magisyaのブログ

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司会の過去

「おめえは知らねえのか。あいつは元銀行員でよ、その道を捨て、お笑い界に乗り込んで来たんだ。

結構騒がれてたけど10年前だしな」

 

「へえみんな知ってるんだ。でもその時まだ1歳よ。私は知りようがないわね。

で、あの人も10年目なんだ。白川さんも10年目でここに参加したとか言ってたから、司会と同期なのね?

同じ年には見えないけど……」

 

「そうだな。歳は俺より一回り上だが、あいつとは一応同期ではある。

まあそこまで親しくは無かったが、昔から物凄いがっついていたな。5年位前だったか? 偶然同じ舞台に出る時があって、その楽屋で相方に

 

「若手なら、コネを沢山作ればいい。笑いを追い求める必要なんかない! この舞台はあの司会者と仲良くなる為だけに来たんだ」

 

って言ってたのを今でも覚えてる。

あいつの座右の銘は【コネこそ子猫】で、コネを若い内から作り上げておけば、人生はまるで金持ちの家で飼われている子猫の様に楽だ。

なんて事を言っていたな。中々うめえ事言うなと思ったわ」

 

「子猫の内はね。でも大きくなったら楽じゃないわよ……あれ? もしかして、これって回文になってる?」

 

「ああそう言えば逆から読んでも同じだな。あいつは、色んな人に顔を覚えて貰って、どんな仕事も引き受けて、どんどんのし上がっていった。

……で、いつの間にか司会業までやる様になっていたんだ」

 

「世渡り上手ね。正に人生のお手本って感じで凄いわ。

その上銀行員を切ってお笑い芸人としても成功。中々出来る事じゃないわね。

私の知り合いの公務員も、お笑いの才能があったから、芸人への転職を勧めてみたけど、食い気味で断られたって言うのに……それに比べたら勇気も行動力もある……お漏らしさえしなければ芸人として完璧じゃない」

それは言ってはいけない

 

「ぶwwひでえ言い草wwまあ、そうだなww」

 

「私もあの人が司会業始めたての頃に、食事に誘われた事があったわ」

二番の腕章の梓も司会の話を始める。

 

あずにゃんも知り合いなんだ」

 

「そうだにゃん……って変なあだ名で呼ぶから変な語尾になっちゃったじゃない!」

 

「まあ可愛いから良し。チビのおめえがやっても可愛くないけどな」

 

「ぷんすかぷん!」

 

「ん? おい!! それ、さっき調べた時見た奴だろ? それじゃあちょっと足りねえよな? プンスカスカプンだろ? 中途半端だなあw やるなら完全にやれよww今みたいに中途半端なモノマネならやる必要ねえぞw」

 

「え、それは……」

白川が何を言っているのかは良く分からぬが、彼の言葉でアリサは俯き赤面してしまう。

 

「まあ完全に真似ると恥ずかしいかあれはw多分フルバージョンでお届けしたら控室内のみんなは凍り付くなw」

 

「うん、ちょっと頭にこびりついててつい出ちゃったけど、フルは無理と思って途中で諦めちゃった。男の人が言うセリフじゃないわよあれはw」

 

「何の話?」

 

「いやこっちの話だ」

 

「うん」

 

「そうなの? 気になるわね……それでね? Pに頼んで僕の番組に出してあげてもいいからさあって、まるで自分の番組みたいに言ってさ、やな感じだったわ」

 

「うえーあのお漏ら司会め! なんか芸能界の裏側を見た感じ。やな気分ね」

 

「くっそwお漏ら司会とかww急に面白い事言うなw」

 

「誰でも思い付くでしょ? この程度で笑うなんて白川さんって結構ゲラなんだ?」

 

「しまった! ふ、不意を突かれただけだ……!」

強がる白川。

 

「でね、その時あの人結婚してるのを隠して私に近づいたのよ。外していたけど指輪の跡がくっきり左の薬指に残ってたわ。

 

「うえー」

 

「で、今度渡鬼に出るとか言っていたわね」

 

「へえ芸人がドラマかあ」

 

「脚本家さんとも仲良くなったって言ってたわ。婆さんだからコロって落とせたよ。って笑いながらね。

そう言う所上手いなって思いながら聞いていたわ」

 

「へえーその脚本家って橋田蘇我子だっけ? さっき控室に来た」

 

「そうね。でも呼び捨ては駄目よ……」

 

「そうだよね……分かっているんだけどさ……でもあの人さ、私にだけTシャツくれなかったんだもん。故にムカついてる」

 

「故にってww」

 

「俺もあいつとは何度か番組に出た事あるな。それに飯にも行った事ある。同期なのにあいつよく奢ってくれてよ」

 

「白川さんもそうなんだー。スケベだけど結構いい人なのね。きっと稼いでたんだね」

 

「うーんそうは思えないんだよなあ。でも無理している感じは無かったな。多分銀行員だった頃の貯金を切り崩して無理していたのか? 仕事は余り来なかった筈だしさ、そこまで稼いでたとは思えねえんだよな。

詳しくは分からねえが」

 

「そうだな。あいつは突っ込みのセンスはあったが、アドリブも効かず、突発的な事に対してはオロオロする様な奴だ。

それに相方が絶望的に下手な奴で、笑いとしての仕事は殆ど来ていなかった筈。俺も見た事はあるが、あいつらのネタで一度たりとも笑った事が無いからな。クスリともな。

自分達も気付いたのかまでは分からんが、いつの間にかネタはほとんどやらなくなったな。

若手芸人では珍しく、グルメリポーターとか遊園地のアトラクションの紹介とかそんな事ばっかやってたな。

ドラマも最近決まってまだ練習していた段階だったしよ」

火村が突然司会について語り出す。

 

「あれ? 火村さんって司会の事知ってるの? 後、話聞いていて何となく思ったんだけど何か恨みでもあるの? 棘のある様な言い方をした気がするなあ」

 

「え? あ、そんな事は無いよ。ちょっと言い方が悪かったか……」

 

「そうなんだ」

 

「凄い凄い! 色々7芸能情報が聞けて嬉しい7♪」

 

「ところであの司会、昔からお漏らししてたの?」

 

「知らねえよw何でお前そんな事に興味持つんだww まあ俺が知らないだけだと思うが、しっかりと何回かやってんじゃね? 俺は今回初めて漏らす所をリアルタイムで見たがな」

 

「そういうニュースは無いですからね。今回が初めてでしょう」

 

「でも芸歴10年位の中堅芸人がお漏らししただけでニュースにはならないでしょ?」

 

「テレビ見てる人も突然そんなニュース流れたらテレビ局も暇だなーって呆れるよね」

 

「しかし長いなあ。そろそろ着替えは終わったのか?」

5番の腕章の男、金賀が声を上げる。

 

「そろそろ終わってもおかしくないですよね?」

3番の腕章の鎌瀬が外へ出てみる。

 

「まだスタッフ呼びに来ませんね。場内アナウンスもないしどうしたんだろう?」

 

「じゃあ瞑想でもしてよっと。さっきお昼寝したからそこまで眠くは無いし」

アリサは床に胡坐をしてゆっくり目を閉じる。

 

「瞑想いいよね。あの魔隠暗腐吐マインクラフトソフトのデビル・ゲイツもやってるらしいよ」

 

「そうなんだ。じゃあ集中するから」

 

「あっごめん」

すると……

 

「失礼します! 門太さんのお着替え終わりました!」

 

「え? 丁度今から瞑想しようとしたのにー」

 

「そんなの知りませんよ! お客様の皆さんお待ちですよ。さあ急いで急いで!」

 

「もー」

皆早足で控室をあとにする。

 

「大変お待たせしましたぁ! ちょっと脳の調子が悪くなってね申し訳ないぜえぇ!」

パチパチパチ

確かに脳のせいかもしれないが、ほとんどの原因はおっさんになってしまった事である。

歳は取りたくないものだ……

 

「ハァハァ思い過ごしだったみたいね。しっかり司会やってるよ。中々の精神力ね」

控室からダッシュしたので息切れしているアリサ。

 

「伊達にあの世は見てねえな」

司会はお漏らしという経験を経て、その、死よりも恥ずかしい体験を乗り越え舞台上に立っている。

正に地獄からの生還した男だ。そんな事を言いたいのだろうか?

 

「じゃあ続きだ中断ごめんだぜぇ。引き続きこの写真で面白いネタを考えてくれえ」

 

挿絵(By みてみん)

 

「はい」

3番が手を挙げる

 

「3番どうぞ」

 

「真ん中の笑顔の男にします」

 

「これだね」

 

挿絵(By みてみん)

 

『私達の会社は、週休零日制を採用しています! そして、一日19時間労働で、休み時間は30分もある健全な会社です!』

ドッ

「ろっ労働基準法違反じゃないかなあ? まあいいや。爽やかな笑顔で言っているし許せるね! ポインツは? 5900か良いじゃない! 次居るかい」

 

「はい!」

 

「8番の方!」

 

「3番と同じです」

 

「オッケー」

 

『今からここで転がし合いをしていただきます!!』

 

「きゃー」

 

「ひええ」

 

「こわいよー」

 

「映画のバトルロワイアノレの名台詞だねえ。満面の笑顔が更に恐怖を引き立てるねえ……ちょっとチョロってなったかな? ま、まあ気にしない気にしないポインツは? 7800か! 次は誰なんだ?」

 

「また漏らしたw」

笑うアリサ。

 

「はい!」

 

「5番の方!」

 

「俺も同じ所で行く!」

 

「わかったぜ! いけー!」

 

『俺、今一人で撮っている筈なんだけど、何故か周りに沢山の気配が感じるなあ』

 

「ひー」

 

「こわいい」

 

「うわあああ」

 

「あの人以外皆幽霊って事かあ? うええ怖い……あっ……ちょっと怖いネタ連発だよお? いい加減にしてくれよお……またちょっとチョッロっちゃったじゃーん。ま、いいか。で、ポインツは? 6700かオッケーオッケー!」

何故か皆示し合せたかの様に執拗に司会の股間を攻撃するネタを続ける。もう出し切った筈なのだから漏らすはずはないのだが、それを知ってか知らずか怖いネタ以外やろうとしない。

 そしてそれに呼応する如くしっかり漏らす司会。

彼は突っ込む気力も失せる程のお漏らし男だった。そしてそれを口に出し、

 

「ま、いっか」

 

で済ませてしまう程の愚かさ。恥ずかしくないのか? どうやら彼は一度お漏らしし、レベルアップをしてしまった様だ。悪い方向へとな……そう、羞恥心の欠落。

もうその緩み切った【排出口】は切断した方が良いのではないか? そして、しっかりお漏らしガード機能の付いた人工の【新品】に付け替えればよいのではないだろうか? そうすればもう恥ずかしい思いをせずに済む。

 

「くそー思い付けアリサ! 絶対出来る!! お願いしますアリサ様! 面白い奴、面白い奴だよ! 思い付いて下さいよー貴女様なら絶対思い付くですよー頑張れ頑張れ……何かある筈、何か……面白い……面白い!!!!」 

 

 プロ達の怒涛のネタラッシュに焦り始めたアリサ。何とかして閃きたいと必死に考える。

曾祖父から受け継いだ探偵の才能の中にはもしかしたら、何かお笑いに関する凄い能力を引き継いでいるかもしれない。

だが、まだそれを全く使いこなせておらず半狂乱状態。

 何という醜態であろうか……最高のネタを思い付きたいが為に気でも触れたか? 自分で自分を応援している。

他者から貰った応援を受け、それに応えようとするなら分かるが、自分に応援とはな……見下げはてたぞ? こんな事に本当に意味があるのであろうか? 所詮気休めにすぎぬ。

 

「………………」

 

 ぬ? ほう、ところが……それと同時に彼女は今までの人生で起った面白かった出来事、テレビやサブスクで見た芸人達のネタ、ドラマや漫画のワンシーン、更には先程の控室で起こった出来事まで満遍なく思い返し、それらの出来事を無造作に組み立てては、分解。の繰り返しを超高速で行っていたのだ。

 

 それはまるで5桁のダイアルロックの00000から99999の内のたった一つの開錠こたえを00001から99999まで一つ一つ総当たりで回す様な気の遠くなる様な作業。

挿絵(By みてみん)

 

それに2つないし3つの思い出をミックスし、違ったら捨て、別の思い出を繋いでみる。そんな地道な作業。

だがその無謀と思える作業もやっていく内に、笑いに繋がりそうにないネタは始めから除外し、有用なネタのみを組み合わせる事で効率が上がる。それでも途方も無い作業。

しかし、いつしか必ず答えは見つかる。

 

 そして、幾つか気に入った物が組みあがったら、脳内の保管庫に移動して、更に探す。

その繰り返しで幾つかの候補を産み出した。

それを吟味、精査し、最も出来の良い物を最高まで膨れ上がらせる! そして、その時は当然来てしまった。   

鬼のような試行回数の前には、小数点以下の確率だろうが、ただの偶然だろうが、必然へと昇華されてしまうのだ。

 

《カチャリ》

 

……脳の奥深くで埃をかぶっていたアリサの中の笑いのセンスの扉が……ずっとずっと閉まっていて、錆び付いていたせいか、軋みながらもゆっくりと開く!! アリサは、何かを、閃いた。そう、意図的に!!

 

              開 ギィイイィイイイイイイイ! 門

挿絵(By みてみん)

 

その先を進むと、奥からは一筋の光が?

挿絵(By みてみん)

                             

                     \ _ /

                    _ (m) _

                       目   ピヵーン

                     / `′ \

 

 

「ハッ!! 来た!!! 閃いた!!!!!! ああっ♡閃くって……閃くって……死ぬほど気持ぢい゛い゛ーw♡w

そうよ! 意外に近くに居たじゃない。やっと気づいた……こんな事に気付けないなんて、お間抜けさんなアリサさんw

ですが、思いついて下さり誠にありがとうございます! アリサ様の脳みそ様!!

そうよ、あいつらを、本当に、面白く、してやれば、いい。

あいつらは、実は、面白いんだ!!!!!!!! いっくぞおおおおおおおお!!!!!!!!

は! いっ!!!!!!!!!!」

 何と言う気合か……しかし、迷いが一切感じられない……心地良い響きと言える程の【はい】ではある。

もしも今、鬱で何も出来ない人に、この響きを聞かせる事が出来れば完全回復する位の心地良さだ。

それにしても、勢い余って心の声がだだ洩れしてしまっているぞ? 自分に対し様付けか……まあ心の声なのだから仕方ないな。

彼女に起こったこの出来事は、心だけにしまえる程冷静にはなれない物なのだろう。

手を挙げる時の体のキレいつもと違う。

まるでその場に松谷修造が居て、応援されているかの如く最高潮の気合と共に手を挙げる。

一体何を思いついたのやら……そして、その、あいつらとは一体?

 

私の書いている小説です

リンク先はブログより4話ほど進んでいます。先が気になる方はご覧下さい。

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