ち悪いと感じた市田さんは、今食べているお菓子を飲み込んででも、

この血みたいなのは何だ? と聞こうとした筈。だけど、

『この血』

の時点で

『ニカ!』

と大声で言って、途中で止めた筈」

「T●●●●4 O●●●●●5 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●22……おいおいアリサ、3連続で使って20アニバーサリーを飛び越すでない。本来褒めて欲しかった筈だろう? それとTとOが余り伸びていない。ぜんっぜん伸びていないぞ。バランス良く使いたまえw」

「うるさい! こっちも思い出すので必死なんだ。そんなカウントせず黙って聞いてろ! で、今度はこんな血みたいな物をお菓子に乗せたいとは思わなかった市田さんは、彼の中で最上の否定の言葉である

『NO』

を言うしかないよね? そして、NOを聞いた直後に

『か、実』

って言うのよ。
その時出した実はレーズン。それを見た市田さんは当然

『使わせよ』

って言って、強引に奪い取りに来る筈。
市田さん視点で、得体の知れない赤い液体か、レーズンをどちらかお菓子に乗せるんだ? と、聞かれたのよ。なら当然大好物のレーズンを選ぶでしょ? で、当然、赤い液体が床に落ちていたのは、市田さんがお菓子に乗せてこぼした訳じゃなくって、レーズンを奪い取った時にそれを入れている容器にレーズンを奪い取る目的で伸ばされた手がぶつかってバランスを崩してこぼれただけなのね? ここまでで【この地に彼の神遣わせよ】となるわね。どう? もうゴールは見えて来たんじゃない? しっかしここまでよく考えたもんだわ。物凄い執念ね」

「T●●●●4 O●●●●●5 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●23」

「あくまでカウントアップを繰り返すからくり人形に徹するのね? で、

『我は此処に』

と、突然細工無しで本物の詠唱部分を唱える。
すると市田さんは、

『我は此処に?』

と、オウム返しをする。オウム返しをする条件って、市田さんが全く知らない言葉を突然言われた時に発動する事が多いからまず間違いなくオウム返しして来た筈よ。でもこれってもしかしてあんた、焦ったのかな? 市田さんに容器に入った赤い液体をこぼされた時に、記憶が飛んじゃって、本来用意していた事が出来なかったから素材のままお届けしたのかしら? この辺はあんたに教えて貰わないと駄目ね」

「T●●●●4 O●●●●●5 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●24」

「で、この先がちょっと分からなくて……と言うのも床に落ちていた食材を並べて推理したんだけど、ここまでなのよ。
他の食材は見当たらないし……だから、あんたはここからは小細工無しで詠唱をそのまま唱えた筈。だってここまで唱えてしまえば市田さんが如何に呪文の使い手だとしても防御呪文の発動に間に合わないと判断したわ。それで市田さんは気付く事なく……否? 最後の辺りで気付いたのかな? でも間に合わなかったと言う訳。どう? T、O、Hのカウントは順調に伸びた?」
恐らく論点は多分だがそこではない筈であると思う筈の筈である筈である筈なの多分だが?