magisyaのブログ

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20話 毒を宿し女

シュパァー・・★キラキラ★

 

照代は、突然口から血飛沫を撒き散らした。

 

そして両耳からも、一筋の血が流れている。

ウケルー。等と言う普段使い慣れない

言葉を使った反動かもしれない。

そして、血飛沫の中にうっすらと虹が現れた。

一体何が起こったのだろうか?

 

しかも、ただの虹ではなかった。

普通の虹との違いは、赤系統の色のみで上から

ロザリオ、ベゴニア、レッド、ボッシュ

フレスコ、ビクトリアンローズ、クリムソン

の七色でグラデーションされていて

内側に行くにつれ、明るめの赤であるロザリオから

赤黒いクリムソンに変わっている虹である。

挿絵(By みてみん)

 古代エソポタミラ文明の古い言い伝えに

 

『血の色の虹は、冥界と現世の架け橋とされる』

 

という言葉がある。

紀元前1174年に起きた、リブゾレンヌの戦いで

リブゾレンヌの英雄王リヴリゼズが

敵兵を切った時出た血飛沫の中から

おどろ驚ろしい色合いの虹が現れ

命を落とした兵士の魂が

その虹を渡っていく所を見たと言うのだ。

その噂は広がり、エソポタミラ文明最大の建造物

リブゾレンヌ中央神殿の石碑にも古代文字で

その虹の名を

リブゾレンヌの血の虹という名で記している。

照代は、今正に冥界と現世の狭間を

一人彷徨っているに違いない。

照代次第では『あちら側』に行ってしまうかも知れない。

ここは照代の踏ん張り所ではないだろうか?

 

「わあぁ、きれーい。すっごい血飛沫。

パチパチパチパチ

すごい飛んだねー。うっすら綺麗な虹も見えたんだよ。

今度こそ本当におばさん死ぬかもしれないね」

 

 しかし、妙に無邪気なアリサ。

まるで海岸で、星の形をした貝殻を発見して

彼氏に得意げに見せる彼女の如く

何の罪の意識もない。

無邪気な? いや、無邪気すぎる反応・・

本人は命懸けだというのに、至近距離で噴出された

血飛沫をものともせず

まるで見世物を見ている感覚で拍手をしている。

・・子供は、これだから怖いのだ。

他人の痛みを理解できず、女の口から噴出された様が

アリサにとっては滑稽に見えてしまった為

大喜びしてしまう。

 

 一度毒を受けて死んでいたと思っていた女の人が

幸運にも起き上がってくれたら喜ぶのが普通。

それを過去のいさかいの私怨から口喧嘩を始め

それが原因で再び調子が悪くなった為の疲労から

口から血を噴出したのだ。

それ見て喜ぶとは・・この娘悪魔か?

 普通の人間なら、慌てて駆け寄り

血液型を、その人の表情やクセで完璧に見抜き

4分の1の確率で的中させ

同じ血液型の人間を、聞き込みで探し当て

常備している献血セットで迅速に

献血してあげるのが正しい行動だというのに・・

それを嬉しそうに目をキラキラ輝かせて

拍手して喜ぶとは何とも世も末である・・

そして意も介さず反論する。

 

「あーいうのってね、始めは難しかったけど

色々見ている内に段々分かってきて面白いよ?

企業の癖とか特徴とか色々違うし

あっここは、あの企業と全く同じだわw

コピペ乙wwとか

沢山見ている事で分かる発見もあるしね。

おばさんは、ゲームソフト買っても

取説すら見ないで始めるタイプの女でしょ?

それで、ボタン対応が分からなくて。

そこで初めて取説に手を伸ばすって感じでしょ?」

そして、休む間など与えずに容赦なく質問する。

 

「ハァハァ そ、そうだけど? 

そっちの方が長く楽しめるのよ。っておい!

・・女て・・他に言い方あるでしょグホッ」

耳から垂れた血を拭きつつ答える。

 

「始めから見ておけばそんな事にはならないのに。

バッカねえ。

そんな所を長くしても時間の無駄でしょ?

RPGなら、ストーリーや戦闘、ダンジョンの謎解きを

楽しむ物でしょ? 対応ボタンの説明書を読み

電源を入れっぱなしにしている状態で

長く楽しめていると言えるのかしら?

電気代の無駄よ! ピカチュウに謝りなさい!」

 

「ゲブブゥ・・そ、そんなの個人の自由でしょ? 

ピカチュウが電気代とどう関係あるのよ?

あんな架空のおっさんの事を気にする程

今の私には余裕はないわ。ギォボボォ

全員がRPGのストーリーを楽しむ訳ないし

私は取説を読みながら電源を入れっぱなしにしている

その状態こそが私にとっての最高に楽しい時間なのよ。

はあはあ・・く、苦しい

も、もうあの暗くて寒い場所に戻るのはもう嫌。

もう駄目なのかしら? いっその事優しく殺して・・」

 

「ちょっと待って? ピカチュウは凄いおっさんよ!

架空のおっさんと言うのを訂正しなさい!

絶対実在するもん!!!

それに凄いかっこいいおっさんなんだからね!!

電源を入れっぱなしは絶対駄目でちゅよ!」

ピカチュウのモノマネをしながら怒るアリサ。

 

だが

 

「・・もう駄目・・」

そう言うとアリサの言葉に返事できぬまま

目を閉じ、意識を失いかける照代。

すると、毒を受けて倒れていた時

照代が居た、真っ暗でとても寒い空間。

生と死の丁度狭間の世界だろうか?

それが再び照代の目の前に現れる。

そして、突然薄気味悪い赤っぽい色のみで構成された

虹の端が照代の足元に現れる。

 

・・・・

 

これは・・リズッ。

リグッ・・ブべべッ、クッ、失礼。

リ・ブ・ゾ・レ・ン・ヌの血の虹である。ふう

遥か遠方の地に伝わる伝説の虹が

日本のホテルの広間に突然現れたのだ。

これは何かの前触れなのであろうか?

 

「ねえ? これ何? これを渡ればいいの?

渡ればどうなるの?」

不安そうに聞く照代。しかし

当然答える者は誰もいない・・

 

「ねえ? 誰かいないの? スタッフー、スタッフー?」

だがやはり返事は無い。

今意識を失えば、またそこへ逆戻りは避けて通れない。

力が抜けてふらふらする照代。

しかし、突然照代の脳裏に

楽しかった事、嬉しかった事

そしてこれから経験するであろう楽しい未来。

色々な物が浮かんでは消え、消えては浮かび

生への執着が最大に達する。 

 

「やだ!! 生きる!!! 生きてみせる!! 

名新聞記者、真田行照代の名に賭けて!

私は、私は・・! 無敵なんだーーーーーー!」

 

目を見開き上を向き、歯を食いしばる。

両腕は肩幅より少しだけ広げ、拳は力強く握る。

腕の角度は30度。中腰になり膝の角度は

直角に広げ踏ん張る感じのポーズ。

ドラゴンキューブで、孫悟ウハエやピッコロン等が

気を高める時に見るポーズと言えば分かるだろうか? 

そのポーズをする事で体温を上昇させ

体内の毒を焼却しようと考えた照代。

 

そう、そこには理屈など無い。

その毒の活動可能温度も知らないし

もしかしたらこの行為ですら性質が

変わらないかもしれない。

無駄な体力を使い、免疫力が低下してしまうだけの

リスクのある行動かも知れない。

 

しかし、彼女は本能的にこのポーズをとり

気を高める事で体内にいまだに残っている

毒の剿滅そうめつが出来ると思い込んでいるのだ!!

思い込みの力。これは、

命を懸けた、一度っきりのプラシーボ効果

そう、彼女は生きる事を選択したのだ!!

 

「うおおおおおおおおおおおっ」

女性とは思えない程の野太く大きな声で気を高める。

首周りの筋肉も、肩幅の70パーセントまで増大した。

ゴオオオオオオオォッ!!! 

 

全身の筋肉が唸り声を上げ、膨張し

男性の様な肩幅を形成する。

生気が、オーラが、闘気が、混ざり合う。

照代の背中から金色と赤色の混ざった様な光を放ち

徐々に膨れ上がる!!

 

    ζバチバチッζ

 

自分の出した気に電気が混ざりこむ!

 

「自分の名にかけてどうすんのよ、名新聞記者て・・

初めて聞くワードだわ。でも元気が戻ってきたみたいね」

相変わらずのクールアリサ。

 

「うおおおおおおおおおおおっ」

 

気は更に高まり、ホテル全体が揺れ

テーブル上の食器がカタカタと物音を立て始める。

そして、赤かった照代の髪が、逆立ち

金色に変わっていく・・

 

 

一方その頃。虎音は

自販機の前のテーブルに腰掛けてジュースを飲んでいた。

そして、救急車を呼ぶ為、携帯に手をかけた。その瞬間。

「うっガルルゥ・・」

バタッ

虎音が突然意識を失ったのだ。

 

そう、神様の悪戯が引き起こしたファーストキスの際

照代の唇に付着していた毒が、虎音に移ったのだ。

そのままでは何とも無かったが

ジュースを飲んだ時に唇に付着した毒が

ジュースによって体内に毒が流れ込み倒れてしまった。

 

皮肉な事に虎音が生まれて初めて愛した照代からの

甘い口づけは、悪魔の口づけだったのだ・・

周りには誰もいない。

救急車を呼んでくれる筈の虎音は

意識不明になってしまった。

 

そんな事は知らないアリサ。

照代にこう言う。

 

「さっき虎ちゃんが救急車呼んでくれている筈だから

もう少しの辛抱でしょ? 諦めないでね? 

まだ事件の話を聞いていないから死んじゃ駄目よ?」

 

「じ、事件の話を聞いたら

もう用済みみたいに言わないでよ。ゲボッ

私にはそんな事よりも

もっともっと沢山の事が出来るし

しなきゃいけないのよ。ググッ、ふぅーふうー。

利用規約を隅々まで見るなんて狂気じみた事

時間が余っている幼稚園児のあんただから出来るのよ。 

こ・こここっちは社会人、そして

新鮮で正確な情報を毎日お届けする名新聞記者なのよ

・・フゥ・・フゥー・・ ウグッ!!

駄目よ照代、こんな美しい乙女が吐血してグホッなんて

擬音を絶対に出してはいけないわ・・グゥェボォッ」

また吐血しそうになるも、必死に堪える照代。

アリサと暢気に話をしている場合でもないのに

おしゃべり好きな性格が災いしている。

 

「しゃ、社会人で忙しい私が、利用規約なんかに

現をぬかしている時間はないのよ。全く

死に掛けた後は子供に説教されるとはついていないわ。

踏んだり蹴ったりじゃない。そういえば何か用なの?」

 

「幼稚園児だとォ?」

 

キッ   <▼> <▼>

 

照代の幼稚園児発言に、アリサの目が

三角になり脹れっ面になる。

「幼稚園児じゃないもん

どこからどう見たって小5だもん。ほら、よく見ろ!」

限界まで背伸びして大きく見せる。

・・しかし、アリサの見た目は残念だが

どこからどう見ても幼稚園児である。

それは当然アリサも分かっている。

だが認めたくない。自分が認めてしまったら

もう誰もアリサの事を大きい子とは

言ってくれないのだから・・

 

学校の行事の度に

列の先頭に立たされる屈辱。更に一つ後ろの子でも

アリサより頭が一つ抜き出ている

と言う事も分かっている。

アリサだけ、同学年で極端に小さいのだ。

 

「へ? あんた・・その身長で小学生だったの? 

しかも高学年? 全く分からなかったわ

30年生きてきて一番驚いたわ」

そう、照代が間違えるのも当然なのだ。

 

「悪かったわね小さくて。でも

30年生きて来てその程度事しか驚く事がないなんて

平坦な人生ねー

どうせ家と職場しか行き来していなくて

毎日を終えているんでしょうね。

フリーシナリオシステムのゲームなんか

おばさんがやったら

一番初めのダンジョンでレベルマックスにして

何もイベントが起こらないままラスボスに行く。

そんな平坦な人生なのね・・かわいそう・・ 

 おばさん位大人で、しかも新聞記者なら

身長が小さくても実年齢位見抜けるかと思いきや

観察眼がないとか

新聞記者として終わっているわねwww」

幼稚園児呼ばわりされてイラついているのか

きつく当たるアリサ。

そして最後に笑っている素振りを見せたが

当然、心の中では泣いていたのだ。

 

「ちょ、酷いわ。今は毒を受けていて

観察眼とか言っている場合じゃないわよ。

状態異状さえなければちゃんと小5に見える筈だもの

現役の新聞記者を舐めないでほしいわ」

それは嘘である。どんな世界的名探偵ですら

120㎝の子供を小5とは言える訳は無い。

 

「でも確かにそうね・・仕事終わりに職場から

何処かに遊びに行こうって気にはなれないわね。

昔はそうじゃなかったのになー」

 

「あっ悪い事言っちゃったかな? 

それに関してはごめんね。 ところで

さっき5階で変な紙切れの話をしてたでしょ? 

あれを見せてくれないかな?」

警察官の血を引くアリサ。

事件となると話を聞かずにはいられない。

 

「ああ、あの紙切れね。

確かその階のトイレのゴミ箱に捨てたわ。 

見たいなら勝手に見なさい。 

 あ、待って。さっきこの紙を受け取った時

写メしたのツイッターにあげてたわ。

私のアカウントをフォローすれば見られるわよ」

フォロワーを増やしたそうにアリサを見ている。

 

「別にいいわよフォローしなくても

今おばさんの携帯を見れば済む事じゃない。

何で態々フォローしないといけないのよ。

修ちゃんのツイートの中に

おばさんのどうでもいいツイートが

紛れ込んだら邪魔なのよ!

おばさんは結構何でも呟きそうだし・・

アリサはトイレに行ってくるね。実物が見たいし」

アリサの唯一フォローしているツイッター

アカウントは松谷修造のみ。

修造オンリーのタイムラインに

照代のツイートが紛れ込むのを嫌がっているのだ。

 

「あら、そうなの? 

フォロワー10京億兆万人目指してるから

一人でも多くフォローしてほしいのに・・

じゃ仕方ないわね。ゴミ箱を漁るなんて下品な行為

子供には出来ないかなーと思って

優しさで教えてあげたのにな」

 

「有益なツイートをしていれば

自然とフォロワーは増えるわよ。

全世界の人口以上のフォロワーを求めてどうすんのよ

宇宙人とか幽霊とか合わせても厳しいわよ?

夢はでかい方が良いと言うけどさ。

アリサ以外の人にフォローして貰えば良いじゃない。

後、私はゴミ箱を漁るなんてね

子供の頃からやっているの。じゃあね!」

といい走り出す。

今も子供なのだが・・

 

アリサは、探偵の真似事を放課後毎日やっていて

ゴミ箱を漁る程度の事では何一つ抵抗がない。

しかし、走りながら思った。

そういえばご飯をまだ一粒たりとも食べていない。

だから、ここでツイートの画像を見せて貰って 

食べながら考えてもいいんじゃないか? と。

 

アカウントさえフォローすれば

自分の携帯ですぐに見られたのだが。天邪鬼なので

露骨にフォロワーを増やしたい人を

フォローするのが嫌なアリサ。

それに、実物でないと分からない事もある。

本能的にそれを察し

体が勝手にトイレの方に向かっていくのであった。

 

ここまでお読みいただきありがとうございます

次週の木曜に次を投稿しますが

こちらに行けばすぐに続きが読めます

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