magisyaのブログ

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グレーゾーンの白川修

「俺はいいよ。面倒くせえし……さっき見た通り最悪のサイコロ運野郎だ。今はへこんでしまって思う様に紹介出来そうにもないしさ……別にいいだろ?」

 

「いやいやそんなこと言わずにさ」

 

「あなただけ知らないとモヤモヤするわ。教えて!」

 

「ほら! あずにゃんもお願いしてるんだし、自己紹介位しなさい!」

アリサも両手を腰に当て、その4番の腕章の男に詰め寄る。

 

「くそ。仕方ねえな……俺は白川修だ。相方の安藤正樹とグレーゾーンというコンビ名で漫才をやっている。

皆みたいに特定のジャンルに特化してはないが、何とか今年で10年目を迎える事が出来た。

その記念に今回このコンテストに参加したんだ」

 190はある身長と、薄紫色に染めた髪の毛が特長の20代半ばの男だ。

胸に大きくGのアルファベットがプリントされた薄紫のTシャツを着ている。

グレーゾーンの頭文字のGなのだろうか? 

 

「中堅芸人ね。髪の毛が紫色ね。かっこいいと思って染めてるの?」

 

「ん? いや、これは地毛だ」

 

「何人よ!!」

 

「日本人だが?」

 

「そんな地毛の人なんて初めて見たわ……あっ眉毛も紫だ! キモイ!!」

 

「うるせえ。ところで質問があるんだが?」

 

「え?」

 

「いつまで地面に下半身を埋めているんだ? 上半身だけでは辛いだろ? いい加減に上がって来いよ」

 

「え? 埋まってないよ……! まさか小さいから地面に埋まってるって勘違いしたって事? き、貴様あ! ふざけるなよ?」 

 

「そんな事で怒るな怒るなw更に縮んじまうぜw」

 

「むう……それにしてもガンバレ芸人の周さんと名前が同じね。

芸人さんって芸風とかキャラとか被るのを極端に嫌がるからね。

名前も被ったから名乗りたくなかったんだw」

 

「そうだ。だが10年目とは言え、デビュー当時の心は忘れていない。

後、中堅芸人と呼ばれるのは余り嬉しくないな。心はいつでも一年目だ!

俺はいつまでも新鮮なネタを作り続けていきたい。

そう、1度やったネタはもう2度と使わない。そういうスタイルを続けている」

 

「え? 嘘でしょ? 芸人って一発何かで当たれば、その当たったネタをどんどん押して印象付けるのが普通でしょ?

例えばダンディ板野は、ゲットでしょ? トツ&テモは、なんでだよーだし、林家紺平糖尿病はじゃらーんとか」

 

「確かにそういうやり方で自分を世に知らせていく芸人もいるな。それはそれでいいと思っている。

だが生憎俺達は、この人といえばこれだよね! ってのは無いんだ。

でもな?

 

「この人達、全く同じネタやらないわねえ」

 

と言う、ネタの定着ではなく、スタイル。そう、生き様での定着は出来ている筈さ。これがグレーゾーン流さ。

ファンに

 

「グレゾンさん! あの銭湯の番台とジョッカーの戦闘員のネタやってくれよ!」

 

って言われてももう遅いんだ。

台本は、一度役目を終えたらシュレッダーにかけて処分しているからな。だからやりたくても出来ない。

もし過去のネタが見たいなら、予め録画でもして個人的に何回でも見てくれって言いたいね」

 

 ぬう。真偽は定かではないが、白川の話が事実ならこの男の引き出しはとんでもないな。どうすればそんな事が……

私も幾つか語りに関する定型文が頭の中にあり、それを巧みに使い分けて語っている訳だが、こいつワンパターンだな。

と、思われたくないので、似た様な定型文を連続で使う事は極力避ける様にしている。

 

因みに我流ではあるが、私のアイディアの捻りだし方は、とりあえず思い付き次第【語り専用メモ帳】に書いて置き、2~3日時間を空ける。

そして、再びその封印を解きし時、全く別の人間が書いたネタとして、そう、岡目八目で自分の書いたネタを見るのだ。

すると、

 

「ここはこうしないと駄目だな」

 

と、書いた当時には思わなかった事を思い付く事が出来る。これは恐らく書いた時はアドレナリンが出ていて、落ち着いてそのネタを見る事は出来ていないのだ。今思い付いたこのネタは絶対面白い! 絶対伝わる!! という考えが強い状態だ。

だが、日を置くと、同じ自分とは思えない程に冷静で俯瞰で見る事が出来、殆ど100%直せる箇所が見つかる。完璧だと思って書いた筈のネタでもその当時は見えない部分がある様なのだ。不思議な事にな……

なので、アイディアを思い付いたら兎に角書きだし、日を置いて再び見て、訂正するまでが一つのアイディアを生み出すサイクルだと考えている。しかし、このやり方だと時間がかかってしまい、白川の言う様な大量生産は出来ない。

だが、この男はそんな難しい事をその若さでやってのけている。アリサ程に好奇心旺盛でもない私でも彼のネタの作り方は気になるな……私の語り専用道具の一つであるスカウタァもアリサのせいで現在故障壊中で、見たい時に見られない歯がゆさを感じている。

今は語りの最中故動けぬが、何とか3話が始まるまでには修理しておかなくてはいけないな……

そして、そんな芸人が居るという事は、年末年始あるあるを語らせていただくが、新年のお笑い番組で、その前の年のMー1! で披露した鉄板のネタが再び放送された時によく思うのだが、

 

「それはもう去年見たのだ、新年なのだし新ネタをお願いしたい!!」

 

と、なってしまう私なのだが、この白川という男にはそれがないと言っているのだ。いつでも新鮮なネタを提供出来ると言うのか? 信じられぬな……クオリティーが気にはなるが……粗製乱造では生き残れない世界であるしな……

 

「へー、その生き方はすごいかっこいいじゃない。でも、そんなやり方で10年なんて本当かしら? 絶対ネタが尽きるでしょ? 嘘乙!」

 

「別に信じてくれなくてもいいぜ」

 

「因みに信じてはいないけど、どんな風にネタを考えてるの? それって面白いの? ただつまらないネタを沢山作るだけじゃダメなのよ?」

安い挑発で秘密を聞き出そうと必死なアリサ。

 

「フッ、それは企業秘密だ。だが、10年続いているって事で察しろw」

 

「えーーーーーー?!? 気になるー絶対教えてーお願いー」

じたばたじたばた。

 

気になる事を秘密にされ、耐えられないアリサ。突如床にあおむけに倒れ、両手両足をじたばたさせている。

「面白えチビだww」

 

「小さいは余計ーただ面白くて可愛い女の子よーお願いー教えてー」

じたばたじたばたじたばた。

 

「自分で推理でもしてみろw」

 

「知りだい―」

じたばたじたばたじたばたじたばた

まるで殺虫スプレーを浴びせられ、最後の力を振り絞って大暴れするゴキブリの様に暴れるアリサ。

 

「大体終わったみたいだね。みんなよろしく! でも、決勝は、悔いの無い様に全力で行くからね」

ぬ? 何故だ? あの鎌瀬がリーダーっぽくまとめようとしているな……不思議だ……

 

「おう、よろしく!」

 

「お願い教えてー」

じたばたじたばたじたばたじたばた

何も条件を出さず、ただ与えて貰おうと必死の交渉下手なアリサ。

 

「よろしくね!」

 

「みんなよろしく!」

 

「み7さんよろしくお願いします!」

 

「よろしくだぜえええええ!」

 

「フッ、よろしくな」

アリサ以外の皆も挨拶を返して握手を交わす。そして、食事の続きに戻っていく。

 

「ちょっと飲み物でも買ってくるぜ」

 

「私も行くわ」

 

「僕も行きます。結構走って汗もかなりかいたから、飲み物二本でも足りないですよね」

他の者は、控室に備え付けてある大きい鏡を見て、髪型を整えたり着崩れを直したりしていた。本番前に身だしなみを整えている様だ。そしてアリサも、もがくのを止め、食事に戻る。

そんなこんなで10分程経過しただろうか? すると……

 

バツン!!

 

再び停電が起こる。一度目はアリサ達が会場入り口にで受付を済ませた後に起こった筈で、それからまだ3時間も経っていない筈であるが……結構な頻度で起っている気がする。何か大きく電気を使う事がこのタイミングであったのであろうか? 今は会場で芸人のネタ披露中。その時に大きく電気を使用するネタでもやって起こったのか? 

 

「わー! また停電だー」

ドームの入り口付近から聞こえてくるその声は、拡声器で叫んでいてドームの中の控室まで届く。

あのメガホン男であろう。まだメガホンを持ってうろうろしているのか? 一体昼休みの今、何を伝える必要があるのだろうか?

 

停電は30秒程すると復旧する。

 

「また停電だぜ? どうなってんだ?」

 

「本番で俺様の最高のネタ披露中に消えたらどうすんだよなああああああ?」

口々に文句を言う。

 

「怖いわね。2回も起きたんだから入念に点検して欲しいわ」

 

「そうだね。もぐもぐ、ごくごくあー食った食った。御馳走様。そう言えば今会場で本物のお笑い芸人がネタをやっているんだっけ? あっちも止まっちゃったんだろうね」

 

「ああ。そう言えば厄介だよなあ。お客さんはそのネタを見た直後に僕たちのネタを見るんだよ? 余程面白い事言わないとなあ」

不安そうな鎌瀬

 

「そうねまあ何とかなるよ……あれ? お腹一杯で眠くなっちゃったな。じゃあ寝ようっと……あれ? 寝ようとした時に邪魔だと思ったら髪の毛だ! 時間まで20分位あるし、ちょっと散髪に行ってこようかしら?」

ぬ? 何故このタイミングで?

 

「え? 確かにドームの周りにはヘアサロンもあるけど、カットだけでも4000円位掛かるよ? 持ってるの?」

 

「え? まあ私が優勝するし、今の所100万持ってるよ?」

 

「素人とは思えない自信だね」

髪を掻き上げつつ言う鎌瀬

 

「すげえ自信w じゃあ今は持っていないって事か? よし! その心意気にこれをプレゼントしてやる。好きなだけ切って来い」

金賀がアリサに4000円を渡す。

 

「え? ホント? わーいありがとう!! じゃあ行ってくる!!」

 

「おう、君に泥鰌の同情があらん事を」

 

「はいっ!」

ダダダダダッ

ドームから30m位歩いた所に床屋があった。

 

「こんにちは」

 

「はい? どなた? 声はするのになあ……誰も居ないよ?」

 

「ねえ、まさか私が小さいから見えないっていうボケなの?」

 

「おお分かっちゃった?」

 

「流石お笑いの会場付近の床屋さんね。でもそんな茶番は要らないから早く切って? これ短くして! 眠れなくてさ。髪が邪魔で」

 

「そうなんですか? 綺麗な長髪なのに勿体無いです」

 

「それはありがとう! でも私ね? 決勝の8人の中に選ばれたのよ。気合を入れる為にも短くする!」

成程、決意を形にするのだな。

 

「えええええええええ? 嘘でしょ? あの500人の化け物達から逃げきったの?」

 

「そう! あまり時間がないの。でも、少しお昼寝したいし急いで!!」

 

「そうですよね。確か1時から本戦でしょ? 分かりました! お代は結構です」

 

「え? マジ!?」

 

「決勝の8人に選ばれた方の髪を切れたなんて自慢できます! いっそ優勝して下さい! そうすれば優勝者の髪を切ったって看板に書けます!」

 

「が、頑張るよ」

(凄い好待遇……思わぬ臨時収入ねw4000円で何か買おうかな♪)

 

「チョキチョキ あっ!!!!!!」

 

「あっ?」

 

「な、何でもないです(切り過ぎたアアアア許してえええええ)」

アリサの肩書を聞き、極度の緊張で手元がくるってしまった様だ。

「? ならいいけど」

 

「はい! 終わりました!(不自然にならない様に揃えたけど、これは怒られるううううう)」

 

「ありがとうすごくすっきりした気分よ。気合も入ったわ!! でも、本当にタダでいいの?」

 

「も、勿論です!!(鏡だけは見ないでえええ><)」

 

「じゃあ行ってくる」

 

「私もテレビで見ますので、頑張って下さい!!」

 

「はいっ!」

(いい人だったなあ。じゃあ帰ろっと。しかし、5分位で終わっちゃった。プロって凄いなあ)

そして控室まで戻る。

 

「お帰り! もう終わったのかい? グッ……まあいいんじゃないか? お笑いの大会だし……」

笑いを堪える金賀。

 

「可愛くなったでしょう?」

 

「面白くなったぜ?」

 

「え?」

 

「いや何でもない」

 

「ふーん」

アリサは現在おかっぱ頭。先程までフランス人形の様に長い髪だった彼女が、今は金髪の日本人形状態。

まるで別人の様になってしまったのだ。だがそれでも動きやすさは上がった。笑われようが彼女は気にしていない。

 

「あと15分位あるから寝ようっとぐうぐう」

 

テーブルの上の弁当の箱をずらし、そこにうつぶせになり眠るアリサ。

しかし、この子はすぐに眠れる。恐ろしい早さである。

これから15分後に大勢の人の前に立つというのに、何と言う余裕なのだろう。

食事を摂った事で先程のフンガーの件は忘れ、泰然自若になっていればよいのだが……

 

「俺はトイレに行ってくる。やはり緊張して近くなってるわ……まだ30前だってのによお」

 

「飲み過ぎたんですよ。結構部屋も冷えるし……僕もトイレ行こうと思います」

 

「俺は飲み物でも買ってくるぜぇえええ」

 

「僕は瞑想でもしようか7。マインドフルネス瞑想で緊張し7い様にし7いと7」

各々が本番まで時間を潰す。そして、決勝の時は来た……

 

「失礼します。選手の皆さん時間になりましたのでステージにご案内します」

案内について行き、会場のステージ上に到着。ステージの両脇に設置されている、二基の機械が妙に大きく感じる。

そして、8人は、ステージの中央に並ぶ。

 

1番の腕章の、中国から来たガンバレギャグの達人。周・虻羅儀瑠

 

2番の腕章の、メルヘンネタを極めし、元モデルの梓

 

3番の腕章の、鎌瀬犬吉

 

4番の腕章の、同じネタを一度も使わないと言う、グレーゾーンのボケ担当白川修

 

5番の腕章の、元貧乏生活の、作家兼ピン芸人の金賀内蔵

 

6番の腕章の、このお話のヒロイン。アリサ

 

7番の腕章の、サイコロで自らの強運を示した、幸運の公務員。七瀬文七

 

8番の腕章の、相方に認めて欲しいと願う、ファンタジーネタの使い手、バナナナナナナナマンの火村

 

一体この中から誰が優勝を手にするのか? そして、戦いは、ついに始まる。

 

私の書いている小説です

リンク先はブログより4話ほど進んでいます。先が気になる方はご覧下さい。

https://estar.jp/novels/25771966

 

https://novelup.plus/story/457243997

 

https://ncode.syosetu.com/n1522gt/