magisyaのブログ

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エリート鎌瀬犬吉

すると、プチ女子会を楽しんでいる二人の間に、一人の男が横槍を入れて来る。

 

「ねえアリサちゃんだっけ? さっき両親とも刑事の娘とか言っていたよね? 僕は鎌瀬犬吉かませいぬきちだ。

得意ジャンルは、オールジャンル」

 

「オールジャンルゥ?」

怪訝な表情で聞き返すアリサ。

 

「そうさ! ボケも出来るし、突っ込みも出来る! 何でも出来てしまい完璧すぎる自分が怖い芸暦2年目の期待の新星のピン芸人! お笑い界の貴公子だ。確か梓さんも2年目でしたよね? 僕と同じですね? よろしくね!」

3番の腕章を付けた、20代前半のワカメの様に癖のある髪の毛の男が声を掛けてくる。

中肉中背で、髪型以外はこれといった特長のない男だ。

しかし、妙に自信に満ち溢れた口調でアリサ達に自己紹介をする。気体の申請等と言っていた様な気がするが……意味が分からぬな。そして、梓の芸歴を把握していた事から、アリサ達の会話を盗み聞きしていた様だ。

初見で、この人は芸人なんじゃ? と思う人は誰一人居ない。どこをどう見ても面白そうな男には見えないからだ。

笑い方も爽やかとは言い難く、人を罠にかけ、その様をほくそ笑む様な笑い方で話しかけて来る。

控室のメンバーは、お掃除係のスタッフが紛れ込んでいるのかな? 程度しか思っていなかったが、その人物が選手の席に座り出し、更には弁当に手を付けた上に、暫くしたらアリサ達に突然話し出した事に驚いている。

そう、彼もれっきとした予選通過者なのだ。それも予選2回戦では一番早くに抜けて行った男だ。

だが、この男をアメーバーブログのピグで例えると、左の男の子と全く同じと言ってもいい程で

挿絵(By みてみん)

(↑左の男の子は、鎌瀬と髪型以外は似ている)

 

 もしも、鎌瀬自身で

 

「見ての通りコメディアンです」

 

と言っても誰も信じてくれない程のオーラの無さで、RPGのトラクエで例えるならば、村に入ったら一番はじめに目に付く入り口付近に居る

 

「ここは○○の村だべ」

 

と情報をくれる人物が村人Aだとすると、彼は豪族のカギで開けないと入れない扉の奥に居る、重要なヒントをくれる人物の【隣】にいる

 

「お腹減ったよー」

 

等と言う為だけに存在する、どうでもいい事を喋るだけの村人【J】程度の存在なのだ。

RPG制作の神、芸夢栗英太亜ゲイムクリエイタアみことが、容量が余ったしここに一人追加してもいいかな? 的なノリで、あまり深い意味を持たず、疲れた脳をリフレッシュする為の気分転換に無心で漠然とした気持ちで配置された、話しても話さなくても物語に影響を及ぼさない。

もし、話してもプレイヤーの頭に10秒と残らずに消失するうすーい思い出。正に居ても居なくても良い存在。

それと同じ程度の存在感しかない男なのである。

そんな影の薄い男が、この話の主人公であるアリサに近づき、彼女のオーラを浴びて、少しでも目立つ為に頑張っている様にしか見えない。悲しくなってくるな……

これは、いわゆるキョロ充である。キョロ充は誰も相手にしてくれないから、自分から積極的に話しかけてきて輪に入り込むのを得意とし、一人になると寂しくて死んでしまう種族だ。そして、誰も聞いてもいない、自分語りを延々としてくる迷惑な人種である。

厄介なのは無視していてもそれに気づかず、言いたい事を言い終えたら去っていくので手に負えない。

 

「私に何か用? ってかまだあずにゃんと話してたのにな」

(自分で言う? しかしこの人本当に芸人なの? スタッフかと思っちゃった……)

 

「僕は両親共にお笑い芸人のサラブレット。

そんな僕から言わせれば、何でこんな所に君がいるのかが不思議でならないんだ。

悪い事は言わない。今からでも遅くは無いから恥をかく前に帰りなよ」

何かを偉そうに言っている様だが……控室内の皆は不思議そうに彼を見ている。

(いつの間に出てきた? もしや……完全に気配を断つ力の糸色の使い手……?)

 

(え? いたのか?)

 

(急に現れた気がしたが……忍びの者か?) 

 

(あれ? 姿は見え7いのに声が聞こえる?)

 

「ちょっと待ってよ! こっちこそ聞きたいんだけど、何であんたみたいに【普通】の男がこの場所に居るの? 神聖なベストエイトの楽屋よ? 身の程を知りなさい! そしてみんな疲れているのよ? 一刻も早く出て行って?」

 

「な……何て失礼な事を言うんだ……この3番の腕章が目に入らないのかい? 僕はさっきも言ったけどサラブレットなんだよ?」

 

「皿運ぶ劣等生? レストランで働くFラン大学生のバイトのウエイターか何か?」

 

「プッww」

 

「くっww」

数名がアリサのダジャレに吹きだしてしまう。

 

「うっ!(まぐれだとは思うけど結構上手い事言うなあ)もういいよ、でもね僕は確かに普通っぽいかもしれないけど、君は年齢的にも余りにも場違いだと思うんだ!」

 

「でも受付に確認も取ったし大丈夫なんだよ? それにさ予選はちょっと体力も使ったけど、○×クイズとか名前当てのクイズだったよ? お笑いの才能は要らないんじゃない?」

 

「だからこそさ! はぁ~君は何も分かっていないね? 素人はこれだから困るんだよ。僕は優しさで警告してあげているんだよ? これから行われる決勝では、嫌と言う程お笑いの才能を活かさなくてはいけない。そう、ぶっつけ本番でね。しかも大勢の観客が見ている中でさ。

しかも、結構な温度のスポットライトに当てられてさ。ウォーミングアップも出来ないままで、その重圧に君みたいなチビが耐えられる筈が無いんだ。きっとスポットライトの熱で、君の様に貧弱な生き物は雪だるまのように溶けてなくなってしまうだろう。その前に逃げなきゃ駄目だよ?

君の名前のアリサのアリは、漢字で虫の蟻って書くんだろ? 蟻みたいに小さいからね!」

この男! 何と言う暴言であるか! アリサはよく見ればクワガタよりは少々負けるが、ギリギリ蟻よりは大きいのだ。

なのにこの存在感皆無の男ときたら全く……危うく語り部ビームを鎌瀬の眉間に放つ所であった……危い所である。

私とした事がうっかり【語り法】第2525条に抵触する所であった。

因みに、語り法2525条はオープニング以外の登場人物との絡みを一切禁止するという物で、一話の冒頭で私とアリサが文字数漫才をしていたのは、その法が適応されていたからだ。

ぬ? 文字数漫才とは何であるかだと? 前話の1話を見ればすぐわかる。

それ以降は決して絡む事は出来ないと言う厳しいルールなのだ。

もし、今感情に任せ、語り部ビームを鎌瀬に放っていたら、鎌瀬の生死を問わずに、その資格を剥奪され、おまけに商売道具の喉を、語りの女神カタリナに握り潰されていた所だったのだ。語り部の喉破壊など正に処刑に他ならぬ……しっかり潰した後は神病院で治療はされる。が、治療後にはもうあの時の様に喋る事はもう出来ない。2度と語り部として活躍する事は出来ないのだ……残酷な女神である。

しかし、誤解しないで欲しいのは本来の彼女は、おしとやかで優しい女神という事である。

だが、それでも神である事には変わりは無い。それも正義感が極端に強いのだ。その背景には三女神の三女で、長女次女共にだらしない女神であるという反動で、自分だけはしっかりしなくてはという使命感から、しっかり者の女神に成長していて、特にルールを破る者に対しては厳しい処罰を下す程に厳格な女神なのだ。

恐らく神の中では力は最弱であろう。それでも長く生きている事実もあり、彼女の握力は2900程ある。一度過去に会った事があるが、その時にスカウタァで見たから間違いない。人間では高水準の192と言う握力を持つ早乙女の約15倍もあるのだ。

こんな握力でニギリンコされちゃえば人の喉など、茹で上がったマカロニの如く容易く握り潰されてしまう物なのだ。

危ない危ない(汗)皆さんも語り部を目指すのであれば、過度な登場人物との絡みは避ける様心掛けるべきである。

 

「おや? どうしたんだい? 黙りこくって。予選で見せたあの饒舌な君は一体どこへ行ったんだい? まさか今の蟻って一言で、落ち込んで、ウソ泣きでもしようとする算段なのかい? 小さい子供だからってそれを利用して大人を困らせるのだけは止めてくれよ?」

 

「ちょっと言い過ぎじゃ7いか7あ?」

 

「ただの悪口じゃない。ほら、固まっちゃったわ。可哀想に……いくら饒舌とは言えやっぱりあの事で落ち込んでいるのよ……」

数名の味方も居る様だ。だがアリサはその優しい言葉に対しても一切反応がない。

ポー

 

         <自> <然> 

 

 ぬう……? やはりアリサの様子がおかしい。鎌瀬の言う事を一切気にせず、その上、悪口で傷ついている様にも見えない。

ただ無心で虚空を見つめている? どうしたのだろう?

この普通男に、蟻より小さいと言われたのに、全く怒っている様子は無いのだ。

普段なら一言? いや二言? ムム、それでも足りんな。百言は反論をし、相手の心をえぐり出す筈のこの娘が……どういう事なのだ? これでは一人腹を立てていた私の方が彼女よりも幼く思われてしまうではないか! そして、よく見ると何かを考えている? そして、視線は真っ直ぐではなく右上を見ているのだ。

人は考える時の目の向きで、何を考えているかが大体分かる。この向きから推測するに、恐らく何かをイメージして作り出そうとしているのか? そして暫くすると、まるで待っていました! と言わんばかりの表情に変わる。そして……!

 

                ☆キラニヤリーン☆

 

目はキラリと輝き、口元はニヤリとするアリサ。そう、彼女は何かを思いついた!!

そして……飽和状態に達したアイディアは、今にもあふれ出る寸前! そして、そのイメージは、彼女の脳内で言葉として……いや、違う。

 

言刃ことば】……だ。

 

言刃として変換される。それは、人の心を傷つける力のある、口から音と共に放たれる姿無き刃! それは正に、死神の持つ鎌から振り降りろされし時に放たれる全てを切断し、運よく回避したとてかすりでもすれば一生治療不可能の【死魔傷】を与え、時間をかけて失血死させてしまう程の禍々しき音速の刃。

そんな死の香り漂う力が、無防備でちっぽけな人間である鎌瀬に……襲いかかる!!!

 

ビュッ……!!

 

「そうそうw虫の蟻に、砂のサと書いて蟻砂なのwwどうも鏑木蟻砂と申します!♡! ツイッターのフォローと動画の高評価とチャンネル登録お願いしますw♡w!! お前さ、ごく普通のモブ顔マンにしては鋭いわね! わかった。褒めてあげるわwwwはい♡投げキッス♡チュッ♡ww(^3^)ノ~ギュルルルルルオオオ怨ン卍♥卍

この名前のお陰で、クラスメイトからも毎日虐められて最高の小学生ライフなのよwwうーん幸せーww

両親共々蟻が好き過ぎて、蟻の話で盛り上がって意気投合して結婚した位蟻好き夫婦なんだ! で、私の背中には、その名前の漢字に相応しいイメージ。

蟻地獄にはまってもがいている蟻のタトゥーが描かれてるんだから! 両親がその良心で絶対いい事だからって言ってねw泣きながら嫌がる私を、その彫師の所に強引に引き連れて行ってねw無理やり入れ墨を入れられちゃったw彫るのにも42日も掛かってね、それでも職人も不眠不休で彫ってくれて愛を感じたわ♡ 少しずつ彼への恋愛感情が芽生えちゃったかも♡

砂の一粒一粒や、蟻の足の枝分かれしたギザギザの一本一本までに及ぶディテールもその指先で表現しきった一流のプロなの。

過労で亡くなっちゃったけどね……でもね? 彼が亡くなったのは、不眠不休で彫ると決めた彼の頑固さが原因ね。

自分の体力の把握が足りなかったみたい。彼は過信しすぎたのね、自分の体力を……ね。まあ、見誤っていたけどね……本当に人間って愚かね……休憩を取りながら彫っても良かった筈なの。ガンガン行き過ぎたみたい……故に、私は涙も流さなかったわ。

だってこの入れ墨を彫り終えた直後に亡くなったんだ。故に、これが彼の人生最後の目標だったって事になるわよね?

 

「見事に彫り……終え……ました……ぞ」

 

って言って死んでいったわ……本当に最後に力を振り絞って彫ってくれた様ね。故に私は一切悪くないし、毛筋程も罪の意識は感じていないわ。

でもね? 彼の最後の作品が、この私の背中に刻めたって言う事実を何千、何億回と感謝して欲しい位に思っているんだもん♡確かに彼の肉体は滅びたけど、その魂は、この背中に宿っているしねw そう言えば彼、私に作品を掘っている途中で、

 

「新たなインスピレーションが湧きましたぞ!」 

 

って喜んでいたっけ……でも、そのインスピレーションを、次の作品としてアウトプット出来なかったのはほんの少しだけ惜しい様な気もする。でもそれは天国へ登っていく最中も失われず息づいていて、天界のアトリエで完成させた事でしょう。

現世と天界をまたにかけて生まれたそのスッゲェ作品は、金賞を取って天界のビューナス美術展で末永く展示されたって言う夢を昨日見たし安心ね! 

でねでね! 夏休み前に彫り始めたけど、ちょっと足りなくて、有給10日以上使って完成させたんだw有給空っぽになっちゃたwでもね、麻酔も無しだし、結構痛かったんだよ♡? 6週間もの長い間、その痛みに耐え続けて完成させたんだよ~んw 痛みに耐えよく頑張ったw感動したwこの、家に置き場所の無い様なめっちゃ邪魔になりそうなデザインの、錆び付いたトロフィーを受け取って欲しいww

この作品の特長は、蟻の、今にも死ぬ! という迫真の表情が見事表現されてるのよ! ちな、作品名はアリサと蟻砂よ!ナイスセンスでしょ?♡? 私がたった今考えた作品名なんだ! ん?♡? 興味出てきた? 見てみたいでしょう? じゃあ♡今から脱いで見せてあ♡げ♡る♡……ってー! こら(*´▽`*)ノ⌒★!!」

ビュギュギュギュルオォォォォォォン!! ズシャシャシャシャーン!! バッキイ♪

鎌瀬を切り裂いた言刃は、その惨めで脆弱な肉体を通り過ぎ、壁で消滅した。

 

「……え?」

 

 

 

 

 

「……7?」

 

 

 

 

 

「……り?」

控室内の数人は、その一瞬の出来事に口を開けて呆然と立ち尽くす。

 

ぬう? こ……これはノリ突っ込みだ。初めて聞く方も居ると思うので解説しておく。

これは、相手のボケを一旦受け入れ、それに合わせ細かく解説&説明した後に、頃合いを見計らい激しく突っ込むと言う突っ込みの中でもかなりの上級技だ。

受付の男にもやった事もある。しかし、その時に比べてかなり長くなっていないか? まさか成長したのか? それも凄い速さで……アリサは何かを企んでると思ったが、こんな事を考えていたと言うのか……そして、それを目の当たりにした鎌瀬の様子もおかしい。

 

「う? 何だ今のは? まさかノリ突っ込みをしたのか? そして見終わった後に体中が何か痛いんだ……ゲ、ゲフッ……」

ドサッ

膝から崩れ落ちる鎌瀬

 

「お? どうした?」

 

「コンタクトでも落としたの?」

いつの間にかあの影の薄かった鎌瀬が皆に認識される様になっている。アリサの近くにいるお陰であろう。良かったな鎌瀬よ。

 

「ち、違うよ……そんな訳ないだろ? 僕は視力は両目とも2,0だよ? グッ……僕が聞きたい位だよ……な、何だよこれ? しかもこんな長いノリ突っ込み見た事無いぞ? フフ……中々の物を持ってるじゃないか……小さい癖に……でもネタとは言え、目上の人に対してお前とか、その、ごく普通のモブ顔マン呼ばわりは良くないよ?」

先程とは別人の様にへこんでしまった鎌瀬

よもや彼自身も自分の芸人離れした【普通さ】を気にしていたのだろうか?

だがアリサは、本能的に鎌瀬の事を遥か下に見ていて、思わずお前呼ばわりしてしまったのだ。

当然無意識なので覚えていない。それに鎌瀬には尊敬できる要素が今のところ一つたりとも無い。それも仕方のない事であろう。

 

「え? そんな事言った? 覚えていないわ? 気のせいでしょ? でも結構いい作品が出来たとは思っている。ナイスフリよ鎌瀬さん♪これは素人的考察だけど、君は名前通り表立って笑いを作り上げていくタイプではなくって、前振りとかサポートの方が適していると思うな。まだ未熟だけど、これから腕を磨いてその道で頑張るのよ? きっと花開く時は来るからね?」

名前通り。そう、鎌瀬犬吉は、その名前からかませ犬を容易に想像出来る。アリサはもう彼の事をかませ犬にしか見えていない。

 

「うぐっ? (名前通り? どういう事だ?)ま、まあいいよ。僕は心が広島県よりも広い男だからね。で、でも僕はサポートは一番向いていないと思っている。

花形スターが、誰かのアシストをするなんておかしな話聞いた事無いでしょ? そんな愚かな行為はそうだな……例えばさドラゴンキューブの悟ウハエが、強敵が攻めて来た時に、仲間のクソリンや、担々麺達の為に栄養満点のお料理を作って振舞う様な物だ。彼に料理の技術など必要無いんだよ? 主役なんだ! 主役は前線で戦わなきゃ駄目だ。それと同様に僕にサポートの力は必要ないし、そんな物は持っていないんだ」

鎌瀬よ……言っていて虚しくならぬのか?

 

「ふーん」

 

「ところで、今のノリ突っ込みさ、君のアドリブだろ?」

 

「うん! ちょっと前に受付の人にも似た様な事やったんだけど、褒めてくれたよ!」

 

「まさか君はお笑いの素質があるのか? いや、まぐれに決まってる。

そうだよ……こんな事がある筈ない! 何かの間違いだ……だって、今正に昔ビデオで見た現役時代の父さんがテレビで披露したノリ突っみと重なって見えた気がしたんだ……そんな……そんなの……嘘だー!」

何故か口から一筋と血を流しつつ、アリサに嫉妬し始める鎌瀬

 

「あらあらw血が出てるわ大丈夫? でもそんな褒められるとは思わなかったわ。

でへへーちょっといい気分w 人が悔しがる姿って見てるととっても面白いわwwもっと悔しがれww」

生意気なアリサ。

 

「くっ、僕とした事が本音が口に出てしまった。悔しいよ。しかし、何で吐血したんだろう? 舞台で貧血にならない様にしないとな……僕はデリケートな面もあるんだね。初めて気づいた……でも多分まぐれだ。そんなまぐれでいい気にならない事だね」

口から流れた血をちり紙でふき取りながら言う鎌瀬

 

「しっかしねーさっきから話しかけて来る人全員私の体のサイズをイジって来るわね? 全く……それ以外に私のイジる部分は無いのかしら? これから私と話す人も小さいんだねって言うのかしら? そんなのってあんまりよ……内面ももう少し評価してほしいわ。全く……人間って……愚かね」

 

「な……何を言っているんだ? 君は近年稀に見る程極端に小さい。顕微鏡で見ないといけない位にね!

そこをイジるのは、芸人として当然の事だ。それが出来ない奴は芸人じゃない。

君をパッと見た瞬間100人中100人が同じイメージを持つ筈。そう、小さいと言うイメージをね」

 

「おい! 鎌瀬君だっけ? 今のはボケなのか? 本気なのか?」

 

「え?」

 

「顕微鏡の奴だよ。誰もがこの子を肉眼で確認出来ているぜ? 大袈裟に言って面白いと思って言ったのか? 相当滑ってるぞ? 大丈夫か?」

8番の腕章の大男が鎌瀬に突っかかる。

 

「え……? 面白くない? ……言われてみれば……すいません……」

 

「意外と素直ね」

 

「でも君を一言で表すとしたらどうしても【小さい子】になっちゃうんだよ。悲しいけどね」

 

「確かにそれもあるかもしれないけど、可愛いとか賢そうとかは? こんな頭がよさそうな美女神妖精なんてこの世に二人と居ないわ?」

そうなのだ。確かにぱっと見、アリサは可愛い子ではある。しかし、話していく内に、外見の可愛さなど一切感じなくなる程に憎たらしくなる。

私も可愛いと感じていた時期が数秒間だけあった。全く忌まわしい過去である。だが、それも過去の話だ。

今は土偶程度にしか思っていない。

そんなスペックを持っている彼女こそが、このお話のヒロイン【アリサ】なのだ。

 

「そんな事は誰も思わないよ! 余りにも小さすぎるから、誰も可愛いとかそんな事を判断する事は出来ない筈。

だって君は肉眼では見えない程に惨めで哀れで愚かで小さいんだからさ。

これは厚底ブーツとかでは解決できないレベルだ。

アニメの銅鑼衛門の巨大ライトで照らしでもしない限り、小さいと言われない様になる事なんて避けて通れないんだよ?」

 

「また顕微鏡のネタ引っ張ってる。滑って謝ったのにまたぶり返すとかありえないでしょ?」

 

「もしかして気に入ってたとか?」

 

「ほんとそれ、記憶力無さすぎよ。本当人間って……愚かね……」

 

「おかしいな……分かってはいるんだけどどうしても言ってしまうんだ。貧血気味で頭がよく回らないのかな? でもね? 人間ってさ、愚かな奴も居るとは思うけど、他にも色々いてさ、その違いがコンプレックスにもそして、武器になる事もあるんだよ。

先人達は編み出したんだ。

僕達の先輩や師匠達。そんなクラスの……例えば【池のミジンコ】師匠や【アリとメタグくちス】だってその小ささを武器として、今でも現役で頑張られているし、【なかむらぜいにくん】や【デブデブデブクソン】や【ウツボカズラ坂係長】とかは自分のふくよかな体型を笑いに変えている」

ふむ、まあ確かにそういうのもあるな。

 

「でね? 【トレンディデビル】や【ホライゾンはるかかなた】師匠は、自分の少し薄くなってしまった髪形をネタにしているし、ピン芸人の【長胃秀和】やバイオリン侍の【波田迷惑】は、逆に他人の欠点や弱点を見事見抜いて指摘する様な、それでいて今の時代に合わせた風刺の利いた毒舌ネタを放っている」

ヌヌヌヌ……

 

「それに、欠点からは少しずれてしまうかもしれないけど、モノマネ芸人も、有名な人の特長や欠点を上手く掴んでまねをする。

ただ、普通の人をまねても面白くない。欠点や特長が顕著な人や、超有名な人を見抜く力も必要とされ、人並外れた洞察力と、形態模写能力が無くては出来ない神業だ。

他には女性の芸人でも、【柴田ミリエル】さんとか【久本正美】さんの、自身の出っ張った歯の事をネタにしたり、時にはきわどい衣装となまめかしい体によるセクシーなダンスネタで観客を笑わせたりメロメロにしたりしている。

こんなにも欠点を利用すれば広げる事が出来るんだよ? これは芸人に取って最早その芸人の武器。

神様が与えてくれた神器なんだよ?」

グググググ……

 

「君も芸人なら、欠点を指摘された事を怒らずに、いじって貰えておいしい♡と思う事だ。

そして、いつチビと言われても良い様に、オリジナルの面白返しを予め作っておかないと駄目だよ!」

成程、そういう考え方もあるのだな? だが、この男は私の逆鱗に触れてしまった様だ。うむ、少々面倒ではあるが語らせて頂こう。

 

 

 

私の書いている小説です

https://estar.jp/novels/25771966

 

https://novelup.plus/story/457243997

 

https://ncode.syosetu.com/n1522gt/

 

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