magisyaのブログ

小説となぞなぞを投稿してます

昼食の時間

 

「よっしゃあ頑張ったから腹減ったー! いっただっきまーす!」

 

 8番の腕章を付けた選手が、室内に響き渡る位の大声でいただきますし、弁当を食べ始める。

気弱になったアリサは、その男と正反対の一番隅っこに腰掛ける。

もし対面に腰掛けたら、話しかけて来る事は容易に想像できたからそうしたのだろう。

アリサ以外は全員大人で、更には8人中6人が男。アリサの他に一人だけ女性がいて、その人の隣に座ったのだ。

予選2回戦でタモ利のカードを2番目に見つけ出し抜けていた女性だ。

 

「……いただきます」

普段とは全く違う元気のないいただきますだな。そんな事では不幸が近寄ってくるぞ? 奴らは不幸そうな人間を見つけてすり寄ってくる。

弁当の内容は、鳥そぼろ半分に、炒り卵半分がご飯の上に振りかけてあり、唐揚げ、ミートボール トウモロコシとマカロニの入ったポテトサラダがおかずだ。とてもカラフルであるなあ。 

腹が減っている時に、こんな物を食べた日には胃がビックリしてひっくり返ってしまわないか? グ~

おっと? 語りに力が入り過ぎて、私の拳を握り締める音が語り専用マイクに入ってしまった様であるな。お聞き苦しい音を聞かせてしまった様だ。すまない。気を付けてはいるのだが……決して腹の鳴った音ではないからな? 私は語りマシーン。腹など減らぬ。

ピポパポピ プルルルル プルルルル もしもし? はい私ですけど、いつものセットお願いします。はいその私です。

では、失礼します。ピッ 

ぬ? 何をしているだと? ぬう、(しまった……マイクを切り忘れていたか……)いや、何でもない。一つずつ説明しよう!

まずピポパポピと鳴っていたのは、電子音に聞こえるが、紛れもなく私の声だ。

私は5000以上の色々な音を声帯で模写する力がある。そう、その電子音の声帯模写をしつつ、パ行の発音練習をしていたのだ。一番苦手な部分だからな。

そして、プルルルルと言うのは、簡単に言うと唇を閉じた状態で空気を外に出す事で震わせる動作だな。

そうする事により、その特殊な音波により窓にへばり付いていた迷惑な蛙を落とす作業をしていただけで、次のもしもし? というのは、語りランクの9段昇進試験の模擬試験。いわゆる模試の申込用紙を探していた音である。

毎年5月5日に行われる試験がある訳で、その模試を受ける為の申込み用紙が無かったゆえ探していただけで、誰かに話しかける時に使われるもしもしとは全く違うのだ。これをしっかりやっておかねばまた8段でくすぶる事になる訳だ。

そして、はい私ですけどと言うのは、そういうセリフが近い内にあるので、急に練習しただけなのだ。

以上の事を踏まえると、先程私がモケポン四天脳シヴァ印のウーハーイーツに弁当セットを注文した音ではないと言う事が容易に分かって頂けたと思う。

が、念の為解説しておいた。これで恐らく99割の方々が理解してくれたと思う。

 

「元気無いわねー。見てたわよ私。あ、私はあずさピン芸人よ。

得意なジャンルはメルヘンネタなんだ。

君、1回戦で相棒を切って正解した子でしょ? 上手い事やったじゃない! もぐもぐ、ジャンプ力凄かったわよ。一瞬だけど羽が生えて見えたわねw……蝙蝠みたいなのがwもぐもぐ」

 その元気のない【いただきます】に反応してしまったのだろう。この、梓と名乗る2番の腕章を付けた女性、芸人と本人は言っているが、芸人と言うよりはアイドル? いや、それよりは女優か? と言っても遜色のない位に美しい女性。

うすい化粧をしていて、つばが広めの白い帽子をかぶっている。

そんな彼女に、しょっぱなから言われたくない事を言われてしまったアリサ。

 

「……うん、でもその事は思い出したくないな……よろしくあずにゃん……もぐもぐ」

気まずいのか、梓を見る事無く返す。

 

「あ……あずにゃんだと?? ま、まあ別にいいけど……急にニックネームで呼ばないでよ! びっくりするわ。

君のやった事は別に悪い事ではないでしょ? ごくごくフー。 

ああいう作戦も有りよ。ぱくぱく。あ、これおいしい! でも君の表情から察するに、始めからああいう事をしようって組んだって訳じゃなくって、咄嗟の判断でやったんでしょ? 小さいのに機転が利くなって思って言っただけだから悪く思わないでね。もぐもぐ」

 

「当たり前よ……もぐもぐ。後ね、小さいは余計よ? 私はアリサ。刑事の娘なの。

両親共にね。その影響で刑事ドラマとかサブスクとかで毎日見てるの。

それで、悪い奴がよくやる、始めだけ協力して目当ての物を手に入れた瞬間に、元仲間を拳銃で脅して独り占めする様な極悪人も沢山見て来た。もぐもぐ。

私、そういう奴にだけは絶対なりたくないって11年生きてきたつもりなの。

でもあいつらと同じ事を……窮地に陥ったとは言えやっちゃうんだなって……ショックだったよ。ごくごく。ぷはー」

ピンポーン ぬ? ちょっと失礼 ドタドタドタドタドタリンコ 

「ウー! ご注文お届けにあがりましたあ!」

 

「ハー! はい、わたしです」

 

「1500円になります……あっ語り部さんはいつも頑張ってくれているので-1500円となります。どうぞ!」

 

「いつも助かる。この1500円は、ユニセフに募金する事にする。では、気を付けてな……風邪……引くなよ?」

 

「何と……心の広いお方なのでしょう……はいっ!!! 気を付けます!!」 

バタン

 

ドタドタ

ふう、ちょっと中断してしまったな。失礼。しかし、一時間しか休憩時間が無いとは言え、お話をしながら食べるのは行儀が悪い様な気がするのは私だけであろうか? パキィッ。

人は誰でも心の奥底には、悪い心を持つもう一人の自分が潜んでいる。

それを、理性や常識で押さえつつ日々生きているのだが、もぐもぐ。

制限時間がある中で、あの緊急事態時で幼いアリサにそれを抑える事は出来なかった様だ。

しかし、彼女はこれに関して猛省している。もぐもぐ。

この若さで咄嗟の時に悪い自分が出ると言う事に気付けたのは、彼女にとって今後の大きな財産になるのではないだろうか? ごくごくプッハー。

毎日色々な事件が人の手によって引き起こされている。もぐもぐ。

報道された者の殆どはアリサより大人で常識もある筈なのだが、自我をコントロールが出来なかったのだ。

他に方法を見出せず犯罪に走ってしまう。ウイーヒック! 

 

 ぬ? お前も仕事中に注文したお弁当を食ったり、昼間からお酒を飲んでいるのではないかだと? 

こっこれ違うのだ! これもすぐに説明するとしよう! 

まずパキッという音は、【語り専用チェアー】に長い事腰掛け続けていた為に生じた座り疲れを解消する為に、一時的に立ち上がり股関節の体操をしていた時に鳴ってしまった音であり、割り箸を割った音では決して無い訳であり、もぐもぐという音は、体操をしながら、語り専用チェアーの20cm位離れた所に設置されている【語り専用ペット小屋】の中で元気にしている土竜のモグ吉を撫でていて喜んでいる声がそういう音であり、飲んでいた物はただのキンキンに冷えた麦茶なのだよ。

それに、ウイーと言っていたのはウイーリモコンで遊んでいた時の掛け声であるし……ヒック。

ぬぬ? やはり酔っ払っているのではないか! だと? これは持病のシャックリである。

安心してほしヒィーーィック!

 

クォン クォン

ぬ? 何だこのねっとりとしたノックオンは? ヒック。 

 

「? どうぞ」

8番の腕章の男が返事をする。

ぐぁちゃ

眼鏡を掛けた老婆が入って来た。

「むぃなすぁん、よすうぇんとっぷぁおむぇどぅえとぉう」

 

「え? 何て?」

何かを言っているが、当然誰もその言葉を理解出来ていない。

 

「くぉるぅえうぁ、わとぅあおぬぃのとぅぃーしゃとぅよぉ。うくぇとぅおってぇ?」

言っている事はよく分からないが、老婆は、にこやかに話している。

 

「あっ!? あなたは!! 蘇我子さん!!」

3番の腕章の男が反応する。

 

「え? これ蘇我子なの(あ、受付で見た干し柿お化けじゃない?)」

これ言うなし。だがアリサも蘇我子のヌードを至近距離で見せられ、精神的に苦しい目にあわされた経験がある。

それが原因で、彼女に対して良い印象を持っておらず、無意識でも少し言葉が荒くなっていたのだ。

 

「むぁあむぁあ? ぬぁむぁいきぬぇえ!」

 

「生蘇我子じゃん! すごーいwwん……近くで見るとしわくちゃねwwしわくちゃ♪しわくちゃ♪わーいわーいwまあ老婆だししゃーないかww」

これ! アリサ!! 呼び捨ては……それに歯に衣着せぬ言葉を本人の前で言うでない。

しかし満面の笑みである。これではまるで小学5年生の少女が放つ無邪気な笑顔ではないか。これがあのアリサなのか? 普段は大人びていて、こんな表情は決して見る事の出来ない彼女。しかし、今は本心から嬉しそうに綺麗な笑顔をしている。これがお洋服を買って貰う時にするリアクションなら可愛い物を、人の悪口を行った時にこの守りたい笑顔をするのは何でなんだろうな? 必要以上に可愛い気がする。もしかして悪口を言っている時こそ彼女の真の姿が拝めるのかもしれないな。

しかし、考えてみれば皺とは誰でも出来る物だ。ツルツルすべすべなのは今だけである! そして、その多さは、若い時に作った笑顔の多さで変わると言われる。

蘇我子は沢山笑い過ごして来たのだろう。若かりし頃に人生を謳歌出来た証でもあるのだ。それをむやみやたらに馬鹿にしてはいけないのではないか?

 

「ぬうううう」

怒りで震える蘇我子。

 

「おい! 失礼だぞ! このチビ!」

 

「ごめんごめん。これ、わた鬼Tシャツじゃん! これをくれるの? かっこいいじゃん! ありがとお!」

蘇我子は8人の選手一人一人にTシャツをプレゼントに来たのだった。

 

「あんたぬぃはあぐぅえぬうぁい」

そう言うとアリサ以外の7名にTシャツを手渡して出て行ってしまった。

ぶぅあとぅぁん

彼女が閉めたドアの音は、言葉同様にねっとりとした音であるな。

し、しかし何という喋り方だ……このままではもしもまた蘇我子が登場した時も、皆さんに大変な思いをさせてしまうやもしれぬ。ぬう、よし! 次にもし彼女が登場してしまったら言葉の翻訳を試みてみる。

 

「え? あれ? 私だけ貰ってないよ……みんな貰ったのに何で?」

 

「そりゃそうだwどう考えてもおめえが悪いだろ? このちびっ子wガハハww」

 アリサの向かいに座っている【おかしな恰好】をした1番の腕章の男が話しかけてきた。

 

「ちょっと! 私だけ貰えなかった衝撃で傷ついてるのに、悪口で追い打ちかけないでよ!」

 

「ちいせえもんはちいせえぜええええ? それにこのTシャツはおめえにゃブカブカ過ぎるぜえええええええ?」

男は30代後半で、何でくっ付けているかは分からないが、おでこに昨日戦死ガンバレのガンバレの頭についている。

 

<◇>

 

 こんな感じの飾りを付けた大男だ。

 

「今はまだちょっとばかり小さいけど、少し待てば入るようになるし、変な頭飾りをした頭のおかしいおじいさんの背を越えるから安心して? 小さいのは悪い事じゃないのよ? 頭が脳みそ詰まっていて、重すぎて身長が伸びにくいっていう事は、カリフォルニアの大学の研究で既に明らかになっているんだから」

ごく自然に、まるで呼吸をする様になめらかに嘘を突くアリサ。

 

「えっ? おじいさん? どこだ? そいつ?」

 

「私の目の前にいるわよ。鏡見てみて」

アリサはカバンから、買って貰ったばかりの鏡を取り出し渡す。

 

挿絵(By みてみん)

 

「お、すげえ……! な? なんじゃこりゃあ? 神がかった美しすぎる神様がいるぜ! ああっ男神さまっ!? これがうわさの男神様でしょうか? こんな所にいらっしゃいましたか……ハハー。一瞬その神々しさにお賽銭を投げる所だったよ……

神々しすぎて目がくらんじゃうぜ!! ヤバイよ、これ以上この美しい物質を見続けたら、一般人の俺の目じゃ失明しちゃう。

これ、返すよ!! いやあ……素晴らしいお方を見る事が出来たよ! 本当に感謝だぜ!」

ダメージ0の様だ。

 

「声でかいわよ!」

 

「それが芸人ってもんだぜええええええええええええ? 俺は見ての通りガンバレギャグの使い手で、中国から来たシュウ虻羅儀瑠アブラギルだぜえええええええええええ。

日本の笑いのレベルは絶望的に低い。世界でもそれは認められてるだろ? でも、安心しろ! その為の俺様だ! 日本のお笑いを俺様が引っ張っていってやるからよ! それを証明する為に、優勝は必ず頂くぜえええええええええ!?」

必要以上に【え】の数を水増しし、文字数稼ぎに貢献して下さっているこの男。中国から来た渡来人の様だな。

 

「日本語上手ねー頑張って勉強したんだ。で、ガンバレが好きで日本に来たのね? どれを見て好きになったの? アニメ? それともゲーム?」

 

「ゲームさ、スウパアロボット大戦ってゲーム! 意外と頭を使うんだぜ? そのテキストが小説みてえに異様に長くてさ、それを全て理解したいが為に猛勉強したんだぜ? 日本語。

シュミレーションゲームって言ってな。マップ上にユニットを配置してよ」

 

「あああれね。知ってるよ。でも語学って、好きな日本人の女の子と付き合いたい為に学ぶのが普通なのに、ゲームのテキストを理解するためって……純粋ねえ……」

 

「そうなのか? 俺はそのテキストに込められたメッセージを理解出来た瞬間本当に幸せだったんだぜええええ?」

 

「本当にやかましいわね……いっそやかま周・虻羅儀瑠に改名しなさい」

 

「お? そっちの方がいいな! 俺のキャラが名前に込められているぜええええええ? よっしゃああああ分かったぜえええええ」

改名してくれる様だ。

 

「意外と素直ね……でもそのゲームも中国語版もあるとは思うけど……待てなかったのね……まあ日本で作られてから中国版を作るとなると時間かかっちゃうもんね。日本語覚えた方がいいわね。その熱意良いわね!」

 

「そうだ! 日本のゲームはそれ以外も面白いしな! 分かっていると居ないとでは全く違うぜ? おめえもやった事あるのか?」

 

「うん。マジンガー乙とか下っ駄ーロボとか大矢一豆タイターン3とか一杯出てくる奴でしょ? 確かスーパァ系とリアノレ系があってスーパァ系が火力と体力があって動きが遅く、リアノレは回避が高くて火力は控えめって感じよね?」

 

「おう! だが、男ならスーパァ一択だぜええええええ? おまけによお響くのよおおおおお!」

 

「ああエコーかかるよね。スーパァ系のパイロットは。でも、私はあまり好きじゃないのよねー」

 

「え? 何でだ? すごく面白いだろ? マインドコマンドとかで一気にボスを倒す快感。

熱皿、心中、辛運、怒力、関き、を一気に使ってぇぇぇ! 行くぜぇぇぇぇ! 下ッ駄ービーーーーーーーームってよお!」

 

「まあその部分は楽しいよね。ダメージ5桁いくとうっひょーってなるわ。

パイロットのレベル上れば、強くなるし、新しいマインドコマンドも覚えるし、戦略の幅は広がるわ」

 

「おう、最強のマインドコマンド、弾死威たましいを胸にいだき、日銀の力を借りて、今必殺の、オッサンアターーーーーーーーック!!」

 

「うるさいわよ!」

 

「そして更に熱いのが、MAP兵器と言う概念だ」

 

「何だっけ?」

 

「普通攻撃する時は、1キャラ1体で戦うタイマン勝負だろ?」

 

「うん」

 

「でもな? MAP兵器ってのは、まとまっている敵軍を一網打尽にするんだ! 有名なのは財布バスターだ! そのマシーンのパイロットのマサシ・タシローがよ、すげえイケメンでよ、その上マインドコマンドも優秀でよ。

辛運、熱皿を使用し、放て! 必殺! 財布ラーッシュ! ドーン、ボカーン! ピボーン!! ボカーン!! ドッカーン! ズドドドド――オン! やったっぜええええ! 全滅させたぜええええええ? うわーwお財布が、沢山のお財布がドドドドーンと押し寄せて来るよぉーww苦しいけど幸せーww資金ウハウハだぜええええええ!」

子供の様にキラキラした瞳で大げさな身振り手振りを交えつつ語る周。見た目に反してピュアな男だ。私はこういう男は嫌いではない。ゲームの話で一晩中語り明かせそうだ。

 

「そうよね……お金持ちよね……ゲームの中では……でもね、実際ウハウハなのは、販売しているゲーム会社なのよ……流石よねー、プレイヤーをいい気分にさせるのが上手いわ……」

冷めた目で現実を語るアリサ。

 

「うぉいいぃいいい!? 一気に興ざめさせる様な事言うなよ……」

 

私の書いている小説です

 

https://estar.jp/novels/25771966

 

https://novelup.plus/story/457243997

 

https://ncode.syosetu.com/n1522gt/

 

人気ブログランキングに参加しています

応援よろしくお願いします!

人気ブログランキングへ