magisyaのブログ

小説となぞなぞを投稿してます

フランケン × 家庭科室?

「お次はこの部屋だよ」

「まだあるの? もうお腹一杯よ。疲れたー……だけどお腹減ったわ」
アリリにも疲れが出てきたようだな。確かに若いとは言え、流血沙汰を起こした後に幾つもの部屋を歩き回るのは正直しんどいのだろう。

「ま? どっちなんだい?」

「始めのは気分的にお腹いっぱいで、次のが物理的に減って来たって事ね」

「なる! でもこの部屋が最後だ。ラストスパートだよ。ファイトだ!」

「はいっ!」

「でもね、最後と言ったけどまあまだ空き部屋がいくつかあるんだよお、中々条件に合う人が来なくてねえ。今はこの人数に抑えているよ。良かったねアリリちゃん」

「ま? 条件? そんな厳しいの? こんな時なんだから誰でも入れればいいのに」

「うーん、まず面接でその人と成りをしっかりと見て判断するんだよ」

「そりゃそうよね。私も新人部員の面接では一番に見る所よ」
アリリは学校でも推理クラブの面接官として活躍しているようだ。副部長と言うのは伊達ではないな。

「ま? 小学校のクラブでも面接するのかい?」

「部長のアイディアなのよ」

「な? しっかりしてるねえ。でもそうだよね。それにすぐ辞めちゃうと大損だし」

「え? どうして大損なの? 何も損しないじゃない?」

「な? でもそれはまだ君が幼いから言える事なんだよ? 何も分かっていないねえ。まあその一つ抜けている所が君の欠点でもあり、良いところでもあるんだよ?」

「何が抜けているの? 要点だけお願い」

「ええと、私達が長い年月をかけて作り上げたこの素晴らしいノウハウを盗まれちゃう危険性もある。そんな事になったら大変だよお? 面接の間に相応しい人かどうかしっかりと確認しないとね。ほら、ノウハウだけ盗んで、ササっとやめちゃって、別の場所でそれを模写したお化け屋敷を立ち上げられたらと思うと……ブル……ドッグ」

「何言ってるの? 突然ブルドッグって言う必要ある? まさかブルって言うのが恥ずかしくなってドッグを追加したの?」

「おうよ! 私もこのままじゃ駄目だと思うようになって来てねえ」

「でも何回もブルブル言っている人が急にそんな誤魔化し方しても効果ないよwwwそういえばさっきもブルーブックリポートって言ってたよねwでもそれ、余裕がある時にしか言えなさそうw本当に怖い事が起きたらそんな余裕絶対ないわwww断言してもいいw」

「そうとは限らないよお」

「うるせえ。それにさ、ちょっと考えれば分かると思うけど、現在その素晴らしいノウハウを最大限有効活用した結果、閑古鳥が鳴いているんでしょw」

「そ、そうだったな、うっかりしていた……でも、そんな一つ足りないところが私の欠点でもあり、良いところでもあるんだ」

「それ何度言うの?」

「な? 今何か言ったのか?」

「いやいや、いつものやつ言ってたよ? 欠点でもあり良いところでもってやつ」

「ま? 無意識で言っていたかもね……アリリちゃんに言われなければ気付かなかったよ。この一つ足りないところが……」

「しつこいよー今のは意識してたでしょ?」

「な? 申し訳ない……癖なんだよ。止められないんだよお……」

「私の小さいは余計よ! みたいな物か……」
一日多い時は5回は小さいと言われるアリリ。それに反応し、すぐさまこの言葉が出てしまうのだ。

「で、次にどんな妖怪をやりたいか直接面接して聞くんだけど、人気のある妖怪ですりかべとか猫美女をやりたいって人が多くて」

「あのとうせんぼうするっていう長方形で顔が真ん中にあって、手足の生えた壁みたいな奴と、猫のコスプレをした女の子の妖怪でしょ? え? 何が駄目なの?」
詳しいアリリ。

「どうやっても出来ないんだよ」
出来ない? どういう事だ?

「出来ないねえ。何が? 詳しく教えて?」

「いやいやこれは説明大変だから勘弁してくれ。しっかし面接も大変だし……お客さんも来ないし、どんどんお金が無くなっていくし……作品のネタも出てこないし……いやいや、今は打開策を考えよう!」 

「そうね。で、もしいい人を見つけてその人に部屋をあてがったら維持費も変わってくるし、給料とかも増えるもんね。自然と入場料も上がっちゃうね」

「そう言えばそうだね。これ以上上がっては駄目だよね? だからまずはこの状況を何とかするのを最優先にしないとね。人を増やすのはそれからだね? じゃあこの後二回目の夕食があるんだから頑張って」

「はいっ!!」(上手くはぐらかされたなあ。じゃあ食事中に何が出来ないのかをじっくり聞こうかしら)

「ここだよ」
少し歩くと目的の部屋に到着。入り口にはHousework in general (家事全般)と書かれた看板が? どういう事だ? ここはお化け屋敷だった筈だが……
コンコン

「失礼するよ」
ガチャ

「お邪魔しまーす♡」
なにやら男が台所で作業している。相当背が高く、台所が小さく見える。しかし、見覚えのある姿だ。

「フフンケン。ここも見回っていいよね?」

「フンガー!!」
何とこの部屋主はフンガーだった。そしてエプロンをして白い帽子をかぶっている。恐らく料理中の様だな。

「あら? フンガーじゃない? そういえばいつの間にか……えーと、確かオオカニ君の部屋あたりから居なくなってたけど、この部屋に居たんだ」
ぬ?

「ここで色々仕事があるからね。それに見回りでアリリちゃんがここにも来ると考え、先に自室に戻ったんだと思うよお……あっ、フフンケン! 語尾語尾」

「フガガ? ……フンガーフフ」
フンガーもしっかり従っている。この屋敷の住人は全員従順である。

「まーたやってるw馬鹿の一つ覚えねーwまあいっか。まあもう慣れたわ。じゃあ見て回るよ?」 

「最後だし気合入れてね? まあここも何も問題ないと思うけどね」

「はいっ! わあ?……洗濯機? に、アイロン。テレビに、高圧洗浄機に電子レンジが何台もあるううう? ……はあはあ……ふうふう」
ガクッ
おや? アリリに勢いが無いな……先程市田に頑張れと言われた直後であろう! 何をしておる!! しっかりせんか!!!

「どうしたんだい!」

「いいえ。何でも無いし……ふうふう……平気へっちゃらよ……あっ! ガスコンロやラジオも? ……たくさーんあるわー。掃除機もあるし……何ここ?」
やはりだ。ハートが無い。部屋に入る時は付いていたのだが……疲労でハートを付ける余裕が消えてしまった? それとも部屋主がフンガーと言う事で初対面ではない彼には愛想を振りまく必要が無いと判断し、付けていないのか? そこまでは分からない。 

「ここはみんなの家事を請け負う部屋だ。フフンケンは家事のプロなんだよ! 中でも料理はフフンケンが一番上手なんだよお」

「そうーリ」

「メデュちゃんも上手じゃないか! この屋敷の住人全員料理は出来る。ここで食材を持ち寄り料理を作っていくんだよ」

「へえー! 乗り物としては優秀だったのは間違いないけど、そんな機能も搭載されているの? やったあ!」

「な? やったあ?」
アリリはまるでフンガーを自分の所有物として考えていて、その所有物に新機能が搭載されていた事実に大喜びしたのかもしれない。
まあずっと愛用していた乗り物だからそう考えても仕方がないが、フンガーはアリリの所有物ではなく、一人の人間なのだぞ!

「何でもないよ。でも意外ね」

「ま? でもみんな初対面ではそう言うよ。週一回、全ての部屋を掃除して回ってくれている」

「すごい便利じゃん! 一家に一台……違うなあ一体ね。私の家にも一体欲しいわ」

「……」

「NO!」

「また! 急に英語で! 何人よ?」

「な? 当然日木人だよ」

「にきじん? 日本人でしょ?」

「ここではそうなんだ。アリリちゃんも日木人だよ!」

「NO!」

「な? マネしないで欲しいなあ」

「結構気に入っちゃってw」

「NOは私の物なので絶対に駄目だからね? 分かったね?」
 
「でもこのお部屋、遊び道具とか全くないよね? テレビとラジオは一応あるみたいだけど……ずうっと電化製品に囲まれてさあ……つまらなくないの? ここでずっといるんでしょ? 暇つぶしはどうしているの?」

「彼はね……私がとある面白いと言う噂のゲームを手に入れ、まずはフフンケンにやってもらったんだ。それをプレイしていたんだが数日後、叫び声が聞こえたんだ。慌てて部屋に入ってみたら……大粒の涙を流し倒れていた。そして意識を取り戻したが、それ以来【フンガー】としか喋る事が出来なくなってしまったんだ……」

「突然ね……今までは普通に喋れていたの?」

「おうよ!」

「そんな影響力の強いゲームなんてあるんだ。で、どんなゲーム?」

「さっきの部屋でも見たカフムーチョラグー……」

「フン」
ガッ

「え? フンガー?」

「ムグググ……ギギギ……」
ギギギギ……ミシッ
市田がそのタイトルを言おうとした瞬間、突然フンガーの表情が本物のフランケケソシュタイソの様に変わり、市田の口を手で塞ぐ。凄まじい力だ。市田の顔の下半分の骨にひびが入るような音が響いている。入り口で100万円を渡せと言われた時にも怒りの感情など見せずに気前よく渡していた筈なのに……そのタイトルを聞かれる事がそれよりも大きいと言う事なのか? ブル。

「あらあらフンガーwまあ、いいよ? あんたの好きになさいwでも、殺しちゃダメよ? そのすれすれを狙う様に痛めつけなさいwww」
大人二人が力を込め争っていると言うのに、呑気なアリリ。それどころかそれを見て楽しんでいるとさえ言える。まあどの道アリリの力では仲裁に入るのは無理であろう。

「グ……はあ、はあ……そ、そうだったね。これ以上は駄目だったね」

「え? どんなゲームなの? そして何があったの? 気になるー」

「駄目だ。これを口にしたらいくら私と言えど……ブル」

「そこまでえええええええええ? ブル」

「ああ。ただ言えるのはそのゲームをプレイ後に気絶していて、目を覚ました直後、突然暴れ出したんだ。まずはコントローラーを粉砕した。文字通り粉になるまでそれを殴り続けた……その時初めて【ブル】と言う状態になったのかもしれない。それまではそこまで恐怖に震える出来事も無かったしな」

「あれ? 市田さんのブル歴ってそんなに浅かったの? てっきり怒虎招かれ時に発病したと思った。怒虎は怖くなかったの? あんたかなりのでっかい猫にこき使われてたんでしょ?」
ブル歴という新たな言葉をすぐに作れるアリリ。

「ああ、私は後期従者なんだ」

「後期?」

「おうよ! 怒虎従者には前期と後期に分かれていて、前期の頃はかなりの死者が出たらしいけど、それは情報が足りなかっただけ。で、私が従者入りした時は既に前期の方々の血の滲む努力の末に作成された怒虎対策マニュアルでどうすれば喜んでくれるかとか、逆にやってはいけない事とかも事細かに記されていた。で、そのお陰で、死者はそれ程出なかった。でも怒虎様に歯向えば瞬殺だったねえ。まあ歯向かわなければ温厚だったからねえ。恐怖とは無関係だったよ」

「色々あったんだね……」

「沢山の人生の時間を消費したけどいい経験にはなったよ。あの方の傍で働いている内に彼らの魔力を感じるようになったんだよ」

「ま? 不思議な力って言ってたあれ? そういえば妖精の間でも高濃度の魔力の渦の中スタスタ歩いてたよね? 魔力はすごいんだよね? 市田さんって」

「おうよ! 怒虎様は幾つかの呪文も教えてくれた。生活に役立つ魔法も……そうでない物も……ね」

「どんなの?」

「部屋を明るくしたり 自分の体を魔法から守る効果のある魔法とか、相手の動きを止める足枷の呪文とか色々さ」

「ああブライト・モアとかね?」

「おうよ! 更に出版も出来て、かなり有名になったんだよ?」

「ネタが尽きたって言っていたけど、実際にさらわれた体験談を書いても売れるんじゃない?」

「ああ、それは私の処女作だよお?

【怒虎の従者の成り上がり】

って聞いた事はあるかい?」

「聞いた事無いわ?」

「私の元従者時代、みんなほとんど無気力に従者生活をしていたんだ。そんな中私は従者になってしまったのだから、せめてその中で一番を目指そうと思い立ったんだ。危険だけどなるべく傍でお世話して、顔を覚えてもらおうって頑張ったんだよお?」

「へえ、若手芸人みたいじゃん」

「当時は今みたいな性格じゃなくって松谷修造真っ青の熱血漢だったんだよお?」

「へえ」

「だけど暫くしてようやく心が通じると思った矢先に何者かに封じられてしまい、従者は全員開放されたんだ……虚しかったよお。私は現実を中々受け止められず、解放された後もしばらく掃除をして待っていたんだよお。そうだよ、彼らが帰って来るのを。でも一番最後まで山怒虎軒に残ったけれども戻ってこなかったんだよお」

「ふうん山怒虎軒かあ。注文の多そうな建物ね」

「話を戻すよ? あまり思い出したくない事だしね……で、フフンケンはそれだけでは飽き足らず、部屋中を駆け回り、ありとあらゆる遊具を壊した。まるで……ブル……ドーザーだったよ……だからもう彼の部屋に遊具などは何も無いんだよお」
おや? また市田がブルと言う口癖を誤魔化そうと今度はドーザーと言う言葉を付け足したように感じた。まあ話の流れ的におかしなことは言っていないがブルドーザーに例える必要性はなかったように思える。それよりかはブルってしまい、それを隠す為にわざわざドーザーを付け足した様に感じた。先程はドッグだったな。どうしてだろう?

「えw市田さん又ブルってなかった?ww」

「違うよお。ブルドーザーを噛んだだけで決して震えてはいないんだよお」

「思い出している時、恐怖におびえる目だったよww」

「な? アリリちゃんは分かっちゃったかあ……悔しいよお……で、一通り破壊した後落ち着いた時を見計らって、掃除してくれるか? と、恐る恐る箒とちり取りを渡しながら頼んでみたんだ。怒っていて我を失っていたとは言え、彼が散らかした事だからね。それを私が掃除したら示しがつかない。だから勇気を振り絞り言ってみたんだ。そうしたら意外にすぐに言う事を聞いてくれて……多分我に返って自分の過ちに気付いたんだろうね。でも初めて掃除したとは思えないあまりの見事さに自然に称賛の声を上げた。そうしたら機嫌が良くなってね」

「そんな過去が……よく改心したわね。そんなにすぐに怒りが治まるのね? 一体フンガーに何があったのかしら?」

「フガフフ!」
何故か嬉しそうなフンガー。

「分からないよ。でもそうなってくれなかったら流石に通報していた所だったよ」

「うん」