magisyaのブログ

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筈≒箸?

「これでは話が進まぬか……では教えてやるとしよう。アリサ。君は今までに何と7回目の筈べき行為……違ったなw 恥ずべき行為をしていた訳だなwまあ想像でここまで話せるスキルは素晴らしい。だが人はそれを【言いがかり】と言うのだ。さて……どこまで増えるかな?」

「くそ! そういう事ね? でもこんなのに負けない! で、あんたは

『牛!』

って言いながら牛肉をトッピングさせる筈」

「8」

「すると市田さんはその驚きから

『な?』

って言って、その後にあんたは

『割れるだろう?』

と言って、お菓子の上に乗った氷を半分になるようにずらし、牛肉を乗せる隙間を開けた後半分に割って、牛肉を乗せ、実食して見せた。これで、【全ての生命失われるだろう】が完成……でも、氷を乗せた状態でどうやって半分に割ったかは知らないけど器用な事するもんよね」

「ほほう、今回も上手い事繋がったな。順調だ。しかも言葉を選び、筈を外して見せたな。中々技術点が高いぞ?」

「そんな部分を評価するな! もっと私には褒めるべき箇所が数えきれない程あるんだ! で、あんたは割った後市田さんは、その様子を見ても何も気づかないの。でも美味しそうな牛肉を出されて思わず手掴みで多めに肉を取った後にお菓子に乗せようと奪った。それを確認したらすぐに……

『多い!』

って怒る。それで市田さんは

『なる!』

反省するわ。そして食べる。でも何でこんなおかしなルールなの? って考えたの。だってこんな事普通に考えておかしいでしょ? でもどうして市田さんがこのルールを自然に受け入れたかって考えたんだけど、もしかしたらあのお菓子の生まれ故郷を、アルゼンチンとかオーストリア産の菓子だと始めに説明したんだよ。そうすればこの異常なトッピングの順番も、その国では昔から伝わる伝統的な作法なんだ! と勘違いするのよ! そして当然美味しいから食べてしばらく待ったら「めい!」って言うけれど、それを言われたら成立しなくなるから口に運んだ瞬間に、

『めいかいの?』

と聞く。こうする事で「めい」っていう癖を封じつつ、本来の意味の「冥界の?」の意味を含んでいたとしてもそれに違和感を覚えないのよ。だから美味しいかと聞かれたんだと思い込んで、自然に

『おうよ!』

と返すのね? めいキャンセル成功ね! これで、【大いなる冥界の王よ】が完成したわ」

「ほう、想像でよくここまで話せるな。大した物だ」

「その言葉、そっくりそのままあんたにお返しするわ!! こういう結果に導く様に頭の中で何度も何度もシミュレートしたんでしょ? 恐ろしいわ! で次に、11時を過ぎた事を確認した後に

『何時?』

って突然聞いた。で、

『10時』

って言った瞬間に

カニ!』

って叫んだ筈。その時11時を回っていたって思うんだ。数分だけどね。そのタイミングで10時では無いと確信している。これは、11時過ぎに行われた犯行よ。それだけは間違いない。市田さんに時間を聞けば1時間マイナスした時間を教えてくれるからね」

「確かにカニ。ややこしい人カニ
だが今のオオカニのセリフもかなりややこしい。

「だから、11時になる数分前に市田さんの部屋に訪れたのよ。それで話している内に11時になる時間を何度もシミュレートした。そうでないと『何時?』って聞いた時に、「10時……」って返してもらえない。もしも10時に時間を聞いたら9時と教えてくれるからね……その時点で魔法として成立しないよね? あんたは

【十字架に】

って言う言葉を市田さんと協力して唱えたかったんだから、室内に入った時には必ず11時を回っていないといけない。でも時間が掛かり過ぎて12時を回ってもいけない。だから1時間以内に終わらせる必要があったのよ」

「フフンケン君……あの時君はそんな事をやっていたーリ? 信じられないーリ……」

「メデューリさん、もう間違いないの。この犯行、準備にも相当入念に積み上げて来たのに、こんな所で失敗に終わっちゃう何て間抜けすぎる。
だから、11時直前に部屋に入り、市田さんと話している内に11時になる様に一言一言に掛かる時間や、料理やコーヒーを振舞う時に要する時間をしっかりと頭の中で何度も何度も描いた上で練習したんだと思う。物凄いイマジネーションよ? それに、タイミングもそうだけど、

『割れるだろう?』

って言葉を言う為に、お菓子は割れる物を選んでいたってのも恐れ入ったわ。全てに於いて考え尽くされている……とんでもないわねあんた」

「H●●●●●●●●●9 O●●●3 T●●●3」
ぬ? 見事なアリサの推理を聞いている筈なのに、それに関しては一切驚嘆する事もなく、淡々とおかしなアルファベットと黒い丸と数を語り始める。

「えっ? 何それ? そしてあの●●●は何て読むの?」

「Hは筈の頭文字だ。Oは思うや恐らくの頭文字。Tは多分の頭文字だ。●は黒点とでも呼んでくれ。君は●の数だけ推測で物を言っているのだ。これでもし君の推理が間違っていたとして、これらを枕詞に語るだけで、

「だから多分って言ったと思う筈でしょ! 恐らくぅう」 

と言い訳が出来る筈だと思う、多分。いわゆる言葉の保険だ。断言して間違えたら恥ずかしいからな?」

「だってしょうがないじゃん。実際見た訳じゃないんだし。ここはもう妄想を爆発させて言いがかりの限りを尽くして見せるから覚悟しなさい! これからもこのスタイルは崩すつもりはないわ! ええと……恐らく例えば10時2分とかって言われたらおしまいだったから、かなりこの部分は集中していた筈」

「H●●●●●●●●●●10おお、10到達したな。もしかしたらアリサのこの功績はとっても素晴らしい筈。O●●●●4 T●●●3」

「ちょっと! さっきから止めてよ」

「君の推論をしっかり聞いている証拠であろう? 集中しなくては数え洩れが出てしまうので大変だよ。お! 閃いたぞ! これらの頭文字を取ってHOTカウンターとでも命名するかな?w だがHOT=熱いと言うよりはクッソ寒い内容なのだ。言い訳する気満々の、推論で推論を塗り固められた卑怯極わまりない最低の行為。こんな物、むしろHOTの逆で、TOHカウンターにでも改名するか?」

「好きになさい。で、これも多分だけど、カニはかなりの高温で保存していた筈なの。そうしないと市田さんの癖でもある、ふうふうって口で言いながら熱い物に息を吹き付ける行為が出来ない筈だから」

「ではお言葉に甘えてT●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●12」

「で、ここで市田さんは当然2回

『ふう』

ふうってやる予定だったんだけど、それをやられたら今までの苦労が水の泡だから一回やったのを見てすぐに、

『ゼラレタ!』

って叫んだの」

「ほうこれで、【十字架に封ぜられた】が完成するな」

「ここの閃きは、あんたが食堂でみんなにレタゼラを出した時に、ゼラレ……まで言ってからレタゼラに言い直した所よ。
ただ言葉を言い間違えただけかなと思ったけど、ネクロノミコンであの呪文の詠唱部分を見た時、封ぜられたって部分がある事を知って、その奇妙な一致に引っかかっていたのね? もし市田さんに本来のレタゼラ! って言って渡しても呪文として成立しない。
だって封レタゼラになっちゃうからね。だから市田さんにレタゼラを出した時はゼラレタ! と大きい声で叫んだ箸」
ほほう、いちいちフランケンにカウントされる事を嫌ったアリサ、機転を利かせ、筈と言うべき部分を、箸と言う漢字に変換して言ってみる。
確かにこれは一見似ている感じの漢字なので注意深く聞いていないと見落とす危険性もあるが、果たしてフランケンは気付けるのだろうか?

「T●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●●13……箸? おい! 筈と言う筈だろうが! 筈と漢字が似ているからと言って、紛らわしい事をするでない! この箸は、13個目の筈としてカウントして置くからな!」
な、何だこの男は? まるでアリサとの会話を楽しんでいる様にしか見えない。仮にも自分が殺人犯として告発されている真っただ中でだ……

「駄目! 箸と筈は全く違うよ?」
しかし、何故こんな機転を突然効かせる事が出来たのか? そう思われる方もいらっしゃるだろう。私も少々考えた。
すると、実はその根拠があったのだ。それは、オオカニの部屋でラジコンの飛行機を飛ばしていた時に口ずさんだ【スパッツ】の【空も跳べる箸】と言う曲を歌った過去がある。故にその記憶から思い付いた事と勝手に推測する。

「だが、本来筈と言う筈だった部分で使った箸だろう? ……じゃあ今言った「箸と筈は……」の部分で今度こそ間違いなく13だ。これは意図も意味もない厳然たるルールなんだよ!」
子供の様なフランケン。

「こら! 市田さんの真似をするな! それに、今の筈は、例え話の筈であって、本来の用途、推理中に使った物とは違う筈だからノーカウントにして欲しいわ!」

「T●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●●●●●16wここにきてHを稼ぐではないかw20に行ったら又褒めてやるからな? 楽しみに待っておれ」

「くー、何かムカつく……で、ゼラレタを出した時に、目の前、顔に当たる寸前の所まで持って行った筈なの。そうしないと

『近!』

とは言わないから。一旦目の前に持って行った後にお菓子の上に乗せる。そう、カニの隣にレタゼラを置いたわ」

「T●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●●●●●●17」

「で、この後歌うの。

『らーーーーー』

ってね」

「ほほう、中々上手いじゃないか」

「推理クラブに入っているんだから当然よ!」
それは関係ないが、色々な部屋で沢山の歌を歌っている。それも理由であろう。

「関係ないだろう? 推理クラブなら推理をしたまえ推理を」

「推理クラブでは推理もするけど、歌も歌うのよ。部長も歌が好きだからね。で、歌を突然歌われた市田さんは当然、

『今、ここでか……』

と返す筈。私も歌う度に何度も言われたわ。あれ言われると歌を楽しく歌っている時に訪れるハイテンション状態が、その一言で一気に虚無状態にさせられるから勘弁してほしいわ」

「T●●●●4 O●●●●4 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●18」

「そこであんたはお菓子を市田さんが再び口にしたのを確認してから

『違法した?』

って返すの。でも、ここは市田さんが食べ始めるまで絶対に待たないといけない筈。だから少し間が空いたと思うの。でも待たないといけない。相当焦ったんじゃない? 何も言わずに市田さんが自動的に口に運ぶまで待たなくてはいけない状況。相当プレッシャーがあったよね? で、何とか食べてくれたから、【違法した?】を言えた訳だけど、もしそれをしなければ市田さんは【NO】って言う可能性もありえるの。
まあ、何回か私との会話でもNOって言っていた場面があったけど、それを使う場合って、強い否定の時のみなの。でも例外もあるから、突然言ってしまう可能性だってある。その確率を下げる為に確実に食べるまで待ったのよ。そうすれば、お菓子は口の中。返事は出来ず、首を振るしかない。これってこういう事よね? あんたは市田さんが食べている瞬間と食べてない瞬間までをも見極めながら犯行を行っていたのよ! どれだけ脳を使えば気が済むのよ!」

「T●●●●4 O●●●●●5 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●●19」

「そしてここからは物凄く複雑なの。ええと……まず血のりの入ったタッパーを取り出し蓋を開け、

『これを……汁!』

って言いつつ出すの。これだけじゃ具体的な名前は分からないよね? ただの汁じゃなさそうだし……今まで簡単ではあるけど名詞を言いつつ出していたから、この次に食べる物がそれだけでもイメージ出来ていたけど、今回初めて汁とだけ言って内容は全く未知の液体。そして真っ赤でベトベト。それを見た市田さんは、べとべとしてるって言おうとしたんだけれど、

『べと』

の時点で

『しー』

って言って遮った筈よ。
で、得体の知れない赤い液体を今まで通りお菓子に乗せるのは気持ち悪いと感じた市田さんは、今食べているお菓子を飲み込んででも、

この血みたいなのは何だ? と聞こうとした筈。だけど、

『この血』

の時点で

『ニカ!』

と大声で言って、途中で止めた筈」

「T●●●●4 O●●●●●5 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●22……おいおいアリサ、3連続で使って20アニバーサリーを飛び越すでない。本来褒めて欲しかった筈だろう? それとTとOが余り伸びていない。ぜんっぜん伸びていないぞ。バランス良く使いたまえw」

「うるさい! こっちも思い出すので必死なんだ。そんなカウントせず黙って聞いてろ! で、今度はこんな血みたいな物をお菓子に乗せたいとは思わなかった市田さんは、彼の中で最上の否定の言葉である

『NO』

を言うしかないよね? そして、NOを聞いた直後に

『か、実』

って言うのよ。
その時出した実はレーズン。それを見た市田さんは当然

『使わせよ』

って言って、強引に奪い取りに来る筈。
市田さん視点で、得体の知れない赤い液体か、レーズンをどちらかお菓子に乗せるんだ? と、聞かれたのよ。なら当然大好物のレーズンを選ぶでしょ? で、当然、赤い液体が床に落ちていたのは、市田さんがお菓子に乗せてこぼした訳じゃなくって、レーズンを奪い取った時にそれを入れている容器にレーズンを奪い取る目的で伸ばされた手がぶつかってバランスを崩してこぼれただけなのね? ここまでで【この地に彼の神遣わせよ】となるわね。どう? もうゴールは見えて来たんじゃない? しっかしここまでよく考えたもんだわ。物凄い執念ね」

「T●●●●4 O●●●●●5 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●23」

「あくまでカウントアップを繰り返すからくり人形に徹するのね? で、

『我は此処に』

と、突然細工無しで本物の詠唱部分を唱える。
すると市田さんは、

『我は此処に?』

と、オウム返しをする。オウム返しをする条件って、市田さんが全く知らない言葉を突然言われた時に発動する事が多いからまず間違いなくオウム返しして来た筈よ。でもこれってもしかしてあんた、焦ったのかな? 市田さんに容器に入った赤い液体をこぼされた時に、記憶が飛んじゃって、本来用意していた事が出来なかったから素材のままお届けしたのかしら? この辺はあんたに教えて貰わないと駄目ね」

「T●●●●4 O●●●●●5 H●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●24」

「で、この先がちょっと分からなくて……と言うのも床に落ちていた食材を並べて推理したんだけど、ここまでなのよ。
他の食材は見当たらないし……だから、あんたはここからは小細工無しで詠唱をそのまま唱えた筈。だってここまで唱えてしまえば市田さんが如何に呪文の使い手だとしても防御呪文の発動に間に合わないと判断したわ。それで市田さんは気付く事なく……否? 最後の辺りで気付いたのかな? でも間に合わなかったと言う訳。どう? T、O、Hのカウントは順調に伸びた?」
恐らく論点は多分だがそこではない筈であると思う筈の筈である筈である筈なの多分だが? 

涙の理由

「ん? アリサ? フンガーの癖に。とは? どういう事だね? ワシ程度の頭の悪そうな男風情が詳しくコーヒー豆の焙煎度合について語った事がそこまで気に入らなかったのか?」

「え? ……あ!」
思わず口をつぐむ

「それにワシの名はフランケン。君自身でそう言ったではないか? 何故フンガーと言い直すのだ? よもや?

【演じていた時のワシ】

を、思い出してしまったのか? あの時のワシとの思い出が忘れられずに思わずその名で呼んでしまった? 申し訳ない。あの優しかったと思われる彼はもう絶対に帰ってこない。もう二度と会う事は出来ない。いつまでも過去に捉われ縛られる事はお勧めしない」

「はっ!」

「気づいてくれたか? 結構。そして君は、過去のワシは、かなり下に見られていたと推察出来るな。同じ人間なのに、フンガーとしか言えない知能指数の低い人間だと……直接言葉として聞いてはいないが、そう思っていた事は何となく分かる」

「そ、それは……違うよ」

「果たしてそうかな? 言葉がうまく喋れない。たったそれだけの事で下に見たような気がした。更にはそれを確認し次第、ワシとタッグを組んだ気がしたがな? そんなうまく言葉が扱えないワシが突然流暢に話始め、

【癖に】

と言う軽蔑的表現が出てしまったのだろうな。
それが証拠に今朝のコンテストで喋れない事が分かった途端、頭が悪くてそれ位しか使い道が無いと判断し、相棒としてではなく、ただの

【乗り物】

として利用していたではないか? そして散々乗り回した挙句、予選の3問目の〇×クイズで、ワシを踏み台にして自分だけ勝ち抜けたではないか? それは、見下していたと考えるに十分な理由になり得ないか?」

「あ……」

「因みに今現在流暢に言葉を操るこのワシに対し、あの時行った事が出来るかね? 恐らくそんな事は【出来ない】だろう? 間違いなく普通に相談相手として対等に扱い、作戦を練った筈だな? ましてや無言で肩から飛び出すという無礼な行為だけはせぬ筈だ。現在の君のワシを見る目のみで判断しても、それは出来ないと確信しているよ。アリサよ、そう怯える事は無いのだが……まるでワシがいじめていると思われてしまうでないか?」 

「違うよ? そんな事やってないし!!……フンガ……フランケンの記憶違いじゃない? うん、絶対そうよ!」

「違わない。嘘を突くでない。君は時々物凄い堂々と嘘を突く時があるな? 気の弱い者なら明らかな嘘だとしてもすっかり騙される程の勢いだぞ? その癖は直ちに止めた方がいい。それに君も記憶力は高い筈。あれだけの事をしたのだ。間違いなく覚えている筈だ。
そして、君程ではないが、ワシもそこそこ高いのでな。良く覚えているぞ? それにこんな事も覚えている。確かワシの部屋に初めて来た時に君が市田からワシが料理が出来ると言う事を初めて知った時、君はこう言った。

『乗り物としては優秀だったのは間違いないけど、そんな機能も搭載されているの? やったあ』

だったか? ゲホゲホ……女の子の声を模写するのは結構つらい……」
あ、あのフンガーがアリサの声真似をしている……

「あ……無理して声真似する事無いよ……! ほら、私の声高すぎるでしょ? 喉を壊すわ……でも……良く覚えているね……」

「驚く程でもなかろう? 今日の話だ。だが……【機能も搭載】とはどういう言い草だ? 思わず演じる事を忘れ絶句してしまったよ……まるで君は人を物として、いや、道具、便利なアイテムとして扱っている様な物言い。非常に不快な気分になったよ?」

「うう……」

「君はあの時、ワシが喋れないけれど、言っている意味なら大体理解出来ている。と、言う事までは漠然とは分かっていたのだろう? なのに誰にでも聞こえる程大きい声で、本来心の中で思わなくてはいけない様な言い出しずらい事まで口にした。この時点で、ワシは反論してこないただのサンドバッグだし、

【そういう弱い立場の人間】

には何を口にしてもいい。と言う気持ちが少なからずあったからなのだ」

「違うよ……それは誤解だよ」

「いいや。それは無いと確信している。君は間違いなくワシをかなり下の存在と見ていた。それに200つっこみ? だったか? 少し減らされていたか? その中で、ネズニ君をかなり酷い扱いをしていたな。麻酔をして皮を剥いで骨を洗浄しろとか、麻酔をして中華包丁で16個のパーツに分けて富士山山頂で天日干ししておけとか……麻酔はそこまで万能ではない。普通に死んでしまうだろう。そして、平気でそんな表現を出来る相手。相当下に見ていなければそんなイメージは出来ぬ筈。ワシもその表現を聞く度、身の毛がよだったわ……その若さでそんな残酷な表現をしたと思えば、オオカニ君の部屋のぬいぐるみの市田の顔にビームマサムネを刺している表現程度で委縮し、つっこみの一つとしてカウントする……本当は何とも思っていない筈なのに、200つっこみに数を到達させたいが為に数を水増しする目的でな。したたかだな。このように、今までの君の言動や行動を繋ぎ合わせれば馬鹿でもこの結論に辿り着く。ワシはな? 〇〇の癖に、とか、〇〇の分際で、〇〇風情が、〇〇如き、〇〇程度が。と、言う言葉が余り好きではない。どんなに君が優れた人間だとしてもその言葉を使った時点でワシの中で最低評価を下す事になろう。正直その文字の組み合わせを聞くだけで、その言葉を放った人物どころか言葉自体にすら憎しみすら抱いてしまう程に……アリサ、君はカラムーチョラグーンと言うゲームソフトを知っているかね?」

「う、うう……そ、それは……知らない……」

「ん? その態度? 知っているような気もするが……ワシは嘘を見抜くのは下手だからな……まあいい。ではそのゲームに登場するヨヨヨと言う悪魔の事を教えてやろう。
あの悪魔の話を……あの悪魔はワシの元にすり寄ってきた。勘違いしないで欲しいのはゲームの中でのワシだな。その悪魔はワシに気がある素振りをし、いつしか心奪われてしまった。将来この悪魔……いや……娘と幸せに暮らしていく未来を描き始めた。そんな刹那さらわれ、その国の将軍と何故か恋仲になってしまった……ワシは一介の名もなき兵士、身分違いは分かっていた。だがそれをまさかゲーム内で明確に思い知らせてこようとするとは夢にも思わなかった。
そして運命のあの時、あの悪魔は帰って来た。さらった筈の敵国の将軍と共に。何故敵国の将軍が仲間に? と思うかもしれぬが、その敵国の皇帝が指示した事。それに逆らう事もせず将軍と悪魔は古参の者達の目もはばからず我が軍の施設内でその関係を見せつけた。そしてそれを切歯扼腕し見ているワシを見たあの悪魔は、ワシを見つつ、こう言われた気がしたのだ。心の中でな。

【一介の兵士の癖に……この私と釣り合う筈ないでしょ?】 

と言う響きが……勿論、ドットで描かれたキャラクター。表情も何も分からない。だが直感的にそう言われた気がした……それからだ……〇〇の癖にと言う響きに嫌悪感を覚えるようになったのは……だが……すり寄って来た時の悪魔は、不思議と女神に見えてしまっていたのだ……男とは、本当に馬鹿だな……」

「そんな事ないよ。それは私だって裏切られたらそう思って嫌いになっちゃうと思う」

「君は女子だろう。男の気持ちは分からぬ」

「そうだったね……」

「ワシはその女とあの時、

「機能も搭載」

「フンガーの癖に」

と言っていた君が重なって見えてしまった。最悪の気分だったよ」

「フンガ……違った……フランケン。あんたが優しいから、これ位では怒らないかなって思って……」

「また言い訳かね? やれやれ……そればかりだな。たまには純粋に謝罪をしたらどうだ? 実際あの発言でワシを不快な気分にさせたのは事実なのだからな。綺麗な謝罪はすっきりするぞ? 言い訳、逃げ道ばかりを探す事のみに脳を使うでない。まあいい。仮に今君が謝罪したとして、この言葉の後にする謝罪。自発的に行った物ではなく、言わされただけのうわべの謝罪。聞くに値しない。ところで、君が今泣いている理由は何だか分かるかな?」

「そ、そんなの……私自身の事だよ? 分かるに決まってるじゃない。優しかったフンガーが変わっちゃったから……元に戻ってほしくて……」

「惜しい!! と、言いたいところだが見当外れも甚だしい。自分の事なのに全く何も分かっていないではないか! 自己分析がなっておらぬ。精進するべきだ。君の流した涙の意味はそんな綺麗な物ではない。だが君もまだ未熟。本当に分からず、本気でそう思っているのだろう。だから教えてやろう。アリサ。君が今涙しているその理由は、ワシが流暢に言葉を操るようになったという理由で、本能的にワシを意のままに操れていたあの頃にはもう戻れない。楽しかったあの支配が突然出来なくなってしまった。と言う事実を叩きつけられた。そんな自分が……そう、

【フンガーを失い、フランケンに出会ってしまった不幸な自分】

を哀れみ泣いているだけなのだ。さもしいな。だがそれを心の片隅で感じていたとしても自ら口にする事は決して無い。先程こぼした綺麗事の方を、流した涙の理由として選択する。仕方がない。それが人の本能だからな。人とは自分に甘い物だ……しかし気付いてはいないのか?」 

「な、何?」

「君は、今嘘を突き、それを気付かれ怒鳴られはしないか? と思ったのか? 急に優しいと言う形容詞を多用し、まだ起こってすらいないワシの怒りを未然に防ごうとしていないか? そう言ったきらいがあるな。薄っぺらいな……ワシはそこまで単純では無いし、本当は全く優しくない男なのだ。故に皮肉にしか聞こえない。直ちにやめて欲しい物だ。しかし、

『フンガーの癖にいいいい』

と言っていた時の君の【あの】顔……まるで今まで従順に従っていた奴隷が突然歯向かって来て、それに激昂した無能主人が取る態度に見えてしまったぞ? 知性の欠片も無く、極めて下品だ。まあ仕方ない。表面のみで判断してしまうのは誰しも起こしえるミスであるし……」

「そ、それは……」

「何、気にする事ではない。誰にでもミスはある。でもな? 君に必要とされているフンガーだった時の過去。それはそれで誇りに思えている部分もあるのだよ」

「どうして?」

「クククク……ワシの演技も捨てた物ではないと思ってしまってな。元々芝居でやっていたつもりだが、物の見事君達を騙せている現実に少々快感だった。
つい君の役に立ち喜ぶ顔が見たくて、没頭する内に本気で君に心酔し、真の奴隷に成り切ってしまっていたよ。
全く疑わなかったろう? あの時芝居をしていたのではない。本気で、本音で君の為に動いていたからなw疑い様がないだろう。一時的ではあるが、本来別の目的であの場所に居たと言うのに、その目的をすっかり忘れ、あの会場でアリサと共に戦っていた時は本当に楽しかったのだぞ? まあ本来忘れてはならない事であったがな。
それ程までに君は人を引き付ける魅力やカリスマ性がある。ワシが言うのだから間違いない。断言しよう。
君は今11歳だったか? その年齢では到底修める事の出来ない知性や経験が内在している。だが幼さ故に全ては発揮出来ぬ様に感じた。そしてこの出会いは、必要な人材として利用出来ると言う期待から、確信に変わった瞬間でもある」

「ほんとにごめん……あの時は無意識で。でも、フンガレヨって言われた時、本当に嬉しかったんだよ?」

「過ぎた事だ。そんな事言った記憶はない。曖昧な過去に執着するのは止めたまえ。もうあのワシは永遠に現れない。そう、あの時ワシは演技をしていた。だから優しいように見えたあの姿は本心ではないのだよ? 再現など不可能だ。しかし君はそれすら見抜けなかった割にはワシを見下し【癖に】等と言う最低の表現をしてしまった訳だ。人個人個人の能力にそう大きな差は無い。ただ少し言葉が苦手と言うのを確認しただけで自分が上だと思い込んでしまう。たったそれだけの事でその言葉を使っていいと判断してしまう……愚かな事だ……君はそれを忘れようとしているようだがワシは永遠に忘れる事は無い。やった方は覚えていないが、やられた方は忘れられない物なのだよ。まあ良い。君は100万円とお米一年分を躊躇う事無くワシにくれたではないか。その行動で本当に反省した事は十分理解しているよ。そろそろその辛気臭い顔を止めたまえ」

「あんたがこんな顔にしたんでしょ……グスッ」

「グスッ……なんかフフンケンさん……別人リキ……」
もらい泣きするリキュバス。そしていつしかフフンケン君からフフンケンさんに呼び方か変わってしまっている。
当然無意識であろう。だがこれも異様に流暢になってしまったフランケンに対しての変化。仕方ない事であろう。

「で? 大分話がそれたが、君の中ではワシと言う一人称で喋った後、コーヒーの話題の中で【苦み】に関しての話をする事で、死の呪文の唱え始めの

【死神の蝦蟇】

の冒頭部分を気付かれない様に唱えた。と、言いたいのだな?」

「そうよ! 説明する手間が省けたわ。まあ当事者が解説すると物凄く分かり易いわね!! この調子で全部解説しなさい! グスッ」

「そうか? これはイメージで話しただけだぞ? この先は分からない」

「どっちでもいい! で、そうすれば苦みの話をしたんだなあ? と勘違いすると思うし、自分が殺されるなんて夢にも思わなかった筈よ」

「思うし、筈よ……フッw所詮、推測止まりだな。まあ良い。では、続きを聞かせてくれるかね?」

「……」

「おや? 続きはあるんだろう? まさかこの程度の指摘で心が折れた訳でもあるまい?」
さもしい、形容詞、きらいがある、激昂。このような通常会話であまり使わない言葉を平気で操るフンガー。この異様な状況を目の当たりにした全ての者は、誰一人彼が、見た目通りの、

【何も喋れない間抜けな大男】

とバカにする事は出来ない筈だ。そしてこれはもしかしたらアリサを制したネズニ男よりも頭の回転が速そうだ。ここに突然アリサを脅かす最強の敵が現れてしまったと言わざるを得ない……

「そんなの当たり前田のキーヴォ―ドクラッシャーよ! で、あんたが言った事をもう一度詳しく解説すると……多分よ? あの時市田さんが

『やはりコーヒーは香りだな』

と言ったとする。そうすれば、あんたが

『ワシ、苦みのが』

って言える訳よ。ワシ、苦みの方がと言わなくても、【苦みのが】でも言いたい事は伝わるし、不自然さもないよね? そう言ったら多分市田さんは香りの事を重きに置いている人だから、

『ま?』

って聞き返すと思うの」

「そうか」

「で、【死神の蝦蟇】が完成ね?」

「そうだな」

「次に、あんたが

『古いか?』

って聞くのよ」

「何故?」

「だ、だって……だーってだってだってなんだもん!」

「何だこの反応は? まあ良い。続けたまえ」

「しかも、ただ古いか? じゃ駄目で、物凄く強い口調で言った筈。そうしないと引き出せない」

「引き出せないとな? 何をだ?」
ギロッ 
                   <疑> <問>

フンガーは唐突にアリサを睨み付ける。凄まじい目力……

『ブル』
このあまりの力強さに本気のブルが出てしまう。

「成程、これで【古いか? ブル】が完成かwwwww繋がって来たじゃないかwwしかし良いブルっぷりだな。死んだ市田が甦って震え出したかと思ってしまったぞwだがパクリは良くないなあ。あれは市田の物だぞ? この泥棒めがw」

「クッ……市田さんの影響ってすごいわね……うっかりやっちゃったよ……悔しいいい。でも性別も姿形も年齢も全く違うでしょ!! 目が腐ってるのか? でも、市田さんにもそんな恐ろしく、腐り切った目で睨んだのね? バカでかい上にこの眼力……こんなの大人でも……怖いよ……」(本当にこいつがあのフンガーなの? まるで別人……中身が入れ替わっているみたい……)

「それでどうなる? もう終わりではあるまいな?」

「当たり前でしょ? 全て分かってここに立っているんだ」

「ほう、威勢が良いな。では名探偵アリサお母さん……どうぞw」

「うん。……って何それ? 色々混ぜるな!!! で、

『時に、食うか?』

って突然質問し、床に落ちていたあのお菓子を差し出すの。この時、一緒に氷の、多分味が付いている氷。それを上に乗せさせた筈」

「どうしてドフ?」

「えーリ?」

「何故そんな事を? みんなの目を見てみろ 何を言っているんだ? って顔をしているぞ?」

「で、市田さんはそれを見たら、

『ん? 氷付き?』

って返す筈。そうでなければ発動しないから絶対にこの流れの筈」

「筈筈、筈筈。君は何回それを言うんだ? 筈かしく……おっと間違えたw恥ずかしくないのか?」

「ちょっとね。でももう慣れて来た。私って繊細に見えるけど結構面の皮が厚いの。で、あんたが

『全て乗せい!』

って言って氷をお菓子の上に乗せると言うおかしな実演をするの。その為にあの焼き菓子は二枚あった筈ね」

「そうか」

「それを見て、騙されたと思って氷を乗せて食べてみたら意外に美味しかったの。で、市田さんはあまりの美味さに、

『めい!』

って言う筈」

「7」

「7にそれ?」
おい! 2話、ボケ人間コンテストでの事件の選手として登場し、セリフに【な】が入っている場合、数字の7を使用し7がら喋る|七瀬文七《ななせぶんしち》君の口癖が伝染っているぞアリサ! え? 誰? と、疑問に思う方は是非是非前話の2話を見て欲しい! 頼んだぞ!!

「さあ? 君も探偵なら推理してみたまえ。君が皆の部屋を巡っている時に最後に謎の数字を言っていただろう? あの時点でワシも分からなくてもどかしい思いをしたものだ。君も同じ思いをするがよい」

「くそー知りたい……えっとね……その当時は若くて……ちょっとカッコつけたい年頃だったのよw許してちょうだい?」

「いや、許せぬ。だが、今までの流れを思い出せば分かるだろう」

「7かあ。私がラッキーガールって事ね?」

「そうではない。それにどちらかと言えば不運ではないか? |無垢鳥《ムクバアドちゃん》に眼球を激しく攻撃されていたであろう?」

「そっかあ。じゃあセブンスセンスがあるって事よね? 分かっちゃう? 第七感がありそうな女って分かっちゃう?」

「それは分からぬ。だが、そんな大層な物ではない」

「7に関係する事、7に関係する事、7に関係する事。うーん突然数字だけ言われて解明しろって無理ゲー過ぎると思うよ。ヒント!」

「君だってヒントすらくれなかったではないか?」

「でもね? 私まだ小5なのよ? 大人と比べれば経験も知識も何もかも足りないんだよ? そんな子供相手に大人がヒントなしでは解けないような問題を出題するな」

「だが、先程のセリフの中に答えはあるのだ」

「覚えていない!!」

疑う理由

「それでさっき私の部屋で謎が解けたと叫んだ後、突然泣いていたのかーリ……」

「ええ、そうよ。なのに、現実では喋れない。まあ少しずつ言葉を覚えて来ている感じは出していたけど、本当は喋れるんじゃないか? って思うようになった」

「そ、そうだとしてもどうしても彼がやったようには思えないニイ。それにそれだけじゃ推論の域を出ないニイ?」 

「そうよね? これだけじゃ弱いよね? じゃあもう一つ。ねえ、食堂でリキュバスさんの呪文で暗くなった時の事覚えてる? みんなの過去話を聞いていた時に、彼女が特技披露してくれたじゃない?」

「え? あ、ああ確かありましたニイ」

「覚えてまチュウ」

「あの時、サラマソダーより暗ーいって言ったの。その後、暗いヨヨヨ……っとも言った」

「はいピカ」

「ほら、怒らない」

「え? それのどこに怒る要素があるんだチュウ?」

「俺も別に腹立たないカニ

「ワシもーリ」

「私もドフ」

「僕も何も感じないニイ」

「リキ!!!!!」

「リキュバスさん……それ、時々やるけどどっちなのよ!」

「知らないリキ!」

「そうなの? 本当?」

「強く返事しようと思うと無意識でこうなってしまうリキ!」

「わかったよ。ここに来てまた一つリキュバスさんの新たな一面を知れて嬉しいわ……で、 これで分かったと思うけど? みんなこの言葉の意味を知らないの。でも、フンガーの顔、見てみ?」

「え? う!!!!!!」
フンガーは無言でアリサを睨んでいる。途轍もない迫力で……そして、それを見たオオカニは、何故かマスクであろう耳部分が下がり、語尾を付ける事も忘れ恐怖する。

「この屋敷であの言葉に反応するのは彼だけなの。カラムーチョラグーンと言うソフト。この屋敷の従業員のみんなは偶然誰一人プレイしていないみたいね……フンガー1人を除いてね……!」

「くっ、知っていて敢えてその例を出すとは……最低だな貴様……」

「それしか方法が無かったのよ。許してね」

「俺も噂を聞いてどんな風に心を攻撃してくるかプレイする予定だったカニ

「止めておけ……人生が狂うぞ……」

「わ、分かったカニ……ブル」

「で、暗くなったその時に、私、

「暗いヨヨヨ」

って言ったのよ。その直後、紛れもない怒り心頭の声で……

「アリサ! 止めんか!!!!!!」 

って響いたの……その時は驚きと恐怖で誰に怒鳴られたかまでは分からなかったし、突き止めようともしなかったわ。でもメデューリさんにあの時と同じ言い方で怒鳴られた時に閃いてしまったの……そして、確信した」

「覚えてるリキ! そういえば似ている気がするリキ!!」

「他人の空似だろう? 勘違いだ」

「……の私が……」

「ぬ?」

「この私が……あれだけ一緒にいた人間の声を……聞き間違える訳……ないだろ!!!!!」
怒号

「ぬ!!」

「それにもう一つあるのよ」

「何だドフ?」

「この屋敷でみんな私の事はアリリって言っているでしょ?」

「そうリキ!」

「で、私をアリサってあの時点で呼べた人間って、フンガー1人だけなのよ。覚えてる? 2度目の食事の時に私に

『アリサ、これも食えフフ』

って言ってステーキを出してくれた時の事」

「あ、そういえば言っていたドフ」

「暗闇になったからバレないだろうって気の緩みから咄嗟に出ちゃったんだろうね、彼の素が……でも、カラムーチョラグーンが嫌いで、私の事をアリサって怒鳴った謎の声。その声の主は間違いなくフンガーしかいないのよ!」

「う、擁護のしようがないーリ……」

「アリリちゃんが彼を疑う根拠は分かったドフ。だが市田さんの死亡時刻は、彼は料理中だった筈ドフ?」

「次はアリバイよね? どうして料理を作っていたのに人殺しが出来たかって事よね?」

「そうだな。確か市田の死んだ時間はドフキュラ君の言う通り、ワシは心を込め料理をしていたぞ? そんな人間が殺人等出来る筈も無かろう」

「そんなの簡単でしょ?」 

「簡単カニ? どうやって料理を作りながら人殺しが出来るカニ?」

「10分で済むからよ」

「え? あの量全部がですかニイ?」

「そう。思い出して? あの料理みんな熱々だったけど、どれも焦げ跡とかは付いていなかったのよ。私、ステーキの焼き加減はウェルダンが良いって言ってたの覚えてる?」

「覚えているカニ

「で、フンガーに焼き加減を聞いたらたどたどしくミディアムって言っていた。でもミディアムで焼いたなら肉は柔らかい筈なのね。でも電子レンジで調理した時に生じる特有の固さを感じたわ」

「どういう事だ?」

「あれ? フンガー知らないの? 電子レンジで肉を温めると縮んで固まっちゃうのよ。電子レンジでステーキは出来ないの。何故なら、レンジには「焼く」という機能が無い。あれは、マイクロウェーブという電波を照射して、食材自身に含まれる水分子を振動させ、分子振動の力で自己発熱させるの。要は外から加熱するのではなく、食材の中から加熱されると言う調理方法。水の沸騰による加熱と同じ、脂肪分の多い箇所はかろうじて130度位にまでは上がるけど、少ない箇所は100℃まで。出来上がりは「煮る」と「蒸す」の中間のような状態になるの。レンジ加熱した肉からは、どうしても肉汁が大量に外に流れ、旨みも抜け、ぱさぱさとした肉になるわ。これをステーキとは呼べないよね? あえて言うなら蒸し牛ね。一方、ステーキは高温(表面温度が260~280度位)のフライパンで、外から肉表面を一気に焼き固めて蛋白質の皮膜を作り、肉汁が外に流れ出ないようにして、火を通す調理方法だから、ジューシーで旨みたっぷりな仕上がりになるの。
だから、これってフライパンで料理した物ではないんじゃ? って疑う切っ掛けになったの。そう、フンガーの部屋には幾つもの電子レンジがあった。もしかしたらこれで時間短縮を図ったんじゃ? って思ったの」

「成程……そういえばそうだったな……味見などする暇は無かったからな……」

「その全ての中に、切った食材を温めれば完成する状態で置いておいて、複数台を同時に起動してから市田さんの部屋に行く」

「そ、そうか……ステーキもスープも全てレンジで調理可能だカニ。だから出来立てを食べたように感じたんだカニ

「だから市田さんに料理を作れ! と言われた直後に自室に行き、レンジのスイッチだけ入れ、市田さんの部屋に直行したって事になる」

「分かった。そのトリックを使えば料理をしながら殺人も可能だな? だが、可能性があるだけで証拠もないだろう? 例えレンジにワシの指紋が付いていたとしてもいつも使っている物に付着しているだけ。不自然ではないだろう? それにテレビで、ながらではあるがあの時間は2時間ドラマも聞いておったぞ?」

「へえ? 本当に?」

「え? ちょっと……それじゃあ駄目リキ!」

「ん? 何がだ? ちゃんとやっていたぞ?」

「まさかこんな簡単に尻尾を出すとはね? 今のセリフこそが料理中にキッチンにいなかった証明になる!」

「ほう?」

「ナイターは延期になっていたのよ? テレビ欄では19時00分に始まり21時位に終わり、次の2時間ドラマが放送予定だったけど、夕方に振った雨のせいでグラウンドが使い物にならなかったの。だからまだやっていたわ? 2時間くらい遅れたんだよ。
だから見たのは終わりの方だけどね。本当にテレビやラジオであのチャンネルを聞いていたならこんな事言えない筈! じゃあどこにいたの? 今更テレビを見たのは嘘だ。黙々と料理だけに専念していた。は無しよ?」 

「そうか? 迂闊だった……これのせいで色々支障が出たと言うのにここでも……いや、何でもない。
まあいい。それで? 部屋にいない事は証明されたかもしれん。だが、10分で奴をどうやって殺したと言うのだ? 確か死亡報告書では外傷も毒もなかったらしいよな? それが分かると言うのか?」

「そうです! アリリちゃん! そうだって私に教えてくれたじゃないですか!」

「当然! 死の呪文よ」

「ま、まさかーリ?」

「クッククク……ハァーッハッハッハッハァ―! ダァアーッハッハッハッハッー!」

「笑うな! 実際あんたはそれで殺したんだ! それでその後急いで戻って出来立てを装った料理を、一生懸命、大変でしたが心を込めて作りました! って顔で食堂に運んで来たんだ!」

「そんな事は無い」

「ど、どういう事ドフ?」

「こっちは本気で言っているんだ。いつまでもふざけるな!!」

「笑いもするだろう? 君は死の呪文の詠唱の長さを知らんのか? 奴の真正面から唱えよう物なら確実に妨害されておしまいだ。最後まで唱えられる訳がないのだ」

「それでも、それで殺した!! 断言する!!!!」

「どうしてそんな突拍子もない話をするのだ……」

「十字架よ!」

「ん?」

「十字架を持っているでしょ? 今も! 出しなさい!」

「良く分かったな。ワシはキリスト教徒なのでな。いつも肌身離さず持っているのだが……それが問題でも?」

「大ありだ! それは十字架じゃない! 逆さ十字架だ!」

「何故それが分かる?」

「リキュバスさんの誘惑呪文にあんたは一度も掛かっていなかった!」

「あ!」

「そう言えば! フフンケン君だけ掛かっていなくて不思議リキって思っていたんだリキ!」

「そう! 一回目の誘惑呪文の時にフンガーが誘惑されなかったって事をリキュバスさんから耳打ちされて、その時はそうなんだ……フンガーは鈍感だから効かないのね? 位にしか思わなかった。で、冗談で実は女の子なんじゃないって話をしたらリキュバスさんが大笑いしていたんだよ。だけど、その後に食堂でオオカニ君が羊になって暴れていた時にもリキュバスさんの誘惑呪文に惑わされていなかった事を思い出したの。どっちの場合もあんたは男なのに誘惑されていなかった! 死の呪文を使用する際の触媒である逆さ十字架には精神耐性がある! それを持っていたお陰で混乱しなかったんだ!」

「ワシも間違いなく見たーリ。食堂の時だけじゃが……その時から市田さんを狙う為に手に持っていたと言う事ーリ?」
この部分はしっかりと解説せねばならぬな……リキュバスが2回目に誘惑魔法を使った時、フンガーだけ混乱していない事に気付き、

(……あ……あれ? そうか……そうよね? え? でもさっきも……あれ? こんな事って)

と心の中で戸惑っていたのだ。覚えているだろうか? 前半の

(……あ……あれ? そうか……そうよね?)

と言う部分では気絶して目が覚めた直後だったから誘惑が効かなかったのだと思っていた。
だが、後半の

(え? でもさっきも……あれ? こんな事って)

と考えた時に思い出したのだ。一回目に使用した時にも誘惑出来ていなかったと言う事を。それを寝室でアリサに報告したと言う事だ。
男達+アリサが混乱し、リキュバスに奇声を発し向かっていったと思うが、その時

『フンガアアアアア♡♡』

と言う奇声だけは無かったと思う。過去に2回誘惑の魔法を使ったと思うが、どちらも無い筈である。
もしその辺が疑わしいと感じた方は、過去に遡り確認してほしい。

「困ったものだ……ワシは常に瞑想を行っていて、精神攻撃は耐性を有しているだけだ。これのお陰じゃない」

「良くポンポン嘘が出てくるわね。私はとてもマネが出来ないわ」
ほんとお?

「で、でもどうやってニイ? 市田さんにあんな長い詠唱の呪文が通じる訳ないニイ」

「教えて欲しいリキ」

「分かってる! さっき知ったけど、あんたはメデューリさんと同じでワシと言う一人称なのよね?」

「そうだ。それが?」

「で、コーヒーの話題では大体が香りとか苦みの事が話されるわよね?」

「え? 突然何を言ってるんだカニ?」

「分からないーリ」

「そうか? 本当にそれだけか? まだまだあると思うが? 例えばそうだな……味や、どこの国の豆か? とか、抽出方法とか焙煎方法等色々あるぞ? 特に焙煎は奥が深く、それだけで同じ豆でも味が全く別物に変わる。大別すれば8つに分かれるな。
まずライトローストだ。最も焙煎が浅く、コーヒー豆にうっすらと焦げ目がついている状態。
次にシナモンローストはシナモン色になる程度まで焙煎したもの。次のミディアムロースト。ここからは中炒りとなり、アメリカン・タイプの軽い味わいになる。茶褐色で酸味が強く、苦味は弱いのが特徴。ハイローストはミディアムよりやや深い炒り方。酸味と共に、柔らかい苦味や、甘味が感じられるコーヒーとなる。家庭や喫茶店で飲まれる事の多い焙煎度合いだ。シティロースト。これ以降は深炒りとなり、コーヒー豆の色は鮮やかなコーヒーブラウンで、バランスのとれた酸味と苦味が特徴。フルシティローストは色はダークブラウンで、コーヒー豆の表面に油がにじむ。酸味よりも香ばしさや苦味が強く感じられる。フレンチローストは濃い焦げ茶色となり、強い苦味とコク、独特の香りが楽しめる。玄人向けの味ではある。ワシはこの辺りをよく飲む。そして最後のイタリアンローストは最も焙煎が深く、豆の色は黒に近い状態。強い苦味と濃厚な味わいが特徴的。そして抽出もペーパードリップネルドリップ、サイフォン、フレンチプレス、クレバー、エアロプレスと様々な抽出方法があり、原産国、品種、清算処理、8種類の焙煎度合、浅、中、細の三種類の粒度、そして抽出の数。これらの組み合わせ次第で数万通りの味わいが生まれる。これだけ話題に上がるが? コーヒーの話題で香りと苦みだけしか語り合えぬとは……コーヒーを馬鹿にするのもいい加減にしてほしい物だ」
流石料理人だけあってコーヒーの知識も生半可ではないな……しかし、一般的に言葉を覚えたての人間がここまで流暢に喋る事は出来ない。
ここからも分かるが、元々普通に喋る事が出来たと言う事が容易に推測出来るな……

「な、何よそんな豆知識披露して……コーヒーだけに……フンガーの癖にいいいい」
涙を流すアリサ。

アリサ VS ????

おはこんばんちわ。語り部だよーん。この先、犯人の名前が語られる。まだ見たくないと言う方はここで戻る事も可能だ。
見たいと言う方はお手数ではあるが下にスクロールして、その真実を確認してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……信じ……られなかったよ……フンガー!」
アリサは震える手を必死で抑え、フンガーに左手人差し指を向ける……

「え? アリリちゃん? この大男がですか? まさかそんな……」
突然予想だにしていない事を言うアリサに驚く竜牙。

「アリリちゃん? 突然何を言うんだカニ!?」

「ま、まさかそんな訳ないドフ」

「そんな……嘘だニイ」

「嘘でチュウ! そんな訳ないでピカ!」

「信じたくないリキ!!! 私、アリリは大好きだリキ! でもこんな事言うアリリは大嫌いリキ!!!」

「ワシもーリ。アリリちゃん? こんなバカげた事を言う為に皆を集めたーリ? こんな事ならもう帰って寝るーリ」

「フンガァー?」
キョロキョロ
アリサの涙の告発だったが、当のフンガーはマイペースにキョロキョロとどこかを見ている。まさか自分の事を言われていると気付いていないのか? それとも芝居なのか? 皆の視線も関係無しに辺りを見回す。

「え? き、聞こえてないリキ? フフンケン君? 今、君が犯人だって言われてるんだリキ! 早く違うと言うリキ!!!!」

「その通りドフ……ん? いや待て、リキュバスさん。そう言えば彼は言葉が分からなくはなかったか? だから今のアリリちゃんの言っている事を理解出来ていなんじゃないかドフ?」

「そう言われれば……じゃあ答えられないリキ? 仕方ないリキ……え? あれえ? でもいつも……あれ……? 何かおかしいリキ!?」

「何がおかしいんだドフ? あ……いや、そうだ! 本来そんな筈は無いような? ……ウム? だとすればこれは一体どういう事ドフ? いつもならこうではない筈ドフ? ウム? 分からぬドフ」
何故か二人は混乱している。皆さんにその理由が分かるであろうか? 実はこれには明確な理由があるのだ。そう、この混乱の理由は、恐らくこうだろう。フンガーは言葉は喋れない。それは皆の共通認識。
だが、言った事はしっかりと理解出来ている。と、言う事は、全員おぼろげで分かっている事。だがそれはフンガーから直接聞いた事ではなく、それぞれで、

【そうなんだろうなあ】

位で感じている事だ。そう、彼は喋れないけど人の指示は理解出来る人物。それが皆から見たフンガーの人物像。だから、その筈なのに、アリサの涙ながらの告発に何のリアクションもしないと言う不自然な行動を目の当たりにする。
先程の場面で、皆がイメージした映像は首を振り、自分じゃないよ! と、ジェスチャーやたどたどしい日本語で否定する場面が浮かんでいた筈。
ところが、突然とぼけ出して知らんぷりをしている彼を見た結果、違和感を覚え、混乱に至ったと言う事だ。
そう、今まで彼は、誰の言った事でも完全に理解出来ていた筈なのだ。それに自分で考える事も出来る。皆さんは覚えているであろうか? アリサをこの屋敷に運んだ後、道に置きっぱなしにしていたお米を自発的に運んで来た。そう、あれは誰かの指示でやった行為ではない。自身で考え、盗まれたらまずいと急いで取りに戻ったのだ。
それに、オオカニの部屋での事。よく見てもらえば分かるが、その時点で彼は居なくなっていた。それは、場所的に残り2部屋で自分の部屋を見回る事になる。だからそろそろ移動しておくか。と、これも自主的に自室に戻っている。と、言う事は? もしかしたら彼は、相当賢い人物なのではないか?

「もう……止めて……もう……とぼけるのは止めて! 本当は何もかも分かっているんでしょ? フンガー? いいえ? フランケン・アヒム・シュレイネーゼ!!」

「え? 誰ーリ? まさか彼の本名?」

「な、何故アリサが? どこでその名を?」
喋った? しかも今回は片言ではなく流暢な日本語で……

「!!!!」

「へ?」

「う、嘘だろ?」

「な……!?」

「え……」

「しゃ、べって……いる?」

「……」
それと同時に皆はフンガーに注目し驚嘆の言葉を発する。当然語尾など付ける余裕等は無い。誰が喋っているかもさっぱり分からぬ……そしてアリサは膝から崩れ落ち、両眼から涙が溢れる。

「アリリしっかりリキ!!」

「ぐすんぐすん」
こぼれる涙。それは、フンガーの変貌が彼女にとってそれ程までに大きいと言う証。今まで信頼していた人物からの裏切りでもあった。とぼけるのは止めてと彼女は言っていた。だが、それは半分半分であった。この告発を聞いてもずっととぼけ続けていてほしい。と、言う気持ちも少なからずあったであろう。だが、本名らしき名前を聞き、本性を表してしまった。そう、これこそが彼の真の姿。
今までずっと秘せられていた真実。それが自分の発言が原因で表面化された……黙っていれば今まで通りの関係を続けられたのに、それが正義の為とは言え、自身で崩壊させてしまう、終わってしまう。そんな悲しい瞬間でもあるからだ。拭っても新しい涙が流れる……だが、立ち上がり涙を拭う。そして、再びフンガー……いや、フランケン・アヒム・シュレイネーゼに左手人差し指を向け、言い放つ!

「あなたは……市田さんを……殺害した!」
震える声で絞り出す。

「ええええええええリキ?」

「まじかカニ? そんな訳ないカニ!!」

「アリリちゃん! 何でそんな嘘を突然言うんだドフ……だが……フフンケン? 貴様! こんな流暢に言葉を? ま、まさか……君の言う事は本当に? では今まで私達を欺いていたのかドフ?」

「嘘だと言えーリ! アリリーリ!」

「私だって……これが夢なら、嘘だったらどれほど良かったか……信じられな……」
するとフランケンがアリサの言葉を遮る様に語り始める。

「待って欲しい。これは夢でも嘘でもないのだ。確かにワシは喋れてはいる。だがそれは、少しずつ成長し、丁度このタイミングでここまで会話出来るまでに至っただけ。少しずつ、確実に経験を積んだ結果が偶然ここで実っただけだ。ワシも何の努力もせずに暮らすなんて出来ない。皆にいつまでも迷惑を掛けまいと言葉の練習を隠れてやっていただけ。何も不思議ではあるまい? そして、ついにここまで辿り着けたのだ……長かった。そして、アリサ! おめでとう。君はワシと意思疎通させたいと考えていたのではないか? そして少しずつ確実に成長し、新たな言葉を発するワシを見て、母親の様な喜びを感じていなかったか? そうであろう? ならばこれは何の問題もない事であろう?」

「は、話を逸らすなああああ!! 今はそんな事で泣いてる訳じゃないのよ。あんたが市田さんを殺したって事を言っているの! そんな事、もう、分かってるでしょ?」

「さあ? 全然分からないなあ。殺すとは? どういう意味なのだあ? なあアリサよ、生まれたてのワシに教えてくれないか? 喋れるようになって間もないのでな。色々と聞きたい。教えてくれるかね? アリサお母さん?」
両手を広げ、首を右に傾けつつ話す。

「くっ……そうやってしらばっくれるつもりね? いいわ……その余裕……少しずつ崩してあげる……!」

「フフンケン君? 本当にフフンケン君なのーリ? 信じられないーリ……」

「アリリちゃん? 彼が犯人って言いましたけど、本当なんですか? どう見てもそんな事する様には……それに確かボケ人間コンテストで一緒に戦った仲間って話を聞いていますが?」

「冗談でこんな事言わないよ!」

「信じられないリキ! フフンケン君の筈ないんだリキ!!! 取り消すリキ!!」

「もう無理よ。この時点で取り消す事は出来ない。これだけ大きな変化が起きてしまったんだからさ……リキュバスさん? それにみんなも! こんなに喋っている彼を一度でも見た事はあるの?」

「無い……リキ」

「同じくニイ……」

「そうよね? 私達に喋れない事を隠している時点で何か裏がある。だから私は黙らない。取り消さない。そしてみんなは最後までこの話を聞かなくては……いけない!」

「確かにそうだカニ。何でフフンケン君がこんな事を隠していたかだけは聞きたいカニ

「でもどうして彼が喋れると気付いたんだドフ?」

「そうね、まずは疑うに至った……根拠よね?」

「そうだニイ! ずっと同じ家にいたのにそんな素振り一度も無かったニイ。こんなに喋っている所は見た事無いニイ」

「ワシもだーリ。位置が隣の部屋なんだーリ。で、普段ずっと静かに読書をしている時も『フンガー』以外の声は聞こえて来んかったーリ?」

「リキ!!!!!!」

「残念だけどあるの……ニイラさん……じゃあまず、みんなはフンガーってどういう存在だと思っている? じゃあネズニ君から私が回った部屋順に教えてくれる?」

「え? そ、それは……料理が得意な素直な青年で……みんなもそう思うでピカ?」

「僕もニイ。僕は力仕事が苦手だけど、重い物を一緒に運んでくれた事があるニイ。そんな彼が酷い事はしないと思うニイ」

「私もだ。あんな事をする人間には到底思えないドフ」

「そうだリキ! 天下一の料理人だリキ! でもあまり喋る事は出来ないリキ!! でもとっても優しくて力持ちリキ!」

「俺もそう思うカニ

「ワシも同意ーリ」

「私も同じよ? だからその事に気付いた時、涙が止まらなかった……」

「アリリーリ……」

「でも、リキュバスさん? 今優しいって言っていたよね? 何でフンガーが優しいと思ったの? 優しさって色々表現方法があるけど、その中でも言葉による優しさの表現でそれを受け取れる事が多いと思うの。態度とか行動を黙ってやってもそれはじっくりその人を見ていれば伝わるかもしれないけど、それはごく少量しか伝わらないと思わない? 一番簡単に優しさを伝える手段って言ったらやっぱり言葉……だと思うの。だけど、彼、喋れないのよ? では、どういうところからその優しさを感じ取ったのか答えられる?」

「え? そ、それは……私の好物を覚えていてくれて、それを美味しく料理してくれるリキ!」

「ワシもそうじゃな。沢山のレシピを覚えているようで、料理本を読んで料理をしているのを見た事が無いーリ」

「そうドフ。彼に指示を出すと全く聞き返してこないドフ。一発で全てを理解して、私の望む結果をもたらしてくれるドフ。正に1を聞いて10を知ると言った感じドフ」

「そうだカニ。おもちゃの片づけを手伝って貰った時も、自分でいろいろ考えて俺の頭で描いた通りに並べてくれたカニ。まるで意思疎通出来ている感じがして、ちょっと気味悪かったカニ

「みんなありがとう。そう、喋る事は出来ないのに、彼は言った事をしっかり把握し、記憶出来る力があるの。これってこうは言えない?」

「ど、どう言えるんだカニ?」

「分からないリキ!!」

「そんなの簡単よ……敢えて喋らないだけで、日本語は十分理解出来ているって事。喋れない振りをしているって事よ!」

「あ!」

「思い出して? 私が台本も一切使わずに200つっこみを終えた後、私以外の全員がその凄まじさに驚いていたよね?」

「確かにニイ……確かあの時アリリちゃん化け物だったニイ。ボケ人間コンテスト優勝者って言うのは伊達ではないと思ったニイ。
アリリちゃん以外の8名の人間が一人一文字ずつ、

【え?】 【な? 【り?】 【だ?】 【か?】 【ず?】 【き?】 【ち?】

と言う個性豊かな感嘆詞を放ち、偶然にも人名にありそうな言葉を完成させつつ驚いていましたニイ。因みに僕は【だ】パートを担当していたニイ」

「そうよね? まあ、その担当を一人一人誰が受け持っていたかなんて聞くつもりはないわ? 重要なのはフンガーもその、言葉を理解している人達同様に驚いていたって言う事実なの」

「そう言えば……」

「本当にフンガーが頭が悪かったとしたら、200つっこみを聞いたところで絶対に驚かない筈なの……本当に頭が悪ければ……ね! 聞いたとしても馬耳東風。ボケっとしている筈よ?」

「た、確かにドフ。では、喋れない振りをしていた彼も、突然行われたあの膨大なつっこみを目の当たりにし、演技を忘れ、素で驚いていたって言う事なのかドフ?」

「そうよ! 思い起こせば今朝のボケ人間コンテストで実際初めて会った時に、

「フンガー?」

としか言わなかったから、その瞬間自動的にフンガーしか喋れない奴とインプットされちゃったの。だって彼から

「私、日本語は完璧に理解出来ますが、フンガーとしか喋る事が出来ませんので宜しくお願い致します」

って断られた訳でもないし……でも、勝手にそう思い込んでしまった……で、それでも私どういう訳か彼に日本語で指示を出して見たのね? そうしたらしっかりと聞き入れ従ってくれた。
それだけじゃなく、予選の三問目で壁にぶち当たり、二人で作戦会議したの。まあ一方的に私が作戦を言っただけだけど……でもそれを一切聞き返す事無く完全に理解した上で実行出来ていた……リハーサル無しで……完璧に……グスッ、それを見た筈なのに……目の当たりにした筈なのに……一切疑問に持たず、それを良しとしてしまっていた……喋れないのに、聞いた事は完全に理解出来ている。と、言うおかしな矛盾を、

【文句も言わずに従ってくれる便利な奴】

だと当たり前に受け入れてしまったの……おかしいよね……バカだよ私……ずっと気付けなかったんだもん……真っ先に疑問に思わなきゃいけない筈の事なのにね……グスッ……」
微笑みながら涙を流す。

アリサ VS ????

おはこんばんちわ。語り部だよーん。この先、犯人の名前が語られる。まだ見たくないと言う方はここで戻る事も可能だ。
見たいと言う方はお手数ではあるが下にスクロールして、その真実を確認してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……信じ……られなかったよ……フンガー!」
アリサは震える手を必死で抑え、フンガーに左手人差し指を向ける……

「え? アリリちゃん? この大男がですか? まさかそんな……」
突然予想だにしていない事を言うアリサに驚く竜牙。

「アリリちゃん? 突然何を言うんだカニ!?」

「ま、まさかそんな訳ないドフ」

「そんな……嘘だニイ」

「嘘でチュウ! そんな訳ないでピカ!」

「信じたくないリキ!!! 私、アリリは大好きだリキ! でもこんな事言うアリリは大嫌いリキ!!!」

「ワシもーリ。アリリちゃん? こんなバカげた事を言う為に皆を集めたーリ? こんな事ならもう帰って寝るーリ」

「フンガァー?」
キョロキョロ
アリサの涙の告発だったが、当のフンガーはマイペースにキョロキョロとどこかを見ている。まさか自分の事を言われていると気付いていないのか? それとも芝居なのか? 皆の視線も関係無しに辺りを見回す。

「え? き、聞こえてないリキ? フフンケン君? 今、君が犯人だって言われてるんだリキ! 早く違うと言うリキ!!!!」

「その通りドフ……ん? いや待て、リキュバスさん。そう言えば彼は言葉が分からなくはなかったか? だから今のアリリちゃんの言っている事を理解出来ていなんじゃないかドフ?」

「そう言われれば……じゃあ答えられないリキ? 仕方ないリキ……え? あれえ? でもいつも……あれ……? 何かおかしいリキ!?」

「何がおかしいんだドフ? あ……いや、そうだ! 本来そんな筈は無いような? ……ウム? だとすればこれは一体どういう事ドフ? いつもならこうではない筈ドフ? ウム? 分からぬドフ」
何故か二人は混乱している。皆さんにその理由が分かるであろうか? 実はこれには明確な理由があるのだ。そう、この混乱の理由は、恐らくこうだろう。フンガーは言葉は喋れない。それは皆の共通認識。
だが、言った事はしっかりと理解出来ている。と、言う事は、全員おぼろげで分かっている事。だがそれはフンガーから直接聞いた事ではなく、それぞれで、

【そうなんだろうなあ】

位で感じている事だ。そう、彼は喋れないけど人の指示は理解出来る人物。それが皆から見たフンガーの人物像。だから、その筈なのに、アリサの涙ながらの告発に何のリアクションもしないと言う不自然な行動を目の当たりにする。
先程の場面で、皆がイメージした映像は首を振り、自分じゃないよ! と、ジェスチャーやたどたどしい日本語で否定する場面が浮かんでいた筈。
ところが、突然とぼけ出して知らんぷりをしている彼を見た結果、違和感を覚え、混乱に至ったと言う事だ。
そう、今まで彼は、誰の言った事でも完全に理解出来ていた筈なのだ。それに自分で考える事も出来る。皆さんは覚えているであろうか? アリサをこの屋敷に運んだ後、道に置きっぱなしにしていたお米を自発的に運んで来た。そう、あれは誰かの指示でやった行為ではない。自身で考え、盗まれたらまずいと急いで取りに戻ったのだ。
それに、オオカニの部屋での事。よく見てもらえば分かるが、その時点で彼は居なくなっていた。それは、場所的に残り2部屋で自分の部屋を見回る事になる。だからそろそろ移動しておくか。と、これも自主的に自室に戻っている。と、言う事は? もしかしたら彼は、相当賢い人物なのではないか?

「もう……止めて……もう……とぼけるのは止めて! 本当は何もかも分かっているんでしょ? フンガー? いいえ? フランケン・アヒム・シュレイネーゼ!!」

「え? 誰ーリ? まさか彼の本名?」

「な、何故アリサが? どこでその名を?」
喋った? しかも今回は片言ではなく流暢な日本語で……

「!!!!」

「へ?」

「う、嘘だろ?」

「な……!?」

「え……」

「しゃ、べって……いる?」

「……」
それと同時に皆はフンガーに注目し驚嘆の言葉を発する。当然語尾など付ける余裕等は無い。誰が喋っているかもさっぱり分からぬ……そしてアリサは膝から崩れ落ち、両眼から涙が溢れる。

「アリリしっかりリキ!!」

「ぐすんぐすん」
こぼれる涙。それは、フンガーの変貌が彼女にとってそれ程までに大きいと言う証。今まで信頼していた人物からの裏切りでもあった。とぼけるのは止めてと彼女は言っていた。だが、それは半分半分であった。この告発を聞いてもずっととぼけ続けていてほしい。と、言う気持ちも少なからずあったであろう。だが、本名らしき名前を聞き、本性を表してしまった。そう、これこそが彼の真の姿。
今までずっと秘せられていた真実。それが自分の発言が原因で表面化された……黙っていれば今まで通りの関係を続けられたのに、それが正義の為とは言え、自身で崩壊させてしまう、終わってしまう。そんな悲しい瞬間でもあるからだ。拭っても新しい涙が流れる……だが、立ち上がり涙を拭う。そして、再びフンガー……いや、フランケン・アヒム・シュレイネーゼに左手人差し指を向け、言い放つ!

「あなたは……市田さんを……殺害した!」
震える声で絞り出す。

「ええええええええリキ?」

「まじかカニ? そんな訳ないカニ!!」

「アリリちゃん! 何でそんな嘘を突然言うんだドフ……だが……フフンケン? 貴様! こんな流暢に言葉を? ま、まさか……君の言う事は本当に? では今まで私達を欺いていたのかドフ?」

「嘘だと言えーリ! アリリーリ!」

「私だって……これが夢なら、嘘だったらどれほど良かったか……信じられな……」
するとフランケンがアリサの言葉を遮る様に語り始める。

「待って欲しい。これは夢でも嘘でもないのだ。確かにワシは喋れてはいる。だがそれは、少しずつ成長し、丁度このタイミングでここまで会話出来るまでに至っただけ。少しずつ、確実に経験を積んだ結果が偶然ここで実っただけだ。ワシも何の努力もせずに暮らすなんて出来ない。皆にいつまでも迷惑を掛けまいと言葉の練習を隠れてやっていただけ。何も不思議ではあるまい? そして、ついにここまで辿り着けたのだ……長かった。そして、アリサ! おめでとう。君はワシと意思疎通させたいと考えていたのではないか? そして少しずつ確実に成長し、新たな言葉を発するワシを見て、母親の様な喜びを感じていなかったか? そうであろう? ならばこれは何の問題もない事であろう?」

「は、話を逸らすなああああ!! 今はそんな事で泣いてる訳じゃないのよ。あんたが市田さんを殺したって事を言っているの! そんな事、もう、分かってるでしょ?」

「さあ? 全然分からないなあ。殺すとは? どういう意味なのだあ? なあアリサよ、生まれたてのワシに教えてくれないか? 喋れるようになって間もないのでな。色々と聞きたい。教えてくれるかね? アリサお母さん?」
両手を広げ、首を右に傾けつつ話す。

「くっ……そうやってしらばっくれるつもりね? いいわ……その余裕……少しずつ崩してあげる……!」

「フフンケン君? 本当にフフンケン君なのーリ? 信じられないーリ……」

「アリリちゃん? 彼が犯人って言いましたけど、本当なんですか? どう見てもそんな事する様には……それに確かボケ人間コンテストで一緒に戦った仲間って話を聞いていますが?」

「冗談でこんな事言わないよ!」

「信じられないリキ! フフンケン君の筈ないんだリキ!!! 取り消すリキ!!」

「もう無理よ。この時点で取り消す事は出来ない。これだけ大きな変化が起きてしまったんだからさ……リキュバスさん? それにみんなも! こんなに喋っている彼を一度でも見た事はあるの?」

「無い……リキ」

「同じくニイ……」

「そうよね? 私達に喋れない事を隠している時点で何か裏がある。だから私は黙らない。取り消さない。そしてみんなは最後までこの話を聞かなくては……いけない!」

「確かにそうだカニ。何でフフンケン君がこんな事を隠していたかだけは聞きたいカニ

「でもどうして彼が喋れると気付いたんだドフ?」

「そうね、まずは疑うに至った……根拠よね?」

「そうだニイ! ずっと同じ家にいたのにそんな素振り一度も無かったニイ。こんなに喋っている所は見た事無いニイ」

「ワシもだーリ。位置が隣の部屋なんだーリ。で、普段ずっと静かに読書をしている時も『フンガー』以外の声は聞こえて来んかったーリ?」

「リキ!!!!!!」

「残念だけどあるの……ニイラさん……じゃあまず、みんなはフンガーってどういう存在だと思っている? じゃあネズニ君から私が回った部屋順に教えてくれる?」

「え? そ、それは……料理が得意な素直な青年で……みんなもそう思うでピカ?」

「僕もニイ。僕は力仕事が苦手だけど、重い物を一緒に運んでくれた事があるニイ。そんな彼が酷い事はしないと思うニイ」

「私もだ。あんな事をする人間には到底思えないドフ」

「そうだリキ! 天下一の料理人だリキ! でもあまり喋る事は出来ないリキ!! でもとっても優しくて力持ちリキ!」

「俺もそう思うカニ

「ワシも同意ーリ」

「私も同じよ? だからその事に気付いた時、涙が止まらなかった……」

「アリリーリ……」

「でも、リキュバスさん? 今優しいって言っていたよね? 何でフンガーが優しいと思ったの? 優しさって色々表現方法があるけど、その中でも言葉による優しさの表現でそれを受け取れる事が多いと思うの。態度とか行動を黙ってやってもそれはじっくりその人を見ていれば伝わるかもしれないけど、それはごく少量しか伝わらないと思わない? 一番簡単に優しさを伝える手段って言ったらやっぱり言葉……だと思うの。だけど、彼、喋れないのよ? では、どういうところからその優しさを感じ取ったのか答えられる?」

「え? そ、それは……私の好物を覚えていてくれて、それを美味しく料理してくれるリキ!」

「ワシもそうじゃな。沢山のレシピを覚えているようで、料理本を読んで料理をしているのを見た事が無いーリ」

「そうドフ。彼に指示を出すと全く聞き返してこないドフ。一発で全てを理解して、私の望む結果をもたらしてくれるドフ。正に1を聞いて10を知ると言った感じドフ」

「そうだカニ。おもちゃの片づけを手伝って貰った時も、自分でいろいろ考えて俺の頭で描いた通りに並べてくれたカニ。まるで意思疎通出来ている感じがして、ちょっと気味悪かったカニ

「みんなありがとう。そう、喋る事は出来ないのに、彼は言った事をしっかり把握し、記憶出来る力があるの。これってこうは言えない?」

「ど、どう言えるんだカニ?」

「分からないリキ!!」

「そんなの簡単よ……敢えて喋らないだけで、日本語は十分理解出来ているって事。喋れない振りをしているって事よ!」

「あ!」

「思い出して? 私が台本も一切使わずに200つっこみを終えた後、私以外の全員がその凄まじさに驚いていたよね?」

「確かにニイ……確かあの時アリリちゃん化け物だったニイ。ボケ人間コンテスト優勝者って言うのは伊達ではないと思ったニイ。
アリリちゃん以外の8名の人間が一人一文字ずつ、

【え?】 【な? 【り?】 【だ?】 【か?】 【ず?】 【き?】 【ち?】

と言う個性豊かな感嘆詞を放ち、偶然にも人名にありそうな言葉を完成させつつ驚いていましたニイ。因みに僕は【だ】パートを担当していたニイ」

「そうよね? まあ、その担当を一人一人誰が受け持っていたかなんて聞くつもりはないわ? 重要なのはフンガーもその、言葉を理解している人達同様に驚いていたって言う事実なの」

「そう言えば……」

「本当にフンガーが頭が悪かったとしたら、200つっこみを聞いたところで絶対に驚かない筈なの……本当に頭が悪ければ……ね! 聞いたとしても馬耳東風。ボケっとしている筈よ?」

「た、確かにドフ。では、喋れない振りをしていた彼も、突然行われたあの膨大なつっこみを目の当たりにし、演技を忘れ、素で驚いていたって言う事なのかドフ?」

「そうよ! 思い起こせば今朝のボケ人間コンテストで実際初めて会った時に、

「フンガー?」

としか言わなかったから、その瞬間自動的にフンガーしか喋れない奴とインプットされちゃったの。だって彼から

「私、日本語は完璧に理解出来ますが、フンガーとしか喋る事が出来ませんので宜しくお願い致します」

って断られた訳でもないし……でも、勝手にそう思い込んでしまった……で、それでも私どういう訳か彼に日本語で指示を出して見たのね? そうしたらしっかりと聞き入れ従ってくれた。
それだけじゃなく、予選の三問目で壁にぶち当たり、二人で作戦会議したの。まあ一方的に私が作戦を言っただけだけど……でもそれを一切聞き返す事無く完全に理解した上で実行出来ていた……リハーサル無しで……完璧に……グスッ、それを見た筈なのに……目の当たりにした筈なのに……一切疑問に持たず、それを良しとしてしまっていた……喋れないのに、聞いた事は完全に理解出来ている。と、言うおかしな矛盾を、

【文句も言わずに従ってくれる便利な奴】

だと当たり前に受け入れてしまったの……おかしいよね……バカだよ私……ずっと気付けなかったんだもん……真っ先に疑問に思わなきゃいけない筈の事なのにね……グスッ……」
微笑みながら涙を流す。

閃き、迷う

ガチャ
「ただいまー」

「アリリちゃんか? お帰りーリ。大分激しい戦いだったーリ? ん? 何でお腹が膨れているんだーリ? アリリちゃんは排便で逆にお腹が大きくなってしまう特異体質なのかーリ?」

「そ、そんな所よ」(やめてーそんなにお腹を集中して見ないでー)
現在アリサの服の中にはネクロノミコンが隠されている。普通にカバンの中に隠しておけばよかった物を……何故腹に?

「アリリが帰って来たリキ! お帰リキ!!」

「リキちゃんただいま。ちょっと便秘で……あっ語尾略してるよ! この場面ではお帰りリキが正しい使い方で……」

市田さん……市田さんが生きていれば言ってくれた言葉リキ( ;∀;)」
うっすらと涙が滲み出る。

「リッキイ……ごめん……」
誰に謝っているんだい?

「こらアリリ! 下品な言葉を使うなーリ」

「え?」

「便秘と言ったーリ」
便秘が下品なのか? 排便よりは下品ではないと思うが? 大腸の中に貯まって留まっている状態と、それが今まさに排出されている状態。
どちらが下品かは火を見るより明らか。

「メデューリさん……もうこの話は止めにしましょう? 女三人集まってう〇この話で盛り上がってしまったら読者さん離れが加速するわ」

「同感リキ!! これからはう〇こ禁止令を発令するでリキ!!!」
それだと排便自体を禁止する事になるのだが……正確にはう〇こ発言禁止令であろう。

「ねえ布団は? もう眠る。ある程度まとまったと思うけど、まだ犯人が思い付かないし……明日起きてすっきりしている時に閃くかも」 

「そうーリ。朝は頭が冴える時間ーリ。ゆっくり休めば良いーリ。今日は色々な事が立て続けに起こったから疲れておるだろうし……布団はあの本棚の中にあるーリ。さっき教えた筈ーリ?」

「あっそうだったwじゃあ取ってきまーす」(これでネクロノミコンはバレずに返せるわ……)
タタタタタ
ばれないように戻す。

「取って来たよ。でも固い布団ねえ」
ごそごそ

「我慢してーリ」

「ねえメデューリちゃん! いつものあれお願いリキ!!」

「いつものあれ?」

「ワシの朗読を聞きながら眠りたいのだーリ。いつまでも子供みたいーリ!」

「いいんだリキ!!」

「でも、殺人が起こったばかりーリ? とりあえず今は刑事さんに任せて体を休める事を優先するーリ」

「だからこそリキィ。心細いリキ……」

「ダメーリ」

「やだやだやだやだリキ!」

「大人になりなさいリキちゃんwしかし、本に囲まれて寝るのって初めてかも♡貴重な体験♡」
布団に包まれ満面の笑顔のアリサ。

「ワシは毎日で飽き飽き―リ」

「明日はどこから調べようかしら? ……ウトウト」

「まだ寝ちゃダメリキ! 誘惑魔法!」

「ちょっと待つーリ。何でそんなの掛けるーリ? 止めんかーリ」

「だってアリリちゃん女の子なのに効くんだもん。

「リキュバスお姉たまー」

って言ってにじり寄って来て面白かったんだリキ!」

「何やってんの? 目が冴えちゃったじゃない?」

「今アリリちゃんに誘惑魔法を掛けようとして怒られたリキ!」

「意味の無い事しないの!」

「だって楽しいんだリ……あれ? そういえばあの時……」

「あの時って?」

「みんなに初めて誘惑呪文を掛けた時の話なんだけど、アリリちゃんに効いていた事に驚いて霞んじゃったんだリキ……でももう一つ気になった事があったんだリキ」

「何?」

「ぼそぼそ」
何かを耳打ちするリキュバス。

「え? 何でだろう? 実は女の子だった?」

「ニカカカカカカw」

「え?」

「ヒイヒイリキw」

「リキュバスさんって変な笑い方なのねw でも流石に在り得ないか……」

「当たり前リキw想像したらお腹痛いリキw」

「まあ鈍感っぽかったから効かなかったのかもね? でも何で耳打ちしたの?」

「それは読者さんにはこの会話の流れから何の事を言っているか推理して欲しいと考えたからだリキ!」
わーリキュバスちゃん? 第4の壁を破るような事をしちゃだめだよ。

「メッター! メタ過ぎるよリッキー! で、でもそうよね。甘やかしてばかりじゃね……時には厳しくしないといけないもんねえ」
一体何の話をしていたのだ? 気になるゥ。

「じゃあもう寝ましょう。ふぁーあ……」

「えいリキ!」
ポイッ ぱさっ
リキュバスは軽い本を本棚から取り出し、アリサに投げつける。痛くはないが顔面にヒットする。

「痛い! 何すんのよ!!!!」
ポイッ ぱさっ!
投げてきた本を投げ返す。これでは修学旅行での枕投げのノリであるな……一応殺人事件が起こった直後であるぞ? 緊張感が足りないな……

「こらこら、本をそんな使い方しては駄目ーリ」

「だってえぇ。それに、メデュさんには言われたくないよ? だって昔、本で子供を殺したんでしょ?」」

「うっ……それを言われると……てか半殺しーリ! でも今はやってないし、自分の部屋の本棚の大切な本を投げているのを黙って見ていられないーリ?」

「えっどういう事リキ? 半殺し? お酒の名前かリキ?」

「それは鬼殺しでしょ? 教えてあげない」

「気になるリキ!!!!!! あっ! 隙あリキ!!」
ぽーい バサッ

「いて! こんのおー! しかもまた語尾略をして! ルールを何度も破るんじゃない!」
ぽーい!

「アリサ! 止めんか!!!!!!」 

「ひー! 何で私だけ? でも怒ると怖ーいww」

「いい加減にするーリ! 本が可哀想-リ」

「アリリちゃんは駄目な子リキ!! メデュさんもっと言うリキ!」

「うるさいなあ、もう!」

「取り合えず子供みたいな事は止めるーリ!」

「わかったよー。でも、思い出して? リキュバッさんが先に仕掛て……き……え?」

「え? どうしたーリ?」

「メデューリさん? さっきの、もう一度言ってくれない?」

「え? さっきの? ええと、取り合えず子供みたいな事は止めるーリ?」

「違う!! もっと前!!!」

「え、もっと前? いい加減にするーリ! 本が可哀想ーリ?」

「もっと前!!!!」

「え、えっと……自分の部屋の本棚の大切な本を投げているのを黙って見ていられないーり?」

「それじゃない! 過ぎた!」

「では……アリサ! 止めんか!!!!!! かーリ?」

「メデューリさん! アリサじゃなくてアリリだリキ!!」

「あれ? ついうっかりーリ……」
ピキーン
アリサの脳裏に何かが思い浮かぶ!

「あ、あ……わ、私、犯人が……犯人が……犯人が誰か分かっ……ちゃっ……」
ボロボロ
言い終わるか同時かに、頬を涙が伝う。

「きゃあああああ! アリリちゃんが泣いてるリキ!!!!!! 悪魔の目にも涙リキ!!!!!!!!! 死神の目にも涙リキいいいい!!!!!!!!!」
じたばたじたばた
うむ、正しい表現である。

「これ! リキュバス!! からかうでない! この表情……今アリリは本気で……」

「え……本当リキ?」

「アリリしっかりするーリ! どうしたーリ」

「ぐすっ、ぐすっ」
タオルーズの2枚組のタオルで交互に涙を拭うが、止まる気配はない。

「落ち着くーリ? 何があったーリ? まさか? ワシが強く言い過ぎたのかーリ? もしかして全力で怒鳴ってしまったかもしれないーリ……ごめんーリ」

「ち、違うの……謝る必要なんてない……全然違う……だ、だってあの時……間違いなかった……この私が間違える筈ない!! じ、じゃあ、あの時も、あの時も、そうだ……あの時も、あの時だって……

【全部……分かって……いた、んだ……】

……信じ、られない……グスッ……もっと……早く……気付くべきだった……そうよ……今日の朝、あの瞬間に気付いてもおかしくなかったのに……バカ過ぎるよ……私……何で、あんな、不自然な状況だったのに……そんな事すら一切疑問に感じずにいられたのよ!! あんな事に気付けないなんて……ぐすっ……これじゃあ神名探偵……失格だ……」
アリサ? お主、いつの間に神名探偵になっていたのだ? まあいい。そしてアリサは膝から崩れ落ちる。

「急に膝から崩れ落ちてどうしたんだリキ? 何が不自然リキ? 今のアリリちゃんが一番不自然リキ!!」

「あれとかあれとかじゃ良く分からないーリ」

「な、な」

「なーリ?」

「謎は……アレ以外……解けた!」
ズコー

「ちょっと! ここは全て解けたと言って欲しいリキ!」

「そうじゃ! 何でアレ以外なんて気弱な事を言うんだーリ! 思わず昭和風のズッコケをしてしまったーリ」

「懐かしい……丁度昨日の今頃だったかしら? ママと照代さんにも同じ様な事を言われたの思い出したわw照代さん生きてるかなあ?」

「どういう事リキ?」

「照代さん毒飲んじゃってね」

「ひええリキ」

「それはお気の毒ーリって……昨日の今頃も?」 

「グスッ そうね」

「昨日も何か謎が発生していて、その謎の真相をアリリちゃんが思い付いて、同じやり取りをしたのーリ?」 

「そうね」

「凄いーリ。名探偵だーリ」

「まあね……ちょっと違うけど……」

「何がーリ?」

「正式には神名探偵よ」

「何だそれはーリ! でも冗談を言えるまで落ち着いたーリ?」

「うん……てか冗談じゃなくて本気だけどね。そういや今回も女3人集まった時に閃いたみたい。偶然だとは思うけど……でも、こんなの、思い付きたくなかった……」

「でもその、分からなかった【アレ】ってのは何リキ?」

「それは皆が揃った所で説明するよ」

「焦らされるのはムズムズするリキ」

「焦らされるのはムズムズするーリ」

「我慢して! じゃあみんなを市田さんの部屋に集めましょう。眠いけど眠っている暇なんかない。でも……ここまで分かっても犯人が何に対して恨みがあるのかまでは分からない……このまま放っておいたらまた次の殺人が起こるかもしれない……急がなきゃ」

「リキ!!!」

「分かったーリ!」
リキュバスは2階の、メデューリは3階のメンバーを呼びに走る。

ーーーーーーーーーーーーー市田の部屋ーーーーーーーーーーーーーー

「集まったわね?」

「もう深夜3時ですよ? 流石に意識が……眠い……」
竜牙が情けない声を上げる。

「眠いのは誰もが同じよ。我慢して? あっそうだ、フンガー! 皆にコーヒー出してあげてー」

「フンガーフフ!」
ダダダダダダダダ
迅速に自室に走るフンガー
ーーーーーーーーーーーーー5分後ーーーーーーーーーーーーーー
「フガフフ! ふーふー」
全力疾走した様で疲れながらも人数分のコーヒーを乗せたお盆を器用に運び、市田の机に置く。
コトコト

「いい匂いリキ!」
ゴクゴク

「おおこれは良いコーヒーだニイ」
ゴクゴク

「いつも済まないーリ」
ゴクゴク

「美味しい……みんなもこれで睡魔に勝てそうよね?」

「ふぁ~~い」
欠伸混じりのでの返事。

「あっ! 刑事さん 気合足りてないよ? もう一杯飲む?」

「仕方ないですよ……ここまで眠ければそんなのほぼ効果なんてないですよお……今にも夢の世界へ……フラフラ……ZZZ……」
竜牙は立ったまま、そして目を開けた状態で眠ってしまった?

「すううううううう……お米食べなさーい!!!!!!」
ビクッ

「急に何だドフ?」

「うっ? うわああああああああああああ!!」
ピョーン

「急に叫ばないでリキ! それにお米ならさっき散々食べたリキ」

「こういう定型文なの。そこはごめん。でもこの超有名な炎ワードを知らないという事は、修ちゃんのファンはここにはいないようね? わかった。じゃあ私がしっかりと布教していかないとね。全員修ちゃんのファンにしてやるんだからね?」
今は堪えるのだアリサよ。

「驚いたニイ。でも目が冴えたかも知れないニイ」

「私、これが一番声に力が入る言葉なのよねー。これでみんなに喝を入れたのよ」

「俺、コーヒーでも駄目だったのに今の叫び声で目が冴えて来たカニ。すごいカニ!」

「確かに……うおおおおお! 後数時間だけなら耐えられそうです!」

「ふふん! 修ちゃんは万能なのよ! 良かった! じゃあ行くよ!」

「了解ドフ」

「分かったーリ」

「で、何の用でここに? 出来れば手短にお願いしたいでチュウ。一時的に気合で目が覚めても、本来はみんな眠い筈ピカ」

「この中に、犯人がいる。市田さんをある方法で殺害した人物がね!」

「本当かニイ? じ、じゃあまさか死体の場所も分かったのニイ?」

「それは分からない。でも、これから指名した犯人がその場所を教えてくれる筈よ」

「で、誰なんですか? その犯人と言うのは?」

「その前に竜牙さんは知らないけど、リキュバスさんが2回目の夕食の時、悪戯で部屋を暗くした時あったわね?」

「はいチュウ」

「あの時にきっかけを与えられた。気付きのピースをね……」

「成程ーリ」

「で、さっき寝室 、(呪術図書館)で、楽しくリキュバスさんと枕投げ、 (本投げ)をしているその時、閃いてしまった……信じられない事実を……」

「あの時泣いていたリキ? その事実を知って泣いたリキ?」

「泣いてなんかないよ。そうだよね?」
    
                   <余> <計>
「ヒィ……そ、そうだね……」
あまりの恐ろしい目力に語尾を忘れ、俯くリキュバス。

「フンガーフフ?」

「一体何を閃いたんだーリ? ワシも近くにいたのに全く分からんーリ」

「私もさっぱりです」

「真犯人は間違いなくこの中にいる」

「ええ? ま、まさかそんな」

「誰なんだピカ?」

「それはねえ……次回に、続くのよおおおおおお!」
ズコー

 

こっそり解読ぅ♡

盗んだ。いや、ちょっと黙ってお借りしたネクロノミコン市田の部屋で読むアリサ。

「よし、じゃあそろそろこれを読もう。これがメインだ! 私は死の呪文で市田さんが殺されたと思っている。だからゆっくり誰にも邪魔されず解読したいから黙ってちょっと借りたんだ。でも、持って来る時緊張したなあ。人生初の盗みだったからね。ドキドキが止まらないよ……」
おいおい金の斧を躊躇いもなく奪ったであろう? 泉の精霊様から盗んだ金の斧! それに一話でもブラックダイアをちゃっかり盗んでいるんだよ? 自分に都合の悪い事をケロッと忘れるアリサ。

「でも気付かれない様に早く済ませなくちゃね……まずは全文を読んでみようっと。撮影しながらね。ええと? 

【死神の蝦蟇振るいかぶる時に空間凍り付き、全ての生命失われるだろう。冥界の王よ。汝、十字架に封ぜられた力今ここで解放した。この力標としこの地に彼の神遣わせよ。我はここに……我はここに……この罪深き命、贄と捧げる! 我は望む。逆さ十字架の導きの下に、|彼《か》の魂、未来永劫、冥府の|淵底《えんてい》に繋ぎ留めよ!! 出でよ、死を、司りし神!!! アルヴァデカ・ダーヴァ】

……か。こ、これが死の呪文の全文……?  ……か……かっこいい!! 長いけどそれが良い! 自分で読んだのにそれだけでなんか清々しい気持ちになれたああ♡でさ、我はここにって部分! ここを2回言う所もなんかかっこいいわあ♡大事なので2回言いましたって感じがするし、いたづらに私の厨二病心が擽られするうううううwああ、こんな長くてかっこいい呪文を早乙女さんみたいに即死耐性の無さそうでありそこそこの強敵相手に嚙まずに大声で叫んでみたい!」
ああ、私もその気持ち分かる。だがそれって早乙女さんを殺害するって事でしょ? そんなことしちゃぜったいにだめだよ。因みに早乙女とは前回に登場した中ボスで、握力が195もある女性である。詳しくは2話をご覧いただきたい。

「でもこの呪文長いしなかなか覚えにくいような難しい表現を沢山使っているよねえ。これを覚えるのも一苦労だわ」
まあ普通に考えてこれだけ長ければ詠唱中に妨害攻撃をされるだろうな……

「ん? まだ続きがあるわ! 尚、この呪文を使用する際には逆さ十字架を手に持った状態で唱えないと効果は発動しない……か。これはさっきも読んだわね。これが触媒を使用するって事よね? 確か十字架には精神耐性があるみたいだけど……って事は、詠唱している最中に混乱の魔法とかを術者に唱えても妨害出来ないと言う事ね? 妨害するには物理攻撃とか、防御呪文で身を守るか遠くに逃げるとかするしかないって事か……でも、詠唱しながら敵に十字架を向けるのよね? 結構大変じゃない……でも……犯人は多分この呪文で市田さんを殺したんじゃないかって思う。乙女の直感よ! 確かに唱えるのは大変だけど、この呪文で殺害出来れば外傷もないし、毒も検出されない。満腹で死んだという検視結果も納得だわ。それ以外どうやっても原因が出てこないもの。だから、誰に何と言われようが死の呪文で殺したという事で考える!! でも……あの市田さんに死の呪文で? そんな事出来るの? 確か怒虎とかいうでっけえ猫の化け物の傍にいる内に膨大な魔力が身に付いた。って話してたしなあ。犯人が呪文を詠唱しようものならちょっとした魔力の反応位気付く筈だけど……でも、現場を見た限り食べ物を食べながら呪文を受けた様に思えるのよ。鑑識の書類にも満腹で死んだかも? って書いてあったし……それに沢山食べ物が散らばってた。食べながらだとそういう微妙な魔力の流れを一切感知出来ないって事にして進めよう」
とことこ クルッ とことこ

「ええと……犯人は多分11時位にここに来て、コーヒーとそれに合う食べ物を一緒に食べよう! と持ち掛けたんだと思う。でも今回市田さんはお腹一杯だったと思うのよ。一緒に夕食食べたから間違いないわ……その状態でこれだけ食べたんでしょ? どうやってそんな事? うーん……じゃあ犯人は珍しいお菓子だからとか嘘を突いて無理やり食べさせようとしたのかしら? 珍しくて期間限定とか嘘を突けばここで食べないのは勿体無いって思うと思う。でも結局その時ってどんなに美味しい食べ物を受け取っても、こぼしたら勿体ないって気持ちにはならないと思うわ。だから平然と床にこぼれてるのよ! それとも一足りない精神から必ず完食しない様に意図的にこぼしている? うーん……こればっかりは本人に直接聞かないと分からないもんね。で、その食べ物を順番に辿ってみたら何か浮かんで来るんじゃないかなって思っているわ。あれだけ長い呪文を堂々と唱える事は絶対に出来ないからね。
犯人は始めから呪文で殺す為にこの部屋に入ったんじゃないかしら? だからここに散らばっている物はただ市田さんに喜んで食べて貰う為に用意された物ではないんだ。死の呪文の響きの材料となる物なのかも? そうだと考えて調べ直そう! で、まずは、この死の呪文の詠唱部分の単語と、落ちて点々と並んでいる食べ物との名前を比較してみようっと。
もしかしたらそこから何か手掛かりが出てくるかも……何も出ないかもしれないけどそれ位しかやる事ないし……じゃあ考えて見ようっと……」
そう言いつつ事件現場を撮影した携帯電話を見る。

うーん。例えば時計回りだとコーヒーから菓子、牛肉、蟹、レタゼラ、赤い汁、レーズンと言う順番で並んでいるわ。
だから、まず市田さんはコーヒーを飲んだんだと思う。正確に言えば飲まされたのよね? 逆回転だったらレーズンからだけど、多分コーヒーから飲んだんだと思う。だって、レーズンってデザートよね? それは最後に出すじゃない? まず飲み物を、そしてそれに合う菓子を続いて出す筈よ! 席からも近いし間違いないわ。でもこの場合のメインの食材って何かしら? この中ではもしかしてこの菓子の破片? で、それに色々とトッピングする物を順番に渡したのかしら? 位置的にもそう考えるのが妥当よね。だからまずは時計回りで考えてみよう! ええと……コーヒーの次にお菓子を貰って、その上に牛肉やカニを乗せた? そんな感じよね? ちょっとこの流れでシミュレートしてみようっと……まずは、一番初めの詠唱部分の

【死神の蝦蟇】

を引き出す目的で犯人がコーヒーを市田さんに渡した場合、死神が入った言葉を含んだ内容の話になるよね? で、死神が含んだ上でコーヒー関連の話題。と、言う事よね? だとしたらその話題に出てくる物と言えば……香りとか味よね? 豆によって違う香りとか、甘さの中に感じるほのかな苦みが魅力的よね。
だから犯人からコーヒーを受け取り飲んだ時……こういう話を始めるかもしれない。

「うん、いい甘さだよお。やはりコーヒーは砂糖だねえ」

かな? いや、なんか違う……甘さはないわよ……まてよ? そうだ! 確か市田さんは私が200ツッコミの途中で口を挟んで来て、喋りすぎているし少し休憩しようって話になったよね? 確か135個目のつっこみをする際だ。その時私、強がっていたけど実は疲弊していた。そんな私を気遣いにコーヒーを飲ませようとフンガーに命令していた。
その時、フンガーが持ってきたコーヒーを一旦市田さんが預かって、香りを確認し、その結果がオッケーだったから私に届けられた。これってつまり……そう、私に出すに相応しい【香り】のコーヒーだと判断したって事よね? と言う事は、どちらかと言えば甘さよりは香りに拘りを持っていた筈ね。まあ人に飲ませるコーヒーに口まで付けて確認する事は出来ないとは思うけど、それでも香りに拘りが有った筈だわ。私に渡す前に、この香りなら大丈夫だって感じのニュアンスで話していたもん。じゃあまずは犯人にコーヒーを渡された後いきなり飲んだんじゃなくて、その前に香りを確認して、それに関する話から始めたんじゃないかしら? だから……

「やはりコーヒーは香りだよねえ」

と聞いたのかも? 市田さんが犯人にそう聞いたと仮定すれば、香りが好きだという事を知っている犯人は、自分は香りではない。と言えば、市田さんが驚いたときに使用する

「ま?」

って言葉を多分返すよねえ……香りにかなり拘りを持ってるんだから……自分と同じ価値観がないと分かれば、ま? と聞くと思うわ。だから

【ま?】

と返すのはほぼ間違いない筈。
死神の蝦蟇、しにがみのがま……うん、しにがみのがまの中にはしっかりと【ま】が入っているね……という事はその前の5文字を犯人が言ったって事になるのかしら? じゃあ死神が入っていて、コーヒーに関係がある言葉って何だろう? ……しにがみしにがみ……し、にがみ……あ、にがみだ。苦みが死神の中に入ってる! 3文字も共通部分がある! だから流れ的には……「苦みの方が」……「ま?」……ちょっと余計な文字があるね。しにがみのがましにがみのがま……」
とことことことこ

「じゃあ、「私は、苦みの方が」……「ま?」これも余計な文字があるし違う。
じゃあ、「私、苦みの方が」……「ま?」……うん、これでなんとなく死の呪文の冒頭部分の詠唱に似てない? で、じゃあもっと近づけるには……「私、苦みのが」……「ま?」だとどう? 

【わたしにがみのが】

……うん、続いているわ。だけど私の【わた】の部分だけは詠唱に必要ない部分だけど、そこから【しにがみのが】の6文字を連続で言えている。
例え私の【わた】が混ざっていたとしても、その呪文で適応されない文字は無視されて、【し】から詠唱部分として受け入れられる筈なのよ。実際に市田さんは死んでいるって事は呪文が発動した何よりの証拠。そういう騙しのテクニックも使っている筈だわ! そうすれば市田さんにはバレずに犯人が苦みの方が好きだと言う事を伝えつつ、死の呪文の冒頭部分の詠唱を同時進行で出来ている! 市田さんもまさかこの流れから死の呪文を唱え始めたなんて疑う筈ないわね。
そして、そこに市田さんのリアクションの「ま?」を合わせれば、

【死神の蝦蟇】

を二人で唱えた事になっていないかしら? これ、市田さんとリキュバスちゃんも妖服の間を暗くする時にやっていた詠唱方法よね? 代わりばんこに唱えてたやつ!! 確か協術って言っていた気がするけど詳しくは覚えていないわ。それをこの長い詠唱全部を気付かれないようにしてやったって事なの? もしそうだとしたら犯人はとんでもなく頭の良い奴よ? 言葉のスペシャリスト……という事はまさか犯人はネズニ男? でもあいつずっと食堂にいたし……みんながいない間に? でもトイレに行く時残ってたのはあいつだけだし……でも確実にその部屋に一人だけになるなんて意図して出来ないよね……そうする為には全員の便意を統一しないといけないし……偶然だよね? ……うーん……誰だろう?」
トコトコ トコトコ 
時計回りに歩きながら考えをまとめる。

「よし、少し歩いてリフレッシュしたわ。じゃあ続きやろうか! 犯人の事は今はいいや。取り合えず詠唱と食べ物の関係を見ていこう。今しか出来ないんだし……ええと、私、苦みのが。ま? までがもし正解だとすれば、次の詠唱は

【振るいかぶる時に空間凍り付き】

でしょ? 例えば古い株! と言って何十年物の株の漬物を渡した? いいや! そんな物床に落ちていなかったし、あの菓子には合いそうにないから違う! じゃあブルから先に考えて見よう……ブルは市田さんの十八番だし、犯人もその癖は絶対に使ったと思う。そう考えると……ブルの前にくる言葉は……

「古いか?」 

しかないわよね。じゃああの時、苦みの方が好きって言った犯人に対し、ま? って市田さんが言ったのよね? その後、それに対し犯人は

【古いか?】

って聞いたって事お? え? なんで?」
くるくるくるくる

「分からねえ……確かに苦いのが好きと言われてマジか……って顔をされればそう返しても不自然じゃないかも? いや不自然だよなあ……苦みが好きって言う人それぞれの好みを、新しいや古いで分けないもんね……でも、そう言うしかないから……だから……このセリフを言わざるを得なかったと判断するわ。……でも……それを普通に言うだけじゃ足りない。怪しまれるし……そうよね? だって震えたんだよ? 市田さんが……だから多分犯人は思いっきり睨みながら強めの発音で言ったんじゃないかな? そうすれば市田さんなら

「ブル」

って怯える筈! でも恐怖が中途半端だとブルーレイやブルートゥースイヤホン、明治ブルガリアヨーグルト、とかブルの後に何か追加して誤魔化す誰も得しない技法、

【|振動有耶無耶法《しんどううやむやほう》】

を使用する筈。だから犯人は古いか? って言いながら物凄い怖い表情で睨まないといけないと思うわ。それにそれだけすごめば多少おかしい事を言ったとしても恐怖で判断能力も薄れ、ゴリ押し出来るかもしれないし。……で、古いか? ブル……か……いやいや……強引過ぎない? 確かに辻褄を合わせるにはこれしかないけれど……どう考えても、こんなつっこみ普通の会話で使うかしら? まあいいか……一応言葉は繋がった訳だし……で、次は時に空間凍り付きでしょ? だから……

「時に、食うか?」 

って言って、床に落ちていたあの菓子を渡す。……で、次は氷付きだからあ……菓子に氷を乗せた状態で渡すのよ! それを見たら

「ん? 氷付き?」

って言うかもしれない。っていうか言って貰うにはそれしかないよね? 確か私がこの屋敷に入ってすぐに、

「ん? お客付き?」 

って私を見た市田さんがフンガーに聞いてたもんね。それを応用させればお菓子と一緒に氷を出されればそういう反応になるかもしれないわ……じゃああの床に不自然に少量こぼれていた水は……この為に用意された恐らくお菓子に乗せていたであろう氷が落ちて溶けた物だったのかもしれないわ! や……ヤバい、犯人ヤバすぎる……こんなところまで計算していたって言うの? ブル……でも、そう言えばちゃんと繋がるんだよ。
犯人は市田さんの言葉の癖を完全に把握しているわ。だからあらかじめ食べさせる食材を持ち込んでこの部屋に乗り込んだんだ! でも突然こんな振る舞いを受けたら疑われないかしら? うーん、でもある程度犯人はおかしいと疑われる事を覚悟の上でやったんだと思う! だから、古いか? ブル 時に食うか? ん? 氷付き? って繋がるのよ! ここまでは間違いないわ! この時点でこの流れを経ても恐らく市田さんでも死の呪文を共に唱えている事は全く気付けないよね? 次は、全ての生命……だから……氷を全て乗せろ! つまり、自分のお菓子に氷を乗せたように、

「全て乗せい!」

って言って、市田さんにも自分のやったことをする様に促して、その後何も言わせず自分が食べて見せる。市田さんはその動きに合わせて食べる筈。そうすれば、氷の冷たさとその焼き菓子が奇跡的にマッチすれば……おいしい時に発する

「めい!」

って言葉を使う筈! だって私が風呂上がりに食堂に入った直後、丁度市田さん紅茶を飲んでいて、その時しっかりと

【めい!】

って言っていたもん! それはおいしい物を食べたり飲んだりした時に言う言葉だ! そしてそれを聞いた後すぐに

「牛!!」

って言ってあの牛肉を犯人が取り出せば、

「な?」

って言って驚く筈。氷の次に突然牛なのか? って驚く筈よ……でもその時市田さんはこうも思うのよ。菓子の全体的に氷が乗っているって事に。でも次の食材が出て来て一体どうすればいいんだ? って迷っている時に犯人が

「割れるだろう?」

って言いながら、全体的に乗っていた氷をどちらか片側に寄せさせて、牛肉を乗せるスペースを確保してから半分に割らせたんだ! この動作を実演し、次に何も乗っていない半分になった菓子に牛肉を乗せさせる。そしてもう片方には氷が乗っている菓子に分かれる。それを市田さんが食べたら、飲み込んだのを見計らって

「冥界の?」 

って聞く、例え冥界のと言っていたとしても、状況的にうめえかいの? と言ったと錯覚させる事が可能だわ! そしてその返事は当然

「おうよ!」

だもんねwうわあ見事に繋がっていくうwおうよって言葉も結構使ってたわよねwだから同じ要領で……うん、出来る! 全て辻褄が合う!!!! ここまでで、

【死神の蝦蟇振るいかぶる時に空間凍り付き、全ての生命失われるだろう。冥界の王よ!】 

までを犯人と市田さんの二人で唱えている事になるわ! ここまで来たらもう否定しようがない。もう……間違い……ない。
犯人はこんなトリックで市田さんを……よし、次! この調子で最後まで行けるかしら……あっ! でもそろそろ戻らないと……|これ《ネクロノミコン》無くなっているのに気付かれちゃうかも……犯人まで特定したかったけど一旦中断! よし! そろそろ戻ろう!