magisyaのブログ

小説となぞなぞを投稿してます

私の行く先々で事件が起こる件について 35,36話

35話 スライディング&ライティング

 

「ねえあの子、鬼の様な形相で

スライダーを滑っているわ。

怖いわ……何でかしら?」

 

一人のおばあさんがアリサを発見し

隣にいるおじいさんに伝える。

その老夫婦は、息子と一緒にプールに来ている様だ

「あー? ばあ様や、飯はまだかえ?」

 

「違うのよ。それ今日で63回目よ

まだ102歳の若造なんだからボケるには早いわよ。

ほらあれを見て」

 

「なんじゃあ??」

 

 正に今世直し行動をしているアリサだが

一般人の目にはそうは映らないらしい。

素人はこれだから困る。

命を燃やし、寿命をも削り、正義を貫く少女を

あろう事かキチガイ扱いしているのだ。

 

 まあそれも仕方ない

ユッキーを作り出す照明は、老夫婦のいる反対側

ウォータースライダーの滑り台の影に隠れて見えない。

お婆さんの視点からだとアリサが鬼の様な表情で

何度も滑っている姿だけが見えている状態なのだ。

 

「ふぉ……怖いぞい、あの子は修羅が憑いとるぞ」

 

 老人は少しボケてるが、アリサの鬼の形相を目にし

過去に戦争で対峙した敵兵達の表情と重ね、恐怖する。

そこで、この疑問を解決したいと思った老婆が

再び滑ろうと階段上っているアリサに声をかけてみる。

 

「お嬢ちゃん? どうして怖い顔で滑っているの?

楽しくないのに滑っているのかしら?

もしかして、止まったら作動する爆弾でも

背中に抱えているのかしら?」

謎の推理を発揮する老婆。

 

「ウガ……ウ……ヨナオシ」

 

はっきりと伝える。

今の彼女にはそれ以外の言葉は出てこないだろう。

 

「え? 今世直しって言ったの? どういう事? 

この滑り台を何度も滑る事のどこが世直しになるの?

でもその為に、私も何か手伝える事はあるかしら?」

 

 疑問を感じながらも、彼女の言葉を信じ

力になれる事なら手伝おうとしてくれる。

 

「ガァウゥゥ……コレハ・・オレノタタカイダ

ワッパハスッコンデイロォ」

 

小童が何を言うのだろうか?

 

「私がワッパ? 何を言っているのかしら? 

この子まさか目が見えていないのかしら?」

 

「ギギルゥ……タノム。イマハ……オレヲ

ホウッテオイテクレ……チカヅクモノニハ

オレノ、モウドクノキバヲタテテシマウヤモシレヌ。

オサエガ……キカヌノダ……」

既に数千段を超える階段を登り、両足の筋肉はパンパンで

おかしな口調になってしまっているアリサ。

 

「わかったわ。遠くから見守っているわね」

 

「タノム……」

 

 しかし、この老婆の声

アリサに取って天の一声であったのだ。

何故なら目的達成の為一心不乱に行動するアリサに

休息の2文字は無かったのだ。

だが、一時の間、人の心を取り戻した彼女は

思い出したかの様に

虎威から貰ったウォダーインゼリーを飲む。

薄めの葡萄味のゼリーが

限界付近まで疲れ果てた体内に

優しく浸透し癒してくれる。

 

「フゥ。染み渡る……そこの者よ

礼を言う。そうだ虎威にもだな。

これが無ければ今頃……アリサは間違っていた。

これから何千ものユッキーを消し去る漢だと言うのに

たった一匹のユッキーに拘泥こうでいし続け

危うく命を落とす所だったのだ。不覚!!

ふう。だがもうこんな愚行はしない! 

折り返し地点は過ぎた。いける……!!」

 

 流石に数千のユッキーは存在しないだろうが

修羅に心を乗っ取られ、栄養補給する事無く

死んでいたという事を思い知り、老婆に礼を言うアリサ。

そして電灯のガラスも

少しずつではあるが黒味を帯びてきている。

 

「頑張ってねー」

 

「ウム!」 

 

 老婆はアリサを見つめつつ言う。

そして、元気を貰ったアリサは続きを行い

300回に及ぶスライディングの末……

照明は見事に黒く塗り潰された。

誰にも気付かれる事無く。

 

「もう大丈夫かな? 

くぅっ、もう足が動かないよ。ハアハア」

筋肉が悲鳴を上げている。

そして、300メートル以上の場所での世直し。

普段との気圧の違いで息苦しくなるアリサ。

だが確認の為、ひょこひょこ足を引きずりながら

照明の下に行ってみると、薄暗い光が

地面を照らしているだけだった。

それを見て小さくガッツポーズ。

 

「ミッションコンプラッチュネイション」

アリサの作った言葉。アリサ語で、意味は

ミッション達成おめでとうである。

しかし、最後のスライディングで

プールに入った時に黒い物体が見えた気がした。

暗くてよくは分からない

だが、念のため確認してみようと

プールサイドからプール内を覗き込む。

すると、嫌な予感は的中する。

プールサイドと水の境目の壁の上の方に

隠れユッキーが居た。

耳の部分は水面から飛び出しており、顔は水中にある。

絵の具で書かれている様だ。すぐ傍にあるが

水中でも平気と言う事は。アクリル絵の具であろう。

更に、その上にワニスでコーティングされ

水に浸かっていても平気な作りになっている様だ。

しかもかなり立体的で、横から見ると

お面の様に突出している。

ラクエ3の一人で挑戦する洞窟

宇宙のへその壁に幾つも付いている

 

「引き返せばぁ?」

 

と言ってくるあの顔の様な物である。

上に突き出た耳の部分は、辛うじて塗り潰せるが

肝心の顔を残しては結局死者が出る。

意外な強敵現れる。夜ならまだしも

昼にこの付近で泳いでいて、息継ぎの為に

顔をあげ運悪くこのユッキーを直視してしまったら

吸う所で間違えて息を吐いてしまい

溺れてしまうかも知れない。絶対に消さなくては。

 

「はぁ。一難去ってまた一難か。でもすぐ傍で

ちょっと手を伸ばせば届くんだ、やりようはある。

しかし、マジックでは厳しいぞ。どうするかなあ?」

 

パシャ

プールに入り、正面から撮影を済ます。

そして暫く考え結論が出る。

 

「よし、ヘラと、バケツで何とかするか」

何をしようと言うのだろう?

 

受付に走るアリサ。

 

「お姉さん金属製のヘラを貸して欲しいの。後、バケツ」

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

 ぬ? あっさり貸しすぎだろって?

ここの受付は何でも取り揃えていて優秀なのだ。

偶々マジックは切らしていただけで、それ以外は

何でも持っているのだ、プロなのだからな。

 

 プールサイドのユッキーの傍まで来ると

水面にバケツを浮かばせ、浮き輪装備で水の中に入る。

そしてヘラでゴリゴリと削り始める。

削った絵の具のカスはバケツに入れる。

プールを汚してはいけないという優しさが溢れている。

かなり厚塗りされているようだが所詮は絵の具

骨が掴める様になると、一気に削ぎ落とせ

中々気持ちが良い。

 

「お前は私からは逃げられない……絶対に……

ガーソガーソワン♪ガーソガーソワン♪」

 

 何か怖いアリサ。しかし、正義の心から来る物なので

目を瞑ってほしい。

そうこうしている内に表皮が削り落ち

頭蓋骨が現れる。もう一息である……? これは? 

5階のトイレで同じ作風のユッキーを消した記憶が蘇る。

ひょっとしてこのユッキーも

タイルのユッキーと同じ人物が描いた物なのか?

水を抜いたプールの中で、一人これを描く作者。

一体どんな気持ちでこれを生み出していたのだろう?

 

 そして、全ての表皮を剝ぎ終え、頭蓋骨だけになった。

その時、ある事に気づく。前回は泡に隠れて

骨の存在自体がある事は分かったが

細かい所までは分からなかった。

 

 しかし、今回はヘラで削ぎ落とした為

綺麗に映っている。そこで初めて分かった事だ。

それは、頭蓋骨の上部の真ん中にアルファベットの

Yを逆さにした様なヒビがクッキリと浮かんでいる。

どういう事だろう? まさかこの作者、骨を書く際

隆之の頭のレントゲン写真を見ながら

描画したとでも言うのだろうか? 

それともイメージでヒビを入れたのか?

 

 いや、ここまで本物志向の作者なら

イメージではなく実物を見ながら書く筈。

隆之の頭は、ぶつけたか何かで

頭蓋骨を損傷しているのであろうか? 

それであの様に不自然に区切りながらでしか

喋る事が出来なくなったのであろうか?

 

「後はこの不格好な頭蓋骨だけね♪ 

まああの顔を消せれば死者は出ないけど

プールサイドに頭蓋骨なんて縁起悪いもん

全部殺そっと♪

♪ゴリゴリゴリラが五里霧中♪ 

♪ゴリラの夫婦で五里夢中♪」

 

丁寧にヘラで削り落とし、完全に消去された。

 

「さあ返しに行くか、その前に更衣室に戻ろうかな」

 

 更衣室に戻ると、先程見逃したユッキーを

撮影後、ヘラで完璧に削り落とした。

 

「お前は女子更衣室に居てはいけない

500回死ね!」

パシャ ゴリゴリ

根元から削られた。

 

 更衣室のゴミ箱に絵の具のカスを捨て

バケツ内をきれいにしてから更衣室を出る

すると

ヒュー……ドーンパーン

 

 ヘラとバケツを返却に受付に戻ろうとした時。

窓の外に花火が広がる。

 

頑張ったアリサへの

祝砲と言わんばかりのタイミングだ。

 

「あ。きれーい」

 

 純粋に花火を見ているアリサ。

続けて、2発、そして3発目と打ち上げられる。

パーン。美しい花火が夜空に広がる。

パーン。3発目も開く……!? 

なんと、3発目に開いた花火は、いびつに広がり

とある人物の顔を作り上げる。

その顔は、一度見たら忘れない嫌悪感丸出しの男。

このホテルのオーナー斉藤隆之に良く似た鼠。

隠れユッキーだった!

夜空に消え行くユッキーを撮影しなくては! 

焦りつつ携帯を取り出し撮影。

 

パシャリ

 

「あ、危ねー! 次から次へと

……一体どうなってるのよ

あいつ、本当は頭いいんじゃないの?

よくもまあこんな色々と

アイディアが沸いてくるもんだ」

 

 何故か隆之は、こういう事を考える能力は

高い様だ。これはとても不思議である。

言語能力低下と引き換えに

イメージを作り出す力が発達したのだろうか?

 

 それは、隆之本人に聞かないと分からない

だが、私は絶対に彼と話をしたくはない

そして皆さんも絶対に話をしたくないと思う

よって永遠に謎のままである。

それにしてもこの娘。

へとへとに疲れている筈なのに

撮影はしっかりしている。

ここまで疲労していても反射神経が追いつくのか。

いつまでも夜空に残っていない分

撮影する難易度はSランクと言っても良いユッキー。

撮影はしたはいいが、マジックでは消しようが無い。

何せ勝手に消えてしまうのだから。

消えてしまうとは言え

見てしまった人の脳裏には強烈に残る。

花火職人の技術をこんな事に使うとは許せない。

 

 火薬玉の一つ一つ、そして花火職人の技術。

それらは独立して素晴らしい物だが

二つが間違って重なり合い

ユッキーという凶器を形作ってしまえば

夜空に輝く巨大な兵器となってしまうのだ。

その上、1発2発目は普通の花火で安心させ

次のユッキー花火を多くの人に

注目して貰おうとしているのも恐ろしい。

それとも? 1、2発は普通の花火にして

3発目にユッキーを出し

撮影できる準備をさせる為の計らいなのか?

これは隆之に直接聞かなくては分からない

だが私は奴と話をしたくない

皆さんも同様であろう

故に未来永劫分からない。

 

一発100万円は下らない大きさの花火。

高価な殺人兵器である。どちらにせよ

必ずこんな事は食い止めなくてはならない!

 

「んー。これはいいや。部屋に戻るかな」

 

……??

しかし、アリサは諦めモードに入っていた。

アリサよ・・今までのユッキーは

殆ど消してきたのではないのか? 

そしてこれからも! ここで諦めたら駄目なのでは? 

しかし部屋に戻ろうとする。

すると……

(諦めんなよ……!!!!!!)

 

 どこからともなく響く声……? 

いやアリサの脳内にだけ響く声なのだろうか?

クリアな響きに

疲れてふらふらだったアリサの目が覚める。

 

「え? 誰?」

(諦めんなお前!!!)

 

「まさか……修ちゃん?」

(駄目駄目駄目駄目諦めたら

後もうちょっとの所なんだから)

 

そう、アリサの推測通り

松谷修造が脳内でアリサに応援をしているのだ!

 

「でも相手は、火薬の中の金属の

炎色反応により彩られた、夜空に一瞬だけ輝き

すぐに消える光なのよ?」

(周りの事見ろよ

応援してる人たちに事思ってみろって) 

 

「私には無理よ。こんなに疲れているのに

考える事なんて出来ないわ」

(後もうちょっとの所なんだから)

 

「うー、そうだけどさ。確かに

こいつだけ生かしておいたら死人が出るかもしれないし」

(俺だってこの-100度の所、しじみがとぅるるんって

頑張ってるんだよ!)

 

「でも何か手掛かりがあるって事なのよね?」

(ずっとやってみろ! 必ず目標達成出来る。

だからこそネバーギブアップ! ジャキーン)

 

 話は一切嚙み合っていないが、脳内に響く

松谷修造の声に何故か納得してしまうアリサ。

 

「そうよね。私馬鹿だった。そうよ! 

金輪際夜空にあれを光らせなければ良い

そういう事よね?」

 

 松谷修造の今のメッセージは

公式サイトの動画の台詞なのだが

その一言一句がアリサの頭に染み付いている。

そこに夜な夜な訪れ

動画を見ては元気を貰っているアリサ。

諦めようとする時

その言葉が脳内で再現されてしまうのだろう。

そして、アリサは左手人差し指を眉間に当て考える。

あの花火を二度とこの夜空に輝かせない様に

掻き消す魔法の様な方法を……! 

そして…………当然の様に閃く!!!!

 

 全てを 消す為にアリサは受付へ走る。そして

先程の花火を作成している職人の電話番号を聞く。

 

「また君ね? 何でそんな事を聞くの?」

 

「無償の愛よ」

 

 そう、これからする行動は

アリサは一切利益は無い。既に撮影も終わって

これからユッキーを模した花火が

幾ら夜空に輝こうがアリサにとっては

どうでもいい事なのだ。しかし、これを見た人が

気絶、麻痺、痙攣、最悪死亡してしまう危険性はある。

そういう人が現れないようにする為の愛のある行動。

正義から来る慈愛の心!

 

『無償の愛』

 

1207年に、イゴリスの

エクスポロロロロロロン修道院の修道女

後にエクスポの女神と呼ばれるアラマー・テレジアの

放った言葉でもあった。

 

え? ロの数がおかしいだって?

……何故分かったのだ? 申し訳ない!!!!!

実は正式名称は、エクスポロロロロロロロロロロロロロロ

ロロロロロロロロロロロロロロロロロロン修道院なのだが

ロを沢山語るのが面倒になり

まー6個でいいやと捏造してしまった!!

本当に反省している! 許してほしい!!!!

私は、字数を同じ事の繰り返しなどで稼いでいる

語り部があまり好きではないのもあり

真似をしたくなかったのだ。

出来るだけ短く表現しようと

こういう捏造に至った訳であるが

不快に感じた方には誠に申し訳ない思いで一杯である。

え? この茶番自体が字数を稼いでいるというのか? 

嘘であろう! そんなまさか……あっ本当だ!

 

「へ?」

これ以上聞いても駄目だと判断した受付は

アリサをこの場から引き離したかった為

さっさと電話番号の書いた紙を渡す。

 

「ありがとう。貴女にも女神テレジアの

ご加護があります様に……」

呆然とする受付。

 

ぴぽぽぱぴぽぽ

すぐさま花火職人に電話をするアリサ。

 

---------------------Telephone battle start-------------------

Alisa VS fireworks craftsman

 

36話 花火職人との戦い

 

「もしもし? 花火職人さんのお宅ですか?」

 

「へい! 今、一番大事な所やってんでぇ

手短に済ましてくんな!」

電話の声だけではあるが

粋な職人さんという事が伝わってくる話し方だ。

 

「私ね、妹と弟の三人でホテルに

泊まりに来てるんだけど、プールで妹のアリササが

変な鼠みたいな男の花火を見たら

白目を向いて口から泡を吹いて倒れて

病院に運ばれちゃったの。今夜が山だって……くすん」

咄嗟に出てしまった嘘である。

 

「何だってぇー? それは本当かい? 

だが……アリササって珍しい名前だな。

アリヴァヴァに似ているけど何か関係しているのかい?」

 

 アリサが0.01秒で思いついた架空の名前に

花火職人が食いついてしまった。

 

「えっ? あの……そう! そうなの!! 

両親がアリヴァヴァが好きで

そういう名前になったの」

(あ、変な名前にしたせいで食いついてきちゃった)

 

「へぇ、で? 漢字で書くとどうなんだい? 

虫の蟻に、植物の笹で蟻笹かい?

女の子っぽくない漢字になっちまうし

それだと字面で虐められないかい?」

 

「ちっ 違うわ! えーと有明海の有に

うーんとそうだわ沙羅双樹の沙に右左の左で有沙左よ」

 

「ほほう、でも妹さんなんだろ? 

普通長女の君にその名前が行く筈じゃねぇかい?」

食いつく食いつく。

 

「いえ? アリサの生まれた後に

アリヴァヴァの事を好きになったみたいで

後に生まれた妹に付けたのよ」

 

「え? 君はアリサって言うのかい? 

妹とそっくりじゃないか。

この法則だともう一人妹がいたとするなら

アリサササで、4人姉妹だったらアリササササだろ? 

言いにくいったらありゃしないぜ!!」

 

「ふっ二人姉妹で、後は弟がいるだけよ!」

(しまった! アリサって思わず言っちゃったわ。

ややこしい事になっちゃうわ)

 

「そうか、じゃあ姉妹で名前を紹介する時

私はアリサでこちらが

妹のアリササですって言うんだろ?

耳が悪い人は、最後のサを聞き取れず

同じ名前を紹介されたと思って混乱しねぇかい?

よく役所でこの名前が受理されたな。

だってよぉ姉がアリサでその妹がアリササだろ?

因みに気になったんだけど弟さんの名前。

もしよければ教えてくれねえかい?」

 

 かなり食いついてくる。

アリサと同じで気になった事を

そのままにしておけない性格なのであろう。

そして、アリサの弟の名前も気になりだして

聞いてきてしまった。上手い事言わなければ

また食いついてきてしまうが、大丈夫なのだろうか?

 

「アリサリオンよ」

 

 アリサは咄嗟に思いついた名前を口にする……

しかしこの子は何故職人が食い付きそうな

名前を言ってしまったのだろう?

 

 『3段落ち』 

 

 お笑い界にはそういう言葉がある。

その名の通り

3つ目の言葉でオチを付けると言う意味だが

お笑い好きのアリサはアリサ、アリササと来て

3つ目を普通に言う事がどうしても出来なかった

別にお笑い芸人でもないのだが

その時のアリサは何が何でもボケていただろう

何故なのかは誰もわからない。

 

「へ? ア、アアアアリサリオンだってぇ?

もうアリササについてはどうでもよくなったぜ

それよりも遥かにでっけえ問題に

直面しちまったみてえだからな。

何かよ、急に合体ロボットみたいな

名前になっちまったけど? しかも男の子だろ? 

アリサって頭に入っちゃってるけどいいのかよ?

アリササまでは許されるとしても

アリサリオンはまずいんじゃないかなあ

さっきの話じゃないけどこれこそ

役所で受理されそうにない名前だしさ

しかも言いにくくないか?」

 

「そんな事は無いわよ? 

これは言いたくなかったんだけど

実は私も命名の儀に参加したんだけど

その時ふっと降りて来たのよ。

リオンって名がね……そしたらママが

 

「いい名前ね。アリサが付けたからアリサリオンね」

 

って言ってくれたの」

(6文字は流石に長かったかしら? アリサレオとか

アリサムド位にしておくべきだったわね)

 

 そもそも上のアリサを取ると言う考えは

彼女にはないらしい。

 

「そうか。そんな美しい秘密が……申し訳ねえ。

でもおかしいよなあ。付けるのは自由だけどさあ

それが役所に通るかは別問題だと思うし……

本当に通ったのかい? 奇跡じゃん。

……因みにだけど、アリサリオン君は

漢字ではどう書くんだい?」

 

「え? えっと……悪魔の悪に勝利の利

うーんと殺人教唆の唆にえーとねえ勝利の利

そして怨念の怨よ」

 

「悪利唆利怨かー書きやすくて親しみやすくて

とっても覚えやすい……ってなるかアホ

しかも結構悩みながら考えてたね。

正に今考えた様な感じだぜ。

暴走族の夜露死苦とか仏恥義理みたいなもんやんけ

悪って一文字目から使用禁止文字じゃないかいそれ?

それに同じ漢字を2回も使っているぜ? 贅沢だなあ

悪の後に勝利の利、殺人教唆の唆に勝利の利と

怨念の怨。と、悪い漢字6割で、良い漢字4割で

構成されている。だから、通らねえってこれは」 

 

「あなたは大きな間違いをしているわ。

暴走族という日本語はもう存在しないのよ

今は珍走団と言いなさい」

アリサの得意技、論点ずらし発動。

 

「それは悪かった。でもさ

君の苗字まで聞くつもり無いけど例えば

同級生で山田悪利唆利怨君なんていたら

違和感ありまくりだろうが

習字でもフルネームで名前を脇に書く時

大変だろうに……」

 

「アリサリオンは、米粒に文字を書ける程器用なの

だから半紙に名前を書く位余裕よ」

 

「そういう事ならいいけどさあ

……それでも読みにくくないか?

 悪利唆利怨ってさ、パッと見悪魔とか怨霊とか

そんなイメージが湧いてしまって怖いし」

 

「そんな事ないよ? うちのクラスにも

【男】と書いてアダムと読む子とか

【紅葉】と書いてめいぷるって読む子とかいるよ? 

それに比べたら悪利唆利怨なんて

音読みで読むだけの簡単な読み方で良心的よ!!」

 

「そんなもんかなあ……しかし

何だかかっこいいな!! うんかっこいい!!! 

俺っちもその名前名乗りたい位だぜ

なんかよ、創世のアク江リオンの

主題歌の1万年と2007年前から愛してる

とかあなたと合併したいってフレーズがよぎる様な

素敵な名前だぜ。

アリサリオン! ゴー!! って言いたくなるぜっ」

 

「でしょ?」

 

「んでさ話をまとめると今君は、君と君の妹と弟の

アリサ、アリササ、アリサリオンの

3人で、ホテルに来ているって事なんだな?」

 

「ププッ……そうよ」

 

「あれ? 今笑わなかったか? 

確かにさ、自分で言っていても

アリサアリササアリサリオンの所で

吹きだしそうになったけどさ

自分とその妹と弟の名前で笑うかなあ?」

 

「ちっ違うの、これは屁よ」

 

「えー? 君は女の子だろ? 

平気で屁をした事を言える人なんだね

でもさー、ププッて受話器の傍で聞こえたぜ?

俺っちはDAICOみたいにメンタリストでもないけど

今この瞬間嘘を突いていると言うのは

すぐわかったよ。

君は今まで俺っちと話していたのに

屁が出そうになったから

急に携帯をお尻に向けて屁をしたら

すぐに「そうよ」と言ったって事になるぜ。

すげえ不自然だし、電話に残り香が残っていそうで

何か嫌な気分だぜ」

 

「私の屁は無臭なの。寒天が主食だから」

 

「君の屁が臭おうが臭うまいがは

この際どうでもいいんだよ?

でもね、初対面の人間にする様な事なのかい? 

聞きたくないよ、女の子の屁の音なんか

それに絶対に失礼だと思う! 

それならアリサアリササアリサリオンの

の連続攻撃で笑った方が自然だと思うぜ?」

 

「でもね、凄い綺麗な音が出そうって思ったら

聞かせたいと思うでしょ?

普通。そりゃお尻を向けるわよ。それに最近は

好きな男の子に自分の屁を嗅がせ誘惑する

告白方法が流行ってるんだよ」

 

「でもププッて聞こえたよ? 2連発のおならを

聞かせようとしたのかい?

それが綺麗な音かい? プーーーーって

長い屁ならちょっと綺麗だとは思うよ? 

しかし

最近の子供の間では変な告白が流行ってるんだなあ。

でも俺っちは好きな娘の屁だけは

一生絶対嗅ぎたくねえぜ!

まあ俺っちの子供の頃から大分経っているから

今の事なんて分かんないけどさ。さっきから変だよ? 

君は一体何をしたいんだ? 目的が分からないよ!」

 

「それはごめんね。

ちょっと話が脱線したかも。話を戻すけど

うちは3人別々の自分の部屋を持っているの。

だから食事は召使いが持ってきてくれて

いつも自分の部屋で食べているわ

だから3人の名前を立て続けで呼ばれる事は無いわ

なのに職人さんは立て続けに呼んだから……」

平気で嘘を突くアリサ。どうせ電話だけの相手だし

どうでもいいやと言う気持ちなのだろう。

 

「へえ、君は良いとこの子供なんだ

まあ姉弟三人でホテルに泊まるなんて

かなりのお金持ちじゃないと出来ないもんな

しかし、なんか見事な三段落ちみたいで

嫉妬するネーミングセンスだな

あんたの両親はアリヴァヴァと

創世のアク江リオンも好きだって事だよな?」

 

「そうね」

 

「それでもって弟と君は気絶せずに

妹さんだけ気絶したと言う事だな?」

 

「そう」

 

「でも何故君と弟さんは

花火で気絶しなかったのに

妹さんだけ気絶してしまったんだい?」

少し考えてから話す。

 

「……アリササは直視したみたいだけど

私はアリサリオンと相撲をとっていて

あまり見ていなかったから大丈夫だったのよ」

 

 何故か私は普通の人より

極太の毛が心臓に生えていると本当の事は言わず

ボケてしまうアリサ。

ひょっとしてこの職人の突っ込みを受ける度に

アリサの芸人魂に火が点き

ボケたくなる様な魔力でもあるのだろうか?。

 

「え? 何で? 

君プールでって言わなかったかい?

プールで相撲を取るなんて初めて聞いたよ」

 

「そ、それは、もうすぐリオンが

全国大会に出るから稽古相手になっていたのよ」

 

「急にリオン言った!! 言いにくくない言うてたやん

やはり言いにくくて略したんだろ?」

 

「う……」

(しまったつい面倒で略しちゃった)

 

「でもやっぱり全国大会に出るのに暢気にプールで

相撲の練習なんてやる気が感じられないな!」

 

「あなた、プールサイドでの

相撲の練習の利点を知らないのね? 

なら教えてあげるわ。

取り組みで疲れて汗をかいたら

すぐにプールに飛び込んで汗を流し

リフレッシュする事が出来る。そして稽古再開。

これは、砂まみれの土俵での稽古と違って

効率よく稽古が出来るのね。

アリサオリジナルアイディアなんだよ」

 

「確かにいい考えかもしれないけど

汗だくのままプールに飛び込んだら

他のお客さんの迷惑になると思うけどなあ。

まあいいや。

って事はアリサリオン君は太った男の子だって事か。

意外だな。そして米粒にも字が書ける

手先が器用なデブと……名前だけ聞いたら

シュッとしていそうなイメージだったんだが。

でも、全国大会に出る位だから強いんだよね?

そんな子の相手が女の子の君に勤まるのかい?」

 

「それはそうでゴワスよ、アリサは身長155にして

80キロあるでゴワスからなあフゥフゥ」

急に力士っぽいしゃべり方をするアリサ。

そして、何気に35センチも

身長を水増しして報告している。

アリサ……見栄っ張り屋さんなのだな……

 

「あれ? 何で急に口調が変わったの?

そんな語尾じゃなかったんじゃないか? 

あれれれー? 何か怪しいな……ちょっとお願いがあるんだけど」

 

「なに?」

 

「居るんだろ? そこにアリサリオン君」

 

「勿論いるよ……(いないけど)」

 

「是非話がしてみたいんだ。アリサちゃんお願いだ。彼と代わってくれないか?」

 

「え……」

 

「頼む。話がしてみたい!」

 

「いいわよアリサリオーンちょっと来てー」

そういいつつアリサは喉の準備をする。

 

「もしもしお電話代わりましたアリサリオンですよ。何の用ですか?」

可能な限り声色を変えて話すアリサ……しかし

 

「アリサちゃん? 代わってくれって言ったよね? 何で急に声色を変えるんだい?」

 

「え?(ばれてたー)」

 

「呼んだんだけど稽古の疲れから体力の限界!! って言ってお昼寝しちゃったのよ」

 

「今は夜だと思うが……まあいいや。でも、アリサリオン君は百代の富士の引退の時のセリフを

しっかり使っているんだね。だから、相撲が好きだという事は伝わった。

だけど眠ったならそう言えばいいじゃない? 君が声色を変えてアリサリオン君の振りをする必要は無い筈だぜ?」

 

「そ、そんな事言ってる場合じゃないのよ。

このままじゃアリササを一緒に紹介する機会は

もうなくなっちゃうかもしれないのよ!! 

心配だわ……」

 

「そうか、今夜が山だって言ってたな。

確かにあの不気味な顔の花火を作らされている事に

少しは疑問を抱いてたんだ。

あり得ない金額で発注するもんだからよ

生きる為に嫌々作っていたけれど

玉の中であのオヤジの顔が完成するにつれ

吐き気、めまい、動悸、息切れ、骨粗しょう症

色々な不調を感じていたんだよな。

こんな事になっちまうってんなら

俺ァもう作らねえぜ! よりによって

女の子を気絶させちまうたぁ面目ねぇ……

こんな物作ってたら

花火の神様、花火師烈火様に怒られちまうぜ……

わかった! 今日を持って廃業だ。

と言ってはみたが明日からどうしよう……」

--------------------------End of telephone battle---------------------------

Alisa win 6経験値獲得! 0G獲得!

 

弱気になる職人、いや元職人。

そう、特注のユッキー花火は

隆之がかなり高い金を出していて

花火職人の最大の収入源で、本来は止めたくない筈。

しかし、アリサの嘘で、これを止めるといった職人は

かなりの純粋な男なのである。

隆之の花火だけ拒否し、普通の花火職人に戻らず

完全に辞めると決意したのは他ならぬ

アリサが作り出した、架空の女の子アリササを

自分の花火で瀕死に追い詰めてしまった事で

心の底から反省している事の表れ

このままではそんな優しい彼を無職にしてしまう。

 

「そうか、この人もこれで生活しているんだよね? 

それを奪ってしまったら

このホテルの人はユッキーを見ずに

幸せかもしれないけど

この職人さんは生きていけない……どうしよう?」

誰かの幸せの為に職人を不幸にする

そんな事はあってはならない。

アリサの行っている世直しとは

ユッキーを消滅させる事は勿論

尚且つ隆之以外の全人類の幸せが絶対条件なのだから

声が聞こえぬ様に電話の通話口を

手で押さえ話すアリサ。

 

「……あ。そういえば

さっきまりちゃんから貰ったあれは……?」

ダダダダダッ。更衣室に走る。

スカートのポケットにそれはあった。

それを見ながら再び職人と話す。

 

「もしもし? 再就職するなら

まりちゃんの農家に今連絡すると

24歳の可愛い女の子もいる所へ就職出来るらしいよ。

電話番号は○○○ー○○○○だから

気が向いたら連絡してみてね」

真理と話していた時に貰った電話番号を読み上げる。

 

「え? 24歳! 可愛い? しゃあ! 

そこに行って見る事にするぜ! ありがとうお嬢さん。

電話番号もう一度言ってくれねえか? メモしねえと」

 

「はいっ! よし終わり! 

あーもう残り電地35かー使ったもんなー」

戦いは終わった。

こうもとんとん拍子に進むとは……

人を動かすって意外と簡単なんだなと

勘違いしてしまうアリサ。

 

「これで夜空に凶星が光る事はもうないぜ」

何故かかっこいいアリサ。

 

「も、もう何も来ないよね?」

 

折角かっこよく決めた筈なのだが

矢継ぎ早に隠れユッキーが出てきて

またすぐに次の矢が放たれるのではないかと

疑心暗鬼になるアリサ。

 

……しかし辺りを見回す限り

もう何も起こる気配はない様だ。

 

「戦いは終わったか。かなりやばかった……

流石に戦士にも休息は必要だ。一旦部屋に戻ろう」

プールで4匹ものユッキーを消し去り

満足げな表情で部屋に戻るアリサ。

しかし、階段を何度も上り、更には4匹ものユッキーを

見てしまいボロボロのアリサ。

もう、でこピンの様な

弱攻撃を一発でも喰らえば

命の保障はない所まで追い詰められている。

気をつけて帰って欲しいものだ。

 

しかし、本当に4匹だけなのだろうか……?

 

私の書いている小説です

 

https://novelup.plus/story/200614035

 

https://estar.jp/novels/25602974

 

https://ncode.syosetu.com/n3869fw/

 

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