magisyaのブログ

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21話 捜査開始

8章 捜査開始

 

エレベーターに着く

初めて一人で乗るのでやけに広く感じる。

そして、手持ち無沙汰で意味もなく辺りを見回す

更にもしかしてと思い天井を見てみる。

そこには

全く隠れていないが、隠れユッキーが・・

誰も居ないエレベーター内。奴と二人きり。

上から見守られている様で吐き気がする・・

アリサの身長では背伸びしても

天井にマジックが届きそうにない・・

取りあえず撮影。すると、良いタイミングで

警備員の真理が乗り込んで来た。

 

「あら、アリサちゃん?」

 

「あ、丁度いい所に。まりちゃん、ちょっと

私をおんぶしてくれない?」

 

「え? どうして?」

暫く考える真理。

 

「まあいいよ。よいしょっと、え?」

真理は、アリサが幼女とは言え

余りの軽さに、突然自分が

凄い力を手にしたかの様な錯覚を覚える。

 

「アリサちゃん軽いねー。

さっき沢山食べたでしょ? 

なのに紙切れみたいに軽いよ? 

え? 霊体? もう死んでいるの?

そういえばうっすら透けて見える気がしてきたわ・・

それに、夏なのに何か寒い・・

肌が・・全てが寒いの・・」

謎の寒気に襲われ震える真理。

 

  *フルフル フルフル*

 

 しかし、うっすら透けて見えるのは

真理の目の病気が引き起こしている事であり

アリサはビュッフェで何も食べていない。

軽いのも仕方が無い。寒気がするのは物理的に

アリサの体温が低く、ひんやりしているだけだった。

だが三つの偶然が一つとなり

幽霊であると強く思い込ませてしまったのだ。

 

「ま、まだいきてるよ!」

 

アリサは、照代が起き上がってすぐに言った

台詞を吐いてしまった。

 

「あら? その台詞どこかで聞いた事があるわ」

 

真理もその現場にいたので

そのやり取りは知っていたみたいだ。

 

「うー、その事は思い出したくないよー」

 

思い出しておなかが減ってくる。

 

そう言いつつも本業に取り掛かる。

 

   ぬりぬり♪ ぬりぬり♪ 

 

前回(天井の悪魔)は事情があり、輪郭や

大部分の茶色い皮膚を残してしまった。

大きいからそれは仕方がない。とは言え

皮膚からも強烈な死のオーラが出ているので

正しい対処法は、完全に塗り潰さないといけない。

その反省を生かし、入念に丁寧に塗り潰す。

おんぶして貰い近距離だから朝飯前だ。

ユッキーは消し去られた。

 

「余裕の勝利! しかし、後何匹いるのかなあこれ」

 

「・・アリサちゃんもうやめてよ」

何か聞こえた? が誰もその声には気付いていない。

 

「はい、出来あがりっと。

あら? 前よりいい男じゃない

整形手術成功ね!」

黒く塗り潰された、コンパスで外周を引いたかの如く

真円状の物体・・しかも画力がレベルアップして

立体的な球体の様な光沢も描き表す。

マジックの濃淡を利用し表現しているのだ。

もしかしたら彼女は芸術家気質なのかもしれない。

その謎の球体に、お褒めの言葉を掛けてあげるアリサ。

 

「アリサちゃん何していたの?」

 

「何でもないよ。強いて言うなら世直しかしらね」

 

「うん? ・・世直し? ・・世直しかー

あの事件も、犯人からすると世直しという

大義名分で行われた事なのかしら? 

でも、誰が食べるか分からない料理に

毒を使っちゃ駄目よね。

それにしても大変な事になっちゃったね。

私がいながら、こんな事件が起こるなんて

不甲斐ない。警備員失格よね・・」

アリサを降ろしながら話す真理。

 

「まりちゃんのせいじゃないよ。

全部犯人が悪いの、気にする事無いよ」

 

「・・優しさは時に人を苦しめる事になるの。

だって私今の言葉で胸が痛くなったもの。

でもここ、食中毒の次は毒物混入でしょ? 

このホテルも終わりかもね。ふー」

真理は、溜息交じりに天井を見上げ

物思いにふけようとする。

 

「ひゃ!?」

 

ところが、エレベーターの天井にある筈のない

マジックで塗り潰された

芸術的な真円の黒い物質を見て

ぎょっとして思考が停止する。

 

「な、何これ? ・・でもこれ・・美しい・・」

 

やれやれ・・また一人その芸術に

虜になってしまった者が増えた様だ

アリサは芸術家の才能があるかもしれないな。

アリサはその質問に一切答えず。

 

「でも、ママはこのホテルは美味しいって

評判なんだって言っていたんだよ? 

どういう事なのかな?」

 

「あーそれね。それは多分、食中毒の件は

テレビでは放送されなかったし

浅利新聞のみの記事でしょ? すぐ忘れられたのよ。

で、上が責任者を切った事を

盛大にPRして、信頼回復に努めたのよ。

オーナーは意外としっかりしているのよ」

あんな男にも一応経営戦略がある様だ

 

「ふーん、あんな恐ろしい顔なのにねえ」

 

「顔は関係ないわよ。それで、次第に

お客さんは戻ってきて美味しいと

評判にもなったんだけど。

今度は警察も入ってきちゃったし

報道は免れないかなあ。まあ私は

7月末でクビになるから別に被害はないけどね」

嬉しさと悲しさが同居する表情。

 

「そうね、ところでまりちゃん。

再就職先どうするの?」

 

「うーん、実家が農家だから

そこの跡取りになるのかな? 嫌だけれどね

もう24だし、結婚の話も来そうで怖いけどね」

 

「そうだねー名前、並び替えて見回りだから

まりちゃんは農家でも害虫が居ないかどうかを

見回るんだろうね」

 

「そうね。名前で人生の全てが決められるのは

癪に障るけど、それ以外の仕事はしないかもね。

あ、そういえば稲作だけじゃなくてビニルハウスや

酪農もやってるって言ってたわよ。

何か急に色々手を出し始めたのよね。で

忙しいから手伝えって最近も何度も誘われたし

 でも私、虫はあまり好きじゃないのよ。

あーあ、警備員もっとやっていたかったなぁ

そうだ、連絡先交換しない?

アリサちゃんって、私の勘だと

凄く頭が良さそうに思えたのよね。

何かあったら相談したいの。

それに農家の人手も足りないから

誰か良い人いたらここに電話して紹介して欲しいわ。

給料は頑張って一杯出すからって言っていたし」

真理は、自分の携帯番号と、実家の電話番号を登録する。

目の病気の事を推理したアリサに

すっかり信頼を置いている様だ。

 

「いいよ。誰かいれば電話するね。

お米作る人いなくなったらアリサも困るし」

アリサも真理の事は嫌いではなかったので快諾。

連絡先を交換し終えると、エレベーターが

真理の目的地の40階に止まる。

植物園に用事があるのだろうか?

 

「アリサちゃんはお米好きそうだもんね。

じゃあここで降りるわ

何かあったら連絡するね、バイバイ」

 

「うん、じゃあね」

 

そして、5階へと目指す。
ピキーン

またも15階付近でなにやら気配を感じた。

「ん? またなんか感じるなあ
でも今は暗号を優先しないと・・
回収されて捨てられるかもしれないから
後でね!」

そして、5階まで到着。

トイレは降りてすぐにあった。

エレベーターから駆け足で降りる。

すると・・

スッテンコロリーン。

 

「いてっ」

 

アリサは転んで膝を擦り剥いてしまった。

すぐに起き上がり、辺りを見回す。

 

「いたたたっ、ふぅーよかった、誰もいなくて」

 やはり女の子だし、転んでいる様子を

誰かに見られるのは嫌なのであろう。

右膝からうっすらと血がにじみ出てくる。

右足をひょこひょこ引きずりながらトイレに到着。

入り口にゴミ箱がある

漁ってみる・・ゴソゴソ

 

「あったわ。美少女の血と引き換えに

目的の物は取れた。いてて」 

挿絵(By みてみん)

 

「相変わらず訳が分からない暗号だなー。

よーし一応撮影してっと」

パシャ 暗号を撮影する。

 

「よし54階に戻ろう。あっそうだ!」

出ようとする前に何かを察知したのか?

 

「このゴミ箱の下は?」

そう言ってゴミ箱をどかしてみると。

 

     £デロデロリーン£

 

いやらしい笑顔の隠れユッキーが出てきた。

そう、女子トイレにである。

男はここのユッキーは

どう足掻いても撮影できない。

まあ入り口にあるごみ箱なのでトイレに入らず

どかして撮影すれば可能かもしれない・・

だが、手は女子トイレに一瞬入った事になる。

それを指摘されれば死刑は免れない。

あまりにもリスクが大きすぎる。

代替案として女装したり彼女がいる人なら

その人にお願いすれば可能だが

男全員に彼女が居るとは限らない。

それに女装するにも金が掛かる。

仮に女装して撮影中にそれがばれて

通報されたら、その時点で人生終了である。

割り引く為に集めている物に

金を払わされたり人生を賭けたり

寿命まで支払わないといけないなんて

割に合わない。

斉藤隆之はこういう事に頭が回らない男なのである。

そして、当然どこかの階の男子トイレにも

隠れユッキーは存在する。だが

コンプリートさせるつもりが無いと言う訳でなく

単純に隆之の頭が絶望的に悪いだけで

悪気がないのである。

 

「うえー相変わらずホラーだなあ。

何でこんなゴミを苦労して

探し回らなきゃいけないの?

こんなのが女子トイレにいたら

見られてる様で気持ち悪い・・

一刻も早く消さないと。

・・・しかも、よく見ると今回は絵だわ。

こんな写真みたいな絵を描ける人まで雇っているのか

あの巻き○そめ・・許せない!」

 

隠れユッキーはリアルな写真が多かったが

今回は何故か床の上に書かれた精巧な絵であった。

これを書いた人物は、女子トイレであるから

恐らくは女性。床に直に書かれているので

ホテルの休業日や、皆寝静まった頃

一人でトイレの床に座りながら

蝋燭の明かりを頼りに隆之の写真を片手に

描いていた事になる。

人命を蝕むユッキーの大元の写真を見るだけでも

命は削れるのに物凄い胆力である。

 

 そして先程少し触れたが、何処かの男子トイレにも

同じくユッキーの絵は存在する。

その絵は、男性が書いた筈である。

その男も写真を見ながら描いているので

二名もの人間が、命を削りながら作業した事になる。

今は一体何をしているのであろう。

そのダメージが今になって蓄積され

既に帰らぬ人に・・

そうならご冥福をお祈りする事にしよう。

 

「でもモデルが最悪ね。こんな物ただの

トイレの汚れよ・・撮影してからの」

パシャリ 撮影を終え世直しタイム。

 

「よし! 化け物鼠退治の時間だぁ

待てよ? ここは塗り潰すよりも

掃除道具置き場があるし、洗剤もある。

これで落ちるかな?」

 

アリサは、掃除用具入れから

デッキブラシとバケツ、洗剤を出し蓋を開ける。

そして、大理石の床の上に描かれた

隠れユッキーに洗剤を撒き、デッキブラシで

ゴシゴシしてあげる。

意外な事に、ユッキーがうっすら消え始めている。

このユッキーの絵の具は

洗剤で落とせる成分なのであろう。

そもそも床にマジックを塗る作業は目立つ。

本来ならこの消去方法が適している。

 

「おお、今回はマジック君お休みだね。

よーし、ピカピカにしてやるぞォ」

既に半袖なのに、腕捲りする動作をし

気合を入れる、そしてデッキブラシを握り直す。

 

「ピカピカピカチュウ♪ ピカピカピカチュウ

光る頭は10万3ボルートー♪ ピカチュウ!」

ゴシゴシ ゴシゴシ

 

・・全く、これは世直しであり

世界平和へ向けた聖戦ジハードであるというのに

それに身を投じた身でありながら

暢気にアリサのお気に入りアニメ

『ピカピカの中年男性』の主題歌

『ピカピカの頭頂部』の鼻歌などを歌いながら「汚れ」を

消してあげているではないか。

 

 このアニメは、中年男性の日常を作者本人が

サラリーマン時代の実体験から描いた

日常系のお話だが、主人公の中年男性のあだ名が

奇しくもピカチュウと呼ばれているのだ。

 

 ピカピカに輝く中年=ピカ中=ピカチュウ

と言う事だ。照代との会話時にも出てきた

アリサお気に入りのアニメだ。

本名は、育谷江大いくたにこうだい54歳。妻の来中きなか、娘の秘中ひなか

の三人家族で、東京の電力会社に勤め

つるぴかの頭に電気を蓄えて攻撃する技を使える。

そして、イラつく言動の上司を

電撃で制裁すると言うバトルも見物である。

番組後半に使用される必殺技名が

アリサの歌う歌詞にもあった10万3ボルトなのだ。

 この技を閃く時のエピソードが

個人的に好きなので語っていく。

 

舞台は都内。深夜から明け方に掛け

猛威を振るった大型台風の影響で

長期に渡り停電が起こった。

 

時期が夏の終わり頃であったが残暑は厳しく

追い打ちをかける様に停電に続き、断水まで起き

住民達は汗もろくに流せぬまま

眠れぬ夜を過ごしていた。

 

 そして、復旧にも時間が掛かり

既に一週間が経過。

江大は、事の重大さに誰よりも早く気付き

救援物資の手配を独断で行った。

しかし、それを30代前半の若い社長に気付かれる。

彼は切れ者で若い頃

モケポンマスターをやっていて

何と優勝経験がある。

それを一部始終語ると長くなるが

序盤を端折り

終盤を掻い摘んで語る事にする。

 

ここまでお読みいただきありがとうございます

次週の木曜に次を投稿しますが

こちらに行けばすぐに続きが読めます

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