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ジャイアントキリング

 

現在早乙女は移動不可能。まな板の上の鯉状態。そして、いつ放たれるか分からぬ1位の言葉に怯えつつ、アリサの口元を注視し、いつ来ても良い様にアーアーバリアで対抗する。

 

「アーアーアーアー、アーアーアーアー」

ミシッ メキッ

しかし、彼女のその行動により、隣で腕を組んだ不幸なメンバーの腕の骨にもダメージが入る音が響く。

 

「アーアーアーアー」

ビキッ ゴキッ

「ヒ、ヒャア、私達は」

「私達は」

 

「ッハァ誇り高き」

「誇り高き」

 

「桜花ジャパンのメンバーだぜえええ? ヒャッハアアアアアア」

「桜花ジャパンのメンバー! 諦めちゃ駄目……クッ」

 

「アーアーアーアーさあ、いつでも来い! 防ぎ切って見せるっアーアーアーアー」

ギギッ ミシッ

だが、アリサの表情は変わらない。

 

「ヒャッハアアアア! 痛い……くない……」

「折れそう……じゃない……そんな訳ない! 鍛えぬいたこの腕は、絶対に折れない!」

ミシシッ

 

だが冷徹にその腕にダメージが蓄積されている。

早乙女は力限界突破して腕力660の怪物。そして、限界突破していない場合は全てのステータスは255で頭打ちなのだ。

両脇は力限界突破を所持していない為、約2倍以上の力の差があり、アーアーアーアーを重ねるにつれ、腕の耐久値は確実に弱っていく……

 

「あ゛ーーーー」

「大丈夫? 大丈夫だよ何とかなる!! ほら! 笑って? ヒャッハアアアア……」

両脇の筋肉も、早乙女と組んだ方の腕は限界が来ている。しかし、健気にも耐えている。

あの狂人も、運悪く早乙女の隣に位置している様だ。

しかし、彼女の奇声を上げる野蛮な行為とは裏腹に、仲間を本気で気遣う姿は、美しいとさえ言える。

一体これは何だろうな? 不思議な気持ちだ。ギャップ萌えという物なのか? 私はこの筋肉質で、奇声を上げる一般的には少しおかしいと言われる女性に心惹かれつつあるのだ……私にはケイトと言う女神が居ると言うのに他の女性にまで……何というふしだらな男なのだ……ケイトよ、私を抱きしめ止めてくれ、そうでないと私は、私は……( ゜д゜)ハッ!私は何て失態を……猛烈に恥ずかしい……しかし、実際彼女は、性根は優しい人間なのかもしれない。

それを見抜かれたくない。隠したいが為に、奇声と言うバリアで本当の自分を偽っているのかもしれない。何とも不器用な人間だ。

 

 当然早乙女にも仲間達の骨のひしめく音は届いている。だがそのアーアー言うのを決して止めない。

それを知りつつも、自分を守る事だけに専念している。

実は、早乙女は一番恐れている言葉の正体が一体何なのか分かっていない。

 

「嫌いなのに覚えていないの? 変な奴!」

 

と仰る方も居ると思う。だが、絶対に聴きたくないと言う思いは残っている。その気持ちが、彼女を鬼に変える……考えてみれば嫌な物を常に考えながら生きていくと言うのは本当につらい事である。

例えば、これから先、一生嫌いなゴキブリの事を目を瞑った瞬間に、その姿が明確に頭に浮かんでしまう体質になる代わりに一億円あげるよ! と、言われて、そのお金を受け取る人は居るのだろうか? 恐らく余程お金に困っていてもやる人間は居ないだろう。

その瞬間安らぎは奪われる。目を閉じれば、あのおぞましい姿がくっきりと消えずに……それが死ぬまで続く。

もしそれを選択してしまった人も、恐らく1日と経たずにお金を返すであろう。

自分が一番嫌いな物が常に頭にある。そんな生活は絶対にあってはいけない。

だから忘れる。

自分の弱点を瞬時に挙げる事が出来るか? と言う意地悪な質問を皆さんにした事があるが、思い出せた人は少ないだろう。

それが難しいと思うのは、皆さんが正常に自分を守っている。と言う事なのかもしれない。

そう、忘れると言う行為は、せっかく勉強したのに忘れてしまったと言うネガティブな物を思い浮かべがちであるが、経験した嫌な思い出を常に頭に残さない様に取り除いてくれると言う、素晴らしい自己防衛手段と言い換える事も出来るのだ。

頭に残った汚い思い出を駆逐する英雄。

だが、本当に覚えておかないといけない物も、老化のせいで忘れると言う印象をテレビなどでも与えられている為に、忘れると言う行為自体に良い印象が薄い気もする。体の中に入った異物を取り除く免疫細胞は評価されるのに、頭の中に入ったゴミを取り除いてくれる唯一の行為である、【忘れる】だけは評価されないのは不思議でならない。

 

 この広い世界の中には、どんな物でも見たり感じたりした瞬間に一瞬で覚え、忘れないと言う人が居るそうだ。

例えば、1998年の3月4日に何が起こった? と聞かれても考える事無く即答出来る様な頭脳の持ち主がな。

故に彼らは一度受けた恐怖体験なども味わってしまったが最後、永久に消える事が無いと考える事も出来るのではないかと思ってしまう。そう思うと、頭が良すぎるのも少し可哀想だな、と思ってしまうのだ。

一般人の私達は幸せ者である。しっかりと嫌な経験を忘れる事が出来るのだから。

だが、それを忘れる事は、その人間の中で最も大変で、長い時間が必要となる。

理由はつらい出来事故に、なかなか消えてくれないのだ。ずっと印象が残り続ける。それでも極力考えない様にしている内に、ゆっくりと脳内から消えて行く。そう、

 

「ゴキブリの事を忘れよう」

 

と心に言い聞かせる必要は無く、自然と忘れてくれるからな。

故に忘れた瞬間、

 

「やった! ゴキブリという事を忘れる事が出来たぜ!」 

 

と、喜ぶ事は出来ないが、自覚症状がないだけで、その人物にとって最高の出来事が起こっていたと言う事なのだ。

だが、それは素晴らしいが、自身では実感できない。だからこそ、忘れると言う言葉の響きに、いい印象を受ける人間が少ないという事なのだ。そう、時が過ぎれば全てを忘れさせてくれる。その事を意識している人は少ない筈だ。

そんな苦労の結晶を、今アリサは覗き見て言葉にし、思い出させようとしているのだ。

何とも嫌な幼女である。

長い時を掛けやっと克服? もしくはトラウマを振り払う事が出来た。その長き時間を、アリサは瞬時に巻き戻そうとしているのだ。無邪気な顔をして……!

とても罪深き事に思えてしまう。

勿論その言葉を聞いた位では、その嫌な思い出を初めて体験した当時程の苦しみは無いとは思う。

だが、物理反射【硬】を使用中は別。精神的な攻撃の威力が10倍になる。それを彼女は知らない。アリサの1位の言葉を聞いた瞬間下手をすれば精神崩壊してもおかしくないのだ。

 

「苦しいけど耐えて見せる!」

「そうだぜえええ? 耐えるんだ! ヒャッハアアアアアア」

両脇の2人は早乙女を振り払おうともせず、ただ只管時が過ぎるのを待っている。

何と健気な……2人は相当この組織に思い入れがある様だ。

 

「ククク早乙女よ……お前……本当にそれでチームの頭なのか? 仲間を犠牲にして自らを守っている……

それも、桜花ジャパンのメンバーは誇り高いと言う不確かで曖昧な綺麗事でな。半ば強引にその哀れな行為を続けている。

桜花ジャパンはそんな自分勝手なリーダーに従っているのか……とても誇り高いとは思えん。

これは法律的観点から【暴行罪】に該当するのだがな……分かるか? 両脇のモブ達よ、訴えれば余裕で勝てるぞ! 今、証拠の画像を撮影しておいてやる。

後で取りに来い」

パシャリ

携帯で早乙女を撮影。

 

「クッ……勝手に撮影するとか最低ね!! この卑怯者!」

 

「何とでも言え! お前は一時間はこの場から動けない。唯一の遠距離攻撃の針闘気も1メートル以上は飛ばせない。

故にこの場で立っている私は超安全なのだ……ほう、よく撮れているぞ? これを裁判で提出すれば勝訴確定だw」

 

「桜花ジャパンのメンバーは、そんな事で訴えたりはしないよね? 鮒津司ふなつし? そうよね? 西園寺? 誇り高いもんね? アーアーアーアー」

ビキビキ ビッキー

 

「ヒャッ、ヒャッハー……イ」

ほう……意外だな……

 

「え? 何で? え、えっと……は、はい」

先に鮒津司が早乙女に従ってしまい、内心アリサの意見に同意していた西園寺も、彼女に従う結果に……

日本人はこう言う所がある。思っている事を主張できず、我慢し続けてしまうという悪い習慣がな……

 

「そうだよね? 桜花ジャパンのメンバーだもん! これぞ桜花魂!」

 

「リーダーの命令には逆らえない様だな。可哀想に……桜花ジャパンは綺麗だなあwwwしかし、偶然か? メンバーの名字が今の所漢字三文字の様な気がするが……」

 

「アーアーアーアーそれは、私が漢字三文字の名字の人のみを面接で合格させているからね」

早乙女は桜花ジャパンの団員募集の面接に面接官としても参加している様だ。

 

「なぜだ?」

 

「かっこいいからよ。アーアーアーアー三文字だから大迫力だもの」

 

「そうか」

(やはり賢さ25だな……何の必要性もない。漢字二文字でも優秀な人材は沢山居たかも知れないのに……短絡的な女だ……)

 

「さあ! いつでも来い! 防ぎ切って見せる! アーアーアーアー」

ビギッ メコッ

 

「ヒャアアア……」

「ああああああもう……駄目……」

 

「もう限界が来ているぞ? 流石に敵ながら可哀想に思えて来たぞ……仕方ない教えてやろう。

鮒津司と西園寺よ……腕が折れたらもう体操出来ないぞ? 治療中に腕が折れていない新人を早乙女自身が選定し、いつの間にか二人共お払い箱だ。

そんな事に気付かずに盲信しているとは、愚かの一言に尽きる!」

 

「ヒャハ? リーダー本当ですか?」

 

「そんなの嘘に決まってるでしょ! あんた達は恵まれてるのよ? 私が1年の頃は目玉が飛び出て、入れ替わる事もあったんだからね? それに比べたら腕がたったの一本折れる位平気へっちゃらでしょ? アーアーアーアー」

それは昨日の事であるぞ!

 

「リーダー本当ですか?」

このメンバーは飛び出たのを直接目撃した目ンバーではない様だ。まあそれもそうだろう。500人もいるから知らない人もいるという事か。

 

「本当!!」

早乙女さんの嘘突き!!

 

「ククク……その鍛え抜かれた筋肉質の体で、いつ放たれるか分からぬ私の言葉に子猫の様に怯える様……滑稽だな……む? 妙だな……先程動かなくても勝てると申していなかったか? だが、相当動いている様だが? 私の気のせいか? 自分の言った事に責任を持て! よもや仲間の腕を犠牲にしてまで私の言葉を聞きたくない……か……醜いな……お前は最低だ。

だが、その最低な行為を続けていても全くの無駄だ。すぐに止めた方が良い。こんな無駄な行為は恥の上塗りだぞ? もう分っているだろう?

その程度の防御では防げない。この言葉、は、貴様の耳を通して脳に到達する訳ではなく、【心】に直接届ける」

 

☆注意☆ 

ほんの少しシリアスな展開が続いていますが、このお話は、ギャグミステリーです。

そして、○×クイズの3問目の真っ最中です!! 当然その問題も覚えていますよねっ?

 

「待ってお願い! いや嫌イヤいやああああ」

グオオッ

針の闘気が爆発する。だが、眉一つ動かさないアリサ。

そう、何故なら最大到達範囲も万物調査のデータ内で掌握済み。最早こけおどし。恐るるに足りない。  

 

「ククク……銭肩警部に待て~! と、言われて素直に待ってくれるルパソは居るのか?」

 

「うう……」

 

「あ、あのさあ。ちょっといいか?」

 

「え?」

 

「お取込み中で、本当に申し訳ないんだけどさあ……もう、十秒経ってない?」

とある選手が重大な事に気付く。

 

「え? 経ってないよ? まだ5秒残ってるよ? 余裕余裕!」 

余裕のアリサ。

 

「え? そうなんだあ。じゃあ今は?」

 

「もう♡せっかちさんね♡そんなに早く経つ訳ないでしょ?♡? 当然まだ5秒残ってるよ? 常識だよ? 本当にせっかちさん♡♡♡」

 

「ええ? 時の流れってそんなもんだっけ? おっかしいなあ……こうしている間にもタイムアップが来る筈なのに……そうなのか?」

そうなのだ。こういう重要なシーンでは、時の流れは緩やかになる物なのだ。全宇宙の常識である。

 

「早乙女? お前は初志貫徹で反射の構えを崩さなかった。見事な覚悟だった。自分のスタイルを貫く姿勢。私は嫌いではない。

恐らく父と戦う時のシミュレーションだったのか? それとも外敵の侵入を防ぐ万里の長城を意識しすぎたのか? まあどちらでもよい。私は見た目通り物理など一切しない。遠距離攻撃を得意とする大賢者なのだぞ? 心を、精神を、脳を集中して攻撃するスペシャリストだ。しっかり相対する敵の職種位はを見極めてから対応するべきだったな。直情径行すぎる。

もしも私がお前だったら、私を観察し、どういう攻撃タイプかを判断する。そして、物理主体と確定するまではカウンターを張らなかったぞ。いつでも動けるようにした筈だ。

そして、私が口撃こうげき呪文を放とうとした瞬間に飛び掛かって、制限時間まで口を塞いでいた。お前はガタイの割に245も素早さがあるから簡単にそれが出来た筈。それに若い故に、力では完全にお前に及ばぬ。それをされれば私は負けていただろうな……

だが、カウンターを迷わず使ってくれたお陰で、私は遠距離攻撃でお前を一方的に潰す事が出来た。感謝だな……

分かっているだろうが、お前はこれから負ける。悲しい事だが事実だ。これだけ力があっても、これだけレベルに差があっても負ける。悔しいだろうな……敗因は、新しく覚えた技を一知半解のまま固執しすぎた……だな。

まだ全てを把握し切れていないその技。だが、使いたかったんだな? 覚えたてだしな? だが、技の性質を直接調べ、お前以上に詳しい私にそれを使う事等、愚の骨頂だ。

その上自ら「物理反射【硬】!!!!」等と声に出していたな? その時点で終わっているのだ。

カウンター技は、相手に気付かれない様にこっそり使うから効果があるのだ。今から使うと公言する程馬鹿げた事はない。そんな事は戦いの基本中の基本なのだ。

せめて私に気付かれぬ様使えば勝機は……フッ、ククク……アーッハッハッハァ(*´▽`*)

そんな事は無かったなw言っている途中で思ったが、私がそんなへまをする等どう考えても想像つかぬw失礼したwお前如きではこの私を欺く事等出来ぬ。

根が素直過ぎるからなwしかし悲しいな……折角いい技を習得しても、頭の悪さが邪魔をして宝の持ち腐れとなる……か……その技は、決して名を叫んで使用する物ではないのだ……哀れなる者よ、次からは気を付ける事だ。

フム、どうやら神は私を次のページへ進む事を許してくれた様だ。

しかも、お前と言う強大な敵の屍を超えた上でな。きっと沢山の経験が入ってくるだろう。ワクワクするな!

では、お別れの時間だな。今お前は呪文耐性が10分の1に低下している。その状態で果たしてこの言葉に耐えられるだろうか? もしかして死んでしまうかもな? だが、そうなったらそれまでの男という事だ。悪いが手加減は出来ない。制限時間は迫っている故急がなくてはな。早乙女。すうううううううううっ【糖質の海】に……溺れろぉ!!」

ビシイイイイイイイイイイイ!!

アリサは、どんなに早口で音読しても30秒近く掛かる長台詞を言い終え、左手人差し指を、早乙女に向ける!!!

 

「い、いやあああああああああ」

突然もがき苦しみ膝から崩れ落ちる早乙女。

ボトッボトボト

ぬ? 何かが落ちるような音が?

 

彼女はそこまで糖質が嫌いなのだろうか? 大抵の女性はスイーツが大好きな筈なのだが……まあ人それぞれなのだろう。そう言えば彼女は、『言葉で決意を表明しても、それだけで通れる程私は甘くはないわよ?』と言った後、優しくないと言い直していた。そしてアリサの『私の真のお説教はそんな甘くはないわよ?』と言う言葉にも激昂していた。

これは、【甘い】と言う言葉を使う事だけでなく、聞く事すら嫌なのだろうか? そこまで糖質を嫌う理由。少し興味があるが……おっと今はそんな話をしている暇はないな。そして、その言葉で、上空の針闘気が消え始めた!

 

「見える! あの闘気も弱っているわ! やはりメンタルに左右するのね? 今だ! 今この瞬間しかない!! これを逃したら、もう、二度と会えない!!! たーーーーーーーーっ!!」

ピョーン! 

 

「え……?」

 

 

 

「な……?」

 

 

 

「り……?」

その瞬間アリサは、フンガーの肩から大ジャンプをした。彼女は高所恐怖症。

だが、その瞬間一切を忘れ、忌憚のないジャンプを見せる……! そして、2メートルあるフンガーの身長の高さのお陰か? 本来そこにあった筈の針闘気が消滅した事にアリサより少し遅れて気づき、上がガラ空きと気づいた鮒津司と西園寺も、膝から崩れ落ちて呆然としている早乙女と組んでいた腕を慌てて解き、折れかかった腕が折れてしまっても構わないと言わんばかりに上に伸ばす……が!!!

天空高く舞う少女は、まるで翼を羽ばたかせたガーゴイルの如く飛翔し、彼女達の追撃を許す事は無かった。

しかし、それでも紙一重ッッ!! 一体どうなるのだ??

 

ヒューン……スタッ!

 

そして……その小さい体は、目的の○の場所に? ヌウッッ!! 届いたッッ!!

 

挿絵(By みてみん)

 

「あ、危なかった……で、でもミ、ミッションコンプラッチュネイション」

これはアリサ語である。ミッション達成おめでとうの意味だ。

 

「何て事でしょう……我らの鉄壁の守りが……初めて突破された。でも、どうしてかしら? 余り悔しくはない? 不思議ね。」

 

「ほほう」

 

「7んて無茶を……」

 

「無茶するガキだぜ……」

 

「……今、あの女の子に羽が生えてなかったか? なんか、その……禍々しい奴がよお……俺の気のせいか……?」

確かに生えていたな……ヒロインなのに天使の翼ではなく禍々しい奴がな……恐らく彼女の心を投影して具現化した翼なのだろう……

 

〇の中に居た選手達が、アリサを見ながら口々に驚きの声を上げている。

そして、腕を解き、壁から人へと戻った女達とフンガーも、一瞬の出来事に呆気に取られる。

「……」

何とアリサは、今まで共に戦ってきた男、フンガーを捨て駒にしたのだ!

 

「3、2、1……0!」

ピピー! 

そして、終了の笛が鳴る。長い様で短い様で長ーい3分が終わった。

そして、タイムリミットギリギリで無事正解を手にするアリサ。

残り人数は大幅に減り、僅か32人となった。

そして、天を仰いで廃人状態だった早乙女もようやく正気に戻り、アリサの元に。

「やるわね。凄いバネ……完敗よ……そうね……触れる事が出来ないのなら、そして、針闘気が邪魔して飛び越える事が出来ないのなら、言葉で動揺させて、闘気を崩してから飛び越えればいい。そう言う事よね……見事な精神攻撃だったわ。

はあーーーーーーーーこれからは肉体だけではなく心も、そして、賢さも鍛えなければ駄目ね……」

 

£ドム£⌒☆

 

 しかし、言葉では潔く負けを認め、爽やかさんを演じていたが。

内心死ぬほど悔しくて、思わず地面を殴ってしまう最低な早乙女。

そこだけ40センチ程陥没してしまっている。まあ悔しがるのも仕方がない事だ。早乙女はよく頑張った方だと思う。

だがこれを機に賢さを修行すると言っていた。レベル25で賢さ25と言う絶望的な数値。

もしレベル26になってもその数値が変わらなければ、そこから成長は期待できないのだ。

そう、25がターニングポイントなのだ。これはとあるRPGの格闘家の賢さが幾らレベルが上っても25から変わらないという事から知力25さんという不名誉なあだ名がついた事実があり、早乙女がそっち側に行ってしまうかどうかはこの次にレベルアップのステータス上昇にかかっている。頑張って欲しい物だ。

 

 因みにアリサは初対面の人と5分位話した時に得た情報で、大体の性格や趣味が何となく分かってしまう特技がある。

それは類稀なる洞察力で、表情や仕草などを観察しているからだ。

そこに運命のいたずらか? 万物調査と言うスキルまでも身に付けてしまった。もはや鬼に金棒どころではない。

狩人に写一の弓、竜騎士に保ーリーランス、聖戦士にエ久カリバーと言える程なのだ。

厄介なのは、嫌いなものと書かれている所の3つのワードまでも彼女に見られてしまう訳で、それは左から順に糖質 ヨヨヨ 両親と書いてあったが、実は糖質が1番嫌いな物で、ヨヨヨが2位、両親が3位と言う事だ。これはその人物の弱点に他ならない。

何故一番左の糖質が1位と把握したかと言うと、早乙女の【甘い】と言う言葉に対する異常な反応を見た時にアリサは何かを気付いていたが、その時既に把握していたのだ。という事は、必然的に一番右が3位という事も分かった。

 

 そして、彼女の得意技は精神攻撃。悪口や、言いがかり、罵詈雑言、誹謗中傷等々。

更に、新たに習得した技から、弱点であるそのベスト3のワードも使いこなして追い詰める事も簡単に行えた。

実際にその様子はご覧いただけた筈。その上、3位からじわじわと苦しめる様も見て頂けた筈。

 

 彼女は、口喧嘩ではほとんど負けない。そして、駆け引きも得意だ。

そう、だがそれは、一朝一夕に培われた物ではない。彼女は努力家なのだ。

彼女のPCや携帯の【ど】で始まる予測変換のトップ3は何だと思うだろうか? 普通の小学五年生の女の子ならドーナツの美味しいお店とか、どんぐりの見つけ方や、銅鑼衛門の秘密などであろう。だが、彼女の場合【どうすれば?】である。

そして、スペースの一つ先に、【相手が泣くか?】【相手が嫌がるか?】【相手が苦しむか?】などの単語が出て来る。これが彼女のトップ3である。

そう、彼女はそれを自ら進んで学んでいるのだ。それ程に【その分野】に対して研究熱心な少女なのだ。

その手の論文もいくつもいくつも読破している。そう、その分野を、曖昧な物としてでなく、学問として基本からしっかりと学び、どんな人間にも通用する【技術】まで昇華させただけなのだ。

多分早乙女も、彼女の本気の言葉の攻撃を受ければ、あの3つの弱点で攻めずとも1分足らずで泣きじゃくってしまう筈である……

 

 アリサは弱点を突き、針の闘気を消して、早乙女の真上を飛び〇の地点に着地した。

だが、冷静に考えると針の闘気があるのは、早乙女の上空1メートルの範囲だけ。

他の筋肉の上には、カウンター効果は付加されているとは言え、その針は無いという事になる。

早乙女に精神攻撃をしたところで、それが消える保証もない。

故に、早乙女以外の筋肉の上を飛び越える方が安心だし確実だ。

だから、フンガーに指示を出し、別の場所に移動して、針の無い所からジャンプすれば、〇の所に辿り着けたのでは? 無理をして早乙女の心をえぐる必要は無いのでは? 無駄な犠牲では? と指摘されるかもしれない。それはある意味正しい。

だが、それではアリサの本質を1%も理解していない事になる。この程度は、アリサ検定初級の問題であるので、ここでしっかり押さえておいて欲しい。

アリサもそれは分かっていた筈だ。だが、分かっていて敢えてやらなかったのだと思う。理由は3つだ。

1つは時間的な問題。残り5秒で留まってはくれたが、それが永遠に止まってくれる訳もない。

そこまで優しい世界ではないのだ。時間はゆっくりだが確実に経過する。

 

2つ目はアリサは高所恐怖症。それでも躊躇わずに飛び出す事が出来たのは、アリサが早乙女の心を折る。

と、言う途方も無い偉業を成し遂げた事に対しての達成報酬を得た事で飛び出せる勇気を得たのだ。

これは、引き剥がせる物ではない表裏一体の物だ。

もし、フンガーに命令して別の筋肉の上からジャンプしようとして、本当に飛び出せるだろうか? それは100%絶対にありえない。

それは、早乙女から逃げた負い目から、彼女達を飛び越える程のジャンプ力、すなわち脚力を得る事は出来ないのだ。

素の脚力で飛び出しても中途半端に飛んだ事で、距離が足りずに丁度壁に激突し、650ダメージのカウンターをもろに食らい即死と言う悲しい結果になる。

それ以前に高所恐怖症が足を引っ張り、絶対に飛び出せない。絶対に絶対にだ!

彼女は刑事の娘。卑怯な事をしたその直後で、自信満々に振舞える程横柄に育てられてはいないのだ。

心と連動し、体は従うのだ。真の勇気は、卑怯者状態の体からは決して発現しない。それは何となく分かると思う。

例えば学校に遅刻して教室に入る時に、堂々と扉をガラガラガラと開けて入れるだろうか? 大多数の人間はそうではない筈だ。

そおーっと扉を開けて、皆に頭を下げながらこそこそと入るであろう? その時、その状態の人物は、果たして最高の力を出せるのだろうか? 当然一割も出せていないであろう。それと同じで、飛び越す事などまずできない筈だ。 

早乙女を完膚なきまでに叩き伏せた様を目に焼き付けた瞬間に、大量のアドレナリンが放出された事で、彼女の大腿四頭筋が最高のパフォーマンスを出せただけの事。

そして、同時に高揚した彼女の心が【一時的】に高所恐怖症を忘れさせてくれただけの事。

勿論例外もあるだろうが、その二つが偶然見事に噛みあい、飛び出せたのだ。

 

3つ目は、アリサは天性の負けず嫌いなのだ。

そして、万物調査で見た、あの強大なステータスの早乙女からですら勝利をもぎ取りたいと考えてしまったのだ。彼女は普通じゃないのだ。命知らずなのだ。頭がおかしいのだ!

 

ジャイアントキリング

 

私を含む男なら全員が100%心を躍らせるワードの一つだ。下馬評最下位が、本命馬を追い抜く様。

咬ませ犬と言われた、ボクシングで練習相手以下の、殴られる為に、その選手の自信を出させる為だけにあてがわれる初心者が、プロを打ち負かす。

そんな、滅多に見る事が出来ないからこそ見てみたい物。そういう物は、見ていてスカッとする物なのだ。そうではないか?

私はやるのは嫌いだが、実況プレイ動画でRPGの低レベル縛りの動画を頻繁に見る。

作者が試行錯誤して低レベルで強敵を倒す様は、本当に感心するし、スカッとするのだ。

その強敵の弱点や行動パターンを知り尽くすその類稀な知性や、何度もやられても再び立ち向かっていく根性も一般人のそれとは大きく違い、それを見ていると不思議と元気と勇気を貰える。

アリサは恐らく参加者最年少。誰も気にも留めていない彼女が、あの女を追い詰める様。誰一人想像つかない筈だ。

だが彼女は彼女自身それを見たくて実現させようと考え、そして実現させた。かなりえげつないやり方だが……早乙女も強いのだから手段は選べない。

アリサは何故かこの化け物を倒した上で、〇の地点に辿り着かなくてはいけないと思い込むようになる。それ以外の選択肢はスポっと抜け落ちてしまった。

 

 対峙する相手が強ければ強い程。勝ち筋が少なければ少ない程、燃え上がる性格。それがこのお話のヒロインアリサなのだ。

現役刑事のママの3倍位ある腕力と体力を持つ屈強な戦士を、言葉一つで打ち負かしたい。という縛りプレイをしてしまう様な命知らずな幼女。彼女はこれからもこんな不器用な選択しかしないだろう。そう、より苦痛を。そして、より苛烈に。が彼女の生き様なのだ。

 

 皆さんはRPGで低レベルで進めていて、新天地で初めて遭遇する見慣れぬ敵に、解析呪文でデータを見た時に、とんでもないステータスだったらどうするだろうか? もしかしたら

 

「あ、これは勝てないよ。リセット!」

 

となってしまうのではないだろうか? 私もどちらかと言ったらそうである。そちらの方が合理的だ。レベルを上げて再チャレンジすればいい。

だが彼女は違う。与えられた物、今持っている物全ての可能性を試し、もしも駄目だったらそこから新たなアイディアを閃き、何がなんでも勝ち筋を見つけ出す。

そんなアリサが、勝負を仕掛けてきた早乙女に背を向け、猪口才な方法で勝利を手にしても、彼女自身が納得しない。

戦う以上完璧に勝つ以外の選択肢を選ぶ可能性は0だという事だ。

それに、間違いを犯した早乙女を改心させたいという気持ちも持っていたアリサ。早乙女の針闘気を破らずして勝っても早乙女の心は変わらぬままの筈だ。

アリサは、早乙女の全てを砕いて勝利する以外の道は無かった筈。

以上の3つがその理由である。納得していただけただろうか?

 

 

 

私の書いている小説です

https://estar.jp/novels/25771966

 

https://novelup.plus/story/457243997

 

https://ncode.syosetu.com/n1522gt/

 

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